弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
原告らの請求はいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
       事   実
第一 当事者の申立て
(原告ら)
 「被告は、別表の原告の欄に掲げる原告に対し、それぞれ金額の欄に掲げる額の
金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求める。
(被告)
 主文同旨の判決を求める。
第二 請求の原因
一 原告らは、被告の経営する郵政事業に勤務する一般職に属する国家公務員で、
郵政省所管の浅草郵便局において郵便業務を内容とする郵便課内務事務に従事する
ものであり、かつ全逓信労働組合浅草支部に所属する組合員である。
二 原告らの俸給は、郵政省と全逓信労働組合間の労働協約にもとづいて、毎月一
回その月の一七日にその月の月額の全額を支給することとしているが、昭和四五年
一二月から昭和四七年六月までの各月の俸給等の支給の際、そのつど給与減額がお
こなわれてその月の月額の全額支給を受けることができなかつた。原告ら各自の給
与減額の合計額は別表の金額の欄に掲げるとおりである。
三 そこで、右減額に係る給与の支払いを求める。
第三 抗弁
 被告は、原告ら主張の請求原因事実を認め、抗弁として、次のとおり主張した。
一 浅草郵便局は、東京中央郵便局を起点とする自動車郵便線路沿線局(深夜伝送
便の郵便線路沿線局ともいう。)の一つであるが、同郵便局の郵便業務に従事する
職員がいわゆる一六時間勤務に服する場合においては、郵便局長が定めた服務表
(昭和四五年九月二七日以降適用)により、始業時刻午後五時、終業時刻次の日の
午前九時であるが、休憩時間として午後七時三〇分から三〇分間、午後九時五〇分
から一〇分間、次の日の午前五時五〇分から一〇分間および午前八時から三〇分間
合計一時間二〇分が指定され、休息時間として午後一一時二〇分から四〇分間およ
び次の日の午前零時から二〇〇分間合計四時間が設けられている。
二 原告らは、郵便業務に従事して一六時間勤務に服する場合には、右服務表所定
の休息時間四時間のほかに、午後八時一五分から三〇分間、午後一〇時三〇分から
二〇分間および次の日の午前五時三〇分から一〇分間合計一時間を慣行休息時間と
称して(以下この時間のことを「係争休息時間」という。)、その時間中の就労を
拒否して勤務しない。
三 被告は、原告らが右の就労を拒否して勤務しない時間すなわち係争休息時間で
欠務に係るものについて、勤務一時間当り給与額の算定ならびに給与減額の対象時
間の算定によつて給与減額(いわゆる賃金カツト)をおこなつているが、昭和四五
年一一月一六日から昭和四七年五月三一日までの間に生じた右不就労事由による各
原告の給与減額の合計額は別表の金額欄に掲げるとおりである。
第四 係争休息時間について
一 原告らは、被告の抗弁事実を認め、係争休息時間について次のとおり主張し
た。
1 郵政事業は、一般の特定産業や特定分野における個別事業とその性格を異にし
た全国的規模の独占事業である。しかもその事業内容は、規格化された郵便物を全
国的組織網に迅速かつ画一的に流通させることであるから、本質的に画一性、組織
性が要求される。このような見地から、その労使関係についても全国的規模にまた
がる労働者の賃金、労働時間、休日、休息等に関する多くの協約が締結されてい
る。そして、それらの内容は、建前上あくまで画一的、統一的たらざるを得ない宿
命をもつている。しかし、貯金・保険事業についてはさておき、郵便事業において
は、その実態においてこれと矛盾する要素を含んでいる。その一つは、一定の物の
生産事業においては、その生産量を自己規制できるのに、郵便事業においては、そ
のようになつてはおらず、事業量すなわち郵便取扱量の増減は利用者側が任意に決
定する浮動的なものであるということである。もちろん長年の統計から一定の予測
