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平成26年11月21日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成26年(ワ)第14086号損害賠償請求事件
口頭弁論終結日平成26年9月26日
判決
横浜市都筑区<以下略>
原告クオード株式会社
東京都千代田区<以下略>
被告株式会社エヌ・ティ・ティ・データ経営研究所
同訴訟代理人弁護士升永英俊
同補佐人弁理士佐藤睦
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は,原告に対し,150万円及びこれに対する平成26年6月25日から
支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2仮執行宣言
第2事案の概要
1前提となる事実(証拠を掲げていない事実は当事者間に争いがない。以下,証
拠番号の枝番を省略することがある。)
(1)原告の有する特許権
ア原告は,次の特許権を有している(以下「本件特許権」といい,本件特許
権に係る特許を「本件特許」という。)。
発明の名称内容証明を行う通信システムおよび内容証明サイト装置
特許番号第3796528号
出願日平成11年12月28日
登録日平成18年4月28日
イ本件特許の特許請求の範囲,明細書及び図面の内容は,別紙特許公報記載
のとおりである(以下,上記明細書及び図面を「本件明細書等」という。)。
ウ本件特許の特許請求の範囲
本件特許の特許請求の範囲における請求項の数は14であるが,そのうち
請求項8の記載は,別紙特許公報の特許請求の範囲【請求項8】記載のとお
りである(以下,同請求項記載の発明を「本件発明」という。)。
(2)構成要件の分説
本件発明を構成要件に分説すると次のとおりである。
1発信者の装置から暗号化された状態で送信された伝達情報が,ネット
ワークを介して受信者の装置に受信されて復号化されたことを証明す
る内容証明サイト装置であって,
2前記発信者装置から,該発信者装置が送信した伝達情報の内容の同一
性を確認できるデータに該発信者が電子署名した発信者署名データを
受け取る第1の受信手段と,
3前記受信者装置から,該受信者装置が受け取って復号化した伝達情報
の内容の同一性を確認できるデータに該受信者が電子署名した受信者
署名データを受け取る第2の受信手段と,
4前記発信者装置から受け取った前記発信者署名データと前記受信者
装置から受け取った前記受信者署名データとを内容証明を行うために
保管する保管手段と,
5前記内容証明の一環として,前記発信者署名データのうち,前記発信
者装置が送信した伝達情報の内容の同一性を確認できるデータと,前記
受信者署名データのうち,前記受信者装置が受け取って復号化した伝達
情報の内容の同一性を確認できるデータとを照合する手段と,を備え,
6前記発信者装置が送信した伝達情報の内容の同一性を確認できるデ
ータが,該発信者装置が送信した伝達情報のダイジェスト又は該伝達情
報を暗号化した暗号情報のダイジェストに限られ,
7前記受信者装置が受け取って復号化した伝達情報の内容の同一性を
確認できるデータが,該受信者装置が受け取って復号化した伝達情報の
ダイジェスト又は該伝達情報を暗号化した暗号情報のダイジェストに
限られている,
ことを特徴とする内容証明サイト装置。
(3)被告の原本性証明装置及び被告の行為
被告は,顧客に対し,「CECTRUST」と称する電子契約サービス(以
下「CECサービス」という。)を行うに当たり,原本性証明装置(以下「C
ECサーバ」という。)を使用して,内容証明の一環として原本性証明を行っ
ている。〔甲2,弁論の全趣旨〕
(4)CECサーバは本件発明の構成要件1ないし4を充足する。
2本件は,本件特許権を有する原告が,被告に対し,被告が顧客と契約して実施
している内容証明の一環としての原本性証明に係る装置であるCECサーバは,
本件発明の技術的範囲に属し本件特許権を侵害すると主張して,民法709条に
基づき,不法行為による損害賠償請求(一部請求)として150万円及びこれに
対する平成26年6月25日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定
