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平成20年(ワ)第12952号特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日平成21年5月12日
判決
名古屋市<以下略>
原告エイディシーテクノロジー株式会社
同訴訟代理人弁護士水野健司
東京都港区<以下略>
被告ソフトバンクモバイル株式会社
同訴訟代理人弁護士森崎博之
同岡田誠
同上野さやか
同訴訟代理人弁理士稲葉良幸
同高村和宗
東京都港区<以下略>
被告補助参加人株式会社東芝
同訴訟代理人弁護士尾崎英男
同池原元宏
同人見友美
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は,補助参加によって生じた費用を含め,原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は,別紙物件目録記載の製品を販売し,又は販売の申出をしてはならな
い。
2被告は,別紙物件目録記載の製品を廃棄せよ。
3被告は,原告に対し,3440万円及びこれに対する平成20年5月21日
から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1本件は,被告が携帯電話無線機である別紙物件目録記載の製品(以下「被告
製品」という。)を販売し,また,販売のための展示その他販売の申出をして
いるところ,原告が,①被告製品が原告の有する携帯型コミュニケータ及びそ
の使用方法に関する特許権を侵害する,②被告の上記行為が特許法101条4
号,5号に該当し,原告の上記特許権を侵害すると主張して,被告に対し,被
告製品の販売等の差止め(特許法100条1項)及び廃棄(同条2項)を求めると
ともに,同特許権侵害(民法709条,特許法102条3項)に基づいて,損害
賠償金3440万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成20年5
月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を
求める事案である。
2前提となる事実
(1)当事者
ア原告は,コンピュータソフトウエアの開発及び販売,コンピュータ及び
コンピュータ関連機器の開発及び販売等を目的としている株式会社であ
る。(弁論の全趣旨)
イ被告は,移動体通信事業,電気通信に関するソフトウエアの制作及び販
売,移動体通信に係る電気通信用品及びシステムの保守及び販売,通信機
器の販売等を目的とする株式会社である。(争いのない事実)
(2)本件特許権等
原告は,次の特許の特許権者である(以下,この特許権を「本件特許権」
といい,本件特許権に係る特許を「本件特許」,本件特許の特許請求の範囲
の請求項2記載の発明を「本件特許発明1」,同請求項5記載の発明を「本
件特許発明2」といい,本件特許発明1及び2を併せて「本件特許発明」と
いい,本件特許発明に係る明細書及び図面を「本件明細書」といい,その特
許公報(甲2)を別紙として添付する。)。
ア登録番号第2590397号
イ発明の名称携帯型コミュニケータおよびその使用方法
ウ出願日平成5年3月30日
エ登録日平成8年12月19日
オ請求項2及び5別紙特許公報の各該当欄に記載のとおり。(争いのな
い事実)
(3)構成要件の分説
ア本件特許発明1
本件特許発明1の構成要件を分説すると,次のとおりである(以下,各
構成要件を「構成要件A」のようにいう。なお,構成要件Eは欠番であ
る。)。
【A】携帯可能な筐体と,
【B】上記筐体内に設けられ,公衆通信回線に無線によって接続され,
該公衆通信回線を経由して発信,または受信を行う無線通信手段
と,
【C】上記筐体内に設けられ,該無線通信手段に対する制御指令の出
力,上記無線通信手段を経由して上記公衆通信回線からデータを入
力,または上記無線通信手段を経由して上記公衆通信回線にデータ
を送出する携帯コンピュータとを備え,
【D】上記携帯コンピュータは,さらに上記筐体に保持された,又は該
筐体外のGPS利用者装置から位置座標データを入力する位置座標
データ入力手段と,
【F】上記位置座標データ入力手段の位置座標データに基づいて,所定
の業務を行う複数の個人,会社あるいは官庁の中から現在位置に最
も近いものの発信先番号を選択する選択手段とを備え,
【G】上記選択手段の選択した発信先と通信することを特徴とする携帯
型コミュニケータ。(争いのない事実)
イ本件特許発明2
本件特許発明2の構成要件を分説すると,次のとおりである。
【H】GPS利用者装置を備える携帯型コミュニケータの使用方法であ
って,
【I】GPS利用者装置から位置座標データを入力するステップと,
【J】入力された位置座標データに基づいて,所定の業務を行う複数の
個人,会社あるいは官庁の中から現在位置に最も近いものの発信先
番号を選択するステップと,
【K】選択された発信先と通信するステップとを備えることを特徴とす
る携帯型コミュニケータの使用方法。(争いのない事実)
(4)被告の行為
被告は,平成20年3月15日から被告製品を販売し,また,販売のため
の展示その他販売の申出をしている。(争いのない事実)
(5)被告製品及び被告方法の構成
別紙被告製品説明書記載のとおり。(争いのない事実,甲6の3,8,弁
論の全趣旨)
(6)構成要件の充足
ア本件特許発明1
被告製品は,本件特許発明1の構成要件AないしCを充足する。(争い
のない事実)
イ本件特許発明2
被告製品で使用されている方法(以下「被告方法」という。)は,本件特
許発明2の構成要件Hを充足する。(争いのない事実)
(7)特許無効の主張
ア主引用例
本件特許出願前に頒布された刊行物である特開平4−56429号公報
(乙5。以下「乙5刊行物」という。)には,次の構成を有する発明(以下
「乙5発明」という。)が開示されている。
下記第1図に示す構成を備えた自動車用電話において,同第2図に示す
ような「自動車販売店」(「自動販売店」は「自動車販売店」の誤記と認
める。)「ガソリンスタンド」「病院」「サービス工場」といったカテゴ
リごとに分けられた諸施設について,その電話番号及びその地図上におけ
る設置位置をあらかじめ記憶手段3に記憶し,表示手段2に表示される上
記カテゴリのうちいずれか一つのカテゴリ(例えば,「自動車販売店」)が
呼び出しスイッチ4により選択されると,自車位置推測手段6によって推
測された自車位置に応じて,選択されたカテゴリのうち自車位置から最も
近い施設(例えば,「自動車販売店」のうち自車位置から最も近い販売店)
の電話番号を,読出手段5により記憶手段3から検索,読み出して電話機
本体1に出力することで,当該施設を自動的に呼び出す構成(乙5の第1
図,第2図及び明細書2頁右上欄17行目∼3頁左下欄10行目)。
(争いのない事実)
イ一致点
(ア)本件特許発明1
乙5発明は,構成要件Fを備えている点で,本件特許発明1と一致す
る。(争いのない事実)
(イ)本件特許発明2
乙5発明は,構成要件Jを備えている点で,本件特許発明2と一致す
る。(争いのない事実)
3争点
(構成要件の充足)
(1)構成要件D(位置座標データ入力手段)の充足
(2)構成要件F(発信先番号選択手段)の充足
(3)構成要件G(携帯型コミュニケータ)の充足
(4)構成要件I(位置座標データ入力ステップ)の充足
(5)構成要件J(発信先番号選択ステップ)の充足
(6)構成要件K(携帯型コミュニケータの使用方法)の充足
(新規性欠如)
(7)構成要件A(携帯可能な筐体)の開示
(8)構成要件B(無線通信手段)の開示
(9)構成要件C(データの入出力)の開示
(10)構成要件D(位置座標データ入力手段)の開示
(11)構成要件G(携帯型コミュニケータ)の開示
(12)構成要件H(GPS利用者装置)の開示
(13)構成要件I(位置座標データ入力ステップ)の開示
(14)構成要件K(携帯型コミュニケータの使用方法)の開示
(進歩性欠如)
(15)構成要件A(携帯可能な筐体)の容易想到性
(16)構成要件C(データの入出力)の容易想到性
(17)構成要件D(位置座標データ入力手段)の容易想到性
(18)構成要件G(携帯型コミュニケータ)の容易想到性
(19)構成要件H(GPS利用者装置)の容易想到性
(20)構成要件K(携帯型コミュニケータの使用方法)の容易想到性
(対抗主張)
(21)特許訂正
(損害)
(22)損害の額
4争点に関する当事者及び被告補助参加人の主張
(1)構成要件D(位置座標データ入力手段)の充足
ア原告
(ア)被告製品は,「筐体に保持された…GPS利用者装置から位置座標デ
ータを入力する位置座標データ入力手段」を備える。
(イ)a「位置座標データ」と「緯度経度」は同義ではない。当業者にとっ
て,「位置座標データ」が緯度経度そのものでなくとも,緯度経度を
算出できるデータであれば現在位置を特定できるという程度の技術は
