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令和2年11月11日判決言渡
令和元年(行ケ)第10153号審決取消請求事件
口頭弁論終結日令和2年8月19日
判決
原告トラタニ株式会社
訴訟代理人弁理士鈴江正二
木村俊之
被告特許庁長官
指定代理人久保克彦
佐々木正章
樋口宗彦
石塚利恵
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2019-1379号事件について令和元年9月30日にした
審決を取り消す。
第2事案の概要
1特許庁における手続の経緯等
(1)原告は,平成23年6月22日に出願した特許出願(特願2011-13
8776号)の一部を分割して出願した特許出願(特願2015-1461
17号)の一部を更に分割して,平成29年3月10日,発明の名称を「シ
ョーツ等の衣料」とする発明について,新たな特許出願(特願2017-4
6358号。以下「本願」という。甲1)をした。
原告は,同月13日付けで特許請求の範囲及び明細書について手続補正(甲
2)をした後,平成30年2月15日付けの拒絶理由通知(甲4)を受けた
ため,同年4月20日付けで特許請求の範囲及び明細書について手続補正(以
下「本件補正」という。甲5)をしたが,同年6月14日付けの拒絶理由通
知(甲7)を受け,その後,同年10月30日付けの拒絶査定(甲9)を受
けた。
(2)原告は,平成31年2月1日,拒絶査定不服審判を請求した。
特許庁は,上記請求を不服2019-1379号事件として審理を行い,
令和元年9月30日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以
下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同年10月15日,原告に送
達された。
⑶原告は,令和元年11月12日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提
起した。
2特許請求の範囲の記載
本件補正後の特許請求の範囲は,請求項1ないし8からなり,その請求項1
の記載は,次のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本願発明1」と
いう。下線部は本件補正による補正箇所である。甲5)。
【請求項1】
下端に足繰り形成部(15)を左右対称に上方へ向けて入り込む湾状に形成
し下腹部を覆う伸縮性を有する前面覆い部分(11)と,臀部を包み込んで覆
う伸縮性を有する背面覆い部分(12)とを有する身頃(14)と,前記前面
覆い部分(11)の下端の内股前部(16)と前記背面覆い部分(12)の下
端の内股後部(17)との間に配設され股間部を覆うまち部(13)とを備え
ており,
前記身頃(14)は,前記前面覆い部分(11)の左右両側に前記背面覆い
部分(12)の左半分および右半分が形成されて,前記背面覆い部分(12)
の左半分の左側縁と前記背面覆い部分(12)の右半分の右側縁との縫合部を
有する筒状であり,
前記身頃(14)のうち,臀部の頂上部よりも上側から下端部にわたる範囲
に対応する臀部の包み込み部分の領域は,前記背面覆い部分(12)の左右方
向中央部を上下方向に通る後中心線(S2)に沿って開かれた前記身頃(14)
の展開状態において,前記前面覆い部分(11)の左右方向中央部を上下方向
に通る前中心線(S1)に対し,前記背面覆い部分(12)の後中心線(S2)
がこの後中心線(S2)の下方延長線を前中心線(S1)の下方延長線に近付
ける下方窄まりの状態に設定されていることを特徴とする,ショーツ等の衣料。
3本件審決の理由の要旨
(1)本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。
その要旨は,本願発明1は,本願の出願前に頒布された刊行物である特開
2010-84292号公報(以下「引用文献1」という。甲11)に記載
された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである
から,特許法29条2項の規定により特許を受けることができず,他の請求
項について言及するまでもなく,本願は拒絶されるべきであるというもので
ある。
⑵本件審決が認定した引用文献1に記載された発明(以下「引用発明」とい
う。),本願発明1と引用発明の一致点及び相違点は,次のとおりである。
ア引用発明
下端凹状湾曲面5を左右対称に上方に向けて入り込む湾状に形成し下腹
部を覆う伸縮性を有する前面を覆う部分と,臀部を包み込んで覆う伸縮性
を有する背面を覆う部分とを有する,前身頃1と脇見頃6及び7を合わせ
た身頃と,前記前面を覆う部分の下端の下辺3と前記背面を覆う部分の下
端の内股の後部との間に配設され股間部を覆う股間部分とを備えており,
前記身頃は,前記前面を覆う部分の左右両側に前記背面を覆う部分の左
半分及び右半分が形成されて,前記背面を覆う部分の左半分の外側辺10
と前記背中を覆う部分の右半分の外側辺11との縫合部を有する筒状であ
り,
前記身頃のうち,臀部のある部分から下端部にわたる範囲に対応する臀
部の包み込み部分の領域は,前記背面を覆う部分の左右方向中央部を上下
方向に通る背面中心線に沿って開かれた前記身頃の展開状態において,前
記前面を覆う部分の左右方向中央部を上下方向に通る前面中心線に対し,
前記背面を覆う部分の背面中心線がこの背面中心線の下方延長線を前面中
心線の下方延長線に近づける下方窄まりの状態に設定されている,ショー
ツ。
イ本願発明1と引用発明の一致点及び相違点
(一致点)
「下端に足繰り形成部を左右対称に上方へ向けて入り込む湾状に形成し
下腹部を覆う伸縮性を有する前面覆い部分と,臀部を包み込んで覆う伸縮
性を有する背面覆い部分とを有する身頃と,前記前面覆い部分の下端の内
股前部と前記背面覆い部分の下端の内股後部との間に配設され股間部を覆
うまち部とを備えており,
前記身頃は,前記前面覆い部分の左右両側に前記背面覆い部分の左半分
および右半分が形成されて,前記背面覆い部分の左半分の左側縁と前記背
面覆い部分の右半分の右側縁との縫合部を有する筒状であり,
前記身頃のうち,前記臀部の下端よりも上側から下端部にわたる範囲に
対応する臀部の包み込み部分の領域は,前記背面覆い部分の左右方向中央
部を上下方向に通る後中心線に沿って開かれた前記身頃の展開状態におい
て,前記前面覆い部分の左右方向中央部を上下方向に通る前中心線に対し,
前記背面覆い部分の後中心線がこの後中心線の下方延長線を前中心線の下
方延長線に近付ける下方窄まりの状態に設定されている,ショーツ等の衣
料。」である点。
(相違点1)
本願発明1は,「身頃(14)」のうち,前中心線(S1)に対し,後
中心線(S2)の下方延長線を前中心線(S1)の下方延長線に近づける
下方窄まりの状態に設定されている領域が,「臀部の頂上部よりも上側か
ら」であるのに対し,引用発明は「臀部」の下端よりも上方の「ある部分」
であって臀部の頂上部との上下方向における位置関係が明らかではない点。
4取消事由
引用文献1を主引用例とする本願発明1の進歩性の判断の誤り
第3当事者の主張
1原告の主張
(1)相違点1の容易想到性の判断の誤り
本件審決は,相違点1について,引用文献1の「前身頃1および脇身頃6,
7と裾身頃22,23との間に角度が生じて裾身頃22,23が立ち上がっ
た状態になって図3に示すように,裾口が前方に向くことになり,歩行時や
椅子に座って足が前向きに動いたとしても,裾口のずり上がりによるお尻へ
の喰いこみがなく,下尻をしっかりカバーしているのでハミ尻を防止できる。」
(【0021】)との記載から,引用発明には,「歩行時や椅子に座って足
が前向きに動いたとしても,裾口のずり上がり」をなくそうとすることの動
機付けがあり,臀部の頂上部よりも上方に位置する「ある部分」から「身頃」
の下端部までの部分が下方窄まりの状態を採用すれば,「裾口」が「ずり上
がろう」とする動きが妨げられることは,技術常識であるから,引用発明に
おいて,相違点1に係る本願発明1の構成(「「身頃(14)」のうち,前
中心線(S1)に対し,後中心線(S2)の下方延長線を前中心線(S1)
の下方延長線に近づける下方窄まりの状態に設定されている領域が,「臀部
の頂上部よりも上側から」である」との構成)を備えたものとすることは,
当業者が容易になし得た事項である旨判断したが,本件審決の判断は,以下
のとおり誤りである。
ア本件補正後の明細書(以下,図面(甲1)を含めて「本願明細書」とい
う。甲5)には,本願発明1は,臀部の頂上部よりも上側から後中心線(S
2)の下方延長線を前中心線(S1)の下方延長線に近付ける下方窄まり
の状態に設定するという技術的手段(相違点1に係る本願発明1の構成)
を採用したことによって,「臀部の頂上部よりも上側から下端部にわたる
範囲に対応する臀部の包み込み部分の領域」において意図的に臀部の形状
と不整合にすることにより,「ショーツ等衣料のヒップ下部該当部位周り
をヒップ下部体形にフィットすべく絞ることができ」,「背面覆い部分の
下部がヒップ下部の膨らみ体形にぴったり合って該下半分を絞り込むよう
に深く包み込むことができる」という作用効果を奏する旨の記載がある(【0
010】,【0013】等)。
すなわち,相違点1に係る本願発明1の構成は,下方窄まりにする領域
の開始位置(臀部の形状と不整合にする領域の開始位置)を「臀部の頂上
部よりも上側」に設定し,この設定により,生地が「臀部の頂上部」に対
して「下方窄まり」の形状で接することになるため,「臀部の頂上部」を
押圧する力には上向きの成分(上向きのベクトル)が含まれることになり,
これが臀部の頂上部をも上方に持ち上げる作用を果たすので,「ショーツ
等衣料のヒップ下部該当部位周りをヒップ下部体形にフィットすべく絞る
ことができ」,「背面覆い部分の下部がヒップ下部の膨らみ体形にぴった
り合って該下半分を絞り込むように深く包み込むことができる」という作
用効果を奏するものである。
イ次に,引用文献1(甲11)には,引用発明は,太股部(足のひざより
