弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
         理    由
 検察官柏木忠の陳述した控訴趣意は検察官山本稜威雄作成名義の控訴趣意書の記
載と同一であるからこれを引用する。
 同控訴趣意(事実誤認)について。
 本件起訴状に掲げる如く被告人は昭和二十八年十二月十二日午前一時過頃弘前市
大字a字bc番地所在父A1の物置小屋内において中折単発式猟銃一挺と実弾十数
発を装備した弾帯の置いてあるのを発見して万一味噌を盗んだことを父A1や兄A
2に知られたら同人等はこの猟銃で自分を射ち殺すかも知れないので、機先を制し
て父A1や兄A2等を射殺しようと決意し、右弾帯を腰に帯び右猟銃を手に持つて
隣接の父A1の住宅に侵入し同家屋に就寝していた父A1、兄A2、その妻A3、
兄夫婦の長男A4、長女A5、祖母A6及び叔母A7を射殺したことは原判決が外
形的事実に関する証拠として挙示する各証拠に徴しこれを認めることができる。と
ころで検察官においては被告人は右犯行当時心神耗弱の状態にあつたものとなすに
対し原判決は心神喪失の状態にあつたものとして無罪を言渡したことが記録上明か
である。
 よつて以下所論に従い本件犯行当時における被告人の心神の状況につき記録を精
査し当審における事実取調の結果をも斟酌考量して検討考察するに、先づ記録によ
れば被告人は父A1、母A8の間に出生した長兄A2、次兄A9、姉A10、A1
1、A12、妹A13の八人兄弟の三男として生れ居村部落では中流程度の資産を
持つ家庭に育ちd村B小学校卒業後家業の農業を一年程手伝つた後一時他家に奉公
に出たが間もなく病をえて帰宅しその後は自宅で農業に従事する傍ら桶職の見習な
どをしていたこと。父A1は生来吝嗇怠惰で酒癖が悪くその上妾を蓄えて家庭を顧
みないことが多かつたため家庭内は風波の絶え間がなくA1の虐待に耐えかねたA
8は遂に昭和二十六年十一月頃単身実家に帰り爾事事実上の夫婦別れをするに至つ
たこと。その後財産全部の独占を図つたA2はA9及び被告人を事毎に嫌忌して別
居を迫つたため被告人は昭和二十七年七月頃肩書住居C方の一間を借受け裸同然の
姿で僅かに布団と鍋及び米一斗を貰い受けたのみで別居し、A9も同様別居を余儀
なくされて昭和二十八年春頃裏の家屋に引移りA13はA2の虐律に居たたまらず
同年秋頃母A8の実家に引取られたので家には祖母A6、A1並にA2夫婦とその
子三名が残るのみとなり被告人は別居以来桶屋を職として細々ながら独り身の不自
由な生活を続けて来たこと。その間A1を相手にA8の提起した離婚訴訟のためA
1等と被告人の間柄は更に感情的に溝を深め被告人は祖母A6の好意に甘えて僅か
に米、味噌などを貰い受けに同家を訪れる以外は殆んどA1方に出入りすることは
なかつたこと。昭和二十八年十月頃C方の間借りをことわられてからは同家の物置
小屋の庇を借受けて藁を敷き辛じて雨露をしのぐ有様で雨風の強い夜或は吹雪く夜
など布団は濡れ寒気に打震えて一晩中寝ないで身の不幸を泣き明かすこともあつた
がA1並にA2夫婦はこのような極貧の生活に呻吟している被告人に対し極めて冷
淡で何一つ恵むことをせず被告人は日頃同人等の仕打を痛く憤慨していたことが認
められる。そして犯行の前日は午前八時三十分頃中津軽郡d村a部落にあるD方に
餅臼を修繕に行き午前十一時頃終つてその礼金を密造酒に替えDと共に午後三時三
十分頃までに一升の酒を飲み、それよりe村f部落のE方に修理材料の竹を置きに
行き午後五時頃夕食を馳走になつて同家を辞去した後F方にりんご代金二千円の請
求に赴いたがことわられて午後七時頃a部落に帰りGの妻の病気見舞に同家を訪れ
その際Hの妻より夫の所存の探索を頼まれてI時計店、J方と順次尋ね歩いたが見
当らないまま帰途K方に立寄り同居しているLより二百五十円を貰い受けてM方に
