弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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           主        文
    1 本件抗告を棄却する。
    2 抗告費用は抗告人の負担とする。
           理        由
第1 抗告の趣旨
 1 原決定のうち,九州運輸局長が相手方に対し,平成17年4月25日付けでした海上運送法16条に基づく
一般旅客定期航路事業の一部停止命令の効力を平成17年6月29日まで停止するとした部分を取り消す。
 2 上記取消しに係る相手方の申立てを却下する。
 3 手続費用は,原審及び当審を通じて,相手方の負担とする。
第2 事案の概要及び当審における補足主張(略称は原決定の例による。)
 1 事案の概要
   本件は,
(1) 九州運輸局長が相手方に対し,平成17年4月25日付けでした,本件事業停止命令につき,
ア 相手方が,本案事件(福岡地方裁判所平成17年(行ウ)第17号海上運送法16条に基づく事業の停
止命令取消請求事件)の判決が確定するまでその効力を停止することを求めたのに対し,
イ 原審が,同命令の効力を平成17年6月29日まで停止する限度でこれを認めたため,
(2) 抗告人が,(1)イの部分の取消しを求めて抗告した
 事案である。
2 前提となる事実及び当事者の主張の要旨は,原決定を次のとおり補正するほか,原決定の「理由」欄の
「3 前提となる事実」から「4 当事者の主張の要旨」まで(1頁19行目から16頁17行目まで)に記載のとおり
であるから,これを引用する。なお,次項3のとおり,当審における主張を補足する。
(1)1頁20行目の「疎明資料」を「当事者間に争いない事実及び疎明資料(疎甲63。以下,主要な疎明資
料(枝番を含む。)については,文中に適宜掲記する。)」に改める。
(2) 2頁9行目の「施行前には,」の次に「既に平成元年7月には航路の改善及び近代化を図るため,種子
島区間などにおいてジェットフォイル(高速船。通称『α』。疎甲63)を就航させ,」を加える。
(3) 3頁初行の「船舶運行計画」を「船舶運航計画」に,16行目の「(1)」を「(2)」に改め,19行目の「締結し
た」の次に「が,九州商船との間に共同運航に使用していたフェリーは,九州商船所有の『β』であった(疎甲
63)。なお,相手方は,同年12月からは種子島区間においてジェットフォイルの運航を1日5往復としていた」
を,同行目の「甲8」の次に「,23」を加える。
(4) 4頁15行目の「フェリー」の次に「『γ丸』」を加える。
(5)5頁4行目の「甲17」の次に「,乙30~32等」を加え,7行目及び16行目から17行目にかけての各「運
行」を各「運航」に改める。
(6) 6頁6行目,7頁19行目及び8頁15行目の各「運行」を各「運航」に改める。
(7) 12頁4行目の「溝たさない」を「満たさない」に,14行目の「本件サービス改善命令」を「本件改善命令」
に改める。
(8) 16頁14行目の「一次的」を「一時的」に改める。
3 当審における補足主張
 (抗告人)
 (1) 重大な損害について
  ア(ア) 原決定は,平成17年5月25日から同年6月29日までの売上額の年間売上額に占める割合,純
益,その売上が得られないことが相手方の事業にいかなる影響を及ぼすのかなど具体的な検討をしていな
い。上記期間に相手方が被る損害は多大なものと認められないか,将来における金銭賠償が可能かつ容易
なものである。
(イ) また,原決定は,社会的信用の点についても,何ら具体的な検討をしていない。相手方の主張に
よれば,停止期間は1か月程度に止まるものであるから,これまでの実績等を勘案すると,本件サービス基準
充足後の運航再開によりその信用を回復することは必ずしも困難ではない。
(ウ) しかも,平成17年5月23日,相手方は,代替案として指宿・種子島間につき,一般旅客定期航路
