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       主   文
一 原判決を次のように変更する。
1 被控訴人は、控訴人に対し、金一〇九万六九二四円及び内金九万六四九五円に
対する平成六年六月二九日から支払済みまで年六分の、内金四二九円に対する平成
一〇年七月二八日から支払済みまで年六分の、内金一〇〇万円に対する右同日から
支払済みまで年五分の各割合による金員を支払え。
2 控訴人のその余の請求を棄却する。
二 訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを八分し、その一を被控訴人の負担と
し、その余を控訴人の負担とする。
三 この判決の主文一1項は仮に執行することができる。
       事実及び理由
第一 控訴の趣旨
一 原判決を取り消す。
二 被控訴人は、控訴人に対し、金九一七万〇八七六円及び内金一八八万七七八九
円に対する平成六年六月二九日から、内金七二八万三〇八七円に対する平成一〇年
七月二八日から各支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
 本件事案の概要は、次のように補正するほかは、原判決の「事実及び理由」中
「第二 事案の概要」の記載と同一であるからこれを引用する。
1 原判決三頁二行目から末行までを次のように改める。
「 本件は、控訴人が被控訴人に対し、①被控訴人と控訴人との間に、控訴人と大
学卒業年次が同じで卒業と同時に被控訴人に入社した者(以下「新卒同年次定期採
用者」という。)の中間点の格付(以下「平均的格付」という。)による給与を支
給することを内容とする雇用契約が成立したのに、被控訴人が控訴人に対し平均的
格付を下回る格付による給与を支給したとして、平均的格付による給与と実際に支
給を受けた給与との差額の未払賃金(うち時間外手当については付加金を含む。)
の支払、②控訴人と被控訴人との間に合意が成立したと主張する住宅手当の額と実
際に支給を受けた住宅手当との差額の支払、③時間外手当の支給においてその額の
算定に誤りがあるとしてこれによるその支給額の不足分及びこれについての付加金
の支払、④被控訴人が控訴人に対し、新卒同年次定期採用者より低い格付をしたほ
か、昇給や配置転換等における不当な取扱いをしたとして、不法行為に基づく慰謝
料の支払をそれぞれ求める事案である。」
2 原判決四頁四行目の「工学部」を「理工学部」に改める。
3 原判決五頁三行目の「Ⅰ類からⅣ類」から五行目末尾までを「Ⅰ類からⅣ類ま
でに区分され(Ⅰ類は一般職員、Ⅱ
類は主任、Ⅲ類は課長、支社長、主査等、Ⅳ類は部室店長、調査役、次長等に対応
するものとされる。)、各類はEからAまでの号(ただし、EはⅠ類、Ⅱ類のみ。
A1、A2、B1、B2のように区分される類もある。)に区分される。Ⅱ類はE
からAまでに区分される(Eが下位、Aが上位である。)。事務給職員の給与は、
この類及び号と年令(期首(四月一日)の年令に従って加算がある。)とによって
その額が定まる。」に改める。
4 原判決七頁一行目の「も同様の」を「新卒同年次定期採用者と同待遇で処遇す
る、その平均的給与からスタートするとの」に、三行目の「、被告は原告に」から
五行目末尾までを「本件雇用契約が成立したところ、右によれば、その契約は、被
控訴人が控訴人に対しその新卒同年次定期採用者の平均的格付により定まる給与を
支給することを内容とするものである。」にそれぞれ改め、五行目の次に行を改め
て次のように加える。
「 なお、a課長ら被控訴人担当者が、真意は控訴人に対し右平均的格付による給
与を支給する意思がなかったとしても、控訴人に対しその趣旨の採用条件を被控訴
人から与えられた権限に基づき提示したものであるから、民法九三条本文により、
その意思表示は有効である。」
5 原判決七頁八行目の「(なお」から一〇行目の「格付である。)」までを削
る。
6 原判決一四頁六行目の次に行を改めて次のように加える。
「3 時間外手当及び付加金
(一) 控訴人の主張
 仮に前記1に関する控訴人の主張が採用されない場合においても、控訴人に支給
された時間外手当には、以下のとおり支給額の不足分がある。
(1) 被控訴人においては、午後四時四五分(ただし平成八年四月以降は午後五
時)から午後六時までの勤務を労働基準法三七条の適用のない時間外勤務(以下
「法内超勤」という。)、午後六時以降の勤務を同条の適用のある時間外勤務(以
下「法適用超勤」という。)とし、これらの勤務に対し、前者については基準給与
日額の時間当たり単価(以下「時間単価」という。)により、後者については時間
単価に二五パーセントを割増した単価により算出した時間外手当を支給していると
ころ、控訴人がしたこれらの時間外勤務の時間は、別紙「時間外賃金差額一覧表」
記載のとおりである。なお、同表記載の法内超勤時間(一六時四五分から一八時ま
での欄に記載の時間)のうち平成六年(一九九四年)三月までについて
は、その記載の時間数に一・五分の一・二五を乗じた時間数が実働時間数である