が立てられ、これにもとづいて局の配置、設備、人員等が決定され、業務が遂行さ
れ、それによつて一応の全体的な調整と極端な部分的不合理は修正されているが、
この計画と実態との齟齬は、郵政事業がいわゆる官庁機構である関係上、各末端局
では完全に調整できないのである。しかし、機構や人員の不備にかかわらず日常の
業務そのものは、不可避的なものとして存在するから、これらの不備を各現場局の
責任において、何としても克服しなければならないため、そこに問題が生ずる。第
二は各郵便局間の差異である。局の大小、設備の老新、作業量の多寡、どれひとつ
として同じ局はないし、また郵便物の流通過程、経路に対して各局の占める位置に
も差異がある。
 このように郵政事業には、画一性、統一性が要求される一方個別事業場の差を調
整するという要請が存在し、そこから生ずる問題の打開のために生まれたのが、郵
政事業における「職場慣行」といわれているものである。いかなる局でも大なり小
なりこうした慣行をもたない局はなく、その内容は単に休息時間だけでなく、労働
時間の始期終期の取扱いから休日・休息のとり方までにおよぶ広汎多様なものであ
る。
 浅草局においては、他局と同様、窓口引受を始め、一般郵便事務をおこなつてい
るが、末端集配普通局として配達区分業務が主であり、昭和三七年当時の勤務の種
類は、おおむね次の三種が組み合わされ、業務が遂行されていた。
 早出勤務 午前六時二五分から午後二時三〇分まで
 日勤 午前八時三〇分から午後五時一五分まで
 夜勤 午後零時五五分から午後九時まで
 ところが、昭和三七年九月に郵政省から、交通量の激増および交通規制等が原因
し昼間伝送郵便が遅延しているという理由による深夜伝送便の提案が全逓信労働組
合に対しなされ、昭和三九年七月六日から実施されたが、この深夜伝送便実施のた
めに従来の三種の勤務形態に加えて新たに一六時間勤務(午後五時から翌日午前九
時まで)が採用され、この勤務の場合には、休憩時間として午後六時から三〇分
間、翌日午前五時四〇分から二〇分間および午前八時から三〇分間合計一時間二〇
分、休息時間として午後一一時から翌日午前三時までの四時間がそれぞれ設けられ
た。
 しかし、深夜伝送便の実施は、郵便物が夜間に局に集中することを前提としてい
るので、これを取り扱う局員にとつては、勤務にいわゆる「手空時間」がなくなる
ことを意味し、所定の休憩時間ではつぎのような欠点があつたため、浅草局におい
てはこれをおぎなうために係争休息時間における休息が慣行的になされた。
(一) (夜食休息) 一六時間勤務の出勤時刻である午後五時は、一般世帯者が
家庭で夕食をすませてくるには不自然な時刻であり、そのため食事をしてくる者と
そうでない者とがばらばらになつた。加えて午後六時三〇分の休憩後から午後一一
時までの間の連続無休憩勤務というのは体力を無視したものであつた。そこで夜勤
者の作業終了時である午後八時一五分ごろにあわせて三〇分程度の夜食のため休息
がとられるようになつた。(食堂設備がないので出前をたのむ都合があつた。)
(二) (入浴休息) 作業終了後の午後一〇時五〇分における入浴につき、ボイ
ラーマンが午後八時三〇分までの勤務となつている関係上、常に湯の温度の低下が
問題になつた。当初局側は午後一〇時ごろから入ることを提案したが、このような
やり方は職場秩序上からも好ましくないというので、結局午後一〇時三〇分から一
せいに入浴することになつた。
(三) (早朝休息) 深夜労働はもともと疲労が激しいが、午前三時一〇分から
ひきつづき早朝二時間以上にわたる労働が続くと能率が著るしく低下し、勤務上の
ミスすら発生する危険があつた。そのため午前五時三〇分から一〇分間休息し、引
続き休憩をとることとなつたのである。
 以上のように、係争休息時間における休息は、勤務の形態から生れる必然的なも
のであつたため、その後何度か服務計画や服務表の変更あるいは局長・課長等管理