上の太い部分)に装備させる「裾身頃22,23」を採用し,「裾口廻り
20,21に形成される縫着ラインの凹状湾曲面5,5と,前身頃の側辺
4,4と脇身頃6,7の内側辺8,9の下端部4a,8a,4a,9aと,
緩やかな凹凸弧状面14,15と,深い凹弧状面16,17と,傾斜面1
8,19と,裾身頃22,23の縫着ラインの上端凹弧状面26,27と,
上部凸弧状面28,29と,緩やかな凹弧状面30,31と,下部細幅部
32,33の縫い合わせラインがそれぞれ異なる」構成とし,かつ,「前
身頃1および脇身頃6,7と裾身頃22,23との間に角度が生じて裾身
頃22,23が立ち上がった状態になって図3に示すように,裾口が前方
に向くこと」(【0021】)によって,歩行時や椅子に座って足が前向
きに動いたとしても,「裾口のずり上がり」をなくし,この「裾口のずり
上がりによるお尻への喰いこみがなく,下尻をしっかりカバーしているの
でハミ尻を防止できる」ことについての記載がある。
このように引用文献1には,引用発明は,裾口のずり上がりによるお尻
への食い込みをなくし,下尻をしっかりカバーしてハミ尻を防止するため
に,「裾身頃」に着目し,裾口廻り20,21の縫着ラインと裾身頃22,
23の縫着ラインの形状を意図的に不整合にすることによって,裾身頃2
2,23を立ち上がった状態にして裾口が前方に向くようにし,これによ
って歩行時や椅子に座って足が前向きに動いたとしても,裾口のずり上が
りによるお尻への食い込みをなくし,下尻をしっかりカバーしているので
ハミ尻を防止するとの目的を達成することについての開示がある(【00
11】,【0013】,図2ないし図4)。
一方で,引用文献1には,引用発明のショーツの後側の形状については,
裾口のずり上がりをなくすための課題解決手段として「臀部の形状に沿う」
(【0016】)との手段を採用したことの記載はあるものの,身頃を「臀
部の頂上部よりも上側」から下窄まりにするとの本願発明1の課題解決手
段については記載も示唆もない。
この点に関し本件審決は,臀部の頂上部よりも上方に位置する「ある部
分」から「身頃」の下端部までの部分が下方窄まりの状態を採用すれば,
「裾口」が「ずり上がろう」とする動きが妨げられることは,当業者にと
って技術常識である旨認定したが,臀部の頂上部よりも上方から後中心線
(S2)の下方延長線を前中心線(S1)の下方延長線に近づける下方窄
まりの状態に設定して身頃を積極的に臀部の形状と不整合にするとの課題
解決手段が技術常識であることを裏付ける証拠はないから,本件審決の上
記認定は誤りである。
ウ以上によれば,引用文献1に接した当業者は,引用発明において,相違
点1に係る本願発明1の構成を採用する動機付けがあるものとはいえない
から,引用発明に基づいて,同構成を容易に想到することができたものと
はいえない。
したがって,本件審決の前記判断は誤りである。
エこれに対し被告は,①本願発明1の「下方窄まりの状態」の設定は,別
紙参考図記載の「上部不整合態様」(「臀部の頂上部から下端部にわたる
領域」において臀部の形状と整合させ,臀部の頂上部よりも上方の範囲に
おいて,臀部の形状と不整合に,上方へ向かってショーツを拡開させる態
様。以下同じ。)に限られるか,少なくとも「上部不整合態様」を含むも
のであり,別紙参考図記載の「下部不整合態様」(「臀部の頂上部よりも
上側から下端部にわたる範囲に対応する臀部の包み込み部分の領域」にお
いて臀部の形状と不整合にする態様。以下同じ。)に限定されるものでは
ないところ,「上部不整合態様」において,本願発明1の「下窄まりの開
始高が臀部の頂上部よりも高い位置である点」については,臀部の頂上部
より下方の範囲におけるフィット性という本願発明の作用効果と直接関係
せず,その他特段の作用効果を伴わない,設計上の事項である,②引用発
明においてショーツの上方向への拡開の程度が任意である(標準体型を想
定した場合の)臀部の頂上部以高の領域において,臀部の頂上部が標準体
型よりも高い位置にある着用者に生じうる下尻の食い込みや圧迫による包
み込み不足の懸念から,下窄まりの開始高を(標準体型における)臀部の
頂上部よりも多少高くすることは,設計上容易に想定されるものであって,
そのような構成とすることについての動機付けも存するとして,当業者は,
引用発明において,「裾口のずり上がりによるお尻への喰いこみがなく,
下尻をしっかりカバーしているのでハミ尻を防止できる」ようにするため
に,上記動機付けに従って,相違点1に係る本願発明1の構成を備えたも
のとすることは容易になし得た事項である旨主張する。
しかしながら,①については,本願発明1の特許請求の範囲及び本願明
細書の記載(【0004】,【0010】,【0013】,【0021】,
図3,4,7等)並びに技術常識に照らし,本願発明1に含まれるのは,
「下部不整合態様」のみであって,「上部不整合態様」は含まれないから,
その前提において失当である。
次に,②については,引用発明においては「外側辺10,11」が「臀
部の形状に沿う曲線」とされている以上,それを超えてさらに臀部の頂上
部よりも上側から下窄みとすることの動機付けはない。
また,標準体型とは,男女別・年代別・サイズ別等の区分に従って日本
人の体型を集計して得られた標準的な体型であり,各区分ごとに統計的に
みてその体型が最も一般的であるからこそ,それをトルソ(「工業用ボデ
ィ」又は「人台」)に表して,当業者は,それに合うように衣服を設計し,
作成するものであり,通常,あえてそれから外れるように衣服を作成する
ことに合理性はない。
さらに,下尻部における包み込みの不十分さや当該箇所での食い込み又
は圧迫を防止したいのであれば,当該箇所での生地を多くして臀部下半を
たっぷり包み込んでもよいから,下窄まりの開始高を標準体型における臀
部の頂上部よりも多少高くするような構成とする動機付けはない。
したがって,被告の上記主張は理由がない。
⑵小括
以上のとおり,本件審決における相違点1の容易想到性の判断に誤りがあ
り,本願発明1は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることがで
きたものとはいえないから,これと異なる本件審決の判断は誤りである。
したがって,本件審決は取り消されるべきである。
2被告の主張
(1)相違点1の容易想到性の判断の誤りの主張に対し
ア(ア)本願発明1の「臀部の頂上部」は,人体を側方からみて最も後方に
突き出している臀部の点である「臀部後突点」である。「臀部の頂上部」
は,例えば,乙1の図1及び図4記載の「ヒップトップ点P」,乙2の
図4記載の「ヒップの頂部T」に示すように(別紙3参照),臀部の左
右それぞれに存在するが,本願明細書には,本願発明1の「ショーツ等
の衣料」において,「臀部の頂上部」の位置が具体的にどの部分である
かについての記載はない。
(イ)次に,本願発明1の特許請求の範囲(請求項1)は,身頃(14)
の展開状態における形状について,「身頃の…下窄まりの状態に設定」
(以下「下窄まり事項」という場合がある。)と規定しているところ,
「下窄まり事項」については,別紙参考図に示すように,「下部不整合
態様」のほかに,「上部不整合態様」も含まれるが,本願明細書では,
上部不整合態様についてのみ説明されている(【0004】,【001
0】)。
また,本願明細書の【0029】は,ウエスト部の処理について述べ
るものであって,「下窄まり事項」の臀部の頂上部以高の領域における
作用効果や,「下窄まり事項」の上端(開始高)と作用効果との関係に
ついて述べるものではないから,本願発明1は,「上部不整合態様」に
限られるか,少なくとも「上部不整合態様」を含むものであり,「下部
不整合態様」に限定されるものではない。
そして,本願明細書には,本願発明1に含まれる「上部不整合態様」
について,臀部の頂上部以高の範囲を臀部形状よりも拡開することにつ
いての作用効果については何ら開示がないから,本願発明1の「下窄ま
りの開始高が臀部の頂上部よりも高い位置である点」については,臀部
の頂上部より下方の範囲におけるフィット性という本願発明の作用効果
と直接関係せず,その他特段の作用効果を伴わない,設計上の事項であ
るというほかない。
(ウ)この点に関し原告は,相違点1に係る本願発明1の構成は,下方窄
まりにする領域の開始位置(臀部の形状と不整合にする領域の開始位置)
を「臀部の頂上部よりも上側」に設定し,この設定により,生地が「臀
部の頂上部」に対して「下方窄まり」の形状で接することになるため,
「臀部の頂上部」を押圧する力には上向きの成分(上向きのベクトル)
が含まれることになり,これが臀部の頂上部をも上方に持ち上げる作用
を果たす旨主張するが,本願発明1の特許請求の範囲(請求項1)には,
臀部の頂上部を押圧する力に上向きの成分があることや,該頂上部を持
ち上げる作用効果(以下「上向き効果」という場合がある。)を特定す
る記載はなく,本願明細書においても,「上向き効果」について何らの
言及もないから,原告の上記主張は,特許請求の範囲の記載及び本願明
細書の記載に基づかない主張であって,失当である。
イ引用文献1の【0003】及び【0013】の記載によれば,単に裾口
を前向きにしてもヒップ下部に十分な生地がない場合には,ショーツの生
地が下尻の変形に追従しきれずに,動きに応じてフィットすることができ
ず,ヒップラインを崩してしまうことは明らかであるから,「裾口のずり
上がりによるお尻への喰いこみがなく,下尻をしっかりカバーしているの
でハミ尻を防止できる」ようにするためには,「裾口を前向き」するだけ
ではなく,着用者のヒップトップから「下尻を十分に包み込む」ようにす
る必要がある。
そして,人体は,臀部の頂上部から下方にかけて体型が細くなること,
ショーツを体型にフィットさせる際には,体型が縮径してゆく方向に衣服
も窄ませてゆくようにすることは技術常識であり,臀部の下半部の途中を
起点とする下窄み,すなわち,臀部の下端から上方へ拡開し,臀部の下半
部の途中において上窄み又は直立に転じるような形状のショーツは,臀部