(例えば、一・五とあるのは一・二五と、四・五とあるのは三・七五と読み替え
る。)。
(2) 時間外手当の計算の基礎とすべき賃金額は、①本給、②類別加算給、③役
職手当、④住宅手当、⑤付加給、⑥定額付加給、⑦社会保険料補助を加算したもの
とすべきである。
(3) しかるに、被控訴人は、平成四年六月分までは、右⑤、⑥、⑦を、同年七
月分以降も⑤を、それぞれその計算基礎から除外している。
(4) 右①から⑦までの賃金費目を加算した月額給与を月の所定労働時間(一四
〇時間)で除した控訴人の給与の時間単価及びその基礎となる①から⑦までの賃金
費目の月額は、各期間毎に次のとおりである。
 平成四年一月から同年六月まで 二八六八円
 (①二三万二七〇〇円、②七二〇〇円、③四二〇〇円、④二万六〇〇〇円、⑤六
万一〇二五円、⑥五万二九〇〇円、⑦一万七五四〇円)
 平成四年七月から平成五年六月まで 三〇三二円
 (①二四万四二〇〇円、②七二〇〇円、③四二〇〇円、④二万八〇〇〇円、⑤六
万三九〇〇円、⑥五万九五〇〇円、⑦一万七五四〇円)
 平成五年七月から平成六年三月まで 三二五二円
 (①二六万五四〇〇円、②七二〇〇円、③四二〇〇円、④二万八〇〇〇円、⑤六
万九二〇〇円、⑥六万三七〇〇円、⑦一万七五四〇円)
 平成九年五月から同年七月まで 三三九四円
 (①三〇万七四〇〇円、②八三〇〇円、③四七〇〇円、④四万九五〇〇円、⑤一
万六〇二〇円、⑥六万五七〇〇円、⑦二万三五〇〇円)
(5) 右により被控訴人が支給すべき時間外手当の要支給額、控訴人が現実に受
給した実支給額及びその差額(未払額)は、それぞれ別紙時間外賃金差額一覧表記
載のとおりであり、その未払額合計は一四万〇一八八円となる。
(6) よって、右未払額及び労働基準法一一四条に基づきこれと同額の付加金の
支払を求める。
(7) 被控訴人は、法内超勤についての基礎賃金の額は、別に定めさえすればど
のような額でも構わない旨主張するが、労働条件を改善して八時間を下回る所定労
働時間を定めたのに、所定労働時間を超える八時間までの労働に対しては所定労働
時間の対価より低額な賃金で労働させることになって、その不当であることが明ら
かである。
 次に、付加給は、労使協議により毎年その額に変動があるにしても、社員給与細
則によってあらかじめ
毎月支払われるものとしてその額が確定されているのであるから、臨時に支払われ
た賃金又は一か月を超える期間ごとに支払われる賃金に当たるものということはで
きず、これを時間外手当の算定基礎賃金に加えないことは、労働基準法三七条、同
法施行規則二一条に違反するものである。
(二) 被控訴人の主張
(1) (一)(1)、(3)、(4)の各事実及び同(5)のうち控訴人に対す
る実支給額については、認める。
(2) (一)(2)の主張は争う。
 被控訴人は、時間外手当の算定基礎となる賃金費目を労働組合との協議・協約に
基づく社員給与細則により定めているところ、法内超勤については、労働基準法上
の割増賃金に関する規定の適用はないのであるから、その算定基準額が著しく低額
であるなど特段の事情がない限り、右社員給与規則に基づきその算定基礎から⑤、
⑥、⑦の賃金費目を除外しても、何ら違法の問題を生じない。
 次に、法適用超勤について、まず、付加給は、本来六月及び一二月に会社の業績
その他を勘案して臨時に支給すべき臨時給与と同じ性質のものを、運用上分割して
支払っているのに過ぎず、実際にも毎年臨時給与、賞与と同様に団体交渉によりそ
の算定方法、支給時期、支給額等を確定しているものであるから、その実体は一か
月を超える期間ごとに支払われる賃金にほかならない。また、社会保険料補助は、
家族手当と同様に個人的事情に基づくものであるから、時間外手当の算定基礎から
除外しても、労働基準法に違反しない。
 したがって、時間外手当についての未払分はない。」
7 原判決一四頁七行目の「3」を「4」に改める。
8 原判決の別紙のうち「未払賃金明細表」中期間欄最上段の「93.1~3」を
「92.1~3」に改める。
第三 当裁判所の判断
一 本件雇用契約の内容及び未払賃金の請求について
1 前記当事者間に争いのない事実等及び証拠(甲一、二、四ないし八、一七、二
三、三〇、三一、三九、乙一、二、七ないし九、一二、二〇、二六ないし三一、四
四(枝番のあるものはその全てを含む。)、証人b、同a、同c、控訴人本人)並
びに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実を認めることができる。
(一) 控訴人は、昭和五六年に、早稲田大学理工学部を卒業して日産自動車株式
会社に入社し、自動車エンジンの設計、品質管理、市場クレーム対策等の業務を担
当してきたところ、平成三年ころから、仕事の幅を広げて
ゼネラリストを目指すべく、就職情報誌等により転職に関する情報を収集するなど
して、希望にかなう転職の機会を窺っていた。
(二) 被控訴人は、従業員の人材の量的確保及び質的拡充が不可欠である一方採
用環境が年々厳しくなっていること、今後の業務の拡大の中で他業種経験者からの
