弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 被告人A弁護人岸達也の上告趣意第一点について。
 所論は判例違反の主張であるが、原審において主張なくその判断を経ていないの
みならず、原判決の確定した事実によれば、被告人Aの行為は、昭和二一年七月か
ら同二二年三月までの間の四回にわたる収賄の事実であるから、昭和二二年法律第
一二四号附則第四号によりなお旧刑法五五条を適用すべき場合に当り、所論引用の
判例に含まれる刑法六条の適用又は準用の問題は生ずる余地なく、所論判例違反の
主張はその前提を欠くことに帰する(なお原判決は所論引用の判例に反する趣旨を
なんら示していない。)
 同第二点について。
 所論は、憲法三一条違反をいうが、その実質は刑訴法違反の主張に過ぎないのみ
ならず、原審において主張せず、従つてその判断を経ていない事項でもあるから、
刑訴四〇五条の上告理由に当らない。(なお所論に基き職権をもつて調べてみるに、
所論の被告人の所為について、本件起訴状記載の訴因はいわゆる単純収賄(刑法一
九七条一項前段)であるにかかわらず、第一審判決は、訴因変更の手続を履まず、
いわゆる請託収賄(同条同項後段)と認定をしたことは所論の指摘するとおりであ
る。このような場合訴因変更の手続を定めた刑訴法の趣旨からいつて、第一審がそ
の手続をとらないで判決したことは違法たるを免れないけれども、被告人の判示(
一)の所為は、起訴状も判示認定も相一致する犯情きわめて悪質な現金五万円の請
託収賄であるにかかわらず、訴因に関係ある判示(二)の各所為は各相被告人から
その商品の供与を受けた事実であつて、両者を総合考量して第一審の科刑を検討し
てみると、結局原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものとは認められない。)
 同第三点について。
 所論は、憲法三一条違反をいうが、実質は単なる法令違反の主張と認められるの
みならず、原審において控訴趣意として主張なく、従つて原判決も判断していない
事項であるから、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。(なお記録を調べてみるに、
所論の供述調書については取調請求に対する決定を留保し未だなんら証拠調をして
いないことが認められる。しかるにこれらの供述調書を記録に編綴したことは適法
な手続とはいえないが、裁判所は証拠決定に当つて必要があるときは、証拠書類又
は証拠物の提示を命ずることもできるのであろから(刑訴規則一九二条)、このこ
とをもつて直ちに刑訴三〇一条の手続に違反した違法があると即断することはでき
ない)。
 同第四点について。
 所論は、原判決が、証拠調をしない証拠を判決に引用した第一審判決の違法を看
過したことを理由として、憲法三一条違反を主張し、かつ判例違反を主張する。し
かし違憲を主張する理由の実質は、刑訴法違反の主張を出でないから、刑訴四〇五
条一項一号の上告理由に当らない。また所論引用の判例は、被告人が証拠とするこ
とに同意したと認められるかどうかの事案であつて本件に適切でない。(なお職権
をもつて所論につき調べてみるに、所論の摘示する証拠について公判調書に証拠調
を行つた記載のないことは所論のとおりである。しかし記録によると、所論摘示の
各供述調書及び公判調書は検案官が被告人の有罪を証するために証拠調を請求した
ものであり、かつその各供述調書及び公判調書は記録に編綴してあることが認めら
れる。そしてこの各調書についてその内容を検討してみると、各被告人に特に有利
と認めるべき何ものをも発見することはできない。従つて原判決が判示するように、
第一審判決が右各供述調書をA、B両被告人の犯罪事実認定の証拠に引用せず、ま
た右公判調書をB被告人の犯罪事実認定の証拠に引用しなかつたのは、各被告人の
本件事実を認定するにつき他の引用証拠をもつて十分なりと認めたからであること
はたやすく肯認できるところである。それ故収りに第一審が前記証拠調を行つたこ
とを認められないとしても、判決に影響を及ぼすものとは認められず、従つて原判
決を破棄しなければ著しく正義に反するものとは認められない。この点に関する原
判決説示は簡に失するけれども結論において正当である。)
 同第五点について。
 所論は、所論摘示の各供述調書の証拠調につき採証法則の違反があるという主張
を前提として、憲法三一条違反を主張する。しかし記録によれば、被告人は検察官
が所論の各供述調書を証拠とすることに同意したことが認められ、かかる場合刑訴
三二六条により任意性の調査に関する刑訴三二五条の適用はないのであるから、裁
判所に任意性調査の責務あることを前提とする主張は採用できない。このことは当
裁判所の判例の趣旨とするところである。(昭和二五年(あ)第一三三三号同二六
年六月七日第一小法廷決定、集五巻七号一二四三頁参照)。
 同第六点第七点について。
 所論はいずれも事実誤認の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
(なお記録により所論について検討してみると、第一審判決の事実認定に誤りがあ
るとはいえない。結局所論は第一審判決が証拠によつて適法に認定した事実と異な
る独自の見解を力説するに過ぎない)。
 同第八点について。
 所論は、量刑不当の主張であつて刑訴四〇五条の上告理由に当らない。そして所
論によつて記録を検討しても原判決の判示するとおり量刑が過重であるとは認めら
れない。
 被告人B弁護人大竹武七郎の上告趣意第一点について。
 所論は、第一審における証拠調手続の違法を主張するのであつて、刑訴四〇五条
の上告理由に当らない。そして所論については岸弁護人第四点について説示したと
おりである。
 同第二点第三点について。
 所論は、要するに法令違反、事実誤認又は量刑不当の主張に過ぎないのであつて
刑訴四〇五条の上告理由に当らない。そして所論によつて記録を調べてみても所論
のような違法は認められず、また量刑が不当であるとはいえない。
 その他記録を調べても刑訴四一一条を適用すべき事由は認められない。
 よつて同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
  昭和三〇年七月五日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    本   村   善 太 郎
            裁判官    垂   水   克   己

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