弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
一 被告が昭和四八年三月一二日原告の昭和四四年分、昭和四五年分及び昭和四六
年分の各所得税についてなした各更正及び各過少申告加算税賦課決定(昭和四九年
九月一八日付裁決で取り消された部分を除く)のうち、昭和四四年分については金
二〇〇万六三七三円を超える所得金額に係る部分を、昭和四五年分については金二
三五万四一四五円を超える所得金額に係る部分を、昭和四六年分については金三一
九万一六五三円を超える所得金額に係る部分をいずれも取り消す。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを三〇分し、その一を被告の、その余を原告の各負担とす
る。
○ 事実
第一 当事者双方の申立
一 原告が求める判決
1 被告が昭和四八年三月一二日原告の昭和四四年分、昭和四五年及び昭和四六年
分の各所得税についてした各更正及び各過少申告加算税の賦課決定(昭和四九年九
月一八日付裁決によつて取り消された部分を除く)いずれも取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告が求める判決
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者双方の主張
一 原告の請求原因
1 原告は、群馬県甘楽郡<地名略>において冠婚葬祭用の造花の製造・卸業等を
営むいわゆる白色申告者であるが、昭和四四年分・同四五年分・同四六年分の各所
得税について原告のなした確定申告、これに対する被告の推計課税による各更正及
び各過少申告加算税賦課決定、これらに対する異議申立・審査請求の経違は別表
(一)記載のとおりである(以下、右各更正を「本件各更正」と、右過少申告加算
税賦課決定を「本件各決定」といい、まとめて「本件更正等」という。)。
2 本件各更正及び本件各決定は左記の理由により違法である。
(一) 富岡民主商工会及びその会員である原告に対する不当弾圧
原告は昭和四五年三月富岡民主商工会(以下、富岡民商という。)に加入し、同四
六年五月からは副会長の職にある。富岡民商は昭和四六年から同四七年にかけて農
業所得の自主申告を推進する運動を指導して活発化させたが、原告は組織の拡大及
び右運動において重要な役割を果してきた。税務当局は民主商工会を敵視してきて
おり、右運動状況下でなされた本件処分は富岡民商及びその副会長である原告に対
する、制裁的・作為的意図に基づく弾圧であり、これは次の事実によつても明らか
である。
(イ) 更正所得金額と申告所得金額との差が過大であり、裁決によつてさえほぼ
その半額が取り消され税額も約四分の一が減縮されている。
(ロ) 更正のための事後調査時期が遅く、また本件更正等の時期は除斥期間満了
直前であつて前記運動が活発化した時期に符合している。
(ハ) 本件更正等による課税について徴収猶予の申立てを認めなかつた。
(二) 質問検査権(所得税法二三四条一項)行使の違法質問検査権の行使は時と
して被調査者の営業を妨害し、また取引先等に対する信用を低下させるおそれがあ
るから、左記の要件を充足する場合にのみ許容される。
(イ) 被調査者に対し調査の必要性・合理性及び調査の対象範囲を明示する。
(ロ) 被調査者の営業活動の停滞、得意先及び銀行等の信用失墜、その他私生活
の平穏を害しない。
(ハ) 事前通知をする。
(二) 調査対象の選定及び調査の深度について差別的でないこと並びに調査目的
が租税債務の確定という本来の目的以外のものではない。
(ホ)納税者に対する直接の調査は勿論、その取引先等に対する反面調査も納税者
の同意を得る。
(ヘ)被調査者の同意なくして立入らない。
ところが、被告所部係官は、原告に対する調査未了の昭和四七年六月二一日上信ト
ラツク株式会社に対し原告に無断で反面調査を行い、同年七月一七日原告方に来訪
した際調査の理由・合理性、調査の範囲を具体的に明示せず、さらに富岡警察署と
連絡をとり、警察官に原告方付近をパトロールさせて調査拒否の罪による刑事弾圧
という他目的を随伴する調査を行つた。また被告は、東京管内の葛飾税務署、浅草
税務署等を通じ、脅迫的言辞や詐言を用いた反面調査を行つた。
(三) 理由附記の欠缺
青色申告について更正に理由附記が必要とされるのは課税庁の恣意的処分を抑止す
るためであるから、白色申告の場合の更正にも理由附記を要件とすべきであるが、
本件更正には理由が附記されていなかつたから違法である。
(四) 推計課税は、課税庁が適法な調査を行つたにもかかわらず、納税者が合理
的な理由なく調査に協力しないため実額が把握できないことが要件である。
被告所部係官は、後記四1のとおり、調査の理由及び必要性につき具体的に明示し
ない違法な調査をしたため、原告は被告の調査に協力しなかつたのである。本件各
更正は、実額課税をなすための適法な調査をすることなくなされたから、推計課税
の必要性を欠き違法である。
(五) 本件各更正は、所得の算出につき合理性を欠き、所得認定額が過大である
から違法である。よつて、原告は、本件各更正及び本件各決定のうち裁決で取り消
された部分を除く残余部分の取り消しを求める。
二 請求原因に対する被告の認舌
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2冒頭の主張は争う。
(一) 同2(一)(二)の主張は争う。
租税債権は法律の定めるところにより、画一的かつ当然に成立するのであつて、行
政庁の確定の手続は既に成立している租税債権の内容を具体的に確認する手続にす
ぎない。したがつて課税処分の違法性の存否は右処分において認定された課税標準
又は税額が客観的に正当とされる数額を超えているか否かによつつのみ決せられる
べきものであり、原告主張のような他事考慮によるものであるか否かや、調査手続
の違法の問題は、課税処分の違法事由とはならない。
また、所得税法二三四条に基づく質問検査権の行使に当たり、調査理由を開示しな
ければならない旨を定めた規定は存在しない。そして質問検問検査権行使の目的が
国家財政の基本となる徴税権の適正な運用を確保し、所得税の公平確実な負担を図
るということにあること、他方、国民は所得税法の定めるところにより所得税を納
める義務を負つていること(憲法三〇条、所得税法五条)からすれば、質問検査権
行使の時期、範囲、程度、方法、手段については、これを行使する税務職員の判断
にすべて委ねられていると解すべきであり、納税者としては税務職員が日時を打ち
合せることなく突然調査に来たり、調査理由を開示しないからといつてこれを拒否
することは許されないのである。すなわち質問検査権行使に当たり、その実施の日
時場所の事前通知、調査の理由及び必要性の個別的、具体的告知のごときは、質問
検査を行う上での法律上一律の要件とされるものではないのである(最高裁昭和四
八年七月一〇日第三小法廷決定刑集二七巻七号一二〇五ページ)。
(二) 同2(三)は争う。
青色申告書に係る更正について、更正通知書にその理由を附記しなければならない
ことが所得税法上要求されているのは、青色申告書の提出承認を受けているものに
対し、帳簿書類を備え付けてこれに所得金額に係る取引を記録し、かつ、その帳簿
書類を保存し、更に、青色申告書に貸借対照表、損益計算書、その他所得金額又は
純損失の金額の計算に関する明細書を添付させるという厳格な義務を課している代
償として特に法律によつて与えられているところの租税優遇措置の一つであるか
ら、右のような義務が何ら課せられていないいわゆる白色申告の場合にまで、しか
も法律によつては理由付記が要求されていないにもかかわらず、その所得について
更正処分をなした際に、更正通知書に更正の理由を附記しなければならないとする
ことはできないのである(最高裁昭和四三年九月一七日判決訟務月報第一五巻第六
号七八ページ)。
(三) 同2(四)は争う。