の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
3本件の争点
(1)CECサーバは,本件発明の技術的範囲に属するか
ア構成要件5の充足性
イ構成要件6及び7の充足性
(2)損害発生の有無及びその額
第3争点に関する当事者の主張
1争点(1)ア(構成要件5の充足性)について
〔原告の主張〕
CECサーバは,契約者(甲)の署名データのうち,同契約者が送信した電子
契約文書の内容の同一性を確認できる照合値εと,契約者(乙)の署名データの
うち,同契約者が受け取って復号化した電子契約文書の内容の同一性を確認でき
る照合値ζを照合している。
CECサーバにおける原本性証明は本件発明の「内容証明」に,契約者(甲)
の署名データは「発信者署名データ」に,契約者(甲)は「発信者装置」に,契
約者(甲)の署名データのうち同契約者が送信した電子契約文書の内容の同一性
を確認できるデータが「発信者装置が送信した伝達情報の内容の同一性を確認で
きるデータ」に,契約者(乙)の署名データは「受信者署名データ」に,契約者
(乙)は「受信者装置」に,契約者(乙)の署名データのうち電子契約文書の内
容の同一性が確認できるデータは「受信者装置が受け取って復号化した伝達情報
の内容の同一性を確認できるデータ」にそれぞれ該当する。
これに対して被告は,CECサーバは発注者の電子署名した文書と受注者の電
子署名した文書が同一であるか否かを照合するサービスを一切提供していない
から,構成要件5の「照合する手段」を備えていないと主張する。しかし,原本
性を検証する契約書データDから算出してある照合値をδとすると,CECサー
バにおいては,発信者署名データのうち,発信者Aが送信した契約書Dの内容の
同一性を確認できる照合値εをもって,上記δと照合し,受信者署名データのう
ち,受信者Bが受け取って復号化した契約書Dの内容の同一性を確認できる照合
値ζをもって,上記δと照合しているから,構成要件5の「照合する手段」を充
足する。
したがって,CECサーバは,構成要件5を充足する。
〔被告の主張〕
CECサーバにおける原本性証明の処理態様は,別紙「図1CECTRUS
T処理ステップ抜粋」(以下「本件処理ステップ」という。)のとおりである。
CECサービスでは,受注者が電子署名をして発注者に送信した文書について,
発注者が「完了の確認」の文字をクリックして当該契約締結案件を完了すると,
当該文書にタイムスタンプを登録し,案件完了時以降10年間当該文書を保管し,
発注者又は受注者の求めに応じて,「案件完了時以降,保管中の当該文書が非改
ざんであること」の「原本性検証」をするというサービスを提供するだけである。
CECサーバは発注者の電子署名した文書と受注者の電子署名した文書が同一
であるか否かを照合するサービスを一切提供していないから,構成要件5の「照
合する手段」を備えていない。
したがって,CECサーバは,構成要件5を充足しない。
2争点(1)イ(構成要件6及び7の充足性)について
〔原告の主張〕
(1)構成要件6について
CECサーバでは,契約者(甲)の署名データのうち,契約者(甲)が送信
した電子契約文書の内容の同一性を確認できるデータεは,契約者(甲)が送
信した電子契約文書のダイジェスト(ハッシュ)に限られている。
契約者(甲)は本件発明の「発信者装置」に,契約者(甲)の署名データの
うち,契約者(甲)が送信した電子契約文書の内容の同一性を確認できるデー
タは「発信者装置が送信した伝達情報の内容の同一性を確認できるデータ」に,
契約者(甲)の署名データのうち電子契約文書の照合値は「発信者装置が送信
した伝達情報のダイジェスト」にそれぞれ該当する。
したがって,CECサーバは,構成要件6を充足する。
(2)構成要件7について
CECサーバでは,契約者(乙)の署名データのうち,契約者(乙)が受け
取って復号化した電子契約文書の内容の同一性を確認できるデータζは,契約
者(乙)が受け取って復号化した電子契約文書のダイジェスト(ハッシュ)に
限られている。
契約者(乙)は本件発明の「受信者装置」に,契約者(乙)の署名データの
うち契約者(乙)が受け取って復号化した電子契約文書の内容の同一性を確認
できるデータは「受信者装置が受け取って復号化した伝達情報の内容の同一性
を確認できるデータ」に,契約者(乙)の署名データのうち電子契約文書の照