赴き、すまし酒をコツプに二杯飲み鍋焼うどん一つを飲食して午後八時頃千葉パチ
ンコ店で暫らく遊び帰宅後更にすまし酒三合を飲み残り五合を持つて午後十時頃再
びI時計店を訪れ、N、J、O等と共に更に一升の酒を買い足して飲酒し十二時過
ぎ頃同家を辞去した頃はその日飲酒した酒の総量は凡そ一升六合程に達していたこ
と。そして些か酩酊を意識しながらも平生と変ることなく帰宅した被告人は寝場所
を作つていた際味噌がめに味噌のないことを気付き父の家から味噌を盗んでこよう
と思い立ちその足で懐中電灯を照らしつつ雪道を約三百米離れた父の家まで歩き味
噌小屋に侵び込んだ後勝手知つた味噌樽から持参のかめに味噌を移し取つたところ
までは自らの行動を逐一鮮明に意識し犯行後の追想においても正確で暖昧な点は少
しも認められないことが明らかである。ところがその際懐中電灯に映し出された味
噌桶の陰の猟銃一挺を目撃した頃から被告人の心神には異常な興奮と被害妄想的な
精神錯乱状態の発生した兆候を認めうるのであつて、これを被告人の司法警察員並
に検察官に対する各供述調書の記載により検討すれば先ず司法警察員に対する自首
調書において被告人は自分が銃を見たとき、もし味噌を盗んだことが父にわかれば
この銃で殺されると考えたこと及び右銃を発砲した記憶のあること。司法警察員作
成の弁解録取書において、父、兄夫婦、甥、姪に猟銃を射撃した記憶のあること。
司法警察員に対する昭和二十八年十二月十二日附供述調書において銃を見てもし味
噌を盗みに来たことがわかれば殺されるのではないかと考え父や兄A2が恐ろしく
なつたこと。座敷の方へ行つて猟銃に弾丸をこめて撃つたこと。よく考えて見ると
寝間にいた父、兄A2夫婦、甥、姪に対し鉄砲を撃つたことを朧げに覚えているこ
と。銃を撃つている際何発目であつたか弾丸を装填すると同時に一発が兄A2夫婦
の部屋の前で襖の方へ斜めに発射されたこと。当時座敷に電灯がついていた記憶の
あること。司法警察員に対する昭和二十八年十二月十三日附供述調書において銃を
見つけたとき味噌を盗んだことがわかれば父か兄A2にきつと撃ち殺されると思い
一層のこと皆殺しにして仕舞おうとむらむらとした気持になつたこと。座敷のとこ
ろに電気がついていたこと。銃を撃つているうちに奥の部屋の方で女の声のような
感じがしたので道路側に近い方の奥の部屋で撃つたこと。撃つていた途中で銃口を
上に向けたままで弾丸をつめたとき直ぐ二回位発射した記憶のあること。司法警察
員に対する昭和二十八年十二月二十四日附供述調書において弾丸を入れるバンドを
腰をしめるとき尾錠の止め金がないのでバンドのはじのところを絡んで落ちないよ
うにしたこと。台所には六十ワツトの電灯がついており隣の奥座敷や土間のところ
にも五燭光位の電灯がついていたこと。弾丸を銃につめたとき狙もつけないうちに
二発位発射したのを入れて十発以上は撃つたこと。奥の部屋の方で何か叫ぶような
声を聞いて奥座敷の方にも行つて撃つたこと。撃つた銃の先から火がパツと出たの
を見たこと。小屋へ味噌を盗みに行つたとき猟銃を見てこの銃で自分が殺されると
思つて銃を撃つた記憶のあること。検察官に対する昭和二十八年十二月十四日附供
述調書において味噌を盗んだことがわかればこの銃で撃ち殺されると思つたこと。
弾丸は何発かわからないがバンドに半分位並べてあつたこと。父、兄A2夫婦、
甥、姪が寝ているのを鉄砲で撃つたこと。大体十発位撃つた記憶のあること。検察
官に対する昭和二十八年十二月二十六日附供述調書において若し味噌を盗んだのを
発見されれば父か兄A2のいずれかにこの銃で撃ち殺されるかもわからないと思い
その前に父や兄A2を撃ち殺そうという気持になり鉄砲をとり上げ弾帯を腰に締め
その場で実弾一発を銃にこめ、他の一発を手に持つたこと。鉄砲を持つて物置を出
て母屋の方へ行つたこと。別に施錠はしてなかつたからそこから土間を通つて炉の
ある日常食事する広い部屋に上り更にその次の部屋にも行つたこと。電灯は土間に