の下半部の途中で臀部に食い込みを生じたり,臀部を押しつぶしたり(圧
迫)することとなるから,「お尻への食い込みをなくし」,「下尻をしっ
かりカバー」させるためには,最も低くても臀部の頂上部を起点として下
尻部の縮径に沿ってショーツを下窄みにする設計をするのが通常である。
このような技術常識に照らすと,引用文献1には,「臀部の頂上部」の
位置が図示されていないため,引用発明は下窄まりの領域の最上部と臀部
の頂上部との上下方向による位置関係が明らかではないものの,当業者は,
引用発明における下窄まりの領域の最上部は,臀部の頂上部と同じ高さか
それより高く設計されていると理解するものといえる。
そして,引用発明においてショーツの上方向への拡開の程度が任意であ
る(標準体型を想定した場合の)臀部の頂上部以高の領域において,臀部
の頂上部が標準体型よりも高い位置にある着用者に生じうる下尻の食い込
みや圧迫による包み込み不足の懸念から,下窄まりの開始高を(標準体型
における)臀部の頂上部よりも多少高くすることは,設計上容易に想定さ
れるものであり,そのような構成とすることについての動機付けも存する。
そうすると,当業者は,引用発明において,「裾口のずり上がりによる
お尻への喰いこみがなく,下尻をしっかりカバーしているのでハミ尻を防
止できる」ようにするために,上記動機付けに従って,相違点1に係る本
願発明1の構成(「「身頃(14)」のうち,前中心線(S1)に対し,
後中心線(S2)の下方延長線を前中心線(S1)の下方延長線に近づけ
る下方窄まりの状態に設定されている領域が,「臀部の頂上部よりも上側
から」である」との構成)を備えたものとすることは容易になし得た事項
であるといえる。
これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
⑵小括
以上のとおり,本件審決における相違点1の容易想到性の判断に誤りはな
く,本願発明1は,当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることがで
きたものである。
したがって,これと同旨の本件審決の判断に誤りはないから,原告主張の
取消事由は理由がない。
第4当裁判所の判断
1本願明細書の記載事項について
(1)本願明細書(甲1,5)の発明の詳細な説明には,次のような記載がある
(下記記載中に引用する図1ないし図6,図8ないし図11については別紙
1を参照)。
ア【技術分野】
【0001】
本発明は,ショーツ,パンツ,水着,レオタード,ブリーフ,メンズタ
イツ,レディースタイツ等の衣料に係り,より詳しくは,特にヒップ下部
の膨らみ体形へのフィット性に優れ,歩行時や屈み姿勢時等においてヒッ
プ裾ラインがずり上がるのを防止し快適な履き心地のショーツ等の衣料に
関する。
【背景技術】
【0002】
従来,この種のショーツ等衣料においては,体形がウェストよりもヒッ
プが大きいことから,一般的にウェスト周りよりもヒップ周りが大きいパ
ターン(カッティング方法)が採用されている。すなわち,ショーツ等衣
料の展開状態において,例えば,図8~図11に示すように,前面覆い部
分(前身頃)1の左右方向中央部を上下方向に通る前中心線S1に対し,
背面覆い部分(後身頃)2の左右方向中央部を上下方向に通る後中心線S
2がこの後中心線S2の下方延長線を前中心線S1の下方延長線より次第
に遠ざける下方広がりの状態になるように設定されている(例えば,特許
文献1~4参照。)。なお,図8~図11の各図において,3は前面覆い
部分1の下端の内股前部と背面覆い部分2の下端の内股後部との間に配設
されるまち部を示す。図8は特許文献1に記載のパンティの前身頃1,後
身頃2,及びまち部3の展開平面図を,図9は特許文献2に記載のショー
ツの前身頃1,後身頃2,及びまち部3の展開平面図を,図10は特許文
献3に記載のショーツの前身頃1,後身頃2,及びまち部3の展開平面図
を,図11は特許文献4に記載のショーツの前身頃1の左右側縁に後身頃
の左半分2aおよび右半分2bがそれぞれ一体に形成された身頃の展開平
面図をそれぞれ示すものである。
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
確かに,ヒップ体形においてヒップ頂上部は広いので,ヒップ頂上部と
対応するショーツ等衣料のヒップ頂上部該当部位までは上記のように前面
覆い部分(前身頃)1の前中心線S1に対して背面覆い部分(後身頃)2
の後中心線S2が下方広がりの状態になるように設定されていてもよい。
しかしながら,ヒップ体形においてヒップ下部(ヒップ下部の膨らみ体形)
は球の下半分の形状に近いので,ヒップ下部と対応するショーツ等衣料の
ヒップ下部該当部位において,前面覆い部分(前身頃)1の前中心線S1
に対して背面覆い部分(後身頃)の後中心線S2が下方広がりの状態では
ヒップ下部へのフィット性に欠け,このため,直立姿勢から椅子に座る姿
勢や腰を曲げたり,屈む姿勢等に変えたりしたときにヒップ裾ライン(足
口内周のほぼ後ろ半分)がずり上がり,また直立姿勢時にショーツ等衣料
のヒップ下部や臀溝部に相当する個所に弛み皺やだぶつきが発生しやすい
という問題があった。
【0005】
本発明は,このような問題を解決するためになされたものであり,その
目的とするところは,上記のようなショーツ等の衣料においてヒップ下部
へのフィット性の向上,ヒップ裾ラインのずり上がり防止の確実性を図る
ことのできるショーツ等の衣料を提供することにある。
イ【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のショーツ等の衣料は,請求項1に記載のように,発明の内容を
理解し易くするために図1~3に付した符号を参照して説明すると,
下端に足繰り形成部(15)を左右対称に上方へ向けて入り込む湾状に
形成し下腹部を覆う伸縮性を有する前面覆い部分(11)と,臀部を包み
込んで覆う伸縮性を有する背面覆い部分(12)とを有する身頃(14)
と,前記前面覆い部分(11)の下端の内股前部(16)と前記背面覆い
部分(12)の下端の内股後部(17)との間に配設され股間部を覆うま
ち部(13)とを備えており,
前記身頃(14)は,前記前面覆い部分(11)の左右両側に前記背面
覆い部分(12)の左半分および右半分が形成されて,前記背面覆い部分
(12)の左半分の左側縁と前記背面覆い部分(12)の右半分の右側縁
との縫合部を有する筒状であり,
前記身頃(14)のうち,臀部の頂上部よりも上側から下端部にわたる
範囲に対応する臀部の包み込み部分の領域は,前記背面覆い部分(12)
の左右方向中央部を上下方向に通る後中心線(S2)に沿って開かれた前
記身頃(14)の展開状態において,前記前面覆い部分(11)の左右方
向中央部を上下方向に通る前中心線(S1)に対し,前記背面覆い部分(1
2)の後中心線(S2)がこの後中心線(S2)の下方延長線を前中心線
(S1)の下方延長線に近付ける下方窄まりの状態に設定されていること
に特徴を有するものである。
【0007】
本発明のショーツ等の衣料は,請求項2に記載のように,発明の内容を
理解し易くするために図1~3に付した符号を参照して説明すると,
下端に足繰り形成部(15)を左右対称に上方へ向けて入り込む湾状に
形成し下腹部を覆う伸縮性を有する前面覆い部分(11)と,臀部を包み
込んで覆う伸縮性を有する背面覆い部分(12)とを有する筒状の身頃(
14)と,前記前面覆い部分(11)の下端の内股前部(16)と前記背
面覆い部分(12)の下端の内股後部(17)との間に配設され股間部を
覆うまち部(13)とを備えており,
前記身頃(14)は,前記背面覆い部分(12)の左右方向中央部を上
下方向に通る後中心線(S2)の箇所のほか,周方向の少なくとも一箇所
(S1,X1,X2,Y1,Y2)においてそれぞれ縫合部を有する筒状
であり,
前記身頃(14)のうち,臀部の頂上部よりも上側から下端部にわたる
範囲に対応する臀部の包み込み部分の領域は,前記背面覆い部分(12)
の後中心線(S2)に沿って開かれた前記身頃(14)の展開状態におい
て,前記前面覆い部分(11)の左右方向中央部を上下方向に通る前中心
線(S1)に対し,前記背面覆い部分(12)の後中心線(S2)がこの
後中心線(S2)の下方延長線を前中心線(S1)の下方延長線に近付け
る下方窄まりの状態に設定されていることに特徴を有するものである。
【0008】
また,本発明のショーツ等の衣料は,請求項3に記載のように,発明の
内容を理解し易くするために図4~6に付した符号を参照して説明すると,
下端に足繰り形成部(15)を左右対称に上方へ向けて入り込む湾状に
形成し下腹部を覆う伸縮性を有する前面覆い部分(11)と,臀部を包み
込んで覆う伸縮性を有する背面覆い部分(12)とを有する身頃(14)
と,前記前面覆い部分(11)の下端の内股前部(16)と前記背面覆い
部分(12)の下端の内股後部(17)との間に配設され股間部を覆うま
ち部(13)とを備えており,
前記身頃(14)は,前記前面覆い部分(11)の左右両側に背面覆い
部分(12)が一体に連続して設けられた筒状であり,
前記身頃(14)のうち,臀部の頂上部よりも上側から下端部にわたる
範囲に対応する臀部の包み込み部分の領域は,前記背面覆い部分(12)
の左右方向中央部を上下方向に通る後中心線(S2)に沿って開かれた前
記身頃(14)の展開状態において,前記前面覆い部分(11)の左右方
向中央部を上下方向に通る前中心線(S1)に対し,前記背面覆い部分(
12)の後中心線(S2)がこの後中心線(S2)の下方延長線を前中心
線(S1)の下方延長線に近付ける下方窄まりの状態に設定されているこ
とに特徴を有するものである。
【0009】
また,本発明のショーツ等の衣料は,請求項4に記載のように,発明の
内容を理解し易くするために図9に付した符号を参照して説明すると,
下端に足繰り形成部(15)を左右対称に上方へ向けて入り込む湾状に
形成し下腹部を覆う伸縮性を有する前面覆い部分(11)と,臀部を包み
込んで覆う伸縮性を有する背面覆い部分(12)とを有する筒状の身頃(