合値は「受信者装置が受け取って復号化した伝達情報のダイジェスト」にそれ
ぞれ該当する。
したがって,CECサーバは,構成要件7を充足する。
〔被告の主張〕
原告は,本件特許の審査経過において提出された平成17年12月16日付け
手続補正書(方式)(乙1。以下「本件手続補正書」という。)において,「伝
達情報」が,「発信者装置」又は「受信者装置」から「内容証明サイト装置」に
送られることを明確に除外している。そうすると,構成要件6及び7の「伝達情
報」は,「発信者装置」又は「受信者装置」から「内容証明サイト装置」に送ら
れるものではないと解するのが相当である。
そして,CECサービスでは,伝達情報である契約書がCECサーバに送信さ
れるから,CECサーバは構成要件6及び7をいずれも充足しない。
3争点(2)(損害発生の有無及びその額)について
〔原告の主張〕
被告がCECサービスによって過去3年間に得た利益は,2億1000万円を
下回ることはないのであり,少なくともその額が被告の侵害行為によって原告が
失った得べかりし利益というべきである。
そこで,原告は,一部請求として,被告に対し,150万円及び訴状送達の日
の翌日である平成26年6月25日から支払済みまで民法所定の年5分の割合
による遅延損害金の支払を求める。
〔被告の主張〕
否認ないし争う。
第4当裁判所の判断
1本件発明の意義
本件明細書等の【発明の詳細な説明】の段落【0001】ないし【0006】,
【0021】及び図1ないし図5によれば,本件発明は,インターネット等の
ネットワークを用いて送受信する伝達情報の内容証明を行う通信システムと内
容証明サイト装置に関するものであり,従来,インターネット等のネットワー
クでは,通信を行っている者の本人確認をパスワードや公開鍵暗号などにより
行う電子認証(デジタル認証)や,送る伝達情報に公開鍵暗号などにより署名
を入れる電子署名(デジタル署名)などがよく知られていたが,ネットワーク
上における伝達情報の内容証明,すなわち,ある発信者から送られたある伝達
情報がある受信者に渡されたことを第三者が内容証明を行うという技術はなか
ったため,本件特許は,かかるネットワーク上における伝達情報の内容証明を
行うことを目的とし,特に,本件発明は,特許請求の範囲請求項8記載の構成
を採用することにより,保管手段に保管されている発信者署名データと受信者
署名データとに基づいて,発信者と受信者の本人確認及び発信者が送った伝達
情報と受信者が受け取って復号化した伝達情報の同一性確認を行うことができ,
それにより伝達情報に関する内容証明を第三者の立場で行うことができるよう
にした発明であると認められる。
2争点(1)ア(構成要件5の充足性)について
(1)本件発明における「照合する手段」の意義
ア本件明細書等には,次の記載がある。
・「以下,図2に示すシーケンス図と,図3~図5に示すフローチャートを
参照してこの実施例システムの動作概要を説明する。この図2のシーケン
ス図では,左側から順に発信側端末A,内容証明サーバC,認証サーバN,
受信側端末Bが配置され,それらの間でネットワークを介して受け渡され
るデータの種類が図中に書き込まれている。これらのデータ中,〔α〕β
の表記は,データαが鍵βで暗号化されていることを表す。また,〔α,
ε〕βの表記は,データαとデータεがそれぞれ鍵βで暗号化されている
ことを表し,〔α〕βと〔ε〕βとが各々独立してあることと等価である
ものとする。さらに,(γ)xという表記は,サイトXでデータγをダイ
ジェスト化(後述する)した値であることを表している。」(段落【00
21】)
・「また,図3~図5は発信側端末A,受信側端末B,内容証明サーバCに
おいて各々実行される処理手順をフローチャートの形で示したものであ
る。これらの図では,発信者たる発信側端末Aが伝達情報Dを受信者たる
受信側端末Bに内容証明サイト1の内容証明サーバC経由で送り,内容証
明サイト1ではその伝達情報Dを受け渡すにあたりその内容証明を行う
ものとする。」(段落【0022】)
・「まず,発信側端末Aが内容証明サーバCに内容証明付の通信を行うこと
を要求する。この際,発信側端末Aは,以下の処理を行う(ステップA1)。
すなわち,送りたい伝達情報Dを用意するとともに,この伝達情報Dを暗
号化するための共通鍵暗号方式の共通鍵(秘密鍵とも称する)Rを生成す
