弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     本件控訴をいずれも棄却する。
     控訴費用は、控訴人らの平等負担とする。
         事    実
 控訴代理人は、「(1)原判決中控訴人らに関する部分を取り消す。(2)被控
訴人が控訴人らに対し昭和四一年五月一九日付をもつてした各解雇の効力をかりに
停止する。(3)被控訴人は、控訴人らに対し、原判決添付別紙賃金目録中(一)
記載の各金員および昭和四一年六月以降毎月末日かぎり同目録(二)記載の割合に
よる金員を支払え。(4)訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」
との判決を求め(控訴状添付の債権目録中A欄の「八、九五八円」は「八、九八八
円」の、B欄の「五、七七八円」は「五、四七八円」のそれぞれ誤記と認め
る。)、被控訴代理人は、主文第一項同旨の判決を求めた。
 当事者双方の事実上の主張および証拠の関係は、証拠として、控訴代理人におい
て、疎甲第三六ないし第三八号証の各一、二、第三九号証の一ないし三、第四〇な
いし第四三号証、第四二号証の一、二(写)、第四四号証を提出し、当審証人C、
同D、同Eの各証言、当審における控訴人F、同G、同Hおよび被控訴会社代表者
Iの各本人尋問の結果を援用し、疎乙第三四ないし第四五号証(枝番の附されたも
のを含む。)の成立をいずれも認める、疎乙第四六号証についでは同証押捺の印影
が控訴人らの使用している印章によるものであることを認めるが、その成立は不知
と述べ、被控訴代理人において、疎乙第三四ないし第四三号証の各一ないし四、第
四四号証の一ないし三、第四五号証の一ないし八、第四六号証を提出し、当審証人
J、同Dの各証言、当審における被控訴会社代表者Iの本人尋問の結果を援用し、
疎甲第三六号証、第三七、三八号証の各一、二、第三九号証の一ないし三、第四
一、四二号証の成立をいずれも認める、疎甲第四三号証の一、二、第四四号証はい
ずれも原本の存在および成立を認める、疎甲第四〇考証の成立は不和と述べたほか
は、原判決の事実摘示のとおりであるから、その記載を引用する。
         理    由
 一 被控訴会社が肩書地に本社工場を、千葉市a町b番地に千葉工場を有し、金
型および工作機械の設計、製作ならびにこれに附帯する事業を営み、もつぱら日産
自動車の下請会社である訴外鬼怒川ゴム工業株式会社(以下「鬼怒川ゴム」とい
う。)から同社で製作する自動車各種部品の金型(ゴムスポンシ型、三角窓枠型
等)の注文を受け、その生産と販売を行つてきたものであること、控訴人らがいず
れも被控訴会社に雇傭されていた従業員であつて、前記千葉工場に勤務していたこ
とおよび被控訴会社が控訴人らを含む全従業員に対し、昭和四一年五月一九日付を
もつて同日解雇の意思表示をしたことは、いずれも当事者間に争いがない。
 二 そこで、右解雇の意思表示の効力について判断する。
 (一) 昭和四一年五月九日朝被控訴会社がタイムカードを引き上げ、従前の被
控訴会社の代表者Dが控訴人らに対し、同月六日の被控訴会社の株主総会において
解散決議がなされ、清算人が選任されて工場を閉鎖する旨告げたこと、これに対し
控訴人らが結成した労働組合の役員らが控訴人ら主張の書面を提示し、組合結成の
通告をするとともに待遇改善の要求をして団体交渉の申入れをしたこと、清算人I
が同月九日工場内に「清算人の許可なく出入りを禁ず」と表示した文書を掲示した
こと、同月一〇日右組合役員らが被控訴会社に対し、要求書と団体交渉申入書を交
付し、団体交渉がなされ、その際右組合役員らがDに対し、被控訴会社の経営内
容、解散の意図などにつき問いただしたところ、被控訴会社は当時黒字経営ではあ
るが、その売上げが減少してきているので、三か月以前から工場閉鎖を考えていた
旨告げ、右役員らの要求した被控訴会社の決算書類等の提示に応じなかつたこと、
同月一三日右役員らと被控訴会社との間で団体交渉がなされたこと、その後も役員
らと被控訴会社との間で工場再開、事業継続の点につき数次の団体交渉がなされた