も部屋にもついていたこと。電灯の光で父、兄A2夫婦、甥、姪が寝ていたのが見
えたこと。約十発位発砲した外二発位弾をこめると直ぐ銃口を人の方に向けないで
発砲したこと。仏壇のある方の部屋であーつという叫声を聞いたこと。銃口から相
当大きな火が出た記憶のあることを夫々供述しているのであつて犯行当時の行動に
対する被告人の記憶は極めて断片的で朦朧としており意識に著明な障碍のあること
を推認せしめるに足るのであるが以上の各供述は、或は被告人が犯した罪の重大な
ることに驚ろき極刑を免れんがために意識的に忘却を装つたのではないかとの疑念
も抱かれるのである。しかしこの点については若し被告人にそのような意図が少し
でもあつたとするならば被告人は犯行の直前まで総量において凡そ一升六合程の酒
を飲んでいたことは前述のとおりであろから捜査官の取調に対しては寧ろ酒に酔つ
ていて何もわからなかつたことを強調しえたと思われるのであるが犯行当夜の酩酊
度について被告人は自首調書において「当夜は酒を多量に飲んだので相当に酔つて
おりました」旨供述しておるが、司法警察負に対する昭和二十八年十二月十三日附
供述調書において「私はどの位飲んだかはつきり覚えないが、ものがわからなくな
る程酔つていたわけではありません」旨、司法警察員に対する昭和二十八年十二月
二十五日附供述調書において「当夜酒を一升以上飲んでいるがそんなに酔つていな
かつた」旨、検察官に対する昭和二十八年十二月二十六日附供述調書において「酒
気は帯びていたが本心がなくなるようには酔つておりませんでした」旨、更に原審
第十一回公判廷において「当夜酔つていたが、しかし歩くのにはさしつかえありま
せんでした」旨各供述し寧ろ逆に本心のなくなる程は酔つていなかつたことを一貫
して供述している点。Jの司法警察員に対する昭和二十八年十二月十二日附供述調
書、Pの司法警察員に対する供述調書、司法警察員作成の昭和二十八年十二月十二
日附実況見分調書、C作成の同日附任意提出書の各記載により認めうる犯行当夜被
告人がJ等と共に飲酒していた際今晩父の家に味噌をとりに行くと喋つておりそれ
と符節を合せて味噌入りかめ(証第三号)が物置小屋の味噌樽の中より発見された
事実等記録に現われた諸般の証拠よりして本件は被告人の計画的な犯行でないこと
を十分に肯認しうる状況にあること及び司法警察員作成の昭和二十八年十二月十二
日附実況見分調書、当審検証調書、原審鑑定人Q作成の鑑定書の各記載に同鑑定人
の当番公判廷における供述記載、被告人の司法警察員並に検察官に対する前記各供
述調書の記載を綜合すれば本件犯行後間もなく出火した原因不明の火炎によりA1
方母家は全焼し被害者はすべて焼死体となつて焼跡の中より発掘されたのであるが
その際の死体の位置、現場の状況、並に鑑定人の解剖結果の所見等よりして父A1
は布団に就寝しているところを約二、三尺離れたところがら頭部を射撃され、同室
に就寝していたA4及び隣室のA2、妻A3、長女A5並にその隣室に就寝してい
た祖母A6はいずれも恰も銃声を聞きつけて布団にもぐり込んだところを銃口をそ
の中に挿入して順次頭部、肩部附近より至近距離で射撃された如く射殺されており
(火災は恐らくその際銃口より発した火炎が布団に引火して発生したものと思われ
る)A7だけは道路に面した南西隅の縁側において腰部を射殺されて死亡している
事実を確認しうるところ被告人は祖母A6A7の両名を除く他の家人に対する射撃
についてはただ漠然と射撃した記憶のあることを供述しているのみで右のような射
殺の方法については少しも触れるところがなく、他方A7だけについては同人の死
体が発掘された場所よりして同人は縁側の隅に逃げ込んだところを被告人より射殺
されたのではないかと思われる状況にありそれと符節を合する如く被告人は道路に
面した奥の方の部屋で女のあーつという叫び声を聞いて射撃したことを記憶してい
