弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人天羽智房上告趣意第一点について。
 原審は、所論前科にかかる被告人の犯行(略式命令により確定された食糧管理法
第九条違反被告事件の犯行)と本件判示第一の被告人の犯行との間には、犯意継続
の関係なきものであることを認定しているのである。そしてこの原審の事実認定は
その認定の根拠に照らしこれを肯認するに難くないのである。原審がかかる認定を
なした所以は、所論のように、被告人が昭和二一年一二月四日彌富警察署において
右前科の事件につき取調を受け、将来再び同様の犯行を繰り返えさないことを心中
に誓つたのであろうということだけに基ずいて犯意の継続を否定したものではなく、
右前科の犯行がなされた同年八月下旬から、本件第一の犯行が開始された翌二二年
一月一八日頃までの間には、四ケ月以上のへだたりがあつて、その間毫も犯行が反
覆累行されていないことをも斟酌した結果であることは、原判決の全文を通読すれ
ば容易に理解し得るところなのである。
 しかるに原審が判示第一の犯行につきそれが犯意継続の下になされたものである
ことを認定したのは、それら同種の犯行が同年一月一八日から同年九月一九日頃迄
というが如き短期間内に前後二二回の多数回に亘り反覆累行された事跡に基ずいた
ものなのであるから、仮りに所論のように被告人が同年三月二二日検察庁の取調を
受けたことがあつたとしても、原審がこの両者の関係において別異の認定をなした
からとて、これを目して所論のように条理に反するものということはできない。所
論は事実審がその裁量権の範囲で適法になした事実の認定を非難するに帰着する。
されば右前科の犯行と判示第一の犯行とが犯意を継続してなされたものであること
を前提とする論旨は既にこの点においてその理由なきこと明白である。
 同第二点について。
 被告人は統制額を超過して販売する目的を以て判示未検査小麦を所持していたも
のであるとなす所論原判決の事実認定はその認定資料として挙示されている証拠に
照らし、これを肯認するに難くないのである。この点に関する所論は事実審がその
裁量権の範囲内で適法になした事実の認定を非難するものであり上告適法の理由と
ならない。次に原判決の趣旨とするところは「統制額超過買受の所為は必然的に統
制額超過販売の所為を伴うとは限らないのであるから、判示第二の不法所持の罪が
統制額超過買受の罪に当然吸収されるものではなく、又統制額超過買受の罪は売買
行為の終了により完結するのであつて爾後その物を所持することによりこれに先行
した買受行為の違法状態が継続するという性質のものではないから、判示第二の不
法所持の所為を目してこれに先行した統制額超過買受の罪の単なる事後状態に過ぎ
ないものということはできない。そしてまた統制額超過販売の罪は必ずしも不法所
持罪を先行しなければ成立し得ないものではなく、唯統制額超過販売罪が成立した
とき、偶々それに先行して不法所持罪が成立していたような場合においては、この
不法所持罪はその超過販売罪に吸収されるであろうけれど、本件判示第一の超過販
売の罪は未検査玄米及び白米に関し、判示第二の不法所持罪は未検査小麦に関する
ものであり、その目的物を異にし、いまだ統制額超過販売の段階に至らなかつた後
者が前者に吸収せらるべき何等のいわれなきもの」と判示し、弁護人の所論を排斥
したのである。この判旨は正当であり、独自の見地に立つて原判旨を非難する所論
は採用に値しない。
 よつて旧刑訴四四六条に従い主文のとおり判決する。
 この判決は裁判官全員の一致した意見である。
 検察官 浜田龍信関与
  昭和二五年一二月二八日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    澤   田   竹 治 郎
            裁判官    齋   藤   悠   輔

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