弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
一 本件各控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人らの負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人A、同Bに対し各金一一〇万三、三四二円、控訴人Cに対
し金一二〇万四、七四五円、同Dに対し金五八万四、七一七円、及びこれらに対す
る昭和五三年八月二一日から支払ずみまでいずれも年五分の割合による金員を支払
え。
3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
4 仮執行宣言
二 控訴の趣旨に対する答弁
主文と同旨
第二 当事者の主張
当事者双方の主張の関係は、左記一ないし三のとおり付加、訂正するほかは原判決
事実摘示と同一であるからこれを引用する。
一 1原判決五枚目表一〇行目冒頭から同六枚目表八行目「なかつたとしても、」
までを削除し、同枚目裏五行目「施行規則」の次に「(昭和五六年二月六日労働省
令第五号による改正前のも宇以下同じ)」を加え、同七枚目裏一〇行目から一一行
目にかけての「少なくとも」を削除する。
2 同八枚目裏一、二行目を「3同5は争う。」と改め、同一一枚目表一二行目
「九-八」とあるを「九-三〇」と、同一二枚目表一〇行目「一個」とあるを「別
個」とそれぞれ訂正する。
3 同一六枚目裏一二行目の次に行を改めて「(3)しかして、被告市において
は、右(1)の勤務時間に係る特殊性を含む消防吏員全員に共通する職務の特殊性
については給料でこれを考慮し、右(2)の具体的作業段階において発生する特殊
性については特殊勤務手当ー第三ないし第四種勤務差手当ーを支給する方法でこれ
を考慮してきたものである。」を加える。
二 控訴人らの補足主張
控訴人ら隔日勤務の消防吏員の勤務時間の特殊性が給料で考慮されていたことはな
い。
すなわち、被控訴人市において、行政職給料表とは別途に消防職給料表が設けられ
た趣旨は、消防吏員の「職務の危険度及び特殊性」に基づくものであつて、被控訴
人主張のように消防吏員の勤務時間の特殊性(長時間であること)が考慮されてい
るものではない。このことは、
(1) もともと、行政職給料表、医療職給料表、研究職給料表など各種給料表
は、「職務の種類に応じて」定められるものであつて、「正規の勤務時間の長短」
は全く考慮外にして作成されているのであり、
消防職給料表のみがその例外とは到底考えられないこと、(2) 消防吏員につい
て労働時間の特例措置を認めてきた労働基準法施行規則二九条は、昭和五六年二月
六日の改正により削除され、同五八年四月一日から廃止となり、消防吏員も一般行
政職員と同じ労働時間制のもとにおかれることになつたが、これに伴う消防職給料
表の改廃は何ら行われていないこと、
(3) 被控訴人市の消防吏員中、毎日勤務者は行政職給料適用職員と同じ勤務時
間で勤務しているけれども、消防職給料表はこれら毎日勤務者にも等しく適用され
ている。すなわち、正規の勤務時間の異なる隔日勤務者と毎日勤務者に同一給料表
が適用されていること、
(4) また、被控訴人市における医療職給料表(2)適用の看護婦についても、
正規の勤務時間に差のある者に同一の給料表が適用されており、勤務時間差を給料
においては考慮していないこと、
(5) 更に、消防職員勤務規程の改正(昭和五三年八月三一日消防局訓令甲第八
号)により、昭和五三年九月一日以降控訴人ら隔日勤務の消防吏員の正規の勤務時
間は一週間について三九時間となり、行政職給料表が適用される職員の勤務時間と
同じになつたにもかがわらず、消防職給料表の改廃は行われていないことなどによ
つて根拠づけられるものである。