こと、被控訴会社が解散決議をしたという同月六日当時黒字経営であつたことおよ
び解散登記のなされた同月九日後も被控訴会社の従業員募集広告が京成電鉄の千葉
駅、船橋駅に掲示されていたことは、いずれも当事者間に争いがない。
 (二) 前記一および二の(一)各記載の当事者間に争いのない事実に、いずれ
も成立に争いのない疎甲第一号証の一、二、同第二号証の一ないし一六、同第三な
いし第五号証、同第六号証の一ないし一五、同第八、三六号証、同第三七号証の
一、二、同第三九号証の一ないし三、同第四一、四二号証、同第四三号証の一、
二、(同第四三号証の一、二は原本の存在も争いがない。)、疎乙第六号証の一な
いし三、同第七、八号証の各一ないし一六、同第一〇号証の一ないし七、同第一一
号証の一ないし三、同第一五号証の二、同第三〇考証の一ないし三、同第三一ない
し第四証の各一ないし四、同第四四号証の一ないし三、同第四五号証の一ないし
八、押捺の印影が控訴人ら使用印章によるものであることに争いのない疎乙第四六
号証、公文書であるから真正に成立したと認めうる疎甲第一三号証の二、いずれも
原審における控訴人H本人尋問の結果によつて成立を認めうる疎甲第九号証の二、
同第一六号証の一ないし五、同第二八、二九、三一、三二、三五号証、いずれも原
審および当審証人Dの証言によつて成立を認めうる疎甲第一三号証の一、同第一九
号証の一ないし五、疎乙第二七号証、いずれも同証言および原審証人Kの証言によ
り成立を認める疎乙第一、二号証、同第三号証の一、二、当審における控訴人F本
人尋問の結果により成立を認めうる疎甲第二七号証、原審証人Lの証言により成立
を認めうる疎甲第三四号証、原審および当審証人Jの証言により成立を認めうる疎
乙第二六号証、原審における被控訴会社代表者尋問の結果により成立を認めうる疎
乙第二八号証、いずれも弁論の全趣旨により成立を認めうる疎甲第一五号証、同第
一七号証の一、二、同第二一号証の二二ないし二八、疎乙第五号証の一、二、同第
二五号証、原審証人M、同N、同K、同L、原審および当審証人J、同D、当番証
人Cの各証言、原審および当審における控訴人H、当番における控訴人F、同G各
本人尋問の結果、原審および当番における被控訴会社代表者尋問の結果(ただし、
疎乙第二七号証の記載、証人L、同K、同Dの供述中後記採用しない部分を除
く。)、弁論の全趣旨を総合すると、つぎのような事実を一応認めることができ
る。
 1 被控訴会社の事業は、もと訴外Dが訴外Lおよび同人が役員をしている鬼怒
川ゴ一の下請としてその後援のもとに個人で経営していたものであつたが、Dは昭
和三六年一二月資本金二五〇万円の株式会社たる被控訴会社を設立して被控訴会社
に従前の個人事業を引継がせた。その代表取締役に同人が、取締役にその妻Oおよ
びOの兄弟Kが、監査役に前記後援者のLがそれぞれ就任した。その資本金は昭和
三九年一〇月一三日五〇〇万円に増資され、同月二〇日Lが監査役を辞任するとと
もにJが監査役に就任し、爾来右の者らが重任されて昭和四一年五月六日に至つ
た。
 2 被控訴会社は、当初、すなわち資本金二五〇万円当時全発行株式万〇〇〇株
のうち三二〇〇株をDが、残余を妻Oを始めとしてすべてDの縁故者が持つてお
り、五〇〇万円に増資してからは、全発行株式一万株のうち八四〇〇株をDが持つ
ていて、その生い立ちからいつても、同人のいわゆる個人会社であつた。会社経営
に移行してからも前記鬼怒川ゴムの後援をうけ、その下請として、仕事量のほとん
どすべてを同社からの注文によつていた。
 3 その業績は、鬼怒川ゴムの発展につれて次第に上り、同社が千葉市に工場を
建設するに伴い、被控訴会社も昭和三六年に鬼怒川ゴムの右工場の近くに前記千葉
工場を建設した。昭和四〇年五月には工場の増築を行つた。その敷地の面積は約一
二五〇坪、工場建物の面積は約二〇〇坪になり、また、同年一一月には東京都から
三〇〇万円の融資を受けて新しい機械を購入したし、従業員も次第に増えて二十数
名に達し、なお増募の体勢をとつていた。
 4 もともと鬼怒川ゴムがおもちやを主体としたゴム工場であり、そのための金
型を中村個人、後には被控訴会社に発注していたのであるが、鬼怒川ゴムが自動車
