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平成13年11月30日判決言渡
平成12年(ワ)第18号損害賠償請求事件
口頭弁論終結日平成13年10月9日
判決
主文
1被告は,原告に対し,351万4200円及びこれに対する平成10年10
月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2原告のその余の請求を棄却する。
3訴訟費用は,これを5分し,その3を被告の,その2を原告の,各負担とす
る。
4この判決は,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
被告は,原告に対し,610万2943円及びこれに対する平成10年10
月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,原告が被告に対し,交通事故による損害につき,自賠法3条ないし
民法709条に基づき損害賠償を請求した事案である。
1争いのない事実
交通事故(以下「本件事故」という。)の発生
ア日時平成10年10月2日午前6時40分ころ
イ場所三重県志摩郡a町bc番地d
ウ加害者及び加害車両被告,普通乗用自動車(ナンバー省略)
エ被害者原告(歩行)
被告の責任
ア被告は,上記加害車両を保有し,自己のため運行の用に供していたもの
であるから,自賠法3条の賠償責任がある。
イ被告は,上記加害車両を運転し,e町方面からf方面に向かい,国道●
●●号線を走行中,前方を注視し進路の安全を確認しつつ進行すべき業務
上の注意義務があるのにこれを怠り,前方を注視しないで進行した過失に
より,折から進路前方を歩いていた原告に衝突したものであるから,民法
709条の不法行為責任がある。
原告は,本件事故により,右肩,右足,左下腿挫傷,左小趾擦過傷の傷害
を負った。
原告は,本件事故による損害の填補として,90万1020円の支払いを
受けた。
2争点
過失相殺の有無・程度。
原告の損害額。
3原告の主張
争点について
原告は,交差点に引かれていた一時停止線に沿って道路を横断していたと
ころ,上記道路と交差する道路を直進してきた被告運転車両が原告の進路上
にはみ出して進行してきたため衝突したもので,被告の一方的過失による事
故であり,過失相殺の余地はない。
争点について
ア原告は,上記傷害のため,次のとおり治療を受けた。
平成10年10月2日から同年11月4日までA病院に通院34日
(実通院9日)
平成10年10月26日B病院に通院1日(実通院1日)
平成10年10月9日から平成11年5月10日までCクリニック
に通院214日(実通院43日)
そして,原告は,平成11年5月10日,症状固定と診断された。
イ原告に生じた損害は次のとおりである。
治療費7万5280円
通院交通費23万4080円(5320円×44日)
休業損害180万9990円(298万9400円÷365日×2
21日)
原告は,本件事故による受傷のため,平成10年10月2日から
平成11年5月10日まで働くことができなかった。
原告は,本件事故当時65歳であり,株式会社Dに勤務するとと
もに,主婦的労働にも従事していたから,原告が同社から支給され
る現実の年収額を上回る同年齢の女子労働者の平均賃金額298万
9400円(賃金センサス平成10年第1巻第1表の産業計,企業
規模計,学歴計の65歳女子の平均賃金)をもって算定の基礎とす
べきである。
通院慰謝料142万円
後遺症による逸失利益134万2626円
基礎収入65歳の女子労働者の平均賃金額298万9400円
(賃金センサス平成10年第1巻第1表の産業計,企業
規模計,学歴計の65歳女子の平均賃金)によるべきで
ある。
労働能力喪失率5パーセント
労働能力喪失期間10年間
中間利息の控除年2パーセントのライプニッツ係数8.9825
85
後遺障害慰謝料110万円
弁護士費用102万1987円
原告は,原告訴訟代理人との間で,弁護士費用は日本弁護士連合
会の報酬等基準に基づいて支払うことを約束した。
4被告の主張
争点について
原告は,道路の端よりも内側を歩いており,被告運転車両の進行している
道路を横断しようとして衝突したものであるから,少なくとも3割の過失相
殺が認められるべきである。
争点について
ア原告の主張する治療費は,症状固定後の治療費であり,認められない。
イ原告は,本件事故前からCクリニックで治療を受けていた。従って,原
告は,A病院で本件事故による傷害の治療を終えた後に,従前からの治療
を目的に遠方の病院に通院していたと判断すべきであり,通院交通費は否
定ないし減額すべきである。
ウ通院慰謝料については,本件事故前の病気の治療が重複しているから,
減額すべきである。
エ後遺症による逸失利益については,原告にはもともと頚椎症があり,わ
ずかな衝撃で自律神経症状が発症したと認められ,また,自律神経系の症
状がとれれば緩解は早いとみられるから,労働能力の喪失期間は2年ない
し3年とするのが妥当であり,上記既存症について5割程度の相殺をする
ことが公平上必要である。
第3争点に対する判断
1争点について
証拠(甲27,乙1の2)によれば,被告運転車両は,三重県志摩郡a町b
c番地d先交差点を同郡e町方面から同郡a町f方面に向かい進行していたが,