質問検査権の行使の時期、範囲、程度、方法、手段については、これを行使する税
務職員の判断にすべて委わられているのであり、納税者としては、調査に当たつて
事前連絡をしなかつたり、調査の理由、必要性につき明示巳なかつたからといつて
これを拒否することはできないのであつて、原告の主張は失当である。のみなら
ず、所得税法一五六条により推計課税が認められたのは、納税者が税務職員の調査
に非協力的であるとか、帳簿書類の不存在ないしは帳簿書類の記載が不備、不正確
である等のため、実額をは握することが不可能又は著しく困難な場合に課税庁が課
税をしないことは、当該納税者の不法な利得において国庫に損失を与え、かつ、他
の納税者との課税負担の公平の原則に反することになるからである。したがつて、
推計課税が許容される要件としてそれを手続要件と解する立場からも、納税者が調
査に非協力的であるとか帳簿その他の資料等の不存在、不備又は不正確等のため課
税庁が実額をは握することが不可能又は困難なことが推計課税の要件とされるので
あつて、それ以外の事由については推計課税の要件とはならないのである。
(四) 同2(五)は争う。
三 被告の主張
本件更正及び本件各決定は次のとおり適法である。
1 推計課税の必要性
(一) 課税所得金額、売上金額及び必要経費の実額を把握するためには、被調査
者に収支を明らかにする正確な帳簿書類があり、かつ調査の協力が必要であるとこ
ろ、納税者が収支を明らかにする帳簿書類等を備えていない場合、帳簿書類の備付
があつても記載内容が不正確である場合及び納税者が課税庁の行う税務調査に非協
力である場合には、実額課税が不可能又は困難であるから推計課税をせざるを得な
い。
(二) 原告の昭和四四年、同四五年、同四六年分の各所得税確定申告書は、所得
金額欄が記入されているのみで、収入金額及び必要経費欄が記載されておらず所得
税法一二〇条所定の要件の記載を欠くものであつたので、被告所部係官は、昭和四
七年六月二〇日、同月二六日、同月三〇日に調査のため原告方を訪れたが、原告は
多忙を理由に調査に応じることを拒否し、同係官が、原告の指定した翌七月一七日
に原告方を訪れ、調査に応じて帳簿書類を提示し、事業内容の実態の説明をするよ
う求めた際も、原告は民商の会員とおぼしき男達一九名を同席させ、調査に協力せ
ず帳簿書類の提示もせず、口頭での事業内容の説明すら行わなかつた。
右のとおり、原告は、被告の調査に全く協力せず、帳簿・記録等の提示もせず、係
官の質問にも応ぜず、また帳簿書類も保存していなかつたので、実額課税は不可能
であつたから、被告は所得税法一五六条に基づき推計課税を行つた。
2 推計課税の合理性
原告の本件係争各年の所得は、冠婚葬祭用の造花の製造、花輪・仏具等の販売によ
る事業所得であり、推計による各年の所得金額、所得算出に至る計算内訳は別表
(二)記載のとおりであり、その算出は次のとおりである。
(一) 事業所得金額の算出方式
各年の事業所得金額=算出所得金額―特別経費―事業専従者控除
算出所得金額=売上金額×算出所得率
※ 算出所得金額とは、差益金額(総収入金額―売上原価)から、売上原価以外の
必要経費(「青色特典控除」の金額を除く。)のうち、その業種に一般的と認めら
れる経費(すなわち、後述するその者固有の「特別経費」を除いたもの。)を控除
した後の数額をいう(算出所得金額=総収入金額―売上原価―一般経費)。
(三) 係争各年の売上金額
左記(1)ないし(3)の合計額である。
(1) 反面調査によつて判明した取引先に対する売上金額係争各年の明細は別表
(三)のとおりである。
(2) 振込入金及び小切手取立入金による売上金額
西群馬信用組合(以下、「西群馬組」という。)甘楽町支店の原告名義の普通預金
口座及び原告の妻A名義の普通預金口座への振込入金及び小切手取立金のうち
(1)の取引先からの入金について、各年の明細は別表(四)記載のとおりであ
る。
(3) 現金売上金額
顧客の特定していない花輪・仏具等の販売による売上げであり、前記(1)の取引
先のうち(1)で計上していない現金売上げ金額
(イ) 昭和四六年分についての主位的主張
「西群馬組」甘楽町支店の原告名義の普通預金口座・当座預金口座(以下、「原告
名義口座」という。)、同A名義普通預金口座(以下、「A名義口座」という。)
は、預け入れ及び払戻し状況からみて事業に係るものと認められる。右各口座への
現金預入額のうち現金売上げを資金源とすると推定される分は、別表(五)1欄記
載のとおりである。
(ロ) 昭和四六年分についての予備的主張
仮に(イ)で現金売上げと推定した別表(五)I欄記載の預金のうち、原告名義口
座昭和四六年四月三日、同月一七日、一〇月一日、一二月二日預け入れの各預金、
A名義口座の同年二月二三日、三月六日、同月二二日預け入れの各預金が、それぞ
れの預金に対応する別表(五)II欄のとおりの資金源によるものであれば、同表
III欄記載の各預金が現金売上げを資金源とするものと主張する(即ち、被告は
別表(五)のI欄の各預金を現金売上げによるものとして計上するにあたり、II
I欄各預金をこれに対応するII欄記載の各資金源によると判断したから、右II
欄の事由をI欄の各預金の資金源と判断される場合は、対応するIII欄の各預金
を現金売上げによるものと主張する。)。また、原告名義口座の一〇月九日付預金
の資金源を原告主張のとおりと判断される場合は、前記四月三日、同月一七日、一
〇月一日、一二月二日の各預金の代りに、これに対応するIII欄記載の各預金を
全て主位的に主張し、A名義口座三月三一日付預金の資金源が原告主張のとおりと
される場合は、前記二月二三日、三月六日、同月二二日付各預金の代りにこれに対
応するIII欄記載の各預金を主位的に主張する。従つて前記(イ)の現金売上合
計額には影響はない。
(ハ) 昭和四五年分、同四四年分の推計による現金売上額
昭和四六年分の現金売上額の現金以外の売上額に対する割合は次式のとおり三二・
二四%である。
5、328、680/16、524、892=32.24%
右割合によつて昭和四五年分、同四四年分の現金売上額を推計する算式は次のとお
りである。
各年の現金売上額=各年の現金以外の売上金額×32.24%-各年の(1)(反
面調査による売上額)のうちの現金売上額
昭和45年分の推計による現金売上額=14、562、664円((1)のうち現
金以外の売上金額14、249、974円+(2)の金額)×32.24%-2、
046、620円((1)のうち現金売上金額)=2、648、382円昭和44
年分の推計による現金売上金額=1、473、530円×32.24%-1、16
6、522円=2、532、544円
(三) 算出所得率
下記(1)のとおり、同業者を抽出し、(2)のとおり従業員に対する給与支給額
を家族従業員数によつて調整し、借入金利子以外の経費を一般経費とした同業者の
平均所得率を算出所得率とした。
(1) 同業者の抽出
被告の管轄区域内及び近接する高崎、前橋、館林の各税務署管内には、原告の営業
形態と類似した同業者は存在しなかつたこと、原告の取引先の大部分が東京都内の
いわゆる下町地区であることから、東京造花工業協同組合(東京都千代田区<地名
略>)の組合名簿の中から次の六条件に該当する業者(別表(六)のAないしE)
を抽出した。
(1) 原告の売上先が、東京のいわゆる下町地区にあることと、右組合員も下町
地区に多数存在することから、葛飾税務署、足立税務署、西新井税務署、荒川税務
署、本所税務署、向島税務署管内で営業していること。
(2) 個人の青色申告者であること。
(3) 右組合員の中には、いわゆる賃加工業者(材料を親会社から支給をうけ、
加工賃のみを収入としている業者)が含まれており、その賃加工業者は一般に売上
高が少ないことから、原告と同様に材料の仕入を行い、雇人費や外注費が支出され
ていると思われる年間売上高六〇〇万円以上の業者であること。
(4) 冠婚葬祭用の造花の部分品を製造していること。