者の交替にもかかわらず、いずれの場合においても双方が熟知し、当然視されてい
たこれらの時間帯の休息が問題にされることはなかつたのである。すなわち、係争
休息時間は、いわゆる職場慣行として発生し、かつ、定着するについてそれなりの
合理的理由があり、客観的なものとして慣行的に確立するまである程度の期間継続
し、その期間中使用者の明示の反対の意思表示がなかつたことにより労働契約内容
に化体したというべきである。
2 前記のような背景と経緯のもとに、係争休息時間における休息が昭和三九年七
月ごろの深夜伝送便実施直後に発生して少なくとも一年以上継続した昭和四〇年七
月頃以降は被告(現実には浅草郵便局長、同局郵便課長)の明示(すなわち交渉に
よる了解)ないしは黙示のもとに民法九二条にいわゆる事実たる慣習として存在し
てきたのであり、この状態が昭和三九年七月ごろから昭和四五年九月ごろにいたる
六年有余の間継続したのであるから、原告らとその所属長によつて代表される郵政
省事業主体たる被告との間においては右法条にいう「当事者がこれによる意思」を
有していたとみることができる。このようにして右の事実たる慣習が合意されたの
であるから、原告らは係争休息時間において休息する労働時間についての契約上の
権利を有する。
二 被告の主張
1 郵政省と全逓信労働組合本部とは、その合意により、協約覚書等をもつて、郵
便業務に従事する郵政職員の休息時間を、郵便局の規模、作業内容、勤務態様のほ
か、業務量や時間帯による作業密度も考慮したうえ、全国のどの郵便局にでも適用
できるよう一義的網羅的に、その最高範囲を定めることにより規定しているのであ
つて、その内容はきわめて合理的なものである。すなわち郵政事業は、郵便、郵便
貯金、簡易生命保険等の各事業を全国約一万七千余にのぼる郵便局等の行政機関に
よつて一体的に遂行しているため、勤務局等の規模、内容、業務の形態および職員
の従事する作業形態、種類、勤務内容、作業の強度、作業密度等に当然差異があ
り、休息時間についてみてもこれを一律に定めることは休息時間の趣旨、目的に照
らして適切ではない。郵便内務作業についてみても、他の貯金、保険の業務とは異
なり、その業務内容の特質、性格からみて交替制の勤務、夜間勤務が要請され、ま
たその作業態様も、勤務時間の大部分を立作業でおこなうものが多く、郵袋の処理
作業は比較的重量のある物を処理するために作業の強度も他の作業に比べて大きい
ことなどのため肉体的な疲労も相対的に大きく、さらに夜間の勤務にあつては昼間
の勤務に比べて生理的に疲労の蓄積も大きいことから、作業の能率の低下を招き、
ひいては労働災害、疾病等の発生の原因にもなることが予想される等の労働科学的
観点も逸することができない。そればかりでなく、交替制勤務や夜間勤務を敬遠す
る風潮のあることも否定できないので、これに従事する職員の勤務条件の緩和とい
う面をも考慮しなければならない。右のような点を種々検討のうえ協約・覚書等に
より休息時間の最高限が定められている。
 郵便業務に従事する職員(内務職)が一六時間勤務に服する場合には、「東京中
央郵便局を起点とする自動車郵便線路沿線局において一六時間勤務に服する職員の
休息時間の特例に関する覚書」により、特例として「四時間以内」の休息時間を設
けることができるものとしているが、昭和四五年九月二七日から適用された浅草郵
便局郵便課服務表により右の休息時間は午後一一時二〇分から翌日午前三時二〇分
までの間にわたり連続して四時間設けられている。しかも、連続四時間仮眠が可能
となるように前後二〇分間の準備整理時間まで設けられているほか仮眠設備も完備
しており、さらに一六時間勤務に従事した翌日は全く勤務から解放されることや原
告らの一六時間勤務の割りふりが一週間平均ほぼ一回程度であることなどから一般
民間企業や他の公共企業体等の労働時間の実情に比較し決して苛酷なものではな
い。したがつて、原告らの一六時間勤務について、右服務表による休息時間のほか
に係争休息時間における休息を認めねばならない特段の事情も業務上の必要性も全