同交差点から南寄りにはみ出して進行し,そのため同交差点の南端付近を対面
歩行中の原告に衝突したことが認められる。
これに対し,被告は,原告が道路の端よりも内側を歩いており,被告運転車
両の進行している道路を横断しようとしていたと主張するけれども,かかる主
張は,被告が立会い指示説明して作成された実況見分調書(甲27)の記載と
も矛盾するものである上,証拠(乙1の2)によれば,被告運転車両の直前を
同方向に進行していたトラックがあったことが認められるから,そのような状
況で原告が道路の端よりも内側を歩いていたとは考えにくく,被告の上記主張
は採用出来ない。
そうすると,原告には,損害倍総額の算定にあたり斟酌すべき過失は認めら
れないと言わなければならない。
2争点について
本件事故とCクリニックでの治療との因果関係
証拠(甲6ないし19,乙3,証人E)によれば,原告は,本件事故後,
平成10年10月9日からCクリニックでの治療を開始したが,同年11月
11日,外傷性頭頚部捻挫と診断され,平成11年5月10日までその傷病
名の下で治療を受けたこと,原告は,本件事故前からCクリニックで治療を
受けていたが,平成10年8月10日ころは,ミオクローヌスとの診断の下
にこれについての治療を受けていたこと,原告は,本件事故後もCクリニッ
クにおいて,上記診断に対応する治療を引き続き受け,これに加えて,本件
事故による傷害の治療も受けるようになったこと,原告のCクリニックへの
通院頻度は,本件事故後著しく高まったことが認められ,これらを総合して
考えれば,原告が本件事故後症状固定と診断された平成11年5月10日ま
でにCクリニックで受けた治療は,その多くが本件事故による傷害の治療の
ためのものであるが,一部従前の治療の継続として行われたものが含まれて
いたとみるのが相当である。
原告の損害額
ア治療費7万4780円
証拠(甲40の1ないし40の15,40の17ないし40の20,乙3,原告)
によれば,原告は症状固定と診断された後も平成12年10月ころま
で後遺症の治療を受けるためCクリニックに通院し,7万4780円
の治療費を支払ったことが認められるところ(甲40の16の領収書に
ある500円の支払いについては,同領収書に「交通事故外診療分」
との記載があり本件事故による傷害の治療費とは認められない。),
証拠(証人E)によれば,症状固定と診断された平成11年5月10
日ころにはミオクローヌスの症状は誘発しても出ないほどに治ってい
たと認められるから,症状固定と診断された後平成12年10月ころ
までの治療費7万4780円は本件事故と相当因果関係のある損害と
みるのが相当である。
イ通院交通費18万7264円
証拠(甲4ないし19)によれば,原告は,本件事故による傷害の
治療のため,平成10年10月9日から平成11年5月10日までの
間,三重県g市内にあるCクリニックに43日間通院し,この間の平
成10年10月26日に同市内にあるB病院に通院したこと,また,
原告の居住する三重県志摩郡a町bから同県g市までの鉄道運賃は往
復で5320円であることが認められる。従って,この間要した通院
交通費は,23万4080円(5320円×44日)となる。
これに対し,被告は,原告の居住地から遠方にあるCクリニックに
通院する必要はないかのように主張するけれども,Cクリニックは同
一県内にある病院であって格別遠方にある病院とまでは言えないし,
証拠(証人E)によれば,Cクリニックは原告が当初治療を受けてい
た地元のA病院に比べより専門的な神経内科的診断と治療を受けられ
る病院であることが認められ,また,前記のとおり,原告は,本件事
故前にもCクリニックに通院していたもので,Cクリニックはいわば
かかりつけの病院であると言うことができるから,そのような病院で
本件事故による傷害の治療を受けたいと望むことが不相当なこととは
言えず,原告がCクリニックで本件事故による傷害の治療を受けるた
めに要した通院交通費は本件事故と相当因果関係にある損害と認める
べきである。
ただし,前記のとおり,原告のCクリニックへの通院は本件事故に
よる傷害の治療のためだけになされたものではないから,23万40
80円の全てについて本件事故と相当因果関係にある損害ということ
はできず,診療録(乙3)から窺われる本件事故前後の通院頻度の違
い,診療内容などに照らし,その8割(18万7264円)が本件事
故と相当因果関係のある損害とみるのが相当である。
ウ休業損害180万9990円(8190円×221日)
証拠(甲10ないし20,22,23,乙3,4,原告)によれば,原告
は,本件事故当時,株式会社Dにベッドメイク,風呂掃除等の客室係
としてパート勤務していたが,本件事故による傷害のため,本件事故
後同社を退職する平成10年12月25日まで同社を欠勤したこと,
同社を退職したのは復職の見込みがたたないまま在籍することで会社
に迷惑がかかることを慮った結果であること,原告は,同社を退職後
もCクリニックに通院して継続的に治療を受け,平成11年5月10
日症状固定と診断されたことが認められるから,本件事故による原告
の休業期間は,本件事故日である平成10年10月2日から症状固定
日である平成11年5月10日までの211日間と認めるのが相当で
ある。
そして,証拠(甲1,原告)によれば,原告は,本件事故当時,6
