弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原審判を取り消し、本件を新潟家庭裁判所佐渡支部に差し戻す。
         理    由
 本件抗告の要旨は、抗告状の記載事実を一件記録に照して理解すれば、Aが昭和
四四年四月一二日死亡したところ、同人には法定の相続人なく、その全遺産がBに
包括遺贈されていたので、抗告人は右遺贈による不動産所有権移転登記申請のため
右受遺者とともに新潟地方法務局両津出張所に赴いて問い合せたところ、受遺者と
遺言執行者の共同申請によらなければ右登記申請を受理できない旨の回答であつた
ので、抗告人は利害関係人として、原審に遺言執行者の選任を申し立てたところ、
原審はその選任の余地がないかまたはあつてもその必要性がないとして右申立を却
下する旨の審判をしたが、抗告人はこれに不服であるから本抗告に及んだとの趣旨
であると解される。
 <要旨>不動産の権利変動に関する登記については、わが不動産登記法は登記官の
いわゆる形式的審査主義を建前としているから、登記の真正を期するため同
法は登記権利者と登記義務者の共同申請によらしめることを基本的な原則としてお
り、ただ例外的に、同法第二七条において判決または相続による登記は登記権利者
のみで申請しうる旨規定して相続による登記につき判決による登記と同様に相続人
の単独申請を許しているのは、相続のように被相続人との身分関係によつて法定さ
れた権利義務の承継については、戸籍その他社会生活上の外部的関係から一応明ら
かなので、単独申請を認めても登記の真正保持の点からみてさしたる支障がないか
らであると解される。したがつて、遺贈のような意思表示による物権変動について
は、それが特定遺贈であれ包括遺贈であれ、同条のような例外的規定は、その明文
上からしても、はたまた立法趣旨からしても適用がないのであつて、民法第九九〇
条に包括受遺者が相続人と同一の権利義務を有する旨規定されているからといつ
て、このことからただちに不動産登記法上包括受遺者の取得登記についてまで相続
人と同じく単独申請でなしうると解さなければならないわけのものではないのであ
る。すなわち、遺贈による不動産の取得登記は、判決による場合を除き、受遺者
(登記権利者)と遺言執行者または相続人(登記義務者)との共同申請によるべき
であつて、包括遺贈の場合も例外ではないと解すべきである(昭和三三年四月二八
日民事甲第七七九号法務省民事局長心得通達も同趣旨である。)。
 ところで、本件においては、遺贈者にはもともと法定相続人がなく、全遺産が包
括遺贈されたというのであるから、このような場合には、遺贈の効力が発生すると
ともに全遺産は受遺者に移転するから、その限りでは遺言の執行という観念を容れ
る余地がないけれども、遺贈による不動産の取得登記という点についてみれば、登
記義務者となるべき相続人がいないのであるから遺言執行者を選任して右登記手続
を完遂する必要性があるものといわなけばならない。してみれば、本件の場合に遺
言執行者を選任する余地がないか、あつてもその必要性が全く認められないとして
抗告人の本件申立を却下した原審判は不当であつて取消を免れず、本件を原審に差
し戻すのが相当であるから、主文のとおり決定する。
 (裁判長裁判官 青木義人 裁判官 高津環 裁判官 浜秀和)

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