(5) 製品の単価が一二円ないし六五円程度であること。
(6) 原告の作業工程が材料紙を裁断しプレスしたものを外注に出していること
から、裁断機及びプレス機械があること。
なお、本件における平均算出所得率は、AないしEの算出所得率の平均値によつて
いるものであり、このような平均率による推計の場合には、業者間に通常存在する
程度の営業条件の差異は無視しうるのであるから、平均値算出過程の整合性等推計
の基礎的要件に欠けるところがない以上、納税者の個別的営業条件の如何は、それ
が当該平均値による推計自体を全く不合理ならしめる程度の顕著なものでない限
り、これを斟酌することを要しないのである。
(2) 同業者の給与支給額の調整
原告の営む業種については、製造原価のうち労務費(従業員給与及び外注工賃の合
計)の占める割合が大きく、かつ、家族従業員の数の多寡により労務費の額が変動
することが考えられる。そこで、原告の家族従業員(原告の妻、長男、長女)の数
三名を基準とすべく、各同業者の事業専従者数と三名との差に、各々の従業員一人
当りの平均給与額を乗じた数額を、同業者の給与支給額に加減することによつて給
与支給額を調整した(別表(六)のとおり)。
(3) 算出所得率
同業者の青色申告決算書に掲記された所得金額(青色申告書を提出する者に認めら
れている経費の諸特例の金額控除前の額)に、後記(4)の特別経費である借入金
利子を加算し、前記(2)の給与支給額調整をすることによつて得られる所得を、
それぞれの売上金額で除した率の平均は、別表(二)の係争各年の算出所得率欄記
載のとおりであり、算出過程は別表(六)のとおりである。
(四) 特別経費
原告固有の特別経費は、事業に要した借入金利子であり、係争各年の明細金額は別
表(七)のとおりである。
(五) 事業専従者控除
所得税法五七条三項規定の必要経費の特例で、原告の場合は、係争各年について、
長女B、長男Cにかかる分であり、昭和四四年分、同四五年分は各自一五万円、同
四六年分は各自一六万五〇〇〇円である(なお原告の妻Aについては所得税法八三
条所定の配偶者控除を適用した。)。
3 算出所得についての予備的主張
仮に、原告営業地の地域性を考慮して交通費、運搬費を特別経費として認める場合
は、労務費についても地域性を考慮して同業者率算定の基礎となつた同業者の経費
中の労務費額を修正し、修正後の労務費等を基礎として算出した同業者率を算出所
得率として、原告の事業所得金額を算定すべきであるから、別表(八)記載の所得
金額、算出所得率、特別経費を予備的に主張する。
(一) 算出方式、売上金額、専従者控除は、前記2(一)(二)(五)のおりで
ある。
(二) 算出所得率
(1) 抽出同業者は前記2(三)(1)と同じである。
(2) 給料賃金及び外注工賃の地域差修正
別表(九)の算式によつて、係争各年について、群馬県内の紙加工品製造業(従業
員一〇人未満の事業所)の従業員平均給与額の、東京都内の同業同規模事業所の従
業員平均給与額に対する割合を算出する。係争各年の右割合は、別表(九)給与割
合欄記載のとおりである。
なお、別表(九)の各基礎数値は次の資料・算式に基づいている。
同表(一)の(1)1東京都内に所在する紙加工品製造業(従業員三〇人以上の事
業所)の常用労働者一人平均月間給与額
係争各年とも、東京都発表の、当該年の「東京都統計年鑑」産業別常用労働者一人
平均月間給与額パルプ・紙・加工品の欄による(統計法に基づく指定統計である毎
月勤労統計調査によるもので、常時三〇人以上の常雇のいる事業所の中から調査さ
れる。)。
同表(一)の(2)1東京都内の、従業員一〇人未満の事業所の一人平均給与額
の、三〇人以上の事業所の一人平均給与額に対する割合。
東京国税局管内の、従業員一〇人未満の事業所の一人平均年間給与を、従業員三〇
人以上の事業所の一人平均年間給与額で除した割合であり、国税庁発表の当該年分
「税務統計から見た民間給与の実態」(以下「民間給与の実態」という。)の第一
表のその三平均給与の東京国税局の欄による。
同表(一)1右の(1)、(2)の各数値を乗じて、東京都内に所在する紙加工品
製造業(従業員一〇人未満の事業所)の一人平均月間給与額を求めた。
(30人以上の事業所の1人平均給与額)×(従業員数による修正率)=10人未
満の事業所の1人平均給与額)
同表(二)の(1)1群馬県内に所在する紙加工品製造業(従業員三〇人以上の事
業所)の常用労働者一人平均月間現金給与額昭和四六年分については、群馬県発表
の「群馬県統計年鑑(昭和四八年刊行)製造業中分類別・全常用労働者の一人平均
月間現金給与総額(昭和四六年)のパルプ・紙・紙加工品製造業の欄による(前記
(一)(1)と同様に毎月勤労統計調査によるものである。)。
昭和四五年分、同四四年分については、右の資料がないので、「民間給与の実態」
により、関東信越国税局管内の従業員三〇人以上の事業所の平均年間給与額の昭和
四五年分・昭和四四年分の各昭和四六年分のそれに対する割合(給与指数)を求
め、前記昭和四六年分の群馬県内の一人平均給与額に乗じて算定した。
同表(二)の(2)1群馬県内に所在する従業員一〇人未満の事業所の一人平均給
与額の、三〇人以上の事業所の一人平均給与額に対する割合。
「民間給与の実態」の第一表その三平均給与の関東信越国税局の欄による。
同表(二)1群馬県内に所在する紙加工品製造業(一〇人未満の事業所)の一人平
均月間給与額。
右(二)の(1)に(二)の(2)の割合を乗じた額。
(3) 同業者の給与支給額調整
右(2)の群馬県内の東京都内に対する給与割合によつて、同業者の従業員給与総
額を修正し、前記2(三)(2)と同じ方法で、家族従業員数三名として、各同業
者の給与支給額を調整する。
(4) 算出所得率の計算
別表(10)のとおり、同業者の青色申告決算書に掲げられた売上金額(雑収入を
除く。)から外注費・給料賃金・利子割引料及び旅費交通費以外の必要経費を控除
し雑収入を加算した金額(以下、「仮算出所得金額」という。)から、(2)に述
べた修正後の外注費及び修正後の給料賃金を減算し、更に、右(3)で述べたよう
に同業者の給与支給額を調整して、算出所得金額を求め、その算出所得金額を同業
者のそれぞれの売上金額で除した率の平貸三二・七二パーセントが算出所得率であ
る。
(三) 特別経費
前記2(四)の借入金利子と旅費交通費(上信トラツクへの支払金額、昭和四六年
分=三一万五三六〇円、昭和四五年分=二三万四五二〇円、昭和四四年分=一一万
九一〇〇円)の合計額
4 被告は、国税通則法六五条一項の規定により、本件係争各年分の更正に基づき
納付すべき所得税額に一〇〇分の五の割合を乗じて計算した金額(国税通則法一一
八条三項、同一一九条四項により、本税額につき一〇〇〇円未満の端数切捨、加算
税額について一〇〇円未満の端数切捨。)に相当する過少申告加算税を、賦課決定
したものである。
四 被告の主張に対する原告の認否及び反論
1 被告の主張I(一)は争う。
国税通則法一六条所定の申告納税方式は、憲法の精神にかない、また適正公平な課
税を実現するに最も現実的な方式であつて納税の原則であるから、更正は例外的措
置でなければならず、かつ所得課税は実額課税が原則であり、推計課税は例外であ
るから、推計による更正処分は極く限られた場合、即ち、実額による課税標準及び
税額等が把握しえない場合に限り適法である。
そして、実額によることができない場合とは、適法な調査に対し納税者が合理的な
理由もなく協力しない場合をいい、違法な調査がなされたため、調査に協力しなか
つた場合のように、調査ができなかつたことが課税庁の責任である場合を含まな
い。
同1(二)のうち、原告提出の係争各年の確定申告書に所得金額のみ記入されてい
たこと、昭和四七年六月二〇日、二六日、三〇日被告所部D係官外一名の係官が原
告方に臨店したこと、原告の指定した七月一七日に、D及びE両係官が原告方を訪
