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言渡平成27年1月21日
交付平成27年1月21日
裁判所書記官
平成26年(ワ)第116号クロレラチラシ配布差止等請求事件
口頭弁論終結の日平成26年11月11日
判決
主文
1被告は,別紙1の1に記載の媒体において,同1の2に記載の内容を表
示してはならない。
2被告は,第三者をして,別紙1の1に記載の媒体において,同1の2に
記載の内容を表示させてはならない。
3被告は,別紙2に記載のとおりの広告を,別紙3に記載の条件で1回配
布せよ。
4訴訟費用は,被告の負担とする。
事実
第1当事者の求めた裁判
1請求の趣旨
(1)主文と同じ。
(2)仮執行宣言。
2請求の趣旨に対する答弁
(1)原告の請求をいずれも棄却する。
(2)訴訟費用は原告の負担とする。
第2当事者の主張
【請求原因】
1当事者
原告は,平成19年12月25日,消費者契約法13条1項に基づく内閣総
理大臣の認定を受けた適格消費者団体である。
被告は,健康食品の小売販売等を目的とする株式会社であり,不当景品類及
び不当表示防止法(以下「景表法」という。)2条1項及び消費者契約法2条
2項の「事業者」に該当する。
2「サン・クロレラA」や「サン・ウコギ」等の販売
被告は,不特定多数の消費者に対し,クロレラを含有する「サン・クロレラ
A」やウコギを含有する「サン・ウコギ」等の商品(以下,被告が販売する商
品を「被告商品」という。)を販売している。
被告商品は,いずれも,薬事法(昭和35年法律第145号。平成25年法
律第84号が平成26年11月25日施行されたことにより,法律名が「医薬
品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律」となった。
以下,同法による改正の前後を通じて「薬事法」という。)2条1項1号所定
の医薬品ではないし,薬事法14条1項による承認を受けて製造販売されてい
るわけでもない(なお,以下,本判決において「医薬品」という場合は,薬事
法2条1項2号所定の「人…の疾病の診断,治療又は予防に使用されることが
目的とされている物」又は同項3号所定の「人…の身体の構造又は機能に影響
を及ぼすことが目的とされている物」を指し,医薬品に関する「承認」とは薬
事法14条1項による承認を指す。)。
3被告による新聞折込チラシの作成配布
(1)日本クロレラ療法研究会(以下「クロレラ研究会」という。)という組織
が作成したという体裁で,不特定多数の消費者に向け,クロレラやウコギの
薬効を説明した新聞折込みのチラシ(以下「研究会チラシ」という。)が定
期的に配布されている。
(2)研究会チラシには,クロレラ(C.G.F.)には「病気と闘う免疫力を
整える」「細胞の働きを活発にする」「排毒・解毒作用」「高血圧・動脈硬
化の予防」「肝臓・腎臓の働きを活発にする」等の薬効があり,ウコギには,
「神経衰弱・自律神経失調症改善作用」「ホルモンバランス調整」「抗スト
レス作用・疲労回復作用」「鎮静作用による緊張の緩和・睡眠安定」「抗ア
レルギー作用」等の薬効があることが記載されている。
さらに,研究会チラシには,クロレラ(C.G.F.)やウコギを服用す
れば,腰部脊柱管狭窄症,肺気腫,自律神経失調症,高血圧などの慢性
的な疾患の症状が改善されるとの薬効も記載されている
(3)クロレラ研究会は被告の会社組織の一部に過ぎないから,研究会チラシを
作成し配布したのは被告自身である。その理由は次のとおりである。
クロレラ研究会の会長である「二代目A」は被告取締役Bと同一人物であ
り,クロレラ研究会の京都本部は被告本店所在地にある。また,研究会チラ
シに表示されたクロレラ研究会の電話番号の回線契約者は被告である。
さらに,クロレラ研究会に資料請求すると,クロレラ研究会作成名義の資
料(甲11の1ないし9)が送付されてくるだけでなく,被告商品のカタロ
