弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役六月に処する。
     但し本裁判確定の日より弐年間右刑の執行を猶予する。
     原審並に当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。
         理    由
 検察官長井省吾の陳述した控訴趣意は検察官検事斎藤吾郎作成名義の控訴趣意書
の記載と同一であるからこれを引用する。
 同控訴趣意第一点、第二点について。
 原判決が本件起訴状記載の業務上横領の公訴事実(予備的訴因背任)に対し平鹿
郡a1町b字cd番の内e所在原野二町八反一畝二十六歩はA組合の所有財産では
なく、所論B組合員に贈与されたものであつて被告人は右B組合員全体の利益を考
慮しこれを売却処分したものであり、その売得金は右組合員各自に分配しているの
であるから被告人には不法領得の意思を認めることはきでないし又背任の証拠もな
い旨判示して無罪の言渡をしたことは判文に徴し洵に所論のとおりである。
 しかして右は原判決において採証につき経験則を無視若くは審理不尽に基き或は
法律の解釈を誤つたため判決<要旨>に影響を及ぼすこと明かな事実誤認の違法を冒
した結果に基因するというのであるをもつて按ずるに当裁判所</要旨>は本件の如
く原審が被告人の犯罪事実の存在を確定せず無罪を言渡した場合原判決破棄の事由
ありと思料されるときに刑事訴訟法第四百条但書の趣旨は控訴審で新たな事実の取
調をなさざるべからざるものと解すべく本件については当審においてその取調をな
した結果これのみにても原判決に事実誤認の疑があることが窺知される。されば更
に訴訟記録、原審裁判所で取調べた証拠と当審で取調べた証拠と相侯つて公訴事実
につき検討するに後記自判の際挙示する措信するに足る各証拠を綜合すればA組合
は秋田県平鹿郡b村当局(後にa1町に合併)が昭和二十九年頃より村の赤字財政
を打開する方策として村有財産の整理に乗り出したため村有原野に採草地を保有す
る部落民がその利益を擁護することを主たる動機として昭和三十年二月頃被告人を
組合長とし同村f、g、h、i、j、k、l、m、n、o、p、q、r、s、t、
u、v等十八部落の住民を構成員として発足したもので、当初は村有の原野を期限
を定めて借受ける予定であつたところ、その後b村がa1町と合併する気運に向い
村当局としても赤字の解消と合併後の紛争を絶つ趣旨で入会地はこの際入会権者に
夫々処分することに決しこれに伴い組合においても種々協議折衝を重ねた結果b村
有のb字cd番所在原野d二町歩及び同所wx番所在原野十七町歩合計五十九町歩
を代金二百九十万円で村より買取ることとなり、f、g、hの三部落を除いた前記
十五部落住民のうち百六十四名を組合員として最終的に確定した上組合員一人当り
金一万八千三百円を買収資金として出資することを決定し旦つ右原野を一号帳場よ
り十六号帳場の十六地区に分割しそのうち二号乃至十六号の十五地区を部落単位で
編成した十五班の組合員に右出資額を最低競売価格としてせり上げ競買せしめ同年
七月三日C小学校において開催された組合員全体協議会において右十五地区はそれ
ぞれ全組合員に買取られ(組合書記Dにも一部贈与されている)残余の一号帳場で
ある本件原野即ちb字cd番のe所在原野二町八反一畝二十六歩は将来牧道を造営
する際の潰れ地の代替地に充当するため組合の予備地として、残されたもので右全
体協議会においては右地区に近いs、r、p、n、o、qの地元Bが採草地を失う
代償として同部落組合員のみならず非組合員に対しても右地区の入会権を確認され
たがB組合員に贈与されたものではないこと。そして被告人は組合長として組合財
産の管理保管の職責上便宜自己及び副組合長Eの共有名義をもつて本件原野の所有
権移転登記手続を経由していたところその後一部組合員の希望を容れ正規の機関た
る総会は勿論理事会の議に諮ることなく擅にこれをFに十六万円で売委せ、同人の
斡旋により昭和三十一年一月八日頃同郡a1町字a2y番地Gに代金二十五万円で
売却した事実を肯認するに十分である。右と認定を異にして本件原野が原判示のと
おり地元B組合員に贈与されたものとなす被告人並に証人E、D、H、I、J、
K、Lの原審公判廷における各供述記載、及び当審証人D、E、H、Iの各供述は
前掲各証拠に対比しにわかに信を措き難いばかりでなく組合員全員の出資をえて買
取つた本件原野を、たとえ入会権の問題があつたにせよ地元B組合員に無償で贈与
するということの合理的な根拠は本件記録上これを発見しえないし又当審証人Dの
供述により昭和三十年七月三日開催された組合員全体協議会の際のメモであること
が明かな事務簿(証第三号)中の該当部分の記載には右大会において贈与が可決さ