用部品を多く扱うようになつてからは、被控訴会社に注文する金型も自動車部品製
造用のものとなつてきた。おのずから製品の精度が要求されるようになつたが、被
控訴会社は歴史も浅く、技術も不充分であつたため、鬼怒川ゴムから苦情や返品が
出ることもあつた。しかしながら一方では鬼怒川ゴムとしてもその業種からいつて
金型が重要な地位を占めるのではあるが、企業内にその設備を持つことの経営上の
不利益からして業務上同社に従属している形をとつていた被控訴会社を保護育成し
ていたのである。そして、昭和四一年一月には被控訴会社を鬼怒川ゴムの専属金型
工場に指定し、一層積極的に技術上の指導および資本の援助をうえることを約し、
これを実行していたし、被控訴会社もその指導の下に労使が一丸となつて技術の向
上に努めていた。
 5 ところで、被控訴会社の仕事はその受注量および納期の点から忙しく、労働
条件は相当苛酷になつていた。すなわち、祝祭日は休日となつておらず、日曜出勤
も度重なり、残業はほとんど当然のように行われ、徹夜就労が行われることもあつ
た。しかし、控訴人ら従業員は労働組合を結成しておらず、たんに親睦会があるだ
けで、これは従業員の旅行、慶弔などについて活動するだけであつて、労働条件の
向上について被控訴会社と交渉するような性格のものではなかつた。したがつて、
労働条件について労使の交渉が行われることはほとんどなかつた。
 6 控訴人らは、いずれも現場において生産に従事していたものであるが、かか
る状況下において、その労働条件に不満をいだき始め、その向上をはかるため、控
訴人Hらが中心となつて労働組合を結成することとなり、総評全国金属労働組合千
葉地方本部の指導をえて、昭和四一年四月二四日ごろから従業員に組合加入を勧誘
し、同年正月二日ごろには、被控訴会社の千葉工場の全従業員二四名中二〇名が組
合に加入する旨の申出をするに至つた。このような事情であつたため、控訴人Hら
は、結成される組合は当然総評全国金属労働組合に加入すべきものと決めていた。
 7 このような従業員の動向につき、D、K、Jらは、従業員が同年四月中旬ご
ろから快く残業に応じなくなつたことなどからこれに不審を持ち、労働組合が結成
されることをうすうす感知していた。そこで、Dは、親会社たる鬼怒川ゴムのLに
相談したところ、同人から被控訴会社で結成される労働組合が総評全国金属労働組
合に加入すれば鬼怒川ゴムとしては被控訴会社に注文を継続することができない旨
いわれたので、受注量のほとんどを依存している鬼怒川ゴムにそのような態度に出
られ、一方では控訴人らが前記労働組合に加入することを予定している状況下にお
いでは、被控訴会社の将来の見透しは暗いものと判断するに至つた。かくして、D
は、現在は黒字であるが、今後組合が結成されそれが鬼怒川ゴムの嫌悪する全国金
属労働組合に加入した状態で会社の経営を行つてみても、そのひつぱくは必然であ
るから、このまま経営を継続することは不得策であるとして、会社を解散すること
を決意し(不当労働行為意思の存否については、後に述べる。)、同月二五日被控
訴会社の取締役会を招集し、同日取締役の全員一致で解散する旨の決議をし、さら
に、同年五月六日臨時株主総会を開催し、総株主九名(一万株)のうち五名(九二
〇〇株)が出席し、出席株主全員一致で解散決議をするとともに、清算人にあらか
じめDにおいて依頼し、就任の承諾をえていたIを選任した。右Iは個人タクシー
を営んでいるものであつて、会社の清算等の事務の経験がある訳のものではなく、
たんにDの友人というだけの理由で選任されたものである。
 8 このようにして、解散が行われたが、当時被控訴会社の経営は黒字であつた
し、賃金の支払の遅滞もなく、鬼怒川ゴムからの注文も沢山あり、従業員の仕事量
も従前と変わるところなく残業の必要があつたし、同年五月六日には京成電鉄の千
葉駅および船橋駅に従業員募集の広告を掲示し(五月一九日まで掲示)たほか当時
公共職業安定所にも従業員の紹介方を依頼していた。
 9 そして、Dらは、解散決議をした日の翌日である五月七日控訴人らに対し、
控訴人らが労働組合を結成しても総評全国金属労働組合に加入すると親会社たる鬼
