弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人勅使河原直三郎上告趣意第一点について。
 しかし、酌量減軽を為すと否とは、裁判所の任意であつて、法律上必ずこれを為
さねばならぬものではないから、これが主張は旧刑訴三六〇条二項の主張に当らな
い。従つて、仮りに弁護人が原審においてこれが主張をしたとしても、これに対し
判断を示さなければならぬ理由はない。それ故論旨は採るを得ない。
 同第二点について。
 しかし、所論正当防衛の主張は、旧刑訴三六〇条二項の主張であるから、これに
対し判断を示さなければならないけれども、その判断の証拠上の理由を示すことは
法律上何等要求されていない。従つて、原判決が過剰防衛を認めてその主張に対す
る判断を示した以上その証拠上の理由を示さなかつたからといつて判断遺脱の違法
あるとはいえない。
 同第三点について。
 しかし、原判決は、被告人の殺意その他の判示犯罪事実を所論被告人に対する検
察官の聴取書の記載のみで認めたものではなく、原審公判廷における殺すぞと叫び
ながら小刀で被害者を突剌した旨の被告人の供述、創傷の部位、程度につき判示に
符合する鑑定書の記載、押収に係る切出小刀一挺の存在等の客観的情況証拠をも綜
合して認定したものである。されば原判決には被告人の自白のみを唯一の証拠とし
た違法は存しない。それ故本論旨も採ることができない。
 同第四点について。
 しかし、旧刑訴四〇三条の規定は、原第一審判決主文の刑を重く変更することを
禁止する趣旨であつて、主文の因て生ずる理由すなわち事実の認定、量刑の事由、
法律の適用等を原判決より不利益に変更することを妨げるものではない。されば原
判決が第一審判決の認めた自首に基く減軽を為さなかつたからといつて、その主文
の刑において同一である以上右規定に違反するものとはいえない。論旨は、それ故
に理由がない。
 同第五点について。
 しかし、原判決は、急迫不正の侵害を明確には判示していないが過剰防衛である
と判示しているところから見ると、かゝる侵害の存在を前提として、これに対する
正当防衛の程度を超えたものと認定した趣旨であること明白である。されば所論は、
原判決と異なる事実見解に基く法律上の非難に過ぎないもので結局原判決の認定し
た故意の事実誤認を主張するものであるから、上告審適法の理由として採ることが
できない。
 同第六点について。
 しかし、所論被告人に対する検察官の聴取書が勾留中作成されたという一事を以
て被告人の任意に出ないものとすることはできない。却つて右聴取書は、被告人が
読み聞かせられて相違ない旨申立てこれに署名拇印していることが明らかであるか
ら、寧ろ反証のない限り任意に出たものと解すべきである。されば原判決には所論
の違法は存しない。本論旨もその理由がない。
 よつて旧刑訴四四六条に従い主文のとおり判決する。
 この判決は裁判官全員の一致した意見である。
 検察官 長部謹吾関与
  昭和二四年九月二九日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    岩   松   三   郎

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