れたこと、その際原告以外の者の居合せたこと、テープレコーダーを用意していた
こと、原告が両係官の要求に応しなかつたことは認め、その余の事実は否認する。
六 月二〇日、二七日、三〇日の臨店は、原告側の事情を構わず、事前連絡なしに
一方的にやつてきたものであるから、突然の臨店に営業を中止する訳にはいかなか
つた原告が、調査に協力し得なかつたのは当然であり、原告はいずれも「仕事の都
合で調査に応じている時間がない。都合の良い日を後日連絡する。」旨告げてい
る。右各日及び七月一七日の質問検査は、被告所部係官が、調査に当つて当然明示
すべき調査の必要性・合理性の説明及び調査の対象・範囲の明示を欠く違法な調査
であつたから、原告が協力しなかつたからといつて責められるべき点はない。調査
ができなかつた原因及び責任は、被告にある。違法な調査に応じなかつたからとい
つて直ちに推計課税が許されるわけではない。
2 同2冒頭の事実のうち、原告の本件係争各年の所得が冠婚葬祭用の造花製造に
よる事業所得であることは認めるが、原告が花輪の店頭販売を始めたのは、昭和四
五年四月であり、仏具の販売を始めたのは同四六年六月である。
被告は、本件更正等における事業所得金額を主張するために、本件更正等の処分後
に調査した結果を新たな資料とし、処分時と異なる主張をしているが、本件訴訟は
抗告訴訟であるから、その審判対象は、原処分が処分時において理由を有していた
か否かであつて、課税標準の客観的存否ではないから、処分の適法性の要件の有無
は処分時において収集された資料に基づいて判断されなければならず、処分後に収
集した資料に基づいて判断することは許されず、また原処分と異なる課税標準額を
主張することは許されない。
3 (一)同2(二)(1)は不知。
(二) 同2(二)(2)のうち、被告主張の振込入金・小切手取立金があつたこ
とは認めるが、相手方及び趣旨は否認する。
とりわけ、昭和四六年分のうち相手先岸屋F、老舗浦和、旭通り商栄会による入金
は、左口商店の支払とにて交付された小切手によるものであり、また昭和四五年分
の相手先G、(有)石川造花店、山田屋種苗店、昭和四四年分の相手先H、博善
社、大沼商店は、いずれも原告と取引関係がないから、これらの入金は、被告が反
面調査した(被告の主張2(二)(1)の)取引先から、回し小切手として振り込
まれたものであつて、以上の各入金は(1)の売上金額と重複計上されている。
同2(二)(3)(イ)(ロ)のうち、別表(五)のとおり、口座に預金がなされ
たことは認めるが、預入資金源が現金売上であることは否認する。原告の記憶して
いる限りでも、別表(五)のII「原告の主張」欄記載のとおり、他に預入資金源
がある。
(三) 同2(二)(3)(ハ)は否認する。
被告は、昭和四五年分、同四四年分の現金売上額を、昭和四六年分の現金売上額の
現金以外の売上額に対する割合を用いて推計している。しかし、原告が花輪の店頭
販売を始めたのは昭和四五年四月であり、仏具の販売は昭和四六年六月に始めたの
であり、その後の現金売上額の割合もかなり変動しているから、昭和四六年におけ
る現金売上割合を、昭和四五年、昭和四四年に一律に適用するのは誤りである。の
みならず、被告主張のとおりとすれば、店頭売上額のその余の売上額に対する割合
は、逐年減少したことになり、右の原告の事業形態の変化に相応しない。
(四) 同2(三)は争う。左記の事情からみて被告主張の同業者の平均所得率を
もつて原告の所得率とすることは合理性を欠く。
(1) 被告主張の同業者は東京都内の下町地区で営業しており、原告の居住・営
業地とは距離的にも離れ、田舎町と都会など営業条件の差異が大きい。
(1) 材料の仕入先、製品の販売先は、原告の場合も東京の業者であり、また外
注先の点在する範囲が東京より原告の場合の方が広いから、諸経費中に占める交通
費・運搬費の割合は原告が圧倒的に多い。
(2) 原告は、同業者と比べて経験年数が浅く、また下請先も経験の浅いしかも
老人が多いため、製品の品質は東京の同業者に劣り、薄利多売を基本とし、また同
業者の方が高級な品目を製造し、取引先との取引期間が長いから、原告の方が製品
単価が安い。
(3) 原告の方が、多数の下請業者に外注加工を発注しているため、
外注費が多くなる。
(2) 被告の抽出した同業者間においても所得率のバラつきが大きく、これらを
単純平均することは合理性を欠く。
なお同2(三)(3)について、原告の長男は昭和四四年頃高校生であり、長女は
昭和四四年三月に高校を卒業した直後であつたため、何れも本格的に家業に従事す
る態勢になかつた。このため家族従業員を三名とすることには疑問がある。
(五) 同2(四)は認める。しかし支払利子額は右に尽きるものではない。また
交通費・運搬費・外注工賃を特別経費として考慮すべきである。
(1) 支払利息は次のとおりである。
昭和四六年  合計一、一五五、三三二円
支払先  支払金額
西群馬信用金庫    九三四、九三三円
商 工 中 金    一五九、八四九円
国民金融公庫      六〇、五五〇円
昭和四五年      九二七、九三八円
昭和四四年     約七〇〇、〇〇〇円
(2) 荷造運賃等
在京の業者と異なり、材料の仕入、製品の販売に伴う多額の荷造費用、運搬費用を
生じる。また在京の取引先又は広範囲に存在する地元外注先との折衝のために生ず
る交通費用(ガソリン代)・通信費を要する。
昭和四六年    昭和四五年
運   賃  三六五、四三〇円  三六一、七二〇円
荷 造 費  不 明       四九七、〇七五円
ガソリン代  三八三、八八四円  二八九、七八五円
交通費     五一、二五〇円  不 明
通 信 費   六五、六二五円   四八、八八〇円
(昭和四四年分は不明)
地方の労務費割安の点は、売上単価の低額、荷造運賃等によつて相殺されるので、
右の金額のうち一定程度を参酌すべきである。
(六) 同2(五)は認める。
4 同3の所得金額は否認する。
同3(一)のうち売上金額についての認否は、前記2(二)についての認否と同に
であり、専従者控除についての認否は、前記2(五)についての認否と同じであ
る。
同3(二)は争う。
被告の主張は、パルプ、紙、紙加工品製造業に従事する労働者の給与を基礎として
いるが、右業種には、大規模企業としてのパルプ工業及び製糸工業があり、また一
定工程以降はおよそ作業を機械化するに不向きな造花製造業と異なり、全工程一貫
して機械化になじみ易い各種紙容器や紙製品製造業など雑多な業種が混在し、給与
形態や給与支給額が大幅に異なるので、造花製造業の給与推及の基礎とするには困
難がある。
また造花製造業は手作業によるため、その多くは家内作業であり、常用労働者三〇
人以上を擁することは殆んどないのに、一〇〇〇人以上の事業所をも含む常用労働
者三〇人以上の事業所の給与を基礎資料としている修正には意味がない。
同3(三)についての認否は、同2(四)についての認否と同じ。
5 同4は争う。
五 原告の反論に対する被告の再反論
更正処分等課税処分は、租税法規に基づき既に客観的抽象的に成立した納税義務に
つき、これを具体的に確定する処分である。したがつて、これを争う課税処分取消
訴訟の審理の対象は、課税庁が認定した課税標準又は税額が納税義務者の実際のそ
れを超えているか否かであるから、その主張立証における攻撃防禦の方法は、原則
として口頭弁論終結時まで適宜に調査収集し提出することができるのである。
第三 証拠(省略)
○ 理由
一 請求原因1の事実は当事者間に争いがない。
二 そこで、まず本件更正等に至る経緯について判断する。
原告本人尋問(第一回)の結果により真正に成立したと認められる甲第八号証、証
人D、同Iの各証言、原告本人尋問(第一、二回)の結果(但し、甲第八号証、原
告本人の供述のうち後記措信しない部分を除く。)及び当事者間に争いのない事実
を総合すると次の事実が認められる。
1 原告は、昭和三五年頃から、株式会社山田商店経営する造花製造工場の責任者
