弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

       主   文
原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
       事   実
一、請求の趣旨
 被告は原告らに対しそれぞれ別表(一)債権額欄記載の金員およびこれに対する
本件各訴状送達の翌日から右支払済みまでそれぞれ年五分の割合による金員を支払
え。
 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決ならびに仮執行の宣言を求める。
二、請求の趣旨に対する被告の答弁
 主文同旨の判決を求める。
三、請求の原因
(一) 原告らはいずれも被告の職員として雇用され、それぞれ別表(一)勤務箇
所欄記載の箇所に所属し、同表職名欄記載の職務に従事しているものであり、被告
は、日本国有鉄道法に基づき鉄道事業等を経営する公共企業体である。
(二) 原告P1、P2、P3、P4、P5を除くその余の原告らは、別表(一)の休暇
日欄記載の各日について(原告P6は午後のみ)、年次有給休暇(以下単に年休とい
う)附与の権限をももつ箇所長の職務代理者に対し年休を請求したところ、同人ら
は右原告らに対しいわゆる年休の時季変更権を行使しなかつたので、右原告らは右
休暇該当の日に年休をとつて勤務に従事しなかつた。
(三) 原告P1、P2、P3、P4、P5は別表(一)の乗務日記載の日にいずれもあ
らかじめ定められている仕業に従事し、また原告P6は別表(一)の休暇日および乗
務日記載の日にいずれも午前中はあらかじめ定められている仕業に従事したが、午
後は年休をとつて勤務に従事しなかつた。
(四) ところが、被告は別表(一)の賃金支給日欄記載の各賃金支給日にあた
り、原告らに対し別表(一)債権額欄記載の金額を減額控除してその分を原告らに
支給しなかつた。
(五) 原告ら公共企業体の職員についても労働基準法の適用があることはもちろ
んであり、同法第三九条第四項によれば年休の日の賃金が支払われるべきは当然で
あるし、所定の仕業に従事した分の賃金ももとより支払われるべきであるから、被
告が原告らに対し右金額を一方的に控除したのは違法である。よつて、原告らは被
告に対し右各金額の支払ならびにこれに対する本件各訴状送達の翌日から各支払済
みまで法定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
四、請求原因に対する被告の答弁
(一) 請求原因第(一)項記載の事実を認める。
(二) 同第(二)項記載の事実のうち、原告P7、P8、P9、P10を除くその余の
同項記載の原告らが別表(一)休暇日欄記載の各日について年休の請求をしたこ
と、および原告らが右休暇日該当の日に勤務に従事しなかつたことは認めるが、い
わゆる時季変更権を行使しなかつたとの点は否認する。また、原告P7は九月一九日
については年休を請求したが、同月二〇日については年休を請求せず、原告P8は一
〇月一一日と一二日については年休を請求せず、また原告P9は一〇月一一日につい
ては年休を請求したが、同月一二日については年休を請求せず、原告P10は一一月
二九日、三〇日の両日とも年休を請求していない。
(三) 請求原因第(三)項記載の事実を否認する。
(四) 同第(四)項記載の事実のうち、原告P11の減額された金額および原告P
9に関する部分を除き、その余の事実を認める。原告P11の一〇月二三日支給の賃金
より減額した金額は一、〇八八円であり、また原告P9については、一二月分の賃金
支給の際その勤務に従事しなかつた時間に対応する賃金相当額を同人に戻入させた
ものである。
(五) 請求原因第(五)項記載のうち、原告ら公共企業体の職員に対しても労働
基準法の適用があることおよび同法第三九条第四項によれば年休の日につき通常の
賃金が支払われるべきものであることは認めるが、その余は争う。
五、被告の抗弁
(請求原因第(二)項記載の原告らについて)
(一) 原告らの本件年休の請求は、非代替的な業務の提供が予定されている日と
もいうべき業務上の出張命令が出されている日についてされたものであるから、年
休の請求として効力を生じないという意味で無効である。
 すなわち、被告管下の静岡鉄道管理局は、職員に対する職場内教育の一環とし
て、昭和四一年度より青年職員に規律正しい共同生活を体験させ心身ともに健全な
職員を育成するため青年職員研修会を実施してきたが、昭和四二年八月中ごろ、静
岡県立焼津青少年の家を利用して、昭和四二年度の青年職員研修会を計画した。そ
の内容は、(1)静岡鉄道管理局内の年令二五才以下の男子職員で、鉄道学園初等
科程または普通科程終了者もしくは昭和三八年度以前の新規採用試験合格者で未だ
鉄道学園における教育を終了していない者を対象とし、(2)研修目的は青年職員
に共同生活を体験させ、心身ともに健全な職員を育成することを目的とし、専任安
全管理者および業務別安全管理者による安全講座および安全座談会を実施する。
(3)一回の研修期間は一泊二日とし、参加人員を一回四二名ずつとして、九月五
日、六日の第一回より一二月五日、六日の最終回まで前後一三回実施する。(4)
受講者の勤務は出張とし、旅費日当を支給するというものであつた。
 そして、原告らはそれぞれ別表(二)記載のとおり、その各勤務箇所の箇所長ま
たはその職務代理者を通して、静岡鉄道管理局長より右青年職員研修会に出席すべ
き旨の出張命令を受けたのであるが、原告らはこれに対し前記のとおり年休の請求
をしたのである。
 しかしながら、このような原告らの年休の請求は、従業員教育講座に参加すべき
旨の出張命令が出されて、いわば非代替的な勤務の提供が予定されている日につい
