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平成13年(ワ)第7078号 損害賠償請求事件
口頭弁論終結日 平成14年4月8日
              判       決  
原      告 株式会社シスコンエンタテイメント
訴訟代理人弁護士  菅谷 徹
      被      告 株式会社タム
訴訟代理人弁護士 三山裕三
同        楠見昭夫
同        伊達雄介
              主       文  
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
 1 被告は,原告に対し,金3284万円及びこれに対する平成13年3月21
日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
   本件は,原告が,被告に対して,原告の有する商標権に係る商標と同一の標
章を付してゲームソフトを販売する被告の行為が商標権を侵害するとして損害賠償
を請求した事案である。
1 前提となる事実(証拠を示した事実を除き,当事者間に争いがない。)
(1) 原告は,次の商標権(以下「本件商標権」といい,その登録商標を「本件
商標」という。)を有する(甲2)。
   登録番号     第4455006号
   出願年月日    平成12年10月12日
   登録年月日    平成13年2月23日
   商品の区分    第9類
   指定商品     家庭用テレビゲームおもちゃ
   登録商標     ぼくは航空管制官(標準文字)
(2) 被告は,平成13年3月21日から,ゲームボーイアドバンス(携帯用ゲ
ーム機)版ビデオゲーム用ソフト(以下「被告ソフト」という。)を販売してい
る。被告ソフトの外箱には「ぼくは航空管制官」との文字が表記されている(以
下,「ぼくは航空管制官」の標章を被告標章という場合がある。)。被告標章は,
本件商標と同一である。
2争点及び当事者の主張
(1)商標的使用の有無,商標権の効力の及ぶ範囲
(原告の主張)
ア 被告標章「ぼくは航空管制官」は,以下のとおり,単にゲームの内容を
説明するために表記されたものではなく,自己の商品と第三者の商品を識別するた
めに付されたものであって,商標的に使用されている。
 被告ソフトは,単に航空管制官の日常業務をモチーフとしているのでは
なく,プレーヤーが満足できるような様々なゲーム性(各飛行機の離着陸の順番を
決定するパズル的要素,天候変化に対する戦略的要素など)を取り込んだゲームソ
フトである。
 ところで,単にゲームの内容を説明する目的で付されるのであれば,例
えば,「航空管制シミュレーション」や「航空管制官ゲーム」等の航空管制官の業
務を素材としたゲームであると理解されるような表記が考えられる。しかし,被告
標章「ぼくは航空管制官」は,ゲームの内容を説明させる表記方法ではない。
 被告標章は「ぼくは」と「航空管制官」の2語が結合した構成であり,
「ぼくは」を付することによって,明らかに一般的な説明とは異なる独自の主体的
個別化表現が用いられている。
イ 被告標章は,上記と同様の理由から,商品の普通名称,品質等を普通に
用いられる方法で表示するものではない。
(被告の主張)
ア 被告標章は,以下のとおり,単にゲームの内容を説明するために表記さ
れたものであって,商品を識別するために付されたものではないから,商標的に使
用されていない。
 被告ソフトは,プレーヤーが航空管制官として空港における管制業務
(飛行機の離着陸の管理)を行うという内容のシミュレーションロールプレイング
ゲームであり,あたかも航空管制官になったかのような体験ができるものであっ
て,被告標章「ぼくは航空管制官」はゲームの内容を端的に表すものにすぎない。
 被告標章は,自他商品識別機能及び出所表示機能を有しない態様で使用
されているから,その使用態様は,商標的な使用ではない。
イ 被告標章は,上記と同様の理由から,被告商品の普通名称,品質等を普
通に用いられる方法で表示するものであり,法26条1項2号の規定により本件登