従つて、職員間における勤務時間の差を調整する趣旨で支給される第一種勤務差手
当について、控訴人らがその支給対象外とされるいわれはない。
三 右補足主張に対する被控訴人の認否及び反論
消防吏員の勤務時間の特殊性が給料で考慮されていない旨の主張は争う。
なお、昭和五三年八月の消防職員勤務規程の改正によつても、控訴人ら隔日勤務の
消防吏員の正規の勤務時間は一週間につき三九時間と変更されたものではない。右
改正後の「一当務一三時間、一週三九時間」という時間は、現実の作業時間の割振
り基準を表わしているにすぎず、従つて、一週間につき六〇時間という正規の勤務
時間そのものが三九時間に変更されたことにはならない。
第三 証拠(省略)
○ 理由
一 請求原因1及び3の事実並びに控訴人らが原判決別表(一)の「隔日勤務の期
間」欄記載の期間のうち、同別表(三)の「隔日勤務でなかつた期間」記載の各期
間を除くその余の期間につき隔日勤務をしていたことは、当事者間に争いがない。
なお、原本の存在及び成立に争いのない甲第三九号証によると、昭和五八年三月七
日被控訴人市条例第一〇号により本件特勤手当条例の一部改正がなされ、控訴人ら
のように消防職給料表の適用を受ける者については第一種勤務差手当を支給しない
旨の明文の規定が設けられたことが認められる。
二 しかして、本件の第一の争点は、控訴人らが、右昭和五八年三月改正前の特勤
手当条例(以下特記しないかぎり右改正前のものをいう。)において、第一種勤務
差手当の支給対象となつていたか否かであるから、この点につき検討する。
1 特殊勤務手当について
(一) 控訴人ら地方公務員法三条二項所定の一般職の地方公務員の給与は、同法
二四条六項により、条例で定めるべきものとされているところ、地方自治法二〇四
条一、二項によれば、右給与は給料と特殊勤務手当を含む諸種の手当とに大別され
ている。
被控訴人市では、これらをうけて福岡市職員の給与に関する条例(給与条例)を設
け、まず給料については、その三条一、二項で「各職員の受ける給料は、その職務
の複雑、困難及び責任の度に基づき、かつ勤務の強度、勤務時間その他の勤務条件
を考慮したものでなければなをらない。」「給料は、別に定める正規の勤務時間に
よる勤務に対する報酬であつて、この条例で定める・・・・手当を除いたものとす
る。」と規定している。
次に、手当のうち特殊勤務手当については、給与条例二一条で「職員の特殊勤務手
当の額及びその支給方法については、別に条例で定める。」と規定し、これをうけ
て前記争いない事実(請求原因3)のとおり本件特勤手当条例が制定されているも
のである。
(二) しかして、右特勤手当条例三条一項(なお、国家公務員についての給与法
一三条一項も同旨)の文言に照らすと、一般に、特殊勤務手当は、職員が特殊な勤
務に従事する場合に、給料とは別途に支給されるものであるが、右特殊勤務手当の
対象として考慮されるべき勤務の特殊性とは、被控訴人主張のとおり、第一に、著
しい危険、不快、不健康又は困難、その他著しい特殊性のある勤務であるもの、第
二に、給与上特別の考慮を必要とするもの、第三に、その特殊性を給料で考慮する
ことが適当でないと認められるものという三要件を満たす類のものであると考えら
れる。そして、右第二、第三の要件、並びに、前示のとおり職員の職務ないし勤務
に対する報酬としては基本的に給料があり、右給料については「その職務の複雑、
困難及び責任の度」や「勤務の強度、勤務時間その他の勤務条件」を考慮しなけれ
ばならない(給与条例三条一項)とされていることに鑑みると、本件特勤手当条例
は、給与上考慮すべき勤務の特殊性についても、基本的には給料で考慮することを
原則とし、例外的措置としてのみ特殊勤務手当としてこれを支給する旨の定めをし
ているものと考えられる。
しかるときは、職員が給与上考慮されるべき特殊な勤務に従事している場合であつ