人材確保が有用であることなどの認識に基づき、それまで臨時的に行ってきた中途
入社者の採用を計画的に実施し拡充するとの方針を立て、平成三年四月、これを労
働組合(全損保日新支部)に提案し、その運用基準等について協議した。その結
果、同年七月八日、運用基準について合意に達してその実施につき組合の了解を得
ることができたので、運用基準に基づき計画的な中途入社者の採用(以下「計画的
中途採用」という。)を実施することを決定した。
(三) 運用基準(乙七)においては、その基準適用者を三〇歳以上の者とし、職
種、勤務地域限定の者(地域限定職型)以外の者(総合職型)の初任給の決定は、
「当該年齢の現実の適用考課の下限を勘案し、個別に決定する」ものとされた。ま
た、その昇給考課の運用については現行のあり様を基本とするとされたが、最長滞
留制度(同一格付に滞留する年数に限度を設ける制度)等の適用はしないものとさ
れた。これらは、計画的中途採用が既存の新卒採用者の雇用条件に悪影響を及ぼす
ことを懸念する労働組合との関係をも考慮し、新卒入社後一定の年数内であれば同
時入社者の間に格付の差がほとんどないが、一定の年数を超えると同時入社者間に
格差が生ずるところ、中途入社者の初任給の格付を新卒同年次定期採用者の中位の
者と同等に位置づけることは、社員全体の公平感、モラールを損なうおそれがある
との判断によるものであった。なお、この運用基準の策定及び労使交渉には、a課
長が中心的立場で関わった。
(四) 右労使間の合意が成立する直前、被控訴人は、計画的中途採用のため、就
職情報誌「Bーing」平成三年六月二七日号に求人広告を掲載した。
 その求人広告(甲一の一)には、「キャリアを活かした転身もよし。」、「新卒
としてやり直すもよし。」、「住みなれた土地で落ちつくもよし。」との見出しの
下に、「時代の変化、消費者のニーズの変化に対して、事業の多角化や企業内改革
で次々と柔軟で弾力的な革新を行ってきた、日新火災海上保険。その一環として今
年から、本格的な中途採用をスタートさせました。」
、「キァリアを活かした転職。業界経験、職種経験をフルに発揮して、もっと満足
できる環境のなかで能力を磨きたい。そんな方には、きっと納得していただけるよ
うな待遇を用意してお待ちしております。」、「第二新卒としてやり直してみたい
方。八九、九〇年既卒者を対象として、もう一度新卒と同様に就職の機会を持って
いただく制度があります。もちろんハンディはなし。たとえば八九年卒の方なら、
八九年に当社に入社した社員の現時点での給与と同等の額をお約束いたします。」
などの記載がされた。
(五) 控訴人は、右記事を見て、その希望にかなうものと考え、右求人に対し総
合職型社員として応募することとし、同年八月二六日d人事部次長及びb人事部課
長による第一次面接を受け、次いで、同月三〇日被控訴人の役員や人事部長等によ
る第二次面接を経て、同年九月初めころ被控訴人から入社予定日を平成四年一月一
日とする採用内定の通知を受けた。そして、平成三年一一月五日に会社説明会が行
われ、初めに総合職型と地域限定職型の両応募者が一緒に、後半は両者各別に説明
が行われたところ、総合職型には控訴人外一名が出席し、aから雇用条件、就業規
則等の内容の説明を受けた。その際、「本給・手当項目」と題する書面(甲二の
5)が示され、同書面には、各種手当の額が表示されていたが、本給については
「別紙のとおり」とのみ記載されただけで、その別紙として本給テーブルその他そ
の具体的な額を示す資料は提示されなかった。控訴人は、同年一二月二五日ころ、
採用通知を受け、これに対し誓約書、身元保証書等を提出して、そのころ、被控訴
人と控訴人との間に平成四年一月一日を入社日とする本件雇用契約が成立した。
(六) 平成四年一月当時、その年度の期首(平成三年四月一日)における満三三
歳(控訴人の入社時の年齢)の事務給職員三八名の格付分布は、Ⅱ類B八名、同C
二四名、同D六名であった。そこで、被控訴人は、運用基準に基づき、被控訴人の
初任給をその下限であるⅡ類D(平成三年度の本給テーブルにおけるその本給の額
は二三万二七〇〇円)に格付することとし、平成三年一二月二五日労働組合と交渉
してその合意を得た。
(七) 控訴人は、平成四年一月六日から出社し、同月九日に、採用年月日を同年
一月一日、勤務部署を安全サービス部サービス課、本給を二三万二七〇〇円、職位
を主任とする本給通知書(甲二の7)の交付を
受け、これにより自己の本給額を初めて知らされた。
(八) 被控訴人は、前記中途採用に次ぐ計画的中途採用のため、平成四年五月二
八日号の「Bーing」に再度求人広告を掲載したが、その広告(甲一の三)に
は、「正社員定期中途採用も二年目を迎えました。」、「同年次新卒者の給与から
スタート。」との見出しの下に、「これは当社の正社員として入社し、当社幹部を
めざしていただくための募集です。去年四月に約五〇名の新入社員を迎えました
が、それと同様に昨年一年間で定期中途入社者を約三〇名迎えました。」、「全く
異職種の方を迎える「定期採用」に当たって私たちは二つのことを用意しました。