る。この共通鍵Rとしては例えば乱数などが利用できる。この共通鍵Rを
用いて伝達情報Dを暗号化して暗号文〔D〕Rを作成する。この共通鍵R
の生成は,発信側端末Aがこの内容証明通信を行う毎に新たなものに変更
して生成しており,それにより通信機密性の高いセキュリティを確保して
いる。」(段落【0024】)
・「さらに,この暗号文〔D〕Rと伝達情報Dとをそれぞれハッシュ関数な
どで変換演算を行って圧縮してダイジェスト値(〔D〕R)aとダイジェ
スト値(D)aを得る。」(段落【0026】)
・「この暗号化された伝達情報のダイジェスト値(〔D〕R)aと伝達情報
のダイジェスト値(D)aとを発信側端末Aの秘密鍵(プライベート鍵)
SKaで暗号化した暗号文〔(〔D〕R)a,(D)a〕SKaを作成す
る。この暗号文〔(〔D〕R)a,(D)a〕SKaは,それを受け取っ
た側にて,発信側端末Aの公開鍵(パブリック鍵)PKaを用いて暗号解
読できることで,その発信者が発信側端末Aであると本人確認でき,また,
ダイジェスト値(〔D〕R)aとダイジェスト値(D)aは発信側端末A
が送った伝達情報Dの内容を一意的に特定して内容の完全性(変更されて
いないこと)を確認できるデータであるので,本発明における発信者の本
人確認と伝達情報の内容特定とを行う電子署名データとして用いること
ができる。」(段落【0028】)
・「そして,発信側端末Aは送信データとして以下のものを揃えて,インタ
ーネット4を介して内容証明サイト1の内容証明サーバCに送る(図3の
ステップA2)。
マル1アドレスAA:発信元としての発信側端末Aのネットワーク上の
アドレス
マル2アドレスBB:受信先としての受信側端末Bのネットワーク上の
アドレス
マル3暗号文〔〔(〔D〕R)a,(D)a〕SKa〕PKc:
暗号化された伝達情報のダイジェスト値(〔D〕R)aと伝達情報のダ
イジェスト値(D)aとを発信側端末Aが秘密鍵SKaで電子署名した暗
号文〔(〔D〕R)a,(D)a〕SKaを,内容証明サーバCの公開鍵
PKcで暗号化した暗号文
マル4暗号文〔D〕R:伝達情報Dを共通鍵Rで暗号化した暗号文
マル5暗号文〔〔R,(R)a〕SKa〕PKc:共通鍵Rとそのダイ
ジェスト値(R)aを発信側端末Aが秘密鍵SKaで電子署名した暗号文
〔R,(R)a〕SKaを,内容証明サーバCの公開鍵PKcで暗号化し
た暗号文」(段落【0031】)
・「そして,内容証明サーバCは,自己の秘密鍵SKcを用いて暗号文〔〔(〔D〕
R)a,(D)a〕SKa〕PKcと暗号文〔〔R,(R)a〕SKa〕
PKcを暗号解読して,伝達情報に関するダイジェスト値の暗号文〔(〔D〕
R)a,(D)a〕SKaと共通鍵に関する暗号文〔〔R,(R)a〕S
Kaを得る。この暗号解読をできるのは内容証明サーバCだけであるので,
通信の高い秘匿性が確保できる。」(段落【0033】)
・「受信先の受信側端末Bは,内容証明サーバCからデータを受信すると,
そのうちの発信元アドレスCCに基づいて,内容証明サーバCからの通信
であることを認識する。」(段落【0039】)
・「さらに,内容証明サーバCから受信した伝達情報の暗号文〔D〕Rを発
信側端末A側と同じハッシュ関数を用いてダイジェスト化してダイジェ
スト値(〔D〕R)bを作成する(図4のステップB1)。」(段落【0
042】)
・「受信側端末Bは,内容証明サーバCから受け取った発信日時Taと自局
算出のダイジェスト値(〔D〕R)bとに自局の秘密鍵SKbで電子署名
して暗号文〔(〔D〕R)b,Ta〕SKbを作成し,この暗号文〔(〔D〕
R)b,Ta〕SKbを受取証とする。この受取証〔(〔D〕R)b,T
a〕SKbは,これを受け取った側で受信側端末Bの公開鍵PKbを用い
て暗号解読できることで,発信元が受信側端末Bであることを確認でき,
また受信側端末Bが受け取った伝達情報の暗号文〔D〕Rの内容を一意的
に特定して内容の完全性(変更されていないこと)を確認できるデータで
あるので,本発明における受信者の本人確認と伝達情報の内容特定とを行
う電子署名データとして用いることができる。」(段落【0044】)
・「受信側端末Bは,この受取証〔(〔D〕R)b,Ta〕SKbを内容証
明サーバCの公開鍵PKcで暗号化した暗号文〔〔(〔D〕R)b,Ta〕
