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判決
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2原告は,被告に対し,別紙物件目録記載の各仏像を引き渡せ。
3訴訟費用は,本訴反訴を通じ,原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1本訴
別紙物件目録記載の各仏像は,原告の所有であることを確認する。
2反訴
主文第2項同旨
第2事案の概要
1本件は,原告が,別紙物件目録記載の各仏像(以下「本件各仏像」という。)
を所有していると主張して,これを争う被告に対し,本件各仏像の所有権が原
告に存することの確認を求め(本訴事件),被告が,本件各仏像の所有者は被
告であるところ,原告がこれらを占有していると主張して,原告に対し,所有
権に基づく返還請求権として本件各仏像の引渡しを求める(反訴事件)事案で
ある。
2前提事実(当事者間に争いがないか,各項末尾掲記の各証拠及び弁論の全趣
旨等により容易に認められる事実)
⑴原告は,肩書地に主たる事務所を置く宗教法人である。(弁論の全趣旨)
⑵被告は,肩書地に主たる事務所を置く宗教法人である。(弁論の全趣旨)
⑶被告は,平成18年6月9日,本件各仏像を所有していた。(争いのな
い事実)
⑷原告は,現在,本件各仏像を占有している。(甲23)
⑸本件各仏像は,昭和25年8月29日に重要文化財に指定されており,
所有者として被告が登録されている。(甲11,12)
3争点
⑴原告が本件各仏像を承継取得したか(被告は本件各仏像を平成18年6
月頃第三者に売却したか)
⑵原告が本件各仏像を即時取得したか
4争点に関する当事者の主張
⑴争点⑴(原告が本件各仏像を承継取得したか)について
【原告の主張】
以下の経緯により,原告は本件各仏像の所有権を承継取得により取得し
た。
ア被告は,平成18年から平成19年頃までに,訴外A関係者(以下
「訴外Aら」という。)に対し,本件各仏像を譲渡した。その際,被告
代表者自身が,譲渡書,委任状に署名捺印した上で,重要文化財指定書,
印鑑証明書,代表者事項証明書,履歴事項全部証明書を訴外Aらに交付
した。この結果,被告は,本件各仏像の所有権を喪失した。
イ訴外Bは,平成18年から平成19年頃,訴外Aらに対し,数回に分
けて合計約1億円を貸付け,かかる貸金債権の保全のために,本件各仏
像及び重要文化財指定書,譲渡書など所有者変更手続に必要な書類一式
を預かった。
その後,訴外Bは,訴外Aらから上記貸付けに係る弁済がなされるこ
とがなく,最終的には同人らとの連絡が付かなくなったことから,平成
27年までに,本件各仏像についての譲渡担保権を実行し,本件各仏像
の所有権を取得した。
ウ訴外Bは,平成24年初頭,知人であった訴外Cから期間を3年と定
めて1億円の融資を受けていたところ,弁済期である平成27年1月が
到来してもこれを弁済することができなかった。
そこで,訴外Bと訴外Cは,同月頃,本件各仏像をもって上記債務の
弁済に代えることを合意し,その頃,訴外Cは,訴外Bから本件各仏像
の引渡しを受けた。
エ訴外Cは,平成27年1月25日,原告に対し,本件各仏像を寄進と
いう形で贈与し,引き渡した。
【被告の主張】
原告主張に係る承継取得の経緯のうちアは否認し,その余は知らない。
本件各仏像は,被告が,本堂の改修工事のため訴外Aらに預けていたと
ころ,その預かり保管中の平成13年1月29日に何者かにより窃取され,
行方不明になっていたものである。
被告代表者は,平成18年6月9日頃,盗まれた本件各仏像を取り戻し
てくれるというので,数通の書類に署名押印したことがあったが,強度の
弱視のため,その記載内容を確認できていない。また,被告代表者ないし
その妻は,本件各仏像を取り戻すために印鑑証明書を取得したことがあっ
た。
以上のとおり,本件各仏像の所有者は被告であり,原告がこれを承継取
得する余地はない。
⑵争点⑵(原告が本件各仏像を即時取得したか)について
【原告の主張】
原告は,訴外Cから,平成27年1月25日,贈与契約に基づき,本件
各仏像の引渡しを受けた。
その際,原告代表者は,文化庁文化財部美術学芸課調査指導係の訴外D
係長及びE警察署に,本件各仏像についての被害届が出ていないことを確
認しており,原告は,本件各仏像の所有者が訴外Cであると信じていたも
のである。
したがって,原告は,上記引渡しにより,本件各仏像を即時取得した。
この結果,被告は,本件各仏像の所有権を喪失した。
【被告の主張】
原告が訴外Cから贈与契約に基づいて本件各仏像の引渡しを受けたこと
は否認し,原告が被害届の有無を確認したことは不知であり,本件各仏像
を即時取得したとの主張は争う。
原告は,当初は平成18年6月9日に被告自身から本件各仏像の無償譲