事業等の許・認可を受け,δ港を中継することを通じて,鹿児島から種子島への運航が可能になったのであ
り,従前の事業とほぼ同内容の事業を継続することができるようになったのである。したがって,相手方は,現
時点では,多大な経済的損害を被ることも,社会的な信用を大きく損なうことにもならない。
イ 他方,本件サービス基準は,日々の生活物資等の輸送を船舶に依存している離島住民の生活に不
可欠な水準として定められたものである。この基準を満たす運航がされない場合,速やかな是正を図らなけれ
ば,指定区間制度の趣旨・目的を没却することになり,また,本件サービス基準を充足している事業者との間
で不平等が生じるものである。以上のとおり,本件事業停止命令により維持される行政目的達成の必要性は
極めて高いのである。
こうした事情を総合考慮すると,本件事業停止命令により,いわゆる「重大な損害」が生じるとは認め難
い。
(2) 本案について理由がないとみえるとき
 平成17年2月9日付けの本件改善命令は,速やかな是正措置を求めるものである。ところで,相手方
は,同命令に遡る平成16年6月11日には,九州商船が同年12月11日に種子島区間における一般定期航
路事業を廃止する旨を届け出たこと(法15条2項参照),したがって,同廃止に伴い,本件協定も解消され,そ
の結果,本件サービス基準を充足し得なくなることを認識していたのであるから,速やかに(上記6か月の間
に),競合業者である折田汽船と新たな共同運航の協定を締結するか,他社が一般定期航路事業において
使用していたフェリーを用船するか等の方法を採り得たにもかかわらず,上記6か月間中はもとより,同期間経
過後も相当期間,これに向けた実質的かつ継続的な取組を行ったものとはいえないから,同命令に違反して
いるものである。これを踏まえてなされた本件事業停止命令が,九州運輸局長の合理的裁量の範囲内でされ
た処分であることは明らかである。
  (相手方)
  (1) 重大な損害について
ア 相手方につき,種子島区間の運航停止がされた場合,相手方には,屋久島区間,種子島・屋久島区
間を合わせて約1億8000万円の売上が減少するとともに,平成17年5月20日現在,予約者数は約4万200
0名にのぼるから,旅行代理店及び顧客に対し,重大な混乱及び損害を生じさせ,ひいては,相手方がこれ
まで培ってきた信用が一気に喪失され,大量の顧客が競業他社に離れる上,解約に伴う同代理店からの損
害賠償も予想され,金融機関の信用調査に悪影響を与え資金繰りに重大な影響を与えることとなる。このよう
な損害を回復することは不可能か,著しく困難であるというほかない。
イ 抗告人は,代替案としての指宿・種子島間の運航が許・認可され,その結果,従前とほぼ同じ内容の事
業を継続できると主張するが,上記許・認可は,これに至った経緯に照らし無効であるというべきであり,仮に,
有効であるとしても,そもそも,相手方が希望する運航時刻とは大きく異なる乗継ぎ時間等の極めて不合理な
条件が付されたものであるから,種子島区間の運航に到底代替できる代物ではない。
(2)本案について理由がないとみえるとき
ア相手方が,本件改善命令について違反しているかどうかは,本来,同命令が発せられた平成17年2
月9日以降の相手方の対応により判断すべきである。
イ 仮に,それ以前の相手方の対応をしん酌して判断するとしても,相手方は,速やかに九州運輸局長
のいう本件サービス基準を満たすよう事業計画及び船舶運航計画を是正すべく最大限の努力を傾注したきた
のであるから,同命令に違反するものではなく,本件事業停止命令はその根拠を欠くものである。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も,原審が認容した限度で,相手方の執行停止命令の申立ては理由があるものと判断する。そ
の理由は,次のとおり原決定を補正し,次項2において当審における補足主張に対する判断を補充するほ