てされたものとして法律上の効果を生じないというべきである。すなわち、年休の
制度は労働者を毎年一定期間勤務から解放し、精神的、肉体的休養をとらせて、長
期労働によつて低下する労働力を維持培養し、あわせて労働者の精神的、文化的な
面の向上に役立つために設けられたものであるから、労働者の欲する時季に休暇を
とらせることがその目的に合致することはいうまでもないが、使用者としてもその
雇用する労働者の労働力をどのように使用するかについての自由を有するから、年
休請求にあたつては、使用者の事業の運営に支障をきたさないように両者の調整を
はかるべきことはいうまでもないところであり、労働基準法第三九条第三項はこの
極めて当然のことを規定したものと解され、かかる趣旨からすれば、労働者が年休
の請求ができるのは、その当該労働者に与えられている通常の勤務をすることが予
定されている日であつて、使用者においてその労働者のなしている業務の代理者を
確保することのできる状況にある場合に限られると解すべきである。このような場
合にはじめて年休を請求することが労働者にとつて権利となり、年休を附与するこ
とが使用者にとつて義務であるといいうる。
 しかるに出張勤務なるものは当該労働者の通常の勤務とは異なり、当該出張を命
ぜられた労働者が出張することが必要であつて、これに代え他の労働者が出張する
ということはその性質上あり得ないものというべく、殊に本件のように出張命令の
内容が従業員教育の受講にある場合にはなおさらのことで、その提供すべき業務は
全く代替性のないものであるといわなければならない。
 したがつて、本件のように従業員教育講座に参加すべき旨の出張命令がなされて
いる当該日に労働者が年休請求することは許されず、これをしても法律上の年休請
求としての効力を生じないという意味において無効である。
(二) 原告らは、その所属する国鉄動力車労働組合静岡地方本部の指令に基づ
き、もつぱら本件研修会に参加することを拒否するために本件年休請求をしたもの
であつて、このような年休請求は年休制度の本質と相容れないものであり、また年
休請求権の濫用として無効といわなければならない。
1 すなわち、昭和四二年八月一九日、国鉄動力車労働組合静岡地方本部(以下動
労静岡地本と略称する。)は、静岡鉄道管理局長に対し、青年職員研修会の開催は
組合側に対する思想攻撃、組織分断攻撃であるとして、断固反対の立場を明らかに
し、即時中止方を申入れてきた。ついで、動労静岡地本は、研修会参加拒否の体制
を確立して闘うことを決定し、各支部に対し、第一回入所該当組合員の年休行使に
より研修会参加を拒否するため現場長に対し年休を認めさせることなどを内容とす
る指令を発し、さらに九月七日から同月九日まで開催された第一七回地方大会にお
いて当面の闘いとして青年職員研修につき、「(1)青年職員研修会は、国鉄当局
の反労働者的な人づくり政策の一環であるとの立場で、受講については参加拒否の
体制を確立する。(2)一方的実施の場合は業務命令を排除する体制を確立する。
(3)闘いをもりあげるため九月一五日以降各支部はビラはり行動を実施するとと
もに組合旗を掲揚する」等の行動を展開することなどの方針を決定し、この決定方
針に基づき執行委員会を開いて、同月一〇日ごろ各支部に対し、「(1)青年職員
研修会等思想攻撃排除のための組合員の意志統一等のため時間外職場集会を実施す
る。(2)青年職員研修会等に対する当局の不当な計画および取扱いを撤回させる
ため、現場長等に対し全組合員が必ず一回は参加する集団交渉を行なうこと」など
を指令した。
2 青年職員研修会に出席を命ぜられた原告らは、右指令に基づいて年休を請求し
たものであり、研修反対という要求貫徹の手段として年休を請求したものである。
このように労働者が争議行為として年休請求をなすことは年休制度の趣旨と相容れ
ないものである。けだし、争議行為として休むことは、いわば作業という平常状態
をこわし、使用者に打撃を加えることが目的であると解されるからである。したが
つて、青年職員研修会参加拒否のための争議行為としての原告らの年休請求は、そ
の制度の趣旨と相容れないものとして許されないといわなければならない。
 かりにしからずとするも、右動労静岡地本の青年職員研修会拒否闘争は、右研修
会を組合に対する思想攻撃、組織分断攻撃であるとの独自の考え方に基づき、もつ
ぱら研修会の開催に反対し当局の従業員教育を妨害することを目的とするものであ
るから、このような組合の指令に基づいてなされた原告らの年休の請求は、年休の
取得それ自体が目的ではなく、当局を困らせることだけを目的としたものであつて
権利の濫用として無効であるといわなければならない。
(三) 被告は、別表(三)のとおり各原告らの勤務する勤務箇所の箇所長の職務
代理者を通じ、原告らの年休請求に対し「年休請求の日は青年職員研修会のための
出張になつているから、年休は承認できないので、他の日にしてもらいたい」旨を
告知し、いわゆる時季変更権を行使した。
 以上のとおりであつて、原告らは本件青年職員研修会に参加を命ぜられた日にな
んらの理由もなく欠席しかつなんらの勤務にも従事しなかつたものであるから、被
告が原告らに対してした賃金の控除は正当である。
(請求原因第(三)項記載の原告らについて)
 なお、請求原因第(三)項記載の原告らに対しても右青年職員研修会への参加を
命じて当日の勤務を変更し、あらかじめ同原告らに定められていた各仕業について
は代務者をもつてこれにあて、代務者が原告らにかわつてその任務を遂行したもの
であるから、原告らは当日なんらの勤務にもついたことにならず、被告のした賃金
の控除には違法の点はない。
六、抗弁に対する原告らの答弁
(請求原因第(二)項記載の原告らについて)
(一) 抗弁第(一)項記載の事実中、被告管下の静岡鉄道管理局が昭和四二年度
