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裁判例


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○ 主文
一 北浦村長解職請求者署名簿の署名に関し別紙異議申出入目録記載の署名者四一
三名が同目録記載の日に申し出た詐偽に基づく旨の異議に対し、被告が昭和五八年
一二月二一日付で右異議の申出をいずれも正当であるとした決定を取り消す。
二 右署名簿記載の右四一三名の署名はいずれも有効であることを確認する。
三 訴訟費用は、そのうち参加によつて生じた部分を参加人の負担とし、その余を
被告の負担とする。
○ 事実
第一 当事者が求める判決
一 原告
1 主文第一、二項同旨
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 原告主張の請求原因
1 原告は、昭和五八年八月一六日Aと共に、茨城県行方郡北浦村長Bの解職請求
の代表者となつて、右解職請求に必要な法定数(北浦村議会議員及び同村長の選挙
権を有する者の総数の三分の一)である二七三九名を四〇一名上回る三一四〇名の
連署をもつて、被告に対し、別紙記載のとおりの請求の要旨によりB村長の解職を
請求した。
2 別紙異議申出入目録記載の四一三名は、解職請求者署名簿に署名した者である
が、それぞれ同目録記載の異議申出日に被告に対し、右署名簿記載の自己の署名は
詐偽に基づくものである旨の異議を申し出た。その理由とするところの要旨は、い
ずれも「異議申出入は、本件解職請求書を熟読のうえ、同書記載の事実関係は概ね
正確であると理解し、請求代表者の主張を妥当なものと判断」で署名したのであ
る。しかし、同書記載の解職請求理由のうち、(一)村が行戸地区にし尿処理施設
の建設を決定するに当たり関係地域住民にその計画の一切を秘匿したまま行つたと
する点、及び(二)本施設着工の際担当課長が「ひき殺してもかまわんから車を入
れろ。」と暴言を発したとする点は、著しく事実に反しており、かつ、これらは本
件解職請求の理由の主要な部分であるから、このような著しい虚偽の記載により異
議申出入の判断を誤らせた署名は詐偽に基くものに他ならない。」というものであ
る。
3 被告は、同年一二月二一日、右各異議申出をいずれも正当であると決定した
(以下、右決定を本件決定という。)。
4 しかしながら、本件決定は、地方自治法第八一条第二項により準用される同法
第七四条の三第二項の解釈適用を誤つたものであり違法である。すなわち、同条項
にいう詐偽とは、署名の目的を偽つて署名を求めるような行為を指し、解職請求の
要旨等に多少事実に相違する点があるとしても、署名者が解職請求の目的をもつて
署名した以上当該署名は詐偽に基づくものとはならないと解すべきである。そし
て、異議申出入らはいずれも本件解職請求書を熟読のうえ原告らの主張を妥当なも
のと判断し署名したというのであるから、異議申出入らがいずれも北浦村長Bの解
職を請求する目的をもつて署名したことは明らかであり、異議申出入らの署名はい
ずれも詐偽に基づく署名に該当しない。
5 また、異議申出入らりが異議の理由として掲げる前記解職請求理由中の二点の
事実には著しい虚偽はなく、また、右二点は本件解職請求の要旨の主要部分である
とは到底いい得ない。
6 よつて、本件異議申出をいずれも正当であるとした被告の本件決定は違法であ
るから、その取消し及び異議申出入らの署名がいずれも本件解職請求の署名として
有効である旨の確認を求める。
二 被告の答弁
1 請求原因1ないし3項の事実は認める。同4、5項の主張は争う。
2 地方自治法第八一条第二項により準用される同法第七四条の三第二項の規定
は、瑕疵ある意思に基づく署名を無効とし、もつて署名の収集に際して選挙権を有
する者の意思決定の自由が妨害、干渉されることを防止する趣旨の規定であるか
ら、当該解職請求の請求の要旨には重大な事実に相違する記載があり、これを真実
と誤信して署名した場合には、署名者が解職請求の意思をもつて署名したものであ
つても、その署名は詐偽に基づくものとする趣旨であると解すべきである。
3 本件解職請求書記載の請求の要旨の骨子に当たるのは次の二点である。
(一) 北浦村(B村長)は、昭和五七年八月、関係地域住民にその計画の一切を
秘匿したまま、行戸地区にし尿処理施設の建設を決定した。
(三) 昭和五八年六月二三日、二四日、二七日に強制着工に及び、この中で村長
は「行戸と戦争だ。」と公言し、また村の担当課長は「ひき殺してかまわnから車
を入れろ。」と二〇〇余名の行戸住民を前に暴言を発した。
右(一)、(三)が真実とすれば、北浦村長Bの行政に対する姿勢が問われねばな
らず、村民を全く無視した行政を行つていることになり、この点が本件解職請求の
署名をするか否かの意思決定をするうえでの重要な判断資料となり得るからであ
る。
4 しかしながら、右(一)の点及び(二)のうち村の担当課長が「ひき殺してか