か,原決定の「理由」欄の「第3 当裁判所の判断」欄(16頁18行目から22頁13行目まで)に記載のとおりで
あるから,これを引用する。
(1) 21頁5行目の「甲35」の次に「。なお,上記覚書の作成,売買契約の締結は,同じく岩崎グループに
属する関連会社であるいわさきコーポレーション株式会社(以下「いわさきコーポレーション」という。)が行った
ものである。」を加える。
 (2) 22頁8行目の次に改行して,「3 そして,本件の場合,執行停止が公共の福祉に重大な影響を及
ぼすおそれがある(行政事件訴訟法25条4項)との疎明もない。」を加え,9行目冒頭の「3」を「4」に改める。
2当審における補足主張に対する判断
(1)補足認定した事実(括弧内に,主な疎号証を掲記する。)
 ア 疎明資料(甲63,乙32)によれば,相手方は,平成16年4月26日,九州商船から,同社が種子島区
間における一般定期航路事業を廃止する旨の事前通告を受けたことが一応認められるが,同時点から,本件
事業停止命令を受けるころまで,相手方が本件サービス基準を充足すべく,どのような企業努力をしてきたか
の経緯につき,検討するに,疎明資料(甲63)によれば,以下の事実が一応認められる。
(ア) 相手方は,かねてから本件サービス基準の適法性に疑問を持ち,九州運輸局(鹿児島運輸支局
を含む。以下同じ。)に対し,法解釈などにつき文書により照会するなどする(甲26~30)一方,九州商船か
ら,種子島区間における一般定期航路事業の廃止の事前通告を受けた後,同社との協同運航協定(乙15)
により本件サービス基準を充足していた関係で,同社が同区間の上記事業を廃止すれば,相手方の種子島
区間における本件サービス基準が充足されないことになることから,同基準を充足させるために,
a 九州商船から,退船予定のフェリー「β」の購入も検討したものの,老朽化していた(通常のフェリー
の耐用期間は20数年であるが,「β」は船齢30年を超えていた。)ことからこれを断念し,
b 他からの中古船購入も検討したが,運送能力などの本件サービス基準を満たす船舶は,後記する
佐渡汽船株式会社(以下「佐渡汽船」という。)のフェリー「γ丸」を除き容易に見つからず,
c 新フェリーの造船も検討したものの,20億円以上の費用が見込まれるのに対し,採算をあげるのが
極めて困難であると判断した上(この時点ではコスモラインの新規参入が予定され,九州商船の事業廃止はこ
のことが原因であった節が窺われる。),造船に相当程度の日数(甲16によれば,発注から就航まで少なくとも
約1年)を要するものであったので,新たな造船を行わないことにした。
(イ) そこで,相手方は,平成16年3月の時点で,売却の情報を得ていた,佐渡汽船のフェリー「γ丸」
(1478トン)の調査検討を重ねたのち,相手方の同一グループ会社のいわさきコーポレーション(代表取締役
は,相手方のそれと同じくA)が代金3億2550万円(消費税込み)で購入した上,これを種子島区間のフェリ
ーとして運航に供することにし,同年11月20日,佐渡汽船に「γ丸」購入の方針を通知し,同年12月9日,同
購入に関する覚書(甲33)が作成され,本件改善命令が発せられた日の前日(平成17年2月8日),いわさき
コーポレーションと佐渡汽船との間で,上記覚書に沿った売買契約が締結(甲35)された。なお,「γ丸」は同
年6月ころまでは就航が予定されていたので,同月10日から翌7月9日までの間に,できる限り速やかに引渡
しをするものとされ,その後3か月程度かけ一定の改造が予定されその打ち合わせもされていた(甲31)。
(ウ) この間,平成16年12月11日,九州商船が事業廃止をし,これを受けて,同月21日付けの
九州運輸局長からの弁明の機会の付与の通知に対し,相手方は,平成17年1月11日,佐渡汽船から「γ
丸」を購入して改造後,同年夏には就航させる予定である旨の弁明書(甲9)を同局長宛てに提出し,さらに,
追加書面(甲34)で上記覚書及び本契約締結予定日が同年2月8日であることについても言及した。
