弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

 主文
原判決を破棄する。
被告人を懲役六月に処する。
但し此の裁判確定の日より三年間右刑の執行を猶予する。
原審において生じた訴訟費用は全部被告人の負担とする。
         理    由
 本件控訴の趣意は、末尾添附の検事山本稜威雄及び弁護人大蔵敏彦各作成名義の
控訴趣意書と題する書面記載のとおりであつて、これに対して当裁判所は次のとお
り判断する。
 検事控訴趣意第一、について。
 <要旨>仍つて按ずるに、国税犯則取締法第二二条第一項に所謂煽動とは、同条項
に掲ぐる行為の孰れかを実行させる目的を以つて、文書若くは図画又は言動
により、他人に対し、その行為を実行する決意を生ぜしめ又は既に生じている決意
を助長させるような勢のある刺激を与えることを謂うものと解するを相当とする。
而してこの煽動罪たるや所謂形式犯に属するものであつて、右に所謂煽動行為のあ
りたることによつて直ちに成立し、必ずしも相手方において、その結果を惹起した
ことを要しないのは勿論、煽動となる意思表示は、社会通念に照らし、相手方に対
して認識又は了解され得る程度及び方法において為されるを以つて足り、相手方に
おいて現実に認識又は了解することを必要としないものと解すべきである。され
ば、その意思表示が文書によつて為される場合においては、その文書を他人によつ
て閲覧され得るような状態におくにおいては、右煽動罪は成立するものと解しなけ
ればならない。
 今本件について観るに、原判決は煽動文書を以つてする煽動にあつては、当該煽
動文書を相手方の閲覧可能状態におくこと又は相手方の感覚的認識に達せしめるこ
とは、未だ実行の着手たるに止り、未遂罪を罰しない煽動罪においては、犯罪とな
らず、その文書を相手方が認識理解して始めて煽動罪の既遂となる旨説示し、本件
公訴事実中第一、第二、については、原判示第一、第二の如く摘示して有罪の認定
をし乍ら、公訴事実第三、の事実即ち「被告人が昭和二七年二月二二日午前一〇時
四〇分頃沼津市a町b喫茶店Aにおいて判示第一、に掲げたと同様のビラ五枚を同
店内に出入する不特定多数の国税納付義務者に閲覧させる目的で、同店内のテーブ
ルの上に頒布して国税の納付を為さないことを煽動した」との訴因については、被
告人が右の日時判示第一、と同様のビラ五枚を右喫茶店内のテーブルの下に置いて
来た事実は、証人Bの証言により認められるけれども、右のビラの内容を国税の納
付義務者に閲読理解せしめたという証明がないとして無罪の言渡をする旨説示して
いること原判文上洵に明らかである。
 然し乍ら、右は前掲国税犯則取締法第二二条第一項に所謂煽動罪の意義の解釈を
誤りたるに基く違法あるものであつて、該違法は判決に影響を及ぼすこと洵に明ら
かであるから、此の点の論旨はその理由あるものと謂うべく、原判決は到底破棄を
免れない。
 仍つて他の論旨及び弁護人の控訴趣意についての判断を省略し刑事訴訟法第三九
七条第三八〇条第四〇〇条但し書に則り、原判決を破棄し、当裁判所において直ち
に判決することとする。すなわち当裁判所は、原審公判調書中の被告人の供述記載
及び原審における証人C同B同D同Eに対する各尋問調書における各供述記載及び
押収にかかるビラを綜合して次の事実を認定する。
 被告人はF党員でG委員会において実際運動に従事していた者であるが、
 第一、 昭和二七年二月二一日午後七時頃沼津市c町d番地新聞販売店H方にお
いて、その妻Dに対して、同人の一取扱いに係る同月二二日付朝刊「I」及び
「J」の両新聞に、 「平和のために再軍備の徴税に反対しよう」という標題の下
に、その冒頭に昭和二十七年度の所得税の内示額が税務署から発表されたがその課
税率が前年度に比して著しく高いことを述べ、次いで昭和二十七年度の国家予算を
批判してその大部分がいわゆる再軍備のための予算であると述べた末尾の項に「重
税に苦しむ業者の皆さん、私達の生活に今破滅の所まで来ている。税金なんか一文
も払えない所に来ている。三重県の一部落では竹槍の先に令書をつけて全員で税務
署に押しかけて闘つた。神奈川県の一漁師町では差押えに来た税務署員をトラック
から引きずり下し差押えを出来たい様にしている。
 沼津でも市民税なんか一文も払わないときめた町がある。十二月にはドプロク問
題で朝鮮人から署に押しかけ物品をとりかえしている。皆さん、Kの手先税務署に
隣近所の人々と手を組んで団結して闘おう。国民生活の改善、戦争のための重税は
一文も払うな。一人一人では駄目だ、組合員全員で闘え、差押えは実力で紛砕し
ろ・強制徴収は絶対反対・」と記載し最後にF党G委員会と印刷した半紙半折大の
赤色のビラ一五〇〇枚を国税の納付をさせない目的をもつて折込み配達方を依頼
し、その翌二二日朝同店の販売区域である同市内e町、f、g町及びh町附近の購
読者に配布せしめて頒布し、
 第二、 翌同月二二日午前一〇時頃沼津市i町j番地種苗販売業C方において、
前同様のビラ八枚を、前同様の目的をもつて同人並に同店に出入する不特定多数人
に頒布し、
 第三 同日午前一一時四〇分頃同市a町b喫茶店A方において、同店内に前同様
のビラ五枚位を前同様の目的をもつて同店に出入する不特定多数人に頒布し、
 以つて国税の納付を為さないことを各煽動したものである。
 法律に照らすと、被告人の判示各所為は、国税犯則取締法第二二条第一項に該当
するところ、以上は刑法第四五条前段の併合罪であるから、所定刑中夫れ夫れ懲役
刑を選択し同法第四七条第一〇条によりその犯情最も重い判示第一の罪の刑に法定
の加重をした刑期範囲内において被告人を懲役六月に処し、諸般の情状に鑑み同法
第二五条を適用して、此の裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することと
し、訴訟費用の負担につき刑事訴訟法第一八一条第一項を適用して、主文のとおり
判決する。
 (裁判長判事 中野保雄 判事 尾後貫荘太郎 判事 渡辺好人)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