の青年職員研修会を計画したことは認めるが、その内容は被告主張のような技術教
育、技能教育を目的とする研修ではなく、後述のように職員の単なるレクリエーシ
ヨンにすぎないものであつた。原告らに対する出張命令の伝達の有無についての原
告らの認否は別表(二)のとおりである。
 被告は、当該労働者の提供する業務が非代替的性質のものである場合には年休の
請求が許されないとして種々主張するが、もし年休請求制度が業務の代務者を確保
することのできる状況下にあることを前提とするならば、代務者の確保が行なわれ
ない限り年休権の行使ができないという不合理な結果を生じ、また出張勤務の場合
や非代替的勤務の性格をもつ労働の場合には年休がとれないとすると、長期出張あ
るいは職務の性格上代替性のない職務の場合には年休は無意味となる。労働基準法
第三九条は職務の内容や職種の性質によつて年休請求権の有無が左右される規定と
は解されず、同条が時季変更権行使の要件として「業務」といわず、一定期間の継
続的業務の総体を内容とする「事業」という言葉を使つているのはこのためであ
り、また、右同条が労働者の側からの「業務」の性質を問題とすることなく、使用
者の「事業」というとらえ方をしているのは一工場あるいは一事業場のなかでの事
業の遂行に重点をおいているからである。本件では被告が催した青年職員研修会と
いう「事業」が原告らの年休により支障をきたし、開催不能または困難となつたか
どうかが問題であり、原告らの代替者が右研修会に参加することが無意味であるか
どうかが問題なのではない。被告はこの点を混同しており、もつぱら労働者の職務
の性質のみに重点をおいて年休権の発生の有無を考えているのであつてその誤りは
明白である。
(二) 抗弁第(二)項記載の事実のうち、同項1記載の事実はすべて認める。同
項2記載の事実のうち原告らが組合の指令に基づいて本件年休の請求をしたことは
認めるが、その余はすべて争う。
 年休の請求が組合の闘争のために行なわれたものであつても、労働基準法第三九
条所定の要件を満たしているかぎり、これに対する法的評価が違つてくることはな
い。最も典型的な一斉休暇闘争であつても、年休制度と争議行為とは別個の法体系
に属するものであるから、労働者が年休を請求した場合はたとえその実体が争議行
為を目的とするものであり、かつ一斉に集団的に休暇を請求し、それを実施するこ
とが業務の正常な運営を阻害し、社会的事実として争議行為と評価されるような場
合であつても、それが労働基準法第三九条に基づく正当な権利行使としてなされる
ものである限り、これをもつて直ちに法的意味においても禁止された争議行為と評
価することはできないのである。
 なお、被告の権利濫用の主張は、必ずしも明確ではないが、年休請求権行使の目
的については、これを明示する必要はなく、この権利行使の目的をとらえて権利濫
用ということはそれ自体誤りである。本件では年休の取得それ自体が目的であり、
取つた年休を組合活動に使用するか、または私用に供するかということは使用者の
干渉外のことである。
(三) 抗弁第(三)項記載の事実はすべて否認する。
(請求原因第(三)項記載の原告らについて)
 研修参加を命じた業務命令が伝達されたかどうかの認否は別表(二)のとおりで
ある。
七、原告らの再抗弁
 本件青年職員研修会への参加を命じた被告の原告らに対する業務命令は、原被告
間の労働契約上の義務の内容となつていない事項についてなされたものとして違法
無効なものであり、また、右研修会はそのプログラムにみられるように個人の思
想、信条の選択を迫る内容をもつもので、これに参加することを命ずる右業務命令
は憲法第二一条に違反するものとして無効である。さらに右研修会は不当労働行為
の意思をもつてされたものとして、この観点からするも本件業務命令は無効であ
る。
(一) 本件青年職員研修会の性格
 本件青年職員研修会の内容は、職員のレクリエーシヨンにすぎず、たとえば昭和
四二年一〇月二六・二七日行なわれた第七回の内容は次のとおりである。
二六日 一三・〇〇-一五・〇〇 青年の家所長あいさつおよび講話
 一五・〇〇-一六・〇〇 バレーボール
 一六・〇〇-一六・四〇 自己紹介
 一六・四〇-一七・〇〇 君が代のレコードに合わせ国旗の降納
 一七・〇〇-一九・〇〇 夕食
 一九・〇〇-二一・〇〇 手品、フオークダンス、歌など
二七日 六・〇〇 起床
 七・三〇-七・四〇 君が代のレコードに合わせて国旗の掲揚
 七・四〇-八・三〇 朝食
 八・三〇-九・三〇 交通事故の話(局、P12)
 九・三〇-一一・〇〇 ソフトボール
以後は昼食会まで自由時間、昼食後直ちに解散
これによつて明らかなように、二四時間のうちわずか一時間のみが「交通事故の
話」があるにすぎず、しかもその内容は事故が起これば国鉄が損害を受けるので注
意をして事故を起こさないようにしようという趣旨の話があつた程度でことさら内
容のあるものではなく、そのほかの時間はバレーボールやキヤンドルサービスにみ
られるようにレクリエーシヨンの性格をもつものである。
 本件研修の目的は、共同生活をさせて健全な職員を育成することにあるとされる
が、本件研修はいわば一種の根性教育であつて、自衛隊への一日入隊や参禅教育と
本質的に異ならない。すなわち、本件は職場を基礎に行なわれる技術教育ではな
く、国鉄となんら関係のない第三者の施設の使用目的に従つて行なわれたものであ
つて、本質的に自衛隊への一日入隊等と軌を一にしているのである。
 また、国旗の掲揚や君が代の斉唱は、国民としての思想的選択をせまるものであ
るから、文字どおり思想教育(現実的機能としては思想攻撃)としての性格をもつ
ているといわなければならない。
(二) 本件業務命令の違法性
