弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 被告人Cほか五名連名の上告趣意書による上告趣意について
 第一点は、憲法三七条三項違反をいう。
一 第一審判決及び原判決によれば、所論の点に関する経過は、おおむね次のとお
りである。
1 本件は、昭和四四年四月二八日のいわゆる四・二八沖縄デーの闘争に関連して
発生した事件の一部であるところ、右闘争に関連しては約二四〇名が東京地方裁判
所に起訴されたが、そのうち約一五〇名は分離公判を希望し、起訴後比較的短期間
のうちに主として単独部において審理を受け終わつた。他方、本件被告人らを含む
約九〇名は、一〇名の私選弁護人を選任したうえ、いわゆる統合方式すなわち一つ
の合議部が全事件を担当して弁論の併合・分離をくり返す方式をあくまでも主張し、
数か部にグループ別に配点するという東京地方裁判所裁定合議委員会の案に対して
は、一切具体的な意見を述べようとはしなかつた。そのため、同裁判所裁判官会議
は、近い将来に合理的で具体的な結論が得られる見通しがたたないものと判断し、
グループ別の配点をすることを決議した。右決議に基づき、被告人Dら一〇名の広
島大学学生を被告人とするグループ(以下「Aグループ」という。)と、被告人E
(旧姓F)ら一〇名を被告人とするその他のグループ(以下「Bグループ」という。)
が同地裁刑事第六部(以下「第一審」という。)に配点された。
2 第一審は、A・B両グループについて、昭和四五年三月二七日を第一回公判期
日と指定したところ、その期日の直前である同月一八日に私選弁護人は全員辞任し、
被告人らは、第一回公判期日の当日に国選弁護人の選任を請求したので、第一審は、
同期日には人定質問を行うにとどめ、以後の手続は続行することにした。
3 第一審は、Aグループについては、同年四月二三日に辻村精一郎弁護士ら三名
の弁護士を国選弁護人に選任し、弁護人の請求を容れ第二回公判を同年七月一五日
に開き、以後審理を続行し、同年一一月四日の第五回公判までの間にAグループの
みに関連する検察側の立証を終わらせた。他方、Bグループについては、同年四月
二三日に山本実弁護士ら三名の弁護士を国選弁護人に選任し、弁護人の請求を容れ
第二回公判を同年七月二二日に開き、以後審理を続行し、同年一一月六日の第五回
公判までの間にBグループのみに関連する検察側の立証を終わらせた。そして、弁
護人及び被告人らの希望を考慮し、同年一二月一六日の第六回公判においてA・B
両グループを併合して審理する旨の決定をし、以後審理を続けた。
4 ところが、六名の国選弁護人は、昭和四六年五月二六日の第一〇回公判の開廷
前に突如書面により辞意を表明してきたので、第一審は、辞意を表明するに至つた
事情に関し事実の取調をしたところ、次の事実が明らかになつた。
 被告人らは、当初からいわゆる統一公判の実現を要求するのみで、国選弁護人か
ら弁護のために必要であるとしてされた具体的要求には一切応じなかつたものであ
るところ、昭和四六年五月一八日第一東京弁護士会における代表者打合せ会の席上
では、「はつきりいつて弁護団を信用していない。従つて我々は弁護団の冒陳は期
待していない。」などと暴言をはき、さらに同月二五日第一東京弁護士会における
代表者打合せ会においても、「弁護人の心構えもできていないのではないか。」「
先生達は審理を早く終らして逃げる気か。そうとしかとれない。」などと弁護人の
弁護活動を誹ぼう罵倒する発言をしたほか、定刻をはるかに超えたため退席しよう
とした山本実弁護人に対し、「一寸待て、このまま帰るのか、これで明日の弁論が
できるか、我々を監獄に入れる気か」などと口々にののしりながら、同人の服をつ
かんで引き戻す暴行に及んだうえ、弁護人らを罵倒し続けるなど、著しい非礼をか
さねた。そのため国選弁護人六名は、もはや被告人らには誠実に弁護人の弁護を受
ける気持がないものと考えるに至つた。
5 右の事実が認められたため、第一審は、同年六月四日国選弁護人の辞意を容れ
全員を解任した。これに対し、被告人らは、国選弁護人の再選任を請求したので、
第一審は、同月九日の第一一回公判において、被告人の一人一人に対し、右のよう
な事実につき弁明を求めるとともに、以後このような行為をしないことを確約する
ことができるかどうかを尋ね、ひき続き判事室に被告人らを個別に呼んで右の二点
につき調査を行おうとしたが、被告人らは全員これを拒否した。そこで、第一審は、
翌六月一〇日の第一二回公判において国選弁護人の再選任請求を却下した。
6 その後、被告人らから三回にわたり国選弁護人の再選任請求がされた。第一審
は、同年七月一日の第一四回公判において、被告人らが前記のような行為をくり返
さないことを確約できるかどうかを確めたところ、被告人らは「無条件で弁護人を
選任するのが裁判所の義務である。」などといつてこれに答えることを拒否した。
第一審は、さらに慎重を期し、右の点につきさらに確めたいので七月一九日までに
裁判所に出頭するよう書面によつて被告人に連絡したが、被告人らは連署した書面
でこれを拒否した。同年八月二三日の第一五回公判においても、被告人らは同様の
主張をくり返すだけであつた。第一審は、国選弁護人再選任請求をすべて却下した。
7 被告人らは、第一審においては、法廷闘争という名のもとに権利行使に藉口し
てそれまでの主張を固執し、裁判長の訟訴指揮に服さず、そのため裁判所は、退廷