録商標の効力は及ばない。
(2) 原告の本件商標権に基づく請求は権利濫用に当たるか(抗弁)。
(被告の主張)
   ア 本件商標権取得の経緯
株式会社テクノブレイン(以下「テクノブレイン社」という)は,平成
10年8月,航空管制シミュレーションゲームソフトをパソコン用に開発して,
「ぼくは航空管制官」のタイトルを付して発売(以下「テクノブレイン社ソフト」
という)した。テクノブレイン社ソフトは,人気を博して大ヒット商品となり,
「ぼくは航空管制官」の標章は,テクノブレイン社の開発したテクノブレイン社ソ
フトを指すものとして,全国的に著名となり,同テクノブレイン社ソフトは海外に
まで輸出されるに至った。
テクノブレイン社は,テクノブレイン社ソフトが成功したことから,テ
クノブレイン社ソフトをプレイステーション(家庭用テレビゲーム機)版へ移植す
ることを計画した。テクノブレイン社と原告とは,平成11年6月9日付けで著作
権許諾契約を締結し,テクノブレイン社は,原告がプレイステーション版ソフト
「ぼくは航空管制官」(以下「原告ソフト」という。)を開発・販売するための協
力をした。
その後,テクノブレイン社は,ゲームボーイアドバンス版ソフト(被告
ソフト)については,原告ではなく,被告に対して,その製造,販売の許諾を与え
た。
ところが,原告は,被告がゲームボーイアドバンス版である被告ソフト
を発売する直前の平成13年2月23日に,ライセンサーであるテクノブレイン社
の何らの許諾なく,無断で,本件商標の登録を得た。
原告は,テクノブレイン社の代表者であるAが,原告代表者のBに対
し,原告の商標登録出願を許諾する意思を伝えたと主張するが,そのような事実は
ない。
イ 被告の被告ソフト発売
被告は,前記のとおり,テクノブレイン社から,被告ソフトを販売する
ことについての許諾を受けている。原告及び被告は,共にテクノブレイン社のライ
センシーという立場である。しかし,原告は,テクノブレイン社の再三にわたる中
止要請にもかかわらず,本訴を提起した。なお,現在,原告とテクノブレイン社と
の間の前記著作権許諾契約は解除されている。
ウ このように,「ぼくは航空管制官」との標章が,業界内において,テク
ノブレイン社の商品(テクノブレイン社ソフト)であることを表す標章として周知
であるばかりか,原告も,ライセンシーとして,原告の商品の標章ではなく,テク
ノブレイン社の商品の標章であることを認識しているにもかかわらず,テクノブレ
イン社の被告に対するライセンスの円滑な実施を妨げるために,同社に無断で本件
商標に係る登録出願をした。本件商標権に基づく損害賠償請求は,権利の濫用とし
て許されない。
(原告の反論)
 ア 原告の広告宣伝と顧客の本件商標に対する認識
     原告は,平成11年6月9日,テクノブレイン社との間で,原告ソフト
の開発販売について著作権許諾契約を締結した。原告は,平成11年9月ころから
平成12年5月ころまでの間,家庭用テレビゲーム機市場において,莫大な費用を
投入して,原告ソフトの販売に当たり,各業界雑誌,新聞,テレビ等に,約656
5万円もの宣伝費を掛けて広告した。原告が上記の多大な宣伝活動を行ったため,
「ぼくは航空管制官」の標章は,原告ソフトを示すものとして,家庭用テレビゲー
ムおもちゃ業界において著名になった。
   イ 原告のソフト開発の独自性
     原告は上記著作権許諾契約締結後,平成11年12月の発売までの間
に,原告ソフトについて独自に開発を重ねた。
     原告ソフトに反映されている代表的な独自性は ①パソコン版の難易度
の高い操作系を廃止し,簡単な操作系で航空世界を楽しめるようにしたこと,②ス
テージが追加されていること,③画面構成,アイコン等の変更及び追加があるこ
と,④飛行機と航空管制官の通信中でも操作を可能にしたこと,⑤サウンドを追加
したこと等である。
   ウ 商標登録出願についてのテクノブレイン社の許諾
     家庭用テレビゲームおもちゃ業界においては,近時ゲームソフトの模倣
品,侵害品が多く出回るようになっている。ゲームソフト業界において,ソフトの