れたとなす被告人等の弁解にも拘らすかかる事柄は一言半句も記載されておらず、
単に予備地が代替地であることを明記しておるに過ぎないのであつて、この点につ
き同証人は誤つて書落した旨供述するけれども、かかる重大な事項を一言半句の記
載もなく書落すということは経験則に照らし到底首肯し難いことであるから、これ
らの点よりしてもその措信しえないことは明かである。被告人は原判決も説示する
とおり本件原野の売得金十六万円を前記B組合員に分配していることは記録上これ
を認めうるのであるがこの事実は後記の如き情況下に行われたものであり旦つ右は
地元Bに贈与のあつたことを裏付けるに足りないし又被告人は本件は本原野がB組
合員に贈与されたものと信じたこと即ちこの点につき犯意を否定すべき事実の錯誤
があつたことを証明するにも足りない。殊にM、N、Oの司法警察員に対する各供
述調書の記載によれば被告人は右原野を売却したことが組合員の間に知れて騒然と
して来たことに狼狽し急遽これを分配するに至つたもので、B組合員においても当
初他の組合員より苦情の出ることを怖れて受領を拒むものもあつたが被告人が責任
を持つということに説得されて已むなくこれを受取つたに過ぎない事実、原審証人
Pの供述記載により認めうる被告人は原審公判に出廷の同証人に偽証を勧誘してい
る事実等に照らせば被告人の犯意は之を否定しえない。他に前記認定を覆すに足る
証拠はない。してみれば被告人の本件所為が業務上横領罪を構成することは明瞭で
あるといわなければならない。そして横領罪における不法領得の意思は他人のもの
の占有者が委任の趣旨に違背しその物につき権限がないのに所有者でなければでき
ないような処分をする意思をいうのであつて必ずしも自己において利益取得を意図
することを必要とするものではないのであるから売得金を分配した被告人の行為が
本件横領罪の成否に何等消長を及ぼすものでないことはいうまでもない。しかるに
原判決がこれと異る見解に立脚し本件業務上横領の公訴事実につき犯罪の証明なし
としたのは畢竟経験則並に採証の法則に違背して証拠の価値判断を誤り措信しえな
い証拠をたやすく措信した結果事実を誤認するに至つたものというべくその誤は判
決に影響を及ぼすこと勿論であるから原判決は破棄を免れない。論旨は理由があ
る。
 よつて刑事訴訟法第三百九十七条第一項により原判決を破棄し同法第四百条但書
により改めて次のとおり判決する。
 (罪となるべき事実)
 被告人は秋田県平鹿郡A組合の組合長であるが同組合は同郡z村(後にa1町と
合併)村有の同郡a1町b字cd番所在原野四十二町歩及び同町b字wx番所在原
野十七町歩をz村より金二百九十万円で買受けこれを十六地区に分割してそのうち
十五地区を昭和三十年十二月下旬頃までの間に組合員百六十四名にそれぞれ所有権
移転登記手続を完了したが残りの一地区である同郡a1町b字cd番のうちe所在
原野二町八反一畝二十六歩は将来牧道を造営する際潰れ地の代替地に充当するため
組合の予備地として残存せしめ被告人は組合財産の管理保管の職責上便宜これを自
己及び副組合長E両名の共有名義として所有権移転登記手続を経由し組合のため保
管中一部組合員の希望を容れて軽卒にもこれを擅にFに金十六万円で売委せ同人の
斡旋により昭和三十一年一月八日頃同郡a1町字a2y番地G方において同人に対
し金二十五万円で売却し以て横領したものである。
 (証拠の標目)
 判示事実は
 一、 原審証人P、同Qの各供述記載
 一、 E、Lの検察官に対する各供述調書
 一、 R、D、F、S、T、M、N、U、O、V、Wの司法警察員に対する各供
述調書
 一、 被告人の司法警察員に対する昭和三十一年三月二十六日附供述調書及び検
察官に対する供述調書
 一、 証人M、同Pの当審公判廷における各供述
 一、 押収に係るA組合規約一通(証第一号)FよりG宛の手紙一通(証第二
号)事務簿一冊(証第三号)組合員台帳(証第四号)「牧野改良組合組合員全体協
議会開催について」と題する書面一通(証第六号)の各記載
 を綜合してこれを認める。
 (法令の適用)
 被告人の判示所為は刑法第二百五十三条に該当するので所定刑期範囲内において
被告人を懲役六月に処すべきとろ犯情刑の執行を猶予するを相当と認めるので同法
第二十五条第一項により本裁判確定の日より弐年間右刑の執行を猶予すべく原審並
に当審における訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項本文により全部被告人の
負担たるべきものとして主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 松村美佐男 裁判官 小田倉勝衛 裁判官 三浦克己)

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