SKb〕PKcを作成して,内容証明サーバCに送る(ステップB3)。」
(段落【0045】)
・「この受取証〔(〔D〕R)b,Ta〕SKbを受け取った内容証明サー
バCは,受信側端末Bの公開鍵PKbを用いて暗号解読して,受信側端末
Bで算出したダイジェスト値(〔D〕R)bを得る。この暗号解読により,
この受取証〔(〔D〕R)b,Ta〕SKbが受信側端末Bから発信され
たものであることを本人確認できる。」(段落【0046】)
・「さらに,発信側端末A側から取得した発信側端末A側算出のダイジェス
ト値(〔D〕R)aと,受信側端末B側で算出したダイジェスト値(〔D〕
R)bとを照合する(ステップC7)。両者が一致している場合には,発
信側端末Aから送信された伝達情報の暗号文〔D〕Rはその内容が改ざん,
破損などされずに完全な形のままで受信側端末Bに受信されたという伝達
情報の完全性を確認することができる。また,発信日時Taについても,
受信側端末B側の電子署名を得ることができる。」(段落【0047】)
・「この後,内容証明サーバCは,受信側端末Bからの受取証〔(〔D〕R)
b,Ta〕SKbの受取日時Tbを確定する。そして,この受取日時Tb
と,伝達情報の暗号文〔D〕Rを暗号解読するための共通鍵Rと,その共
通鍵のダイジェスト値(R)aとに自己の秘密鍵SKcで電子署名した暗
号文〔〔R,(R)a,Tb〕SKcを作成し,さらにこの暗号文を受信
側端末B側の公開鍵PKbで暗号化した暗号文〔〔〔R,(R)a,Tb〕
SKc〕PKbを作成して受信側端末Bに送る。」(段落【0048】)
・「受信側端末Bは,この受け取った暗号文〔〔〔R,(R)a,Tb〕S
Kc〕PKbを,自己の秘密鍵SKbと内容証明サーバCの公開鍵PKc
を用いて暗号解読して,共通鍵Rとそのダイジェスト値(R)a,さらに
受取日時Tbを取得する。そして,この共通鍵Rを用いて,先に内容証明
サーバCから受け取った伝達情報の暗号文〔D〕Rを暗号解読して伝達情
報Dを得る。そして,この伝達情報Dを,ハッシュ関数を用いてダイジェ
スト化して伝達情報のダイジェスト値(D)bを作成する(図4のステッ
プB4)。」(段落【0049】)
・「この伝達情報のダイジェスト値(D)bと受取日時Tbに自己の秘密鍵
SKbで電子署名した暗号文〔(D)b,Tb〕SKbを作成し,これを
暗号解読済証(受取証)とする。この暗号解読済証〔(D)b,Tb〕S
Kbを更に内容証明サーバCの公開鍵PKcで暗号化することで,通信の
秘匿化を図った上で内容証明サーバCに送る(図5のステップB5)。」
(段落【0050】)
・「内容証明サーバCは,受信した暗号文を自己の秘密鍵SKcで暗号解読
して暗号文〔(D)b,Tb〕SKbを得て,この暗号文〔(D)b,T
b〕SKbを受信側端末Bの電子署名入の暗号解読済証(受取証)とする。
さらに,この暗号解読済証〔(D)b,Tb〕SKbを受信側端末Bの公
開鍵PKbで暗号解読してダイジェスト値(D)bと受取日時Tbを得る。
この受信側端末B側作成のダイジェスト値(D)bと発信側端末A側から
受信した発信側端末A側作成のダイジェスト値(D)aとを照合し,内容
が一致していれば,発信側端末A側から送信された伝達情報の暗号文〔D〕
Rは間違いなく受信側端末B側に受け取られて,そして伝達情報Dとして
正しく暗号解読されたことが確認できる(図5のステップC9)。」(段
落【0051】)
イ以上の記載によれば,本件発明は,内容証明の一環として,前記発信者署
名データ(実施例の〔(〔D〕R)a,(D)a〕SKa)から作成される,
前記発信者装置が送信した伝達情報の内容の同一性を確認できるデータ(実
施例の(D)a,(〔D〕R)a)と,前記受信者署名データ(実施例の〔(〔D〕
R)b,Ta〕SKb)から作成される,前記受信者装置が受け取って復号
化した伝達情報の内容の同一性を確認できるデータ(実施例の(D)b,(〔D〕
R)b)とを「照合」することによって,発信側端末A側から送信された伝
達情報の暗号文〔D〕Rが間違いなく受信側端末B側に受け取られて,伝達
情報Dとして正しく暗号解読されたことを確認するものであると認められ
る。
(2)CECサーバにおける原本性証明の処理態様
ア証拠(乙2,4,5,12)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認め