グ(甲9の1)や注文書(甲9の2ないし4)が送付されてくるのである。
4研究会チラシが被告商品の内容を表示するものであること
(1)研究会チラシでは,「クロレラ」「ウコギ」という一般的な原材料の表示
がされているだけであるが,この原材料の名称は被告商品である「サン・ク
ロレラA」「サン・ウコギ」の商品名と類似している。また,研究会チラシ
では,被告の独自技術とされている細胞壁破砕技術を用いた細胞壁破砕クロ
レラが紹介されているし,被告は,クロレラを用いた商品を販売する会社で
あるとして知名度が高いから,研究会チラシを見た一般消費者は,研究会チ
ラシを被告商品のチラシであると認識すると考えられる。
(2)研究会チラシに従ってクロレラ研究会に資料請求すると,被告商品のカタ
ログや申込書等が送付され,それに基づき被告商品の購入を申し込めるので
ある。このような一連の流れからすると,研究会チラシにおけるクロレラや
ウコギの薬効についての記載は,実質的には,その後に送付されてくる被告
商品の薬効を宣伝するものである。
(3)したがって,研究会チラシは,被告商品の品質や内容を表示するものとし
て配布されるものであり,かつ,消費者契約の締結について勧誘をするに際
して配布されるものでもある。
5研究会チラシの配布が優良誤認表示又は不実告知に当たること
(1)被告は,被告商品を販売する目的で研究会チラシを作成したのであるから,
その記載内容が事実であることを直ちに証明できて然るべきである。このた
め,原告において積極的な立証をしなくても,被告が研究会チラシの内容を
証明するに足りる証拠を提示できない場合には,「実際のもの…よりも著し
く優良であると誤認させる表示」(景表法10条1号。以下単に「優良誤認
表示」という。)をした,あるいは「重要事項について事実と異なることを
告げ」た(消費者契約法4条1項1号。以下単に「不実告知」という。)と
事実上推定される。
(2)また,研究会チラシの内容は,承認を受けた医薬品でなければ表示するこ
とが許されないものであるから,研究会チラシによる表示は,その承認を受
けていない商品であるにも関わらず,これを受けているかのように誤認させ
るものであって,優良誤認表示又は不実告知に該当する。
(3)さらに,研究会チラシに記載された効用内容のうち「免疫力を整える」
「細胞の働きを活発にする」「排毒・解毒作用」「疲労回復作用」につい
ては,仮にこれが医薬品的な効能効果を表示するものでないとしても,
「食生活において特定の保健の目的で摂取をする者に対し,その摂取によ
り当該保健の目的が期待できる旨の表示をするもの(以下「特定保健用食
品」という。)」に該当する(健康増進法に規定する特別用途表示の許可等
に関する内閣府令2条1項5号)。そして,特定保健用食品は,食品衛生法
上,保健機能食品に該当するところ(食品衛生法第十九条第一項の規定に基
づく表示の基準に関する内閣府令1条1項13号),保健機能食品以外の食
品にあっては,保健機能食品と紛らわしい名称,栄養成分の機能及び特定の
保健の目的が期待できる旨の表示をしてはならないとされている(同内閣府
令1条6項)。
それにもかかわらず,被告は,特定保健用食品にかかる特別用途表示の許
可(健康増進法に規定する特別用途表示の許可等に関する内閣府令4条2項,
健康増進法26条1項。なお,同内閣府令1条により「特定の保健の用途」
は「特別の用途」にあたる。)を得ることなく,研究会チラシにおいて特定
の保健目的が期待できる旨を表示しているのであるから,優良誤認表示又は
不実告知をしたといえる。
6書面による事前請求
原告は,被告に対し,平成25年10月11日,消費者契約法41条に定め
る事項を記載した書面により,別紙1記載の表示の差止を請求し,同書面は,
同月12日に到達した。
7まとめ
よって,原告は,被告に対し,景表法10条1号又は消費者契約法12条1
項及び同2項に基づき,被告が自ら又は第三者をして別紙1に記載の表示をす