(エ)相手方は,平成17年2月9日,速やかに本件サービース基準を充足するようにとの本件改善命令
(甲2)を受けて,再三にわたり,いつまでに本件サービース基準を充足したら「速やかに」といえるのか九州運
輸局に照会する(甲10)一方,
a 同月12日,折田汽船に対し,フェリー「ε」の隔日用船を,
b 種子島区間における競合企業であるコスモラインに対し,共同運航協定の締結を
それぞれ求めたものの,同月15日には,コスモラインから,従前の経緯及び信頼関係の欠如を理由
に,翌16日には,折田汽船から,運航要員及び安全性の確保が得られないとして,いずれもこれを拒絶する
旨の回答を受けた(甲11~13,59,60)。
(オ) 相手方は,その後も,屋久島区間において共同運航協定(乙16)を締結していた折田汽船との間
では数回にわたり交渉を持つとともに,九州商船が海外に売却していた「β」がζ港に停泊していた情報を得
て,そのチャーターの依頼を仲介業者を通じて行ったが,いずれも了解が得られなかった(甲13,70)。
(カ) こうした状況の下,相手方は,同月28日,本件改善命令に対する是正措置として,前記改造工事
を行うことなく,他の方法を用い,「γ丸」を「η」として就航させる時期を当初予定の同年9月から同年6月30
日に前倒しにすることを九州運輸局長に報告した(甲13)。
  イまた,疎明資料(甲67~69,78~83,乙34~37)によれば,以下の事実が一応認められる。
(ア)相手方は,本件事業停止命令の執行停止が認められず,種子島区間の運航ができなくなることを
おもんばかり,代替案として,新たに,指宿・種子島航路を新設し,これに,従来からある鹿児島・指宿便を連
絡させることにより被害を最小限度に食い止めようと考え,平成17年4月25日の本案訴訟の提起と同時に執
行停止の申立てをした直後の同月28日付けで,本件各区間とは別の,指宿から種子島・屋久島までの一般
旅客定期航路事業の許可等の申請を行った。
   (イ) これに対し,九州運輸局は,相手方の申請では,鹿児島・指宿便と指宿・種子島便の乗り継ぎの
間隔が20分しかなく,これでは種子島区間の運航停止を潜脱するものと考え,行政指導として,相手方に対
し,少なくとも1時間以上の乗り継ぎ時間をおくとともに,さらに乗り継いだ場合,後発のコスモラインのジェット
フォイルが種子島のθ港に到着後に相手方のそれが到着するように運航時刻の変更を求め,これに応じなけ
れば,上記申請を許・認可しないとの態度を示した。
(ウ) そのため,相手方は,それでは,代替案としての目的が達せられないとして,上記申請等を却下する
ように強く求めていたところ,九州運輸局長は,原審が,平成17年5月12日に,上記のとおり,本件事業命令
の一部執行停止を認容した後の同月18日の本件抗告を申し立てた後である同月23日,上記行政指導に係
る運航時刻の設定等の条件を付して,上記申請を許・認可するに至った(甲81,乙36)。
    (エ) なお,鹿児島から種子島までのジェットフォイルによる所要時間は,本来の種子島区間(直行便)
で約95分(甲63),相手方の代替案で乗り継ぎ時間20分を含め約130分(甲69),上記許可条件のもとでは
速くとも約170分となる。
 (2) 重大な損害について
ア 抗告人は,「重大な損害」に当たらない旨,当審で重ねて主張しているので,この点について判断を付
加するに,疎明資料を含む一件記録によれば,一応次のとおり認められる。
 (ア) 相手方の運航停止期間中の損害は,種子島区間のほか,これに関連する区間を含め売上額で計
約1億8000万円にのぼると予想されること(甲47,63),
(イ) 平成17年5月20日現在,当該期間につき約4万2000人もの予約客があり(甲77。同月9日現在
は,引用に係る原決定が17頁17行目で認定したとおり,4万9011名であった。),相手方は今後の混乱をお
それ,現在は本件抗告事件の推移をみて以後の予約を停止していること,