 一般的にいつて、業務命令が法的拘束力をもち得る根拠は、労働契約上の義務
(債務)が労働者にあるからである。そして労働契約は、労働者の側からみれば、
賃金と引換に労務提供の義務を負担する契約であるから、債務の内容は労務提供義
務である。したがつて使用者の業務命令が有効であるためには、それが労働者の労
務提供義務の内容に亘るものであるか、当該労務提供義務の履行にとつて必要不可
欠な場合に限定される。労務提供義務と直接に関係のない、あるいは必要不可欠で
ない職務は労働契約上の義務とはなり得ない。
 そうすると、研修について出張命令・業務命令を出し得るかどうかは、それが労
働契約上の義務の内容をなしているかどうかによつて決まることになる。そして職
務命令に基づいて研修義務を労働者に課することができるのは、「技術研修」と
「職場秩序を維持するうえで直接必要とされる事項」ということになる。すなわ
ち、労働者が職務上の義務の履行を行なううえに必要な技術の修得と、そのための
教育(研修)は職務上の義務を果たす前提として不可欠であるから、技術研修は職
務上の義務となると解され、また労働契約による義務の履行が事業体のなかで有機
的になされる現代の企業のもとにおいては、労働者の労務の提供は企業の設定した
ルール、あるいは労使間で合意した秩序のもとに行なわれることが不可欠であるか
ら、就業規則その他の規程、達等の経営規範の内容の修得は労働者の債務の内容を
なすものと解され、かかる事項の研修の職務命令は拘束力を有するといえる。しか
しそれ以上に労働者は企業の要請する人間開発をなす義務を使用者に対して負担す
るものではなく、したがつて、使用者において人間開発の必要から研修や教育を一
般的に計画実施することは自由であるにしても、労働者はこれに参加する職務上の
義務を負担せず、このような研修への参加を命ずる業務命令は拘束力を有しないと
いうべきである。
 本件青年職員研修会は、前記のような性格のものである以上、右の業務命令をも
つて参加を命じ得る範囲を越えるものというべく、したがつて本件研修会への参加
を命じた業務命令はその意味で違法無効であるというべきのみならず、前記の研修
会のプログラムによつて明らかなとおり、国旗掲揚、君が代などの個人の思想・信
条の選択を迫る内容をもつものであつて憲法第二一条に違反するものとしても無効
といわなければならない。さらに、右研修会はその後被告が計画し実施してきた、
いわゆるマル生運動と同質のものであるが、マル生運動は組合運動に対する支配介
入を意図したものであることは公知の事実であり、加えて昭和四一年度実施された
同種研修会において、組合運動の批判攻撃に亘る内容が研修の一部に入つている事
実からしてもこの研修会が不当労働行為の意思をもつてなされたものであることは
明らかで、この点からしても本件業務命令は違法無効である。現に被告は昭和四二
年九月一五日動労静岡地本のP13委員長との間で、この研修会に参加を希望しない
ものは年休をとつて欠席することを諒承した筈である。
八、再抗弁に対する被告の答弁
(一) 本件青年職員研修会の性格
 本件青年職員研修会は、原告らの主張するような単なるレクリエーシヨンではな
い。すなわち、本件研修会は、青年職員に共同生活を体験させ、心身ともに健全な
職員を育成することを目的として、職員の業務上の死傷事故防止のための専任安全
管理者および業務別安全管理者による安全講座および安全座談会を実施することを
中心として、職員管理規程(昭和三九年四月総裁達第一五七号)第二三条、職場内
教育基準規程(昭和三九年七月三〇日職達第六号)第三章の研修会の形式において
行なわれたものである。
 最近一般企業においては、企業の機械化、近代化が進むにつれて「人間の管理」
(人間を正しく理解し、人間そのものの立場に立ち、人間がもつ自発性、意欲を引
き出し、それを経営における能力として伸ばし、使つていく意味)の重要性はます
ます増大しつつあり、この人間開発の必要から職員に対する教育訓練というものが
重要視される。ことに近代企業における労働は一人一人の単独作業ではなく、多数
の労働者の共同作業である点に大きな特徴があり、この共同作業を事故なく円滑に
行なうためには、日常より規律の正しい作業態度、作業の相手との意思の疏通をは
かることなどが必要であり、特に国鉄の業務は、直接、人命財産の安危にかかわる
ものであるから、職場における規律と協同を重んじなければならないのである。と
ころが国鉄の現場機関における青年職員の場合、現代の若年層の特質とされる過度
の合理性、自己中心性、行動性を有するためか、ややもすると職場における規律正
しさ、協調性等に欠ける点がみられる。そこでかかる青年職員に対して規律正しい
共同生活を体験させ、心身ともに健全な職員に育成するため本件研修会が計画実施
されたものである。
 そして、国鉄の現業機関の職員は日夜列車の運行の業務に従事しているものであ
つて、ひとたび事故が発生すると旅客の生命身体はもちろんのこと自己の生命身体
までも危険にさらすこととなる。そのため国鉄においては運転事故防止、職員の傷
害事故防止のために安全管理に日頃から意を注ぎ、機会あるごとに安全管理体制の
確立、安全意識の高揚につとめてきたが、本件研修会においてもその安全対策の一
環として専任安全管理者、業務別安全管理者による安全講座および安全座談会を行
なうことにより、比較的経験の浅い青年職員の安全意識を高めたうえで、安全知識
を習得させようとしたものである。
 なお、安全講座の内容は、
(イ) 安全の意義と重要性
(ロ) 傷害事故の概況について
(ハ) なぜ事故は起きるか
(ニ) 傷害事故を防止するには
(ホ) 結び
というものであり、また、安全座談会は自由討論の形式で行なわれたが、次の事項
が主な話題となつた。
(イ) 指差確認の励行方について