周知である。したがって,「位置座標データ」とは,GPS利用者装
置の現在位置を一義的に特定できるデータであればよく,必ずしも緯
度経度そのものである必要はない。
b「〔構成要件D〕上記筐体に保持された,又は該筐体外のGPS利
用者装置」と規定されているとおり,GPS利用者装置とコミュニケ
ータとが別体で構成される必要はなく,両者を別体とした実施例に本
件特許発明1の技術的範囲が限定されるものではない。
c緯度経度を算出できる基礎データに基づき実際に緯度経度を算出す
る処理は,GPS利用者装置内のCPUが行ってもよいし,コミュニ
ケータの筐体内のCPUが行ってもよい。
d「〔構成要件F〕位置座標データに基づいて…発信先番号を選択す
る」ときには,CPUが基礎データから算出した緯度経度を用いてい
るが,これは「位置座標データに基づいて」選択をしているのであ
り,「位置座標データにより」選択しているのではないから,「位置
座標データ」が違う意味で使用されているわけではない。
(ウ)aGPS衛星からの位置データと信号発信時刻データがあれば,GP
S受信機の緯度経度は一義的に特定できるのであり,これは「位置座
標データ」である。
b被告製品は,CPUの処理能力が高く,一元的に当該CPUで処理
されているため別体になっていないにすぎない。
c緯度経度の計算は,GPS利用者装置(被告製品のGPS受信専用
回路に相当)によってなされても,携帯コンピュータ(被告製品のCP
Uに相当する)によってなされても,いずれも差異はない。
d仮に「位置座標データ」が緯度経度そのものであるとしても,CP
Uは,緯度経度を算出してレジスタ等を含む何らかのメモリに記憶
し,その緯度経度を読み出しているのであるから,当該メモリ領域を
も含めてGPS利用者装置に含まれると解釈することができ,この場
合,CPUが当該緯度経度を読み出す処理が「位置座標データを入
力」する構成に相当する。
イ被告及び被告補助参加人(以下「被告ら」という。)
(ア)原告の主張(ア)は,被告製品が「位置座標データを入力する位置座標
データ入力手段」を備えるとの点を否認し,その余は認める。
(イ)a「位置座標データ」とは,GPS利用者装置によって算出されたG
PS利用者装置の現在位置を示す座標データのことである(本件明細
書【0032】,図1)。
b位置座標データ入力手段は,携帯コンピュータが別体の装置である
GPS利用者装置から位置座標データを入力することを意味する(本
件明細書【0022】∼【0024】【0032】)。
c緯度経度を算出する処理は,GPS利用者装置内のCPUが行わな
ければならない。
d「〔構成要件F〕位置座標データに基づいて…発信先番号を選択す
る」ときの「位置座標データ」は,現在位置の位置座標データであり
(本件明細書【0024】【0069】【0070】),当業者は,
「〔構成要件D〕GPS利用者装置から位置座標データを入力する」
ときの「位置座標データ」に,GPS衛星の位置データや信号発信時
刻データを含むものとは理解しない。
(ウ)a被告製品のCPUは,GPS受信専用回路が受信したGPS衛星の
位置データと信号発信時刻データを用いて,自ら演算を行うことによ
って緯度経度情報を生成しているところ(別紙被告製品説明書第2
図),CPUに入力されるGPS衛星の位置データと信号発信時刻デ
ータは「位置座標データ」ではない。
b被告製品では,GPS受信専用回路からCPUに対して緯度経度を
入力することはされていない。
c被告製品のGPS受信専用回路は緯度経度の算出をしていない。
d「〔構成要件D〕GPS利用者装置から位置座標データを入力す
る」と規定されているのであって,「メモリから位置座標データを入
力する」とは記載されていない。
(2)構成要件F(発信先番号選択手段)の充足
ア原告
(ア)被告製品は,「位置座標データ入力手段の位置座標データに基づい
て,所定の業務を行う複数の個人,会社あるいは官庁の中から現在位置
に最も近いものの発信先番号を選択する選択手段」を備えている。
(イ)a「選択手段」の核心は,複数の選択項目の中から最も距離の近い項
目を特定する処理である。
bどの記憶領域から電話番号を「選択する」かについて何らの限定も
付されていない以上,ネットワークのいずれの記憶領域で選択されて
も構わない。
c本件特許発明においても複数の選択についてユーザに確認を求め
る程度の機能を予定している(本件明細書【0070】)。
(ウ)a争点(1)の構成要件Dにおける原告主張のとおり,被告製品のCP
Uは,位置座標データ入力手段を有する。
b被告製品のCPUがユーザの選択と現在位置データをナビタイムサ
ーバに送信すると,あらかじめ定められた送受信の取決めに従い,ナ
ビタイムサーバが現在位置から最も近い施設を検索してそのデータを
返信しており,一方,この指令がないのにナビタイムサーバが該当す
るデータを送信することはない。ナビタイムサーバが独自の処理とし
て任意に情報を送信することはなく,最も近いコンビニを選択するに
当たってネットワークで主導的な地位で制御を行っているのは,被告
製品のCPUである。したがって,被告製品のCPUが選択処理をし
ている。
c被告製品は,地図データが膨大となる等の理由で遠隔地にあるサー
バに記憶されているデータを読み出しているにすぎない。筐体内部の
メモリや外付けのSDカードに記憶されている場合でも,ローカルエ
リア内のハードディスクに記憶されている場合でも,有線・無線に構
成されたネットワーク内のハードディスクに記憶されている場合で
も,それらの間に実質的には何らの違いもない。
(エ)a最も近い施設の電話番号だけでなく,現在位置から2番目以降に近
い施設の電話番号も選択できたとしても,本来有している最も近い施
設の電話番号が選択されるという機能が失われることはなく,依然と
して,被告製品のCPUが最も近い施設の電話番号を選択しているこ
とには変わりはない。
b最も近い施設の選択を被告製品のCPUが選択しているからこそ,
当該施設は画面上一番上に記載されて反転表示されている。ユーザが
行うのは,CPUが選択した当該現在位置に最も近い施設の確認作業
にすぎない。ユーザが他の選択肢を指定するには,画面表示を確認し
ながらマルチファンクションボタンの上下ボタンを操作して,反転表
示(カーソル)を所定の項目に移動させた後に,改めてセンターボタン
を押すことになるが,CPUの選択した項目を確認する場合には,そ
のままセンターボタンを押せば足り,明らかに両者の操作は異なる。
c被告製品にあっては,場合によってはユーザが途中で他の施設を選
択することができるように,機能が付加されているにすぎない。
イ被告ら
(ア)原告の主張(ア)は否認する。
(イ)a「選択手段」とは,「携帯コンピュータ」が,入力された現在位置
の位置座標データに基づいて,ユーザが選択した施設等の中で最も近
いものを選択し,それと関連付けられて記憶されている電話番号を取
り出すことである(構成要件F,G,本件明細書【0023】【00
69】【0070】【0072】)。
b本件特許発明1では,地図データを携帯型コミュニケータに内蔵さ
れたメモリから取得しているから,選択手段は,「携帯コンピュー
タ」が行う必要がある。
c本件特許発明1においてユーザに複数の選択を求める機能とは,最
も近い施設に複数の電話番号がある場合のものであり,距離の異なる
複数の施設についてユーザが施設を選択する場合のものではない。本
件特許発明1は,ユーザが施設を選択すれば自動的に現在位置に最も
近い特定の施設の電話情報が選択されるものである。
(ウ)a争点(1)の構成要件Dにおける被告ら主張のとおり,被告製品のC
PUは,「位置座標データ入力手段」を備えないので,これに基づく
「選択手段」も備えていない。
b「現在位置に最も近いもの」を含む施設名のリスト情報も電話番号
を含む当該施設の詳細情報も,遠隔地にあるナビタイムサーバが作成
して被告製品に送信した情報であって,被告製品のCPUが取得して
いるのはそれらの画面データにすぎない。したがって,「選択」を行
っているのはナビタイムサーバであって,被告製品のCPUではな
い。
c単にデータがナビタイムサーバに記憶されているというだけではな
く,選択処理についても,被告製品のCPUではなくナビタイムサー
バが行っている。
(エ)a被告製品は,ユーザが特定の施設を指定することにより初めて当該
施設の詳細情報がナビタイムサーバから送信され,さらに,ユーザが
詳細情報の中から電話番号を選択することにより電話発信画面とな
る。
b最も近い施設について反転表示がされているのは,一般的に,選択
項目のリスト画面を表示する場合にカーソルが自動的に先頭の選択項
目上に配置されるようになっていることの結果にすぎない。たまたま
カーソルを移動させずに済む場合にはセンターキーを押すだけで足り
るが,だからといって,ユーザの選択がなかったというわけではな
い。