(ウ) 運航停止になれば,既に予約済みの顧客及びこの関係の旅行代理店に大きな損害及び混乱を
及ぼすことは必至であり,また,競合業者であるコスモラインによる運航を考慮に入れても,それ以外の日常的
に利用している地域住民等にも重大な支障が生じるとともに,地域経済に与える影響も看過し難いものがある
と予想され(相当多数の者による「α」運航続行を求める旨の署名がなされていること(相手方の平成17年5月
10日付け上申書添付の署名簿参照)は,このことを裏付けるものである。),ひいては金融機関の信用調査に
も悪影響を与えることが窺われること,
イ 上記認定の事実によれば,相手方には大幅な売上の減少が見込まれるのみならず,顧客や地域住
民等第三者ないし公共的利益の損害は相手方の信用失墜に直結しかねない極めて甚大なものがあると解さ
れる。そしていったん失われた信用の回復が著しく困難なことは,日常垣間見られることであるから,重大な損
害があるとの原決定の判断(19頁17行目から19行目まで)は左右されない。
(ア) この点につき,抗告人は,第2の3(1)ア(ア)のとおり,平成17年5月25日から同年6月29日までの売
上額の年間売上額に占める割合,純益,その売上が得られないことが相手方の事業にいかなる影響を及ぼ
すのかなど具体的な検討がなければならないと批判するが,行政事件訴訟における執行停止制度の趣旨に
かんがみれば,本件においては,そこまでの検討は要しないと解するのが相当である。
(イ) なお,抗告人は,第2の3(1)ア(ウ)のとおり,相手方は,代替航路(新たな許・認可)により,従前の事
業とほぼ同じ内容の事業を継続できる旨主張する。確かに,相手方は,同代替航路につき,許・認可を得たこ
とが一応認められる。
  しかしながら,上記代替航路により,相手方は,一見,一定の売上の減少を防ぐことができるかのようで
あるが,上記許可に付された条件によれば,鹿児島から種子島までの所要時間は,現在の直行便となる種子
島区間(約95分)に比較して代替航路(許可に係る条件でのδ港における乗り継ぎ時間は最低60分)では2
倍弱かかる(約170分)上,代替航路で乗り継いだ場合,競合他社である後発のコスモラインのジェットフォイ
ルの到着後に,目的地の種子島に到着するというものである。実質的に従前の事業とほぼ同じ内容の事業を
継続できるものでないことはもちろん,同業他社に太刀打ちできるともいい難く,種子島区間の運航停止をど
こまで経済的にカバーできるか甚だ疑問である。むしろ,相手方が代替航路案(ただし,指宿港における乗り
継ぎ時間を20分としたもの)を急きょ提案せざるを得なかったこと自体が,窮余の一策であって,本件事業停
止命令が,いかに相手方に重大な損害を引き起こすかを裏付ける結果ともなっていると理解した方が素直で
ある。しかも,この上記許・認可に係る代替航路であっても,現在の種子島区間の運航停止による,顧客,代
理店などに対する混乱,地域住民等への重大な影響は依然として避けられず,回復困難な信用毀損の問題
は動かし難いのである。代替航路の許・認可の事実は,イ冒頭掲記の判断を左右しない。
ウ そして,上記認定した経緯どおり,相手方が従前相応の対応をしてきたと評価しうる事情等も合わせ
考慮すれば,執行停止を認める期間が1か月余りの短期間のものであれば,これにより直ちに,指定区間制
度の趣旨・目的を没却することなるものとも解し難い。いわんや,相手方に対し,容易に予想される上記のよう
な重大な混乱等を招いてまで,相手方の種子島区間の運航事業を緊急に停止すべき事情が存するとはいい
難い。
エ これらの事情を総合して判断すれば,相手方には,本件事業停止命令の執行により生ずる重大な損
害を避けるための緊急の必要がある(行政事件訴訟法25条2項本文)というべきである。
オ したがって,抗告人の上記主張は採用することはできない。
 (3)本案について理由がないとみえるとき
  ア抗告人は,「本案について理由がないとみえるとき」(行政事件訴訟法25条4項)に当たるとも主張す