(ロ) 保護帽の着用方について
(ハ) 不安全行動に対する相互注意について
(ニ) 基本動作励行について
(ホ) 反覆訓練の励行について
(ヘ) 構内設備改善等について
 右の研修内容からして、本件研修会が原告ら主張のような組合運動批判や組合の
組織破壊を意図したものでないことは明らかである。また、研修日課中の国旗の掲
揚や君が代の斉唱は、本件研修の行なわれた焼津青少年の家の日課表にあるもので
あつて、なんら思想教育や思想攻撃を意図したものではない。
(二) 本件職務命令の効力
 使用者がその雇用する労働者に対してなすいわゆる職務命令は、使用者と労働者
との間の労働契約に基礎を置くものであるが、近代企業のもとにおいては、労働契
約の履行たる労務の提供は、人と物とが一つの経営目的に向つて統合されたいわゆ
る経営という組織体の中でなされるものであるから、単なる機械的な労働給付義務
にとどまらず、かような組織的関係によつて特殊化されたものでなければならな
い。いいかえると、労働者はそれぞれ有機的一体をなす業務の一部を担当している
から、その義務も集団的・連帯的性格を帯びざるを得ないものであつて、他の労働
者との協調に留意する等できる限り企業全体の効率的運営に寄与するような方法で
労務を提供すべきことが誠実義務として要請され、したがつて、使用者が自己の買
取つた労働力に対し生産活動の効率をより高める目的のために施す種々の指揮命令
には労働者は服従すべき地位に立つといわなければならない。
 そこで、このような観点から従業員教育への参加命令を検討すると、特定の思想
教育、たとえば反共理論、反労働運動思想といつた思想教育は、直接間接に生産活
動に関連するものということはできず、思想良心の自由との関連からいつてもこれ
を強制することは不可能であるが、使用者が自己の生産活動の効率をより高める目
的で、より良質の労働力を育成しようとして実施する従業員教育であれば、技術教
育、技能教育、その他これと直接密接な関連を有する教育はもとより、労働者にか
ような経営組織体内の従業員としてふさわしい能力ないし人格を育成させるための
教養教育であつても、業務命令としてその受講を命じ得ると解すべきである。こと
に国鉄のような国民生活にきわめて密接な関連を有する企業にあつては、国民によ
りよきサービスを提供すべき社会的責任を負つているのであるから、単に切符を発
売したり列車を動かせばよいというだけでなく、職員に対しその公共的職務につい
ての自覚を促し、あるいは安全、正確、迅速に輸送が行なわれるための心構え等を
教育することは、単なる教養教育というものと異なり、業務遂行に必要なものとし
て当然労働契約の内容に含まれると解される。
 ところで本件青年職員研修会は、既に述べたように、青年職員に対して共同生活
を体験させ心身ともに健全な職員を育成することを目的として、専任安全管理者お
よび業務別安全管理者による安全講座および安全座談会を実施したものであつて、
被告国鉄の職員の安全意識の高揚を図ることは被告の業務の一内容というべく、か
かる業務の一内容についての研修会に参加を命ずることは職務命令をもつて命じ得
る範囲内のものとして当然許されるというべきである。
 なお、前述のように本件研修会は組合運動批判や組合の組織破壊を意図したもの
でもなく、また国旗掲揚や君が代斉唱による思想教育を意図したものでもないの
で、本件職務命令が不当労働行為ないし憲法違反の行為として無効とする原告らの
再抗弁は理由がないといわなければならない。被告は原告ら主張のように参加した
くない者が年休をとつて欠席することを諒承した事実はない。
九、証拠(省略)
       理   由
一、原告らがいずれも被告の職員として雇用され、その主張の勤務箇所においてそ
の主張の職務に従事している者であり、被告が日本国有鉄道法に基づく公共企業体
であることはいずれも当事者間に争いがない。
二、本件の原告合計四〇名のうち、請求原因第(二)項記載の年休請求をしたとす
る原告ら合計三五名と請求原因第(三)項記載の年休請求をせずにあらかじめ定め
られた仕業に従事した原告ら合計六名とは(原告P6は両方に入つている)、それぞ
れ別個の法律上の原因に基づき、被告の本件賃金カツトを違法と主張しているの
で、これら二つのグループにつきそれぞれ別に判断することにする。
三、(請求原因第(二)項記載の原告らについて)
(一) 請求原因第(二)項記載の原告らのうち、P14、P15、P16、P17、P
18、P19、P20、P21、P10、P22、P23、P6の一二名が、それぞれ別表(二)記
載の伝達者の職名氏名欄記載の職にある者から伝達の日欄記載の日に後記青年職員
研修会へ参加すべき業務命令を受けたこと(その参加すべき日は別表(一)の休暇
日に相当する)は当事者間に争いがない。
成立に争いのない乙第二二ないし二四号証、第二七ないし二九号証、第三一号証、
第三三号証、第三五、三六号証、第三八、三九号証、第四一、四二号証、第四四な
いし四六号証、第四八ないし五〇号証、第五二号証、第五四号証、第五七ないし第
五九号証、第六一号証、第六三号証、第六五、六六号証、第八三号証、第八五号
証、第八八、八九号証、第九一号証、第九六ないし九九号証、第一〇三、一〇四号
証、第一〇七号証、第一一四、一一五号証、第一一七号証、第一一九号証、証人P
24、P25、P26、P27、P28、P29の各証言によつて順次成立が認められる乙第二
五号証、第三〇号証、第五六号証、第八一号証、第八六号証、第九三号証、第一〇
二号証によれば、先の一二名を除くその余の原告らが前同様別表(二)記載のとお
り青年職員研修会に参加すべき業務命令を受けたことが認められ、これに反する原
告P7尋問の結果は信用しがたく、その他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
