弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人小竹耕の上告理由第一点及び第二点について
 原審が適法に確定した事実関係によれば、(一) 本件土地はもと訴外株式会社D
鉄工所が所有していたが、昭和三九年一二月二日国税徴収法に基づく差押がされ、
同月三日その旨の登記が経由され、次いで昭和四一年五月二七日右差押に基づく公
売処分の売却決定により上告人がその所有権を取得し、同月三〇日その旨の登記を
経由した、(二) 被上告人Bの先代である訴外Eは、右差押登記当時、右訴外会社
から本件土地を建物所有の目的で賃借していたが、昭和四四年一二月死亡し、同被
上告人が相続によりその権利義務を承継した、(三) 本件土地上には、昭和一五年
五月二三日同被上告人名義で所有権移転登記が経由された原判決別紙物件目録(一)
(3)記載の工場及び昭和二九年三月二四日同被上告人名義で所有権保存登記が経由
された右目録(二)記載の居宅が存在している、というのであり、原審は、右事実に
基づき、同被上告人は、建物保護に関する法律一条により本件土地賃借権を上告人
に対抗しうるとして、上告人の請求を棄却している。
 しかし、土地賃借人が建物保護に関する法律一条によりその賃借権を第三者に対
抗しうるためには、賃借人が借地上に自己名義で登記をした建物を所有しているこ
とが必要であり、自己の子名義で登記をした建物を所有していても、その賃借権を
第三者に対抗しえないものと解すべきである(最高裁判所昭和三七(オ)第一八号
同四一年四月二七日大法廷判決・民集二〇巻四号八七〇頁、同昭和四四年(オ)第
八八一号同四七年六月二二日第一小法廷判決・民集二六巻五号一〇五一頁)。これ
を本件についてみると、本件土地につき右差押登記のされた当時において本件土地
賃借人であつた訴外Eは、その子である同被上告人名義で登記をした工場及び居宅
を本件土地上に所有していたとしても、差押に基づく公売処分により本件土地所有
権を取得した上告人にその賃借権を対抗しえないものというべく、したがつてその
相続人である同被上告人も同様にその賃借権を上告人に対抗しえないものといわな
ければならない。これと異なる見解に立ち、同被上告人が上告人に対し賃借権を対
抗しうるものとした原判決には法令解釈の誤りがあり、この違法は判決の結論に影
響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由があり、その余の点につき判断するま
でもなく、原判決は破棄すべきところ、本件は権利濫用の抗弁につきさらに審理の
必要があるので、これを原審に差し戻すのが相当である。
 よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官坂本吉勝、同高辻正己の意見がある
ほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 裁判官高辻正己の意見は、次のとおりである。
 私は、原判決を破棄し、本件を原審に差しもどすべきものとする点においては多
数意見と同じであるが、建物保護に関する法律(以下「法」という。)一条の解釈
に関しては多数意見に同調することができない。その理由は、次のとおりである。
 一 最高裁判所昭和四七年(オ)第一〇〇八号同五〇年二月一三日第一小法廷判
決・民集二九巻二号八三頁に判示されているところと同様、私も、基本的には、法
一条が、建物の所有を目的とする土地の借地権者(地上権者及び賃借人を含む。)
においてその土地の上に登記した建物を所有するときは、当該借地権(地上権及び
賃借権を含む。)につき登記がなくても、その借地権を第三者に対抗することがで
きる旨を定め、借地権者を保護しているのは、当該土地の取引をする者は、地上建
物の登記名義により、その名義人が地上に建物を所有する権原として借地権を有す
ることを推知しうるからであり、この点において、借地権者の土地利用の保護の要
請と、第三者の取引安全の保護の要請との調和を図ろうとしているものである、と
考える。同時に、私は、右の法意に照らし、地上建物の登記名義により、その土地
を利用する者が地上に建物を所有する権原として借地権を有することを容易に推知
することができる特別の場合においては、その名義が借地権者のそれではなくても、
借地権者の土地利用の保護の要請と第三者の取引安全の保護の要請との調和を害す
ることにはならない限り、その者の借地権を第三者に対抗することができるものと
考える。
 前記の判決が、借地権者が建物の所有権を相続した後にその建物につき被相続人
を所有者と記載する表示の登記がされた場合について、借地権者を名義人とする建
物の登記があるわけではないのに、その借地権を第三者に対抗することができると
したのは、右の考え方を根底とするものと解されるが、この考え方によれば、借地
権者がその子や妻など家族の一員であつて氏を同じくする者を名義人とする登記の
ある建物を所有している場合においても、同様に、その建物の存する土地の借地権
を第三者に対抗することができるものとして妨げないと解される。けだし、この場
合においては、右の事実関係の存在が地上建物の登記名義により借地権者が地上に
建物を所有する権原として借地権を有することを推知させるに十分であり、それに
よつて、借地権者の土地利用の保護の要請にこたえられると同時に、土地取引をし
ようとする第三者にとつては右の事実関係についても調査する労を免れないことに
はなるが、右第三者は、もともと法一条の関係では現地を検分して建物の所在を知
り、この建物について土地利用の権利関係を調査する労を避けられないのであつて、
過重な負担を強いられることになるものとはいいがたく、第三者の取引安全の保護
の要請にもとることになるとも考えられないからである。
 二 以上によつてみると、本件土地につき、昭和三九年一二月三日、国税徴収法
に基づく差押登記がされた当時において、本件土地を建物所有の目的で賃借してい
た訴外Eが、その子である被上告人Bの名義で登記した本件居宅を、本件土地上に
所有していたとする限り、同訴外人及びその相続人である同被上告人は、右差押に
基づく公売処分によつて本件土地所有権を取得した上告人に対し借地権を対抗する
ことができるものといわなければならない。
 しかしながら、右の差押登記がされた当時において本件居宅の所有権が同訴外人
にあつたのではなくて、同被上告人にあつたのであるとすれば、同訴外人は自らが
賃借している本件土地上に登記のある建物を所有していたことにならないから、そ
の借地権を右の差押に基づく公売処分により本件土地所有権を取得した上告人に対
抗することができないこととなる。原審は、右の当時、本件工場の所有者が同訴外
人であつたのではなくて同被上告人であつたことを認定しながら、本件居宅の所有
者が同訴外人であつたのか、同被上告人であつたのかについて、認定を加えていな
い。
 三 そうすると、原判決には審理不尽の点があり、ひいては理由不備の違法があ
るというべきことになる。したがつて、論旨は、結局において理由があり、原判決
はこれを破棄し、本件を原審に差しもどすべきものとしなければならない。
 裁判官坂本吉勝は、裁判官高辻正己の右意見に同調する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    関   根   小   郷
            裁判官    天   野   武   一
            裁判官    坂   本   吉   勝
            裁判官    江 里 口   清   雄
            裁判官    高   辻   正   己

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