弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原決定および原裁判所が昭和四七年一〇月三〇日検察官に対し愛知県警
察機動隊司法警察員警部Aほか二名作成にかかる警備実施状況報告書三通を弁護人
に閲覧させることを命じた決定は、いずれもこれを取り消す。
         理    由
 本件抗告の趣意は、別紙添付のとおりである。
 所論は、判例違反をいうが、所論引用の当裁判所昭和四一年(あ)第四九一号同
年七月二一日第一小法廷判決は、逮捕手続に警察官による暴行陵虐の行為があつて
も当該公訴提起の手続を無効ならしめるものではないとするものであり、また、所
論引用の当裁判所昭和四三年(し)第一〇九号同四四年四月二五日第二小法廷決定
は、検察官申請証人の採用決定前に、同証人の反対尋問のため必要であるとの理由
で、その検察官に対する供述調書を弁護人に閲覧させることを命ずることは、被告
人の防禦のため特に重要であるということができないとしたものであるから、本件
のように、一般に警察官によつていわゆる過剰警備の実施があつた場合にはそれに
基づく捜査も公訴提起の効力に影響を及ぼすことがあるとの前提にたち、かつ、反
対尋問権の行使と関係なく、当該警察官作成にかかる警備実施状況報告書を弁護人
に閲覧させることを命じた措置に関するものとは、いずれも事案を異にし、本件に
適切でないから、右所論は適法な抗告理由にあたらない。
 所論にかんがみ職権をもつて調査すると、記録によれば、原裁判所が被告人Bほ
か二名に対する公務執行妨害等被告事件の審理中、検察官の起訴状朗読につづいて
弁護人の被告事件に対する陳述がされた際、弁護人から、本件において、愛知県警
察本部の命を受けた同県警察機動隊警察官Aらは、「沖縄入管国会爆砕名古屋総力
戦人民集会」を弾圧するため、現行犯逮捕に名をかりた令状無しの無差別逮捕、令
状無しの所持品検査等憲法の定めるデユープロセスの保障に反する違法かつ過剰の
警備実施をしたものであり、かかる違法捜査手続に基づく本件の各公訴提起は、刑
訴法三三八条四号に該当し無効であるから、被告人らに対する各公訴は棄却される
べきものである旨の陳述がされ、つづいて右違法捜査手続の立証を準備するため、
検察官に対し、右警察官三名の作成した各警備実施状況報告書等一件記録を弁護人
に閲覧させるよう命ぜられたい旨の申出があり、これにより原裁判所は、その訴訟
指揮権を行使して、検察官の冒頭陳述終了後の昭和四七年一〇月三〇日、公判廷外
において、右警察官三名の各警備実施状況報告書三通にかぎつてこれを弁護人に閲
覧させるべきことを命じ、さらに検察官のこれに対する異議をも棄却したことが明
らかである。
 しかしながら、記録によつてうかがわれる本件事案の性質、審理の状況等諸般の
事情のもとにおいては、検察官の冒頭陳述が終了したとはいえ、単に被告人側の被
告事件に対する意見陳述を聴いただけの段階で、しかも、本件のように警察当局の、
違法かつ過剰な警備実施による違法捜査手続を理由とする公訴権の濫用が問題であ
るとされている事案につき、検察官に対し、その手持ち証拠の閲覧を命じた原裁判
所の右措置は、いまだ、真実、被告人の防禦のため特に重要であるということがで
きず、結局、いわゆる証拠開示命令の趣旨にかんがみ、訴訟指揮権行使の適正かつ
公平な範囲を逸脱したものといわねばならない。それゆえ、検察官に対し、実体の
審理に先きだつて、弁護人に本件各証拠を閲覧させることを命じた昭和四七年一〇
月三〇日の原裁判所の決定およびこれを維持した原決定は、違法なものというべき
であり、これらを取り消さなければ著しく正義に反するものと認める。
 よつて、刑訴法四一一条を準用し、同法四三四条、四二六条二項により、裁判官
全員の一致の意見で主文のとおり決定する。
  昭和四八年四月一二日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    関   根   小   郷
            裁判官    天   野   武   一
            裁判官    坂   本   吉   勝
            裁判官    江 里 口   清   雄

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