まわんから車を入れろ。」との暴言を発したとする点は虚偽である。
(一) の点について、し尿処理施設を行戸地区に建設することになつたのは、そ
の用地設定に非常な困難をきたしていた当時の昭和五七年七月初旬頃、行戸地区の
Cより用地提供の申出があつたからであり、同月二一日し尿処理場建設の審議委員
会に諮り同委員会において右用地取得を決め、同年八月一七日右用地の賃貸借仮契
約を締結し、同月二四日村議会において予算決議がなされた。北浦村当局は、同年
七月二五日行戸上神田児童会館において行戸部落協議会を開催し(行戸地区住民一
四名出席)、同年八月七日(この日は地区住民五〇名による草刈りが行われた。)
行戸上神田地区総会においてし尿処理施設についての説明をし、同月一九日及び二
〇日の両日に行戸地区住民等による大分県<地名略>の自給肥料供給施設(し尿処
理センター)の視察を行うなど、村民に対し、し尿処理施設の建設を知らせてい
る。
(三) の担当課長の暴言について、同施設建設着工の昭和五八年六月当時担当の
北浦村産業課長は、同月二三日の現場資材搬入に立会つたが、その際搬入車両の進
入を妨害した一婦人が「ひき殺して入れ。」と怒鳴つたのを、同課長が発言したか
の如く逆宣伝されたものであり、同課長が前記のような暴言を発した事実はない。
5 以上のとおり、本件請求の要旨には、その骨子となる重要な部分に事実に相違
する記載があり、右記載が異議申出入らの署名を動機付けたのであるから右署名は
いずれも詐偽に基づくものであり、本件異議申出は正当である。
三 参加人の主張
1 異議申出入らの異議の理由とした本件解職請求の要旨記載の二点は、いずれも
虚偽であり、署名者の判断を誤らせたものであるから、異議申出は正当である。
2 原告は地方自治法第八一条第二項により準用される同法第七四条の三第二項所
定の詐偽とは署名の目的を偽ることのみをいうと主張するが、署名の目的を偽られ
解職を請求する意思を欠綣してなされた署名はそもそも解職請求の署名に該当しな
いから、同条項は解職請求の目的でした署名であつて署名の意思に詐偽による瑕疵
があるものを無効とする趣旨のものである。
同条項は詐偽と並んで強迫に基づく署名についても規定しており、強迫に基づく署
名には署名者が解職請求の目的を認識していてもその署名の意思決定が強迫により
なされた場合を含むのは明らかであることからしても、詐偽の意義は被告主張のよ
うに解すべきである。
3 また、右詐偽についての原告の見解によれば解職請求には理由は不要となり、
これは解職請求の署名を求める際に解職請求の要旨を明示することを義務づけ、選
挙権を有する者に解職請求の理由を示して解職請求者として署名するか否かの判断
の資料とさせる法令(地方自治法施行令第一一六条、第九一条第一項、第九二条第
一項)の趣旨に牴触する。
第三 証拠関係(省略)
○ 理由
一 請求原因1ないし3項の事実は、原被告間においては争いがなく、参加人は、
右各事実を明らかに争わないから、これを自白したものとみなすべきである。
二 被告及び参加人は、本件解職請求者署名簿添附の解職請求書(又は解職請求書
写、以下同じ)に記載された請求の要旨の中に、主張の二点の虚偽記載があるか
ら、同じ理由により署名が詐偽に基づくものとして署名者らが申し出た本件異議は
正当である旨主張するものである。
解職請求署名の異議に関する地方自治法第八一条二項により準用される同法第七四
条の三第二項所定の詐偽とは、署名の目的を偽り、その他これに類する偽計を用い
て署名すべきか否かの判断を誤らせる行為を指すものと解されるところ、もともと
多数人からの署名の収集を前提とする直接請求の署名の制度においては、署名者全
員が事実や価値判断のすべてにわたり全く同一の認識、判断に立つことを予定して
いないものと解するのが相当であるから、署名の目的自体が署名簿添附の解職請求
書に明記されている以上、同請求書に記載されている請求の要旨中の解職請求の理
由とする事実において真実と相違する記載があるとしても、他に署名収集に当たつ
て重大な虚偽説明が附加されるなど特段の事情がない限り、右記載が、社会観念に
照らし請求の要旨全体の記載そのものから客観的に判断して、解職請求署名の意思
決定を左右すると認められる程度に重要な事実の誤認を生じさせるに足りる虚偽記
載である場合に限り、詐偽に基づく署名として異議を申し出ることが許されるもの
と解すべきであり、右の程度に至らない事実に相違する記載があることをもつて詐
偽に基づく署名であるとして異議を申し出ることは許されないものと解すべきであ
る。
三 争いのない本件解職請求書記載の請求の要旨を検討するに、その記載全体によ
りB村長の解職を求める理由を要約すると、「北浦村のし尿処理施設の建設場所と
して決定された行戸地区の大多数の住民は、同村当局において建設計画を充分説明
して同地区住民の同意のうえで計画を進めるよう求め、昭和五八年六月七日助役ら
と話し合いの結果、同地区選出の農業委員や区長を加えた審議会で再検討する旨が
約束され、住民側も全村的見地に立つて協議に応じる態度を明らかにしていたの
