弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     控訴費用は控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴八Aを除く年余の被控訴人等との関係に
おいて、原判決書添付第一目録記載の家屋が控訴人の所有であることを確認する。
被控訴人B同Aは原判決書添付第二目録記載の家屋につき、大分地方法務局玉津支
局建物登記第四貳七号家屋表示を、木造瓦葺二階建居宅一棟建坪六十七坪七合五勺
外二階六十四坪七合五勺と、錯誤による更正登記手続をせよ。被控訴人Bは、大分
地方法務局玉津支局に対し前記第二目録記載の家屋の家屋台帳の記載につき、右更
正登記に一致するように錯誤による更正申告手続をせよ。(当審において、控訴人
は、家屋明渡請求並びに損害賠償請求の訴を取下げた)訴訟費用は第一、二審共被
控訴人等の負担とするとの判決を求め、被控訴人等代理人は、主文と同旨の判決を
求めた。
 当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出、採用、認否は、控訴代理人において、
被控訴人Aは、昭和三年十二月七日本件係争家屋たる原判決書添付第一目録記載の
家屋に保存登記をした上右Aを除く尓余の被控訴人等の先代Cの控訴人に対する本
件貸金債務の担保のため、右本件係争家屋に抵当権を設定したのである。しからば
右抵当権設定行為は、本件係争家屋を他の部分(原判決書添付第二目録記載の家
屋)から区分し、これを独立家屋とする家屋所有者の意思の表示だといわねばなら
ない。その後右Aは昭和五年七月一日に訴外Dに、次順位の抵当権を設定したのみ
ならず、控訴人が本件抵当権を実行し本件建物を競落するに至る迄の間、本件抵当
債務者や、抵当権設定者から、抵当権の効力について何等の異議を申立てられたこ
とはない。しかして所有者の為す建物の区分については、法律上別段の形式叉は制
限を定めるところがなく、区分した部分が、普通建物としての効用を為す以上、右
部分の大小広狭、構造設備の如何を問わず、又他の部分と相互に主従の関係に立ち
これと相俟つて建物の効用を為すかどうかに拘らず該部分が一個独立の家屋として
所有権の対象となるものといわねばならない。しかるに本件係争家屋は原判決書添
付第二目録記載の本家と別棟を為し、六畳三間の居室の外便所、玄関、湯殿炊事場
が設備され、全く家屋として独立の効用を営んでいる。以上の主観竝に客観的事情
から、これをみるときは、本件建物が独立の家屋としての要素を具備するに充分で
ある。次に被控訴人Aを除く尓余の被控訴人等の先代Cは、昭和二十六年三月十二
日死亡し右Aを除く尓余の被控訴人等において相続を為した。なお右亡Cが昭和二
十二年七月十日金五百五十九円を供託した事実は認めると陳述した。(立証省略)
 被控訴代理人において、控訴人主張の被控訴人Aを除く尓余の被控訴人等の先代
Cの死亡による相続関係はこれを認める。控訴人と亡C間の本件消費貸借竝びにこ
れが抵当権設定、競落の一連の事実関係は、被控訴人全員の関係においても、これ
を認める。本件係争物件たる原判決書添付第一目録の建物は、本件抵当権設定前で
ある昭和三年中に、原判決書添付第二目録記載の建物の南側の一部の便所、洗面所
等約十二坪余を取こわし、その跡に増築した実測延約三十七坪の木造瓦葺二階建の
部分であり、従つて右既設部分とは別に右増築部分のみについても被控訴人A所有
名義の保存登記の存在すること、その後昭和十七年八月八日控訴人主張のような変
更登記が為されたこと、右変更登記は原判決書添付第一目録記載の家屋即ち増築部
分をも含め、右第一、第二目録記載の物件について為されたこと、右増築部分を除
外した既設部分の建坪が控訴人主張のように階下六十七坪七合五勺二階六十四坪七
合五勺であることも認める。しかし増築部分だけでは家屋として独立性がない。即