c2番目以降に近い施設を指定できることは,最も近い施設を選択で
きる機能に付加されたものではなく,ユーザがリストアップされた中
から任意の特定の施設を指定できるという機能の一部である。
(3)構成要件G(携帯型コミュニケータ)の充足
ア原告
(ア)被告製品は,「選択手段の選択した発信先と通信することを特徴とす
る携帯型コミュニケータ」との構成を備えている。
(イ)争点(2)の構成要件Fにおける原告主張のとおり,被告製品は「選択
手段」を備えている。
イ被告ら
(ア)原告の主張(ア)は,被告製品が「選択手段の選択した発信先と通信す
ること」を備えるとの点を否認し,その余は認める。
(イ)争点(2)の構成要件Fにおける被告ら主張のとおり,被告製品のCP
Uは,「選択手段」を備えていない。
(4)構成要件I(位置座標データ入力ステップ)の充足
ア原告
(ア)被告方法は,「GPS利用者装置から位置座標データを入力するステ
ップ」を備える。
(イ)争点(1)の構成要件Dにおける原告主張のとおり,被告方法は,「位
置座標データを入力するステップ」を備える。
イ被告ら
(ア)原告の主張(ア)は,被告製品が「位置座標データを入力するステッ
プ」を備えるとの点を否認し,その余は認める。
(イ)争点(1)の構成要件Dにおける被告ら主張のとおり,被告方法は,
「位置座標データを入力するステップ」を備えない。
(5)構成要件J(発信先番号選択ステップ)の充足
ア原告
(ア)被告方法は,「入力された位置座標データに基づいて,所定の業務を
行う複数の個人,会社あるいは官庁の中から現在位置に最も近いものの
発信先番号を選択するステップ」を備える。
(イ)争点(2)の構成要件Fにおける原告主張のとおり,被告方法は,「発
信先番号を選択するステップ」を備える。
イ被告ら
(ア)原告の主張(ア)は否認する。
(イ)争点(2)の構成要件Fにおける被告ら主張のとおり,被告方法は,
「発信先番号を選択するステップ」を備えない。
(6)構成要件K(携帯型コミュニケータの使用方法)の充足
ア原告
(ア)被告方法は,「選択された発信先と通信するステップとを備えること
を特徴とする携帯型コミュニケータの使用方法」との構成を有する。
(イ)争点(2)の構成要件Fにおける原告主張のとおり,被告方法は,「選
択された発信先と通信するステップ」を備える。
(ウ)被告製品を使用して操作を行う主体はユーザとなる。しかし,被告
は,業として,本件特許発明2の方法の使用のみに用いる物(被告製品)
の譲渡その他譲渡の申出をするものであるから特許法101条4号に当
たり,さらに,被告は,本件特許発明2の方法の使用に用いる物(被告
製品)であってその発明による課題の解決に不可欠なものにつき,その
発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に用いられるこ
とを知りながら,業として,その譲渡又は譲渡等の申出をする行為を行
うものであるから同条5号にも当たる。
したがって,被告方法は,本件特許を侵害するものとみなされる。
イ被告ら
(ア)原告の主張(ア)は,被告方法が「選択された発信先と通信するステッ
プ」を備えるとの点を否認し,その余は認める。
(イ)争点(2)の構成要件Fにおける原告主張のとおり,被告方法は,「選
択された発信先と通信するステップ」を備えない。
(ウ)被告製品は,携帯電話機であり,通話を主たる目的とし,その他にも
メール受信やテレビ受像等,様々な用途を有するから,「その方法の使
用にのみ用いる物」でないことは明らかである。
また,被告製品は,本件特許発明2の方法の使用に用いる物ではない
から,原告の主張(ウ)は失当である。
(7)構成要件A(携帯可能な筐体)の開示
ア被告ら
(ア)乙5発明には,「携帯可能な筐体」が開示されている。
(イ)乙5発明の自動車用電話が「携帯可能な筐体」を備えるか否かは,乙
5刊行物には明記されていない。しかしながら,①乙5刊行物の頒布時
に自動車電話には固定型と携帯型が存在しており(乙6の2頁右上欄1
0行目∼左下欄5行目,2頁左下欄14行目∼右下欄4行目,第5図,
乙7の284頁「12.2.4着脱式移動機用アンテナ」の項1行目
∼3行目,305頁「12.5今後の方向」の図12.32(a)及び
(b)),②乙5刊行物の頒布前にショルダーホンという車外兼用型自動
車電話が一般に流通していた(乙8,乙9の19頁図2・5(b))という
乙5発明の出願当時の技術常識を参酌すると,乙5刊行物において固定
型か携帯型かが明記されておらず,また,いずれか一方への限定も示唆
されていない以上,乙5発明の自動車用電話は,固定型と携帯型の両方
を包含していると見られる。
したがって,乙5発明の自動車用電話が「携帯可能な筐体」を備える
ことは,乙5刊行物に記載されているに等しい事項である。
(ウ)a乙5刊行物には,「呼び出される諸施設としては,…病院…が考え
られる」(1頁右欄下から6行目∼4行目)と記載されているから,自
動車でのみ立ち寄る施設ではないものも記載されている。
b乙5刊行物には,自車位置推測手段6の一例として衛星航法と自立
推測航法とを組み合わせたものが記載されているにすぎず,組合せの
一方たる衛星航法のみを自車位置推測手段として用いることも当業者
であれば格別の思考を要せずに当然に想起できる。したがって,自車
位置推測手段6に,車両に備えられたセンサ類による自立推測航法が
必須のものであるとはしていない。
イ原告
(ア)被告らの主張(ア)は,否認する。
(イ)被告らの主張(イ)は,否認する。
(ウ)a乙5発明の自動車用電話は,自動車の走行による現在位置の変更に
対応して,ガソリンスタンド,病院,自動車販売店,サービス工場の
施設など,車両で立ち寄る施設の電話番号を呼び出すためのものであ
り(乙5の2頁左上欄5行目∼8行目,第2図),乙5発明の自動車用
電話を携帯することは予定されていない。
b乙5発明の自動車用電話は,自車位置推測手段6として,車両に搭
載された「地磁気センサおよび車輪速センサ等の車両に設けられた各
センサの実測データとに基づいて車両の現在位置を読出す」自立推測
航法を要するから(乙5の2頁左下欄下から1行目∼右下欄2行目),
乙5の自動車用電話を携帯することは予定されていない。
(8)構成要件B(無線通信手段)の開示
ア被告ら
(ア)乙5発明には,「筐体内に設けられ,公衆通信回線に無線によって接
続され,該公衆通信回線を経由して発信,または受信を行う無線通信手
段」が開示されている。
(イ)争点(7)の構成要件Aにおける被告ら主張のとおり,乙5発明の自動
車用電話が「筐体内〔携帯可能な筐体〕」に設けられていることは,乙
5刊行物に記載されているに等しい事項である。
イ原告
(ア)被告らの主張(ア)は,「筐体内〔携帯可能な筐体内〕」が開示されて
いるとする点を否認し,その余は認める。
(イ)争点(7)の構成要件Aにおける原告主張のとおり,乙5発明の自動車
用電話は,「筐体内〔携帯可能な筐体内〕」に設けられていない。
(9)構成要件C(データの入出力)の開示
ア被告ら
(ア)乙5発明には,「筐体内に設けられ,該無線通信手段に対する制御指
令の出力,上記無線通信手段を経由して上記公衆通信回線からデータを
入力,または上記無線通信手段を経由して上記公衆通信回線にデータを
送出する携帯コンピュータ」が開示されている。
(イ)争点(7)の構成要件Aにおける被告ら主張のとおり,乙5発明の自動
車用電話は,携帯可能な筐体内に設けられている。
(ウ)a乙5発明の自動車用電話で送受信されるのがアナログ音声信号のみ
であると限定されることを示唆する記載は一切ない。仮に乙5発明の
自動車用電話で送受信される音声信号がアナログ音声信号だったとし
ても,本件特許発明1の「データ」の形式,種類に何らの限定はな
く,デジタルデータやアナログデータも含むし,アナログ音声信号で
も制御信号たるデジタルデータでもよいから(本件明細書【001
5】),乙5発明の自動車用電話で送受信されるアナログ音声信号も
「データ」であるといえる。そうでないとしても,乙5刊行物の頒布
時において,自動車電話の通信の制御信号は,一般的にデジタル信号
が用いられていたところ(乙7の2の55頁11行目∼56頁26行
目,図3.23),移動体通信において音声信号や制御信号の送受信
がCPUにより制御されていることは当然のことであるから,乙5発
明の自動車用電話において,デジタル制御信号の送受信を行うこと
は,当業者が上記技術常識に基づいて当然に導き出せる事項であり,
乙5刊行物に記載されているに等しい事項である。
b乙5発明の自動車用電話で送受信されているのがアナログ音声信号
だったとしても,音声信号や制御信号の送受信をCPUにより制御す
ることは,これを手動で行うことができない以上,当然のことであ
る。
イ原告
(ア)被告らの主張(ア)は,「筐体内」「上記無線通信手段を経由して上記
公衆通信回線からデータを入力,または上記無線通信手段を経由して上