タイトルについて商標登録出願をすることは,一般的であり,常識的なことであ
る。原告は,自己の取り扱うすべてのゲームソフトのタイトルについて商標登録出
願を行ってきた。原告は原告ソフトのタイトルについても,通常どおり第三者から
の無用の商標権侵害を防止するために商標出願を考えた。しかし,テクノブレイン
社との間で著作権許諾契約を締結していたため,原告代表者Bは,平成11年夏こ
ろ,テクノブレイン社代表者のAの意思を確認するため,テクノブレイン社が商標
登録出願をする意思がなければ,原告が商標登録すると伝えた。これに対し,A
は,原告が商標登録出願しても構わないと回答した。
  (3) 損害額
(原告の主張)
 ア 主位的主張
 被告は,平成13年3月21日,被告ソフトを発売し,次のとおり,少
なくとも3284万円の利益を得た。被告が原告に対して賠償すべき損害額は32
84万円である(法38条2項)。
     売上高  5,800円(販売単価)×70%(問屋への卸値)×1
8,000本
                      =73,080,000円
     製造経費 1,680円(ロム代等)×18,000本
                      =30,240,000円
     売上総利益(粗利)         42,840,000円
     販売管理費(人件費・開発費・宣伝費等)
                       10,000,000円
     営業利益(純利益)        32,840,000円
   イ 予備的主張
 被告が原告に対して賠償すべき損害額は,本件商標権についての使用料
である1044万円が相当である。
     使用料相当額  5,800円(販売単価)×10%(使用料相場)×
18,000本(販売量)
                      =10,440,000円
(被告の反論)
 争う。
第3争点に対する判断
1 争点1(商標的使用の有無,商標権の効力の範囲)について
 (1) 事実認定
 前提となる事実,証拠(各認定部分に表記した。なお,枝番号の記載は省
略する。以下同様である。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められ,
これを覆すに足る証拠はない。
  ア 被告ソフトは,プレーヤーが,実在する複数の空港を想定して,飛行機
離発着等に関する管制業務を担当する航空管制官の業務を体験するシミュレーショ
ンゲームであり,携帯ゲーム機であるゲームボーイアドバンス版として開発・販売
されたゲームソフトである。被告ソフトは,実際の空港や航空機などをデフォルメ
した画像を通して,各空港における滑走路の状況,気象条件や各航空会社の運行ス
ケジュールなどを考慮しながら,航空管制官としていかに正確かつ適切な運営を行
うことができるかを競うものである(争いない)。
  イ 被告ソフトは,約8センチメートル(縦)×約13センチメートル
(横)×約2センチメートル(高さ)の大きさの外箱に入れられて販売されてい
る。箱表面の右中央には,上から順に,①「航空管制シミュレーションゲーム」と
の文字が紺色で小さく,②その下方に,「ぼくは航空管制官」の文字が,約1セン
チメートル(縦)×約7.5センチメートル(横)の範囲にオレンジ色で大きく,
③その下方に,滑走路の図柄が直線上に小さく,それぞれ表記されている。箱表面
のその他の部分には,「ゲームボーイアドバンス」との文字,著作権者として
TechnoBrainCO,LTDの文字,発売元として「TAM」「株式会社タム」の文字,テク
ノブレイン社の登録商標である「Lichterfelde」の文字,航空機や空港等の絵など
が,それぞれ表記されている(甲3,5,乙1)。また,箱の側面(3箇所)及び
裏面にも,「ぼくは航空管制官」の文字が表記されている。
(2) 判断
 以上認定した事実,すなわち,①被告ソフトの外箱の表面,側面及び裏面
に,「ぼくは航空管制官」の文字が,大きくかつ目立つ色で表記されていること,
②被告ソフト及びその外箱には,「ぼくは航空管制官」の文字を除いて他に,被告