 なお、原告らは、動労静岡地本と静岡鉄道管理局との間で、右青年職員研修会に
は参加を承諾した者のみに対し業務命令を出して参加させることとし、参加を承諾
しない者には業務命令を出さないこととする趣旨の協定が結ばれたと主張し、成立
に争いのない甲第一号証、証人P13の証言は右主張に添うものであるが、後記証言
と対比するとたやすく信用しがたく、その他に右主張を認めることができる証拠は
ない。むしろ証人P30、P31、P28の証言によれば、動労の要求でその組合員に対
し被告の係員から研修会の趣旨、内容をよく説明し参加を説得しようとしたもの
で、説得に応じた者のみを参加させ、応じなかつた者は参加しなくてもいいと決め
たものではないことが認められる。
 次に原告P7、P8、P9、P10を除くその余の原告らが、その主張のとおりの休暇
日につき年休の請求をし(原告P6は午後のみ)、右請求原因第(二)項記載の原告
の全部がその休暇該当日に年休をとつたとして青年職員研修会に参加しなかつたこ
とおよび被告が原告ら(但し原告P11、P9を除く)に対し、その主張のとおりの賃
金額を減額してこれを支給しなかつたことはいずれも当事者間に争いがない。
 成立に争いのない乙第四三号証、第五一号証、第五五号証、前出乙第八一号証、
証人P29の証言によつて成立が認められる乙第一〇八号証によれば、被告主張のと
おり、別表(一)の休暇日のうち、原告P7は昭和四二年九月一九日の分のみ年休を
請求して同二〇日の分は請求せず、原告P8は一〇月一一、一二日の両日とも年休を
請求せず、原告P9は一〇月一一日の分のみ年休を請求して同一二日の分は請求せ
ず、原告P10は一一月二九、三〇の両日とも年休を請求しなかつたことが認められ
る。原告P10本人尋問の結果のうち右認定に反する部分は信用しない。なお成立に
争いのない乙第二一号証、第八二号証によると原告P11の支給されなかつた額は一
〇八八円であり、原告P9は減額されたのではなく後日戻入したものであること、が
認められる。
(二) 原告ら公共企業体の職員についても労働基準法の適用があることは明らか
であるから、本件における主要な争点は原告らのした年休の請求が当該労働日につ
き効力を生じたかどうかであることはいうまでもないが、その前提として、本件年
休の請求は被告の実施した青年職員研修会へ参加すべきものとされた日になされた
ことから、当事者間において種々その効力が争われているので、まずこの青年職員
研修会の内容、この研修会への参加を命ずる業務命令の効力について判断すること
とする。
 証人P32の証言によつて真正に成立したものと認める乙第一号証、証人P33の証
言によつて真正に成立したものと認める同第二号証、証人P33およびP32の各証言
によれば、次の事実が認められる。すなわち、被告日本国有鉄道管下の静岡鉄道管
理局は、昭和四二年八月ごろ、職員に対する職場内教育の一環として青年職員に規
律正しい共同生活を体験させ心身ともに健全な職員を育成することを目的とする昭
和四二年度青年職員研修会の実施を計画したが、その主な内容は、「(1)静岡県
の社会教育施設である静岡県立焼津青少年の家を利用し、一回の研修期間は一泊二
日とする。(2)対象者は静岡鉄道管理局内の年令二五才以下の男子職員で鉄道学
園初等科程終了者等とし、参加人員を一回四二名ずつとして前後一三回に分けて実
施する。(3)研修目的は青年職員に共同生活を体験させ、心身ともに健全な職員
を育成することを目的とし、専任安全管理者および業務別安全管理者による安全講
座および安全座談会を実施する。(4)受講者の勤務は出張とし、旅費日当を支給
する」というものであつたこと、そして、その具体的な研修日程は、
(第一日)
 一三・〇〇-一三・三〇 入所式 主催者および所長挨拶、入所中の遵守事項伝

 一三・三〇-一五・〇〇 講話 青年の家所長
 一五・〇〇-一六・〇〇 レクリエーシヨン 体操、歌唱その他
 一六・〇〇-一六・四〇 オリエンテーシヨン 自己紹介、青年の家講師の指導
 一六・四〇-一七・〇〇 夕べの集い 国旗降納
 一七・〇〇-一九・〇〇 夕食・入浴 班別に入浴する
 一九・〇〇-二一・〇〇 キヤンドルサービス 火を囲んで演芸などを行なう
 二一・〇〇-二二・〇〇 自由時間
 二二・〇〇 就寝・消燈
(第二日)
 六・三〇 起床 寝具整理、洗面
 七・〇〇-七・四〇 朝の集い 国旗掲揚、体操、清掃
 七・四〇-八・三〇 朝食
 八・三〇-九・三〇 安全座談会
 九・三〇-一一・〇〇 レクリエーシヨン 体操、歌唱その他
 一一・〇〇-一二・〇〇 自由時間 あとかたづけ、清掃
 一二・〇〇-一三・〇〇 昼食
 一三・三〇 解散 焼津駅前で解散
というものであつたこと、右の研修日程のうち、国旗の掲揚等は右研修の行なわれ
た焼津青少年の家の日課表にあるものであつて、ここを利用する場合はこれを日課
に組入れることになるものであること、以上の事実が認められ、この認定を左右す
るに足る証拠はない。
 ところでこのような青年職員研修会への参加を命じた被告の業務命令の効力につ
き、原告らは、労働契約上の義務となつていない事項についてなされたものとして
無効であると主張するので、この点について判断する。
 一般的にいつて、使用者がその雇用する労働者に対して業務命令をもつて指示命
令することができる根拠は、労働者がその労働力の処分を使用者に委ねることを約
する労働契約にあることはいうまでもない。すなわち、労働者は使用者に対して一
定の範囲での労働力の自由な処分を許諾して労働契約を締結するものであるから、
その一定の範囲での労働力の処分に関する使用者の指示命令である業務命令にはこ
れに従わざるを得ない。そうすると、業務命令をもつて指示命令することのできる