く存しない。
2 浅草郵便局における業務および勤務形態等が原告ら主張のとおりであつたこ
と、深夜伝送便実施後何度か服務計画や服務表の変更、あるいは局長、課長等管理
者の交替があつたことは認めるが、その余の原告らの主張事実を争う。
(一) 夜食休息について
 深夜伝送便実施当時の服務表の作成に際し、浅草郵便局長は、一六時間勤務に服
する職員の夕食のための休憩時間の位置を、勤務の始業時刻、職員の勤務の疲労度
等を勘案して、当初午後七時ごろから三〇分間とするよう計画して、全逓信労働組
合浅草支部に内示して説明したところ、食堂の開設時間が午後七時ごろまでである
こと、世間なみの夕食時間とすることなどの理由から、午後六時から三〇分間に休
憩時間を設定するよう同支部が強く主張したのでこの要望を入れて定めた。このよ
うな経緯から深夜伝送便実施後にはこの時間帯に全員が食堂を利用するかあるいは
弁当を持参して夕食をとつていた。その後昭和四〇年秋ごろごく一部の若い職員が
午後七時ごろから短時間出前の食事をとつていたことや一部の職員が午後七時ごろ
から同八時すぎごろまでの間にわたりごく短時間出前をとつて食事をしていたこと
があつた。また、昭和四五年七月ごろ一部の職員が午後八時すぎごろから出前の食
事をとり、長時間のものは三〇分程度にもおよんだことがあつたので服務表の改正
を機に是正をはかることとしたが、午後八時一五分から一せいに三〇分間にわたつ
て夜食をとるために休息するようなことはなかつた。
(二) 入浴休息について
 深夜伝送便の実施された年の秋ごろ、浅草郵便局では石炭風呂であつたため、暖
房手の勤務時間の終了時刻との関係で一六時間勤務に服する職員の入浴時の湯の温
度が問題となつたが、これは石炭の予備を用意しておき、燃料を補給してから入浴
することで解決した。ただ二暦日にわたる一六時間勤務のうち第一日目の作業は、
午後一〇時ごろから同三〇分ごろまでの間には殆んど終了しており、午後一〇時三
〇分ごろからの入浴は作業終了時からの手空時間を利用していた。その後昭和四三
年一〇月服務表の改正の際に全逓信労働組合浅草支部から、再び風呂の温度の問題
が提起されたことがあつた。当時局舎新築のため仮設局舎に移転中であり、風呂の
燃料は都市ガスであつたが、これは雑務手の退局の際に風呂用のガスの元栓のハン
ドルを監視員(監視員不在時の場合は、一六時間勤務の責任者)に引き継いでお
き、入浴時に適宜沸かすことができるようにすることで解決した。以上のように、
手空時間の場合は格別、作業の終了しないままに作業を打切り、午後一〇時三〇分
から職員が入浴していた事実はない。
(三) 早朝休息について
 この時間は、管理者が臨時に宿泊する場合のほかは、職員の勤務実態を直接把握
することが不可能な時間であるが、昭和四二年六月ごろ、午前五時三〇分から同六
時ごろまでの間に、原告らが正規の休憩時間をこえて休息していることがあつた。
そこで浅草郵便局当局としては、これは正規の休憩・休息以外のいわば「ヤミ休
息」で容認できないものであるから、その是正を図ることとし、業務打合せ会の開
催による趣旨の説明、全逓信労働組合浅草支部に対する通告説明、一般職員への周
知説明等をおこなうなどその是正に取り組んだ結果、完全に是正できた。その際同
支部は、当局の説明に対し、これが労働協約に違反するものであることを認め、そ
の是正もやむを得ないとして了解した。
3 郵政事業職員の勤務関係は、その実定法を検討すれば、単に労務の提供と対価
の支払関係につきるものではなく、国の公共目的達成のため、国民全体の奉仕者と
して勤務すべき原告らの公法上の特別の地位に鑑み、国の優越的地位を認めた特別
な権利義務関係であることが看取される。したがつて、原告らの勤務関係について
は、慣行(習)が当事者の意思表示を媒介として当事者間の法律関係を規律すると
いう法律的基盤がない。そして原告らの勤務時間等については、「国の経営する企