ソフトと他社の商品とを区別するための標章は存在しないと解されること,③「ぼ
くは航空管制官」の文字の上方には「航空管制シミュレーションゲーム」と記載さ
れているが,被告ソフトの内容は,同記載によって端的に説明されていると解され
ること等の点を総合すれば,被告標章「ぼくは航空管制官」部分こそが,自他商品
を識別するための標識としての機能を果たしているというべきである。
 以上のとおり,被告標章は,被告ソフト又はその出所を識別するために付
されたものであって,商標的に使用されていると解される。また,上記認定した使
用態様に照らすならば,被告標章は,商品の普通名称,品質等を普通に用いられる
方法で表示されたものと解することもできない。
 被告の主張は採用できない。
2 争点2(権利の濫用)について
 (1) 事実認定
 前提となる事実,証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認めら
れ,これを覆すに足る証拠はない。
ア テクノブレイン社によるテクノブレイン社ソフト販売の経緯
   (ア) テクノブレイン社は,平成10年8月,航空管制官の業務に関する
シミュレーションゲームである「ぼくは航空管制官」のパソコン版(テクノブレイ
ン社ソフト)を開発し,発売した(争いがない)。テクノブレイン社ソフトは,プ
レーヤーが,実在する複数の空港を想定して,飛行機離発着等に関する航空管制官
の業務を体験するシミュレーションゲームであり,実際の空港や航空機などをデフ
ォルメした画像を通して,各空港における滑走路の状況,気象条件や各航空会社の
運行スケジュールなどを考慮しながら,航空管制官としていかに正確かつ適切な運
営を行うことができるかを競うものである。テクノブレイン社は,テクノブレイン
社ソフトを製作,販売するに際して,実在の航空会社の航空機の機体画像を使用す
ることについて,複数の航空会社からの許諾を得たり,また財団法人航空交通管制
協会から監修を受けるなどした(乙5,14,18)。
   (イ) テクノブレイン社は,テクノブレイン社ソフトにつき,平成10年
末には想定する空港・航空機を追加するキットであるパワーアップキット1を,同
11年5月には同趣旨のパワーアップキット2を発売するとともに,中国語版も発
売するなどした(乙18,26)。また,平成11年12月には,コンビニ版「ぼ
くは航空管制官」を発売し,コンビニエンスストアで販売するなどした。
     テクノブレイン社ソフトのシリーズは,合計15タイトル余りが発売
され,平成10年9月1日から同13年9月1日までに13万3300本余りが販
売された(乙4,7,18)。
     このように,テクノブレイン社発売のテクノブレイン社ソフトは,人
気を博し,大ヒット商品となり,著名な大型小売店でのパソコンソフトの部門別週
間販売実績で1位となるなどの成績を収めた(乙4)。また,航空関係など各種雑
誌にも,テクノブレイン社によりパワーアップキットなどを含む一連のテクノブレ
イン社ソフトのシリーズの広告が掲載された(乙26)。
イ テクノブレイン社の原告に対するゲーム製作等の許諾
   (ア) テクノブレイン社は,平成11年6月8日,原告に対し,ゲームソ
フト「ぼくは航空管制官」の製作,販売に関して許諾を与えた(乙3)。すなわ
ち,テクノブレイン社は,原告が,ゲームソフト「ぼくは航空管制官」のゲーム内
容,グラフィック,音声を使用して,プレイステーション向けゲームソフト「ぼく
は航空管制官」を開発して,プレイステーション版ソフトを,非独占的に製作,販
売することについて許諾を与えた。
 (イ) 原告は,上記許諾契約に基づき,テクノブレイン社から製品化に必
要な飛行機や飛行場のグラフィック画像や,ゲームシナリオの提供を受けるなどし
た(乙18)。また,テクノブレイン社は,航空会社から受けた航空機のグラフィ
ック等に必要なライセンスについて,原告に対する再許諾に関して覚書を締結する
などした(乙21)。
    (ウ) 原告は,平成11年12月,同許諾契約に沿って,プレイステーシ
ョン版「ぼくは航空管制官」を発売した(争いがない)。