ても、その特殊性が給料の面で考慮されているならば、その特殊性については、当
該職員は特殊勤務手当の支給対象とならないものと解するのが相当である。
(なお、勤務の特殊性を給料で考慮することが適当でない場合ーすなわちその特殊
性を特殊勤務手当の支給により考慮することが相当な場合ーとしては、第一に、そ
の特殊性が臨時的、一時的、偶発的又は不規則的に発生するものである場合、第二
に、その特殊性を恒常的もしくは常態的にとらえることが困難である場合、第三
に、その特殊性を標準化し又は画一化して評価することが困難な場合等がこれに当
たるほか、第四に、その特殊性がある程度恒常的もしくは常態的に存するからとい
つて、常にこれに対する措置を給料で考慮することが適当であるとは限らない場
合、例えば、給料では影響が大きすぎるような場合などを考えることができる。)
(三) そして、特殊勤務手当のうち、本件で問題とされている第一種勤務差手当
により考慮されるべき勤務の特殊性は、前示特勤手当条例四条の規定(請求原因
3)に照らすと、職員の勤務時間についての特殊性であることが明らかである。
2 控訴人ら消防吏員の職務ないし勤務の特殊性
控訴人ら消防吏員の職務ないし勤務には、消防の使命、目的(消防法一条)に必然
的に伴うところの、主として危険性に係る特殊性があることは論を俟たないが、そ
の勤務時間についても、次のとおり特殊性が存することが認められる。
(一) まず、地方公務員法二四条六項により、一般職の地方公務員の勤務時間そ
の他の勤務条件は条例で定めるべきものとされているところ、これをうけた被控訴
人市職員、特に消防職員の勤務時間についての法令上の規定が控訴人ら主張のとお
り(請求原因4)であつたことは当事者間に争いがない。
なお、成立に争いのない甲第三二号証及び前掲甲第三九号証によると、労働基準法
施行規則の改正によつて、消防吏員等については一週間につき六〇時間まで労働さ
せることができる旨を規定していた同規則二九条が削除されたのに伴い、被控訴人
市でも、昭和五八年三月七日条例第一〇号により、勤務時間条例一二条二項が右施
行規則改正の趣旨に沿うように改められ、また、同年三月二八日消防局訓令甲第一
号により、消防職員勤務規程六条の「一週間を通じ六〇時間」が「一週間について
四八時間」と改められたことが認められる。(以下、勤務時間条例及び消防職員勤
務規程は、特記しないかぎり右昭和五八年三月改正前のものをいう。)
(二) しかして、成立に争いのない乙第二、三号証、同第二六号証の二、原審証
人Eの証言、原審での控訴人C本人尋問の結果、並びに弁論の全趣旨を総合する
と、八〇〇名を超える被控訴人市の消防吏員のうちその七〇ないし七五パーセント
に当たる者が隔日勤務者であるところ、隔日勤務とは、一当務と呼ばれる勤務開始
時刻(午前九時)から勤務終了時刻(翌日午前九時)までの継続二四時間を勤務し
た後、他の者と交替し、継続二四時間の非番日をおいた後、更に二四時間の勤務を
繰り返す勤務形態をいい、消防職員勤務規程四条一、二項により隔日勤務者には四
週間を通じて四日の勤務を要しない日が認められ、二日を単位として指定されるよ
うに定められているところ、隔日勤務者は、実際に、一週間につき三当務の勤務を
していること(なお、昭和五〇年四月以降は、地下鉄工事に伴う交通混雑の減少を
図るため、勤務開始時刻及び終了時刻をいずれも午前九時三〇分とする時差出勤の
運用がなされた。)が認められる。従つて、隔日勤務者は、一当務の二四時間、ま
た四週間を平均にて一週間につき七二時間の拘束を受けることになる。
もとより、右一当務二四時間(一週間につき七二時間)のすべてが、給与条例や特
勤手当条例にいう正規の勤務時間(労働基準法第四章に定める労働時間に相当す
る。)とされるものではなく、そのなかには当然休憩時間も含まれる(なおこの点
については後述する。)のではあるけれども、消防吏員には、労働基準法四〇条、