業に勤務する職員の給与等に関する特例法」にもとづいて郵政大臣が定めた「郵政
事業職員勤務時間、休憩休日および休暇規程」、労働基準法にもとづく郵政省就業
規則、郵政省と全逓信労働組合本部との間の「勤務時間および週休日等に関する協
約」等の労働協約によつて明確に規律されるべきものであり、慣行(習)というよ
うな成立時期、内容等について一義的明確性のない事実状態によつて規律される余
地はなく、係争休息時間における休息も、それが右規程、協約等で明文化されない
限り、何ら法的効力を有しないというべきである。
 仮りに原告らの勤務関係の法的性質が労働契約関係とみるべきであるとしても、
係争休息時間における休息が、原被告間の労働契約の内容となつているとみる余地
はない。慣行(習)は、それが慣習法として存在すると認められる場合のほかは、
当事者の意思表示を媒介として法律行為の内容となることによつて、はじめて法的
拘束力を取得するものであるが、集団的組織的性格をもつ労使関係については、使
用者と労働者団との間の集団的合意を必要とするものと解しなければならない。し
かるに、本件においては、仮りに原告らの係争休息時間における休息が「事実タル
慣習」として存在するとしても、被告がこれによる旨の意思を有したことを窺わせ
る事情は全くないし、また被告は原告らの所属する組合(全逓信労働組合本部ない
しは全逓信労働組合浅草支部)との間で黙示的にもせよこれを承認(合意)したこ
ともない。かえつて、被告は休息時間については原告ら主張のような慣行(習)に
よらない旨、およびそのような労働協約に違反するものは承認(合意)することな
くすべて是正する方針である旨を明示している。すなわち一六時間勤務が午後五時
から翌日の午前九時までの勤務であるのに対し郵便局長や郵便課長等の管理者は、
平日の勤務が午前八時三〇分から午後五時一五分までであるところから、平常時の
場合、一六時間勤務の大半の勤務時間については不在となるため、その勤務実態を
自ら把握することが困難な実情にあり、特に係争休息時間のぞくする時間帯は、そ
の位置からみてもこの傾向が強い。また、歴代の郵便課長は、課長代理等の職制を
通じて、あるいは業務繁忙時や闘争時などに臨時に宿泊した際みずから、一六時間
勤務に服する場合の原告らの勤務の実態を把握してきたが、これによれば、せいぜ
い業務処理の終つたあとに生じたいわゆる手空時間の利用とみなしうる程度のこと
が若干あつたにすぎず、原告らが主張するような態様でその時間帯にわたり一せい
に作業をうちきつて、なすべき作業の有無にかかわらず休息をとるようなことが長
期間にわたりかつ公然と反覆継続しておこなわれてきた事実は全くない。もつとも
前記のとおり原告ら主張の時間帯は、郵便局長、郵便課長ら管理者の殆んど不在の
時間帯であり、組合員たる課長代理等を責任者として業務の遂行が図られるため、
その職員の勤務時間管理が十分におこなわれない結果、一部の職員の中には、一時
的に勤務時間を遵守しない者があつたかも知れないが、これは、勤務時間管理が適
切でないことに伴つて生じた服務の乱れである。しかし、局の管理者としては、そ
れらの乱れがせいぜい手空時間の利用とみられる程度のものにすぎず、反覆継続し
て慢性化するような態のものとはみられなかつたので特にきびしくチエックしなか
つた場合があつただけのことであつて、これを黙示的にもせよ了解していたという
ようなことはあろう筈がない。かえつてこのような勤務上の服務の乱れを正し、正
規の勤務時間を遵守することは職員の服務規律という観点からみても当然のことで
あるから、従来郵政省ではこのような勤務上の服務の乱れは、当局の責任において
是正してきた。しかし、昭和四五年四月、郵政省は、このような問題であつても労
使間の現実の紛争を回避し、労使関係の安定を図るという見地から全逓信労働組合
本部と話合いをおこなつた結果、その是正方法等については、組合との間で話合い
をしていくものとするが、「意見の合致がみられない場合は、省の責任において、