ることの差止めを求めるとともに,景表法10条1号に基づき,当該表示の
「停止若しくは予防に必要な措置」として別紙2に記載の広告を別紙3に記載
の条件で1回配布することを求める。
【請求原因に対する認否】
1請求原因1の事実は認める。
2同2の事実は認める。
3同3の事実は否認する。
研究会チラシは,クロレラ研究会が配布したものであり,被告が配布したも
のではない。クロレラ研究会は,被告から独立した組織であり,個人情報も被
告から独立して管理している。クロレラ研究会に資料請求しても,クロレラ研
究会が,資料請求者の承諾を得ることなく,個人情報を被告に提供することは
ないし,被告商品のカタログを送付することもない。クロレラ研究会への資料
請求があった場合に,被告が被告商品のカタログを送付することは,資料請求
者が積極的にそれを希望した場合に限られる。
4同4のうち,被告が細胞壁破砕技術を用いた細胞壁破砕クロレラを販売して
いることは認めるが,その余の事実は否認する。
不当表示規制は営利的表現の自由を規制するものであるから,事業者の活動
を不当に萎縮させないよう,限定的に解釈されなければならない。そして,景
表法10条1号は,ある商品表示と比較すべき対象として「実際のもの」だけ
でなく,「他の事業者に係るもの」を挙げているから,同条の「表示」とは他
社の商品等と識別できる程度に特定されている必要がある。研究会チラシは,
被告商品の商品名を表示するものではなく,単にクロレラ等の効用を紹介する
ものに過ぎないから,他社の商品等と識別できる程度の特定はされていない。
また,一般消費者にどのような認識を与えるかにより判断すべきであるとし
ても,その判断に際しては,研究会チラシから看取できる情報のみを基礎にす
べきである。「クロレラ」という原材料名を商品名に付けることは一般的であ
るし,「細胞壁破砕クロレラ」を謳った商品は被告商品以外にも複数存在して
いるから,これらの表示をもって,一般消費者が,被告商品のチラシであると
認識するとは考え難い。
さらに,上記3のとおり,クロレラ研究会に資料請求しても,クロレラ研究
会が,資料請求者の承諾を得ることなく,被告商品のカタログを送付すること
はない。
5同5のうち,被告が特定保健用食品に係る特別用途表示の許可を得ていない
ことは認め,その余は争う。
優良誤認表示又は不実告知にあたるか否かの立証責任は原告にある。本件で
は,原告において,クロレラやウコギの効能効果が存在しないことを科学的に
立証するのでなければ,優良誤認表示又は不実告知であるとは認められないは
ずである。被告商品の製造販売につき薬事法14条1項の承認を得ていないと
しても,それだけでは優良誤認表示や不実告知にはあたらない。
6同6の事実は認める。
7同7は争う。
理由
第1認定事実
請求原因1及び2の事実,同4のうち被告が細胞壁破砕技術を用いた細胞壁
破砕クロレラを販売している事実は,当事者間に争いはなく,これらの争いの
ない事実に加え,甲第2,第3,第7,第8号証,第9号証の1ないし5,第
10号証,第11号証の1ないし9,第12ないし第20号証,及び弁論の全
趣旨によれば,次の事実が認められる。
1クロレラについて
被告は,昭和48年4月に設立された株式会社であり,創業者は,Cという
人物であり,創業当初から,クロレラを原料にした健康食品を販売していた。
クロレラとは,淡水性で単細胞の緑藻類であり,細胞中にクロロフィルを持
っており,活発に光合成を行う生物である。たんぱく質の含有量が高く,ビタ
ミンやミネラルも豊富に含まれているため,健康食品の原料とされることが多
い。
被告は,クロレラの細胞壁を破砕し乾燥した粉末を原料として,「サン・ク
ロレラA粒」「サン・クロレラA顆粒」などの健康食品を製造販売している。
2クロレラ・グロス・ファクターについて
クロレラ・グロス・ファクター(クロレラ成長促進因子。略して「C.G.