同法施行規則三三条一項一号によつて、休憩時間自由利用の原則(同法三四条三
項)の適用が除外されているから、現実には、被控訴人市の消防吏員につき、消防
職員勤務規程九条五項(昭和五三年の改正前は二項)で、「休憩はすべて庁舎内に
おいて行わなければならない。」、同条六項(同じく三項)で、「職員は休憩時間
中外出しようとするときは所属長の承認を受けなければならない。」との規定があ
るにとどまるにしても、消防吏員の休憩時間は、建前としで自由に利用することが
できるものではなく、従つて、権利として勤務から離れることを保障されているわ
けでもないと見なければならないし、かつ、消防吏員は、その職務の性質上、火災
等の災害が発生すれば、一当務二四時間のどの時間帯であれ、出動して現実の勤務
に就かざるを得ないのである。
一方、成立に争いのない乙第一号証及び被控訴人市の職員の勤務時間等に関する規
程(昭和二六年八月二〇日庁達第一九号)並びに弁論の全趣旨によると、被控訴人
市の他の一般の職員の勤務時間は、原則として、休日を除き月曜日から金曜日まで
は午前九時から午後五時まで(その間正午から一時間の休憩時間が設けられてい
る。)、土曜日は午前九時から午後一時までで、一週間計三九時間が正規の勤務時
間とされていることが認められ、この勤務形態(休憩時間を含めても一週間四四時
間)と前記隔日勤務の消防吏員のそれとを比較すれば、消防吏員の勤務時間が著し
く特殊なものであることは多言を要しないところである。
(三) なお、成立に争いのない甲第二七号証、乙第二、三号証、同第二一、二二
号証、同第二八号証の一、二、当審証人Fの証言、原審での控訴人C及び当審での
同A各本人尋問の結果を総合すると、昭和五三年に改正されるまでの消防職員勤務
規程においては、その九条で、隔日勤務者の休憩時間は別に定めるところによる旨
が規定されていたのに、実際には右別段の定めがなされず、従つて、隔日勤務者の
正規の勤務時間(いわゆる拘束時間から休憩時間を除いたもの)は規定上明確でな
かつたこと、控訴人ら消防吏員としても、従来、隔日勤務の場合は正規の勤務時間
と休憩時間との区別を格別意識することなく、むしろ一当務二四時間通しての勤務
というような気持であつたこと、その後昭和四三年頃から同四七年四月頃までの間
勤務日誌の作成上などで勤務時間を一当務一四時間とする運用がなされたこともあ
り、また、昭和五三年九月一日以降は消防職員勤務規程の改正により、一当務一三
時間、一週間について三九時間と正規の勤務時間が明確化されたのであるが、その
間を通じ隔日勤務者の勤務の実態には実質的な変化はないことが認められる。
3 右特殊性についての給与における考慮
右に述べたような、勤務時間の特殊性を含む消防吏員の職務の特殊性は、給与にお
いて考慮する必要があるものと考えられるが、被控訴人市における給与上のその取
扱いを、沿革に徴して考察してみる。
成立に争いのない乙第四、九、一〇号証、同第一二号証の一、二、同第一四号証、
同第一五号証の一ないし三、同第五四号証、同第五七ないし六二号証、同第六七な
いし七一号証、同第七二ないし七六号証の各一、二、当審証人Gの証言並びに弁論
の全趣旨によると、次の事実を認めることができ、これに反する証拠はない。
(一) 「地方公務員法の施行に伴う消防職員に関する条例及び規則の取扱につい
て」と題する国家消防庁管理局長通知(乙第九号証)によれば、消防庁では、地方
公共団体の消防職員の給料については、その職務の危険度及び勤務の態様の特殊性
等に鑑み、原則として、一般行政職員と異なる給料表を適用するのが適当とされ
た。被控訴人市では、右の行政指導に従い、給与条例(昭和二六年三月制定当時の
もの)四条四項に基づき、「消防職員の級の格付等に関する規程」(乙第一四号
証)を定めて、消防吏員には、消防吏員級別表を用いて、全職員共通の給料表の号
