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裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 検察官米田之雄の上告趣意第二点のうち、判例違反をいう点は、昭和三一年一二
月一一日第三小法廷判決(刑集一〇巻一二号一六〇五頁)は、暴行、脅迫または威
力をもつてする就業中止要求が具体的事情のいかんを問わず常に違法であるとして
いるわけではないから、前提を欠き、昭和二五年一一月一五日大法廷判決(刑集四
巻一一号二二五七頁)は、いわゆる生産管理に関するものであり、昭和二七年一〇
月二二日大法廷判決(民集六巻九号八五七頁)は、組合員以外の部長等がしていた
作業を妨害した事案についてのものであり、昭和三三年五月二八日大法廷判決(刑
集一二巻八号一六九四頁)は、会社側が新たに従業員として採用した者、労働組合
から脱退して従業員会に加入した者および組合員以外の職員で続行していた出炭業
務を妨害した事案についてのものであり、同年二一月二五日第一小法廷判決(刑集
一二巻一六号三六二七頁)は、組合員以外の庶務課長などの送電継続行為を妨害し
た事案についてのものであり、昭和三二年二月二六日広島高等裁判所岡山支部判決
は、組合員以外の従業員の電車運転業務を妨害した事案についてのものであり、ま
た、昭和三九年二月一五日札幌高等裁判所判決は、国鉄業務の正常な運営を妨げ、
これに打撃を加えるなどの目的で、機関車の出区を妨害し、臨時貨物列車の発車を
遅延させることを策した事案についてのものであつて、いずれも、組合員たる被告
人らが単に同盟して罷業し、争議脱落組合員の就業を阻止して、組合の団結がみだ
され同盟罷業がその実効性を失うのを防ごうとしたに過ぎない本件には適切でなく、
上告適法の理由にあたらない。
 同第二点のその余の論旨および同第三点は、単なる法令違反の主張であつて、上
告適法の理由にあたらない。なお、原判決の認定したところによると、被告人らは、
他の約四〇名とともに、札幌市交通局中央車庫門扉付近において、市電の前に立ち
ふさがり、その進行を阻止して業務の妨害をしたというのであつて、このような行
為は、それが争議行為として行なわれた場合においても、一般には許容されるべき
ものとは認められない。しかし、同じ原判決によると、右行為は、被告人らの所属
する札幌市役所関係労働組合連合会が、昭和三五年一〇月ごろから、札幌市職員の
給与、手当、有給休暇その他の勤労条件の改善等、職員の正当な経済的地位の向上
を目ざした団体交渉の要求を続け、かつ、この要求について早期解決を図るべき旨
の北海道地方労働委員会の調停や札幌市議会総務委員会の勧告があつたのにかかわ
らず、札幌市当局が不当に団体交渉の拒否や引延しをはかつたため、一年有余の長
期間をむだに過させられたのみならず、かえつて、当局の者から、ストをやるとい
うのであればやれ、などと誠意のない返答をされるに至つたので、やむなく昭和三
七年六月一五日午前六時ごろ、団体交渉における労使の実質的対等を確保するため、
交通部門における市電・市バスの乗務員の乗車拒否を主眼とする同盟罷業に踏み切
つたものであるところ、その同盟罷業中の同日午前一〇時ごろ、突然、同じ組合員
であるAらが、同盟罷業から脱落し、当局側の業務命令に従つて市電の運転を始め
るため、車庫内に格納されていた市電を運転して車庫外に出ようとしたので、被告
人らが他の約四〇名の組合員らとともに、組合の団結がみだされ同盟罷業がその実
効性を失うのを防ぐ目的で、とつさに市電の前に立ちふさがり、口ぐちに、組合の
指令に従つて市電を出さないように叫んで翻意を促し、これを腕力で排除しようと
した当局側の者ともみ合つたというのであつて、このような行為に出たいきさつお
よび目的が人をなつとくさせるに足りるものであり、その時間も、もみ合つた時間
を含めて約三〇分であつたというのであつて、必ずしも不当に長時間にわたるもの
とはいえないうえに、その間直接暴力に訴えるというようなことはなく、しかも、
実質的に私企業とあまり変わりのない札幌市電の乗客のいない車庫内でのできごと