      テクノブレイン社は,原告がプレイステーション版「ぼくは航空管制
官」を発売するに当たり,ゲーム内容を監修し,登場キャラクターについてチェッ
クを行ない,一部キャラクターについては変更させるなどした(乙13,18)。
原告は,テクノブレイン社に対し,上記著作権許諾契約に基づき,著作権許諾料算
定のため,4半期毎に,販売実績を報告した。平成12年12月31日までの,各
4半期間についての販売報告書によれば,支払い済みの最低責任販売数量5000
0本分を超える販売実績はなく,追加の著作権許諾料の納付はされていない。これ
によれば,平成11年12月1日から平成12年12月31日までの原告ソフトの
販売本数は,47714本である(乙15)。
   ウ テクノブレイン社の被告に対するゲーム製作等の許諾
    (ア) テクノブレイン社は,高性能の携帯用ゲーム機である「ゲームボー
イアドバンス」が任天堂より発売されることを知り,「ぼくは航空管制官」をゲー
ムボーイアドバンス版に移植する計画を立てた。テクノブレイン社は,まず原告に
対して製作等の許諾を受ける意向があるかについて打診したが,原告が許諾を受け
る意思がない旨回答したため,被告に対して許諾することにした(乙18。なお,
原告は,テクノブレイン社から,ゲームボーイアドバンス版へのライセンスに関し
て何ら連絡を受けたことはない旨主張するが,同主張に沿う証拠はない。)。
    (イ) 被告は,平成12年8月24日,商品展示会「任天堂スペースワー
ルド2000」において,ゲームボーイアドバンス版ゲームソフトについて「ぼく
は航空管制官」のタイトルで発売することを発表し(乙18,22,30),平成
13年3月21日,被告ソフトを発売した(争いがない)。
  エ 原告の本件商標出願等の経緯
   (ア) 原告は,平成12年8月24日に「任天堂スペースワールド200
0」が開催され,被告ソフトの発売が公表され,これを知った直後である平成12
年10月12日,テクノブレイン社の許諾を得ずに,本件商標の出願手続を行っ
た。原告は,早期審査の請求を行い,平成13年2月23日に本件商標権は登録さ
れた。
(イ) この点,原告は,被告による被告ソフトの発売を知った時期は,平
成12年12月ころである旨主張する。しかし,原告の主張は,以下のとおりの理
由により採用できない。すなわち,①上記「任天堂スペースワールド2000」
は,新製品であるゲームボーイアドバンスに関連して開催されたイベントであり,
ゲームソフトの販売を行う業者である原告が,その状況を知らないことは不自然で
あること,②原告は,早期審査の請求を行った事情として,被告ソフトが被告によ
り,平成13年春発売予定であることを理由としていること(乙4),③原告は,
平成13年2月及び3月,被告に対して,著作権侵害及び不正競争防止法違反を理
由として,二回にわたり警告を発したりして,被告の動向を牽制していること等の
一連の経緯に照らすならば,前記原告の主張は採用できない。
    (ウ) テクノブレイン社は,平成13年4月6日,本件商標につき,法3
条,4条1項10号,同19号に該当することを理由として,特許庁に対し,商標
登録異議の申立てを行った(乙4)。
      平成13年12月26日,本件商標権の登録を維持する旨の決定がさ
れた(甲22)。
    (エ) テクノブレイン社は,平成13年4月16日,主位的には原告との
著作権許諾契約を解除する旨,また,予備的には平成13年6月8日で契約期間が
満了することに伴って解約する旨,意思表示をした(乙42)。
   オ 本件商標出願に対するテクノブレイン社の許諾の有無
   (ア) 原告は,平成11年7月ころ,テクノブレイン社の代表者であるA
から,原告が本件商標出願をすることにつき許諾を得たと主張し,それに沿う内容
の原告代表者の陳述書の記載もある(甲20)。
(イ) しかし,上記主張に係る事実は,以下のとおりの理由により認める
ことはできない。すなわち,①テクノブレイン社の代表者Aは,原告の代表者であ
るBと幾度となく協議をしたが,平成11年7月ころ,原告社員同席のうえ協議を
したこともないし,また,原告に対して本件商標出願を許諾したこともないと,許