俸調整を行い、右特殊性を考慮した給料上の優遇を図つていた。
(二) 更に、給与法の一部を改正する法律(昭和三二年六月一日法律第一五四
号)が公布されるに際して発せられた「地方公務員の給与制度等の改正について」
と題する自治庁次長通知(乙第一〇号証)によれば、地方公務員の給与制度につい
ても、勤務態様等が特殊な職については、職員の数、人事交流の状況、勤務の実態
等を考慮し、特別の給料表を用いて簡素化することが適当であるとされた。被控訴
人市では、右の行政指導に従い、給与条例の一部を改正する条例(昭和三二年一〇
月五日条例第四七号)により、消防吏員については、一般行政職員とは異なる消防
職給料表を新設し、一般行政職員(これについては行政職給料表が適用される。)
よりも有利に措置した。
その結果、例えば、昭和五三年において、高等学校卒業者が新たに被控訴人市に職
員として採用された場合の初任給は、一般行政職員であれば行政職給料表の六等級
四号給で金八万二、三〇〇円であるのに対し、消防吏員は消防職給料表の六等級三
号給で金九万六、八〇〇円であり、行政職給料表に換算すると四号給上位に格付け
され、右給料額の開きは以降少なくとも三〇年近くはそのまま継続することになる
もので、このような割合による給料面での消防吏員に有利な取扱いは、(実際の金
額はベースアツプにより変つてきてはいるが)消防職給料表が新設された当初か
ら、更には遡つて前記(一)で述べた昭和二六年の号俸調整当時から、ほぼ同様の
傾向で椎移してきた。
(三) 他方、被控訴人市では、昭和二六年八月一日、条例第五〇号をもつて、被
控訴八市職員の特殊勤務手当に関する条例を制定したが、右条例には本件第一種勤
務差手当のような勤務時間の特殊性に対する手当の支給は規定されていなかつた。
(消防吏員には危険手当が支給されることとされていた。)
次いで、被控訴人市は、昭和二九年四月一日条例第九号をもつて右条例の全部を改
正した(旧特勤手当条例)が、右旧特勤手当条例では、二条に
「この条例において職員とは、次に揚げる者をいう。
一 事務吏員・・・・及び技術吏員(被控訴人市水道局職員を除く。)
二 議会・・・・の事務部局に属する職員(臨時に雇用される者を除く。)
三 警察吏員・・・・並びに消防吏員及びその他の消防職員」
と規定し、三条で特殊勤務手当の種類として、第一種勤務差手当、第二種勤務差手
当、危険手当、及び特殊業務手当を設ける旨を定め、第一種勤務差手当につき、そ
の四条で「第一種勤務差手当は、正規の勤務時間(休憩時間を除く。)が一週間に
つき三九時間を超える職員にこれを支給し、その額は、その勤務時間に応じ、別表
第一に定める額とする
ただし、二条三号・・・・に掲げる職員については、この限りでない。」
と規定され、別表第一では一週の勤務時間が四二時間、四五時間、及び四八時間の
職員についてそれぞれ手当の月額が定められた。
かくして、勤務時間の特殊性についての特殊勤務手当である第一種勤務差手当が新
たに設けられたのであるが、右二条及び四条但書の文言により、消防吏員には第一
種勤務差手当が支給されないことが規定上明らかとなつていた。(なお、右旧特勤
手当条例には、現行の特勤手当条例三条一項に相当する条文は存しない。)
(四) その後、昭和二九年一二月二七日被控訴人市条例第六九号により旧特勤手
当条例の一部が改正され、その二条が
「 この条例において職員とは、地方公務員法三条二項に規定する一般職に属する
職員をいう。ただし、左に掲げる職員を除く。
一 被控訴人市水道局職貝
二 常時勤務を要しない職務に従事する職員
三 任用期間が一月未満の臨時的任用職員」
と改められたにもかかわらず、四条はそのままとされたので、全体を通じた条例の
文言上は、消防吏員を第一種勤務差手当の支給対象としない旨の明文の規定を欠く
かたちとなつた。(なお、右改正後の条文によれば、四条但書により二条三号の