るので,この点について判断する。
イ執行停止の消極的要件である「本案について理由がないとみえるとき」とは,その文言及び本案の審
理に先行する執行停止制度の趣旨・性質に照らし,積極的に,申立人側で「本案について理由があること」を
疎明することを要するものではないと解されるところ,平成17年2月9日付けの本件改善命令(甲2)に基づく
相手方の是正の動きについてみれば,
(ア) 同命令以降の相手方の対応は,前記のとおり,折田汽船,コスモラインに用船ないし協定の締結
を求めるなどとともに,当初の計画を変更し,フェリーの就航時期を早める措置を採ったものである。
(イ) 相手方の対応につき,上記改善命令に先立って相手方が九州商船から事前の通知を受けた以降
の状況も加味して判断するとしても,上記認定の事実によれば,
a 相手方は,平成16年4月26日,九州商船から種子島区間の事業廃止の事前通告を受けてから,
全くこれを無視,ないし放置して漫然と手をこまねいていたわけではない。本件サービス基準を満たすべく,
様々な方策を検討した上,結局のところ,関連会社のいわさきコーポレーションを通じ,佐渡汽船から「γ丸」
を購入する手続を採った等,本件事業停止命令を受けるころまでの相手方の対応状況等の事実をも合わせ
考慮すれば,相手方において果たして,速やかな是正を怠った本件改善命令違反があると断じることができる
のかは疑問の余地がある。相手方においては,かねてから本件サービース基準に対する不満を抱い
ていたとはいうものの,この間相応の努力をしたものということができ,不誠実な対応に終始したというのも,相
手方に酷に過ぎるように思われる。
b 仮に,結果的に,相手方が,本件改善命令に違反したといいうるとしても,以上のような諸事情をし
ん酌すると,本件事業停止命令については,行政庁である九州運輸局長に裁量があるとはいえ,裁量の範囲
内と断じうるのか疑問なしとしない。確かに,相手方は,種子島区間につき,九州
商船との「β」による共同運航協定(乙15。本件協定のこと)により,本件サービス基準を充足していたのであ
るから,同商船から,種子島区間事業廃止の事前通知を受け取った上記平成16年4月26日には,同廃止に
伴って本件協定も消滅し,その結果,相手方は種子島区間については本件サービス基準を充足しなくなるこ
とを認識していたのである。そうとすれば,法2条11項がいわゆる生活航路につき,企業が「いいとこ取り(クリ
ームスキミング)」をしないように,指定区間制度を創設して,市場原理を補完する制度を制定した趣旨にかん
がみ,相手方は,出来るだけ速やかに,同基準を充足すべく企業努力をすべきであったのに,基本的には本
件サービス基準の法適合性に疑問を有していたこともあってか,その出足は,抗告人からみれば極めて不十
分に見えたに相違ない。
  とはいえ,上記認定に係る,相手方による企業努力は,過去の経緯と投下資本が巨額にのぼること
をも合わせ考慮すれば,一概に非難することも当を得ないと解される。
換言すれば,相手方は,用船等の対策を採り得ず,本件改善命令に従うことはできなかったのでは
あるが,それなりの企業努力をしたにもかかわらず,行政庁が法の趣旨に従って期待していたとおりには実現
しなかったものと評価できないでもない。
ウ 以上によれば,本件においては,「本案について理由がないとみえるとき」には当たらないということが
できる。この点に関する抗告人の主張も採用できない。
4 結論
よって,本件抗告は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり決定する。
  平成17年5月31日
    福岡高等裁判所第1民事部
          裁判長裁判官   簑   田   孝   行
裁判官   金   光   健   二
裁判官   藤   田   光   代

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