一つは給与面で新卒同年次入社者の平均給与からスタートしてもらうこと。もう一
つは新卒と同様にきちんとした研修プログラムを用意することです。去年入社した
三〇名は(中略)今では自分の経験を現場で生かし、新卒組を刺激してくれる存在
になっています。」などと記載した。
 なお、被控訴人は、平成四年の採用をもって、計画的中途採用を中断した。
(九) 控訴人は、平成五年三月に、上司から本給テーブルの等級が同年四月一日
付けをもってⅡ類DからⅡ類Cに上がる旨を告げられた際に、その格付が新卒同年
次定期採用者よりも遅れていることを初めて知らされ、そのことを契機に労働組合
から資料を得るなどして調査した結果、右Ⅱ類Dの格付は新卒同年次定期採用者の
下限に位置付けられたものであることを知った。そこで控訴人は、平成四年の求人
に応じて中途入社し控訴人と同様に中途入社者の格付に不満を持っていたcに相談
するなどするとともに、安全サービス部の上司に対し平均的格付への格付の変更を
陳情したが、平成六年一月にb(当時人事部次長)から、「採用時には下限にする
ことが決まっている。しかし努力すれば上がっていく。」旨の被控訴人側の回答と
説明を受けた。
(一〇) 控訴人は、右の回答に納得せず、被控訴人との対決姿勢を採ることに意
を決し、平成六年二月初め、被控訴人の中途入社者の採用方法につき、採用前に本
給額が示されていないこと及び求人広告の内容と実際の雇用条件とが異なることに
問題があるとして、労働省の窓口に相談した上、同月二一日に三田労働基準監督署
に被控訴人に対する是正措置の発動を求め、同監督署は、これに基づき、同年三月
九日被控訴人に対し、本給通知書の雇用契約前の交付がないこと及び
平成四年五月にされた就職情報誌「Bーing」掲載の求人広告(甲一の三)中の
「同年次新卒者の給与からスタート」との記載部分が実際の運用と異なることをそ
れぞれ指摘して、その是正を求める行政指導をした。
(二) 控訴人は、平成六年三月二四日、同年四月一日付けでの総務部総務課印刷
室への配置転換の通告を受けたが、右印刷室での仕事が印刷物の上げ下ろし等の肉
体労働業務であることから、肝機能障害、腰痛等の病気があること及び入社時の採
用条件と異なることを理由にこれを拒絶し、このため、右四月一日付けで自宅待機
を命じられ、そのまま同年七月二五日まで経過した。その間、控訴人は、自己の健
康状態に関し肉体労働を不適とする診断書を提出し、同年六月一五日本件訴訟を提
起し、同年七月五日労働基準法違反で被控訴人及びその担当者を労働基準監督官に
刑事告訴するなどした。控訴人は、同月二六日から浦和本社総務部の印刷室で製
本、印刷等の業務に従事し、平成七年四月一日から総務課内の資料センターへ配置
換えとなって、図書の管理、新聞の整理等の業務に従事し、平成九年四月一日付で
本店業務部へ配置転換となり、以来、郵便メールの仕訳等の業務に従事している。
2 右認定事実を踏まえて判断するのに、まず、控訴人は、本件雇用契約が給与に
関し控訴人主張の内容をもって成立したとする根拠として、前記1(四)認定の求
人広告(甲一の一)の記載を挙げ、控訴人本人も、その記載を見て、新卒同年次定
期採用者と同等の給与待遇を受けるものと理解した旨を供述する。
 しかしながら、求人広告は、それをもって個別的な雇用契約の申込みの意思表示
と見ることはできないものである上、その記載自体から、八九年及び九〇年既卒者
について同年次新卒入社者と同等の給与額を支給する旨を表示したもので、それ以
前の既卒者についてこれと同様の言及をするものでないことを十分に読み取ること
ができるものというべきであって、その他には「納得いただける待遇」との表現が
あるのみであるから、その記載をもって、本件雇用契約が控訴人主張の内容をもっ
て成立したことを根拠づけるものとすることはできないというほかない。
3 次に、控訴人の応募に対する被控訴人側からの採用(給与)条件に関する説明
の内容につき、控訴人は、その供述証拠(甲一七、控訴人本人)において、「平成
三年八月二六日の第一次面接において、dは、控訴人の質
問に対し、中途採用者に対するハンディはないことを明言し、そこで控訴人は、自
分が新卒同年次定期採用者と同一の待遇を受けるものと理解した。また、同年一一
月五日の会社説明会において、aは、控訴人の質問に対し、新卒同年次定期採用者
と同待遇で処遇し、平均給与からスタートしてもらう、中途採用者のハンディはな
いと回答した。」旨を供述する。
 これに対し、a及びbは、その供述証拠(乙二七、二八の各一、証人としての証
言)において、控訴人の右供述のような発言があったことを全面的に否定するとと
もに、右会社説明会において、aは、運用基準に基づき、中途採用者の初任給は当
該年齢の現実の適用考課の下限を勘案し、個別に決定するとの趣旨を明瞭に説明し
た旨供述する。
 右面接及び会社説明会における発言の内容については、右供述証拠以外に客観的
証拠はないから、この点の認定は、右各供述証拠の信用性のいかんに依拠するほか
ない。
(一) そこで、まず、a及びbの右供述証拠について考えると、次のような事情