られる。
(ア)「写真報告書1」と題する書面(乙2,5)及びCECサービスの「原
本性検証」の表示画面(乙4)には,CECサービスの処理手順につき,
大要,次の内容が記載されている。
a発注者(送信者)が電子署名付き契約書(パターン4-1署名済)を
作成する。
b発注者がCECサーバにログインし,発注者の電子署名付き契約書
(パターン4-1署名済)を送信する。
c受注者(受信者)はサーバにログインし発注者の電子署名付き契約書
(パターン4-1署名済)を受注者端末に表示し,この発注者の電子署
名付き契約書(パターン4-1署名済)に基づき修正したと思われる受
注者のみの電子署名付き契約書(パターン4-2署名済)を作成するが,
このとき受注者のみの電子署名付き契約書(パターン4-2署名済)に
は受注者の電子署名が2つ埋め込まれているものの,発注者の電子署名
は埋め込まれていない。
d受注者がサーバに受注者のみの電子署名付き契約書(パターン4-2
署名済)を送信する。
e発注者がサーバにログインし受注者のみの電子署名付き契約書(パタ
ーン4-2署名済)を発注者端末に表示すると,「案件内容に問題がな
い場合は,完了処理を行ってください」と表示され,内容を確認し「完
了の確認」ボタンを押すと,契約処理を完了し,CECサーバは受注者
のみの電子署名付き契約書を保管する。
f発注者は契約が完了した案件を検索し,電子署名付き契約書(パター
ン4-2署名済)を発注者端末に表示することができる。
g発注者が発注者端末に「原本性検証」画面を表示すると,同画面には,
検証日,案件番号,ファイル名,タイムスタンプ検証結果(「案件完了
時以降,改ざんされていません。」との記載)が表示される(乙4)。
(イ)電子契約内容証明装置説明書(乙12)の模式図には,CECサービス
においては,契約者(甲)及び契約者(乙)が電子署名された電子契約書
(伝達情報)そのものをCECサーバに送付し,同サーバが当該電子契約
書(伝達情報)を保管すること,「SecureSeal(R)センタ」
がタイムスタンプを発行し,同タイムスタンプをもって原本性確認がされ
ることが記載されている。
(ウ)CECサーバにおいて,文書が発信者A又は受信者Bから送られたもの
であるか,当該文書が誰かに改ざんされていないかを検証するために電子
署名の検証(以下「署名検証」という。)が行われるが,署名検証の具体
的態様は,本件処理ステップが示すように,CECサーバが,発信者Aか
ら送信された文書D及び〔(D)a〕SKaのうち,文書Dからダイジェ
スト(D)cを作成し,〔(D)a〕SKaを復号化して(D)aを得て,
(D)cと(D)aを照合することによって行われ,また,受信者Bから
送信された文書D’及び〔(D’)b〕SKbのうち,文書D’からダイ
ジェスト(D’)cを作成し,〔(D’)b〕SKbを復号化して(D’)
bを得て,(D’)cと(D’)bを照合することによって行われる。
イ上記アの認定事実によれば,CECサービスにおいては,発信者が,契約
書等の文書データ(伝達情報)に電子署名して受信者に送信し,受信者が,
同伝達情報に電子署名して発信者に送信した後,発信者が,同伝達情報に問
題がないか確認して完了処理を行うこと,同完了処理が行われたときは,同
伝達情報がCECサーバに送信されて保管され,「SecureSeal
(R)センタ」がタイムスタンプを発行し,同タイムスタンプがCECサー
バに存置されること,CECサーバにおいては,同タイムスタンプの情報を
検証した結果として,同タイムスタンプの情報に変更がないことで同伝達情
報の改ざんがないことを証明するものであること,以上の事実が認められる。
(3)「照合する手段」の充足性
上記(2)によれば,CECサービスは,あくまで,完了処理が行われて伝達
情報がCECサーバに保管された後に,保管時に発行されて存置されているタ
イムスタンプの情報を検証することによって,同完了処理後の伝達情報の改ざ
んがないことを証明するものであり,発信者署名データ,受信者署名データを
用いたデータを照合することにより伝達情報の改ざんがないことを証明する
ものではない。
したがって,CECサーバは,構成要件5の「前記発信者署名データのうち,
前記発信者装置が送信した伝達情報の内容の同一性を確認できるデータと,前
記受信者署名データのうち,前記受信者装置が受け取って復号化した伝達情報