14)と,前記前面覆い部分(11)の下端の内股前部(16)と前記背
面覆い部分(12)の下端の内股後部(17)との間に配設され股間部を
覆うまち部(13)とを備えており,
前記身頃(14)は,前記背面覆い部分(12)の左右方向中央部を上
下方向に通る後中心線(S2)以外の周方向の少なくとも一箇所(S1,
X1,X2,Y1,Y2)において縫合部を有する筒状であり,
前記身頃(14)のうち,臀部の頂上部よりも上側から下端部にわたる
範囲に対応する臀部の包み込み部分の領域は,前記背面覆い部分(12)
の後中心線(S2)に沿って開かれた前記身頃(14)の展開状態におい
て,前記前面覆い部分(11)の左右方向中央部を上下方向に通る前中心
線(S1)に対し,前記背面覆い部分(12)の後中心線(S2)がこの
後中心線(S2)の下方延長線を前中心線(S1)の下方延長線に近付け
る下方窄まりの状態に設定されていることに特徴を有するものである。
【0010】
上記構成によると,筒状に形成された身頃(14)は,背面覆い部分(1
2)の左右方向中央部を上下方向に通る後中心線(S2)に沿って開いた
展開状態において,臀部の頂上部よりも上側から下端部にわたる範囲に対
応する臀部の包み込み部分の領域で,前面覆い部分(11)の前中心線(S
1)に対し,背面覆い部分(12)の後中心線(S2)がこの後中心線(S
2)の下方延長線を前中心線(S1)の下方延長線に近付ける下方窄まり
の状態に設定されているので,ショーツ等衣料のヒップ下部該当部位周り
をヒップ下部体形にフィットすべく絞ることができ,ヒップ下部体形の半
球形状の下半分にフィットし,つまり背面覆い部分の下部がヒップ下部の
膨らみ体形にぴったり合って該下半分を絞り込むように深く包み込むこと
ができ,また直立姿勢時にショーツ等衣料のヒップ下部や臀溝部に相当す
る個所に弛み皺やだぶつきが発生することが無くなり,美しいヒップ裾ラ
インを出すことができる。しかも,請求項1~4の構成の記載から明らか
なとおり,身頃(14)を筒状に形成するにあたり,縫合箇所の数,縫合
位置,縫合ラインの形状などに制約がなくなって自由に選択することがで
きるほか,縫合をなくすこともでき,身頃(14)の外観デザインの自由
度を向上させることができる。
【0011】
請求項1記載のショーツ等の衣料は,請求項5に記載のように,前記後
中心線(S2)と内股後部(17)とが互いに交わる交点(J)と前中心
線(S1)との間の寸法をBとし,前記内股前部(16)と内股後部(1
7)との間の寸法をCとしたとき,その比率C/Bを0.4~2.5の範
囲内に設定するという構成を採用することができる。比率C/Bが0.4
未満ではヒップの包む面積が小さくなり過ぎ,比率C/Bが2.5を超え
るとヒップの包み込み面積が大きくなり過ぎるし,また足回りを希望の寸
法に設定できなくなって効果を損ねる。なお,より好ましい範囲の方向と
しては,請求項6に記載のように,比率C/Bを0.8~1.5の範囲内
に設定すればよい。
【0012】
請求項5または6に記載のショーツ等の衣料は,請求項7に記載のよう
に,足繰り形成部(15)の内周上のほぼ後ろ半分のヒップ裾ライン(1
5a)の前中心線(S1)に最も近い箇所と前中心線(S1)との間の寸
法をAとし,前記後中心線(S2)と内股後部(17)とが互いに交わる
交点(J)と前中心線(S1)との間の寸法をBとしたとき,その比率B
/Aを1.6~6の範囲内に設定するという構成を採用することができる。
比率B/Aが1.6未満ではヒップの包む面積が小さくなり過ぎ,不安定
になり,比率B/Aが6を超えると下方窄まりが緩慢になり,立体感が出
にくくなる。なお,より好ましい範囲の方向としては,請求項8に記載の
ように,比率B/Aを2~4の範囲内に設定すればよい。
ウ【発明の効果】
【0013】
本発明によれば,ショーツ等衣料のヒップ下部該当部位周りをヒップ下
部体形にフィットすべく絞ることができるので,ヒップ下部体形の半球形
状の下半分を深く立体的に包み込むことができ,ヒップ下部へのフィット
性に優れ,従いヒップ裾ラインのずり上がりを確実に防止できるとともに,
直立姿勢時にショーツ等衣料のヒップ下部や臀溝部に相当する個所に弛み
皺やだぶつきが発生することが無くなり,美しいヒップ裾ラインを出すこ
とができて有利である。しかも,身頃を筒状に形成するにあたり,縫合箇
所の数,縫合位置,縫合ラインの形状などに制約がなくなって身頃(14)
の外観デザインの自由度を向上させることができる。
エ【0016】
図1~3において,本発明の衣料の一実施例を示すショーツ10は,下
腹部を覆う前面覆い部分11と,この前面覆い部分11と一体に形成され
臀部を覆う背面覆い部分12とを有する身頃14と,前面覆い部分11の
下端の内股前部と背面覆い部分12の下端の内股後部との間に配設されて
股間部を覆うまち部13とを主要構成部材としてなる。身頃14の前面覆
い部分11及び背面覆い部分12と,まち部13はストレッチ生地からな
る。
【0017】
図3のように前面覆い部分11はこれの下端に足繰り形成部15を左右
対称に上方へ向けて入り込む湾状に形成している。足繰り形成部15の内
周上のほぼ後ろ半分のヒップ裾ライン15aは前面覆い部分11の左右方
向中央部を上下方向に通る前中心線S1に向けて突出する凸形の円弧状の
曲縁に形成している。
前面覆い部分11はこれの左右両側にそれぞれ背面覆い部分12の左半
分12aおよび右半分12bがそれぞれ一体に形成される。
【0018】
身頃14は,背面覆い部分12の左右方向中央部を上下方向に通る後中
心線S2に沿って開いた展開状態において,前面覆い部分11の左右方向
中央部を上下方向に通る前中心線S1に対し,背面覆い部分12の後中心
線S2がこの後中心線S2の下方延長線を前中心線S1の下方延長線に近
づける下方窄まりの状態となるように設定されている。なお,背面覆い部
分12の左半分12aの左側縁12a-1と背面覆い部12の右半分12
bの右側縁12b-1とは,図3において実線で示すように背面覆い部分
12の後中心線S2と合致する直線状に形成して下窄まりにしているが,
このように直線状に形成する場合に限られず,この直線状に代えて,例え
ば左側縁12a-1のほぼ下半部分及び右側縁12b-1のほぼ下半部分
はヒップ下部体形の曲線に可及的に沿うように外方凸形の緩やかな円弧状
の曲縁よりなる下窄まりであってもよい。
【0019】
このように裁断された身頃14は,図2に示すように背面覆い部分12
の左半分12aの左側縁12a-1と背面覆い部12の右半分12bの右
側縁12b-1とを縫い合わせることで筒状に形成し,前面覆い部分11
の下端に形成した内股前部16と,背面覆い部分12の左半分12a及び
右半分12bの各下端に形成した内股後部17とはまち部13でつなぐこ
とにより,図1に示すように左右の足繰り形成部15とまち部13の左右
の端縁18とで左右の足口19が形成される。
【0020】
身頃14の前面覆い部分11及び背面覆い部分12のウェスト部20,
21,および足口19まわりにはそれぞれ,やや幅広のストレッチレース,
生地,ゴム(幅の狭いタイプは効果が少ない)等の伸縮性帯状材22を縫
い付ける。
【0021】
上記のように縫製されたショーツ10は,身頃14の筒状形成時,背面
覆い部分12の後中心線S2に沿って開いた展開状態で,前面覆い部分1
1の前中心線S1に対し,背面覆い部分12の後中心線S2がこの後中心
線S2の下方延長線を前中心線S1の下方延長線に近付ける下方窄まりの
状態に設定したので,未着用状態でヒップ部裾周りを絞るように立体的に
作ることができる。したがって,着用時にはヒップ下部体形にフィットし,
ヒップ裾ライン15aがヒップの臀溝部にフィットしてヒップ下部を深く
十分に包み込むことができることになり,人が直立姿勢から椅子に座る姿
勢や腰を曲げたり,屈む姿勢等に変えたりしたときに生じるヒップ裾ライ
ン15aのずり上がりをよく防止できる。また,直立姿勢時にショーツ等
衣料のヒップ下部や臀溝部に相当する個所に弛み皺やだぶつきが発生する
ことも無くなり,美しいヒップ裾ラインを出すことができる。
【0022】
上記展開状態において,前面覆い部分11の前中心線S1に対し,背面
覆い部分12の後中心線S2がこの後中心線S2の下方延長線を前中心線
S1の下方延長線に近付ける下方窄まりの状態となるように設定されてい
ると,ヒップ部分および足回りの寸法はバイアス方向に確保することにな
るが,前面覆い部分11,背面覆い部分12,まち部13がストレッチ生
地からなるので,着用に支障を来たすようなことはない。
オ【0023】
また,図3において,Aの寸法(ヒップ裾ライン15aの前中心線S1
に最も近い箇所と前中心線S1との間の寸法,以下同じ)を短く,Cの寸
法(内股前部16と内股後部17との間の寸法,以下同じ)を長くするこ
とでヒップを脇から包み込む効果が得られる。Bの寸法(後中心線S2と
内股後部17とが互いに交わる交点Jと前中心線S1との間の寸法,以下
同じ)はヒップの包み込み量を確保するうえでは大きいことが好ましいが,
B寸法が大き過ぎると,前中心線S1に対する後中心線S2の下方窄まり
の状態が少なくなり立体感が無くなる。
【0024】
したがって,所定の足繰り寸法が決まれば,次に上記A,B,Cの寸法
も考慮して理想的なパターンを得る必要がある。
すなわち,比率B/Aが小さいとヒップの包む面積が小さくなり過ぎ,
不安定になる。逆に比率B/Aが大き過ぎると,下方窄まりが緩慢になり,
立体感が出にくくなる。したがって,比率B/Aを1.6~6の範囲内,
より好ましくは比率B/Aを2~4の範囲内に設定するとよい。
また,比率C/Bが小さ過ぎると,比率B/Aが小さい場合と同様にヒ
ップの包む面積が小さくなり過ぎる。逆に比率C/Bが大き過ぎると,ヒ
ップの包み込み面積が大きくなり過ぎるし,また足回りを希望の寸法に設
定できなくなるので,効果を損ねる。したがって,比率C/Bを0.4~
2.5の範囲内,より好ましくは比率C/Bを0.8~1.5の範囲内に
設定するとよい。
具体的には,その一例として,寸法Aを7cm,寸法Bを18cm,寸