に照らせば、運用基準に基づいて中途採用者の初任給は当該年齢の現実の適用考課
の下限を勘案し個別に決定するとの趣旨を説明したとの点については、これらの証
拠を採用することはできないというべきである。
(1) 前記1(二)に認定のように、被控訴人においては、当時採用環境が採用
側にとって厳しい状態になっていることを認識しつつ、有為の中途入社者の採用を
切望していたのであり、このことに照らせば、運用基準で定めたとおり中途採用者
の初任給が当該年齢者の現実の適用考課の下限に位置づけられることを明示した上
で適切な人材の採用を得ることは客観的にみても困難な状況にあったことは明らか
であるというべきであって、そのことは、aら被控訴人の人事担当責任者も十分に
承知していたものと考えられること。
(2) 被控訴人が就職情報誌「Bーing」に平成三年六月及び平成四年五月に
掲載した求人広告(甲一の一ないし三)の記載に照らせば、被控訴人は、中途採用
者として有為の人材を得るため、応募者に対し、同年次新卒者と差別しない処遇を
訴える姿勢を採っていたものと認められること。
(3) 被控訴人は、控訴人に対し、その採用前に本給テーブルその他初任給又は
その本給の額を具体的に示す資料を提示していないこと。また、もしaらが供述す
るように、適用考課の下限を勘案して決定するとの趣旨を
説明したとすれば、その説明を受けた控訴人らから、「下限」の意味を問われない
はずがないと考えられること。
(4) 前記1(九)に認定の事実に照らせば、控訴人が平成五年三月に上司から
知らされるまで新卒同年次定期採用者に劣らない格付がされているものと信じてい
たことは、これを認めることができるものというべきこと。
(二) 他方、控訴人の右供述証拠についても、右面接及び会社説明会において被
控訴人側から、初任給を新卒同年次定期採用者の平均的格付によるものとするとの
明確な説明があったとの趣旨においては、これを採用することはできないというべ
きである。aら被控訴人の人事担当責任者は、「当該年齢の現実の適用考課の下限
を勘案し、個別に決定する」との運用基準が、労使の交渉により定まったもので、
これによる運用が動かし難いものであることを熟知していたのであるから、同人ら
において、有為の中途採用者を得るため控訴人ら応募者に対し処遇上同年次新卒者
と差別しないとの趣旨を抽象的な表現をもって説明したとしても、初任給を新卒同
年次定期採用者の平均的格付によるものとするとの運用基準と明確に矛盾する説明
を明確な形ですることは考え難いところというほかないからである。
 また、この観点に照らせば、被控訴人が平成四年五月に「Bーing」誌上でし
た求人広告の内容から見て、同人らにおいて控訴人主張のような説明をしたはずで
あるとの控訴人の主張も、採用することはできないというべきである。
(三) そこで、以上判示したところを総合して判断すると、被控訴人の人事担当
責任者が右面接及び会社説明会において控訴人に対し説明した内容は、これを厳密
に明らかにすることはできないけれども、少なくとも、給与条件につき新卒採用者
と差別をしない(ハンディはない)との趣旨の抽象的な説明をしたものと認めるべ
きであるが、しかし、新卒同年次定期採用者の平均給与を支給するとか、それの平
均的格付による給与を支給するなど、控訴人の給与の具体的な額又は格付を確定す
るに足りる明確な意思表示があったものと認めることはできないというべきであ
る。
(四) そうとすれば、第一次面接及び会社説明会における被控訴人の人事担当責
任者の説明によって、被控訴人と控訴人との間に、本件雇用契約上、新卒同年次定
期採用者の平均的格付による給与を支給する旨の合意が成立したものということは
できない。
4 
以上によれば、控訴人の人事担当責任者による控訴人への説明は、内部的に既に決
定している運用基準の内容を明示せず、かつ、控訴人をして新卒同年次定期採用者
と同等の給与待遇を受けることができるものと信じさせかねないものであった点に
おいて不適切であり、そして、控訴人は、入社時において右のように信じたものと
認めるべきである(もっとも、「同等」といっても、そこにはある程度の幅があり
得るものであることを否定することはできない。)が、なお、被控訴人と控訴人と
の間に、本件雇用契約上、新卒同年次定期採用者の平均的格付による給与を支給す
る旨の合意が成立したものと認めることはできない。
 そうとすれば、控訴人主張に係る右内容の雇用契約が成立したことを前提とする
控訴人の本件未払賃金の請求は、後に判断する住宅手当及び時間外手当の点を除い
ては、その余の点につき判断するまでもなく、理由がないというべきである。
 なお、控訴人は、入社時の給与の格付のみならず、その後平成一〇年七月に至る
までの給与についても、新卒同年次定期採用者の平均的格付と同様に昇格し、昇給
すべきものとする合意が成立しているとして、これに基づく賃金の差額を請求して
いるが、右に判示したところによれば、この点も理由がないことが明らかというべ
きである。
二 住宅手当について