事項であるかどうかは、当該労働契約によつてその処分を許諾した範囲内の事項で
あるかどうかによつて定まるものというべく、結局のところ当該具体的な労働契約
の解釈の問題に帰することになる。
 このことを前提として、労働者に対し業務命令をもつて参加を命じ得る研修の範
囲について考えてみると、現在の我が国における労働契約のほとんどがいわゆる終
身雇用制を前提とし、年功序列による昇進などによつてその提供すべき労務内容が
長い期間の間に時とともに異なり得る雇用形態であることを考慮すれば、一般的に
いつて原告らの主張するような単に現在の業務遂行に必要な技術・技能研修あるい
は就業規則等の修得のための研修のみにとどまらず、より広く労働者の労働力その
ものを良質化し向上させるための研修であつても、これへの参加を業務命令をもつ
て命じ得るものといわざるを得ない。もつとも、このことは企業の要請のままに人
間開発・人格形成をなす義務を労働者に負担させることを意味するものでないこと
はいうまでもなく、したがつて被告の主張する人格陶冶のための教養教育などは一
般的には業務命令をもつてその受講を命じ得ないものというべきである。
 このような考え方に立つて本件青年職員研修会について検討すると、この研修会
が前認定のように、青年職員に対して規律正しい共同生活を体験させ心身ともに健
全な職員を育成することを目的とし、専任安全管理者および業務別安全管理者によ
る安全講座および安全座談会を実施したものである以上、これに対する参加は業務
命令をもつてこれを命じ得るものというべきである。すなわち、労務の提供が事業
体のなかで有機的に行なわれる現代の企業のもとにおいては、なによりも職場にお
ける規律と協同が重んじられ、これなくしては多数の労働者による円滑な共同作業
は不可能であるから、労働者の協調性ないし規律を遵守する精神の増進を図ること
は労働力の良質化・向上を図ることとしてとらえることができ、また、国鉄職員の
場合安全に関する教育啓蒙のための研修を受けることは業務遂行に直接必要なもの
として当然に労働契約のなかに含まれると解すべきであるから、本件研修はいずれ
の意味においても業務命令をもつて参加を命じ得る研修の範囲内にあるということ
ができると解されるのである。もつとも本件青年職員研修会が、原告らが主張する
ようにレクリエーシヨン的な色彩をかなり帯びていたことは前認定の研修日程によ
つても明らかであるが、規律正しい共同生活を体験させることが主たる目的である
以上、その内容においてスポーツあるいは演芸等のレクリエーシヨン的な要素があ
つたとしても、これをもつて直ちに業務命令をもつて命じ得る範囲をこえるものと
することはできない。
 以上のとおりであつて、本件青年職員研修会への参加を命じた被告の業務命令
は、労働契約上の義務となつていない事項についてなされたという意味で無効とす
ることはできないといわなければならない。なお原告らは本件研修につき、国旗掲
揚、君が代斉唱など個人の思想・信条の選択を迫る内容をもつものであるから、こ
れへの参加を命ずる業務命令は憲法第二一条に違反するものとして無効であると主
張し、また右研修はいわゆるマル生運動と同質のものであつて不当労働行為の意思
をもつてなされたものとして無効であると主張するが、本件研修における国旗の掲
揚、君が代の斉唱等は、前認定のように、右研修がなされた静岡県立焼津青少年の
家そのものの日課表にあるものであつて、被告において思想教育、思想攻撃を意図
したものとはいえず、しかもその部分への参加が強制されているとも認められない
ので憲法第二一条に違反するとは認められず、また、被告が不当労働行為の意図を
もつて本件研修を実施したものとは本件全証拠によつてもこれを認めるに足りない
から原告らの右主張はいずれも理由がないといわざるを得ない。
 証人P34、P13、P35、P36、P37、P38の各証言、それらによつて成立が認め
られる甲第三、第四号証、第六、第七号証、第九号証、第一一ないし一三号証、第
一五号証、成立に争いのない甲第二号証などのうち、上記認定に反する部分は本件
青年職員研修会に限つて信用しない。
(三) そこで、次に右のような青年職員研修会へ参加すべきものとして業務命令
が出されている日についてされた年休の請求の効力が問題となるが、この点につき
被告は、まず、原告らの本件年休の請求は、非代替的業務の提供が予定されている
業務上の出張命令が出されている日についてされたものであるから、年休の請求と
して効力を生じないと主張する。しかしながら、非代替的業務の提供が予定されて
いる日であるからといつて、直ちに年休の請求ができず、これをしても無効である
と解すべき根拠はない。労働基準法第三九条第三項が休暇の時季の決定を第一次的
に労働者の意思にかからしめ、同項但書所定の事由が客観的に存在する場合にはじ
めて使用者に時季変更権の行使を認めている趣旨から考えると、同項但書所定の
「事業の正常な運営を妨げる場合」であることが事前に客観的に明らかである場合
であつても、直ちにこのことのみから労働者のする年休の請求が無効となると解す
べきものではなく、この場合においても使用者の時季変更権の行使があつてはじめ
て当該労働日に対する年休の請求は効力を失うものと解するのが至当であると考え
る。そうすると、この点に関する被告の主張は理由がないものといわざるを得な
い。
 そこで進んで、原告らの本件年休の請求は、組合の指令に基づき青年職員研修反
対という要求貫徹の手段としてなされた争議行為であり、このように争議行為とし
てなされた年休の請求は、年休制度の趣旨と相容れないものとして許されないとの
被告の主張について検討する。
 原告らの所属する動労静岡地本が本件青年職員研修会の開催は組合側に対する思
想攻撃、組織分断攻撃であるとして断固反対の立場を明らかにしその中止方を静岡