であつたというのであるから、このような事情のもとでは、これを正当な行為とし
て罪とならないとした原判断は、相当として維持することができる。
 同第四点は、単なる法令違反、事実誤認の主張であつて、上告適法の理由にあた
らない。
 また、記録を調べても、刑訴法四一一条を適用すべきものとは認められない。
 よつて、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官下村三郎、同松本正雄
の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
 裁判官下村三郎の反対意見は、次のとおりである。
 検察官の上告趣意第二点の判例違反以外の主張および同第三点について。
 地方公営企業労働関係法一一条一項は、争議行為を禁止しているのであるから、
これに違反してなされた争議行為は、すべて違法であつて、正当な争議行為という
ものはありえない。したがつて、このような争議行為には、労働組合法一条二項の
準用ないし適用はないものと解すべきである。その理由の詳細は、昭和三九年(あ)
第二九六号昭和四一年一〇月二六日大法廷判決(刑集二〇巻八号九〇一頁)におけ
る裁判官奥野健一、同草鹿浅之介、同石田和外三裁判官の反対意見と同趣旨である
から、ここにこれを引用する。
 そして、右見解によれば、原判決が、地方公営企業労働関係法一一条一項に違反
してなされた本件争議行為を威力業務妨害罪の構成要件にあたるものとしたうえ、
労働組合法一条二項を準用して、被告人らの本件所為を正当な行為として罪となら
ないとしたのは、法令の解釈を誤り、ひいて判決に影響を及ぼすべき重大な事実を
誤認したものというべく、これを破棄しなければ著しく正義に反するものと認めら
れるから、刑訴法四一一条一、三号により原判決を破棄し、事件を原裁判所に差し
戻すべきものである。
 裁判官松本正雄の反対意見は、次のとおりである。
一、原判決およびこれを是認する多数意見は、本件争議行為にも労働組合法(以下
「労組法」という。)一条二項の適用があることを前提として、その正当性の判断
をなし、被告人らの本件行為は威力業務妨害罪の構成要件には該当するけれども、
諸般の事情からみて、正当な行為であるとして犯罪の成立を否定した。
 しかし、わたくしは、本件争議行為には労組法一条二項の適用はないと考える。
すなわち、公共企業体に対する争議行為に関する昭和三九年(あ)第二九六号昭和
四一年一〇月二六日大法廷判決(刑集二〇巻八号九〇一頁、いわゆる中郵事件判決)
における反対意見を正しいと考えるものである。また、仮に、右判決の多数意見の
ごとく、本件争議行為にも労組法一条二項の適用があるとしても、被告人らの本件
行為は、正当性の範囲を逸脱した違法のものであり、正当行為とは評価できないと
考える。以下に、右の二点について、その理由を述べる。
二、労組法一条二項の適用がないことについて。
 1 地方公営企業労働関係法一一条一項はその前段中において、「職員及び組合
は、地方公営企業に対して同盟罷業、怠業その他の業務の正常な運営を阻害する一
切の行為をすることができない。」と規定している。そして右の規定は、前記大法
廷の判例に照らし合憲であることに異論がないであろう。もし、右の規定が違憲で
あるとするならば問題は別であるが、合憲の規定であると当裁判所が認めるからに
は、地方公営企業に対する争議行為等が禁止せられていることは明白であり、これ
に違反してなされた争議行為等は違法であるといわざるをえない。なお、右に違法
というのは、単に法令の規定に違反するというだけのことではない。同条項が、右
のように地方公営企業に勤務する職員およびその組合に争議行為等を禁止している
のは、軌道事業、水道事業、工業用水道事業等の地方公営企業が、私企業に比して
公共性が強く、その運営のいかんが住民の日常生活と福祉に及ぼす影響がきわめて
大きいからにほかならない。したがつて、右に違法というのは、違法性があること
すなわち正当でないことをも意味し、労組法一条二項の適用を排除する趣旨と解す
べきものである。この意味で、右の争議行為禁止違反が、単なる民事的違法に過ぎ