一定期日後に是正をはかるものとする」旨の合意(いわゆる四・九確認)がなされ
た。そこで浅草郵便局長は、昭和四五年九月服務表の改正にあたつて全逓信労働組
合浅草支部から係争休息時間の問題が提起された際にも、同郵便局と全逓信労働組
合浅草支部、東京郵政局と全逓信労働組合東京地方本部との間においてそれぞれ話
合いをおこない、当局側はその是正の実施時期を延期するなどの誠意を示したにも
かかわらず、組合側はあくまでもその是正に反対したため、同年一一月一五日(一
部は一一月二三日)以降、当局の責任において是正の措置を講じたものである。
(ただし、入浴休息、早朝休息については、是正ルールに乗せるべき実態がなく、
夜食休息については、原告ら主張の実態とは全く異るが、数名の郵便課長が各数回
ずつ原告ら職員の一部が出前の食事をとる間作業を休んでいるのを現認したことが
あつたので、これについてのみ一応是正のルールに乗せたものである。)
 原告らは、浅草郵便局長ないし同局郵便課長の明示ないし黙示の承認を主張する
が、たとえそのような承認をしても、そもそも同局長ないし同課長には原告ら主張
の係争休息時間における休息を承認する権限がないから、そのような承認は無効な
のである。すなわち、従来から郵政職員の勤務条件については、事業の特質にかん
がみ、かつ、全国的視野に立つてもつとも公平適切に決定するという見地から、す
べて中央段階で決定されてきている。しかもこの中央で決定される郵政職員の勤務
条件は、全国的統一的に、かつ、下部において郵便局長等が裁量により変更する余
地のないような形で、細部的事項にいたるまで網羅的に定められているから、郵政
労使間において右と異なるような決定方法によつて職員の労働条件が決定されたよ
うなことは全くなく、このことは休息時間についても例外ではない。また、郵政省
と全逓信労働組合との間においては、郵政省と全逓信労働組合本部(中央交渉)、
郵政局とこれに対応する同組合地方本部(地方交渉)および局所とこれに対応する
同組合支部(支部交渉)との間の三段階の団体交渉の場が設定されているが、全逓
信労働組合に所属する郵政職員の労働条件に関する事項について現実に労働協約が
締結されるのは、中央交渉の場であり、かつこれが唯一の労働条件決定の場であ
る。それ以外の交渉の場においては、従来勤務時間等の勤務条件に関する事項につ
いて労働協約が締結されたことは全くなく、また中央の労働協約上も地方交渉また
は支部交渉においてこれらの事項についての労働協約の締結を根拠づけるような規
定も全く設けられていない。そこで、休息時間等に関する規定の仕方をみても、休
息時間を一般と特例とに区別し、さらに特例の適用関係等については、東京中央郵
便局をはじめとして、局所名を具体的に明示して規定しており、郵便局長等の現場
管理者にその適用関係等を変更する裁量権は一さい認めていない。他の規程、規則
等にも郵便局長等に右の権限を委任する規定はない。このように郵便局長は、所部
の職員の勤務時間管理等を含む服務の統督権を有している(郵政省職務規定二条)
が、休息時間その他の勤務時間を定める場合には、協約等に規定されている勤務時
間を協約所定の手続に従い、服務表に明定するという服務表作成の権限を有してい
るのみであり、右協約等の規定する勤務時間の定めと異なる勤務時間を定める権限
を有していない(したがつて、仮りに浅草郵便局長あるいは同局郵便課長が協約で
定める最高限度四時間を超える休息時間を原告らあるいは全逓信労働組合浅草支部
との間に合意しても無権限の行為として無効である。)。
第五 証拠関係(省略)
       理   由
一 原告らが被告の経営する郵政事業に勤務する一般職に属する国家公務員で浅草
郵便局において郵便業務を内容とする郵便課内務事務に従事する者であり、かつ、
全逓信労働組合浅草支部に所属する組合員であること、東京中央郵便局を起点とす
る自動車郵便線路沿線局(深夜伝送便の郵便線路沿線局ともいう。)の一つである