記公衆通信回線にデータを送出する携帯コンピュータ」が開示されてい
るとする点を否認し,その余は認める。
(イ)争点(7)の構成要件Aにおける原告主張のとおり,乙5発明の自動車
用電話は,携帯可能な筐体内に設けられていない。
(ウ)a乙5発明の自動車用電話は,アナログ音声信号を公衆通信回線によ
り送受信しており,デジタル信号によるデータ通信をしていない。乙
5発明の出願時における自動車電話につき音声信号をCPUで処理す
ることは当業者にとって技術常識ではなく,乙7刊行物の自動車電話
もアナログ信号を対象とするものであり(乙7の285頁図12.1
1),CPUにより音声信号をデジタル制御信号を用いて送受信され
る技術は開示されていない。
b乙5発明の自動車用電話の「携帯コンピュータ」に相当するCPU
は,電話番号を読み出して,電話機に送る処理までを実行するが(乙
5の第1図),外部とデータのやり取りをするための入出力部(インタ
フェース)については何らの記載もなく,公衆回線からデータを入力
又は公衆通信回線にデータを送出する処理は,自動車用電話のCPU
によりなされているものではない。したがって,乙5発明の自動車用
電話は,当該携帯コンピュータによる公衆通信回線を介したデータ通
信をしていない。
(10)構成要件D(位置座標データ入力手段)の開示
ア被告ら
(ア)乙5発明には,「携帯コンピュータは,さらに筐体に保持された,又
は該筐体外のGPS利用者装置から位置座標データを入力する位置座標
データ入力手段」が開示されている。
(イ)乙5刊行物の「自車位置推測手段6は,図外の地図記憶手段に記憶さ
れた地図データと,地磁気センサ及び車輪速センサ等の車両に設けられ
た各センサの実測データとに基づいて車両の現在位置を読出す自立推測
航法と,人工衛星から送信される電波を受信し,そのデータに基づいて
車両の絶対位置を読出す衛星航法とを組み合わせることにより,自車の
現在位置を高精度で推測するように構成されている」との記載(2頁左
下欄18行目∼右下欄6行目)から,乙5発明の自動車用電話が備える
自車位置推測手段6は,本件特許発明1の「GPS利用者装置」に相当
する。自立推測航法と衛星航法とを組み合わせた自車位置推測手段6
は,乙5発明における「自車位置推測手段」の一実施例にすぎず,「自
車位置推測手段」がこの組合せの態様のみに限定されるものでない。
(ウ)自車位置推測手段として,乙5刊行物の頒布時において,少なくとも
①衛星航法,②自立推測航法及び③両航法の組合せの3つの手段があっ
たことは技術常識である(乙21の2頁左上欄18行目∼右上欄5行
目,3頁左上欄11行目∼14行目,乙22の1頁右欄5行目∼2頁左
下欄4行目,同15行目∼17行目)。したがって,当業者であれば,
乙5発明の「自車位置推測手段」の一つとして衛星航法のみを用いるこ
とは,乙5刊行物に記載されているに等しい事項である。
イ原告
(ア)被告らの主張(ア)は,「GPS利用者装置」が開示されているとの点
を否認し,その余は認める。
(イ)乙5発明の自車位置推測手段6は,自立推測航法と衛星航法とを組み
合わせるものであって,衛星航法のみによって現在位置を読み出す構成
は含まれておらず,自車位置推測手段6を「GPS利用者装置」という
ことはできない。
(ウ)乙5発明の自動車用電話は,当時の技術水準として一定の精度を得る
ための態様として自立推測航法と衛星航法とを組み合わせたものであ
り,衛星航法のみで構成された「GPS利用者装置」を開示するもので
はない。
(11)構成要件G(携帯型コミュニケータ)の開示
ア被告ら
(ア)乙5発明には,「選択手段の選択した発信先と通信することを特徴と
する携帯型コミュニケータ」が開示されている。
(イ)争点(7)の構成要件Aにおける被告ら主張のとおり,乙5発明の自動
車用電話が「携帯型」であることは,乙5刊行物に記載されているに等
しい事項である。
(ウ)「コミュニケータ」とは,せいぜい「情報交換装置」の意味にすぎな
いところ(本件明細書【0133】【0134】),乙5発明の自動車用
電話も「情報交換装置」である。
イ原告
(ア)被告らの主張(ア)は,「携帯型コミュニケータ」が開示されていると
する点を否認し,その余は認める。
(イ)争点(7)の構成要件Aにおける原告主張のとおり,乙5発明の自動車
用電話が「携帯型」であることは開示されていない。
(ウ)本件特許発明1の「携帯型コミュニケータ」とは,無線電話装置と携
帯型コンピュータとGPS利用者装置のすべてを携帯し,それら個々の
機能を複合させた機能を得るものであり,乙5発明の自動車用電話とは
概念が全く異なる。
(12)構成要件H(GPS利用者装置)の開示
ア被告ら
(ア)乙5発明には,「GPS利用者装置を備える携帯型コミュニケータの
使用方法」が開示されている。
(イ)争点(7)の構成要件Aにおける被告ら主張のとおり,乙5発明の自動
車用電話が「携帯型」であることは,乙5刊行物に記載されているに等
しい事項である。
(ウ)争点(10)の構成要件Dにおける被告ら主張のとおり,乙5発明の自車
位置推測手段6は「GPS利用者装置」に相当する。
(エ)争点(11)の構成要件Gにおける被告ら主張のとおり,乙5発明の自動
車用電話は「携帯型コミュニケータ」に相当する。
イ原告
(ア)被告らの主張(ア)は,「GPS利用者装置」及び「携帯型コミュニケ
ータ」が開示されているとする点を否認し,その余は認める。
(イ)争点(7)の構成要件Aにおける原告主張のおり,乙5発明の自動車用
電話は「携帯型」ではない。
(ウ)争点(10)の構成要件Dにおける原告主張のとおり,乙5発明の自車位
置推測手段6は「GPS利用者装置」ではない。
(エ)争点(11)の構成要件Gにおける原告主張のとおり,乙5発明の自動車
用電話は,「携帯型コミュニケータ」ではない。
(13)構成要件I(位置座標データ入力ステップ)の開示
ア被告ら
(ア)乙5発明には,「GPS利用者装置から位置座標データを入力するス
テップ」が開示されている。
(イ)争点(10)の構成要件Dにおける被告ら主張のとおり,乙5発明の自車
位置推測手段6は「GPS利用者装置」に相当する。
イ原告
(ア)被告らの主張(ア)は,「GPS利用者装置」が開示されているとする
点を否認し,その余は認める。
(イ)争点(10)の構成要件Dにおける原告主張のとおり,乙5発明の自車位
置推測手段6は「GPS利用者装置」ではない。
(14)構成要件K(携帯型コミュニケータの使用方法)の開示
ア被告ら
(ア)乙5発明は,「選択された発信先と通信するステップとを備えること
を特徴とする携帯型コミュニケータの使用方法」が開示されている。
(イ)争点(7)の構成要件Aにおける被告ら主張のとおり,乙5発明の自動
車用電話は「携帯型」である。
(ウ)争点(11)の構成要件Gにおける被告ら主張のとおり,乙5発明の自動
車用電話は「携帯型コミュニケータ」に相当する。
イ原告
(ア)被告らの主張(ア)は,「携帯型コミュニケータ」が開示されていると
の点を否認し,その余は認める。
(イ)争点(7)の構成要件Aにおける原告主張のとおり,乙5発明の自動車
用電話は「携帯型」ではない。
(ウ)争点(11)の構成要件Gにおける原告主張のとおり,乙5発明の自動車
用電話は,「携帯型コミュニケータ」ではない。
(15)構成要件A(携帯可能な筐体)の容易想到性
ア被告ら
(ア)仮に構成要件Aが乙5発明に開示されていないとしても,携帯型の自
動車電話は本件特許出願時における周知技術であったから,乙5発明の
自動車用電話を上記周知技術を用いて「携帯可能な筐体」に収めて「携
帯型」とすることは,当業者にとって容易に想到できることである。
(イ)a乙5発明の自動車用電話は,自動車が走行することにより変化する
自動車及び乗車している利用者の位置の変化に対応して,最寄りの施
設を呼び出すものであるところ,利用者の現在位置の変化に対応し
て,現在位置に対応した最寄りの施設を呼び出す点については,利用
者が携帯して移動するか,利用者を乗せた車が移動しているかで,本
質的には何ら変わるところはない。
b乙5発明の「自車位置推測手段」が自立推測航法と衛星航法とを組
み合わせた態様のみに限定されるものでないし,自立推測航法は,衛
星航法を補完するものにすぎないことからみて,衛星航法を単独で用
いることが否定されているものではない。しかるに,複数の機能を有
する装置を「携帯可能な筐体」に収容するに際し,必要な機能のみを
選択して収容することは,機器の設計において通常行われていること
であるところ,車外において筐体を携帯して持ち運ぶ際に不必要であ
ることが明らかな地磁気センサや車輪速センサ等の車両に設けられた
センサ等の機能を省略して,「自車位置推測手段」の一つである衛星
航法のみを携帯可能な筐体に納めることは,むしろ当業者であれば当
然に行うことであり,阻害事由はない。
イ原告
(ア)被告の主張(ア)は否認する。
