弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を罰金参万円に処する。
     右の罰金を完納することのできないときは、金弍百円を壱日に換算した
期間被告人を労役場に留置する。
         理    由
 本件控訴の趣意は、本判決書末尾添附弁護人津川友一作成の控訴趣意書と題する
書面記載のとおりである。
 控訴趣意第一点について。
 弁護人は、被告人が淫行をさせたAの年齢について、被告人は十八才未満の児童
であることを知らなかつたのにかかわらず、原判決がその認識があつたと認定した
のは、事実誤認である、と主張するけれども、児童福祉法第六十条第三項による
と、児童に淫行をさせる罪については、児童を使用する者は、過失のない場合を除
き、児童の年齢を知らないことを理由として処罰を免れることができないのてある
から、原判決は、被告人が「女中として雇入れていた十八才に満たないAをして対
価をえて情交をさせ、もつて児童に淫行をさせた」と判示しておるのであつて、A
の年齢に関する被告人の認識について所論のような認定をしていないのである。そ
して、原判沢の挙示する証拠によれば被告人はAから「数え年十八才」と聞きなが
ら同女の年齢を確認する措置を採らなかつたことを認め得られるから、かりに弁護
人主張のように、被告人がAの年齢が十八才未満であることを知らなかつたとして
も、その知らなかつたことについて被告人に過失があることが明白である。然ら
ば、原判決が被告人の右の点に関する認識のいかんにかかわらず、同法第六十条第
一項を以て問擬したのは正当であつて、論旨は理由がない。
 同第二点について。
 原判決は「被告人は、昭和二十七年四月二十四日から同年六月二十六日までの
間、三日に一回の割合で、被告人方で、女中として雇入れていた十八才に満たない
Aをして氏名不詳の客と対価をえて情交をさせ、もつて児童に淫行をさせた」と判
示し、その擬律において、「判示各所為は児童福祉法第三十四条第一項第六号、第
六十条第一項に当る罪で刑法第四十五条前段の併合罪である」と判断し、懲役刑を
選択し刑法第四十七<要旨>条、第十条第三項を適用して併合加重をしておること、
所論のとおりである。しかし、右児童福祉法第三十四条第一項第六号、第六
十条第一項に該当する罪は、その侵害せられる法益が、対象である児童の福祉とい
う専属的単一の利益であるから、児童をして淫行をさせたときは、淫行の回数が一
回であつても同罪が成立することもちろんであるが、それが継続的に反覆せられる
場合においても、回数のいかんにかかわらず児童ごとに包括的に観察して一罪とす
る趣旨であると解すべきである。従つて、原判決が三日に一回の割合で右Aをして
客と対価を得て情交をさせるたびに同条違反罪が成立すると解し、併合罪の加重を
したのは、法令の適用を誤つており、その誤は判決に影響を及ぼすことが明白であ
る。論旨は理由あり、原判決はこの点において破棄を免れない。
 同第三点について。
 弁護人は、被告人の司法警察員に対する第二回供述調書の謄本に供述者の押印が
ないのに、原裁判所がこれを証拠に採用したのは違法である。と主張するけれど
も、供述調書の謄本に供述者の押印がないのは当然である。記録を精査しても原審
の訴訟手続に法令の違反はないから、論旨は理由がない。
 よつて、量刑不当の論旨に対する判断を省略し、刑事訴訟法第三百九十七条、第
三百八十条に従い原判決を破棄し、同法第四百条但し書によつて更に判決をする。
 原判決の認定する事実に法令を適用すると、被告人の行為は、児童福祉法第三十
四条第一項第六号、第六十条第一項に当るから、所定刑中罰金刑を選択し、被告人
を主文第二項の刑に処し、刑法第十八条により罰金完納不能の場合における労役場
留置の期間を定める。
 (裁判長判事 瀬谷信義 判事 山崎薫 判事 西尾貢一)

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