浅草郵便局において郵便業務に従事する職員がいわゆる一六時間勤務に服する場合
には、郵便局長が定めた服務表(昭和四五年九月二七日以降適用)により、始業時
刻午後五時、終業時刻次の日の午前九時とし、休憩時間として一時間二〇分の位置
が午後七時三〇分から三〇分間、午後九時五〇分から一〇分間、次の日の午前五時
五〇分から一〇分間および午前八時から三〇分間と指定され、さらに休息時間とし
て午後一一時二〇分から四〇分間および次の日の午前零時から二〇〇分間合計四時
間が設けられていること、原告らが郵便業務に従事して一六時間勤務に服する場合
には、本件においていう係争休息時間のことであるが、服務表所定の右休息時間四
時間のほかに、午後八時一五分から三〇分間、午後一〇時三〇分から二〇分間およ
び次の日の午前五時三〇分から一〇分間合計一時間を慣行休息時間と称して、その
時間中の就労を拒否して勤務しないことは、いずれも当事者間に争いがない。
二 そこで、郵政事業職員の休息時間制度について考察する。
 成立に争いのない乙第二号証の一および二によると、休息時間は、職員の能率を
維持し、かつ、保健と安全を期する目的をもつて勤務中に休息する時間として職員
に与えられ、正規の勤務時間のなかに含まれて給与が支給される時間であり、業務
繁忙その他の理由によつて休息時間が与えられなかつた場合においてもその分をあ
との勤務に繰り越して与えられることはないが、これに対し、休憩時間は、もつぱ
ら職員保護の立場から職員の健康と福祉の確保を目的とし、勤務を要しない時間と
して勤務時間の途中に設けられ、勤務時間に含まれないが拘束時間に含まれるもの
であつて、勤務時間および給与上の取扱について休息時間と休憩時間とは全く相異
なる制度であること、郵政事業職員の休息時間制度については、職員の勤務時間に
関する事項として、国の経営する企業に勤務する職員の給与等に関する特例法(昭
和二九年法律一四一号以下 「給与特例法」という。)六条の規定にもとづいて、
主務大臣(「政令の定めるところによりその委任を受けた者」は郵政事業の場合は
存しない。)が規程を定めなければならないことから、郵政大臣が郵政事業職員勤
務時間、休憩、休日および休暇規程(昭和三三年公達四九号 以下「勤務時間等規
程」という。)を制定して、職員の休息時間の基準につき原則と特例を定め、さら
に特例を組織上の部局・機関、職種・業務および勤務の形態、勤務の種類の細目に
分化して定め(一一条)、かつ、原則または特例を定めた規定のいずれにもより難
い特別の事情がある場合につき別段の取扱を定めることができるものとし(八八
条)、休息時間を設ける方法として職員の属する機関ごとに所属長が休息時間の基
準に従い服務表を定めて関係職員に休息時間を与えるものとしている(二五条)こ
と、深夜伝送便の郵便線路沿線局において郵便業務に従事して一六時間勤務に服す
る場合には職員の一六時間勤務の特例による休息時間三時間四五分または三時間三
〇分以内をいずれも四時間以内とする別段の取扱を定めたこと、浅草郵便局におけ
る服務表所定の一六時間勤務の休息時間四時間は右の基準に従つて設けられたもの
であることがそれぞれ認められる。
 そして、郵政事業職員の休息時間に関する事項は、公共企業体等労働関係法(昭
和二三年法律二五七号)八条の規定により団体交渉の対象とし、これに関する労働
協約を締結することができるものであるが、前記乙第二号証の一および二、成立に
争いのない乙第一号証の一から三までの各記載に本件弁論の全趣旨をあわせると、
深夜伝送便の郵便線路沿線局の郵便業務に従事して一六時間勤務に服する職員の休
息時間については、昭和三七年五月に深夜伝送便の業務運営が提案されてから昭和
三九年七月に実施をみるにいたるまで約一年一〇月間団体交渉をくりかえしてよう
やく従前の協約に定める一六時間勤務の特例による休息時間三時間四五分または三
時間三〇分以内とする基準を深夜伝送便の郵便線路沿線局において郵便業務に従事
して一六時間勤務に服する場合にはいずれも四時間以内とすることとした労働協約
