弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
原判決を破棄する。
本件を東京高等裁判所に差し戻す。
理由
上告代理人岩本雅郎,同佐藤浩史の上告受理申立て理由第1点,第2点及び第4
点について
1本件は,上告人らが,被上告人に委託して行った商品先物取引において損失
を被ったことにつき,被上告人に説明義務違反があったなどとして,被上告人に対
し,商品先物取引委託契約上の債務不履行に基づく損害賠償を求める事案である。
2原審の確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1)上告人X(以下「上告会社」という。)は,融資等を目的とする会社であ1
り,上告人Xは,その代表取締役である。2
(2)被上告人は,商品先物取引の受託等を目的とする会社である。また,被上
告人は,商品取引員であり,東京穀物商品取引所及び東京工業品取引所の会員であ
る。
(3)上告人Xは,平成8年3月25日から同年5月1日まで,Aに委託して,2
初めて商品先物取引を行い,合計約1億7000万円の損失を被った。その後,上
告人Xは,同上告人個人及び上告会社の代表者として,被上告人との間で商品先2
物取引委託契約を締結し,上告人Xについては,同月20日から同年9月24日2
まで,被上告人に委託して,東京穀物商品取引所のとうもろこしの商品先物取引を
行い,上告会社については,同年5月9日から同年6月26日まで,被上告人に委
託して,東京穀物商品取引所のとうもろこし及び米国産大豆並びに東京工業品取引
所の綿糸の各商品先物取引を行った(以下,上告人らが被上告人との間で締結した
商品先物取引委託契約を併せて「本件各委託契約」といい,上告人らの上記各取引
を併せて「本件各取引」という。)。その結果,上告人X個人は合計7542万2
2320円の損失を被り,上告会社は合計564万0131円の損失を被った。
(4)ア東京穀物商品取引所のとうもろこし及び米国産大豆並びに東京工業品取
引所の綿糸の各商品先物取引は,平成8年当時,立会において,同一限月の各商品
につき,売付けと買付けの数量が合致したときに,そのときの値段を単一の約定値
段とし,同数量の売付けと買付けについて売買約定を締結させる競争売買の方法
(以下,この方法を「板寄せ」という。)により行われていたが,各取引所の会員
である商品取引員は,各取引所の業務規程によって,①同一限月の各商品につき委
託に基づく同数量の売付けと買付けを有する場合や,②同一限月の各商品につき,
委託に基づく売付け又は買付けに対し,自己の計算をもってする同数量の買付け又
は売付けを有する場合(以下,商品取引員が委託に基づいてする取引を「委託玉」
といい,商品取引員が自己の計算をもってする取引を「自己玉」という。),その
同数量の売付けと買付けについては,立会終了後に各取引所に申し出るだけで,当
該立会の約定値段で売買約定を成立させること(以下,これを「バイカイ付け出
し」という。)が認められていた。
イ被上告人は,板寄せによる取引については,商品の種類及び限月ごとに,委
託に基づく売付けと買付けを集計し,売付けと買付けの数量に差がある場合には
(以下,この差を「差玉」という。),差玉の約1割から3割だけを商品取引所の
立会に出し,立会終了後,委託に基づく同数量の売付けと買付けにつき,バイカイ
付け出しにより売買約定を成立させ,また,立会に出されなかった差玉につき,対
当する自己玉を建てて,バイカイ付け出しにより売買約定を成立させることを繰り
返していた(以下,差玉の全部又は一定割合に対当する自己玉を建てることを繰り
返す商品取引員の取引方法を「差玉向かい」という。)。
(5)本件各取引は,上告人Xが,被上告人から提供される情報を投資判断の材2
料として行っていたが,被上告人が差玉向かいを行っていることによって,高い頻
度で,上告人らの委託玉が被上告人の自己玉と対当する結果となった。
(6)被上告人は,本件各取引を受託するに当たり,上告人らに対し,被上告人
が板寄せによる取引について差玉向かいを行っていることを説明していない。
(7)上告人らは,商品取引員が差玉向かいを行っている場合には,商品取引員
は,商品先物取引委託契約上,委託者に対し,差玉向かいによって商品取引員と委
託者との間に利益相反の関係が生ずることなどを説明する義務を負うところ,被上
告人においては,板寄せによる取引について差玉向かいを行っていたにもかかわら
ず,本件各取引を受託するに当たって,上告人らに対し,上記の説明をしていない
のであるから,本件各委託契約の債務不履行に基づく損害賠償責任を免れないと主
張している。
3原審は,前記事実関係の下で,次のとおり判断して,被上告人の説明義務違
反を否定し,上告人らの請求をいずれも棄却すべきものとした。
(1)商品取引員が差玉向かいを行っていると,商品取引員の自己玉と対当する
委託玉を建てた委託者と商品取引員との間には,相場変動により,一方に評価益が
生ずると他方に評価損が生ずる関係があり,また,取引が決済される場合,委託者
全体の総益金が総損金より多いときには商品取引員に損失が生じ,委託者全体の総
損金が総益金より多いときには商品取引員に利益が生ずる関係にある。この意味
