弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     控訴費用は控訴人の負担とする。
     本判決は被控訴人において金三万円の担保を供するときは仮にこれを執
行することができる。
         事    実
 控訴代理人は、「原判決中控訴人敗訴の部分を取消す。被控訴人の請求を棄却す
る。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴代
理人は、控訴棄却の判決並に仮執行の宣言を求めた。
 当事者双方の事実上の主張及び証拠の提出、援用、認否は、控訴代理人におい
て、本件物件が、かつて被控訴人主張の工場抵当権の目的物中に含まれていたこと
は認めるが、その後該物件については抵当権者において抵当権を抛棄し、抵当物件
から除外されていたものである。仮にそうでないとしても、控訴人において善意無
過失でこれを買受けたのであるから、民法第百九十二条により、即時その所有権を
取得したものである旨述べ、当審証人A、Bの各証言並に当審における控訴本人訊
問の結果を援用し、被控訴代理人において、当審証人C、Dの各証言並に当審にお
ける被控訴本人訊問の結果を援用した外、原判決当該摘示と同一であるから、これ
を引用する。
         理    由
 訴外株会式社E製作所が昭和二十四年八月二十九日訴外Cのため、原判決添付
「物件の表示」記載の工場に属する建物と該建物に備附けた旋盤(六呎)一台及び
製罐ロール一台(以下単に本件物件という。)を含む機械、器具とに対し、工場抵
当法第三条による抵当権設定契約をなし、同月三十一日福岡法務局八女支局登記受
附第二四九一号をもつて、これが登記を了したこと及び控訴人が同年十二月中、本
件物件のうち旋盤一台を前記訴外会社から買受け、又製罐ロール一台を同訴外会社
から買受けた訴外Fから更に買受け、これらを使用占有していることは、いずれも
当事者間に争がない。そして、いずれも成立に争のない甲第一、二号証によれば、
抵当権者たる前記Cは該抵当権の目的物件に対し競売の申立をなし、同年十月二十
二日競売開始決定がなされ、競売の結果被控訴人において代金六十二万六千七百円
をもつて競落し、昭和二十五年三月二十四日競落許可決定あり代金完済の上その所
有権を取得し、同年六月十二日これが登記を経たことを認めるに十分である。
 ところで控訴人は、本件物件については前記訴外会社の代表取締役Bにおいて、
抵当権者たる訴外Cから抵当権の抛棄を受け、これが処分につきその同意を得て工
場に属する建物と分離した物件であるから、これにより抵当権は消滅している旨抗
弁するので考えてみるに、原審並に当審証人B、当審証人Aの各証言及び当審にお
ける控訴本人訊問の結果中、右抗弁事実に副う部分は、たやすく措信し難く、他に
これを首肯するに足る証拠は存しない。却つて原審並に当審証人D、Cの各証言に
徴するときは、前記Cにおいて本件物件に対する抵当権を抛棄乃至本件物件を抵当
権の目的たる工場に属する建物と分離して処分するにつき同意を与えた事実はない
ことが窺えるので、控訴人の右抗弁は採用することができない。
 <要旨>次に、控訴人の即時取得の抗弁について考察するに工場抵当の目的たる建
物に備附の動産は、所有者が建物から分離してこれを第三取得者に引渡した
後と錐も、抵当権者は、その同意なくして分離されたものであるときは、その物に
抵当権を行うことができることは工場抵当法第五条第一項の規定するところである
けれども、同条第二項はかかる動産について民法第百九十二条の適用を妨げないと
規定している。ところで工場抵当の目的たる建物の備附物の所有者は、抵当権者の
同意なくして備附物の分離をなすことを得ないけれども、その分離した物に対して
は依然所有者であり処分権を有しているのであるから、かかる所有者から備附物の
引渡を受けた第三取得者は、処分権のないものから権利を取得したのではなく、抵
当権者の同意なくして分離されたものを取得したものでつまり、抵当権の負担のつ
いた物を取得したこととなるのであるが、民法第百九十二条の要件を具備するとき
は抵当権は消滅し第三取得者は抵当権の負担のない動産上の権利を取得することと
なさねばならない。従つてこの場合同条の要件として具備することを要する善意無
過失は、処分者の無権利者であることについてではなく、いわゆる備附物が抵当権
者の同意なくして分離されたということ、すなわち抵当権の存することを知らず且
その知らざるについて過失のないこと別言すれば備附物の分離は抵当権者の同意を
得たものであると信じ、且その信ずるについて過失のないことを要するものと解す
べきである。
 さて、本件について見るに、当審における控訴本人訊問の結果の弁論の全趣旨を
綜合すれば、控訴人及び訴外Fは、本件物件がもともと本件工場抵当の目的たる建
物に備附のものであることは承知していたが、これを建物から分離して処分するに
ついては抵当権者の同意を得ている旨の所有者(抵当債務者)の言を信じて、つま
り善意にて所有者から買受けたことは、これを認めることができるけれども、右の
ように、控訴人等は本件物件がもともと工場抵当の目的たる建物に備附のものであ
ることは承知していたのであるから、所有者が本件物件を該建物より分離すること
すなわち備附物たることを廃止することは抵当権者の同意を得ていると信ずるにつ
いて過失がなかつたと言いうるがためには、単に所有者の前記のような一方的な言
明のみをもつては足らず、更に進んでその事実の有無を確めるため抵当権者に問合
せるとか或は所有者にこれを証するに足る書面の提示を求めるなどの方法をとるこ
とを要するものと解すべきところ、控訴人及びFにおいてかかる事実の有無を確め
る手段をとつたことについてはこれを認め得べき何等の証拠も存しないので、同人
等が本件物件の分離すなわち備附物たることの廃止は抵当権者の同意を得ていると
信ずるについて過失がなかつたとはいえないから、控訴人の右抗弁も亦理由がな
い。
 そうだとすれば、前記抵当権の効力は本件物件に及ぶこと勿論であつて、控訴人
は競落により本件物件の所有権を取得した被控訴人に対し、これが引渡を妨ぐべき
権利を有しないこと明であるから、その引渡を求める被控訴人の本訴請求は、これ
を認容すべきである。
 よつて右と同趣旨に出でた原判決は相当であつて本件控訴は理由がないから、こ
れを棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十五条、第八十九
条、仮執行の宣言につき同法第百九十六条を適用して、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 野田三夫 裁判官 川井立夫 裁判官 天野清治)

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