(イ)a乙5発明の自動車用電話は「自動車が走行することによって変化す
る自車位置に対応した最寄りの施設を呼び出しスイッチによってワン
タッチで呼び出すことができる自動車用電話を提供することを目的と
している」のであり(乙5の2頁左上欄5行目∼9行目),歩行者等に
よる利用を前提としている本件特許発明1とは解決課題が異なるか
ら,乙5発明の自動車用電話と「携帯可能な筐体」とを組み合わせる
ことが容易であったとはいえない。
b乙5発明の自動車用電話は,車両に搭載された「地磁気センサおよ
び車輪速センサ等の車両に設けられた各センサの実測データとに基づ
いて車両の現在位置を読出す」ものであるところ(乙5の2頁左下欄
下から1行目∼右下欄2行目),これらセンサ類を「携帯可能な筐
体」内に収納することは不可能であるから,この点で「携帯可能な筐
体」とすることにつき阻害事由がある。また,自動車用電話である以
上,地磁気センサ及び車輪速センサ等の車両に設けられた各センサか
ら得られるデータが存在することを前提にした構成を検討するはずで
あるから,これらセンサ類からGPS装置だけを携帯可能な構成にし
て,歩行者の利便性を検討することはない。
(16)構成要件C(データの入出力)の容易想到性
ア被告ら
(ア)仮に構成要件Cのうち「データ」の送受信の点が乙5発明に開示され
ていないとしても,乙5発明の自動車用電話にコンピュータによるデー
タの送受信を組み合わせることは,当業者が容易に想到できることであ
る。
(イ)公衆回線を通じてデータを送受信する技術自体は本件特許出願当時も
存在したところ,この技術と,乙5発明の自動車用電話とは,公衆回線
を通じた通信技術である点で技術分野を共通にするから,両者の技術を
組み合わせることに格別の困難性はない。
イ原告
(ア)被告らの主張(ア)は否認する。
(イ)乙5発明の自動車用電話は,無線電話による通話について公衆回線を
利用しているのみであり,CPUが公衆回線を介してデータ通信をする
ことにつき何らの示唆もない。また,「公衆回線を通じた通信技術」と
いうものは非常に広範なものであり,これを一つの技術分野であると考
えるのは適切でない。
(17)構成要件D(位置座標データ入力手段)の容易想到性
ア被告ら
(ア)仮に構成要件Dのうち「GPS利用者装置」の点が乙5発明に開示さ
れていないとしても,乙5発明の自動車用電話に「GPS装置と通信装
置とを一つの筐体に納める」との周知技術(乙11,12参照)を組み合
せることは,当業者にとって容易に想到できる。
(イ)a乙5発明の自動車用電話を周知の携帯可能な自動車用電話に組み合
わせて携帯可能な筐体に収容するに際し,車外において携帯して持ち
運ぶ際に不必要であることが明らかな地磁気センサや車輪速センサ等
の車両に設けられたセンサ等の機能を省略して,自車位置推測手段の
一つである衛星航法のみを携帯可能な筐体に納めることは,当業者で
あればむしろ当然に行うことである。
b本件特許出願前に頒布された刊行物である特開平4−339284
号公報(乙11。以下「乙11刊行物」という。)には,位置測位手段
であるGPS装置を設置したポータブルトランシーバー,携帯用電話
装置等の携帯に適した小型の各種無線通信装置の構成が開示されてい
る(乙11の【0013】【0014】【0028】)。
c本件特許出願前に頒布された刊行物である特開平1−248715
号公報(乙12。以下「乙12刊行物」という。)には,GPSによる
位置測位機能と通信機能とを一つの装置(筐体)に収める汎用移動体通
信/測位装置が開示されているところ,この装置は,携帯型が想定さ
れている(乙12の3頁左下欄3行目∼右下欄2行目)。
イ原告
(ア)被告らの主張(ア)は否認する。
(イ)a乙5発明の自動車用電話は,自動車の移動に伴い現在位置が変化す
ることを前提として最寄りの施設の電話番号を呼び出すものであり,
自動車に搭載されたセンサ類をすべて使って現在位置を精度よく検出
できるのに,あえてGPS利用者装置のみのデータで現在位置を特定
しようとはしない。
b乙11刊行物に記載の移動式無線通信装置は,非常時,緊急時にお
いて現在位置を特定するための使用を前提としており(乙11の【0
002】【0004】【0027】),当該移動通信装置自体を携帯
可能とすることは予定していない。乙5発明の自動車用電話と乙11
刊行物に記載の移動通信装置を組み合わせたとしても,現在位置の検
出自体は自立推測航法と衛星航法を組み合わせた自車位置推測手段6
により目的が達成できるのであるから,乙5発明の自動車用電話に乙
11刊行物の移動式無線通信装置を組み合わせたからといって,それ
を携帯可能とする構成にはならない。むしろ,そのような組合せにつ
き阻害事由がある。
c乙12刊行物に記載の汎用移動体通信装置/測位装置は,単に衛星
通信と地上通信とを同一の装置で実現するにすぎず,乙5発明の自動
車用電話にあっては既に自車位置推測手段6により現在位置を知るこ
とができるから,あえて乙12刊行物に記載の技術と乙5発明の自動
車用電話とを組み合わせる必要はない。仮に組み合わせたとしても,
その装置自体を携帯可能とする思想は得られない。
(18)構成要件G(携帯型コミュニケータ)の容易想到性
ア被告ら
(ア)仮に構成要件Gのうちの「携帯型コミュニケータ」との点が乙5発明
に開示されていないとしても,乙5発明の自動車用電話を「携帯型コミ
ュニケータ」とすることは,当業者にとって容易に想到できる。
(イ)争点(15)の構成要件Aにおける被告ら主張のとおり,乙5発明の自動
車用電話を携帯型とすることは,当業者であれば容易に想到できる。
(ウ)争点(16)の構成要件Cにおける被告ら主張のとおり,乙5発明の自動
車用電話にコンピュータによるデータの送受信を組み合わせることは,
当業者が容易に想到できる。
(エ)乙5発明の自動車用電話を「携帯型コミュニケータ」とすることは,
当業者であれば容易に想到できる。
イ原告
(ア)被告らの主張(ア)は否認する。
(イ)争点(15)の構成要件Aにおける原告主張のとおり,乙5発明の自動車
用電話を「携帯型」とすることは,当業者にとって容易に想到できな
い。
(ウ)争点(16)の構成要件Cにおける原告主張のとおり,乙5発明の自動車
用電話にコンピュータによるデータの送受信を組み合わせることは,当
業者にとって容易に想到できない。
(エ)乙5発明の自動車用電話を「携帯型コミュニケータ」としての機能を
果たすものとすることは,当業者にとって容易に想到できない。
(19)構成要件H(GPS利用者装置)の容易想到性
ア被告ら
(ア)仮に構成要件Hのうちの「携帯型コミュニケータ」との点が乙5発明
に開示されていないとしても,争点(18)の構成要件Gにおける被告ら主
張のとおり,乙5発明の自動車用電話を「携帯型」とすることは,当業
者にとって容易に想到できることである。
(イ)構成要件Hにおいては「GPS利用者装置」をも含めて「携帯型」と
しているところ,争点(17)の構成要件Dにおける被告ら主張のとおり,
乙5発明と周知技術(乙11,12)を組み合わせて乙5発明の自動車用
電話をGPS利用者装置を含めて携帯型とすることは,当業者にとって
容易に想到できることである。
イ原告
(ア)被告らの主張(ア)は否認する。
(イ)争点(17)の構成要件Dにおける原告主張のとおり,乙5発明の自動車
用電話と乙11刊行物の移動式無線通信装置又は乙12刊行物の汎用移
動体通信/測位装置とを組み合わせても携帯可能とする思想は得られ
ず,むしろ阻害事由がある。
(20)構成要件K(携帯型コミュニケータの使用方法)の容易想到性
ア被告ら
仮に構成要件Hのうちの「携帯型コミュニケータ」との点が乙5発明に
開示されていないとしても,争点(18)の構成要件Gにおける被告ら主張の
とおり,乙5発明の自動車用電話を「携帯型」とすることは,当業者にと
って容易に想到できることである。
イ原告
被告らの主張は否認する。
(21)特許訂正
ア原告
(ア)原告は,平成21年3月30日,特許庁に対し,本件特許発明1を次
のとおり(訂正部分は『』で示す。)に訂正する旨を求める訂正審判請求
(以下「本件訂正審判請求」という。)をした(甲14。以下,本件訂正
審判請求に係る発明を「本件訂正発明」という。)。
【a】携帯可能な筐体と,
【b】上記筐体内に設けられ,公衆通信回線に無線によって接続さ
れ,該公衆通信回線を経由して発信,または受信を行う無線通信
手段と,
【c】上記筐体内に設けられ,該無線通信手段に対する制御指令の出
力,上記無線通信手段を経由して上記公衆通信回線からデータを
入力,または上記無線通信手段を経由して上記公衆通信回線にデ
ータを送出する携帯コンピュータとを備え,
【d】上記携帯コンピュータは,さらに上記筐体に保持された,又は
該筐体外のGPS利用者装置から位置座標データを入力する位置
座標データ入力手段と,
【e】『ディスプレイと,』
【f】『CPUと,』
【g】『上記ディスプレイに表示された所定の業務名を文字画像で示
