弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中上告人ら敗訴の部分を破棄し、本件を高松高等裁判所に差し戻
す。
         理    由
 上告代理人白石基の上告理由について。
 原判決は、上告人らの本件各貸金は被上告人のみにこれを貸与したものか否かに
つき、挙示の甲号各証(いずれも金員借用証)と供述を綜合すると、本件各貸金は
被上告人およびその妻訴外Dの共同借受にかかるものと認められ、被上告人のみに
貸与した旨の上告人らの主張に沿う供述は、右甲号各証の記載に照らし、措信し難
い旨判示したのである。しかして、右甲号各証は、被上告人およびD連名の簡単な
借用文言を記載したものであり、中には、両名につき「借主」と一括肩書したもの
も含まれ、一応判示共同借受の認定資料たりうべきもののようである。しかし、原
審の証拠関係を精査するに、被上告人は、耕地一町歩を所有するほか貸金業を営ん
でおり(二審記録一四丁裏)、「E銀行」と呼ばれて、その資産状態は世間の信用
するところであり(一審記録一九丁裏・二六丁・二審記録九丁)、上告人らは本件
各貸金が被上告人の貸金業の資金として運営され、高利を確実に回収できるという
見込を有していたからこそ本件金員を貸与したものであり(一審記録二六丁・二六
丁裏・六三丁裏・七一丁・七一丁裏) (現に上告人らが当初はその利息の支払を
受けていたことは原審の確定したところである)、他方において、Dにはみるべき
資産もないというのであり(二審記録一六丁)、また、上告人A1の場合は、昭和
二八年八月三日に貸与した分については、Dから借受申込を受けたので被上告人に
確かめたところ、右申込は承知している旨の回答を得たので貸与したという経緯に
あり(一審記録七二丁)、また、同上告人および上告人A2の場合は、本件訴訟提
起前被上告人から本件金員は自分が借り受けた旨の確認を受けているというのであ
り(一審記録六七丁・七二丁裏・七三丁)、叙上証拠に現われた諸般の事実関係の
真否如何によつては、たとえDが本件貸借の申込・金員の授受など一切につき直接
の衝にあたつた事実を斟酌しても、前示甲号各証の借用証に被上告人およびDの氏
名を連記したということは、むしろ、該証書記載の貸借につきDが被上告人を代理
するという関係を不完全ながら表示したものと解釈すべき余地があるといえないこ
とはなく、すくなくとも、前示諸般の事実関係を考慮に容れるときは、借用証に両
名の氏名が連記されているからといつて、直ちに両名の共同借受を認定できる筋合
ではないといわなければならない。そのいずれであるにせよ、原審が、前示甲号各
証を共同借受の認定資料となし、本件貸金は(Dを介して)被上告人一人に貸与し
たものである旨の前示供述を、甲号各証と対比して措信し難いという理由のみで排
斥し、前示諸般の事実関係の真否如何によつて甲号各証が有するにいたるべき意義
について十分な考慮を巡らした形跡がないのは、審理不尽理由不備の違法を冒した
ものといわなければならない。論旨は結局理由があり、原判決中上告人ら敗訴の部
分は破棄を免れない。
 よつて、民訴四〇七条一項に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    五 鬼 上   堅   磐
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    石   坂   修   一
            裁判官    横   田   正   俊

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