法Cを20cm,寸法D(背面覆い部分12の左側縁12a-1の最上端
部と前面覆い部分11の前中心線S1との間の寸法,背面覆い部分12の
右側縁12b-1の最上端部と前面覆い部分11の前中心線S1との間の
寸法,以下同じ)を25cm,寸法E(足繰り形成部15の全長寸法)=
33cm,F(まち部13の左端縁18の寸法,右端縁18の寸法)を1
2cm,寸法G(まち部13の中央部の上下寸法)を14cmに設定する。
カ【0025】
なお,上記実施例において,図3に示す身頃(14)は,前面覆い部分
(11)の左右両側に背面覆い部分(12)の左半分および右半分が一体
に形成されて,前記背面覆い部分(12)の左半分の左側縁と前記背面覆
い部分(12)の右半分の右側縁とを縫合することにより筒状に形成した
が,これに限らずに,次のように構成してもよい。
すなわち,身頃(14)は,背面覆い部分(12)の後中心線(S2)
の箇所の縫合のほか,前面覆い部分(11)の前中心線(S1)の箇所,
あるいは図3の点線で示すように前面覆い部分(11)の左右両側(X1,
X2またはY1,Y2)の箇所,あるいはその他の適宜の箇所で縫合する
身頃であってもよい。
要するに,身頃(14)は,背面覆い部分(12)の後中心線(S2)
の箇所のほか,周方向において少なくとも一箇所(S1,X1,X2,Y
1,Y2)縫合され,かつ,背面覆い部分(12)の後中心線(S2)に
沿って開いた展開状態において,前面覆い部分(11)の前中心線(S1
)に対し,背面覆い部分(12)の後中心線(S2)がこの後中心線(S
2)の下方延長線を前中心線(S1)の下方延長線に近付ける下方窄まり
の状態に設定されていればよいものである。
【0026】
また,本発明の対象とする衣料は,図3に示す身頃(14)に限らず,
図4に示すような身頃(14)であってもよい。
すなわち,図4に示す身頃(14)は,前記前面覆い部分(11)の左
右両側に前記背面覆い部分(12)が一体に設けられて図5及び図6に示
すように縫合箇所のない筒状に形成する身頃であってもよい。
このような身頃(14)であっても,図4に示すように,背面覆い部分
(12)の後中心線(S2)に沿って開いた展開状態において,前面覆い
部分(11)の前中心線(S1)に対し,背面覆い部分(12)の後中心
線(S2)がこの後中心線(S2)の下方延長線を前中心線(S1)の下
方延長線に近付ける下方窄まりの状態に設定されていれば,上記図1~3
に示すショーツと同様の作用効果が得られるものである(なお,この図5
及び図6に示すパンツは,太股覆い部分24をそれぞれ縫合させる構成の
ものを示している。)
【0027】
また,本発明の対象とする衣料は,まち部13を,前面覆い部分11と
背面覆い部分12の何れか一方または双方と連続させて一体に設けるよう
にしてもよいし,前面覆い部分(11)と背面覆い部分(12)が一体の
場合は,まち部13も前面覆い部分11と背面覆い部分12に連続させて
一体に設けるようにしてもよいものである。
【0028】
また,本発明の対象とする衣料は,図3に示す身頃(14)に限らず,
図7に示すような身頃(14)であってもよい。
すなわち,身頃(14)は,背面覆い部分(12)の後中心線(S2)
の箇所は一体に形成されていて,この後中心線(S2)以外の前中心線(
S1)の箇所,あるいは図9の点線で示すように前面覆い部分(11)の
左右両側(X1,X2またはY1,Y2)の箇所,あるいはその他の適宜
の箇所で縫合する身頃であってもよい。
要するに,身頃(14)は,背面覆い部分(12)の後中心線(S2)
以外の周方向の少なくとも一箇所において縫合され,かつ,背面覆い部分
(12)の後中心線(S2)に沿って開いた展開状態において,前面覆い
部分(11)の前中心線(S1)に対し,背面覆い部分(12)の後中心
線(S2)がこの後中心線(S2)の下方延長線を前中心線(S1)の下
方延長線に近付ける下方窄まりの状態に設定されていればよいものである。
キ【0029】
また,本発明の対象とする衣料の身頃(14)は,図1・図2・図5・
図6に示すウエスト部(20,21)側において,身頃(14)のだぶつ
きを防止してすっきりした外観デザインにするために,前記背面覆い部分
(12)の後中心線(S2)に沿って開いた展開状態において,前記後中
心線(S2)の上部側を前記前中心線(S1)側に縮める形状にしてもよ
いものである。
【0030】
また,本発明の対象とする衣料は,水着,レオタード,メンズ用あるい
はレデイース用のタイツ,男性用のブリーフなどにも同様に適用すること
ができ,さらにまた身頃14にはダーツを施すようにしてもよい。
⑵前記(1)の記載事項によれば,本願明細書には,本願発明1に関し,次のと
おりの開示があることが認められる。
ア前身頃1,後身頃2及びまち部3を備えた従来のショーツ等の衣料では,
体形がウェストよりもヒップが大きいことから,一般的にウェスト周りよ
りもヒップ周りが大きいパターン(カッティング方法)が採用され,その
展開状態(展開平面図)において,ヒップ体形はヒップ頂上部が広いため,
背面覆い部分(後身頃2)の左右方向中央部を上下方向に通る「後中心線
S2」が,前面覆い部分(前身頃1)の左右方向中央部を上下方向に通る
「前中心線S1」に対し,「後中心線S2」の下方延長線が「前中心線S
1」の下方延長線より次第に遠ざける,「下方広がり」の状態になるよう
に設定されていた(【0002】,図8ないし図11)。
しかしながら,ヒップ下部(ヒップ下部の膨らみ体形)は,球の下半分
の形状に近いので,ヒップ下部と対応するショーツ等衣料のヒップ下部該
当部位において,「後中心線S2」が「前中心線S1」に対して「下方広
がり」の状態ではヒップ下部へのフィット性に欠け,このため,直立姿勢
から椅子に座る姿勢や腰を曲げたり,屈む姿勢等に変えたりしたときにヒ
ップ裾ライン(足口内周のほぼ後ろ半分)がずり上がり,また,直立姿勢
時にショーツ等衣料のヒップ下部や臀溝部に相当する個所に弛み皺やだぶ
つきが発生しやすいという問題があった(【0004】)。
イ「本発明」は,このような問題を解決し,ヒップ下部へのフィット性の
向上,ヒップ裾ラインのずり上がり防止の確実性を図ることのできるショ
ーツ等の衣料を提供することを目的とし(【0005】),その目的を達
成するための手段として,前面覆い部分(11)及び背面覆い部分(12)
を有する身頃(14)のうち,臀部の頂上部よりも上側から下端部にわた
る範囲に対応する臀部の包み込み部分の領域は,前記身頃(14)の展開
状態において,背面覆い部分(12)の後中心線(S2)が,前面覆い部
分(11)の前中心線(S1)に対し,後中心線(S2)の下方延長線が
前中心線(S1)の下方延長線に近付ける,「下方窄まり」の状態に設定
する構成を採用した(【0010】)
これにより「本発明」は,未着用状態でショーツ等衣料のヒップ下部該
当部位周りをヒップ下部体形にフィットすべく絞るように立体的に作るこ
とができ,着用時にはヒップ下部体形の半球形状の下半分を深く立体的に
包み込むことができるので,ヒップ下部へのフィット性に優れ,ヒップ裾
ラインのずり上がりを確実に防止できるとともに,直立姿勢時にショーツ
等衣料のヒップ下部や臀溝部に相当する個所に弛み皺やだぶつきが発生す
ることが無くなり,美しいヒップ裾ラインを出すことができるという効果
を奏する(【0010】,【0013】,【0021】)。
2引用文献1の記載事項について
(1)引用文献1(甲11)には,次のような記載がある(下記記載中に引用す
る図1ないし図6については別紙2を参照)。
ア【技術分野】
【0001】
本発明は,ショーツやショーツガードル,ショートガードルなどの裾口
廻りに接ぎを入れて大腿部への圧迫感や喰いこみをなくしフィットすると
共に,裾口のずり上がりによるハミ尻などをなくした履き心地が良好で美
しいヒップラインを現出できる股部を有する衣類に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のショーツ50は,例えば,図6の展開図に示すように,腹部を覆
う前身頃51と,臀部を覆う後身頃52と,股間を覆うマチ布53とから
なり,前身頃51および後身頃52を両側縁で縫着すると共に,前身頃5
1および後身頃52の下端中心部にマチ布53の両端部をそれぞれ縫着し
て構成されており,前身頃51および後身頃52は主として横方向に伸縮
性良好な生地によって形成されている。
【0003】
上記のショーツ50は,前身頃51および後身頃52が横方向に伸縮性
良好な生地によって形成されており,着用後はヒップにフィットしている
が,座ったり,立ったり,屈んだり,歩いたりする日常生活の色々な動き
の中で生地が横方向に引っ張られた場合,生地が伸びてヒップにフィット
するが,縦方向に引っ張られた場合,横方向よりも伸縮性が悪いため,ず
り上がってしまうことがある。すなわち,ヒップは緩やかに丸く隆起して
おり,ヒップトップからその下部にかけてよく動き形も変化し,その動き
に応じてフィットせず浮くため,ヒップ下部の裾廻りが次第にずり上がっ
ていき,ヒップに喰い込んでハミ尻となり,着用者に不快感を与えると共
に,ヒップラインが崩れるといった問題があった。
【0004】
そこで,ずり上がりを防ぐため,裾口廻り54の周縁に沿って伸縮テー
プ(図示せず)を裏打ちすることにより,一定の締め付け力を得て裾口廻
り54がずり上がらないように安定化を図っているが,伸縮テープの縫着
により裾口廻り54が厚くて硬くなり,大腿部に喰い込み圧迫感が強くな
り着用感に優れなかった。
【0005】
そのような問題点を解消するものとして,裾口廻りに伸縮性に富んだ二
重生地使いのテープ生地を縫着したものが知られている(例えば,特許文
献1参照)。また,別のものとして,裾口が大腿部の肌に喰いこまないよ
うに,Vカットのストレッチレースをガードルの裾口に入れたり,裾口全
体をナイロンラッセル等のストレッチレースにしたりしているものが提案
されている(例えば,特許文献2参照)。
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし,上記特許文献1のものは,二重生地使いのテープ生地を両裾口