怒川ゴムからの注文がとれなくなるから同労働組合には加入しないようにしてほし
い旨、もし同労働組合に加入すれば会社は閉鎖せざるをえない旨伝え、翌五月八日
にもその旨強く要望した。
 10 一方控訴人ら従業員は、予定どおり同日組合結成大会を開催し、所定の手
続を履践して労働組合を結成し、執行委員長に控訴人Hが選任されたが、その際前
示Dらの要求を検討した結果、総評全国金属労働組合千葉地方本部の勧めもあつ
て、当面被控訴会社を刺戟することを避けることとして同労働組合への加入は見合
わせることとした。そして、同日Dに対し口頭で組合結成を通告し、さらに前記労
働組合には加入しない旨伝えた。
 11 これに対し、Dらは、口頭の約束だけでは不充分であるとして、控訴人ら
に対し、同日同労働組合に加入しない旨の書面を作成するよう要求したが、控訴人
らがこれに応じなかつたので、同労働組合に加入しないとの控訴人らの言明に疑念
を抱き、かくては既定方針どおり解散手続を実行するほかないものと考えるに至つ
た。
 12 かくして、翌五月九日に解散、清算人I就任の各登記がなされ、千葉工場
のタイムカードが引き上げられ、鬼怒川ゴムからの注文品は完成品はもちろん未完
成品もすべて同社へ運び去り、Iが同工場に来て清算人として行動しはじめたの
で、控訴人らは非常に驚き、控訴人Hら組合役員が中心となつて被控訴会社に待遇
改善等につき団体交渉を求め、以後引き続いて被控訴会社側のD、K、J、Iらと
団体交渉をした。
 13 右団体交渉において、組合役員らは解散の理由をたずね、強く事業の再開
を要求したが、Dは営業の不成績による経営意欲と自信の喪失を理由に右の要求を
拒絶した。これに対し、組合側は、いまだ被控訴会社の経営は黒字であつてなんら
解散の理由のないことを強調し、被控訴会社の決算書類等の提示を要求して事業の
再開を迫つたが、Dはこれに応じなかつた。
 14 被控訴会社の清算人Iは、五月一九日付の書面で被控訴人らを含む従業員
全員に対し会社は解散したからとの理由で同日解雇の意思表示をするとともに予告
手当金の受領を催告したが、これに従業員全員が応じなかつたため、同年六月二二
日これを千葉地方法務局に供託し、さらに一方では解散に伴う諸手続を実行した。
 15 事態がこのように変つたので、控訴人らの労働組合は総評全国金属労働組
合に加人し、その千葉地方本部の応援をえて団体交渉をつづけたが、その目的を達
することができなかつた。
 16 控訴人らは、解散決議は控訴人ら組合員を排除するためにとられた偽装の
ものと考えていたので、解雇の意思表示を受けて後、清算手続が進行することを防
止するとともに労働組合員の結束を強めるため被控訴会社の千葉工場を占拠し、当
初生活の糧を失業保険、控訴人らを守るためにもうけられた後援会の援助に求めて
いたが、間もなく、自らの生計費を獲得するため控訴人らの労働組合の別名として
の合資会社西垣製作なる名のもとに自ら他から注文をとつて同工場で金型の生産を
開始し、現在に至つている。
 17 右生産のために使用される電力は被控訴会社名義のものであり、控訴人ら
が占拠を始めた当時被控訴会社は東京電力にその撤去方を申請したが、控訴人らの
妨害に会つて実現せず、結局被控訴会社は撤去をあきらめる代り使用電力料金を組
合側に負担とせることにし、組合側もこれを了承し、以後組合側がこれを負担して
いる。その料金は月々約三・四万円であつて、これは被控訴会社が解散決議前に生
産をしていた当時とほとんど変らぬ金額である。
 18 このような状況にあるので、被控訴会社は解散決議をしたものの、清算手
続はほとんど進展せず、従前のまま放置されているが、会社債権者らから苦情がで
るという状態でもない。被控訴会社は、控訴人らの占拠を承認している訳ではない
が、積極的にこれを排除しようとしたことはなく、また、近い将来そのような動き
を示す気配もない。これに対して、控訴人側は、解散決議は虚偽仮装であつて無効
であるとの主張を背景として右占拠を続けているのであつて、解散決議は有効であ
るとして清算手続を進行させようとしている被控訴会社に対し右工場を返還する意
向は全くなく、もとより返還する気配を示すこともない。