ち前記第二目録記載の既設建物に附加して増築された本件建物は、右既設建物と廊
下を共通し、階上が廊下便所物置部屋、階下が同様廊下便所物置部屋並びに台所と
なつていて両者はその間にこれを区分する壁その他の物もなく、構造的に見ても経
済上利用の面から見ても、分離することのできない一個の建物であり、従つて右第
一目録記載の建物は増築と同時に第二目録記載の建物に附加して一体をなすに至つ
たものであつて、右第二目録記載の建物の構成物に過ぎない。
 しからば、前記第一目録記載の建物は前記第二目録記載の建物の一部であつて、
一個独立の建物として権利の客体となり得ないものであるから、これについて為し
たその所有権保存登記、抵当権設定並びにその登記及びこれが競落による所有権取
得竝びにその登記は、すべて無効である。仮に右第一目録記載の建物が独立の建物
たるの能力を有するものだとするならば、右第二目録記載の建物の登記簿の表示
や、その家屋台帳の記載がどのようになつていようとも、最早第一目録記載の建物
所有者たる控訴人の所有権に何等の障害を及ぼす理由はないから右第一目録記載の
建物の所有者たる控訴人が右第二目録記載の建物につきその登記竝びに家屋台帳の
更正を求める権利はなく、控訴人の本訴請求は失当であると陳述し、当審における
検証、竝びに鑑定人Eの鑑定の各結果を利益に援用し、前記甲号各証の成立を認め
た外は、原判決書当該摘示(原判決書添付第二目録表示家屋の建坪八十六坪七合五
勺外二階八十三坪七合五勺とあるは建坪八十五坪七合五勺外二階八十二坪七合五勺
の誤記)と同一であるから、ここにこれを引用する。
         理    由
 控訴人が、被控訴人Aを除く、尓余の被控訴人等先代Cに対し昭和三年十二月十
日金四百五十円を控訴人主張の約旨で、貸与し、被控訴人Aが右債務のため、原判
決書添付第一目録記載物件に抵当権を設定し、且つその旨の登記をしたこと、その
後控訴人において、右抵当権を実行して昭和八年一月二十日自らこれを競落し、同
年二月八日その旨の移転登記をしたことは当事者間争いがない。
 被控訴人等は右抵当権の設定せられた原判決書添付第一目録記載の建物は同第二
目録記載の既設建物に附加して増築せられたものであつて、既設建物の一部に過ぎ
ないものであり独立の建物ではないから、右建物の一部の上に設定せられた本件抵
当権設定行為は固より無効であり、従つて控訴人がその抵当物件の競落によつて、
右建物の所有権を取得する限りでないと抗弁するので、果して、右増築部分即ち原
判決書添付第一目録記載の建物が独立した一個の建物であるかどうかについて先づ
判断する。
 成立に争のない甲第二号証、第九号証、第十一号証乃至第十四号証、原審におけ
る死亡前の被控訴人C本人尋問の結果、原審竝びに当審における検証及び当審にお
ける鑑定人Eの鑑定の結果を綜合すれば、本件増築部分即ち原判決書添付第一目録
記載の建物は登記簿上は一個独立の建物として、昭和三年十二月七日被控訴人Aに
より保存登記が為されているが、右建物は、亡Cが旅館営業用に供していた右被控
訴人Aの所有に係る大分県西国東郡a町大字b字cd番内建設木造瓦葺二階建本家
建坪六十六坪外二階五十四坪、附属木造瓦葺二階家座敷建坪十二坪二階九坪なる家
屋の一部を取こわしその跡に残存部分に附加して増築した部分に該当し、右既設と
増築部分とは別棟ではあるが、両者は柱廊下を共通にして、これを区分する何等の
障壁がないのみならず、既設部分に便所場殿等の施設がなくして、増築部分に階上
階下便所各一ヶ所物置場殿台所が施設され、その他全体の間取り竝びに既設建物の
客室とこれ等のものとの連絡状態や接備の関係からみても、増築部分は全く既設部
分に従属し、これを離れては経済上独立の効用を有しないものといわざるを得な
い。しからは右増築部分は増築と同時に既設部分に附加してこれと一体をなして既
設建物の構成部分となつたものであつて、増築部分だけが独立の建物として別個の
所有権の対象となる余地はないのである。従つて所有者が増築部分を独立の建物と