1 証拠(甲二の5、乙一、二)及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人は、就業規
則に基づくものとしての社員給与規程及びそれに基づく社員給与細則を定めている
ところ、控訴人の入社当時において効力を有する同規程(乙一)において、社宅等
社有施設以外に居住する社員に対し住宅手当を支給するものとし、その支給額を世
帯区分により区分し、単身独立生計者はこれを所得税法上の扶養親族を有する者と
有しない者とに区分し、所得税法上の扶養親族を有する者とは、本人と同居し扶養
している場合(生計を一にする証明書を添付すること)である旨を定め(一八
条)、同細則(乙二)において、その支給額を、単身独立生計者で所得税法上の扶
養親族を有する者については二万九五〇〇円、それがない者については二万六〇〇
〇円と定めている(九条)ことが認められる。
 そして、証拠(控訴人本人)及び弁論の全趣旨によれば、控訴人は、母を扶養者
としているが、母と同居していなかった者であると認められ、そうすると、右規程
等上控訴人に支給されるべき住宅手当の額
は二万六〇〇〇円である。
2 前記1(五)に認定した平成三年一一月五日の会社説明会において控訴人に示
された「本給・手当項目」と題する書面(甲二の5)の住宅手当の欄には、単身者
で自宅を有し、扶養者がいる者については月額二万九五〇〇円、扶養者がない者に
ついては月額二万六〇〇〇円を支給する旨の記載があるところ、控訴人は、その本
人尋問において、右説明会の席上aから、単身者で扶養親族がある控訴人の住宅手
当が月額二万九五〇〇円となる旨を確認した旨供述し、控訴人と被控訴人との間に
同額の住宅手当を支給する旨の合意が成立した旨主張する。
 これに対し、aは、その供述証拠(乙二七、証人a)において、右説明会では、
諸手当について住宅手当を含めその概要を説明しただけであり、控訴人との間でそ
の供述するような具体的な応答があった記憶はない旨供述している。
3 ところで、給与の内容を成す各種手当の支給区分、額等について就業規則に基
づくものとして給与規程が定められている場合には、雇用契約締結時において当事
者間でこれと異なる内容によるものとして別段の合意をするなどのことがない限
り、その支給額はその規程の定めるところによるものとして雇用契約が成立するも
のというべきであるところ、右説明会においてaが右書面(甲二の5)に基づいて
した説明は、前記社員給与規程及び同規則の定めるところを説明する趣旨でしたも
のであることは明らかというべきである。したがって、その説明において、細部の
説明を欠き、正確性に欠けるところがあり、又は誤りがあったことなどにより、控
訴人において正しい理解を持つことができず、右規程等の定めるところと異なる認
識を持つに至ったとしても、(労働基準法一五条二項の問題が生ずる余地があると
しても、)そのことから直ちに、その際の説明内容又は控訴人が認識したところの
とおりの別段の合意が成立したものと認めることはできないといわなければならな
い。他に、右規程等の内容と異なる別段のものとして控訴人主張の合意が成立した
ものと認めるべき事由を見いだすことはできない。
4 よって、住宅手当の未払分の請求は、理由がない。
三 時間外手当について
1 被控訴人において、時間外手当算定上の賃金基礎額に、平成四年六月までは付
加給、定額付加給及び社会保険料補助を含めないものとし、同年七月以降も付加給
を含めないものとしていることは、当事者間に
争いがないところ、争点は、法内超勤及び法適用超勤のそれぞれにつき、これらの
賃金費目をその基礎額に加えないことの適法性いかんである。
2 法内超勤の時間外手当について
 労働基準法三六条一項に規定する労働時間の範囲内でのいわゆる法内超勤につい
ては、同法三七条の適用がないから、その労働に対する手当の額をどのように定め
るかは、基本的に雇用契約に定めるところによるものというべきである。しかると
ころ、証拠(乙一ないし六、証人b)及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人におい
ては、就業規則に基づくものとしての社員給与規程及びこれに基づく社員給与細則
を労働組合との協議を経た上で定めており、同細則によれば、右1のとおり付加給
等の賃金費目を含めないものとしてその基礎額を定めていることが認められ、これ
が被控訴人と控訴人との雇用契約の内容となっているものと認められる。そして、
右は労使の協議を経て定められているものである上、本件証拠上、その定められた
基礎額が労働契約上の信義則に照らし不当に低額に過ぎると判断すべき事情を認め
ることもできない。
 したがって、法内超勤に関する限り、右付加給等の賃金費目をその基礎額に加え
ないことをもって違法と評価し、雇用契約外の規範をもってこれを補充しなければ
ならないこととする根拠はないというべきである。
 よって、法内超勤に係る時間外手当の未払額及びこれに関する付加金の支払を求
める請求は、理由がない。
3 法適用超勤の時間外手当について