「臨時的任用職員」が第一種勤務差手当の支給対象から除外されることになるが、
更に、右改正で、九条として「四条・・・・の規定は、・・・・非常勤職員及び臨
時的任用職員については適用しない。」旨の規定が設けられたので、四条但書は九
条の規定と重複する結果を招来しており、このことは、二条の改正に伴つてなさる
べき四条但書の改正が看過されたことをうかがわせる。)
更に、昭和三三年三月二九日被控訴人市条例第一〇号による旧特勤手当条例の改正
においては、四条但書の文言が全く改められたが、右改正後も、消防吏員を第一種
勤務差手当の支給対象から除外する明文の規定は存在しないかたちとなつた。
(二) そして、昭和四一年三月三一日被控訴人市条例第一一号をもつて本件特勤
手当条例が制定、同年四月一日から施行され、同時に旧特勤手当条例は廃止された
のであるが、これまで、被控訴人市の消防吏員には第一種勤務差手当が支給された
ことはないし、また、少なくとも昭和五三年頃以前において、本件特勤手当条例
(ないし旧特勤手当条例)の解釈上第一種勤務差手当を消防吏員に支給すべきか否
かが問題とされたこともなかつた。
以上認定の事実によつて考えると、被控訴人市では、控訴人ら消防吏員について
は、その隔日勤務の場合の勤務時間の特殊性をも含めて、専ら給料面で勤務の特殊
性を考慮するという取扱いをしてきたものと認めるのが相当である。特に、旧特勤
手当条例施行の当初において、消防吏員を第一種勤務差手当の支給対象職員から除
外する旨の規定が設けられたのは、その趣旨を明らかにしたものとみることができ
る。しかして、その後、旧持勤手当条例の改正の段階において、右明文の規定を欠
くかたちになつたのは、前記認定の事情に照らすと、改正手続の際の過誤によるも
のか、或いは、第一種勤務差手当はその性質上、給料面で別途考慮されている消防
吏員には支給されないのが当然で、明文の規定を俟つまでもないとされたことによ
るものと推認され、積極的に、第一種勤務差手当を消防吏員にも支給することを意
図して、右改正がなされたものとは到底解しがたい。
4 以上によれば、本件第一種勤務差手当の支給により考慮されるべき勤務時間の
特殊性については、控訴人ら消防吏員はすでに給料面において考慮されているので
あるから、本件特勤手当条例三条及び四条の趣旨を前記二の1の(三)のとおり解
する以上、控訴人らは第一種勤務差手当の支給対象とならないものというべきであ
る。なお、このことは、前示のように、旧特勤手当条例の当時から控訴人ら消防吏
員は第一種勤務差手当の支給対象とされていなかつた沿革に徴しても根拠付けられ
るところである。(第一種勤務差手当の内容は、本件特勤手当条例におけるものと
旧特勤手当条例におけるそれとで異なるところはないし、また、右新旧両条例施行
の前後を通じ、消防吏員についても他の一般行政職員についても、給料面での取扱
いや原則的な勤務形態に特記すべき変動を生じた事実もうかがえない。)
5 右認定、判断に反する控訴人らの主張は、当裁判所の採らないところである
が、なお若干この点について述べる。
まず、控訴人らは、控訴人ら隔日勤務の消防吏員の勤務時間の特殊性が給料で考慮
されていたことはないとして、その理由をあげている(控訴人らの補足主張(1)
ないし(5))。
しかし、右(1)は、前示給与条例三条(給与法四条も同旨)の規定に照らせば、
控訴人らの独自の見解に過ぎないものというべく、採用し値しない。
次に、(2)及び(5)については、なるほど控訴人ら主張のような各法令の改正
がなされたのに、これに伴つての被控訴人市の消防職給料表の改廃がなされていな
いことは弁論の全趣旨によりこれをうかがうことができるけれども、正規の勤務時
間数の如何にかかわらず消防吏員の勤務時間には前示(二の2の(二)、(三))
のような特殊性が存するもので、しかもその特殊性は右法令の改正によつても実質