命令ないし拘束命令を再三再四発することを余儀なくされている状況であつた。
二 右事実によれば、被告人らは国選弁護人を通じて権利擁護のため正当な防禦活
動を行う意思がないことを自らの行動によつて表明したものと評価すべきであり、
そのため裁判所は、国選弁護人を解任せざるを得なかつたものであり、しかも、被
告人らは、その後も一体となつて右のような状況を維持存続させたものであるとい
うべきであるから、被告人らの本件各国選弁護人の再選任請求は、誠実な権利の行
使とはほど遠いものというべきであり、このような場合には、形式的な国選弁護人
選任請求があつても、裁判所としてはこれに応ずる義務を負わないものと、解する
のが相当である。
 ところで、訴訟法上の権利は誠実にこれを行使し濫用してはならないものである
ことは刑事訴訟規則一条二項の明定するところであり、被告人がその権利を濫用す
るときは、それが憲法に規定されている権利を行使する形をとるものであつても、
その効力を認めないことができるものであることは、当裁判所の判例の趣旨とする
ところであるから(最高裁昭和二八年(オ)第一二四一号同三一年七月四日大法廷
判決・民集一〇巻七号七八五頁、同三一年(あ)第三三五九号同三三年四月一〇日
第一小法廷判決・刑集一二巻五号八三〇頁、同二三年(つ)第二〇号同二五年四月
七日大法廷決定・刑集四巻四号五一二頁、同二七年(あ)第八三八号同三二年二月
二〇日大法廷判決・刑集一一巻二号八〇二頁、同二四年(れ)第二三八号同年一一
月三〇日大法廷判決・刑集三巻一一号一八五七頁、同四四年(し)第二五号同年六
月一一日第一小法廷決定・刑集二三巻七号九四一頁参照)、第一審が被告人らの国
選弁護人の再選任請求を却下したのは相当である。このように解釈しても、被告人
が改めて誠実に国選弁護人の選任を請求すれば裁判所はその選任をすることになる
のであり、なんら被告人の国選弁護人選任請求権の正当な行使を実質的に制限する
ものではない。したがつて、第一審の右措置が憲法三七条三項に違反するものでな
いことは右判例の趣旨に照らして明らかである。論旨は、理由がない。
 第二点は、憲法三七条一、二項違反をいうが、実質は単なる法令違反の主張であ
り、第三点は、憲法三七条二項違反をいうが、実質は単なる法令違反の主張であつ
て、いずれも適法な上告理由にあたらない。
 第四点は、憲法三七条二項、二一条違反をいう。しかし、原判決は、被告人らの、
法廷闘争なる名のもとに権利行使に藉口してその主張を固執し、裁判長の適正、適
法な訴訟指揮に服しなかつた法廷での態度、言動等から被告人らの性格を推認し、
これを量刑事情として評価、考慮したものであつて、被告人らの訴訟活動及び思想
信条をとらえて報復的な量刑をしたものでないことが判文上明らかであるから、所
論は前提を欠き、適法な上告理由にあたらない。
 第五点は、事実誤認の主張であつて、適法な上告理由にあたらない。
 被告人Gの上告趣意について
 所論は、事実誤認、量刑不当の主張であつて、適法な上告理由にあたらない
 被告人Hを除くその余の被告人六名の弁護人田村公一、同林宰俊、同野村政幸の
上告趣意について
 第一点は、憲法三七条三項、三一条違反をいうが、実質は単なる法令違反の主張
であつて、適法な上告理由にあたらない。
 なお、国選弁護人は、裁判所が解任しない限りその地位を失うものではなく、し
たがつて、国選弁護人が辞任の申出をした場合であつても、裁判所が辞任の申出に
ついて正当な理由があると認めて解任しない限り、弁護人の地位を失うものではな
いというべきであるから、辞任の申出を受けた裁判所は、国選弁護人を解任すべき
事由の有無を判断するに必要な限度において、相当と認める方法により、事実の取
調をすることができるもの、と解するのが相当である。
 第二点及び第三点は、いずれも事実誤認の主張であつて、適法な上告理由にあた
らない。
 第四点は、憲法三七条三項違反をいうが、この点は、被告人Cほか五名の上告趣
意第一点につき判断したとおりであつて、理由がない。
 弁護人林宰俊の上告趣意補充書による上告趣意について
 第一は、憲法三七条三項違反をいうが、この点は、同弁護人ほか二名の上告趣意
第四点につき判断したとおりであつて、理由がない、
 第二は、憲法七六条一項、三七条一項、三一条違反をいうが、本件記録上原審裁
判官が所論主張の会同によつて影響を受けたものとは認められないのであるから、
所論は前提を欠き、適法な上告理由にあたらない。
 弁護人野村政幸の上告趣意補充書による上告趣意について
 同弁護人ほか二名の上告趣意第一点ないし第四点につき、さきに判断したとおり
である。
 被告人Hの弁護人阿波弘夫の上告趣意について
 所論は、事実誤認、量刑不当の主張であつて、適法な上告理由にあたらない。
 よつて、刑訴法四〇八条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決す
る。
  昭和五四年七月二四日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    横   井   大   三
            裁判官    江 里 口   清   雄
            裁判官    高   辻   正   己
            裁判官    環       昌   一

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