る旨供述しており、若し他の家人に対する射殺の方法を故意に秘匿しておるものと
するならばA7だけに対する射殺の記憶についても当然に忘却を装うと思料される
にも拘らずこの点についてはかなり真に迫つた記憶が供述されている点等を彼此合
せ考えれば被告人の犯行当時の行動に対する前記の追想は決して作為的な健忘を装
つたものではなく被告人は記憶するところを偽ることなく正直に供述しておるもの
と認めるに十分である。原審証人Rの供述記載は必ずしも右認定を妨げるものでな
く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。そして被告人は頭部上り血を出し仰
向けに倒れているA1の前に猟銃を持つて立つている自分に気付いた頃から再び意
識を次第に回復し自分が父を射撃したことを知り非常に驚ろき且狼狽して直に自宅
に戻り残つていた酒を煽つてメモ板に書置きを認めて後S方に走り「鉄砲で父に殺
されると思つたので父を射つた」旨訴えて身を悶えて泣き叫び同人の運転する自動
三輪車に乗車して駐在所に赴く途中T方においても同様の顛末を告げ新和駐在所に
自首するに至つたことが記録上明らかである。これによつてみれば被告人は犯行当
時の極く短い時間の意識に特異な障碍の発生していることを認めうるのであつてこ
れを経験則に徴するも被告人は猟銃を目撃して以後異常な興奮と被害妄想的強迫観
念の交錯した精神錯乱状態に陥つたのではないかと推察するに難くないのである。
しかるところ原審鑑定人U、及び同V作成の各鑑定書の各記載に同鑑定人両名の原
審公判廷における各供述記載、並に当審鑑定人W作成の鑑定書の記載に同人の当審
公判廷における供述を綜合すれば生来性の癲癇性素質のあるものに稀有ではあるが
極めて突然に明かな原因、動機と思われるものもなく自生的に精神の変調を来しそ
れが比較的短時間に回復する所謂一過性の発作的精神障碍の発生する可能性のある
こと。その間は明かな意識の障害に屡々興奮不安、感情刺戟性を示す幻覚妄想を伴
い記憶の不完全な朦朧状態を呈すること。被告人は或る程度癲癇性の遺伝的素質を
潜在的に有しているか乃至は癲癇性格の明かに認められること。精神薄弱症並に変
質徴候のあること。アルコールに対する反応の異常となる素質を有していること。
このような素質徴候のあるところに加えて前説示の家庭的環境に基因する不快、憤
懣の感情的緊張があり殊に被告人の住居に関連してこれが一層昂じていたため犯行
当夜多量に飲酒したことによつて味噌小屋に入る頃から病的な或る程度の意識障碍
を生じその状態において鉄砲を目撃したことが契機となつて被害妄想的思考それに
よる恐怖的感情の興奮により突然意識に著しい障碍を生じそれが犯行後間もなく漸
次回復している経過に鑑み被告人の犯行当時における不完全な記憶は前述せる一過
性の発作的精神障碍による朦朧状態に陥つた結果と認められること。被告人はこの
ような意識障碍のもとに理性的な判断抑制を喪失し平素の鬱積した<要旨>激情の爆
発した憤怒的状態から原始的動物的の兇暴な攻撃行動に及んだものと認められるこ
と。この状態にお</要旨>ける人間の意識は理性的な上層の精神的意識作用が特に
障碍されているため後日断片的な追想がなされえたとしてもそれは人間の正常な意
識と同日に論じえない全く別人格の病的意識の作用であつて事態の正しい認識判断
それに従つて行動することは全く不可能な心神の状況にあること。以上の各事実を
認定することができる。
 果して然らば被告人は犯行当時刑法に所謂心神喪失の状況にあつたものと認定す
るのが相当である。所論は被告人が味噌小屋において猟銃を目撃して精神障害に陥
りA1の前で意識を回復するまでの時間は一分三十三秒乃至一分四十三秒如何に多
く見ても二分とはかからないと思われること。従つてそれより犯行前後の時間を控
除し純粋に犯行に要した時間は七十二秒乃至八十秒位となりかかる短時間における
