弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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             主        文
       本件控訴を棄却する。
       当審における未決勾留日数中140日を原判決の刑に算入する。
             理        由
 本件控訴の趣意は,弁護人西本克命作成の控訴趣意書に記載されているとおりで
あるから,これを引用する。
第1 事実誤認の論旨について
 1 原判決は,量刑の理由において,本件の動機について,「被告人の特異な性
格に根ざした身勝手かつ自己中心的な動機」と説示しているところ,A女の被告人
に対する態度には,スナックの経営者と客の関係という表現では理解できない思わ
せぶりな言動があったから,被告人のA女に対する恨みには逆恨みとまではいえな
いものがあり,したがって,原判決が,本件の動機につき,上記のような説示をし
ているのは事実の誤認であり,この事実誤認が判決に影響を及ぼすことは明らかで
ある,というのである。
   そこで,原審記録を調査して検討すると,原判決の本件犯行の動機に関する
説示は,当裁判所も概ね正当なものとして是認することができる。そして,この認
定及び判断は,弁護人がいろいろと主張するところや当審における事実取調べの結
果を考慮しても左右されない。以下,所論にかんがみ,付言する。
 2 所論は,要するに,A女は,①被告人が,一度北海道方面に行ってみようと
して,スナックBに立ち寄った後にaに行く途中,再度A女に電話で連絡した際,
b町まで被告人を車で迎えに来た,②被告人のために携帯電話を購入し,スナック
Bの電話番号を入力した上,「これで電話してちょうだい」と言って,被告人に渡
した,③A女の車に被告人を乗せてドライブに出掛けたり,一緒に買物をするな
ど,被告人に対し,スナックの経営者と客の関係という表現では理解できない思わ
せぶりな言動をしているところ,内縁の夫がいるA女のこのような言動は,金回り
のよい被告人の歓心を買うためのものであったというべきである,というのであ
る。
   しかしながら,A女は,cは小さな温泉町であり,そこで経営するスナック
Bの客には,地元の常連の者や湯治に来た中年以上の者が多かったことから,客を
家族的な雰囲気の中で迎え,もてなすことをモットーにしていた上,被告人から,
住むところもないし,家族もいないという境遇を来店するようになった早い段階か
ら聞かされていたので,できる限り親切にしようとしたものであり,しかも,被告
人を特別扱いしたものではなく,誰に対しても同様であった。このことは,平成1
2年4月中旬ころ,A女が,被告人から,好意を持っていることを告げられたり,
肉体関係を求められるなどした際,スナックの経営者と客以上の関係になる意思が
ないことをはっきり告げていることからも明白である。ところで,A女は,①につ
いて,同年3月29日ころ,下関にいるらしい被告人から電話があって,cにタク
シーで戻るから途中で落ち合おうという話になり,bまで被告人を迎えに行った
(検97号10頁)と,②について,被告人が,かねがね,携帯電話を持ってみた
いが,住民登録がないので持つことができないと言っていたため,少し気の毒に思
えて,自分の名義で携帯電話を買って渡してあげた(検97号10,11頁)と,
③について,被告人が,日中特に何もすることがないと言うので,初めてスナック
に来た数日後,長門市内の喫茶店に一緒にコーヒーを飲みに出掛けた,自分のスナ
ックをひいきにしてくれると思ったからである(検97号3頁),また,同様の理
由から,同月中旬ころ,被告人が下関のデパートに買物に行ったときも,車を出し
て買物に付き合った(検97号4頁),などと供述している。以上の各供述の内容
は,思わせぶりだったという被告人の供述とはニュアンスを異にするが,それは,
スナックの客として,あるいは経営者としての立場の違いや受け取り方の違いとい
う範囲にとどまるものであって,A女において,金回りのよい被告人の歓心を買う
ために,スナックの経営者と客の関係を越えた殊更思わせぶりな言動をしたものと
はいえないし,それをうかがわせる事情もない。被告人は,金を遣わせるだけ遣わ
されたなどと供述するが,A女のスナックで,釣銭を受け取らなかったり,他の客
の分まで支払ったり,さらには,A女の友人がいるときを含めて,外で食事等をし
たときなどにも,A女やその友人の分も支払うなどしているが,ほかのスナック等
において,かつ,A女が同席していないときにも,飲食物を食べきれないくらい次
々と注文したり,初対面の客に気前よく飲食物を提供したりして,店のママに無理
やり金を遣っているという印象を抱かせるほどの金銭の遣い方をしたり,はぶりが
いいと思わせるような言動をし,店のママや従業員を店外での飲食に誘ったりして
いることなどからすると,A女にかかわる被告人の上記のような行動は,原判決が
説示するとおり,A女の歓心を得ようとし,あるいは周囲の者らに対する優越感を
覚えたいという被告人自らの考えに基づくものとみるのが相当である。A女は,被
告人が,スナックBで釣銭を受け取らないことやスナックBあるいは外での飲食代
金をA女を含む他人の分まで支払うことについては,当初はともかく,後には困惑
していたのであり,さらに,被告人が,スナックBで前科があることや叔父への恨