(昭和三九年七月五日実施)が同年六月一七日に郵政省と全逓信労働組合および郵
政労働組合との間に締結されたので、職員の休息時間等に関する勤務条件について
は、従来から勤務時間等規程が労働協約を包摂して制定(改正を含む。)されてき
たいわば規程と協約の複合関係から、郵政省は、ただちに同年六月二三日に人事局
長の依命通達をもつて、同規程一一条二項但書規定の別表七(休息時間の特例)、
3(郵便局における特例)に定める一六時間勤務の特例による休息時間三時間四五
分または三時間三〇分以内とする基準を深夜伝送便の郵便線路沿線局において郵便
業務に従事して一六時間勤務に服する場合にかぎりいずれも四時間以内とすること
として、同規程八八条の規定にいう別段の取扱を定める措置(同年七月五日実施)
を講じた経緯を認めることができる。
 以上の認定事実によれば、給与特例法六条の規定にもとづいて郵政大臣が制定し
た勤務時間等規程一一条および八八条の規定によつて休息時間の長さの基準が定め
られ、かつ、同規程二五条の規定にもとづいて職員の属する機関ごとに所属長が定
めた服務表によつて関係職員の休息時間が具体的に設けられることが明らかであ
る。したがつて、給与特例法六条、勤務時間等規程一一条、八八条および二五条の
規定がとりもなおさず郵政事業職員の休息時間制度にほかならないから、右の法制
上の根拠にもとづくことなくして職員の勤務中に休息する時間はおよそありえない
といわなければならない。
三 原告らは、係争休息時間は、浅草郵便局において昭和三九年七月五日に深夜伝
送便の郵便業務が実施されたときに発生して、いわゆる職場慣行ないし事実たる慣
習として昭和四〇年七月に定着したものであり、職員の勤務中に休息する時間であ
ることにかわりはないと主張する。
 しかしながら、係争休息時間は、まえにみたとおり、深夜伝送便の郵便線路沿線
局において郵便業務に従事して一六時間勤務に服する場合にかぎり従前の特例によ
る休息時間三時間四五分または三時間三〇分以内をいずれも四時間以内とすること
とした別段の取扱(勤務時間等規程八八条)による基準を一時間も超過するもので
あり、かつ、浅草郵便局長が定めた服務表所定の休息時間に属しないものであるか
ら、もとより郵政事業職員の休息時間制度上のものではありえない。したがつて、
原告らが係争休息時間の各時間帯に休息時間であるとしてその勤務を休止すること
は、係争休息時間の発生時であるとする深夜伝送便の郵便業務の実施当初すでに郵
政事業職員の勤務時間等に関する現行法制に牴触し許されないものというのほかは
ないから、仮令浅草郵便局において原告らが係争休息時間の各時間帯に勤務を休止
する事実状態が深夜伝送便の郵便業務の実施当初から継続したからといつて、係争
休息時間が原告らのいわゆる職場慣行または事実たる慣習のいずれによるにせよ正
当の休息時間として定着する筋合のものではないというべきである。原告らの右主
張はそれ自体理由がない。
四 原告らが係争休息時間に就労を拒否して勤務しない時間すなわち原告らの欠務
にかかる時間について、被告が原告らに対し給与減額の対象時間および勤務一時間
当り給与額の算定にもとづき給与減額措置(いわゆる賃金カツト)をしたこと、昭
和四五年一一月一六日から昭和四七年五月三一日までの間に生じた右欠務事由によ
る給与減額の合計額が原告ら各自につき別表の金額の欄に掲げるとおりであること
は当事者間に争いがないから、他に特段の主張および立証がないかぎり、右給与減
額措置につき違法のかどはないというべきである。
五 よつて、原告らの本訴請求は理由がないからこれを失当として棄却し、訴訟費
用の負担につき民訴法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決す
る。
(裁判官 中島幹郎 仙田富士夫 本田恭一)
(別表省略)

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