ないという解釈にはとうていくみすることができない。
 しかも、労組法一条二項において、刑法三五条の適用があるとされているのは、
「労働組合の団体交渉その他の行為」であつて、労働者の地位向上、団結権の擁護
等の目的を達成するためにした「正当なもの」についてであるが、地方公営企業に
おいては、争議行為は前述のごとく禁止せられているのであるから右の「その他の
行為」のうちには争議行為は含まれないと解釈すべきであり、また、争議行為は解
雇原因ともなりうる違法な行為であるから、「正当なもの」ともいえないわけであ
る。したがつて、前述のごとき禁止違反の争議行為には、この意味からも労組法一
条二項の適用がないものと解すべきである。
 ところで、本件被告人らは、前記地方公営企業労働関係法一一条一項前段に違反
して、札幌市の電車運行業務を阻害する争議行為をしたというのであるから、この
争議行為は違法であり、労組法一条二項の適用はなく、争議行為についての正当性
の限界いかんを論ずる余地はない。
 2 その他の理由については、前記中郵事件判決における奥野健一、草鹿浅之介、
石田和外裁判官等の反対意見とほぼ同趣旨である。
三、本件行為は正当と評価できないことについて。
 1 原判決は、被告人らの本件行為が威力業務妨害罪の構成要件に一応該当する
ものと認めながら、本件ピケ行為の目的、態様(手段、方法)に照らし、被告人ら
の本件行為は憲法の保障する労働基本権の行使として、正当な争議行為と認められ
るから、実質的違法性を欠き、罪とならないとしている。原判決を支持する多数意
見も「このような行為は、それが争議行為として行なわれた場合においても、一般
には許容されるべきものとは認められない。」としつつも、本件争議のいきさつ、
札幌市当局の態度が誠意を欠いていたこと、被告人らの本件行為が同盟罷業から脱
落した同じ組合員であるAの市電運転行為に対し、組合の団結がみだされ同盟罷業
がその実効性を失うのを防ぐ目的であることなど、被告人らが本件行為に出たいき
さつおよび目的が人をなつとくさせるに足りるものであり、その時間も約三〇分で
あつて必ずしも不当に長時間にわたるものとはいえないうえに、その間直接暴力に
訴えるというようなことはなく、しかも、実質的に私企業とあまり変わりのない札
幌市電の乗客のいない車庫内のできごとであつたこと等の諸般の事情のもとでは、
これを正当行為として罪とならないとした原判断は相当であると判示している。
 しかし、第一審判決および原判決の認定するところによると、市労連組合員らは、
Aが札幌市電の電車部長B、警備課長Cらの命令に基づいて二二二号電車を出庫さ
せようとした際に、その電車の前にピケツテイングを張つてその運行を阻止したも
のであり、その際における被告人Dの約三〇分にわたつての右電車の前に立ちふさ
がつた行為、被告人Eの右電車の前に立ちふさがつた行為、および被告人Fのこれ
に協力した行為は、いずれも他の約四〇名の組合員と共謀し、威力を用いて札幌市
の電車運行業務を妨害したものであるというのであつて、右両判決とも、これらの
行為が刑法二三四条の威力業務妨害罪の構成要件には該当すると判断しているので
ある。このような被告人らの行為は、中郵事件判決にみられるような「単純な不作
為」の争議行為とは趣を異にし、積極的実力または威力の行使による業務妨害行為
であつて、多数意見が述べるような被告人らに有利な事情を考慮しても、これが正
当行為であるとはとうていいえないものと考える。上告趣意が引用する当裁判所昭
和二五年一一月一五日大法廷判決以来の累次の判例は、いずれも同盟罷業の本質に
ついて、それが使用者に対する集団的労務供給義務の不履行にあることを明らかに
したものであり、また、使用者側の義務遂行に対しては、暴力、脅迫をもつてこれ
を阻害するような行為はもちろん、不法に使用者側の自由意思を抑圧するような行
為も許されないとしており、この趣旨は前後一貫しているものということができる。
多数意見がこれらの判例を本件事案に適切ではないとして簡単にいつしゅうし去る
ことには賛成できない。わたくしは、原判決が正当行為の範囲を不法に拡大して解
釈したのを多数意見が誤つて是認したものではないかと憂える。2 多数意見は、