の内容の同一性を確認できるデータとを照合する手段」を有していると認める
ことはできない。
よって,CECサーバは,構成要件5を充足しない。
(4)原告の主張について
この点に関して原告は,原本性を検証する契約書データDから算出してある
照合値をδとすると,CECサーバにおいては,発信者署名データのうち,発
信者Aが送信した契約書Dの内容の同一性を確認できる照合値εをもって,上
記δと照合し,受信者署名データのうち,受信者Bが受け取って復号化した契
約書Dの内容の同一性を確認できる照合値ζをもって,上記δと照合している
から,構成要件5の「照合する手段」を充足すると主張する。
しかし,前記(2)ア(ウ)のとおり,本件処理ステップでは,受信者Bが署名し
た文書であることの検証として,「D+〔(D)a〕SKa」というデータで
ある「D’」のダイジェストを照合するが,発信者Aが署名した文書であるこ
との検証としては,「D」というデータのダイジェストを照合するのであり,
「D’」と「D」が異なるものであることは明らかである。そうすると,前者
の照合と後者の照合によって,(D’)b=(D’)cであること,及び(D)
a=(D)cが検証できるとしても,それだけでは,発信者Aと受信者Bが同
一の契約書Dに署名しているかどうかを確認,照合することはできない。
したがって,発信者署名データのうち,発信者Aが送信した契約書Dの内容
の同一性を確認できる照合値εは,原本性を検証する契約書データDから生成
される照合値δと照合されるが,受信者署名データのうち,受信者Bが受け取
って復号化した契約書Dの内容の同一性を確認できる照合値ζは,「D+
〔(D)a〕SKa」である「D’」から生成される照合値とは照合されるも
のの,契約書データDから生成される上記照合値δとは照合されないから,C
ECサーバにおいて,照合値εをもって照合値ζと照合して発信者Aと受信者
Bが同一の契約書Dに署名しているかどうかを確認していると認めることは
できない。
また,本件全証拠を精査しても,CECサーバが,タイムスタンプを取得す
るためにどこから取得したダイジェストを使用するかを説明するものは見当
たらず,CECサーバの動作については,前記(2)のとおりであって,CEC
サーバが,発信者及び受信者の双方の伝達情報を突き合わせるような形式で原
本性を証明することを具体的に裏付けるに足りる証拠はない。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
3争点(1)イ(構成要件6及び7の充足性)について
(1)本件特許の出願経過
証拠(乙1)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,本件特許の拒絶査定不服
審判請求書の理由補充書である本件手続補正書において,下記のとおり記載し,
その結果,平成18年3月7日付けで特許査定がされ,平成18年4月28日
付けで本件特許権が設定登録された(甲1)ことが認められる。

・「原査定の拒絶理由は,本願・・・発明が,引用文献1(「暗号を用いた内
容証明・配達証明サービス」,電子情報通信学会論文誌,1987年2月2
5日,VOl.J70-DNo.2,p.423-432)と特開平10-187836号公報と
に基づいて当業者が容易に想到し得たものであるから,特許法第29条第2
項の規定により特許を受けることができない,というものである。」
・「3-1)本願発明が,発信者装置A及び受信者装置Bから内容証明サイト
装置Cにそれぞれ送るデータを,伝達情報の内容の同一性を確認できるデー
タに関して,伝達情報等のダイジェストだけとしているのに対して,引用文
献1及び特開平10-187836号公報は,伝達情報等に相当するものを
も送っている。・・・引用文献1及び特開平10-187836号公報にお
いては,内容証明サイト装置に相当する調停者(取引証明装置1)に送信す
る通信量(情報量)は,ダイジェストに比べて格段に多くならざるを得ず,
内容証明サイト装置(調停者,取引証明装置1)への通信量の点で,引用文
献1及び特開平10-187836号公報は,本願発明に比べて劣らざるを
得ない。」
・「3-2)本願発明が,内容証明サイト装置Cにおいて,伝達情報の内容の
同一性を確認できるデータに関して,・・・伝達情報等のダイジェストだけ