として働いていたが、同三七年、独立して、群馬県甘楽郡<地名略>において造花
(冠婚葬祭用・記章用)製造業を自営するようになり、昭和四四年肩書住所地の土
地約一一五坪を約二〇〇万円で購入した・うえ、翌四五年三月頃同地上に店舗兼居
宅を約三六〇万円で建築所有し、同四六年には別に作業場を建築した。また、原告
は、右独立以来昭和四三年までは所得額零として確定申告をなし、同四四年ないし
同四六年分については、いずれも、別表(一)のとおりに所得金額欄のみを記載し
収入欄及び経費欄を記入しないで、納付すべき所得税額零として確定申告をなした
(右記載態様の点は当事者間に争いがない。)。
2 昭和四六年七月から同四八年七月まで富岡税務署直税部門統括国税調査官とし
て在職していたDは、原告の右土地・建物取得の事実と、昭和四四年ないし同四六
年分の確定申告書の記載の体裁・内容から、同四七年六月頃、原告の所得税につい
て調査の必要があると判断し、所得税法二三四条所定の質問検査をなすべく、同月
二〇日午後一時半頃、富岡税務署E係官とともに原告方を訪れ、原告の求めに応に
て身分証明書と検査証を一旦原告に交付して提示し、「昭和四六年分の所得税調査
事務で来訪したこと、場合によつては同四五年分・同四四年分の調査にも及ぶ」旨
を告げたが、原告が多忙を理由として調査に応じなかつたため、原告方を辞去し
た。
その後、D調査官は、同月二六日E係官とともに、同月三〇日にも同税務署J係官
とともに、再び調査のため原告方に赴いて、原告に調査に応ずるよう求めたが、両
日とも、原告は多忙を理由として調査に応じなかつた(右各日に被告所部係官が調
査のため原告方を訪れたことは当事者間に争いがない。)。
3 翌七月一〇日に、原告から「同月一七日午後二時に都合がよいから調査に来て
ほしい」旨電話連絡を受けたD調査官は、右指定された日時に原告方に赴いたとこ
ろ、原告方店舗には富岡民商会員ら約十数名が在室し、机上には四台のテープレコ
ーダーが用意されていた(以上のうち在室者数を除く事実は当事者間に争いがな
い。)。そこで、D調査官は、「昭和四五年に店舗を新築したことからみて申告所
得が少ないと思われるので昭和四六年分の所得税調査に来訪した、場合によつては
昭和四五年分、四四年分にも調査が及ぶ」旨を告げて、帳簿書類の提出を求め、ま
たテープレコーダーを使用しないことや立会人らの退去を求めたが、原告は、「申
告が済んだので帳簿書類は処分した」旨答えてD調査官の右の各要求を拒否し、税
務署の調査結果と申告内容の具体的相違点を問い、また調査対象取引を具体的に特
定するよう求めたりして、質問に応ぜず、さらには質問検査権に関する判例につい
て見解を求めたりしたため、D調査官らは、調査を断念して原告方を退去した。
4 一方、被告所部係官は、同年六月二一日、原告がかねてから、製品等の運送を
依頼していた上信トラツクに赴き、原告の製品販売先を調べ、その後、被告は右各
取引先を所轄する各税務署に依頼して取引先の反面調査を行い、同年一二月頃関東
信越国税局に依頼して同業者を抽出したうえ、推計課税によつて、本件更正等をな
した。
以上の事実が認められ、右認定に反する甲第八号証の記載部分及び原告本人(第一
回)の供述は、証人Dの証言に照らし措信できず、他に右認定を左右するに足りる
証拠はない。
三 1次に請求原因2(一)の違法があるか否かについて判断する。
本件更正等による認定所得額及び税額が裁決により別表(一)のとおり減額された
ことは前記認定のとおりであり、成立に争いのない甲第一号証、第一三号証の一、
原告本人尋問(第一回)の結果によれば、原告は昭和四五年三月富岡民商に加入
し、同四六年五月以来副会長に在職していたこと、昭和四七年秋頃、富岡市付近の
農民が税金対策農民組合を結成し、所得標準による課税に対する反対運動を行い、
富岡民商がこれと共闘したこと、本件更正等に対する異議申立てに際し、原告は徴
収猶予の申立てをなしたが、被告が猶予しなかつたことが認められる。しかし、国
内居住者は、法定の課税最低限を超える所得があつた場合は、法令の定めるところ
に従つて所得税を納付する義務が生ずるのであつて、課税処分が原告主張の意図に
よるものであるというようないわゆる他事考慮に基づくか否かは、処分の対象とな
る課税標準や税額を左右するものではないから、課税処分の適法性とは関係がない
というべきである。のみならず、前記二認定の各事実に照らすと、右認定の事実を
もつてしては、本件更正等が原告主張の意図によるものであることは推認できず、
他にこれを認めるに足りる証拠はない。
してみると、請求原因2(一)の違法事由の主張は理由がない。
2 次に請求原因2(二)の主張について判断する。
原告の本件係争各年度の所得税についての調査の経緯は前記二のとおりであり、前
掲甲第八号証、証人Dの証言によれば、D調査官らは、昭和四七年六月二〇日、同
月二六日、同月三〇日に事前通知なく原告方に調査に赴いたことが認められる。し
かし、取引先に対する調査態様及び刑事弾圧目的を随伴した調査であつた旨の原告
の主張に沿う原告本人(第一回)の供述は、伝聞若しくは推測にすぎず、前記二の
事実に照らして措信できず、他に右主張を認めるに足りる証拠はない。
ところで、所得税について更正をなすにあたつては、申告の体裁等具体的な事情か
ら申告の適否を審査すべき客観的必要がある場合には、所得税法二三四条一項各号
規定の者に対し質問検査をなすことができ、右質問検査の範囲・程度・時期・場所
等実定法上特段の定めのない実施の細目については、質問検査の必要と相手方の私
的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまるかぎり、税務職員の合理
的な選択に委ねられていると解すべきであり(最高裁判所第三小法廷昭和四八年七
月一〇日判決、刑集二七巻七号一二一一ページ)、また質問検査権の行使について
は、濫用にわたらない限り、実施の日時場所の事前の通知、調査の理由及び必要性
の個別的告知を要しないというべきである。してみると、被告所部係官らの調査は
右必要性に基づいて相当な方法で実施されたものというべく、調査期日の事前告知
や、調査理由及び必要性の具体的告知を必要とした事情は窺われないから違法とは
いえない。
従つて、請求原因2(二)の主張は理由がない。
3 次に請求原因2(三)の主張について判断する。
所得税法、法人税法において、青色申告に対する更正通知書には更正の理由を付記
しなければならない旨規定し(所得税法一五五条三項、法人税法一三〇条二項)、
いわゆる白色申告に対する更正については右の様な規定をしていないが、それは青
色申告書提出者については、帳簿書類の備付・記録・保存が義務づけられ(所得税
法一四八条一項、法人税法一二六条一項)、その正確性を担保する規定(所得税法
一四五条・一四八条二項・一五〇条・法人税法一二三条・一二六条二項・一二七
条))が設けられ、その帳簿書類に基づく実額調査によらないで更正されることが
ないよう保障している(所得税法一五五条一項、法人税法一三〇条一項)こととの
関係からであり、右の様な帳簿書類に関する法律の規定がない白色申告者に対する
更正については更正通知書に理由付記を要する旨の規定を類推適用すべき根拠はな
い。従つて請求原因2(三)の主張は失当である。
四 次に推計課税の必要性について判断する。
原告本人尋問(第一、二回)の結果によれば、原告は、前記二の調査当時、既に本
件係争各年分の帳簿書類を保持しておらず、その原始書類も昭和四六年・同四五年
分の一部のみしか保存していなかつたことが認められる。原告は、昭和四六年分、
同四五年分の事業収支につき、売上金額、外注工賃、原材料費等の諸経費各項目に
ついて集計した金額を記載した小型ノート(甲第一六号証の一ないし一七)、昭和
四六年七月から一二月の各月につき外注工賃の支払状況を記載した大学ノート(甲
第一七号証の一ないし一五)を提出し、原告本人尋問(第二回)中で、右小型ノー