みをあからさまに言うことをはじめ,A女が1人又は友人と共に買物や外食をしよ
うとするときに,無理について行こうとすることには,迷惑に感じていたものであ
る。被告人は,長年刑務所で生活していたことや家族がいないことなどから,A女
の言動を特別なものと受け取ったであろうことは理解できないわけではないけれど
も,A女にしてみればもちろん,第三者の立場から見た場合にも,A女の言動が被
告人に特別な感情を抱かせるものであることを意識したものとはいえない。
   したがって,被告人は,c温泉から離れると言っていたA女が,被告人がそ
こを出たとたんにスナックBの営業を再開したなどとして,A女に対する憎しみを
募らせていたが,これは逆恨みというほかはないと説示した原判決に誤りはなく,
本件犯行の動機につき,境界性人格障害及び反社会性人格障害を合併した被告人の
特異な性格に根ざした身勝手かつ自己中心的なものと説示したことも正当である。
   所論は採用できない。
 3 その他,弁護人がるる主張するところを全て検討してみても,原判決に事実
の誤認はなく,原判決は正当である。
   論旨は理由がない。
第2 量刑不当の論旨について
   論旨は,要するに,被告人を無期懲役に処した原判決の量刑は不当に重い,
というのである。
   そこで,検討すると,本件は,被告人が,平成12年5月31日午後11時
25分ころ,山口県長門市所在の一部がスナックBとして使用されている木造瓦葺
3階建店舗兼居宅(床面積合計約450.39平方メートル)に放火して,建物内
にいる女性経営者を客及び女性経営者の家族もろとも焼死させて殺害しようとし
て,女性経営者のほか,客3名及び女性経営者の母親(当時79歳)が現在する建
物内に,スナック出入口からガソリン約6.5リットルを流し込んだ上,ライター
で火を放って建物に燃え移らせ,建物を全焼させるとともに,女性経営者の母親を
焼死させて殺害し,女性経営者及び客3名はいずれも避難したため,客のうち1名
(当時56歳の男性)に対して全治約20日間を要する両下肢及び右手熱傷の傷害
を負わせたにとどまり,同人らを殺害するには至らなかった,という事案である。
   被告人は,平成12年3月に刑務所を満期出所した後,かねてから恨みを抱
いていた叔父を殺害しようと考えていたが,当分はのんびりしようと思ってc温泉
を訪れ,地元の者に教えられて入ったスナックの女性経営者に好意を抱き,足しげ
く通い,同月中旬に親族から500万円余りを受け取ったことなどから金銭的に余
裕があったことや自分をよく見せようとして,釣銭を受け取らなかったり,他の客
の分も支払うなどの振る舞いをし,さらには,女性経営者と食事や買物に行くなど
していた。しかし,女性経営者が,被告人が叔父への復讐を企てていることなどを
知るに及んで,被告人との間に距離を置くようになると,被告人は,これを金目当
てで利用するだけ利用された上,手のひらを返すように冷たくされたと受け取り,
女性経営者を殺害しようと計画を立て,準備を整え,執拗に付けねらった挙げ句,
前記のような態様で殺害を実行したものである。本件の経緯,動機及び態様に酌む
べき事情はなく,生じた結果も重大である。足が不自由なため逃げ出すことができ
ずに焼死した女性経営者の母親の無念さや炎に阻まれて救出することがかなわなか
った親族らの心情は,察するに余りある。炎と煙の中を逃げ惑った客らも大きな恐
怖を味わっている。慰謝の措置は講じられておらず,被害弁償はなされていない。
また,付近住民や温泉街の客に与えた不安や恐怖にも相当なものがある。被告人
は,多数回にわたって服役しており,平成4年3月には,現住建造物等放火及び常
習累犯窃盗の各罪により,懲役8年に処せられ,その執行を終えて出所後3か月も
たたないうちに本件犯行に及んだものであり,規範意識が乏しく,更生の意欲も足
りなかったといわなければならない。
   したがって,本件の犯情は悪く,被告人の刑事責任は極めて重いというべき
である。
   そうすると,女性経営者の母親を殺害したことについては,謝罪と反省の念
を表明し,自ら極刑を希望すると述べていること,建物更生共済契約に基づく共済
金が支払われたことにより,財産的損害の大部分は補填されていること,被告人の
人格形成には不幸な生育歴が影響していること,被告人が性格の歪みを矯正したい
という気持ちを有していることなどから,その性格傾向が好転する可能性があるこ
となど原審記録により認められる諸事情を被告人のために十分考慮してみても,原
判決の量刑が不当に重いとはいえず,この判断は,原判決後,被告人が更に反省を
深めていることなどを併せ考慮しても,左右されるものではない。
   論旨は理由がない。
 よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却し,刑法21条を適用して当審に
おける未決勾留日数中140日を原判決の刑に算入し,当審における訴訟費用につ
いては,刑訴法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととし
て,主文のとおり判決する。
   平成14年11月19日
      広島高等裁判所第一部
         裁判長裁判官    久   保   眞   人
            裁判官    菊   地   健   治
            裁判官    島   田       一

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