 労働基準法三六条一項に規定する労働時間を超える労働に対する割増賃金の基礎
となる賃金について、同法三七条四項は、家族手当、通勤手当その他命令で定める
賃金は算入しないと定め、この規定に基づく同法施行規則二一条は、右賃金に算入
しない賃金として別居手当、子女教育手当、臨時に支払われた賃金及び一か月を超
える期間ごとに支払われる賃金を定めているところ、これらの規定は、算入しない
賃金をこれらの賃金に限定する趣旨と解すべきであるから、右1の付加給、定額付
加給又は社会保険料補助が、これら列挙された賃金と実質的に見て同視すべきもの
ということができるかどうかの観点から検討すべきである。
 そこでまず、付加給についてみると、証拠(乙一ないし六、四〇ないし四二、四
五、四八の1、証人b)によれば、被控訴人は、その社員給与規程において、付加
給につき、期首五四歳以前の社員に対
しては臨給分割払分を付加給として支給する旨(乙一の二三条等)、臨時給与につ
き、臨時給与は会社の業績その他を勘案し必要に応じて支給する、臨時給与の支給
期、支給額、支給要件等についてはその都度定める旨(乙一の三九条等)を定めて
いること、付加給は、通常毎年六月と一二月に支給される臨時給与の一部を分割し
て毎月支給する趣旨で設けられたものであること、そのため、その支給額(算定基
礎額に対する比率、臨時給与との按分等)は、毎年、臨時給与の額の決定ととも
に、労使協議を経て個別に決定されてきたこと、付加給を割増賃金の基礎に加えな
いことにつき(定額付加給及び社会保険料補助を除外していた当時においてこれら
の賃金費目を加えないことについても)、これまで被控訴人の労働組合から異論が
提起されたことがないことがいずれも認められる。これによれば、付加給は、その
内容の実質において、臨時給与、すなわち一か月を超える期間ごとに支払われる賃
金と同じものと評価することができる。
 しかしながら、一か月を超える期間ごとに支払われる賃金を割増賃金の基礎から
除外することとした前記規則の規定の趣旨は、家族手当や通勤手当等が労働の質や
量と無関係な労働者の個人的事情に応じて支給されるものであることに基づくのと
は異なり、それが労働に対する対価であることは否定し得ないものの、計算技術上
割増賃金の基礎とすることが困難であるとの理由に基づくものと解されるから、付
加給が臨時給与とその内容において同質のものであるとしても、その支給月額が毎
年あらかじめ定められ、これにより月毎に支給されるものである以上、これを一か
月を超える期間ごとに支払われる賃金と同視して、割増賃金の基礎から除外するこ
とはできないものと解すべきである。
 次に、定額付加給及び社会保険料補助については、証拠(証人b)によれば、平
成四年七月からこれらの賃金費目を基礎額に加えることとしたのは、労働基準監督
署からの改善指導によったものであると認められるところ、これらの賃金が家族手
当等と同様に労働の質や量と無関係な個人的事情に応じて支給されるものに当た
り、その他前記除外賃金と同視すべき賃金に当たるものと認めるに足りる証拠はな
い。
 そうすると、被控訴人は、労働基準法三七条一項に基づき、控訴人の法適用超勤
の労働に対し、右付加給、定額付加給及び社会保険料補助の額を加算した基礎額に
基づく
割増賃金を支払う義務があるものというべきところ、控訴人がした法適用超勤の時
間、控訴人の給与の時間単価、その基礎となる各賃金費目の額等に関する前記第二
の二3(一)(1)、(3)、(4)の事実及び同(5)のうち控訴人の現実の受
給額については、当事者間に争いがないから、これにより算出される法適用超勤に
係る時間外手当の額と現実に支給した額との差額は、別紙「法適用超勤の時間外手
当不足額」記載のとおり、合計九万六九二四円(うち平成六年三月分まで九万六四
九五円、平成九年五月から七月分まで四二九円)となる。
 なお、被控訴人は、時間外手当の請求につき消滅時効の主張をするものかどうか
必ずしも明らかでないが、仮にその主張をするものとしても、本件訴状の記載によ
れば、その中に右時間外手当の請求を含むことが明らかであるところ、同訴状によ
る本件訴えの提起が平成六年六月一五日にされたことは本件記録上明らかであり、
かつ、証拠(甲四の1ないし3)によれば、控訴人は被控訴人に対し、同年二月二
一日到達の書面をもって未払賃金(時間外手当を含む。)の請求をしていることが
認められるから、その主張は理由がない。
4 付加金について
 控訴人は、右時間外手当の未払分について労働基準法一一四条の規定による付加
金の支払を求めるが、右3判示のとおり、その支払不足額は、主として付加給を基
礎額に加えなかったことによるものであるところ、その内容の実質が一か月を超え
る期間ごとに支払われる賃金と同じものであること、付加給等を基礎額に加えない
ことについて被控訴人の労働組合からこれまで何らの異論が提起されたこともなか
ったこと及びその不足額が小額であることに照らし、その不払の違法性の程度は低
いものというべきであることにかんがみ、当裁判所としては、これに対し付加金の
支払を命じないこととするのが相当であると判断する。