す発信先一覧から選択された選択項目の名称に基づき,』上記位
置座標データ入力手段の位置座標データに『従って』,所定の業
務を行う複数の個人,会社あるいは官庁の中から現在位置に最も
近いものの発信先番号を選択する選択手段『と,』
【h】上記選択手段の選択した発信先『の発信先番号に電話発信を実
行して』通信する『電話発信手段と,』
【i】『上記電話発信処理によって電話が接続されて後,上記通話中
の文字画像を上記ディスプレイに表示する通話中手段と,を備
え,』
【j】『上記位置座標データ入力手段と,上記選択手段と,上記電話
発信手段と,上記通話中手段とは,上記CPUによって実行され
る』ことを特徴とする携帯型コミュニケータ。
(イ)乙5発明と本件訂正発明とを対比すると,①「発信先一覧」と「通話
中」とが両方とも同一のディスプレイに文字画像によって表示される構
成(構成要件e,g及びi),②業務名の「発信先一覧」を表示して,そ
の一覧から項目を選択する構成(構成要件g)及び③同一CPUと同一デ
ィスプレイとによって行われる構成(構成要件e∼j)の点で相違する。
イ被告ら
(ア)原告の対抗主張は,時機に後れた攻撃防御方法であるから却下を求め
る。
(イ)原告の対抗主張は,少なくとも,被告製品が本件訂正発明の技術的範
囲に属することを主張していない点で主張自体失当である。
(22)損害
ア原告
(ア)被告は,被告製品についてこれまでに少なくとも2万個を販売し,そ
の単価は3万4440円を下らないため,被告製品の総売上額は,6億
8800万円を下らない。
(イ)原告が本件特許権の実施に対し受けるべき実施料相当額は,被告製品
の総売上額に対して5%の割合を乗じた金額である3440万円を下ら
ない。
イ被告ら
原告の主張はすべて否認する。
第3当裁判所の判断
1争点(2)(構成要件F−発信先番号選択手段−の充足)について
(1)構成要件Fの解釈
ア構成要件Fは,「位置座標データ入力手段の位置座標データに基づい
て,所定の業務を行う複数の個人,会社あるいは官庁の中から現在位置に
最も近いものの発信先番号を選択する選択手段とを備え」と規定されてい
るところ,ここにいう「選択手段」とは,CPU及びプログラムがなし得
る機能を意味するにすぎず,当然に特定の処理を指し示すものではないか
ら,その意義は特許請求の範囲からは一義的に明らかなものとはいえな
い。そこで,本件明細書の記載を参酌すると,本件明細書には次のとおり
の記載がある(甲2)。
「【0020】【実施例】次に本発明の実施例を説明する。…パーソナル
コミュニケータ1は,…本体5と,無線電話装置7と,GPS利用者
装置8とを備えている。…
【0022】無線電話装置7と,本体5とは,収容箱21に収容されて
いる。収容箱21には,CPU23と,…EPROMコネクタ76…
とが備えられている。
【0023】…EPROMコネクタ76には,地図データROM96が
差し込まれる。…地図データROM96は,道路地図や地名,施設名
などの地図データと,公的施設の住所や電話番号などの地図関連デー
タとを備えている。例えば,JAF等のロードサービスや,タクシ,
警察署などの住所,位置座標,電話番号などの地図関連データを備え
ている。電話番号は,1の名称に対して,課毎や要件先毎に複数登録
されている。…
【0041】図9は,コミュニケータ制御処理ルーチンのフローチャー
ト…である。コミュニケータ制御処理ルーチンは,オンスイッチ17
からオン信号が出力されたときCPU23によって起動され…る。…
【0064】図20は,電話処理ルーチンのフローチャート…である。
【0065】電話処理が起動されると,まず電話メニュー画面の表示が
行われる(S1000)。電話メニュー画面は,…発信選択領域243
とを備えている。…発信選択領域243には,発信先選択(次ページ)
表示251…が設けられて…いる。
【0066】ここで,発信先選択(次ページ)表示251の次ページ表示
251Aを選択すると,図22に示す電話メニュー画面に変更され
る。この電話メニュー画面には,…最寄発信表示265,発信先一覧
266…が設けられている。
【0067】電話メニュー画面の表示後,次に判断を行う(S101
0)。…
【0069】S1010の判断で,最寄発信が選択された場合には,最
寄発信処理が行われる(S1031)。最寄発信処理とは,発信先一覧
266の中から,何れかの発信先が選択された場合に実行される処理
のことである。この処理では,まず,現在位置の座標NEを入力し,
次いで最寄りの発信先の名称を入力する。例えば,名称としては,
「1JAF」表示266Aを入力する。
【0070】次いで,この現在位置から最も近い選択項目の名称の電話
番号を地図データROM96から入力する。地図データROM96か
ら読み込んだ電話番号が複数の場合,例えば「○○警察署の受付○○
番,交通課○○番,防犯課○○番など」の場合には,図22に示す電
話メニュー画面に選択枠266Bが表示される。選択枠266Bに
は,選択一覧266Cと,次ページ表示266Dと,削除表示266
Eと,実行表示266Fとが設けられている。選択一覧266Cに
は,「1受付○○番」などのように表示される。」
イ上記記載によれば,本件特許発明1においては,パーソナルコミュニケ
ータ1内に内蔵されたCPU23が,最寄発信処理で現在位置から最も近
い選択項目の名称の電話番号を,EPROMコネクタ76に差し込まれた
地図ROM96から入力することによって現在位置に最も近い発信先番号
を選択する処理を行うことが開示されている。その一方で,本件明細書に
は,それ以外の選択手段についての記載はない。なお,本件明細書には,
「【0074】…通話先機器表示269Bは,現在電話中の先方の機器が
コミュニケータの○形であると表示するものであって,所定の規則に則っ
て,先方との間でデータ交換されることにより,表示される。…」「【0
104】…データ処理により,先方のコンピュータに直接データを送信し
たり,先方から送られてきたデータを表示したりすることができる。ま
た,先方のコンピュータに付近の地図データを送ることができる。」との
記載があるが,これは,電話が接続されている相手先との間でデータ交換
をするというにすぎず,現在位置に最も近い発信先番号を選択する処理と
はかかわりがない。そして,本件明細書には,データ交換を開示しなが
ら,そのデータを処理して送り返すことが開示されていないから,先方の
コンピュータにデータ処理を指令してこれが送り返されることは想定され
ていない。
ウ以上からすると,本件特許発明1の「選択手段」とは,現在位置の位置
座標データに基づいて最も近い施設を選択し,それと関連付けて記憶され
ている,同施設の発信先番号を取り出すことであり,また,「選択手段」
による処理は,「携帯コンピュータ」自体のCPUが実行するものであっ
て,「選択手段」は「携帯コンピュータ」自体が備えるものであると解釈
するのが相当である。
(2)被告製品の選択手段の構成
ア被告製品の構成は,別紙被告製品説明書に記載のとおりである(争いの
ない事実,弁論の全趣旨)。これを,構成要件Fの「選択手段」に相応す
る部分を再掲すると,次のとおりである。
「(1)現在地の地図の表示のフロー
①「NAVITIME」のメニュー画面が表示されている状態で,
ユーザは「現在地(GPS)」を選択する。
②CPUは,被告製品の現在位置情報を取得する。
③CPUは,取得した現在位置情報をナビタイムサーバに送信する。
④ナビタイムサーバは,受信した現在位置情報に基づいて現在位置
を中心とする所定範囲の地図画面データを作成し,被告製品に対し
送信する。
⑤CPUは,受信した地図画面データをディスプレイに表示する。
(2)周辺スポット検索のフロー
Aユーザが,地図画面においてセンターボタンを押下することによ
って表示されるメニュー画面で「ナビゲーションメニュー」を選択
し,さらに「周辺スポット検索」を選択すると,
①CPUはその時点で取得されている現在位置情報とユーザの選
択内容をナビタイムサーバに送信する。
②ナビタイムサーバは,現在位置情報に応じた現在位置周辺の施
設をカテゴリー別に検索することができるカテゴリー選択画面デ
ータを作成し,被告製品に送信する。
③CPUは②で受信したカテゴリー選択画面を表示する。
Bユーザがカテゴリー選択画面で,施設種類を選択すると,
①CPUは,前記現在位置情報とユーザの選択内容をナビタイム
サーバに送信する。
②ナビタイムサーバは,サーバの有するデータベースにより,前
記現在位置情報を中心とする東西南北方向各2km(4km四方)
の正方形エリア内に存在する施設について,前記現在位置との直
線距離をそれぞれ計算し,施設の名称及び距離数を距離の近い順
に表示したリスト画面データを作成し,被告製品に送信する。
③CPUは受信した施設のリスト画面データを画面表示する。
Cユーザが施設のリスト画面の中から特定の施設を指定すると,