鉄道管理局長に申し入れ、さらに研修会参加拒否の体制を確立して闘うことを決定
して各支部に対し、入所該当組合員の年休行使による研修会参加拒否等を内容とす
る指令をしたことおよび原告らがこの指令に基づいて本件年休の請求をしたことは
いずれも当事者間に争いがない。そうすると、一般に争議行為は「労働関係の当事
者がその主張を貫徹することを目的として行なう行為であつて、業務の正常な運営
を阻害する行為」をいうと解されるから、青年研修反対という要求貫徹のため、研
修を受けるべき者自身が年休をとつて研修に参加しないというのは一応争議行為に
当たるものということができよう。けだし研修の場合その者に研修を受けさせるこ
とが業務なのであるから、その研修を命ぜられた者が研修に参加しないということ
になると、それだけで業務の正常な運営が阻害されるというべきことになるからで
ある。しかし一方で、年休をどのように利用するかは使用者の干渉を許さない労働
者の自由であると解される。とすると、原告らのこの程度の休暇斗争をもつて、い
わゆる一斉休暇斗争と同じくもはや年休に名を藉りた争議行為であつて本来の年次
有給休暇権の行使ではないといつてしまうのは必ずしも妥当ではあるまい。同様に
被告をこまらせるだけの、権利の濫用であるとするのもあたらない。
(四) そこでさらに被告が原告らの年休請求に対して時季変更権を行使したかど
うかを検討する。
 前出乙二三号証、第二八号証、第五八号証、笑六五号証、第九七、九八号証、第
一一四号証、第二五号証、第五六号証、第八一号証、第九三号証、第一〇二号証、
成立に争いのない乙第二六号証、第三四号証、第三七号証、第四三号証、第四七号
証、第六二号証、第六四号証、第八四号証、第八七号証、第九二号証、第一〇五号
証、第一一六号証、第一一八号証、第一二〇号証、証人P25、P26、P28、P39、
P40、P29の各証言によつて成立が認められる乙第三二号証、第四〇号証、第五三
号証、第六〇号証、第九〇号証、第九五号証、第一〇一号証、第一二二号証による
と、被告は別表(三)の記載のとおり各原告に対し告知者の職氏名欄にしるされた
職にある者から告知の日時欄記載の日時に、それぞれ請求のあつた年休に対して
「その日は青年職員研修会に出席のための出張になつているから年休を賦与できな
いので、他の日に請求してもらいたい」旨を告知し、いわゆる時季変更権を行使し
たことが認められる。原告P41、P42、P23、P43、P9、P44、P45、P46の各本
人尋問の結果のうち右認定に反する部分は信用できず、その他に右認定を左右する
に足りる証拠はない。
そして青年職員研修会へ職員を参加させることが当該事業場(本件の運転所や機関
区)にとつて労働基準法第三九条第三項但書にいう事業に含まれると解するのが相
当であるから、原告らが右研修会に参加すべき日に年休を請求するのは客観的に事
業の正常な運営を妨げる場合に該当するというべきである。
したがつて被告の時季変更権は適法に行使されたものというべきであり、そうだと
すれば、別表(三)の原告らの本件年休の請求がその効力を生じないものとしてし
た被告のいわゆる賃金カツトにはなんらの違法の点は認められず、その違法を前提
として賃金控除額の支払を求める原告らの請求はいずれも理由がないといわなけれ
ばならない。
(五) さらに原告P7、P9は各一日P8、P10は各二日の年休の請求をせず、しか
も青年職員研修会に参加しなかつたわけであるから、その分の賃金カツトを受ける
のはやむをえないことで、この点の請求も理由がない。
四、(請求原因第(三)項記載の原告らについて)
 請求原因第(三)項記載の原告らのうち、原告P1、P3、P5、P6に対して別表
(二)記載のとおり本件青年職員研修会への参加を命ずる業務命令が伝達されたこ
とは当事者間に争いがなく、真正に成立したことに争いのない乙第七一号証、証人
P47およびP48の各証言によれば、原告P2に対して右業務命令が伝達されたことが
認められ、また成立に争いのない乙第一〇九号証によれば、原告P4に対しても右業
務命令が伝達されたことが認められ、右各認定を左右するに足る証拠はない。
 ところが前出乙第七一号証、第一〇九号証、第一二二号証、成立に争いのない乙
第六八号証、第七七、七八号証、第一一〇号証、第一一一ないし一一三号証、第一
二一号証、証人P31、P40、P49、P50、P51、P48、P52、P53の各証言によつ
て順次成立が認められる乙第六七号証、第六九、七〇号証、第七二ないし七六号
証、第七九、八〇号証によると、右原告ら六名の右研修会に参加すべき日の業務は
いずれも他の代務者が充当されていて、その者によつて行なわれることに変更され
ていたのにかかわらず、原告らは右研修会に参加せずに、先の変更された業務に就
こうとしたこと(P6は午前中のみ)が認められ、これに反する証拠はない。
 そうすると前述のとおり、右青年職員研修会への参加を命ずる業務命令が有効な
ものと認められる以上、たとえ原告らが右あらかじめ定められた仕業の勤務につい
たとしても、労働契約の債務の本旨に従つた履行ということはできず、賃金債権が
発生するに由ないものといわなければならない。
 したがつて、請求原因第(三)項記載の原告らについても、被告のした賃金カツ
トは適法なものといわざるを得ない。
五、以上のとおりであつて、原告らの本訴請求はいずれも理由がないのでこれを棄
却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九三条を適用して主
文のとおり判決する。
(裁判官 水上東作 宍戸達徳 中島尚志)
別表(一)~(三)(省略)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