上の変化はないのであるから、右法令の改正に伴う消防職給料表の改正がなされな
かつたからといつて、直ちに控訴人ら消防吏員の勤務時間の特殊性が給料面で考慮
されていないとはいい得ず、控訴人らの主張は理由がない。
次に、(3)については、前示のとおり八〇〇名を超える被控訴人市の消防吏員の
うちその七〇ないし七五パーセントに当たる者が隔日勤務者であり、その余が概ね
毎日勤務者なのである。そうだとすれば、消防吏員は、その大部分が隔日勤務者で
あつて、その勤務は長時間にわたることを常態とするもの、換言すれば、消防吏員
の勤務体制は、総体的に見て、隔日勤務を通常の形態とするものであるということ
ができる。しかも、消防職員勤務規程六条によれば、毎日勤務者であつても、消防
吏員であれば、必要に応じ、隔日勤務者と同じように、一週間につき六〇時間の勤
務をすることがある。のみならず、前記E証人の証言によれば、消防吏員である以
上、毎日勤務と隔日勤務との間の人事交流の要請があることを認めることができ
る。以上を総合すると、消防吏員に対して、一律に消防職給料表を適用する必要性
と妥当性が存するというべきである。そして、前記国家消防庁管理局長通知(乙第
九号証)の趣旨に鑑み、消防職給料表においては消防吏員の職務の危険度などの特
殊性をも考慮されているとみられることを併せ考えると、消防吏員に対して一律に
同給料表が適用されるからといつて、隔日勤務者の勤務時間についての特殊性が給
料上考慮されていないとすることはできない。
また、(4)については、成立に争いのない乙第六六号証及び弁論の全趣旨を総合
すると、看護婦に対して医療職給料表(2)が制定、適用されるに至つたのは、被
控訴人市の人事委員会が昭和四九年八月一二日付で、「看護業務の複雑困難化及び
要員確保の必要性等の事情を考慮して」所要の措置を講ずるよう勧告した結果であ
ると認められるので、消防職給料表の制定とは趣旨を異にし、医療職給料表(2)
は勤務時間の特殊性を給料表化したものではないといわなければならない。従つ
て、医療職給料表(2)の適用を受ける看護婦が第一種勤務差手当の支給を受けた
からといつて、このことをもつて、消防職給料表において消防吏員の勤務時間の特
殊性が考慮されていないとすることはできないし、また看護婦と消防吏員との間に
不公平を生じるものとも考えられない。
更に、控訴人らは、本件特勤手当条例に定める第三種勤務差手当及び第四種勤務差
手当については控訴人ら消防吏員にも適用されているのに、第一種勤務差手当につ
いては適用されないとするのは矛盾がある旨主張する。しかし、特勤手当条例に規
定されている諸種の特殊勤務手当は、それぞれ別個のものであるから、ある職員に
つきどの手当が支給されるかは、対象となる手当ごとに別途に考察するのが当然
で、消防吏員に第三或いは第四種勤務差手当が支給されるからといつて、第一種勤
務差手当をこれと同一に考えるべきでないことはいうまでもなく、控訴人らの右主
張も採用の限りでない。
三 以上の次第で、控訴人らの本訴請求は、その余の点につき検討するまでもなく
失当としていずれもこれを棄却すべきであり、これと同旨の原判決は相当であつて
本件各控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用につき民訴法九五
条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 蓑田速夫 柴田和夫 宮良允通)

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答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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