 以上の事実を一応認めることができ、右認定に反する前掲疎乙第二七号証の記載
部分、証人L、同K、同Dの各供述部分は、にわかに採用できず、他に右認定を左
右するに足る証拠はない。
 三 控訴人らは、解散決議は偽装であつて実際は不存在である、かりに存在して
いても解散の真意はないと主張する。しかしながら、前叙のとおり解散決議の存在
は一応これを認めうるのである。もつとも、右株主総会議事録たる前掲疎乙第二号
証には右総会は昭和四一年五月六日開催された旨記載されているのに、前掲疎甲第
二号証の一ないし一六、疎乙第六号証の一ないし三によれば、被控訴会社代表者清
算人Iは官報には同月九日開催の臨時株主総会の決議により解散した旨の公告を
し、控訴人らに対する解雇通告書にも右同旨の記載をしていることが疎明されるの
で、その間にそごが生じているが、前認定のとおり、被控訴会社が解散の登記をし
たのは五月九日であるから、関係者が右登記の日を解散の日と誤認して右官報およ
び解雇通告書にその旨の記載をしたとも考えうるのである。右疎乙第二号証は前認
定のとおりの株主が出席のうえ解散決議をした旨の記載があり、それには被控訴会
社の取締役たるD、O、Kらの記名押印があり、なお、株主P、同Qの委任状(前
掲疎乙第三号証の一、二)も添付されているのであつて、もともと被控訴会社はD
がその株式の八四%を持つている同人の個人会社であるから、その運命は結局はD
の意思いかんにかかつているといつても過言ではなく、そのD自身が解散の決意を
かためていることが前認定により明かに認めうれる以上、右株主総会議事録が存在
し、しかもそれにもとづく解散登記が行われているのに、官報の公告等における多
少のそごをもつて右決議が不存在であるとすることは困難である。また、前記のと
おり、右株主総会の日の翌日たる同月七日にDが控訴人らに対し、全国金属労働組
合に加入すれば会社を閉鎖する旨述べているのであつて、その際中村は同月六日の
株主総会のことを持出してはいないのであるが、この種交渉の過程において事実が
常に正確に述べられるとは限らないから、右の事情が解散決議の存在を疑わしめる
に足るものとはいえない。なお、同月七日に労使間で右のような交渉が行われたこ
と、当時会社は黒字であつたこと、従業員の募集をもしていたこと等の諸点からす
れば被控訴会社の解散が経営上の観点から余儀ないものではなかつたのではないか
と疑われるのであるが、それだけでたたちに解散決議の存在を疑わせるものとはい
いえない。以上の事実は右解散決議の非真意性を疎明するに足るものではなく、他
にこれを認めるに足る疎明はない。
 四 つぎに、控訴人らは、右解散は組合排除を目的とするものであるから、企業
廃止自由の濫用で、憲法第二八条、労働組合法第七条第一、三号に違反し、同時に
公序良俗に違反して無効であると主張する。後に述べるとおり、被控訴会社の本件
解散は組合を嫌悪し、これを排除することを動機としているといいうるのである
が、企業を廃止するか否かは株主の自由に委されているところというべきであつ
て、労働者の団結権の保障は企業の存在を前提とするものであるから、解散決議の
際反組合的意図が存在していたとしても、そのことの故に決議が無効となるもので
はないと解するのを相当とする。叙上に反する控訴人らの主張は採用できない。
 五 さらに、控訴人らは、解雇は不当労働行為であつて無効であると主張する。
 (一) 解散当時の被控訴会社の経営の状態についてみるに、前認定の事実によ
れば、被控訴会社は鬼怒川ゴムの下請会社として発展しできたものであつて、受注
量、従業員の残業時間ともに多く、工場建物の増築、新機械の導入、従業員の増募
等を行つていたものである。技術上の問題がない訳ではなかつたが、鬼怒川ゴムの
積極的な指導のもとに労使一丸となつて技術向上のための諸方策を講じていたので
あり、鬼怒川ゴムも被控訴会社を自社の専属工場として育成していくべく約してい
たのである。したがつて、その経営は黒字であり、解散決議当時も黒字であつた。
もつとも、前掲証人Dは、「経営に対する意欲と自信を失いはじめ、昭和四一年
二、三月ごろには解散を考えるようになり、同年四月ごろその決意をかためた」旨
