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平成14年(行ケ)第413号 補正却下決定取消請求事件
口頭弁論終結の日 平成15年9月8日
            判    決
        原       告   エイディシーテクノロジー株式会社
        同訴訟代理人弁理士   足 立   勉
        同           松 尾 卓 哉
        同           石 原 啓 策
        被       告   特許庁長官 今井康夫
        同指定代理人      片 岡 栄 一
同           麻 野 耕 一
同           小 林 信 雄
同           高 橋 泰 史
        同           涌 井 幸 一
        同           大 橋 良 三
            主    文
1 特許庁が不服2001-23177号事件について平成14年7
月2日にした「平成13年12月26日付けの手続補正を却下する。」との補正の
却下の決定を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
            事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
 1 争いのない事実
(1) 特許庁における手続の経緯
  原告は、昭和63年6月6日出願の特願昭63-138679号(以下
「原出願」という。)の分割出願である特願平10-58567号を、以下のとお
り更に分割出願した(以下「本件分割出願」という。)ものについて、その特許を
受ける地位を承継したが、拒絶査定を受けたので、同査定を不服として審判請求を
したところ、特許庁が、原告の行った平成13年12月26日付け手続補正(以下
「本件補正」という)について、「平成13年12月26日付けの手続補正を却下
する。」との補正の却下の決定(以下「本件決定」という。)をしたものである。
出願日      平成12年5月9日
出願番号     特願2000-135905号
発明の名称    番組表示装置および番組表示方法
本件補正書提出日 平成13年12月26日
拒絶査定日    平成13年11月21日(起案日)
審判請求日    平成13年12月26日(不服2001-23177)
本件決定日    平成14年7月2日
決定謄本送達日  平成14年7月16日
(2)ア 本件分割出願当初の請求項1記載の発明(以下「本願発明1」とい
う。)の要旨
 【請求項1】テレビの放映内容を録画するビデオ録画装置に装着されて、そ
の録画を制御する録画予約制御装置において、少なくともテレビ放送の内容と放映
時間とを含む情報を予め記憶する記憶手段と、該記憶された情報をテレビ受像機に
出力し、該テレビ受像機に表形式で表示させる表示制御手段と、該表示された情報
から所望の放送内容を選択する選択手段と、該選択された情報に従って、その放映
時間をビデオ録画装置の録画予約手段に設定する録画設定手段とを備えたことを特
徴とする録画予約制御装置。
イ 本件補正後の請求項1及び3(以下、併せて「補正後各請求」とい
う。)記載の各発明(以下、併せて「補正後各発明」という。)の要旨
【請求項1】少なくともテレビ放送の各番組内容とその開始時刻とその終了
時刻とその放映チャンネルとを含む情報を外部から当該番組表示装置に取り込む入
力手段と、上記入力手段により取り込まれた上記情報から、当該番組表示装置の電
源を投入した日の各チャンネルのテレビの番組内容を取り出して、チャンネルの違
い毎に縦もしくは横の内の1方向に並べて画面に表示するチャンネル表示手段と、
当該番組表示装置の電源を投入した日の、上記入力手段により取り込まれた上記情
報中の同一チャンネルの番組内容を、その放送順に、上記1方向と垂直な方向に並
べ、且つ各番組内容の放送時間に応じた長さで上記画面に表示する放送順序表示手
段と、上記画面に表示された番組内容の中のある番組内容を、他の番組内容と識別
可能に表示する識別表示手段と、該識別表示手段により識別可能に表示させる番組
内容を、使用者の指示に応じて変更するものであって、該変更により別の番組内容
を識別可能に表示させる識別位置変更手段と、該識別位置変更手段を介して、識別
表示させる位置を上記画面外へ変更させる指示がされると、上記画面に表示させる
番組表の領域を更新する番組表更新手段と、上記識別表示手段にて識別可能に表示
された箇所に対応する番組内容を所望の番組として設定するための設定手段と、を
備えたことを特徴とする番組表示装置。
【請求項3】少なくともテレビ放送の各番組内容とその開始時刻とその終了
時刻とその放映チャンネルとを含む情報を外部から取り込み、該取り込まれた上記
情報から、電源を投入した日の各チャンネルのテレビの番組内容を取り出して、チ
ャンネルの違い毎に縦もしくは横の内の1方向に並べて画面に表示し、電源を投入
した日の、取り込まれた上記情報中の同一チャンネルの番組内容を、その放送順
に、上記1方向と垂直な方向に上記画面に並べ、且つ各番組内容の放送時間に応じ
た長さで表示し、上記画面に表示された番組内容の中のある番組内容を、他の番組
内容と識別可能に表示し、使用者の指示を受けると、該識別可能に表示させる番組
内容を変更することにより、別の番組内容を識別可能に表示し、該指示が、識別表
示させる位置を上記画面外へ変更させるものであると、上記画面に表示させる番組
表の領域を更新し、該指示が、所望の番組を設定するものであると、上記識別可能
に表示された箇所に対応する番組内容を所望の番組として設定することを特徴とす
る番組表示方法。
(3) 本件決定は、別添補正の却下の決定書写し記載のとおり、本件補正により
補正された、本件補正後の請求項1の「上記入力手段により取り込まれた上記情報