トは、外注工賃については右大学ノート及び紛失した昭和四六年一ないし六月分の
外注工賃を記載したノートに基づき、売上金額は請求書・納品書・店頭売上げを記
載したメモ、支払利息については手形の耳、その他の経費については各経費毎に請
求書及びその毎月の合計金額を記載した封筒を資料として集計記載したこと及び右
売上金の請求書・納品書・メモ・手形の耳は紛失した旨供述するが、右小型ノート
等の紛失の時期・原因についての供述は曖昧なうえ首尾一貫しないから、甲第一六
号証の一ないし一七の小型ノートの作成過程についての原告本人の供述は措信でき
ず、従つて右小型ノートに記載された内容の正確性を信用することはできない。以
上の諸事情及び前記ニ1の確定申告書の体裁によれば、原告は本件係争各年につい
て帳簿を作成しておらず、申告当時においても取引全てについて調査しうるだけの
原始書類も保持していなかつたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠は
ない。
右のとおり、原告は帳簿書類を備え付けておらず、また収支の状況を明らかにしう
る資料を保持していなかつたのであるから、原告の所得金額を実額で把握すること
は不可能であつたというべく、被告が原告の本件係争各年の所得金額を推計の方法
により算定したことに違法はない。原告は、被告所部係官の調査に協力しなかつた
のは、係官が調査の必要性合理性を具体的に説明せず、調査の対象・範囲を明示し
なかつたからである旨主張するが、調査の必要性・合理性の具体的説明・調査対象
の特定は質問検査の法律上一律の要件とされるものではなく、前記二の経緯におい
ては、右の説明・特定をなすべき事情は認められないというべきであるから、原告
の右主張は失当である。
五 次に事業所得金額の算出(推計の合理性)について判断する。
1 原告の本件係争各年の所得が冠婚葬祭用の造花製造による事業所得であること
は当事者間に争いがなく、昭和四五年四月から肩書住所地で花輪の店頭販売をして
いたことは原告の自認するところであり、後記3(二)の事実及び弁論の全趣旨に
より真正に成立したと認められる甲第一八七、第一八八号証、第一九〇ないし第一
九二号証、乙第四四号証によれば、原告は、昭和四四年当時から花輪の製造小売
を、さらに遅くとも昭和四五年一〇月からは仏具・葬祭具の小売をしていたことが
認められ、右認定に反する原告本人(第一回)の供述は前掲各証拠に照らし措信で
きない。以上によれば、原告の本件事業所得には、右花輪の小売、仏具(遅くとも
昭和四五年から)等の小売による事業所得も含まれていたと認められる。
2 原告は、課税処分取消訴訟においては、課税処分後に収集した資料に基づいて
主張立証したり、課税標準の根拠を主張することは許されない旨主張するが、課税
処分取消訴訟において所得金額を争う場合の審理の対象は、客観的に存在した課税
標準・正当な税額等の存否であると解すべきであるから、これらを理由あらしめる
主張は攻撃防禦方法にすぎず、時機に遅れたものとして排斥されない限り、口頭弁
論終結時まで提出することができ、また右主張を根拠づける証拠方法も課税処分当
時の資料に限定すべき理由はないというべきである。従つて原告の右主張は失当で
ある。
3 売上金額
(一) 証人Dの証言により真正に成立したと認められる乙第八号証の一、二、第
九号証、第一〇号証の一、第一一ないし第一八号証、第二〇号証の一、第三五号
証、同証言により原本の存在と真正な成立が認められる乙第三一号証、証人Kの証
言により真正に成立したと認められる乙第一〇号証の二、第一九号証の一、二、第
二〇号証の二、第二一ないし第二六号証、第三四号証、証人Kの証言によれば、別
表(三)のとおり、各取引先に対する売上げがあつたことが認められ、右認定を覆
すに足りる証拠はない。
(二) 本件係争各年について、別表(四)のとおり振込入金・小切手取立金入金
があつたことは当事者間に争いがない。別表(四)のうち昭和四四年分のHを入金
先とする分については、前掲乙第三四号証によれば、昭和四三年一二月三〇日に原
告が預け入れた小切手の取立によるものと認められるので、右入金については昭和
四四年分の売買による代金支払と認めることはできない。
しかし、その他の別表(四)掲記の各入金は、反証のないかぎり、同表掲記の各相
手先に対する花輪等の売却代金であると認めるのが相当である。原告は、昭和四六
年の相手先岸屋F、老舗浦和、旭通り商栄会の入金は、左口商店の支払として交付
された小切手によるものと主張し、原告本人尋問(第一回)の結果中には右主張に
沿う供述があるが、前掲乙第一五号証により認められる支払日・支払金額は前掲乙
第三四号証により認められる取立依頼日入金額に符合せず、右の事情に照らすと原
告本人の右供述は不自然であつて措信せず、他に原告の主張を認めるに足りる証拠
はない。また別表(四)の他の入金について、別表(三)掲記の取引先の回し小切
手による支払である旨の原告の主張に沿う原告本人(第一回)の供述は曖昧であ
り、前掲乙第三四号証に照らして措信できず、他に別表(四)の入金が同表掲記の
相手先以外の者からの支払であることを認めるに足りる証拠はないから、別表
(四)掲記の入金は各年の売上げと認められる。
(三) (1)前記五1の原告の事業の状況、前掲乙第三一号証、証人Dの証言に
より原本の存在及び真正な成立が認められる乙第三二号証、証人Kの証言により原
本の存在及び真正な成立が認められる乙第三三号証によれば、原告は、本件係争各
年について花輪等の小売による現金売上げがあり、「西群馬組」の原告名義普通預
金口座・当座預金口座、A名義口座は、原告の事業上の入金・資金預金に利用され
ていたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
そして、別表(五)1欄・III欄のとおり、原告名義口座・A名義口座に現金預
金がなされたことは当事者間に争いがなく、前掲乙第二四号証、第三一ないし第三
三号証、第三五号証、証人Kの証言により真正に成立したと認められる乙第三六号
証の一、二、証人Kの証言によれば、別表(五)I欄記載の各預金は、原告が事業
用に利用していた原告名義及びA名義口座に、昭和四六年中になされた現金預金の
うち、他口座からの払戻し、別表(三)掲記の取引先からの現金入金等預金資金源
が推定しうる分を除いたもの、即ち資金源が特定できないと判断された現金預金を
選別したものであることが認められ、以上の事実によれば、別表(五)I欄の各預
金は、他に資金源が認められない限り、取引先の特定できない現金売上げによるも
のと推認すべきところ、原告は、右資金源について、同業II欄のとおり主張する
ので、以下右原告の主張について検討する。(以下、この項においては、昭和四六
年を略し月日のみを記載する。)
(イ) 原告名義口座一〇月九日付預金三万円
前掲乙第一七号証、第三六号証の二によれば、一〇月八日小林陽二商店から四万九
〇六〇円が現金で支払われたが、関東信越国税局係官の検討段階で右入金日は一〇
月一八日と誤つて移記されたため、被告は右入金を同月一八日付原告名義口座の六
四三〇円の預金資金源として判断し、他に預金資金源として取り扱つていないこと
が認められる。右認定の事実及び入金と預金の日時・金額を対比すれば、右一〇月
九日付預金は、原告主張のとおりの資金源によると認めるのが相当である。
(ロ) A名義口座三月三一日付預金二万円
前掲乙第三一号証、第三三号証、第三五号証、第三六号証の一、二によれば、三月
三一日大生相互銀行の口座から二三万円が払戻され、同日原告名義口座に二〇万円
が預金されたこと、被告は、右払戻された金員について右預金の外には使途を判断
していないことが認められ、右認定の事実及び払戻し金額・日時と右(ロ)の預金
の金額・日時の一致度からみて、右(ロ)の預金は右大生相互銀行払戻し金を資金
源と認めるのが相当である。
(ハ) 原告名義口座六月四日付預金二〇万円
