弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
本件上告を棄却する。
当審における未決勾留日数中60日を本刑に算入する。
理由
弁護人石坂基の上告趣意は,単なる法令違反,量刑不当の主張であり,被告人本
人の上告趣意は,単なる法令違反の主張であって,いずれも刑訴法405条の上告
理由に当たらない。
所論にかんがみ,職権で判断する。
1原判決の認定及び記録によれば,第1審の判決の宣告等に係る事実は,次の
とおりである。
(1)本件被告事件の第1審は,福井地方裁判所において単独裁判官によって審
理された。平成18年8月11日,同事件の第2回公判期日が開かれ,審理が行わ
れて結審し,第3回公判期日(判決宣告期日)が同月18日午後4時30分と指定
告知された。
(2)同月18日午後4時30分ころ,上記裁判官が同裁判所第2号法廷に入廷
した。同法廷には,裁判所書記官が列席し,被告人及び弁護人が出頭の上在廷し,
また,押送担当の刑務官が2名在廷していたが,検察官は出席していなかった。
(3)上記裁判官は,本件被告事件について,判決の主文を朗読し,理由の要旨
を告げ,上訴期間等の告知をした。その後,被告人,同裁判官の順で退廷した。裁
判所書記官及び弁護人は,法廷内にとどまった。
(4)上記裁判所書記官が,書記官席から,裁判官室に戻った上記裁判官に電話
し,検察官が出席していなかった旨を告げた。同裁判官の指示を受け,同書記官に
おいて,押送担当者に連絡を試みたが,被告人は既に同裁判所庁舎を出発していた
ので,被告人を法廷に戻すよう勾留場所の福井刑務所に電話連絡した。
(5)被告人は,同刑務所に到着したが,上記(4)の電話連絡があったことから,
直ちに再び同裁判所に押送された。
(6)検察官は,同日午後4時42分ころ,上記裁判官は,同日午後4時53分
ころ,被告人は,押送担当の刑務官2名と共に同日午後5時1分ころ,それぞれ上
記法廷に入廷した。同裁判官は,「先ほど検察官が不在だったので,もう一度検察
官出席の上,判決を言い渡します。」と述べた上,上記(3)で宣告したのと同一内
容の判決を宣告した。その際,検察官,弁護人及び被告人から何ら異議の申立ては
なかった。
(7)同月29日,被告人は,判決に対し控訴した。検察官は,控訴しなかっ
た。
(8)名古屋高等裁判所金沢支部は,同年12月14日,第1審の判決宣告手続
には,検察官の出席のないまま開かれた点で軽視できない違法があるが,その違法
は判決に影響を及ぼすような重大なものということはできないとして,被告人の控
訴を棄却した。
2以上の事実関係によれば,第1審裁判官は,判決宣告期日として指定告知さ
れた日時である平成18年8月18日午後4時30分ころ,裁判所書記官が列席
し,被告人及び弁護人が出頭の上在廷する法廷で,判決の主文を朗読し,理由の要
旨を告げ,上訴期間等を告知した上,被告人の退廷を許し,被告人は法廷外に出た
ものであるから,この時点で,判決宣告のための公判期日は終了したものというべ
きである。その後,同日午後5時過ぎころ,勾留場所に戻った被告人を呼び戻して
検察官出席の上で再度行われた判決の宣告は,事実上の措置にすぎず,法的な効果
を有しないものというほかはない。
そうすると,同日午後4時30分ころに行われた本件第1審の判決宣告手続に
は,刑訴法282条2項違反があり,この違反は判決に影響を及ぼすことが明らか
というべきであるから,これが判決に影響を及ぼすような重大なものではないとし
た原判決の判断は,法令の解釈を誤ったものといわざるを得ない。しかしながら,
上記のような本件の経過等にかんがみると,第1審判決の上記法令違反は,これに
よって被告人に実質的な利益侵害を生じさせるものではなく,かつ,事実上検察官
も直ちに判決を了知しているものと認められるから,原判決は,上記法令解釈を誤
った違反はあるものの,いまだこれを破棄しなければ著しく正義に反するものとは
認められない。
よって,刑訴法414条,386条1項3号,181条1項ただし書,刑法21
条により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官津野修裁判官今井功裁判官中川了滋裁判官
古田佑紀)

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