供述するが、右に述べたところからすれば被控訴会社の経営にはいちぢるしく困難
といえるような問題はなく、むしろ、努力次第では将来の一層の発展が期待されて
いたのであり、経営の先細りが予想されるような客観的状勢にあつたとはいえない
のであつて、右Dの供述はただちに採用しがたい。ただ、控訴人らが結成を意図し
ていた労働組合は全国金属労働組合に加入することが予定されていたところ、Dは
鬼怒川ゴムのLから控訴人らの労働組合が右全国金属労働組合に加入すれば注文を
中止するといわれ、これが本件解散を決意した動機となつたことは前認定のとおり
であり、たしかに、被控訴会社が鬼怒川ゴムからの受注がなくなると当面経営が成
立たなくなることは明らかであるが、さりとて、右解散決議の時点において控訴人
らは労働組合を結成していたものでも、全国金属労働組合に加入していたものでも
なく、また、現実に鬼怒川ゴムからの受注がなくなつていたものでもないから、右
解散はまことに唐突といわざるをえないのであつて、本件全疎明によつても、解散
にあたつて有利な買手があつたとか、清算について具体的な方法を検討した形跡も
なく、かつ、清算人に選任されたIは、清算事務等にはなんの経験もない個人タク
シーの運転手たる着であつて、清算人としてかならずしもふさわしい人とはいえな
いのである。しかして、解散のための取締役会が開かれたのは昭和四一年四月二五
日であるが、これは丁度控訴人らが労組結成の動きを見せていた時期と一致してい
るところ、当時Dら経営者側は右結成の動きを察知していたし、同年五月六日に解
散決議をした後同月八日の組合結成大会を前にして同月七、八日の両日Dらは控訴
人らに対し全国金属労働組合に加入しないよう、かつ、加入すれば会社を閉鎖する
などと動きかけているから、同月六日の右解散決議は、むしろ同月八日に予定され
ていた組合結成大会を前にして既成事実をつくつて労働組合の結成、運営を牽制し
ようとした意図をうかがいうる。
 そして、同月九日解散登記を経たが、被控訴会社は、まだ控訴人ら従業員の解雇
も行われていないのに、ただちに、従業員のタイムカードを引き上げ、立入禁止の
表札を掲げている。これら一連の事実からすれば、被控訴会社、具体的には、その
支配者であり、代表者であるDが解散の決意をしたのは、従前労働組合のなかつた
被控訴会社に組合ができることおよびその組合が全国金属労働組合に加入すること
を嫌悪し、これを排除するためのものであつたと断ぜざるをえない。
 (二) ところで、会社の解散は、かならずしもただちに労働者の解雇事由とな
るものではない。解散と解雇は一応別個のことであつて、解散が有効と認めうれて
も、それに引き続いて行われた解雇が不当労働行為としてその効力を持ちえない場
合がありえないわけではない。たしかに、会社は解散により清算事務に入るから必
然的に従業員解雇の事態が生ずべきことは一応これを肯定しうるが、本件においで
は、前叙のごとく、五月六日の解散そのものが組合排除の目的をもつており、解散
後においても控訴人らの組合が被控訴会社の要求を入れて全国金属労働組合に加入
しないならば再開する意向を有していたのである。しかも、会社側は五月九日の解
散登記後まだ従業員の解雇も行われていないのに従業員のタイムカードを引き上げ
てその立入を禁止し、その後行われた組合側との団体交渉継続中の五月一九日にそ
の大部分が組合員である全従業員を同時に解雇したが、それの解雇理由は会社が解
散したからというだけで、具体的な清算手続の進展との関連は明らかにされなかつ
た。前認定の事実によれば、被控訴会社はDが個人で築き上げた会社で、相当の業
績を上げており、本件組合の結成以外にさしたる問題がなかつたから、解散後の本
件解雇当時においても控訴人ら組合側がその結束を弱め会社側の要求を入れること
になれば、Dが解散した会社を継続することになんの障害もなかつたということが
できるし、むしろ、そのような状態が現出すれば会社を継続すべく望むのが自然と
いえる。そして、Dが継続を欲すれば、前叙のところからすれば、その決議がたや
すく実現することも多言を要しない。これらの事情を総合すれば、会社側は、解散