5歳の主婦兼パートタイマーであったと認められるところ,証拠(甲
22)によれば,原告のパートタイマーとしての収入は女子労働者の
平均賃金額を下回るものと認められるから,原告については,同年齢
の女子労働者の平均賃金額(平成10年賃金センサス第1巻第1表の
産業計,企業規模計,学歴計の年齢別平均賃金)をもって休業損害の
算定の基礎とするのが妥当である(1日あたりに換算すると,298
万9400円÷365日=8190円となる。)。
エ通院慰謝料90万円
証拠(甲2ないし19)によれば,原告は,本件事故による傷害の
治療のため,症状固定と診断されるまで次のとおり通院したことが認
められる。
平成10年10月2日から同年11月4日までの間に,A病院に
9日間
平成10年10月26日に,B病院に1日
平成10年10月9日から平成11年5月10日までに,Cクリ
ニックに43日間
そして,前記のとおり,Cクリニックへの通院期間のうち本件事故
と相当因果関係の認められるのはその8割に相当する部分とみるべき
であるから,通院慰謝料は90万円とするのが相当である。
オ逸失利益42万3714円(293万8500円×0.05×2.8
83883)
基礎となる年収293万8500円
上記休業損害の項に述べたと同様,原告については,同年齢の女
子労働者の平均賃金額(平成11年賃金センサス第1巻第1表の産
業計,企業規模計,学歴計の年齢別平均賃金)をもって休業損害の
算定基礎とするのが妥当である。
労働能力喪失率5パーセント
証拠(甲20,33)によれば,原告は,平成11年5月10日,
症状固定と診断され,後遺症は14級相当であることが認められる。
労働能力喪失期間3年間
証拠(甲6,8,10,12,14,16,18,20,40の1ないし40の
15,40の17ないし40の20,乙3,証人E,原告)によれば,原告
の後遺症は自律神経系の症状がとれれば緩解は早いとみられること,
原告は症状固定と診断された平成11年5月10日から平成12年
10月ころまでCクリニックで後遺症についての治療を受けたこと,
同年3月15日の神経伝達速度の検査において原告にはなお異常が
認められたこと,原告は事故後から肩の痛みやめまいがあり平成1
3年2月20日時点においても肩の痛みやめまいの症状が消えては
いなかったことが認められ,これらの事情を総合して判断すれば,
後遺症による労働能力喪失期間は3年とみるのが相当である。
中間利息の控除年2分のライプニッツ係数2.883883
原告は,市場金利の実態を踏まえ,年5分の利率で中間利息を控
除するのは不当である旨主張する。
そこで検討するに,金利の水準は,基本的には景気の動向に左右
されるものであるところ,景気の先行きを確実に予測することは極
めて困難であり,金利の水準を長期にわたり確実に予測することも
また極めて困難と言わざるをえないから,民事紛争の法的解決にあ
たり利率の設定が問題となる場面で,民法所定の年5分の利率を一
応の基準として用いることは基本的には正しい態度であり,従って,
中間利息の控除にあたり年5分の利率によるのを原則とすることも
また妥当な態度と言わなければならない。しかしながら,予測にか
かる期間が比較的短く,相当程度の確実さをもって金利の動向の予
測が可能な場合には,損害の公平な分担という損害賠償法の理念か
ら,民法所定の利率とは異なる利率によって中間利息を控除するこ
とが要請されると言うべきである。
これを本件についてみると,上記のとおり,原告の後遺症による
労働能力喪失期間は平成11年5月10日からの3年間とみるべき
ところ,平成13年10月9日(口頭弁論終結日)時点ですでにそ
の半分近い期間が経過しており,この間の金利水準に照らし一般人
において年2パーセントを上回る運用利益を得られた可能性がなか
ったことは公知の事実に属すると言えるし,将来予測にかかる期間
も約1年半であって,この間,予測される金利水準に照らし一般人
において年2パーセントを上回る運用利益を得られる見込みがない
こともまた公知の事実に属すると言って差し支えないから,年2分
のライプニッツ係数を採用して中間利息を控除するのが相当である。
なお,被告は,後遺症による逸失利益については,原告にもともとあ
った頚椎症が原告の自律神経症状の発症に関与していることを考慮して
減額すべきであると主張するけれども,証拠(証人E)によれば,原告
にもともとあった頚椎症は加齢にともない現れた軽いもので病気ではな
いことが認められるから,これを損害発生に関与した既存症として考慮
するのは相当ではないと言うべきである。
カ後遺症慰謝料70万円
原告の後遺障害は,上記のとおり,14級相当であり,その回復も
見込まれるものであるから,後遺症慰謝料は70万円とするのが相当
である。
キ弁護士費用
後述する。
3まとめ
上記の原告の損害額のアないしカの合計は409万5748円となるところ,
前記のとおり原告は90万1020円の支払いを受けているからこれを控除す
ると319万4728円となる。
そして,本件事故と相当因果関係のある弁護士費用はその1割とみるのが相
当であるから,被告が原告に対し賠償すべき損害額は351万4200円とな
る。
津地方裁判所伊勢支部
裁判官今岡健

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