で,商品取引員と委託者との間には利益相反の関係がある。
(2)しかし,商品取引員の自己玉と売付け又は買付けの別を同じくする委託玉
を建てた委託者については,商品取引員との間の利害が一致するのであり,上記の
利益相反の関係は,抽象的な委託者総体との間に生ずるものである。また,商品取
引員の自己玉と対当する委託玉を建てた委託者であっても,直ちに損失を被るもの
ではなく,利益が生ずることもあるのであり,商品取引員が差玉向かいを行ってい
ることは,委託者の投資判断に影響を与えるものではない。
(3)したがって,商品取引員は,差玉向かいを行っている場合であっても,商
品先物取引委託契約上,委託者に対し,差玉向かいによって商品取引員と委託者と
の間に利益相反の関係が生ずることを説明する義務を負うものではない。
4しかしながら,原審の上記判断のうち,商品取引員が差玉向かいを行ってい
ることは委託者の投資判断に影響を与えるものではないから,商品取引員は差玉向
かいによって商品取引員と委託者との間に利益相反の関係が生ずることの説明義務
を負わないとの部分は,是認することができない。その理由は,次のとおりであ
る。
(1)ア商品先物取引を受託する商品取引員は,商法上の問屋であり(商法55
1条),委託者との間には,委任に関する規定が準用されるから(同法552条2
項),商品取引員は,委託者に対し,委託の本旨に従い,善良な管理者の注意をも
って,誠実かつ公正に,その業務を遂行する義務を負う(民法644条)。
イ商品先物取引は,相場変動の大きい,リスクの高い取引であり,専門的な知
識を有しない委託者には的確な投資判断を行うことが困難な取引であること,商品
取引員が,上記委託者に対し,投資判断の材料となる情報を提供し,上記委託者
が,上記情報を投資判断の材料として,商品取引員に対し,取引を委託するもので
あるのが一般的であることは,公知の事実であり,商品取引員と上記委託者との間
の商品先物取引委託契約は,商品取引員から提供される情報に相応の信用性がある
ことを前提にしているというべきである。そして,商品取引員が差玉向かいを行っ
ている場合に取引が決済されると,委託者全体の総益金が総損金より多いときには
商品取引員に損失が生じ,委託者全体の総損金が総益金より多いときには商品取引
員に利益が生ずる関係となるのであるから,商品取引員の行う差玉向かいには,委
託者全体の総損金が総益金より多くなるようにするために,商品取引員において,
故意に,委託者に対し,投資判断を誤らせるような不適切な情報を提供する危険が
内在することが明らかである。
そうすると,商品取引員が差玉向かいを行っているということは,商品取引員が
提供する情報一般の信用性に対する委託者の評価を低下させる可能性が高く,委託
者の投資判断に無視することのできない影響を与えるものというべきである。
ウしたがって,少なくとも,特定の種類の商品先物取引について差玉向かいを
行っている商品取引員が専門的な知識を有しない委託者との間で商品先物取引委託
契約を締結した場合には,商品取引員は,上記委託契約上,商品取引員が差玉向か
いを行っている特定の種類の商品先物取引を受託する前に,委託者に対し,その取
引については差玉向かいを行っていること及び差玉向かいは商品取引員と委託者と
の間に利益相反関係が生ずる可能性の高いものであることを十分に説明すべき義務
を負い,委託者が上記の説明を受けた上で上記取引を委託したときにも,委託者に
おいて,どの程度の頻度で,自らの委託玉が商品取引員の自己玉と対当する結果と
なっているのかを確認することができるように,自己玉を建てる都度,その自己玉
に対当する委託玉を建てた委託者に対し,その委託玉が商品取引員の自己玉と対当
する結果となったことを通知する義務を負うというべきである。
(2)前記事実関係によれば,上告人Xは,本件各取引の直前に初めて商品先物2
取引を短期間行ったというのであり,また,上告人Xは,被上告人から提供され2
る情報を投資判断の材料として本件各取引を行ったというのであるから,上告人ら
は,商品先物取引に関して,専門的な知識を有しない委託者であることが明らかで
ある。しかるに,前記事実関係によれば,被上告人は,板寄せによる取引について
差玉向かいを行っていたにもかかわらず,上告人らから板寄せによる取引に該当す
る本件各取引を受託するに当たり,上告人らに対し,被上告人が差玉向かいを行っ
ていることを説明していないというのであるから,被上告人は本件各委託契約に基
づく説明義務に違反するものとして,債務不履行責任を負うというべきである。
5以上のとおりであるから,原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明ら
かな法令の違反がある。論旨は上記の趣旨をいうものとして理由があり,原判決は
破棄を免れない。そして,更に審理を尽くさせるために,本件を原審に差し戻すこ
ととする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官宮川光治裁判官甲斐中辰夫裁判官涌井紀夫裁判官
櫻井龍子裁判官金築誠志)

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