①CPUは,前記現在位置情報とユーザが指定した施設を特定す
る情報をナビタイムサーバに送信する。
②ナビタイムサーバは,指定された特定の施設の詳細情報(名
称,電話番号,住所)の表示並びに現在地から当該施設へのルー
ト地図,周辺スポット情報及び地点情報(緯度経度)等へのリンク
からなる画面データをデータベースに基づいて作成し,被告製品
に送信する。
③CPUは受信した当該施設の詳細情報を含む画面データを画面
表示する。
Dユーザが当該施設に電話をかける場合,
①ユーザが詳細情報の中から「電話番号」を指定すると,当該施
設の電話番号が通常の形式でディスプレイに表示される。
②ユーザの発信ボタン押下により,CPUは,通常の電話処理動
作に入り,表示されている電話番号に対し電話接続処理を行う。
③通話が終了すると,当該施設の詳細情報表示画面に戻る。」
イ上記認定によれば,
(ア)被告製品のCPUが行っているのは,
(1)②現在位置情報の取得,
(1)③現在位置情報のナビタイムサーバへの送信,
(1)⑤ナビタイムサーバから受信した地図画面データのディスプレイ
への表示,
(2)A①現在位置情報とユーザの選択内容のナビタイムサーバへの送
信,
(2)A③ナビタイムサーバから受信したカテゴリー選択画面の表示,
(2)B①現在位置情報とユーザの選択内容のナビタイムサーバへの送
信,
(2)B③ナビタイムサーバから受信した施設のリスト画面データの画
面表示,
(2)C①現在位置情報とユーザが指定した施設を特定する情報のナビ
タイムサーバへの送信,
(2)C③ナビタイムサーバから受信した画面データの画面表示,
(2)D①電話番号のディスプレイ表示,
(2)D②電話接続処理
など,現在位置情報及びユーザの選択内容の送信並びにナビタイムサーバ
からの画面データの受信及びその表示と電話接続に関係する処理にすぎな
い。
(イ)一方で,第三者(ナビタイムジャパン株式会社)が所有,運営するナ
ビタイムサーバは,
(1)④CPUから受信した現在位置情報に基づいて現在位置を中心と
する所定範囲の地図画面データを作成して被告製品に対し送信し,
(2)A②現在位置情報に応じた現在位置周辺の施設をカテゴリー別に
検索することができるカテゴリー選択画面データを作成して被告製
品に送信し,
(2)B②ナビタイムサーバが有するデータベースに基いて,現在位置
情報を中心とする東西南北方向各2km(4km四方)の正方形エリ
ア内に存在する施設について,現在位置との直線距離をそれぞれ計
算し,施設の名称及び距離数を距離の近い順に表示したリスト画面
データを作成して被告製品に送信し,
(2)C②ナビタイムサーバが有するデータベースに基づいて,施設の
詳細情報(名称,電話番号,住所)の表示並びに現在地から当該施設
へのルート地図,周辺スポット情報及び地点情報(緯度経度)等への
リンクからなる画面データを作成して被告製品に送信し
ており,現在位置に最も近い施設を含む施設及びその電話番号の検索並
びにその検索結果たるリストの作成は,データベースを有するナビタイ
ムサーバが行っている。
ウ以上からすると,被告製品の「選択手段」による処理は,ナビタイムサ
ーバが実行しているものであって,被告製品においては,「選択手段」を
「携帯コンピュータ」自体が備えてはいないものと認められる。
したがって,被告製品は,構成要件Fを充足するものということはでき
ない。
(3)原告の主張について
ア原告は,構成要件Fはどのメモリ領域から電話番号を選択すべきかにつ
いて何らの限定も付しておらず,ネットワークのいずれの記憶領域であっ
ても構わない旨を主張する。
しかしながら,本件明細書では,携帯型コミュニケータに内蔵されたメ
モリに地図データを収納し,これを用いて携帯コンピュータが構成要件F
の選択処理を行うことしか開示されておらず,上記のとおり,「選択手
段」は「携帯コンピュータ」自体が備えるものであると解釈すべきもので
あるから,これを外部のコンピュータが実行する「選択手段」も含むとす
る原告の主張は,前提において既に採用することができないものである。
イ原告は,被告製品のCPUが現在位置に最も近いものの発信先番号を選
択するための指令を発しなければ,ナビタイムサーバがこれに該当するデ
ータを送信することはありえないから,最も近いコンビニを選択している
と評価できるのは被告製品のCPUである旨を主張する。
しかしながら,上記のとおり,「選択手段」とは現在位置の位置座標デ
ータに基づいて最も近い施設を選択し,それと関連付けて記憶されている
同施設の発信先番号を取り出すことと解釈すべきであり,また,処理を他
のコンピュータに指令することと自身が処理することとは別のことである
ところ,被告製品のCPUは,このような選択処理にはかかわってはおら
ず,単にその前提となる現在位置情報とユーザの選択を外部のナビタイム
サーバに送信し,その結果であるナビタイムサーバが作成した画面データ
を受信しているにすぎない。したがって,被告製品のCPUは,実質的に
も選択処理に関与しているものとはいえない。原告の上記主張は,採用す
ることができない。
ウ原告は,被告製品にあっては,地図データが膨大となる等の理由で遠隔
地にあるサーバに記憶されているデータを読み出しているにすぎないので
あって,筐体内部のメモリや外付けのSDカードに記憶されている場合と
の間に実質的な違いはない旨を主張する。
しかしながら,被告製品にあっては,ナビタイムサーバの地図データが
利用されているだけなのではなく,その選択処理についても,被告製品の
CPUではなくナビタイムサーバが行っているのであって,単に地図デー
タを外部のサーバから取得しているというものではないのである。したが
って,原告の主張は前提において誤っているものであるから,採用するこ
とはできない。
(4)以上のとおりであって,被告製品は構成要件Fを充足しないから,被告製
品は本件特許発明1の技術的範囲に属さない。
(5)本件訂正発明について
原告は,平成21年5月1日付けで本件訂正審判請求を認める旨の審決が
されたことを理由に口頭弁論の再開を求める。
しかし,構成要件Fに該当する本件訂正発明の構成要件gは,「『上記デ
ィスプレイに表示された所定の業務名を文字画像で示す発信先一覧から選択
された選択項目の名称に基づき,』上記位置座標データ入力手段の位置座標
データに『従って』,所定の業務を行う複数の個人,会社あるいは官庁の中
から現在位置に最も近いものの発信先番号を選択する選択手段『と,』」と
いうものであるところ,『上記ディスプレイに表示された所定の業務名を文
字画像で示す発信先一覧から選択された選択項目の名称に基づき,』との訂
正部分は,ユーザの選択をディスプレイに表示された一覧から行うとする限
定を加えたにすぎず,「現在位置に最も近いものの発信先番号を選択する選
択手段」の部分は構成要件Fにおける「選択手段」と何ら違いを有するもの
ではない。
したがって,被告製品は,本件訂正発明の技術的範囲に属さないことが明
らかであるから,口頭弁論を再開する必要を認めない。
2争点(5)(構成要件J−発信先番号選択ステップ−の充足)について
構成要件Jは,「入力された位置座標データに基づいて,所定の業務を行う
複数の個人,会社あるいは官庁の中から現在位置に最も近いものの発信先番号
を選択するステップ」と規定しているところ,上記1において認定判断のとお
り,「選択するステップ」は携帯型コミュニケータ自体が行わなければならな
い一方で,被告製品は「選択するステップ」を行っていないから,構成要件J
を充足しない。
したがって,被告製品は,本件特許発明2の技術的範囲に属さない。
3結論
以上のとおり,被告製品は本件特許発明1及び2のいずれの技術的範囲にも
属さないから,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれ
も理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官
岡本岳
裁判官
中村恭
裁判官
鈴木和典
(別紙)
物件目録
携帯電話無線機
商品名SoftBank921T
製造元株式会社東芝
(別紙)
被告製品説明書
1被告製品の型名
Softbank921T
2被告製品の概要ブロック図
被告製品は本件に関係する範囲で,第1図のブロック図に示すように,下記の
(1)ないし(9)の構成要素を含む構造を有している。
(1)デジタルベースバンドプロセッサ(以下「CPU」という。)
被告製品の種々の動作を行うマイクロプロセッサである。
(2)メモリ
「NAVITIME」「S!GPSナビ」「Gガイドモバイル」「TVアプ
リ」などのCPUが実行できるアプリケーション(以下「アプリ」という。)の
コンピュータプログラムを格納している記憶装置である。
(3)無線部
携帯電話の無線通信を行うブロックで,内蔵アンテナを有し,受信部と送信
部からなる。受信部はアンテナで受信した信号を共用器を介して受け取り,復