F.」)とは,クロレラに含まれる核酸やアミノ酸で構成される成分である。
被告では,クロレラ・グロス・ファクターがクロレラの含有成分の中で最も価
値の高い成分と位置付けており,クロレラ・グロス・ファクターを配合した飲
料として「Wサン・ゴールド」「Wサン・ワカサ」を製造販売している。
3ウコギについて
ウコギとは,一般にはウコギ科の植物の総称である。ウコギは,日本中に生
育しており,その根,茎,葉は古くから生薬として摂取されていた。
被告は,エゾウコギという北海道東部に自生する灌木から採取した原料を用
いて「サン・ウコギ粒」を製造販売している。
被告は,エゾウコギの成分の中でも,根から採取されるエレウテロサイドや
イソフラキシジンが有用な成分であるとし,それらを高純度で抽出・凝縮した
「サン・ウコギエキス」を製造販売しているほかクロレラ・グロス・ファクタ
ーとエゾウコギの有用成分を混ぜた飲料として「サン・クロレラドリンク」を
製造販売している。
4アガリクスについて
アガリクスは,ハラタケ属のキノコの総称である。被告では,そのうち「ア
ガリクス・ブラゼイ・ムリル」の品種中の「ヒメマツタケ:岩出101株」を
原料とし,これにクロレラ・グロス・ファクターを加えた顆粒状の健康食品と
して「サン・クロレラアガリクス」を製造販売している。
5研究会チラシの内容について
甲第3号証は,平成25年8月21日に京都市内で配達された毎日新聞朝刊
に折り込まれた研究会チラシであるところ,甲第3号証には,下記のとおりの
記載がされている。体験談は,甲第3号証の研究会チラシの表面の3分の2,
裏面のほぼ全面を占めている。
近年に新聞折込チラシ又は資料希望者への送付等の方法で配布された研究会
チラシは,いずれも,甲第3号証と同様に「解説特報」と題され,下記(1)な
いし(5)と同一の記載を含んでいる。
下記(6)の体験談については,研究会チラシによって異なるものが掲載され
ているが,いずれも様々な慢性的疾患の症状が改善したというものであり,下
記(6)のものと大差がない(甲11の5)。

(1)慢性病に悩む方々には「クロレラ療法」が勧められる。
(2)クロレラは全てが同じものではなく,より品質の良いクロレラを選ぶ必要
がある。また,細胞壁破砕クロレラは,通常のクロレラより吸収が良い。
(3)クロレラ(クロレラ・グロス・ファクター)には,「病気と闘う免疫力を
整える」「細胞の働きを活発にする」「排毒・解毒作用」「高血圧・動脈硬
化の予防」「肝臓・腎臓の働きを活発にする」などの効用がある。
(4)ウコギには,「神経衰弱・自律神経失調症改善作用」「ホルモンバランス
調整」「抗ストレス作用・疲労回復作用」「鎮静作用による緊張の緩和・睡
眠安定」「抗アレルギー作用」などの効用がある。
(5)クロレラとウコギの効用には「相乗効果」がある。
(6)体験談(なお,これら体験談で服用された細胞壁破砕クロレラ粒とウコギ
エキスは,クロレラ研究会が推奨したものであることが,明示又は黙示的に
示されている。)
①細胞壁破砕クロレラ粒とウコギエキスを継続的に服用したところ,腰部
脊柱管狭窄症(お尻からつま先までの痛み,痺れ)の症状が改善した(甲第
3号証の表面)。
②細胞壁破砕クロレラ粒とCGF液を継続的に服用したところ,肺気腫の
症状が改善した(甲第3号証の表面)。
③細胞壁破砕クロレラ粒とCGF液とウコギエキスを継続的に服用したと
ころ,自律神経失調症・高血圧の症状が改善した(甲第3号証の表面)。
④平成20年10月から細胞壁破砕クロレラ粒とCGF液とウコギエキス
を継続的に服用したところ,腰痛,坐骨神経痛の症状が改善した(甲第3
号証の裏面)。
⑤平成17年5月から細胞壁破砕クロレラ粒とCGFエキスとウコギエキ
スを継続的に服用したところ,糖尿病の症状が改善した(甲第3号証の裏
面)。
⑥平成25年4月から細胞壁破砕クロレラ粒とCGF液とウコギエキスを
継続的に服用したところ,パーキンソン病,便秘の症状が改善した(甲第
3号証の裏面)。
⑦平成23年10月から細胞壁破砕クロレラ粒30粒とCGF・ウコギ混
合エキス100ミリリットルを継続的に服用したところ,間質性肺炎,関
節リウマチ,貧血の症状が改善した(甲第3号証の裏面)。