前掲乙第一五号証、第三六号証の一、二によれば、六月二日頃左口商店から一八万
二八七〇円が現金で支払われたこと、被告は右支払金について他の預金資金源とし
て扱つていないことが認められ、右支払が六月二日当日に支払われた的確な証拠は
なく、また他に費消されたこことを認めるに足りる証拠もないから、以上の諸事情
に鑑みれば、右六月四日付預金のうち一八万二八七〇円については原告主張の資金
源によると認めるのが相当である。
(ニ) 一方、前掲乙第一五号証、第二一号証、第三五号証によれば、別表(五)
I欄の原告名義口座四月三日付、同月一七日付、一〇月一日付、一二月二日付各預
金、A名義口座三月六日付預金に対応する原告の主張(同表II欄)のとおりの各
現金取得事由があつたことが認められるが、右各資金については、預金の日時・金
額との符合性からみて、II欄の各資金源に対応する同表III欄の被告が予備的
に主張する各預金を使途と認めるのが相当であり、従つて、I欄の前記各預金は現
金売上げを資金源とすると認めるのが相当であり、右認定に反する甲第九号証、第
一一号証の記載、原告本人(第一回)の供述は右の事情に照らして措信できない。
(ホ) 原告名義口座一二月三〇日付預金一三万七〇〇〇円
大生相互銀行口座からの払戻し金六万三〇〇〇円は被告自身控除して主張ヒてお
り、また前掲乙第二一号証、第三六号証の一、二によれば、一二月二九日博愛社か
ら五万五九〇二円が現金で支払われたこと、被告は右支払金額について他の預金資
金源としては扱つていないことが認められるが、前掲乙第三一ないし第三三号証、
第三五号証、第三六号証の一、二によれば、原告の一二月分工賃支払は一二月末に
なされ、右工賃支払用を含めた年末の諸経費として、昭和四三年は一二月二五日か
ら三〇日までの間に七七万五〇〇〇円が、同四四年一二月二六日から三〇日までの
間に八〇万円が、同四五年一二月二六日から三〇日までの間に一六万三四〇〇円
が、原告名義口座から払戻されているが、同四六年は一二月二三日から三一日まで
の間に五九万三五〇〇円が払戻されたにすぎず、他口座からも年末に払戻しはなさ
れておらず(前記預金に充当した六万三〇〇〇円を除く。)別表(三)掲記の取引
先からは、一二月二〇日に左口商店から七万五五九八円の現金支払があつた(うち
三万円が預金されている)外には現金人金はなかつたことが認められ、右諸事情に
照らすと、右の博愛社からの入金や外注工賃支払残金が一二月三〇日付預金の資金
源である旨の甲第九号証の記載、原告本人(第一回)の供述部分は措信できず、他
に右原告の主張を認めるに足りる証拠はないから、前記一二月三〇日付預金一三万
七〇〇〇円は、現金売上げを資金源と推認するのが相当である。
(ヘ) A名義口座二月二三日付預金一一万円、三月二二日付預金四万円につい
て、原告は立石商店の支払を資金源と主張し、甲第一一号証、原告本人尋問(第一
回)の結果中には右に沿う部分があるが、前掲乙第二〇号証の一、二、第三六号証
の一、二によれば、立石商店は二月下旬に二二万六九七二円を、三月二四日に六万
二九七七円を支払い、被告は右各入金を他の預金の資金源として扱つていることが
認められ、右認定の入金の金額及び月日は原告の主張と異つているから、原告の主
張に沿う前掲証拠は措信できず、右各預金については、他に資金源を認める証拠は
ない。
(ト) 原告は、原告名義口座六月二日付預金六万円、六月四日付預金二〇万円、
及びいも名義口座五月八日付預金三万円の資金源として外注工賃支払の残金である
旨主張し、甲第九号証、第一一号証、原告本人尋問(第一回)結果中には右に沿う
部分があるが、前掲乙第三一号証、原告本人尋問(第一回)の結果によれば、原告
は外注(内職)先に対する工賃は、毎月末に各別に支払額を集計したうえ、翌月初
めに集計に基づく金額を預金から払戻したうえ、概ね一日から五日までの間に支払
つていたことが認められ、右認定の事実に照らすと、前記原告の主張に沿う前掲各
証拠は措信できない。またA名義口座一月五日付預金七万五〇〇〇円についての原
告の主張に沿う甲第一一号証、原告本人尋問(第一回)中の供述部分は、曖昧であ
るうえ、前掲乙賽三一号証によれば、昭和四四年、同四五年、同四七年には、年頭
に格別の預金がなされていないことが認められることに照して措信できない。
そして、右(イ)(ロ)(ハ)を除く別表(五)I欄掲記の各預金については、他
に資金源を認めるべき証拠はないから、右各預金は、取引先の特定できない現金売
上げによるものと認めるべきである。
以上によれば、原告の昭和四六年分の預金から推計される現金売上合計額は、一五
九万四六三〇円である。
(2) 前記3(一)における別表(三)の取引先のうち現金払によるところは左
口商店、立石商店、小林陽二商店、博愛社であるところ、前掲乙第一五号証によれ
ば、左口商店は、昭和四四年、同四五年にも原告と取引があつたが、資料が残存し
ないため、その売上金額を調査できないことが認められ、また前掲乙第二〇号証の
一、第三五号証によれば、立石商店の昭和四四年分の帳簿は保管場所不明との理由
で調査できず、大生相互銀行高崎支店原告名義口座に振込入金された分のみを昭和
四四年分の同社への売上げとして右別表(三)で計上したことが認められる。ま
た、五1記載のごとく原告は花輪用の造花を問屋に販売するばかりでなく、昭和四
四年から既に花輪等を継続性のない取引先に小売販売していたのであり、以上の事
実によれば、被告の主張のように、昭和四六年分の売上げのうち、現金によるもの
の、現金によらないものの割合を算出し、右割合によつて、昭和四四年分、同四五
年分の現金売上げを算出したことは、合理性があるというべきである。
原告は、右店舗開店以前と以後とでは店頭売上げ割合に差異があること、昭和四六
年六月から仏具の店頭売を始めたため現金売上げ額が増加したから、昭和四六年分
の現金売上げ割合と、昭和四五年分、同四四年分のそれとを同にとすることは合理
性がない旨主張する。しかし、右五1のとおり、原告は昭和四五年一〇月当時既に
仏具・葬祭具の販売をしていたこと及び前記3(二)の事実によれば、問屋以外の
取引先に対する単発的な花輪の販売額は昭和四六年、同四五年、同四四年と遡るに
つれて多くなつており、昭和四四年当時花輪の単発的販売が相当数なされていたこ
とが推認されること、右各事実並びに原告名義及びA名義の各預金口座(乙第三一
号証、第三三号証)の預金状況に照らせば、右原告の主張に沿う原告本人の供述は
必ずしも措信できず、また前記の売上げ推計方法を不合理ならしめるものではな
い。また、右算出方法によつて得られる売上額には、単発的な現金売上げ以外に、
前記3(一)の取引先に対する現金売上げのうち資料が残存しえないため把握でき
ない売上げも含まれていること前記のとおりであるから、昭和四四年、同四五年、
同四六年と次第に店頭売上げが減少したということにならないことは明らかであ
る。
(3) そこで、右の算出方法によつて、昭和四五年分、同四四年分の現金売上げ
を推計する。昭和四六年分の、別表(三)の取引先に対する現金売上げ合計は三五
〇万一一八〇円であり、非現金売上げは一六三一万四〇一二円であるから、同年分
の現金売上げの、それ以外の売上げに対する割合は次式のとおりとなる。
3、501、180(別表(三)の現金売上金額)+1、594、630(前記
(2)の売上金額)/16、314、012(別表(三)の現金以外の売上金額)
+210、880(前記3(二)の売上金額)=5、095、810/16、52
4、892=0.3084
右の割合によつて推計される昭和四五年分、同四四年分の推計による現金売上金額
は次式のとおりとなる。
昭和45年分={14、249、974(別表(三)の現金以外の売上)+31
2、690(前記3(二)の売上)}×0.3084-2、046、620(別表
(三)の現金売上)=2、444、505円
昭和44年分={10、819、620(別表(三)の現金以外の売上)+61