諾について明確に否定していること(乙30),②テクノブレイン社と原告との間
において,本件商標の出願の許諾について,対価その他の許諾条件や詳細について
何らの取決めがされていないのは不自然であること,③テクノブレイン社が原告に
対して,口頭で本件商標出願の許諾を与えるのは不自然であること,④原告が本件
商標出願したのは,許諾を受けたと主張する時期(平成11年7月)から1年以上
経過した後の平成12年10月12日であり,極めて不合理な行動であると考えら
れること,⑤テクノブレイン社は,原告が本件商標登録をした直後に,商標登録異
議の申立てを行っていること等の事実に照らすならば,原告の主張は到底採用でき
ない。
  (2) 判断
ア 上記の事実によれば,原告の被告に対する本件商標権に基づく請求は,
権利濫用に当たり許されない。すなわち,
(ア) まず,「ぼくは航空管制官」の標章は,以下のとおり,テクノブレ
イン社に由来するものである。すなわち,①同標章は,テクノブレイン社が,航空
管制官の業務についてのシミュレーションゲームであるテクノブレイン社ソフトと
して開発,販売し,大ヒット商品となった結果,テクノブレイン社ソフトを示す標
章として周知となったこと,②これに対し,原告は,プレイステーション版「ぼく
は航空管制官」の開発・販売について,テクノブレイン社から非独占的に許諾を受
けたライセンシーにすぎず,原告とテクノブレイン社との著作権許諾契約は,上記
プレイステーション版ソフトの開発,製作,販売に限られていること,③テクノブ
レイン社は,自ら開発したゲームソフトである「ぼくは航空管制官」について,各
種のゲーム機等に対応する各種のソフトの開発,製造,販売を他社に許諾すること
も自由にできること,④被告は,前記のとおり,テクノブレイン社から,被告ソフ
トを販売することについて,正当に許諾を受けていること,⑤原告及び被告は,共
にテクノブレイン社のライセンシーという立場であること等の事実に照らすなら
ば,「ぼくは航空管制官」の標章は,テクノブレイン社の商品(又は同社の許諾を
受けた商品)であることを示す標章と解すべきであり,原告の独自の商品を示す標
章ということはできない(なお,テクノブレイン社と原告との間のプレイステーシ
ョン版「ぼくは航空管制官」に関する著作権許諾契約は,遅くとも平成13年6月
8日までに解除ないし解約され,現在は両者間に有効な契約が存しない。)。
(イ) 次に,原告の本件商標権に基づく請求は,公正な動機に基づくもの
とはいえない。すなわち,①原告は,被告が平成12年8月24日に,被告ソフト
の発売を公表して,発売予定を知った直後の平成12年10月12日,テクノブレ
イン社の許諾を得ずに,本件商標の出願手続を行ったこと,②原告は,被告ソフト
が平成13年春発売予定であることを理由として,早期審査の請求をしているこ
と,③原告は,被告に対して,著作権侵害及び不正競争防止法違反を理由として,
二回にわたり警告を発したりしていること等の事情に照らすならば,原告が本件商
標を出願し,登録を受けた本件商標権に基づき本訴請求をしたのは,テクノブレイ
ン社から実施許諾を得て,被告ソフトを製造,販売する被告の行為を不法に妨げる
目的でされたものとみるのが相当である。
イ 原告の被告に対する本件商標権に基づく請求は,被告ソフトの製造につ
いて許諾を与えたテクノブレイン社の標章と同一の標章を自ら商標登録した上,本
件商標権に基づいて権利行使されたものであり,また,その目的も,テクノブレイ
ン社のライセンシーの製造,販売を妨げるためにされたものと解されるから,正義
公平の理念及び公正な競争秩序に反するものとして,権利の濫用に当たり許されな
いというべきである。
第4結論
 よって,その余の点を判断するまでもなく,原告の請求は理由がない。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官    飯村敏明
裁判官今井弘晃
裁判官石村 智

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