⑧前立腺がんのホルモン療法と並行して,アガリクスブラゼイとCGF液
を継続的に服用したところ,前立腺がんの検査数値(PSA値)が急激に
低下した(甲第3号証の裏面)。
6被告とクロレラ研究会の関係を示唆する事実関係
(1)クロレラ研究会は,法人格を有しない団体である。
(2)被告は,研究会チラシの作成配布費用だけでなく,クロレラ研究会による
クロレラ等の広報活動に要する費用を全て負担している。
(3)被告のすべての従業員がクロレラ研究会の会員となっており,クロレラ研
究会は,その活動のために独自に人件費というものを支出していないし,団
体としての会計管理や税務申告を行っているわけでもない。
(4)被告は,クロレラ研究会が使用するとされている電話番号の回線契約者で
あり,その電話料金を全て負担している。
(5)クロレラ研究会の京都本部は,被告の本社ビル内にあるとされているが,
クロレラ研究会から被告に対し,事務所使用料の支払はされていない。
(6)クロレラ研究会富山支部も,被告の事務所内に設置されている。
(7)クロレラ研究会のウェブサイトからクロレラ研究会に資料請求をすると,
クロレラ研究会が作成したとする多数の資料(甲11の1ないし9)が送付
されてくるほか,被告商品のカタログ(甲9の1)や注文書(甲9の2ない
し4)が送付されてくる。
(8)研究会チラシに記載された電話番号に従ってクロレラ研究会に電話で問い
合わせると,被告商品の購入を推奨される(甲3,甲7の11頁)。
(9)クロレラ研究会は,被告商品以外の商品のカタログを送付することはない。
第2研究会チラシの配布主体について
1前記第1の6に認定の事実関係に照らせば,クロレラ研究会が,被告とは別
個の組織として,被告から独立して存立しているとは考え難い。むしろ,クロ
レラ研究会は,細胞壁破砕クロレラ粒,CGF液,ウコギエキス,CGF・ウ
コギ混合エキス,アガリクスブラゼイ(以下「細胞壁破砕クロレラ粒等」とい
う。)といった被告商品の宣伝広告活動を行う被告の組織の一部門にすぎない
と考えるのが合理的である。
したがって,研究会チラシを配布した者は被告自身であり,前記第1の5に
掲記のとおりの細胞壁破砕クロレラ粒等の薬効を表示したのも被告自身である
ということになる。
2これに対し,被告は,クロレラ研究会では取得した個人情報を被告から独立
して管理しているから,クロレラ研究会と被告とは別の組織であると主張する。
しかし,前記認定のとおり,クロレラ研究会に資料請求をすると,被告から
被告商品のカタログや注文書が送付されてくるのであるから,クロレラ研究会
が被告から独立して個人情報を管理していると認めることはできないし,前記
第1の6のとおりの事実が認められるのに,クロレラ研究会と被告が別個独立
の組織であると考えるのは困難なことである。被告の上記主張を採用すること
はできない。
第3研究会チラシの商品表示該当性について
1景表法における商品「表示」とは,「顧客を誘引するための手段として,事
業者が自己の供給する商品…の内容…について行う広告その他の表示であって,
内閣総理大臣が指定するもの」をいうから(景表法2条4項),本件において
景表法10条1号の優良誤認「表示」があるというためには,まず,研究会チ
ラシが被告商品の内容を「表示」するものであると認められる必要がある。
2研究会チラシは日刊新聞紙の折込チラシであるところ,営利法人による新聞
折込チラシの配布は,通常,その商品の販売促進を目的とするものであると考
えられる。
また,研究会チラシは,クロレラの中にも様々な品質のものがあり,クロレ
ラ研究会が推奨するものを服用したことにより慢性的疾患の症状が改善したこ
とを記載しているのであって,クロレラ研究会が推奨する商品の購入を強く誘
導するものである。
そして,クロレラ研究会が購入を推奨するのは被告商品だけであるから,結
局のところ,顧客は,研究会チラシの記載に関心を持ってクロレラ研究会と接
触すれば,被告商品の購入を勧誘されることになる。
したがって,研究会チラシは,単にクロレラやウコギの成分の効用を人々に
知らしめようとする広告ではなく,被告商品の販売促進を目的とするものであ
り,研究会チラシの記載は,被告商品の内容に関する「表示」と認められる。