廻りに縫着するのでテープ生地が分厚くなり,肌に当たってゴロつき感が
生じると共に,厚みによる段差が生じ,その段差がアウターに反映され,
アウターの外側から段差が見えてしまい着用者の外観を著しく低下させる
という問題点があった。また,上記特許文献2のものは,裾口が捲れ上が
ったりすることから,着用安定感があまりよくないという問題点があった。
【0008】
本発明は,上記のような問題を解決することを課題として研究開発され
たもので,ショーツやショーツガードル,ショートガードルなど股部を有
する衣類における裾口廻りに接ぎを入れ,当たりを柔らかくして鼠蹊部へ
の喰いこみをなくすると共に,フィット感がよくなり,日常生活での色々
の動きにおいても,下尻をしっかりカバーしてずり上がりによるハミ尻な
どが生じないようにした股部を有する衣類を提供することを目的とするも
のである。
イ【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決し,その目的を達成する手段として,本発明は,前身
頃と左右脇身頃と裾身頃とから構成される股部を有する衣類であって,前
身頃の両側下辺部を凹状湾曲面とし,左右脇身頃の下辺を緩やかな凹凸弧
状面と深い凹弧状面と傾斜面に形成し,該傾斜面を前身頃の下辺部に縫着
して裾口廻りを形成すると共に,上端凹弧状面,上部凸弧状面,緩やかな
凹弧状面並びに下部細幅部からなる二つ折りされた裾身頃の重合片側を縫
着ラインとし,上端凹弧状面の部位を前身頃の凹状湾曲面の部位に,上部
凸弧状面の部位を前身頃の側辺と脇身頃の内側辺の下端部と一致させ,緩
やかな凹弧状面の部位を脇身頃の緩やかな凹凸弧状面の部位に,下部細幅
部の部位を脇身頃の深い凹弧状面の部位に,下端部を前身頃の下辺部にそ
れぞれ合致させて縫着したことを特徴とする股部を有する衣類を開発し,
採用した。
【0010】
また,本発明では,上記のように構成した股部を有する衣類において,
前記前身頃,左右脇身頃,裾身頃はそれぞれ伸縮性及び弾力性に優れてい
るベア天竺で編成されていることを特徴とする股部を有する衣類を開発し,
採用した。
【0011】
本発明は,前身頃の両側下辺部を凹状湾曲面とし,左右脇身頃の下辺を
緩やかな凹凸弧状面と深い凹弧状面と傾斜面に形成し,該傾斜面を前身頃
の下辺部に縫着して裾口廻りを形成し,該裾口廻りに,二つ折りされた裾
身頃の重合片側を縫着ラインとし,前身頃の凹状湾曲面の部位に,裾身頃
の上端凹弧状面の部位を,前身頃の側辺と脇身頃の内側辺の下端部に,上
部凸弧状面の部位を一致させ,脇身頃下辺の緩やかな凹凸弧状面部の部位
に,裾身頃の緩やかな凹弧状面の部位を,脇身頃の深い凹弧状面の部位に,
裾身頃の下部細幅部の部位を,下端部を前身頃の下辺部にそれぞれ合致さ
せて縫着したものであるから,裾口廻りのラインと裾身頃によるラインの
異なりにより,身体に沿うパターンに仕上がり裾身頃が立体的になり太股
部によく馴染みフィット感が増すと共に,締め付け感や窮屈感がなくなり
履き心地が良好になる。
【0012】
また,裾身頃が前身頃と左右脇身頃と同じベア天竺で編成されているか
ら,全面にわたって同一の伸縮性となり,違和感がなく肌当たりがソフト
であって,身体の一部が締め付けられたりすることがなくなる。また裾身
頃は二つ折りされていてもベア天竺で編成されているから,硬直感がなく
伸縮性,弾力性に富み大腿部にフィットする。
【0013】
さらに,裾口廻りのラインと裾身頃との縫い合わせるラインが異なって
おり,縫い合わせると,裾身頃に角度が生じて裾口が前向きになり,歩行
時や椅子に座って足が前向きに動いた際にでも,裾口廻りのずり上がりに
よるお尻への喰いこみがなく,下尻をしっかりカバーしているのでハミ尻
を防止でき,ヒップラインを崩すことがなくなる。
ウ【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に,本発明の実施の形態をショーツの例で説明すれば,図1はショ
ーツの正面図,図2はショーツの背面図,図3はショーツの右側面図,図
4はショーツの展開図,図5は裾身頃を二つ折りした正面図である。
【0015】
1は細い綿糸とポリウレタン糸との混合糸または細い綿糸とポリウレタ
ン糸とナイロン糸との混合糸により伸縮性と弾力性に富むようベア天竺編
みされた腹部を覆う前身頃であり,上辺2と,下辺3と,下方に至るに従
い徐々に拡がる傾斜状の左右両側辺4,4と,その両側辺4,4に連設し
内方に向かって浅い凹状湾曲面5,5に形成されている。
【0016】
6,7は前身頃1と同じベア天竺編みされた側腹部から臀部を覆う左右
一対の脇身頃であり,前記前身頃1の左右両側辺4,4と接ぐ内側辺8,
9および臀部の形状に沿う曲線の外側辺10,11を後部中心で縫合する
と共に,前身頃1の左右両側辺4,4と脇身頃6,7の内側辺8,9の下
端部4a,8a,4a,9aから外側辺10,11の下端部10a,11
aまでの下辺12,13を,緩やかに傾斜する凹凸弧状面14,15と,
小さくて深い凹弧状面16,17と,傾斜面18,19に裁断形成されて
あり,該傾斜面18,19を前身頃1の下辺部3に縫着して裾口廻り20
,21を形成してある。
【0017】
22,23は前記前身頃1と脇身頃6,7と同じベア天竺編みで編成さ
れた長手状の裾身頃であり,図4の展開図に示すように,浅いV字状に形
成された上端部24,25の両側から下端に向かって凹弧状面26,26,
27,27が形成されており,その上端凹弧状面26,26,27,27
に連設する外方に突出する上部凸弧状面28,28,29,29が設けら
れ,その上部凸弧状面28,28,29,29に繋がる緩やかな凹弧状面
30,30,31,31が形成されていると共に,下方に向かって次第に
窄まり下部細幅部32,32,33,33を経て浅い逆V字状の下端部3
4,35に連なっている。この裾身頃22,23は,図5に示すように,
幅方向の中央部を長さ方向に沿って二つ折りされたもので,最大幅の上部
凸弧面28,29が約60~70mm,最小幅の下部細幅部29,29が
約20~22mmになっている。
【0018】
このように構成された本発明の実施形態におけるショーツの縫製手段と
作用を説明すれば,図4の展開状態から,裾身頃22,23を,図5に示
すように,幅方向の中心を長さ方向に二つ折りして外側36,37を直線
状とすると共に,内側38,39の重なり合う側が縫着ラインになる。
【0019】
すなわち,上端部24,25を前身頃1の下辺3に縫着し,上端凹弧状
面26,27の部位を,前身頃1の凹状湾曲面5,5の部位に,上部凸弧
状面28,29の部位を,前身頃1の両側辺4,4と脇身頃6,7の内側
辺8,9の下端部4a,8a,4a,9aと一致させ,緩やかな凹弧状面
30,31の部位を,脇身頃6,7の下辺12,13の緩やかな凹凸弧状
面14,15の部位に,下部細幅部32,33の部位を,脇身頃6,7の
深い凹弧状面16,17の部位に合致させ,さらに裾身頃22,23の下
端部34,35を前身頃1の下辺3にそれぞれ合致させて縫着させること
により,裾口廻り20,21に裾身頃22,23が縫着されてショーツに
なる。
【0020】
裾口廻り20,21に縫製された裾身頃22,23は,ベア天竺で編成
されており,伸縮性,弾力性に富み,前身頃1の左右両側辺4,4と脇身
頃6,7の内側辺の下端部4a,8a,4a,9aで裾廻り部が最大広幅
になり,左右脇身頃6,7の下辺12,13の傾斜面18,19で最小幅
となる裾身頃22,23が縫製され,鼠蹊部への喰い込み圧迫感がなくな
り着用感に優れる。
【0021】
また,裾口廻り20,21に形成される縫着ラインの凹状湾曲面5,5
と,前身頃の側辺4,4と脇身頃6,7の内側辺8,9の下端部4a,8
a,4a,9aと,緩やかな凹凸弧状面14,15と,深い凹弧状面16,
17と,傾斜面18,19と,裾身頃22,23の縫着ラインの上端凹弧
状面26,27と,上部凸弧状面28,29と,緩やかな凹弧状面30,
31と,下部細幅部32,33の縫い合わせラインがそれぞれ異なること
により,前身頃1および脇身頃6,7と裾身頃22,23との間に角度が
生じて裾身頃22,23が立ち上がった状態になって図3に示すように,
裾口が前方に向くことになり,歩行時や椅子に座って足が前向きに動いた
としても,裾口のずり上がりによるお尻への喰いこみがなく,下尻をしっ
かりカバーしているのでハミ尻を防止できる。さらに,太股部のラインに
沿うことになり足を動かしても肉がにげないのでハミ尻になることがない。
また,左右の裾身頃間の間隔が比較的広くなっているので,動いても内側
に片寄ったりせず下尻をしっかりカバーでき,美しいヒップラインを現出
する。
【0022】
以上,本発明の実施の形態についは,ショーツで,前身頃と左右脇身頃
を別体とした例で説明したが,連続した一連の場合でもよく,また左右脇
身頃を後部中心線で縫製するようにしたが,この左右脇身頃においても,
連続した一枚の生地の場合でも良いのは勿論のことであり,かつショーツ
ガードル,ショートガードル,ボディスーツなどでもよく,要するに発明
の目的を達成でき,かつ発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の設
計変更が可能であることは言うまでもない。
エ【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は,日常生活での色々な動作によって生じるショーツなどのずり
上がりによるハミ尻を防止でき,美しいヒップラインを現出すると共に,
裾口廻りによる大腿部への喰い込みや圧迫感を生じさせない履き心地が良
好なショーツ,ショーツガードル,ショートガードル,ボディスーツなど
の股部を有する衣料に好適に利用できる。
⑵前記⑴の記載事項によれば,引用文献1には,本件審決認定の引用発明(前
記第2の3(2)ア)が記載されていることが認められる。
そして,前記(1)の記載事項によれば,引用文献1には,引用発明に関し,
次のような開示があることが認められる。
