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裁判例


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○主文
昭和五六年一二月六日執行の滋賀県東浅井郡虎姫町議会議員一般選挙における選挙の効力
及び当選の効力に関する審査の申立について、被告が昭和五七年一一月一六日にした裁決
を取消す。
昭和五六年一二月六日執行の滋賀県東浅井郡虎姫町議会議員一般選挙を無効とする。
訴訟費用(差戻前の訴訟費用を含む)は被告の負担とする。。
○事実
第一当事者の求めた裁判
原告ら
主文同旨
(予備的請求として)昭和五六年一二月六日執行の滋賀県東浅井郡虎姫町議会議員一般選
挙の当選者中、A、B、C、D、E、F、G、Hの当選を無効とする。
被告
原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
第二当事者の主張
原告ら
請求原因
1原告らは昭和五六年一二月六日執行の滋賀県東浅井郡虎姫町議会議員一般選挙(以下
本件選挙という)に立候補した。。
2原告らは本件選挙における選挙の効力及び当選に関して、被告に対して審査の申立を
したところ、被告は同五七年一一月一六日右申立をいずれも棄却する旨の裁決(以下本件
裁決という)をなし、同日原告らに通知した。。
3本件選挙についての選挙無効及び当選無効の理由は、別紙滋賀県公報記載の裁決書の
「審査申立の理由」に記載のとおりである。
4右選挙無効及び当選無効の理由を要約すれば次のとおりである。即ち、
本件選挙において、選挙における投票資格者を作出するために、三か月前に虎姫町への大
量の転入届出がなされたが、その大多数は現実に<地名略>に住居を有しない架空転入で
あるのに、虎姫町選挙管理委員会(以下町選管という)の選挙人名簿登録のための資格。
調
、(。)査は極めて形式的かつずさんなものでその登録手続は公職選挙法以下公選法という
施行令一〇条の規定に違反し、選挙人名簿自体が無効というべきであつて、かゝる無効な
「」。選挙人名簿によつて行われた本件選挙は選挙の規定に違反するものというべきである
そして、本件選挙時登録は全部無効であるところ、右登録者四四九名中選挙人名簿の登録
についての異議申出の対象となつた者は三八二名、そのうち本件選挙について投票した者
は三六六名である。一方本件選挙の開票結果は、最下位当選人の得票数は一九八票、次点
者の得票数は一七八票であつて、その得票差は二〇票にすぎないから、
「選挙の結果に異動を及ぼす虞がある場合」にあたることは明らかである。
よつて、本件選挙は無効というべきである。
仮に然らずとするも、予備的請求の趣旨記載の八名の当選者は、いずれも大量の架空転入
を組織した主謀者であつて、選挙の公正を著しく害したものであつて、その当選は無効で
ある。
5よつて、本件裁決の取消とあわせ選挙無効、予備的に当選無効の判決を求める。
被告
一請求原因に対する答弁
1、2項記載の事実は認める。
3、4項のうち、本件選挙時登録者数、選挙人名簿についでの異議申出の対象者数、その
、。うちの投票者数及び開票結果の各得票数は認めるが選挙無効及び当選無効の主張は争う
二主張
1次項に述べるはか、別紙滋賀県公報記載の裁決書の「裁決の理由」に記載のとおりで
あつて、原告らの主張はいずれも失当である。
2町選管の前記調査は、六〇余名の町職員のうち男性職員のほとんどである四四名が班
を組織し、各自が自己の負担する職務を終えた後の午後五時ころから午後八時ころまでの
、、、間従事したものであつていわば町役場の組織をあげて最大限の可能な限りの調査をし
しかもその調査権能には事実上、法律上の制約があり、町選管としては、これら様々の配
慮から最も妥当と考えた方法により調査を行つた(例えば、原則として世帯主又はこれに
かわるものを面接の対象としたことは、調査の効率面のみならず、公平を期す目的もあつ
た。したがつて、さらに突つ込んだ調査をすることが事実上も法律上も極めて容易で。)

るにもかかわらず、あえてこれを回避したといつた事実はなく、単に外形を整えるためだ
けの調査に終始していたとは到底いえないのであつて、このような場合調査義務を一般的
に怠つたということはできない。
仮に大量の架空転入の疑いがある場合、本人が選挙区域内に現在するだけでなく居住して
いることを確認できないとして、その登録を全て拒否したとすれば、選挙の執行は不可能
に帰する。
また仮に原告主張の外形的事実関係のみを抽象的に前提とすれば、調査方法が完全でない
といえるとしても、前記の如き具体的諸事情を併せ考えると、その瑕疵は選挙時登録にか

る選挙人名簿全体を無効にせねばならない程に違法性の高いものとはいえない。
第三証拠関係(省略)
○理由
一請求原因1、2項記載の事実は当事者間に争いがない。
本件裁決書によると、
原告らは、本件選挙において、町選管が公選法二二条二項の規定に基づいて行つた選挙人
名簿の登録(以下本件選挙時登録という)に際し、現実の住所移転を伴わない架空転入。