5、190(前記3(二)の売上)}×0.3084-1、166、522(別表
(三)の現金売上)=2、359、937円
(四) 右3の(一)ないし(三)によれば、本件係争各年の売上金額の合計は次
のとおりとなる。
昭和四六年分   二一六二万〇七〇二円
昭和四五年分   一九〇五万三七八九円
昭和四四年分   一四九六万一三〇五円
4 同業者率
前掲乙第八号証の一、二、第一〇ないし第一四号証、第一六ないし第一八号証、第
二〇号証の一、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第三〇号証、原
告本人尋問(第一回)の結果によれば、原告は、本件係争各年度当時、プレス機・
裁断機の設備を有し、かつ組立には内職の外注先を使用して、冠婚葬祭用花輪の部
品となる造花や記章用造花等の製造業を営み、妻、昭和二六年生れの長女、同二八
年生れで定時制高校に在学していた長男の三人が右営業に従事ヒていたこと、原告
の製品販売先は主として東京下町地区の問屋であり、製品単価は、数百円に及ぶも
のや一〇円以下のものもあつたが概ね一二円から六五円程度であつたことが認めら
れ、右認定を動かすに足りる証拠はない。
そして、証人Dの証言により真正に成立したと認められる乙第二七号証、証人Iの
証言により真正に成立したと認められる乙第二八号証、第二九号証、弁論の全趣旨
により真正に成立したと認められる乙第四一号証、証人D、同Iの各証言によれ
ば、被告は、本件更正等をなすにあたつて、富岡税務署管内、近接する高崎税務
署・前橋税務署・館林税務署管内で、原告の業態と類似する造花製造業者であつ
て、個人の青色申告者を調査したが該当者がなかつたため、関東信越国税局に、東
京下町地区の造花製造業者で、(1)個人の青色申告者であること、(2)売上高
が年間六〇〇万円以上であること、(3)冠婚葬祭用の造花の部品を製造している
こと、(4)製品の単価が一二円から六五円程度であること、(5)裁断機及びプ
レス機械があること、以上の五条件に該当する者の調査を依頼にたこと、関東信越
国税局係官は、東京造花工業組合の組合員のなかから、組合員数の多い葛飾・足
立・西新井・荒川・本所・向島各税務署管内の組合員であつて、右(1)、(2)
の条件に該当する業者を抽出して被告に報告し、それらの業者のなかから、D調査
官らが実施調査して、右(3)ないし(5)の条件に該当する者を抽出したのが別
表(六)のABCDEに掲げる五名であること、右各業者の青色申告決算書と実地
調査の結果によれば、売上金額、所得金額、給与支給総額、給与支給者数、借入金
利子、家族従業員数(事業専従者数)は別表(六)の各該当欄記載のとおりである
ことが認められ、右各同業者の家族従業員数を三名として給与支給額を加減して所
得金額を調整し、借入金利子を除く諸経費を経費とした場合の平均所得率が別表
(六)のとおり、昭和四六年分二〇・三八パーセント、同四五年分一八・六五パー
セント、同四四年分二〇・〇〇パーセントとなることは計数上明らかである。
右認定の事実によると、右平均所得率算出の基礎となつた者は、東京下町地区に事
業所を有する造花製造業を営む個人事業者で、営業規模、主たる販売先、製品単
価、業態が原告のそれとほぼ類似する者であつて、抽出には恣意の介在する余地は
ないから抽出基準には合理性があり、抽出数も営業条件の個別性を平均化するに足
りるものといえる。そして前記同業者の借入金利子支払額(別表(六)該当欄のと
おり)と後記6の事実を対比すると、原告は右同業者に比して相当多額の借入金利
子を負担しており、造花製造業は家内工業的色彩が濃く家族従業員の差異が所得率
に大きく影響するといえるから、家族従業員数に応じて給与支給額を調整し、借入
金利子を除いた各経費として算出した右同業者の平均所得率をもつて原告の所得を
推計することは合理性があるというべきであり、右同業者間の別表(六)のとおり
の所得率の差異は合理性を左右する程のものとはいえない。
ところで、原告本人尋問(第一回)の結果によれば、原告の製品販売先、原材料仕
入れ先は主として東京都内の業者であることが認められ、東京都内に事業所を有す
る右各同業者に比して販売・仕入れに伴う運賃・交通費を多く負担することが推認
できるけれども、原告主張の昭和四六年分の運賃支払額・交通費合計四一万六六三
〇円が、右同業者率を適用した結果得られる経費額に占める割合は小さく、成立に
争いのない乙第一ないし第三号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められ
る乙第四二号証、第四三号証、証人Lの証言、原告本人尋問(第一回)の結果によ
れば、原告の経費中大きな割合を占める外注工賃が、東京に比較して群馬県内では
相当程度(一割以上)低額であつて、運賃・交通費等の負担を相殺するに足るもの
であることに照らすと、前記のように、原告住所地近隣に所得率算出の基準とすべ
き適当な同業者が存在しない本件においては、右のごとき運賃・交通費の負担は、
前記所得率の合理性を左右するものではないというべきである。
また、原告本人尋問(第一、二回)の結果中には、前記同業者と原告との間には、
製造品目、製造技術等の点において差異がある旨の供述があるが、前掲乙第四二、
第四三号証、証人Lの証言によれば、原告が行つている記章の製造・花輪の小売は
花輪用造花の製造卸よりも利益率が高いことが認められるうえ、そもそも同業者間
に通常存在すると考えられる営業条件の差異は、平均所得率を採用する過程で考慮
されているというべきであるから、平均所得率の合理性を左右するものではなく、
他に原告と右同業者間に通常存在する以上の特段の差異があることを認めるに足り
る証拠はない。
5 右3、4によれば、原告の算出所得金額は、昭和四六年分については、四四〇
万六二九九円、同四五年分については三五五万三五三一円、同四四年分については
二九九万二二五八円となる(円未満切捨)。
6 特別経費
原告が別表(七)のとおり借入金利子を支払つたことは当事者間に争いがない。そ
して成立に争いのない乙第四〇号証、原告本人尋問(第一、二回)の結果によれ
ば、原告は、「西群馬組」に対し、昭和四六年は七四万九三五九円、同四五年は七
九万一二三七円、同四四年は六二万九〇六四円の借入金利子・保証料を支払つた
が、このうちには前記二1の肩書住所地の土地購入のための借入金に対する利子支
払額が含まれ、別表(七)の金額は右土地購入のための借入金利子支払額のうち三
〇パーセントを除外した金額であると認められ、右認定に反する証拠はないとこ
ろ、右事実によれば、被告の主張三2(四)の金額を原告の事業用経費と認めるの
が相当である。
原告は、右認定額以上の借入金利子を支払つた旨を主張するが、これを認めるに足
りる証拠はない。
7 事業専従者控除
本件係争各各年度について、所得税法五七条三項規定の事業専従者控除を適用すべ
き者が、原告の長女B、長男Cであり、昭和四六年分が各自一六万五〇〇〇円、同
四五年分、同四四年分が各自一五万円であることは当事者間に争いがない。
8 してみると、原告の事業所得は、昭和四四年二〇〇万六三七三円、同四五年二
三五万四一四五円、同四六年三一九万一六五三円と算定すべきであるから、本件更
正等の、裁決で取り消されていない残余部分のうち、各年につき右所得金額を超え
る所得金額に係る部分は違法であり、取り消されるべきである。
六 以上によれば、原告の本訴請求は上記説示の限度で理由があるから右の範囲で
正当としてこれを認容し、その余を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担
につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九二条を適用して主文のとおり判
決する。
(裁判官 渡辺 惺 島田周平 藤村眞知子)

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