ア前身頃51,後身頃52及びマチ布53とからなり,前身頃51及び後
身頃52が主として横方向に伸縮性良好な生地によって形成されている従
来のショーツにおいては,緩やかに丸く隆起したヒップは,ヒップトップ
からその下部にかけてよく動き形も変化するが,ショーツが縦方向に引っ
張られた場合,横方向よりも伸縮性が悪いので,その動きに応じてフィッ
トせず浮くため,ヒップ下部の裾廻りが次第にずり上がっていき,ヒップ
に喰い込んでハミ尻となり,着用者に不快感を与えると共に,ヒップライ
ンが崩れるといった問題があった(【0002】,【0003】,図6)。
上記問題を解消するものとして,裾口廻りに伸縮性に富んだ二重生地使
いのテープ生地を縫着したものや,裾口が大腿部に喰いこまないようにV
カットのストレッチレースをガードルの裾口に入れたり,裾口全体をナイ
ロンラッセル等のストレッチレースにしたものが提案されているが,二重
生地使いのテープ生地を縫着したものは,テープ生地が肌に当たってゴロ
つき感が生じると共に,厚みによる生じた段差がアウターに反映されて着
用者の外観を著しく低下させるという問題点があり,裾口にストレッチレ
ースを用いたものには,裾口が捲れ上がったりすることから,着用安定感
があまりよくないという問題点があった(【0005】,【0007】)。
イ「本発明」は,このような問題を解決し,ショーツ等の股部を有する衣
類における裾口廻りに接ぎを入れ,当たりを柔らかくして鼠蹊部への喰い
こみをなくすと共に,フィット感がよくなり,日常生活での色々の動きに
おいても,下尻をしっかりカバーしてずり上がりによるハミ尻などが生じ
ないようにした股部を有する衣類を提供することを目的とし(【0008】),
その目的を達成するための手段として,前身頃と左右脇身頃と裾身頃とか
ら構成される股部を有する衣類において,前身頃の両側下辺部を凹状湾曲
面とし,左右脇身頃の下辺を緩やかな凹凸弧状面と深い凹弧状面と傾斜面
に形成し,該傾斜面を前身頃の下辺部に縫着して裾口廻りを形成すると共
に,上端凹弧状面,上部凸弧状面,緩やかな凹弧状面並びに下部細幅部か
らなる二つ折りされた裾身頃の重合片側を縫着ラインとし,上端凹弧状面
の部位を前身頃の凹状湾曲面の部位に,上部凸弧状面の部位を前身頃の側
辺と脇身頃の内側辺の下端部と一致させ,緩やかな凹弧状面の部位を脇身
頃の緩やかな凹凸弧状面の部位に,下部細幅部の部位を脇身頃の深い凹弧
状面の部位に,下端部を前身頃の下辺部にそれぞれ合致させて縫着する構
成を採用した(【0009】)。
これにより「本発明」は,裾口廻りのラインと裾身頃との縫い合わせる
ラインが異なることによって,縫い合わせると,裾身頃に角度が生じて裾
口が前向きになり,歩行時や椅子に座って足が前向きに動いた際に,裾口
廻りのずり上がりによるお尻への喰いこみがなく,下尻をしっかりカバー
しているのでハミ尻を防止することができ,さらに,「太股部」のライン
に沿うことになり,足を動かしても肉がにげないのでハミ尻になることが
なく,また,動いても内側に片寄ったりせず下尻をしっかりカバーでき,
美しいヒップラインを現出するという効果を奏する(【0011】,【0
013】,【0021】)。
3相違点1の容易想到性の判断の誤りについて
(1)相違点1に係る本願発明1の構成について
ア(ア)本願発明1の特許請求の範囲(請求項1)には,本願発明1の「シ
ョーツ等の衣料」は,「下端に足繰り形成部(15)を左右対称に上方
へ向けて入り込む湾状に形成し下腹部を覆う伸縮性を有する前面覆い部
分(11)」と,「臀部を包み込んで覆う伸縮性を有する背面覆い部分
(12)」とを有する「身頃(14)」と,「前記前面覆い部分(11)
の下端の内股前部(16)と前記背面覆い部分(12)の下端の内股後
部(17)との間に配設され股間部を覆うまち部(13)」とを備えて
おり,「前記身頃(14)のうち,臀部の頂上部よりも上側から下端部
にわたる範囲に対応する臀部の包み込み部分の領域は,前記背面覆い部
分(12)の左右方向中央部を上下方向に通る後中心線(S2)に沿っ
て開かれた前記身頃(14)の展開状態において,前記前面覆い部分(1
1)の左右方向中央部を上下方向に通る前中心線(S1)に対し,前記
背面覆い部分(12)の後中心線(S2)がこの後中心線(S2)の下
方延長線を前中心線(S1)の下方延長線に近付ける下方窄まりの状態
に設定されていること」の記載がある。上記記載から,本願発明1は,
身頃(14)の展開状態において,「臀部を包み込んで覆う伸縮性を有
する背面覆い部分(12)」のうち,「臀部の包み込み部分の領域」は,
「臀部の頂上部よりも上側から下端部にわたる範囲」に対応し,背面覆
い部分(12)の左右方向中央部を上下方向に通る「後中心線(S2)」
が,前面覆い部分(11)の左右方向中央部を上下方向に通る「前中心
線(S1)」に対し,後中心線(S2)の下方延長線を前中心線(S1)
の下方延長線に近づける「下方窄まり」の状態に設定されており,「下
方窄まり」の状態に設定されている領域の開始位置(起点)が「臀部の
頂上部よりも上側」(相違点1に係る本願発明1の構成)であることを
理解できる。
一方で,本願発明1の特許請求の範囲(請求項1)には,「臀部の頂
上部よりも上側」の用語の意義について規定した記載はない。
次に,本願明細書には,「下方窄まり」の状態に設定したことの効果
に関し,「筒状に形成された身頃(14)は,背面覆い部分(12)の
左右方向中央部を上下方向に通る後中心線(S2)に沿って開いた展開
状態において,臀部の頂上部よりも上側から下端部にわたる範囲に対応
する臀部の包み込み部分の領域で,前面覆い部分(11)の前中心線(S
1)に対し,背面覆い部分(12)の後中心線(S2)がこの後中心線
(S2)の下方延長線を前中心線(S1)の下方延長線に近付ける下方
窄まりの状態に設定されているので,ショーツ等衣料のヒップ下部該当
部位周りをヒップ下部体形にフィットすべく絞ることができ,ヒップ下
部体形の半球形状の下半分にフィットし,つまり背面覆い部分の下部が
ヒップ下部の膨らみ体形にぴったり合って該下半分を絞り込むように深
く包み込むことができ,また直立姿勢時にショーツ等衣料のヒップ下部
や臀溝部に相当する個所に弛み皺やだぶつきが発生することが無くなり,
美しいヒップ裾ラインを出すことができる。」(【0010】),「本
発明によれば,ショーツ等衣料のヒップ下部該当部位周りをヒップ下部
体形にフィットすべく絞ることができるので,ヒップ下部体形の半球形
状の下半分を深く立体的に包み込むことができ,ヒップ下部へのフィッ
ト性に優れ,従いヒップ裾ラインのずり上がりを確実に防止できるとと
もに,直立姿勢時にショーツ等衣料のヒップ下部や臀溝部に相当する個
所に弛み皺やだぶつきが発生することが無くなり,美しいヒップ裾ライ
ンを出すことができて有利である。」(【0013】),「上記のよう
に縫製されたショーツ10は,身頃14の筒状形成時,背面覆い部分1
2の後中心線S2に沿って開いた展開状態で,前面覆い部分11の前中
心線S1に対し,背面覆い部分12の後中心線S2がこの後中心線S2
の下方延長線を前中心線S1の下方延長線に近付ける下方窄まりの状態
に設定したので,未着用状態でヒップ部裾周りを絞るように立体的に作
ることができる。したがって,着用時にはヒップ下部体形にフィットし,
ヒップ裾ライン15aがヒップの臀溝部にフィットしてヒップ下部を深
く十分に包み込むことができることになり,人が直立姿勢から椅子に座
る姿勢や腰を曲げたり,屈む姿勢等に変えたりしたときに生じるヒップ
裾ライン15aのずり上がりをよく防止できる。また,直立姿勢時にシ
ョーツ等衣料のヒップ下部や臀溝部に相当する個所に弛み皺やだぶつき
が発生することも無くなり,美しいヒップ裾ラインを出すことができる。」
(【0021】)との記載がある。上記記載から,前記1(2)イのとおり,
「下方窄まり」の状態に設定したことにより,未着用状態でヒップ下部
体形にフィットすべくヒップ部裾周りを絞るように立体的に作ることが
でき,着用時にはヒップ下部体形の半球形状の下半分を深く立体的に包
み込むことができるので,ヒップ下部へのフィット性に優れ,ヒップ裾
ラインのずり上がりを確実に防止できるとともに,直立姿勢時にショー
ツ等衣料のヒップ下部や臀溝部に相当する個所に弛み皺やだぶつきが発
生することが無くなり,美しいヒップ裾ラインを出すことことができる
という効果を奏することを理解できる。このように本願明細書は,「下
方窄まり」の状態に設定した構成によれば,ヒップ下部体形の半球形状
の下半分を深く立体的に包み込むことができるので,上記効果を奏する
ことを開示しているものと認められる。
一方で,本願明細書には,本願発明1の「臀部の頂上部よりも上側」
の用語の意義や具体的な位置を示した記載はなく,また,「下方窄まり」
の状態の設定の開始位置(起点)を「臀部の頂上部よりも上側」とする
ことの技術的意義について述べた記載はない。もっとも,本願明細書の
【0029】には,「また,本発明の対象とする衣料の身頃(14)は,
図1・図2・図5・図6に示すウエスト部(20,21)側において,
身頃(14)のだぶつきを防止してすっきりした外観デザインにするた
めに,前記背面覆い部分(12)の後中心線(S2)に沿って開いた展
開状態において,前記後中心線(S2)の上部側を前記前中心線(S1)
側に縮める形状にしてもよいものである。」との記載があるところ,本
願明細書には,上記記載中の「前記後中心線(S2)の上部側」の下端
が「臀部の頂上部よりも上側」と同義であることを示唆する記載はなく,
また,【0029】は,ウエスト部(20,21)側において,身頃(1
4)のだぶつきを防止してすっきりした外観デザインにするための構成
について述べたものであって,「下方窄まり」の状態の設定の技術的意
義について述べたものではないから,「下方窄まり」の状態の設定の開
始位置(起点)を「臀部の頂上部よりも上側」とすることの技術的意義
に関する記載であるとはいえない。
(イ)以上によれば,本願発明1の特許請求の範囲(請求項1)及び本願
明細書には,本願発明1の「臀部の頂上部よりも上側」は,「下方窄ま