同じ組合員であるAらが同盟罷業から脱落し、市電の運転を始めた行為を重視し、
これを被告人らにとつて有利な事情の一つとして考慮しているようであるが、この
見解に対してもわたくしは同調することができない。すなわち、本件争議行為は、
地方公営企業労働関係法上の地方公営企業に対するものであるから、職員の争議行
為は禁止せられた違法な行為であつて、これに違反した職員は解雇せられることが
ある(同法一二条)のである。したがつて、争議から脱落し、業務に従事しようと
する組合員個人の自由意思は特に尊重せられてしかるべきである。自らの意思で争
議行為に参加しない組合員個人の意思および行動の自由までを実力をもつて拘束し、
その就業を全く不可能にすることは、組合といえども許されるべきではない。この
点において私企業における争議行為からの脱落と地方公営企業における本件争議行
為からの脱落とを同一に論ずることは誤りであると考える。同調できない理由であ
る。
 3 原判決は、本件ピケツテイング(以下「ピケ」という。)について、同盟罷
業を実効あらしめるためには、「争議脱落者に翻意を求めるための説得活動は、他
の者を対象とする場合に比しある程度強力にこれを行ない得るものと解すべく、場
合によつては、暴力の行使に亘らず、説得手段として社会通念上相当と考えられる
範囲内において説得の機会を得るために相手方を物理的に阻止することも許される
ものといわなければならない。」と判示して、結局、被告人らの本件威力の行使を
認容している。
 右の判示に対して、多数意見は、ピケについて特に一般的な見解を示したもので
はないと思われるが、「被告人らは他の約四〇名とともに、札幌市交通局中央車庫
門扉付近において、市電の前に立ちふさがり、その進行を阻止して業務の妨害をし
たというのであつて、このような行為は、それが争議行為として行なわれた場合に
おいても、一般には許容されるべきものとは認められない。」と判示しつつも、本
件においては、前述の諸般の情況を考慮してこれを正当行為として罪にならないと
した原判決を維持している。右の判示によつてピケに対する多数意見の一端をうか
がうことができる。
 わたくしはピケの正当性は、口頭または文書による、いわゆる平和的説得の程度
にのみ限られるべきだとは必ずしも思わないが、本件のごとく有形力を行使し、脱
落者の就労を事実上不可能にすることまでも(たとい、それが説得の手段であると
しても)許されるべきであるとは考えない。ピケに際しての暴行、脅迫、暴力的色
彩の濃い行動等が正当な争議行為から排斥せられるべきであることはもちろんであ
るが、刑法上の威力、すなわち、人の意思を制圧するに足りる勢力の行使の程度に
及んだ場合においても、これを認容すべきではなく、正当行為として評価すること
は許されないものと考える。暴行、脅迫、これに類似する行為、威力の行使、原判
決が認めるがごとき相手方に対する集団による物理的阻止等は、いかなる場合にお
いても許されず、かくのごときは健全な労働運動の発展の障害にこそなれ、正しい
方向とはいえない。
四、わたくしの見解は右に述べたとおりであるから、原判決は法令の解釈を誤り、
ひいて判決に影響を及ぼすべき重大な事実誤認をしたものというべく、原判決を破
棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。よつて刑訴法四一一条一、三
号により原判決を破棄し、事件を原裁判所に差し戻すべきである。
  昭和四五年六月二三日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    下   村   三   郎
            裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    松   本   正   雄
            裁判官    飯   村   義   美
            裁判官    関   根   小   郷

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