3これに対し,被告は,研究会チラシには,「クロレラ」や「ウコギ」といっ
た一般的な原材料の記載はされているものの,被告商品の商品名の記載がない
から,被告商品の内容を表示するものではないと主張する。
しかし,景表法による不当表示に対する規制は,商品を購入させるための不
当な誘導を社会から排除し,一般消費者の適正な商品又は役務の選択を確保す
ることを目的とするから,ある広告に,字面上,商品名が記載されていないと
しても,その一事から当該広告は商品表示ではないとして規制対象から外すの
は相当ではない。
なぜなら,商品名を表示しない広告であっても,多数の消費者が当該広告で
行われた不当な説明に誘導されて特定の商品購入に至るという仕組みがある場
合には,当該広告をも景表法の規制対象としなければ,景表法の規制目的を達
成することが非常に困難となるからである。
これを研究会チラシについてみるならば,そこに記載された様々な効用に関
心を抱いた顧客は必然的に被告商品の購入を勧誘されるという仕組みが取られ
ているのであるから,研究会チラシの記載を被告商品の品質に関する表示とみ
なければならないのである。被告の上記主張を採用することはできない。
4以上に説示のとおりであるから,研究会チラシの記載は,景表法が規制対象
とする商品表示に当たると解するのが相当である。
第4研究会チラシの優良誤認表示該当性について
1前記のとおり,不当表示規制の趣旨は,商品を購入させるための不当な誘導
を社会から排除し,一般消費者の適正な商品又は役務の選択を確保することに
あるから,商品の内容について「実際のもの…よりも著しく優良であると誤認
される表示」(景表法10条1号)をしたか否かは,業界の慣行や事業者の認
識ではなく,表示の受け手である一般消費者の認識により判断されるべきであ
る。
また,同条の「著しく」とは,当該表示の誇張の程度が,社会一般に許容さ
れている程度を越えて,一般消費者の商品選択に影響を与える場合をいうと解
される。
2わが国では,医薬品が,国民の保健衛生上極めて重要であることに鑑み,医
薬品の使用によってもたらされる国民の健康への積極的,消極的被害を未然に
防止し,その品質,有効性及び安全性を確保するため,薬事法により,医薬品
は品目ごとにその製造販売について厚生労働大臣の承認を受けなければならず
(14条1項),その承認をする際には,その品質,有効性及び安全性に関す
る調査が行われ,申請に係る効能又は効果を有するか否かを厳格に審査されて
いる(14条2項,5項)。この承認を受けることなく医薬品を製造販売する
ことはできず(55条2項),これに違反した場合には刑罰を科せられる(8
4条3号)。
さらに,承認を受けていない医薬品につき,その名称,製造方法,効能,効
果又は性能に関する広告をすることはできず(68条),これに違反した場合
にも刑罰が科される(85条5号)。
なお,ある商品について「成分,形状,名称,その物に表示された使用目
的・効能効果・用法用量,販売方法,その際の演述・宣伝などを総合して,そ
の物が通常人の理解において」医薬品と認められるならば,客観的に薬理作用
を有するものでないとしても,薬事法68条や85条の適用上は医薬品と解さ
れる(最高裁判所昭和57年9月28日第三小法廷判決・刑集36巻8号78
7頁参照)。したがって,医薬品と銘打って販売されているわけではない商品
であっても,医薬品的な効能効果を謳って製造販売されれば,通常,薬事法6
8条の禁止に触れ,薬事法85条で処罰の対象とされることが多い。
3このように,わが国では,薬事法が制定された昭和35年以降,医薬品は厳
格に規制され,国による厳格な審査を経て承認を得なければ製造販売すること
はできず,承認を受けていない医薬品は医薬品的な効能効果を表示することが
刑罰をもって禁止されてきたのであるから,①医薬品的な効能効果を表示する
商品があれば,当該商品が当該効能効果を有することについて国の厳格な審査
を経た医薬品であり,②通常の事業者であれば,承認を受けた医薬品でない商
品について医薬品的な効能効果を表示して販売しないであろうという社会通念
が形成されているというべきである。
そうすると,医薬品としての承認がされていない商品について,医薬品的な