して登記をしたとしても本来独立の建物としての適格性を有しないものが、右登記
だけでその適格性を具備するに至るものでない。(もつとも増築部分が既設物件の
構成物でなくして附属建物である場合に、これを独立の建物として登記した場合に
は、その所有者の意思どおり、これを独立の建物とすることができないでもない)
控訴人は、所有者が権限に基いて、一個独立の建物として取扱わんとするに対し、
法律上これを禁止するいわれがなく、又区分の方法について形式又は制限はないか
ら、権利者の意思によつて特定せられた当該部分が、普通の建物としての独立の効
用を営み得るものであるならば、その大小広狭と構造設備の如何を問わず、又他の
部分と相互に主従の関係に立ちこれと相俟つて建物の効用を為すとを論ぜず、単独
に権利の目的となると解すべきところ、本件増築建物は六畳三間の居室の外便所、
場殿、玄関炊事場等よりなつているので、右建物だけで、普通の建物と同じ効用を
なし得るものであることが明かであり従つて、右部分が民法第二百八条にいわゆる
区分所有権の対象となり得ない筈はないと論ずるけれども、或る部分が建物の一部
が、或は独立した一個の建物であるかどうかの建物の箇数を定める標準は、建物の
構造、用途その他一切の事情に即して、取引上経済上の一般通念に従つて客観的に
決定せらるべきところであり、当事者の意思もまたその標準の一として考慮の外に
おき得ない価値を有するものではあるが、その意思たるや、あくまで補足的標準で
あるにとどまり、これのみによらしめるべきものでないのはもとより、主体的標準
ともなし得ない。
 <要旨>本件における既設部分と増築部分との間には、前記認定の如く何等の障壁
も存在しないのであるから、少くとも何等かの隔壁のない限り、客観的には
全く一個の建物であり、増築部分からいえば既設部分への従属性竝びに部分性たる
性格が払拭されていない。即ち客観的な独立性を有しないのである。元来区分所有
権の認められる場合は、各区分された部分が、それぞれ独立している場合であつ
て、或る部分のみからいえば、一面独立の効用を営み得るようであつても、他面そ
の部分が他の部分に従属しているという関係有るにおいては結局その部分は他の部
分と併合するに非ざれば建物たるの効用なくまだ完全に独立の効用を営み得るとは
言えず、区分所有権の対象とならない。或は登記の記載と建物の現況により、既設
増築の境界は自ら明かであり、しかも抵当権の実行せられる迄は、抵当物件の所有
者において、抵当物を占有使用する権限を有するのであるから、競落後新所有者に
該建物を引渡す際において、隔壁を設ければ足り、それ迄は現実に隔壁を設けなく
とも隔壁あるに等しく、いわゆる区分所有権の対象たる建物の区分が設定せられた
も同然であると言うかも知れない。
 しかし、現実に隔壁のない限り、一個独立の建物としての登記の記載と現実とが
合致せず、従つて登記の実質的要件が具備しない。かような登記の有効要件を具備
しない登記を以つて所有者が区分所有権を設定したものとは言えない。しからば本
件抵当権は一個の建物の主体性並びに独立性のない一部分に設定せられた無効のも
のであり(一個の建物の一部分であつても、その部分がその建物の主たる部分であ
るときは、結局その建物全部につき有効に抵当権が設定せられたものと解せられる
が、本件増築部分は前記認定のように主たる部分でないことが明かである。)従つ
て無効な抵当権に基いて為された競落により所有権取得の実体的効力を生ずるに由
がないので結局控訴人の右抵当権竝びに所有権を前提する本訴請求は尓余の判断を
為す迄もなく何れも失当として棄却すべくこれと同趣旨に出でた原判決は相当で本
件控訴はその理由かないから、民事訴訟法第三百八十四条第八十九条に従い主文の
とおり判決する。
 (裁判長裁判官 桑原国朝 裁判官 二階信一 裁判官 岡林次郎)

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