四 慰謝料の請求について
1 前記一に判示のとおり、被控訴人は、計画的中途採用を推進するに当たり、内
部的には運用基準により中途採用者の初任給を新卒同年次定期採用者の現実の格付
のうち下限の格付により定めることを決定していたのにかかわらず、計画的中途採
用による有為の人材の獲得のため、控訴人ら応募者に対してそのことを明示せず、
就職情報誌「Bーing」での求人広告並びに面接及び社内説明会における説明に
おいて、給与条件につき新卒同年次定期採用者
と差別しないとの趣旨の、応募者をしてその平均的給与と同等の給与待遇を受ける
ことができるものと信じさせかねない説明をし、そのため控訴人は、そのような給
与待遇を受けるものと信じて被控訴人に入社したものであり、そして、入社後一年
余を経た後にその給与が新卒同年次定期採用者の下限に位置づけられていることを
知って精神的な衝撃を受けたものと認められる。
 かかる被控訴人の求人に当たっての説明は、労働基準法一五条一項に規定すると
ころに違反するものというべきであり、そして、雇用契約締結に至る過程における
信義誠実の原則に反するものであって、これに基づいて精神的損害を被るに至った
者に対する不法行為を構成するものと評価すべきである。
 また、前記一1(七)及び(九)に認定の事実に照らせば、控訴人は平成四年一
月の入社以来平成五年三月に上司から新卒同年次定期採用者との間に給与上の格差
があることを聴かされるまでは、配属先の安全サービス部サービス課において格別
の問題もなく勤務してきたものと推認される。しかるに、控訴人は、同(九)及び
(一〇)認定の事実経過を経て、同(二)認定のとおり平成六年四月一日付けで総
務部総務課印刷室への配置転換の通告を受けたのであるが、同室の業務内容は印刷
物の製本、運搬等の肉体的単純労働を中心とする業務であるところ、控訴人の被控
訴人への入社の意図及び被控訴人の控訴人採用の趣旨等に照らしてその配置転換の
必要性、必然性を首肯するに足りる合理的理由を見いだすことは困難というべきで
あるから、右配置転換は、控訴人が被控訴人に対し給与上の格付を不当として新卒
同年次定期採用者の平均的格付をするよう要求し、その要求が入れられなかったこ
となどから被控訴人に対する対決姿勢を採るに至り、被控訴人の中途採用者の採用
方法につき労働基準監督署に対し告発行動をとるに至ったことなどの被控訴人の行
動をその主たる理由とするものと推認するほかないものというべきである。そし
て、右のような控訴人の行動が前示採用の過程における被控訴人の不適切な説明に
由来するものであることにかんがみれば、この点の被控訴人の控訴人に対する行為
もまた、雇用契約上の信義誠実の原則に反する違法な行為に該当し、これに基づい
て控訴人が受けた精神的損害に対し不法行為を構成するものと評価すべきである。
 そして、右に判示したところと証拠(控訴人本人)によれば
、控訴人は、右に指摘した被控訴人の行為により、少なからざる精神的苦痛を被っ
たものと認めることができる。
 なお、前示のとおり、控訴人は、その後平成七年四月一日に総務課内の資料セン
ターへ配置換えとなるとともに、給与の格付においてⅡ類Cから同Dに降格され、
平成八年四月一日付けで更に同Eに降格され、平成九年四月一日付けで本店業務部
へ配置転換されるなどの処遇を受けているところ、これらの配置換えや降格は、右
の控訴人と被控訴人との間の抗争の延長線上のものではあるけれども、証拠(乙一
七ないし二三)によれば、控訴人の平成六年四月の前記配置転換後の勤務状況は、
遅刻・早退が多く、勤務時間中の怠業行動も少なくないものであると認められるか
ら、これらの措置をもって独自の不法行為を構成するものと認めることはできない
というべきである。
2 したがって、被控訴人は、控訴人に対し、被控訴人と控訴人との雇用契約締結
の過程における説明及び平成六年四月一日付けの配置転換の点において不法行為を
行ったものと認めるべきであるところ、前記一1に認定した事実その他本件に現れ
た一切の事情を総合考慮して、被控訴人の右不法行為により控訴人が被った精神的
苦痛を慰謝すべき金額としては、金一〇〇万円をもって相当と認めるべきである。
五 結論
 以上のとおりであるから、控訴人の本件請求は、時間外手当九万六九二四円及び
内金九万六四九五円に対する平成六年九月二九日から、内金四二九円に対する平成
一〇年七月二八日から各支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金
並びに慰謝料一〇〇万円及びこれに対する右同日から支払済みまで民法所定の年五
分の割合による遅延損害金の各支払を求める限度で理由があるからこれを認容すべ
きであり、その余は理由がないから棄却すべきである。
 よって、これと一部異なる原判決を右の範囲において変更することとして、主文
のとおり判決する。
東京高等裁判所第二二民事部
裁判長裁判官 濱崎恭生
裁判官 田中信義
裁判官 松並重雄

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