大量にあつたにもかゝわらず、調査の疎漏により有権者の一割に近い数の被登録資格のな
い者を登録したが、このような架空転入者に対する町選管の処置は、公選法二〇五条一項
所定の選挙無効の原因である「選挙の規定に違反する」ものであるから、本件選挙は無効
というべきであり、また少くとも大量の架空転入工作をした当選者八名の当選は無効であ
ると主張して、本件選挙における選挙の効力及び当選の効力に関する審査申立をしたとこ
ろ、被告は、昭和五七年一一月一六日、本件選挙のために相当数の架空転入が行われたこ
とは一応推認できるが、このような被登録資格を有しない者の選挙人名簿への登録は公選
「」、法二〇五条一項所定の選挙無効の原因である選挙の規定に違反するものとはいえない
また当選者が大量の架空転入工作を図つたとしても、そのことから直ちにその者の当選を
無効であるとすることはできないとして、原告らの審査申立を棄却する旨の本件裁決をし
たことが認められる。
二市町村の選挙管理委員会が公選法二二条二項の規定に基づき選挙を行う場合にする選
(。)、、挙人名簿の登録以下選挙時登録というは当該選挙だけを目的とするものではなく
当該選挙が行われる機会に選挙人名簿を補充する趣旨でされるものであるから、その手続
は、当該選挙の管理執行の手続とは別個のものに属し、したがつて、右登録手続における
市町村選挙管理委員会の行為が公選法の規定に違反するとしても、直ちに同法二〇五条一
項所定の選挙無効の原因である「選挙の規定に違反する」ものとはいえない。以上によれ
ば、右選挙管理委員会が選挙時登録の際に被登録資格の調査の疎漏により被登録資格の確
認が得られない者を選挙人名簿に登録したとしても、右瑕疵は結局選挙人名簿の個個の登
、、、、録の誤りすなわち選挙人名簿の脱漏誤載に帰するものにすぎないから公選法二四条
二五条所定の手続によつてのみ争われるべきものであり、それだけでは選挙人名簿自体の
無効をきたすものでもなければ、また選挙時登録全部を無効にするものでもなく、右瑕疵
があることをもつて直ちに選挙無効の原因である「選挙の規定に違反する」ものとはいえ
ないことはいうまでもないが、
選挙人名簿の調製に関する手続につきその全体に通ずる重大な瑕疵があり選挙人名簿自体
が無効な場合において、選挙の管理執行にあたる機関が右無効な選挙人名簿によつて選挙
を行つたときには、右選挙は選挙の管理執行につき遵守すべき規定に違反するものという
べきである(最高裁昭和五二年(行ツ)第九四号同五三年七月一〇日第一小法廷判決・民
集三二巻五号九〇四頁参照。そして、市町村選挙管理委員会は、選挙人名簿の登録にあ)

、()、つては被登録資格を有する者のみを選挙人名簿に登録すべきであつて公選法二二条
被登録資格を有することについて確認が得られない者を登録してはならないのであるから
(同法施行令一〇条、選挙時登録の際に現実の住所移転を伴わない架空転入が大量にさ)

たのではないかと疑うべき事情があるときは、市町村選挙管理委員会としては、選挙時登
録にかかる選挙人名簿の登録にあたり、被登録資格の一つである当該市町村の区域内に住
所を有するかどうかについて特に慎重な調査を実施して適正な登録の実現を図る義務があ
るというべきであり、右の事情が存するのに、右選挙管理委員会の行つた調査が住所の有
無を具体的事実に基づいて明らかにすることなく、単に調査対象者あてに文書照会をした
り、その関係者のいい分を徴するにとどまるものであつて、その実質が調査というに値せ
ず、調査としての外形を整えるにすぎないものであるときは、市町村選挙管理委員会が公
選法二一条三項及び同法施行令一〇条所定の被登録資格についての調査義務を一般的に怠
つたものとして、選挙時登録にかかる選挙人名簿の調製に関する手続につきその全体に通
ずる重大な瑕疵があるものというべきであるから、当該選挙時登録全部が無効となり、ま
たこのように選挙時登録全部が無効な場合において選挙の管理執行にあたる機関が右無効
な選挙時登録を含む選挙人名簿によつて選挙を行つたときは、右選挙は公選法二〇五条一
項所定の「選挙の規定に違反する」ものと解するのが相当である。
三本件選挙時登録者数、選挙人名簿についての異議申出の対象者数、そのうちの本件選
挙についての投票者数及び開票結果の各得票数がいずれも原告らの主張のとおりであるこ
とは当事者間に争いがなく、右当事者間に争いのない各事実、いずれも原本の存在及び成
立に争いのない甲第一号証の五、六、同号証の三一の別表(1)ないし(3、同第二号)

の八、九、
同号証の一三、一四、同第三号証の一ないし九、同第四号証の一ないし三、同第五号証の
一ないし六、同第六号証の一ないし三(その一部、いずれも甲第五号証の五により原本)

