弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人井上福太郎上告趣意第一点について。
 しかし、原判決の挙げている各証拠を総合すれば、原判示事実を認定したことは
首肯できる。証拠調の程度範囲は、原則として事実審の適当と認める裁量に属する。
所論の検証及び証人申請の却下を審理不尽とする主張は、結局原審の裁量に属する
証拠調の限度を非難するに帰し、法律審適法の上告理由と認め難い。
 同第二点について。
 しかし、原審の証拠とした被害者である証人Aの第一審公判廷における尋問調書
によれば「土間にあつた地下足袋、物置にあつた靴、土間の壁に掛けてあつたフゴ」
を盗まれたことを供述している。従つて、原判決が「地下足袋、短靴各一足及手提
籠一個を窃取した」と判示したことは必ずしも認定に無理があると常識上考えられ
ない。論旨は、検証調書中のAの説明によれば靴片方が窃取されたに過ぎないと主
張しているが、該検証調書は原判決の証拠説明で明らかなように、原審では証拠と
して採用しなかつたものである。のみならず、本件の犯罪事実は、被告人が夜間他
人の住居に侵入して他人の所有物を窃取したところ、被害者に発見追跡せられ捕え
られそうになつたので、逮捕を免れるため被害者を脅迫した上同人の手指に噛み付
き同人に傷害を被らせた準強盗傷人、住居侵入に該当する事実である。従つて、仮
りに被害物件が靴一足でなく靴片方であつたとしても、かような瑕疵は判決に影響
を及ぼさないことは明白である。論旨は、それ故に理由がない。
 同第三点について。
 所論は、原審において弁護人が証人A(被害者)の尋問を申請したにかかわらず、
これを却下しておきながら、第一審における同人に対する尋問調書中の供述記載を
証拠に採つたのは、刑訴応急措置法第一二条に違反する違法があると主張するので
ある。しかしながら、同条に「証人の供述を録取した書類」という中には、公判に
おける証人の供述を録取した公判調書は含まれないものと解すべきことはすでに当
裁判所の判例とするところである(昭和二三年(れ)第七一号同年六月一〇日第一
小法廷判決、判例集二巻七号六六五頁)。そして、本件の場合は第一審公判廷にお
ける証人の供述を録取した公判調書ではなく、公判廷外の検証に際し公判準備期日
における証人の供述を録取した尋問調書である。右証人訊問は弁護人立会の下に行
われたもので、かかる証人の供述は弁護人の尋問する機会が当時既に与えられてい
るのであるから、該尋問調書に対しては前記措置法第一二条の適用はないものと解
するを相当とすべきである。論旨は、それ故に採用するを得ない。
 よつて旧刑訴第四四六条に従い主文のとおり判決する。
この判決は裁判官全員の一致した意見である。
 検察官 宮本増蔵関与
  昭和二四年六月一六日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    真   野       毅
            裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    岩   松   三   郎

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