に、村当局は、突如同月一八日、建設工事を強行する旨を明らかにし、警官隊の出
動まで要請して同月下旬以降工事を強行し、住民と誠実に話し合つて同意を得る努
力をしない態度を続けており、B村長は、住民意思の尊重を基本として村政を執行
すべき村長としては不適格であり、また話し合いによる問題解決の能力がない。」
というものであり、さらにこれを要するに、北浦村当局が、し尿処理施設の建設に
つき、関係地域住民の求めにより一旦は右建設計画の再検討を約束したにも拘ら
ず、住民との誠実な話し合いにより問題を解決する努力をしないまま警察力を借り
て右施設の建設工事を強行したという事実をもつて、村政の執行者であるB村長の
解職を請求する理由の根幹とするものである。
そして、右請求の要旨全体から客観的に判断すると、被告及び参加人が主張する本
件異議理由二点のうち、(一)の計画の秘匿の点は、請求の要旨記載の一連の経過
の発端となつた当初の事情を記したものであり(なお、村当局が行戸地区を建設場
所とすることを同地区住民に説明した時期が昭和五七年七月二一日審議委員会で同
地区内の用地取得を決定したのちであることは、被告自ら主張するところであ
る。)、(二)の担当課長の暴言の点は、建設工事の着手が強行された際の一事情
で、またB村長以外の者の言動の記載に過ぎないものであつて、いずれも、枝葉末
節の事柄に属し、その真偽により解職請求署名の意思決定を左右する程の重要な事
実の記載と認めるに足りないものであり、他に特段の事情を認めるに足りる証拠は
ないから、右各記載があることをもつて詐偽に基づく署名として異議を申し出るこ
とは許されないものである。
そうすれば、右(一)及び(二)の二点の記載事実の真偽を判断するまでもなく、
被告及び参加人の主張は理由がなく、他に異議申出人らの署名を無効とすべき事由
につき主張のない本件においては、地方自治法第八一条第二項により準用される同
法第七四条の三第二項の適用を誤つて異議を認めたものというべき被告の本件決定
は、違法として取消しを免れず、異議申出入らの各署名は有効と認めるべきであ
る。
四 よつて、原告の本訴各請求は理由があるから、これらを正当として認容すべき
ものとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条、
第九四条後段を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 渡辺 惺 大橋寛明 達  修)
別紙異議申出人目録(省略)
請求の要旨
北浦村(B村長)は、昨年8月、関係地域住民に、その計画の一切を秘匿したま
ま、行戸地区にし尿処理施設の建設を決定しました。これに対し、行戸住民は、1
68戸のうち数戸を除き反対している計画は民主主義に反しており、すみやかに白
紙に戻して再検討し、住民に対する充分な説明をし、その同意の上で建設計画を進
めることを強く求めてきました。
そして、本年6月7日、行戸住民代表は、村助役らと話しあいを行なつた結果、助
役は「審議会に行戸選出の農業委員、区長を加え、検討しなおす」との約束をなさ
れました。行戸住民は、これを機会に問題解決の道が見いだされるものと期待し、
村民の声を尊重した計画再検討については、全村的見地にたつて、協議に応じる態
度を明らかにしてきました。
しかるに、村は6月18日突如工事の強行着工の考えをビラにして配付し、同月2
3日、24日、27日の3回にわたつて、警官隊150名余の出動を要請して、住
民の同意を得ないまま強制着工に及びました。この中で村長は「行戸と戦争だ」と
公言し、また村の担当課長は「ひき殺してかまわんから車を入れろ」と200余名
の行戸住民を前に暴言を発したのです。行戸住民は、住民無視の上に、警察力をか
りて強行しようとする村の暴挙に対し、先祖伝来の地域環境を守り、村民の意思を
踏みにじる村政の姿勢をただすために工事反対の行動に立ち上りました。
さらに、6月27日の行戸住民と村当局との交渉においては、村は一々警察と相談
し、村民からは村長の統治者能力を疑う声すら出ました。
さらに、村当局は、住民と誠実に話し合い、その同意を得るという努力を一切せ
ず、7月3日午前1時卑劣にも夜陰にまぎれて、大型パワーシヨベルの搬入をはか
るなど、全く不誠実な態度をつづけています。
加えて、村当局は、このような強制着工に対し1000万円以上の出費を予定して
いるとのことです。
私達は、村政は村民の意思の上に成り立つもので、その目的は生活と環境を守るた
めにあるものと考えます。従つて、当然の事ながら村長は村民の意志を尊重するこ
とを村政執行の基本にすべきものと考えます。
以上の経過から、もはやB氏は私達の村長として不適格であることは明白であり、
とりわけし尿処理場の問題解決能力が全くないことが明白であります。
よつて、私達は、村民尊重の村政、話し合い解決の村政の確立のため、B村長の解
職を請求致します。

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