存在及び成立が認められる同第二号証の四ないし六、同号証の一〇及び弁論の全趣旨によ
れば、次の事実が認められ、甲第六号証の一ないし三のうち右認定に反する部分は前記各
証拠と対比して措信することができず、他に前記認定を左右するに足る証拠はない。
(1)虎姫町では、通常、月間の転入者数が二〇人前後にすぎないのに、昭和五六年七
月には六四人、八月には四一二人と転入届をした者の数が異常に増加し、しかもその届出
は代理人によるものが大部分を占め、一人の代理人が多数の者を代理して転入届をすると
いつた例も多く、またその届出内容からすると、一軒の世帯主のところに十数人の転入者
が同居しているものといわざるを得ないような例もみられた。
(2)町選管は、同年九月の町議会の一般質問において、七、八月に大量の架空転入が
あつたとして転入者の住所の有無が問題とされたため、町長部局に住民基本台帳に基づく
転入者の実態調査を実施するよう依頼した。
(3)町長部局は、昭和五六年一月一日から同年九月三〇日までに転入した五七六人に
ついて虎姫町に住所を有しているか否かの実態調査をすることとし、同年一〇月、右の調
査対象者あてに同町に住所を有しているか否かの確認を求める文書照会を行つたところ、
これに対し、四八九人につき同町に住所を有している旨の回答があり、未回答の八七人に
ついて更に文書による再照会をしたところ、そのうち八五人につき同しく住所を有する旨
の回答があり、残り二人については結局未回答に終つた。
(4)更に町選管と町長部局は、右の調査対象者のうち、もともと<地名略>に住所を
有していた世帯主のところに同居人として転入した旨の届出をしていた三一六人につい
て、
訪問による実態調査を実施したが、その調査結果は、調査対象者三一六人のうち三一〇人
が同町に住所を有していることが確認されたというものであつた。
(5)しかしながら、その訪問調査の方法は、町長部局の職員が、もともと虎姫町に住
所を有している世帯主又はその妻らに対し、その同居人とされている者の居住の有無につ
いて、その世帯主らのいゝ分をそのまゝ調査票に記載するというものであり、
この調査によつて住所を有することが確認されたとされる三一〇人については結局本人に
対する面接は一人も行われなかつた。
(6)そして町選管は、以上に記載した以外には被登録資格についての調査は行わなか
つた。
(7)本件選挙の開票結果は、最下位当選人の得票数は一九八票であり、次点者の得票
数は一七八票であつて、最下位当選人と次点者の得票数の差は二〇票である。
(8)本件選挙時登録の被登録者四四九名のうち選挙人名簿の登録についての異議申出
の対象となつた者は三八二名、そのうち本件選挙について投票した者は三六六名である。
前記三八二名のうち三四一名は本件選挙が執行された直後のころから<地名略>から転出
(。)。したものとして届出がなされているその大部分のものは転入前のもとの住所に戻つた
四以上認定の事実関係によれば、当時においても、現実の住所移転を伴わない架空転入
が大量にされたのではないかと疑うべき事実があつたものというべきであり、しかも昭和
五六年九月の虎姫町議会の一般質問において七、八月に大量の架空転人があつたとして転
入届をした者の住所の有無が問題とされたというのであるから町選管としては、本件選挙
時登録にかゝる選挙人名簿の作成にあたり、住所の有無について特に憤重な調査すべき事
情が存したものというべきであるのに、本件選挙時登録に際し行われた文書照会による調
査及び調査の対象となつている本人に面接することなく訪問先の世帯主らから単に同居人
の居住の有無を確認することに終始した訪問調査は、住所の有無を具体的な事実に基づい
て明らかにすることなく、調査対象者あてに文書照会をしたり、その関係者のいゝ分を徴
するにとゞまるものであつて、その実質は調査というに値せず、調査としての外形を整え
たにすぎないものというほかはないから、本件選挙時登録に際し、町選管は被登録資格に
ついての調査義務を一般的に怠つたものというべきものである。そうすると、本件選挙時
登録にかゝる選挙人名簿の調製に関する手続につきその全体に通ずる重大な瑕疵があるこ
ととなるから、本件選挙時登録全部が無効となり、したがつて、右無効な本件選挙時登録
を含む選挙人名簿によつて行われた本件選挙は、公選法二〇五条一項所定の選挙無効の原
因である「選挙の規定に違反する」ものというべきこととなるといわざるを得ない。
この点について被告は、
町選管は最大限可能な限りの調査をしたと縷々主張するけれども、被告の主張事実をもつ
てしてはいまだ前記認定を覆えし、町選管は被登録資格についての調査義務を怠つたもの
でないということはできない。
そして本件選挙時登録は全部無効であるところ、本件選挙において右登録に基づきそのう
ち少くとも三六六名の投票がなされ、他方最下位当選人と次点者との得票差は二〇票であ
るから、これが公選法二〇五条一項所定の「選挙の結果に異動を及ぼす虞がある場合」に
あたることは明らかである。
したがつて、本件選挙は無効であるから、本件裁決の取消及び本件選挙の無効を求める原
告の本訴請求は理由がある。
五よつて、本件裁決を取消し、本件選挙を無効とすることとして、訴訟費用の負担につ
き民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官小林定人坂上弘小林茂雄)
昭和五七年一一月一六日付滋賀県公報第一八〇号(省略)

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