渡・引渡しを受けたと主張していたのに,その後,前記⑴【被告の主張】
のとおり,原告の本件各仏像の引渡しに係る主張が変遷したことからすれ
ば,平成27年1月25日に原告が訴外Cから本件各仏像の引渡しを受け
たとの事実があったとは思われない。
また,本件各仏像の状況からみて,どこかの寺社からの物であり,尋常
のものではないことは容易に見て取れるところであって,被害届の有無を
文化庁及び一つの警察署に確認しただけで,訴外Cが本件各仏像の所有者
であることについて善意・無過失となるはずがない。
むしろ,警察へ確認に行くこと自体が,訴外Cの所有権を怪しいと疑っ
ていたことを示すものである。
第3当裁判所の判断
1認定事実
前提事実に加え,各項末尾掲記の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の
事実を認めることができる。
⑴本件各仏像は,昭和25年8月29日に重要文化財に指定されており,所
有者として被告が登録されている。(前提事実⑸)
⑵被告は,平成13年5月9日,文化庁長官に対し,国宝・重要文化財の所
在の場所変更の届出書(本件各仏像を訴外Aにおいて保管することを内容
とするもの)を提出しており,同書面のその他参考となるべき事項欄には,
平成13年1月29日に,本件各仏像が保管先である訴外Aから持ち出さ
れ,行方不明となっている旨が記載されている。(乙1)
平成18年6月9日における被告の代表役員は,Fであった。同人は,平
成7年12月25日,白内障による(強度)近視による視力右0.00左
0.02との障害名による身体障害者等級2級の身体障害者手帳の交付を
受けた。(甲7ないし9,乙2)
⑷原告は,被告代表役員としてのFの署名押印がある本件各仏像の譲渡書,
本件各仏像の譲渡に係る被告の責任役員会議事録及び本件各仏像の所有者
の変更の届出に係る委任状を所持しているほか,平成18年6月9日付け
の被告(代表役員F)の印鑑証明書及び被告代表役員がFである旨が記載
された代表者事項証明書及び被告の履歴事項全部証明書を所持している。
(甲1ないし9,20,弁論の全趣旨)
⑸原告が,平成27年2月16日及び同年8月28日頃,文化庁長官に対し,
本件各仏像
に係る重要文化財の所有者の変更の届出を行ったところ,これらの届出は,
本件各仏像の所有権が当事者間で整理されていないことを理由に不受理と
なった。なお,これらの届出に際して,当該届出についての原告代理人で
あった訴外G弁護士が,当時白紙であった譲渡書,議事録の譲受人欄,委
任状の受任者欄に原告を書き入れた上,これらの書面の日付について,印
鑑証明書等の日付に合わせて平成18年6月9日と書き入れた。(甲1な
いし13,20,弁論の全趣旨)
2争点⑴(原告が本件各仏像を承継取得したか)について
原告は,被告が訴外Aらに本件各仏像を譲渡した旨主張する。確かに,前記
認定事実のとおり,原告が被告代表者の署名押印のある本件各仏像の譲渡書の
ほか,所有者を変更する手続のために必要な書類(以下「譲渡書等」という。)
を所持していることから,被告が第三者に本件各仏像を譲渡する旨意思表示し
たことが一応推定されるが,他方で,被告がその意思に基づいて譲渡書を作成
したことを否認しており,この点について,窃取された本件各仏像を取り戻す
ために必要であると求められるがまま署名押印したにすぎないと主張している
ところ,前記認定事実のとおり,本件各仏像が窃取されたことが被告の文化庁
長官宛の文書に記載されており,被告代表者が強度の近視であったというので
あるから,被告の上記主張を不合理なものとして直ちに排斥することはできな
い。これに加え,譲渡書等の作成・交付の状況について,原告は,当初,自ら
の関係者の面前で被告代表者が直接これらの書類を作成して交付したと主張し

遷があったこと,譲渡書は,その作成時には,譲受人及び日付が空欄であり,
この時点では譲渡の相手方が未だ決まっていなかったと考えるほかなく,被告
の訴外Aらへの本件各仏像の譲渡の事実を裏付けるものとはいい難いこと,窃
取された本件各仏像がどのようにして被告の占有下に戻り,被告がこれをどの
ようにして訴外A等に引渡しをしたのか不明であること等の事情を総合的に考
慮すると,被告代表者の署名押印のある譲渡書等の存在をもっても,被告が訴
外Aらに本件各仏像を譲渡したと認めるには足りない。
したがって,被告が本件各仏像の所有権を喪失し,原告がその所有権を承
継取得したとは認めることができない。
3争点⑵(原告が本件各仏像を即時取得したか)について
⑴原告は,訴外Cから,平成27年1月25日,寄進という形で本件各仏
像の贈与を受け,かかる贈与契約に基づき本件各仏像の引渡しを受けたと
ころ,実際には訴外Cは本件各仏像の所有者でなかったとしても,即時取
得により原告が本件各仏像の所有権を取得したものであると主張する(な