り」の状態の設定の開始位置(起点)を規定したものであることの開示
はあるが,その用語の意義や技術的意義について述べた記載はない。
しかるところ,「頂上」の用語は,一般に,「いただき,てっぺん」
などを意味すること(広辞苑(第七版)),ヒップサイズの寸法は,人
体を側方から見て臀部が最も後方に突き出している位置(最も高い位置)
をメジャーで測定するのが一般的であることに鑑みると,本願発明1の
「臀部の頂上部よりも上側」にいう「臀部の頂上部」の用語は,臀部が
最も後方に突き出している位置(最も高い位置)を意味するものと理解
することができ,身頃の展開状態(展開平面図)においては,その位置
は,「臀部における点」として観念できるものと解される。
そうすると,本願発明1の「臀部の頂上部よりも上側」は,臀部が最
も後方に突き出している位置(最も高い位置)よりも,上方であれば,
それが多少の上方であっても,「臀部の頂上部よりも上側」に含まれる
ものと解される。
イこれに対し原告は,本願明細書の記載(【0010】,【0013】等)
によれば,相違点1に係る本願発明1の構成は,下方窄まりにする領域の
開始位置(臀部の形状と不整合にする領域の開始位置)を「臀部の頂上部
よりも上側」に設定(相違点1に係る本願発明1の構成)し,この設定に
より,生地が「臀部の頂上部」に対して「下方窄まり」の形状で接するこ
とになるため,「臀部の頂上部」を押圧する力には上向きの成分(上向き
のベクトル)が含まれることになり,これが臀部の頂上部をも上方に持ち
上げる作用を果たすので,「ショーツ等衣料のヒップ下部該当部位周りを
ヒップ下部体形にフィットすべく絞ることができ」,「背面覆い部分の下
部がヒップ下部の膨らみ体形にぴったり合って該下半分を絞り込むように
深く包み込むことができる」という作用効果を奏する旨主張する。
しかしながら,前記ア認定のとおり,本願明細書の【0010】及び【0
013】の記載は,「下方窄まり」の状態に設定した構成によれば,ヒッ
プ下部体形の半球形状の下半分を深く立体的に包み込むことができるので,
ヒップ下部へのフィット性に優れ,ヒップ裾ラインのずり上がりを確実に
防止できるとともに,直立姿勢時にショーツ等衣料のヒップ下部や臀溝部
に相当する個所に弛み皺やだぶつきが発生することが無くなり,美しいヒ
ップ裾ラインを出すことことができるという効果を奏する旨を開示するも
のであるが,本願明細書には,この効果が「下方窄まり」の状態の設定の
開始位置(起点)を「臀部の頂上部よりも上側」としたことによるもので
あることについての記載はない。
また,前記ア認定のとおり,本願明細書には,本願発明1の「臀部の頂
上部よりも上側」の具体的な位置を示した記載はないし,「下方窄まり」
の状態の設定の開始位置(起点)を「臀部の頂上部よりも上側」とするこ
との技術的意義について述べた記載もない。ましてや,「下方窄まり」の
状態の設定の開始位置(起点)を「臀部の頂上部よりも上側」とすること
によって,生地が「臀部の頂上部」に対して「下方窄まり」の形状で接す
ることになるため,「臀部の頂上部」を押圧する力には上向きの成分(上
向きのベクトル)が含まれることになり,これが臀部の頂上部をも上方に
持ち上げる作用を果たすことについては,記載も示唆もない。
したがって,原告の上記主張は,本願明細書の記載に基づかないもので
あるから,採用することができない。
⑵相違点1の容易想到性について
ア引用発明は,「下端凹状湾曲面5を左右対称に上方に向けて入り込む湾
状に形成し下腹部を覆う伸縮性を有する前面を覆う部分と,臀部を包み込
んで覆う伸縮性を有する背面を覆う部分とを有する,前身頃1と脇見頃6
及び7を合わせた身頃と,前記前面を覆う部分の下端の下辺3と前記背面
を覆う部分の下端の内股の後部との間に配設され股間部を覆う股間部分と
を備えており,前記身頃は,前記前面を覆う部分の左右両側に前記背面を
覆う部分の左半分及び右半分が形成されて,前記背面を覆う部分の左半分
の外側辺10と前記背中を覆う部分の右半分の外側辺11との縫合部を有
する筒状であり,前記身頃のうち,臀部のある部分から下端部にわたる範
囲に対応する臀部の包み込み部分の領域は,前記背面を覆う部分の左右方
向中央部を上下方向に通る背面中心線に沿って開かれた前記身頃の展開状
態において,前記前面を覆う部分の左右方向中央部を上下方向に通る前面
中心線に対し,前記背面を覆う部分の背面中心線がこの背面中心線の下方
延長線を前面中心線の下方延長線に近づける下方窄まりの状態に設定され
ている,ショーツ。」というものであるところ(前記第2の3(2)ア),引
用文献1には,引用発明の「下方窄まり」の状態の設定の開始位置(起点)
を特定した記載はない。
一方で,引用文献1の【0008】には,「本発明」は,「ショーツや
ショーツガードル,ショートガードルなど股部を有する衣類における裾口
廻りに接ぎを入れ,当たりを柔らかくして鼠蹊部への喰いこみをなくする
と共に,フィット感がよくなり,日常生活での色々の動きにおいても,下
尻をしっかりカバーしてずり上がりによるハミ尻などが生じないようにし
た股部を有する衣類を提供することを目的とするものである。」との記載
がある。
そして,引用文献1の【0016】には,「6,7は前身頃1と同じベ
ア天竺編みされた側腹部から臀部を覆う左右一対の脇身頃であり,前記前
身頃1の左右両側辺4,4と接ぐ内側辺8,9および臀部の形状に沿う曲
線の外側辺10,11を後部中心で縫合する」との記載があること,図4
記載の外側辺10,11は,臀部の形状に沿う曲線として示されているこ
とに鑑みると,引用発明の「下方窄まり」の状態の設定の開始位置(起点)
には,臀部の形状において最も後方に突き出している位置(最も高い位置)
である「臀部の頂上部」が含まれるとみるのが自然である。
また,乙2(国際公開2008/142730号。「発明の名称」を「シ
ョーツ,水着等の衣料」とする明細書)の図4(直立姿勢時の本発明のシ
ーツの着用状態を示す斜視背面図)には,別紙3のとおり,「ヒップの頂
部T」として一定の面積のある部位が示されていること,人体の臀部は,
滑らかな湾曲の形状であって,頂上部は尖ったものでなく,しかも,実際
にショーツを着用する者の体形には,個人差があり,標準体形と必ずしも
一致するわけではないことは自明であることに照らすと,引用発明におい
て,フィット感がよくなり,緩やかに丸く隆起したヒップの日常生活での
色々の動きにおいても,下尻をしっかりカバーしてずり上がりによるハミ
尻などが生じないようにするために,「下方窄まり」の状態の設定の開始
位置(起点)を「臀部の頂上部」から多少上下させることは,当業者が適
宜選択すべき設計的事項であるものと認められる。
そうすると,引用文献1に接した当業者は,引用発明において,「下方
窄まり」の状態の設定の開始位置(起点)を「臀部の頂上部」よりも多少
上方に設けることにより,相違点1に係る本願発明1の構成(「下方窄ま
り」の状態の設定の開始位置(起点)を「臀部の頂上部よりも上側」とす
る構成)とすることを容易に想到することができたものと認められる。
したがって,相違点1の容易想到性を肯定した本件審決の判断は,結論
において誤りはない。
イこれに対し原告は,①引用発明においては「外側辺10,11」が「臀
部の形状に沿う曲線」とされている以上,それを超えてさらに臀部の頂上
部よりも上側から下窄みとすることの動機付けはない,②標準体型とは,
男女別・年代別・サイズ別等の区分に従って日本人の体型を集計して得ら
れた標準的な体型であり,各区分ごとに統計的にみてその体型が最も一般
的であるからこそ,それをトルソ(「工業用ボディ」又は「人台」)に表
して,それに合うように衣服を設計し,作成するものであり,通常,あえ
てそれから外れるように衣服を作成することに合理性はない,③下尻部に
おける包み込みの不十分さや当該箇所での食い込み又は圧迫を防止したい
のであれば,当該箇所での生地を多くして臀部下半をたっぷり包み込んで
もよいから,下窄まりの開始高を標準体型における臀部の頂上部よりも多
少高くするような構成とする動機付けはないとして,引用発明において,
相違点1に係る本願発明1の構成(「下方窄まり」の状態に設定されてい
る領域の開始位置(起点)を「臀部の頂上部よりも上側」とする構成)と
することを容易に想到することができたものではない旨主張する。
しかしながら,前記アで説示したとおり,引用発明において,フィット
感がよくなり,緩やかに丸く隆起したヒップの日常生活での色々の動きに
おいても,下尻をしっかりカバーしてずり上がりによるハミ尻などが生じ
ないようにするために,「下方窄まり」の状態に設定されている領域の開
始位置(起点)を「臀部の頂上部」から多少上下させることは,当業者が
適宜選択すべき設計的事項であり,これを「臀部の頂上部」よりも多少上
方に設けることは,当業者が容易に想到することができたものと認められ
るから,原告の上記主張は採用することができない。
⑶小括
以上のとおり,本件審決における相違点1の容易想到性の判断は,結論に
おいて誤りはなく,本願発明1は,当業者が引用発明に基づいて容易に発明
をすることができたものと認められる。
したがって,原告主張の取消事由は理由がない。
4結論
以上によれば,原告主張の取消事由は理由がないから,本件審決を取り消す
べき違法は認められない。
したがって,原告の請求は棄却されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官大鷹一郎
裁判官本吉弘行
裁判官中村恭
(別紙1)本願明細書の図面
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】【図6】
【図8】【図9】
【図10】【図11】
(別紙2)引用文献1(甲11)の図面
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
(別紙3)乙1の図面
【図1】
【図4】
乙2の図面
【図4】
(別紙)参考図

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