を保管対象としているのに対して,特開平10-187836号公報は,取
引証明装置1(公証人,公証装置11)において,伝達情報等に相当する取
り引き文書Mも保管対象としている。このため,特開平10-187836
号公報においては,取引証明装置1(公証人,公証装置11)は,本願発明
に比して,多くの情報量を保管する構成とならざるを得ないと共に,公証人
等による取り引き文書Mへの不正関与の可能性が高まることになり,特開平
10-187836号公報は,保管量,秘密保持性の点で,本願発明に比べ
て劣らざるを得ない。また,引用文献1については,・・・調停者が保管し
ない構成をとっており,この引用文献1が本願発明と基本的に異なることは
明らかなことである。」
(2)以上によれば,原告は,本件特許の拒絶査定不服審判において,拒絶査定の
理由(進歩性欠如)における引用文献1及び特開平10-187836号公報
(以下「引用文献等」という。)との相違点を,本件発明は「伝達情報」等を
発信者装置A及び受信者装置Bから内容証明サイト装置Cに送信せず,「伝達
情報」を内容証明サイト装置Cが保管しないこととし,そのことにより,本件
発明は,引用文献等記載の発明と異なり,通信量(情報量)が多くならず,多
くの情報量を保管する構成でもなく,公証人等による伝達情報への不正関与の
可能性を高くしないという効果を奏すると陳述したこと,本件発明は,原告の
このような陳述を踏まえた上で,特許査定がされたこと,以上の事実が認めら
れる。
したがって,本件発明の構成要件6及び7の意義は,契約当事者双方が契約
書の「原本」を管理し,内容証明サイト装置は原本が改ざんされていないこと
を伝達情報のダイジェスト又は伝達情報を暗号化した暗号情報のダイジェスト
のみに基づいて検証することで証明するサービスであると解するのが相当であ
る。しかるに,前記2(2)イで認定したとおり,CECサーバでは,伝達情報で
ある原本そのものがセンタに送られてこれを保管する構成を有するものである
から,CECサーバは,構成要件6及び7を充足しないというべきである。
(3)この点に関して原告は,CECサーバでは,契約者(甲)の署名データのう
ち,契約者(甲)が送信した電子契約文書の内容の同一性を確認できるデータ
εは,契約者(甲)が送信した電子契約文書のダイジェスト(ハッシュ)に限
られているとして,構成要件6を充足すると主張し,また,CECサーバでは,
契約者(乙)の署名データのうち,契約者(乙)が受け取って復号化した電子
契約文書の内容の同一性を確認できるデータζは,契約者(乙)が受け取って
復号化した電子契約文書のダイジェスト(ハッシュ)に限られているとして,
構成要件7を充足すると主張する。
しかし,CECサーバにおける署名検証の具体的態様は前記2(2)イで認定し
たとおりであり,CECサーバは署名検証を行うに当たり,発信者及び受信者
から文書が送信されて,当該文書からダイジェストを作成して,これを照合に
用いていることが認められる。そうすると,CECサーバが署名検証を行うに
は,発信者及び受信者から,それぞれ伝達情報のダイジェストのみならず,伝
達情報も受信する必要があり,CECサーバが受け取り保管する伝達情報は,
原本性を証明してもらうためのデータという位置付けにとどまらず,原本性を
証明するためのデータとして扱われると認められるから,伝達情報は「伝達情
報の内容の同一性を確認できるデータ」に該当するということができる。した
がって,CECサーバについては,「伝達情報の内容の同一性を確認できるデ
ータ」が,「伝達情報のダイジェスト又は該伝達情報を暗号化した暗号情報の
ダイジェストに限られ」るものではないから,原告の上記主張は採用すること
ができない。
4結論
以上によれば,CECサーバは,本件発明の構成要件5,6及び7のいずれに
ついても充足するとは認められないから,その余の点について判断するまでもな
く,原告の請求は理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官
東海林保
裁判官
実本滋
裁判官
足立拓人
【別紙】特許公報
<以下略>
【別紙】「図1CECTRUST処理ステップ抜粋」
<以下略>

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