心神の状態を日時の経過した後において断定すること自体多大の疑問があり経験則
に照らすも原審の認定は極めて不当である旨主張するのであるが前記各鑑定書の記
載に当番証人Wの供述を綜合すれば右各鑑定人はあらゆる科学的方法により詳細綿
密な調査研究を尽した上で被告人の犯行当時の記憶についての供述を検討し犯行の
動機についても被告人が日頃反目し利害の相反したA1及びA2に対して行動して
いる点に特に慎重な考察を進めた上その結果の綜合判断として被告人が犯行当時病
的異常の精神状態にあつたことを論結していることが明かであつて殊に被告人が正
常な心神の状況に立帰つたのは同日午後九時頃であつたこと、従つてその障碍に陥
つていた時間は約八時間位で一般的に数時間乃至数日間継続する一過性の病的異常
の発作形態に合致するものであることを認めうるのであるから前記各鑑定人の鑑定
結果に対し所論の如く疑念を挿むべき余地はなく又経験則に徴するも被告人の犯行
当時における心神の状況に異常の発作を認めうることは前叙のとおりで、これがた
とえ短時間であるからといつて前記鑑定結果に鑑みるときは寧ろ短時間に回復する
ことが常態なのであるから、かかる短時間の心神喪失を認定することが経験則に違
背するとなすこともできない。
 次に所論は原審鑑定人V作成の鑑定書中「事態の正しい認識判断それに従つて行
動することは不可能であつたか少くとも非常に困難てあつた」旨の記載を論拠とし
て被告人の犯行当時の認識判断が不可能でなかつたことを主張するが同鑑定人の原
審公判廷における供述記載によれば被告人の場合は事態の正しい認識判断は全く不
可能の状況にあつたことを認定しうるのであるから所論はその前提を欠き採るをえ
ない。次に所論は被告人が捜査官に対し供述している犯行当時の記憶がその後原審
各鑑定人の鑑定の際における問答並に原審公判廷における供述においてかなり重要
なる部分において修正され故意に否定されている部分も尠くないことを指摘して右
は犯行当時被告人に自己意識の存在したことを証明するものであり精神障碍の程度
は心神耗弱の状況にあつたと認めるのが相当である旨主張する。しかし原審証人V
の供述記載によれば後日における被告人の記憶の修正変更は元来が不確実な記憶の
ための結果であつて故意になされたものでなく記憶がそのように整理されたものと
理解しえられるのみならず被告人が捜査官に対し供述している前説示の暖昧な追想
自体に徴するも被告人の犯行当時における被害妄想的な異常の発作を認めうるので
あり右記憶が全く別人格の病的意識の範疇に属するものであることは前記説明のと
おりであるから自己意識のあつたことを前提とする所論は畢竟独自の見解であり採
用の限りでない。尚原判決が「心神喪失の事実の存否について非常に強い疑がある
ときは心神喪失の事実の不存在が証明されない限り右犯行当時心神喪失の状態にあ
つたものと認める外ない」旨判示し更に判文の随所に疑問を止めるが如き認定の方
法を用いていることは洵に所論の指摘するとおりでその部分のみにこだわるならば
些か論理の飛躍を冒し或は判旨明確を欠く憾なしとしないのであるが判文を全体と
して精読するならば原審は結局犯行当時被告人が心神喪失の状況にあつたことを認
定している趣旨であることを優に肯認できるのであるからこの点の所論も採るをえ
ない。
 以上これを要するに原審が被告人の犯行当時における心神につきこれを心神喪失
の状況にあるものと認定したことは洵に正当であるというべく所論において種々抗
争するところは全く独自の見解に立つて正当な原判決の事実認定を攻撃するに過ぎ
ないものと認める他はないのであるから論旨はいずれも理由がない。
 よつて刑事訴訟法第三百九十六条により本件控訴を棄却し主文のとおり判決す
る。
 (裁判長裁判官 松村美佐男 裁判官 小田倉勝衛 裁判官 三浦克己)

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