から解雇にかけ一貫して反組合的意図を有していたといえるのであつて、本件解雇
は解散後の清算における必然的なものというよりもこれをもつて組合排除の手段と
する点に重点があつたとみうるのである。したがつて、本件解雇は不当労働行為と
して無効のものといわなければならない。
 六 被控訴人は、控訴人Rおよび同Gを除くその余の控訴人らは昭和四一年六月
一日、右控訴人二名は同月六日本件解雇を承認し、失業保険の給付を受けるため離
職票に記名捺印して公共職業安定所に提出したと主張するが、成立に争いのない疎
乙第一二号証、前掲控訴人H本人尋問の結果および弁論の全趣旨によれば、控訴人
らは、本件仮処分申請(同月二日受付)後の控訴人らの生活を維持するために失業
保険金の給付を受ける必要があつて被控訴人主張の日にそれぞれ右離職票を受領し
これを公共職業安定所に提出したにすぎず、同月二日には解雇の無効を主張して本
件仮処分申請をしていることを認めることができるから、控訴人らの右行為をもつ
て解雇の承認と目することはできない。
 七 そこで、本件仮処分の必要性について判断する。
 <要旨>(一) まず、賃金相当の金員の給付を求める部分についてみるに、前記
疎明された事実によれば、控訴人らは、本件解雇後一時失業保険金の給付あ
るいは後援会の援助で生計をたてていたが、まもなく占拠している被控訴会社千葉
工場でその生産設備を利用して合資会社西垣製作なる名のもとに自ら金型の生産を
しており、その生産のための使用電力料金が解散前の被控訴会社の支払額とほぼ等
しいところがらみれば、その生産量は相当のものと思われるから、その収益は控訴
人らの生活を補いうるものであると一応認めることができる。そして、右生産は本
件口頭弁論終結当時まで続けられており、被控訴会社側も右時期まではあえて電力
の撤去もせずに工場の使用を控訴人らの意のままに任せていた訳である。近い将来
に、被控訴会社が控訴人らの右工場占拠を排除すべき行動に出る気配もなく、控訴
人らが右生産を中止して右工揚を被控訴会社に返還する気配を示しているものでな
いことも一応認めうる。そうであつてみれば、控訴人らはさしあたつて生計費を得
ており、当面その状態に変更をきたす可能性も少いといえるから、かりに金員の給
付を求める緊急の必要性があるということはできない。
 (二) つぎに、解雇の意思表示の効力停止を求める部分についてみるに、前認
定の事実によれば、被控訴会社は、解散した清算法人であつて、もとより解散前に
行つていたような生産を行うものではないから、本件仮処分により解雇の意思表示
の効力をかりに停止して控訴人らの従業員たる地位をかりに確立しても、とうてい
控訴人らの就労の実現が期待されるものでもなく、むしろ、控訴人らは解散は無効
であると主張して自ら工場を占拠して生産を行いつつ、被控訴会社が行うべき清算
事務の遂行を妨害しているのであるから、その行動は清算会社の従業員たる地位の
確立を求める本件申請とは矛盾しているといえるのである。もとより右の仮の地位
の確立が控訴人らの右占拠を適法化するよすがとなりうるものでも、清算手続を排
除する事由たりうるものでもなく、また、解散した会社を継続させることに意味を
持ちうるものでもない。そして、控訴人らの賃金相当金員の仮払を求める仮処分の
必要件がないことは前叙のとおりであり、控訴人らは、他に、右解雇の意思表示の
効力停止の仮処分を求める具体的必要性についてはなんらの主張、疎明をしない。
 八 そうだとすると、本件仮処分の申請は必要性の疎明がないものというべく、
かつ保証をもつて右疎明に代えることは適当でないから、右申請は失当である。よ
つて、右申請を却下した原判決は結局相当であつて、本件控訴はいずれも理由がな
いから、これを棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九
条、第九三条第一項本文を適用して、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 小川善吉 裁判官 小林信次 裁判官 川口富男)

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