弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を取り消す。
     被控訴人の請求を棄却する。
     訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は本件控訴を棄却する。控訴
費用は控訴人両名の負担とする旨の判決を求めた。当事者双方の事実上の陳述は、
控訴代理人において本件手形には振出人の記載として単に株式会社A商店とあるだ
けでその代表者の署名も、またその記名捺印もないから右手形の振出行為は無効で
あると述べた外原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。
 証拠として被控訴代理人は甲第一、第二号証を提出し、控訴代理人は甲号各証の
成立を認めた。
         理    由
 控訴人株式会社A商店が昭和二六年一〇月一九日控訴人銭屋ゴム工業株式会社を
受取人として金額一〇万円満期同年一二月二〇日その他手形記載要件被控訴人主張
の如き約束手形一通を振出し、右受取人がその日に右手形を被控訴人に裏書譲渡し
たことは当事者間に争がない。
 控訴人等は右手形には振出人の記載として、単に株式会社A商店とあるだけでそ
の代表者の署名も、またその記名捺印もないから、右手形の振出行為は無効であつ
て、控訴人等には本件手形上の責任はないと主<要旨第一>張するので考えて見る
に、会社が自ら手形行為を為す場合には、署名すべき者はその代表機関であつて、
適法なる代表機関によつて署名がなされたか否かが手形面の記載だけか
ら直ちに鑑別し得べ唇便宜のため代表機関の署名あることを必要とするので、会社
代表者が会社のためにすることを示して自己の署名または記名捺印を為すことを要
し、会社の名称を記載しその印章を押捺するだけでは足りないものと解すべきとこ
ろ、成立に争のない甲第一号証(本件約束手形)によれば、本件手形には振出人の
記載として、単に株式会社A商店とあつてその名下に社長の印章(株式会社A商店
社長之印と刻したもの)が押捺せられているだけで、その代表者の署名もまたその
記名捺印もないことが明白であるから本件手形は振出人の署名を欠く不適法のも<要
旨第二>のであつて、右手形の振出行為は無効といわなければならない。右の如く手
形の振出行為がその形式的要件を欠くため無効なる場合には、手形行為
独立の原則の適用なく、その手形上になされた総ての手形行為は無効となるものと
解すべきであるから、控訴人銭屋ゴム工業株式会社の為した前記裏書行為も無効で
あつて控訴人等はいずれも本件手形上の責任を負わないものといわなければならな
い。
 そうだとすれば被控訴人の本件手形にもとずく控訴人等に対する請求は爾余の点
について判断するまでもなく失当とし棄却すべく右請求を認容した原判決は失当で
あつて、本件控訴はその理由があるので、民訴第三八六条、第九六条、第八九条を
適用し主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 吉村正道 判事 大田外一 判事 金田宇佐夫)

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