調し,受信データとしてCPUに送る。送信部は,CPUから受け取った送信
データを変調し,共用器を介してアンテナから近隣の基地局に送信する。
(4)電源ASIC
被告製品に内蔵された電池の電源を制御して被告製品内の各部に電力を供給
するICである。
(5)操作ボタン部
電源ボタンのほか,ユーザがメニュー画面で選択を行うためのボタンなど,
様々な機能をユーザが選択,実行するためのボタンが配置されている。
(6)GPS受信専用回路
内蔵GPSアンテナにより,3ないし4個のGPS衛星から,衛星の位置を
示す信号と同信号の発信時刻を示すデータを受信し,受信した衛星の位置及び
発信時刻データをCPUに出力する回路である。
(7)マルチメディア処理IC
ディスプレイに表示する画像データを生成,制御するICである。電源ボタ
ンの押下によって,マルチメディア処理ICは電源供給状態となり,ディスプ
レイに待受画面を表示させる。
(8)ディスプレイ
マルチメディア処理ICによって生成,制御される画像を表示する有機EL
ディスプレイである。
(9)TV用受信アンテナ,地デジチューナ
TV用受信アンテナはワンセグTV放送を送信している各放送局からの電波
を受信する。地デジチューナはこれらの電波の中から,指定されたチャンネル
の所定の搬送周波数に基づいて,同チャンネルの放送波のみを抽出し,次い
で,抽出された放送波を復調して(抽出された放送波から搬送波の高周波成分
を除去して),ビデオ,オーディオ信号等からなるデジタル放送信号を取り出
し,マルチメディア処理ICに送る。
3被告製品の基本諸動作の説明
(1)操作ボタン部の電源ボタンにより電源ONした時の被告製品の動作状態
ユーザが操作ボタン部の電源ボタンを押下すると,被告製品に内蔵された電
池の電源が電源ASICと結合され,電源ASICからCPUに電源が供給さ
れる。次いで,CPUの制御の下で,無線部,操作ボタン部,マルチメディア
処理IC,ディスプレイに電源が供給され,これらが動作可能な状態となる。
すなわち,CPUは無線部を起動して携帯無線通信を受信可能な状態とすると
ともに,所定の待受画面をディスプレイに表示させ,ユーザがさらに操作ボタ
ン等により操作をするまで待機状態となる。
(2)アプリの実行
ユーザがメニュー画面から所望のアプリを選択すると,CPUはメモリから
該当するアプリのコンピュータプログラムを読み込んで,当該アプリが終了す
るまで,CPUと当該アプリのプログラムの協働により諸動作を行う。
(3)インターネットを介したサーバとの通信
「NAVITIME」「Gガイドモバイル」などのアプリでは,後に詳述す
るように,被告製品が,それらのアプリを提供するコンテンツプロバイダのサ
ーバと,インターネットを介して通信をする場合がある。
ア被告製品からサーバへの送信
被告製品からデータやコマンドをサーバに送信する場合は,被告製品の無
線部から携帯電話の無線通信手順に従って自動的に近隣に所在する被告(ソ
フトバンクモバイル)の基地局に送信し,基地局から被告のネットワークを
経由してインターネットで所定のサーバに送信をする。
イサーバから被告製品への送信
サーバは被告製品から受信したデータやコマンドに応答して,所定のデー
タを被告製品に向けて送信する。その場合は,サーバから被告のネットワー
クまでインターネットで送信し,その時被告製品が所在する位置の近隣の基
地局から被告製品の無線部までは携帯電話の無線通信で送信される。
4ユーザがメインメニュー画面から順次「ツール」「S!GPSナビ」を選択し
た時の動作
被告製品には,GPSに関連して,「S!GPSナビ」と「NAVITIM
E」の2種類のアプリがある。ユーザがメインメニュー画面から順次「ツール」
「S!GPSナビ」を選択し,さらに「現在地地図」を選択すると,CPUは,
「NAVITIME」アプリを起動し,その後の処理は「NAVITIME」ア
プリに移行する。
5ユーザがメインメニュー画面から順次「S!アプリ」「S!アプリライブラ
リ」「NAVITIME」を選択した時の動作
ユーザがメインメニュー画面から順次「S!アプリ」「S!アプリライブラ
リ」「NAVITIME」を選択すると,CPUは「NAVITIME」アプリ
を起動し,メモリに格納されている「NAVITIME」アプリのプログラムを
読み出し,実行する。
ユーザが「NAVITIME」アプリのメニュー画面において「現在地(GP
S)」を選択した時に現在地の地図が表示されるフローと,さらにユーザが現在
地の地図に基づいてメニューから「周辺スポット検索」を選択した時のフローの
概要は以下のとおりである(第2図フローチャート参照。なお,第2図のフロー
チャートには,下記の説明に含まれていない,実際の被告製品の操作に即したプ
ロセスも記載されている。)。
(1)現在地の地図の表示のフロー
①「NAVITIME」のメニュー画面が表示されている状態で,ユーザ
は「現在地(GPS)」を選択する。
②CPUは,GPS受信専用回路から,3個以上のGPS衛星が送信した
GPS衛星の位置及び信号発信時刻のデータを入力し,その入力に応答し
て信号到達時刻データを生成した上で,これらの衛星の位置,信号発信時
刻及び信号到達時刻の各データに基づいて演算を行うことにより,被告製
品の現在位置の緯度経度情報(「現在位置情報」)を取得する。
③CPUは,取得した現在位置情報をナビタイムジャパン株式会社の所
有,運営するサーバ(以下「ナビタイムサーバ」という。)に送信する。
④ナビタイムサーバは,受信した現在位置情報に基づいて現在位置を中心
とする所定範囲の地図画面データを作成し,被告製品に対し送信する。
⑤CPUは,受信した地図画面データをディスプレイに表示する。
⑥その後,ユーザの移動により被告製品の現在位置が変更した場合は,C
PUは新しいGPS衛星の位置と発信時刻データを受け取って,更新され
た現在位置情報を演算し,ナビタイムサーバに送信し,ナビタイムサーバ
は地図画面データを更新して被告製品に送信し,CPUは現在地の地図の
表示を更新する。
(2)周辺スポット検索のフロー
Aユーザが,地図画面においてセンターボタンを押下することによって表
示されるメニュー画面で「ナビゲーションメニュー」を選択し,さらに
「周辺スポット検索」を選択すると,
①CPUはその時点で取得されている現在位置情報とユーザの選択内容
(「周辺スポット検索」)をナビタイムサーバに送信する。
②ナビタイムサーバは,現在位置情報に応じた現在位置周辺の施設をカ
テゴリー別に検索することができるメニュー画面(以下「カテゴリー選
択画面」という。)データを作成し,被告製品に送信する。
③CPUは②で受信したカテゴリー選択画面を表示する。
Bユーザがカテゴリー選択画面で,施設種類(例えば「コンビニ」)を選択
すると,
①CPUは,前記現在位置情報(ユーザが周辺スポット検索操作中に移
動しても,周辺スポット検索で用いられる現在位置情報は更新されな
い。)とユーザの選択内容(コンビニ)をナビタイムサーバに送信する。
②ナビタイムサーバは,サーバの有するデータベースにより,前記現在
位置情報を中心とする東西南北方向各2km(4km四方)の正方形エリ
ア内に存在する施設(コンビニ)について,前記現在位置との直線距離を
それぞれ計算し,施設(コンビニ)の名称及び距離数を距離の近い順に表
示したリスト画面データを作成し,被告製品に送信する。
③CPUは受信した施設(コンビニ)のリスト画面データを画面表示す
る。
Cユーザが施設(コンビニ)のリスト画面(最も近い施設が反転表示された
状態である。)の中からある施設(最も近い施設であることもあるが,それ
に限られない)を指定すると,
①CPUは,前記現在位置情報とユーザが指定したある施設(あるコン
ビニ)を特定する情報をナビタイムサーバに送信する。
②ナビタイムサーバは,指定された当該施設(当該コンビニ)の詳細情報
(名称,電話番号,住所)の表示,並びに,現在地から当該施設(当該コ
ンビニ)へのルート地図,周辺スポット情報及び地点情報(緯度経度)等
へのリンクからなる画面データをデータベースに基づいて作成し,被告
製品に送信する。
③CPUは受信した当該施設(当該コンビニ)の詳細情報を含む画面デー
タを画面表示する。
Dユーザが当該施設(当該コンビニ)に電話をかける場合,
①ユーザが詳細情報の中から「電話番号」(反転表示された状態であ
る。)を指定すると,当該施設(当該コンビニ)の電話番号が通常の形式
でディスプレイに表示される。
②ユーザの発信ボタン押下により,CPUは,通常の電話処理動作に入
り,表示されている電話番号に対し電話接続処理を行う。
③通話が終了すると,当該施設(当該コンビニ)の詳細情報表示画面に戻
る。
6図面の説明
第1図被告製品のブロック図
第2図「NAVITIME」のフロー概要
以上

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