効能効果が表示されている場合,当該表示は,一般消費者に対し,当該商品が
あたかも国により厳格に審査され承認を受けて製造販売されている医薬品であ
るとの誤認を引き起こすおそれがあるから,優良誤認表示にあたると認めるの
が相当である。
そこで,次に,研究会チラシの表示内容は,医薬品的な効能効果があると表
示するものかを検討する。
4研究会チラシのうち,細胞壁破砕クロレラ粒等を服用したことにより,
「腰部脊柱管狭窄症(お尻からつま先までの痛み,痺れ)」「肺気腫」「自
律神経失調症・高血圧」「腰痛・坐骨神経痛」「糖尿病」「パーキンソン
病・便秘」「間質性肺炎」「関節リウマチ・貧血」「前立腺がん」等の症
状が改善したとの体験談を記載した部分については,人の疾病を治療又は
予防する効能効果があることを暗示するものであり,一般の消費者に対し,
細胞壁破砕クロレラ粒等が医薬品であるとの誤認を引き起こすおそれがあるか
ら,医薬品的な効能効果があると表示するものである。
また,それ以外の記載,すなわち「薬効のある食品であること」や「病気と
闘う免疫力を整える」「神経衰弱・自律神経失調症改善作用」等の効用が
あることを記載した部分についても,人の疾病の治療又は予防を目的とす
る効能効果があることや,単なる栄養補給や健康維持を超え,身体の組織
機能の意図的な増強増進を主たる目的とする効能効果があることを標榜す
るものであることは明らかであり,一般の消費者に対し,細胞壁破砕クロレ
ラ粒等が医薬品であるとの誤認を引き起こすおそれがあるから,医薬品的な効
能効果があると表示するものである。
5以上のとおり,研究会チラシによる前記第1の5に掲記認定の説明は,医
薬品としての承認を受けていない細胞壁破砕クロレラ粒等の被告商品につき,
医薬品的な効能効果があると表示するものであり,一般の消費者に対し,細
胞壁破砕クロレラ粒等の被告商品があたかも国により厳格に審査され承認を
受けて製造販売されている医薬品であるとの誤認を引き起こすおそれがある。
また,上記のような表示は,商品の宣伝広告として社会一般に許容される誇
張の限度を大きく踏み越えるものである。
したがって,研究会チラシの説明は,景表法10条1号所定の「商品…の内
容について,実際のもの…よりも著しく優良であると誤認される表示」として
優良誤認表示にあたる。
6これに対し,被告は,原告がクロレラやウコギの効能効果が存在しないこと
を科学的に立証するのでなければ,研究会チラシによる説明が優良誤認表示に
あたるとは認められないはずであると主張する。
しかし,細胞壁破砕クロレラ粒等の被告商品は,医薬品として製造販売する
ための承認を受けていない(このことは争いがない。)。したがって,研究会
チラシが説明するような医薬品的な効能効果があろうがなかろうが,研究会チ
ラシは,一般の消費者に対し,当該効能効果が国による厳格な審査を経ている
かのごとき誤認を発生させるおそれがあり,商品を購入させるための不当な誘
導となり,一般の消費者の商品選択に不当な影響を与えるのである。
したがって,医薬品的な効能効果を謳う商品の場合,景表法10条1号所定
の優良誤認表示にあたるかどうかを判断するに際し,当該効能効果の有無を問
うまでもないのであって,被告の当該主張は採用できない。
第5結論
1以上に認定説示のとおりであって,被告は,研究会チラシを配布することに
より,被告商品の内容について優良誤認表示を行ったと認められる。
2前記第1に認定の事実関係に照らせば,被告は,今後も,自己又は第三者を
して,被告商品の内容について別紙1に記載の優良誤認表示を行うおそれがあ
ると認められるから,原告は,景表法10条1号に基づき,被告に対し,別紙
1に記載の優良誤認表示の差止め及び別紙1の行為が優良誤認表示である旨の
周知措置の履行を求めることができる。
3よって,原告の請求はいずれも理由があるからこれを認容することとし,訴
訟費用につき民訴法61条を適用し,仮執行宣言は相当ではないからこれを付
さないこととして,主文のとおり判決する。
京都地方裁判所第2民事部
裁判長裁判官橋詰均
裁判官川淵健司
裁判官和田崇寛

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