お,本件各仏像は重要文化財であり(前記前提事実⑸),文化財保護法に
基づいて所有者が登録されるものである(同法31条,32条)が,同法
には当該登録をもって対抗要件とする旨の規定がないことから,民法19
2条の適用は排除されないものと解される。)。
もっとも,仮に原告の主張を前提としても,下記のとおり,原告の悪意
有過失をいう被告の主張には理由があるというべきである。
⑵悪意有過失について
ア原告の主張を前提とすれば,原告は,重要文化財である本件各仏像に
ついて,文化財保護法に基づく所有者としての登録がなされていない訴外
Cから引渡しを受けたことになるが,同法は,重要文化財の所有者の変更
があったときは,新所有者は文化庁長官に届け出なければならないと規定
し(同法32条),また,原則として重要文化財の有償譲渡を禁止し,ま
ず国に対する売渡しの申出をしなければならず,文化庁長官により買い取
らない旨の通知を受けてはじめて有償譲渡が可能となる旨規定しているこ
と(同法46条)に加え,そもそも重要文化財である本件各仏像が正規の
取引によって転々流通すること自体が考え難いことなどを踏まえると,重
要文化財については実際の所有者と登録されている所有者が異なることは
想定し難いものと認めるのが相当であって,原告も宗教法人である以上,
上記のような重要文化財についての事情は当然認識していたものというべ
きである。
イまた,本件各仏像と共に交付された本件各仏像の譲渡書,本件各仏像
の譲渡に係る被告の責任役員会議事録及び本件各仏像の所有者変更届出に
係る委任状については,譲受人及び受任者の欄,並びに日付が空欄であっ
たこと(前記認定事実⑷)に加え,被告代表役員Fの印鑑証明書及び被告
代表者役員がFである旨が記載された代表者事項証明書及び履歴事項全部
証明書は平成18年6月9日付けのものであり(同),原告が訴外Cから
寄進を受けたと主張する平成27年1月25日からおよそ10年近くも前
の日付のものであったことからすれば,本件各仏像の来歴について疑念が
生じてしかるべきであったといえる。
ウ以上によれば,重要文化財であるという本件各仏像の特殊性や,原告
主張に係る贈与の態様などからして,原告においては,訴外Cが本件各仏
像の所有者であることにつき,疑念を抱いているか,少なくとも抱くべき
であったというべきである。なお,原告は,本件各仏像は訴外Cが金銭を
貸付けていた相手から代物弁済として譲り受けたものであると主張してい
るが,上記のとおり,重要文化財である本件各仏像の有償譲渡は制限され
ているのであるから,かかる主張を前提とすれば,原告はより本件各仏像
の来歴に注意を払う必要があったといえる。
エこれに対し,原告は,本件各仏像を譲り受けるに当たっては,文化庁
文化財部美術学芸課調査指導係の訴外D及びE警察署に,本件各仏像につ
いて窃盗等の被害届が出ていないことを確認しており,そのことにより訴
外Cが所有者であると信じた旨主張する。
しかしながら,このような原告の主張を前提としたとしても,被害届が
出ていないことのみをもって訴外Cが所有者であると信じたというのは,
本件各仏像という目的物の特殊性からして安易にすぎるというべきである
し,本件各仏像については,譲渡書等で譲渡人となっており,かつ文化財
保護法に基づいて本件各仏像の所有者として登録されている被告に対して
本件各仏像の所有権の所在について確認することが極めて容易であったに
もかかわらず,かかる確認すら行わなかったことからすれば,譲受人とし
て通常尽くすべき注意を払っていなかったことは明らかであるというべき
である(なお,前記認定事実⑵に係る経緯からすれば,原告が被告に本件
各仏像の所有権の所在を確認していれば,少なくとも当該所有権に何らか
の争いがあることは認識し得たものといえる。)。
オそうすると,原告が本件各仏像の引渡しを受けるに当たって訴外Cが
所有者であると信じていたとしても,そのことにつき過失があったことは
明らかである。
⑶以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の即時取
得の主張には理由がない。
4小括
以上によれば,原告が本件各仏像の所有権を取得したことは認められず,原
告の本訴請求には理由がない。
他方,被告は,平成18年6月9日に本件各仏像を所有していたところ,そ
の後に本件各仏像の所有権を喪失した事実が認められないことから,被告の反
訴請求には理由がある。
第4結論
以上の次第で,原告の請求は理由がないからこれらをいずれも棄却し,被
告の請求は理由があるからこれらを認容することとし,仮執行宣言については,
相当でないからこれを付さないこととして,主文のとおり判決する。
大津地方裁判所民事部
裁判長裁判官西岡繁靖
裁判官小川紀代子
裁判官進藤諭
(別紙)
物件目録

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