から、当該番組表示装置の電源を投入した日の各チャンネルのテレビの番組内容を
取り出して」及び「当該番組表示装置の電源を投入した日の、上記入力手段により
取り込まれた上記情報中の同一チャンネルの番組内容を、その放送順に、」、同請
求項3の「該取り込まれた上記情報から、当該番組表示装置の電源を投入した日の
各チャンネルのテレビの番組内容を取り出して」及び「当該番組表示装置の電源を
投入した日の、上記入力手段により取り込まれた上記情報中の同一チャンネルの番
組内容を、その放送順に、」という補正事項(以下「本件補正事項」という)が、
本件分割出願の願書に最初に添付した明細書及び図面(以下「当初明細書等」とい
う。)の要旨を変更するものと認められるので、本件補正は、特許法53条1項
(平成5年法26号による改正前のもの、以下同じ)の規定により却下すべきもの
とした。
  なお、上記の特許法53条1項の規定が審査に関するものであり、審判に
関しては、同条項が同法159条1項(平成5年法26号による改正前のもの)に
より準用されるものであることが本件決定に明記されていないことは、当事者間に
争いがない。
 2 原告主張の取消事由の要点
 本件決定は、当初明細書等の記載事項の認定を誤った結果、本件補正が要旨
変更に当たると誤って判断したものである(取消事由)から、違法として取り消さ
れるべきである。
(1) 本件決定が、補正後各発明について、「電源投入時を含む電源投入後の任
意の時間にその日の番組表を取り出して表示する構成」(甲1第2頁4ないし5
行)を有すると認定したことは、必ずしも正確とはいえないが争わない。
 しかし、本件決定が、「分割出願には、電源投入時にテレビ受像機5にそ
の日の番組表の一部が取り出して表示する記載はあるが、電源投入後の任意の時間
に番組を取り出して表示することができるという記載はない」(同3頁8ないし1
0行)と判断したことは誤りである。
(2) なぜなら、本件決定が認定した補正後各発明の上記構成は、当初明細書等
に記載された事項の範囲内のものといえるからである。
  すなわち、当初明細書等(甲3)の段落【0023】には、「まずVTR3に
録画予約カード1を装着し電源を投入すると、テレビ受像機5にその日の番組表の
一部が、第4図に示すように、表形式で表示される。」と記載されているが、その
前提として、少なくともテレビ受像機の電源を投入する必要があるのは当然のこと
である。そして、VTRに電源を投入後、テレビ受像機の電源を投入するに当た
り、ゆっくり投入することも、また、迅速に投入することも、利用者の自由である
から、番組表が表示されるのは、利用者が決めた任意の時間になる。つまり、電源
投入後の任意の時間に番組を取り出して表示し、番組予約を行うことができるので
ある。
 3 被告の反論の要点
  本件決定の認定・判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
(1) 当初明細書等には、録画予約のための番組表示が、電源を投入したとき、
すなわち、電源投入時又は電源投入直後になされることしか示されていなかったも
のが、補正後各請求では、「電源投入時を含む電源投入後の任意の時間にその日の
番組表を取り出して表示し、番組予約を行う」ことに変更されたので、本件補正は
要旨を変更すると判断したものである。
  この点に関し、当初明細書等の段落【0014】には、電源投入後の処理につ
いて、録画予約カード1がVTR3に装着されて電源が投入されると、第5図に示
すカード側処理ルーチンを開始し、カーソル位置の初期化等の処理(ステップ10
0)に続いてROM32から番組表を読み出し(ステップ110)、カーソル位置
に応じた領域の番組データ及びカーソル位置のデータをVTR3に出力する処理を
行う(ステップ120)ことが示されている。そして、上記段落【0014】の記載及
び第5、第6図に示される処理ルーチンには、電源が投入されてその日の番組表が
表示されるまでに、例えばその日の番組表を表示するためのキーを押す等の処理は
何ら記載されていないのであるから、電源が投入されると自動的に初期画面表示と
してその日の番組表が表示されるものである。また、再生や録画を行った後に録画
予約を希望するときに、例えばその日の番組表を表示するためのキーを押す等によ
りその日の番組表を表示することは何ら記載されていない。
  したがって、電源が投入された直後にその日の番組表を画面に表示する構
成は開示されているとしても、補正後各発明のような、電源投入時を含む電源投入
後から電源遮断までであればいつでも(任意の時間に)その日の番組表を画面に表
示することは示されていない。
  また、当初明細書等の段落【0023】にも、「まず、VTR3に録画予約カ
ード1を装着し電源を投入すると、テレビ受像機5にその日の番組表の一部が、第
4図に示すように、表形式で表示される。」と記載されており、電源が投入された
直後にその日の番組表を画面に表示する構成は開示されているとしても、それ以外
の期間でもその日の番組表を画面に表示する構成については何ら示されていない。
  さらに、当初明細書等には、録画予約のためのその日の番組表示は電源を
投入した直後になされる上記実施例しか示されておらず、これ以外の場合を含む、
電源投入時を含む電源投入後から電源遮断までであればいつでも(任意の時間に)
その日の番組表を画面に表示する実施例については何ら示されていない。
  したがって、本件補正事項は、当初明細書等の要旨を変更するものであ
る。
  (2) 本件分割出願の原出願は、平成10年10月16日に特許第283889
2号として設定登録されたところ、特許権者(原告に同じ。)は、平成12年4月
26日に上記特許の異議申立事件(以下「別件異議事件」という。)における審理
過程で訂正請求を行ったが、その訂正請求書(乙1)において、訂正事項a(特許
請求の範囲の請求項1の訂正)が、訂正前において、電源を投入した日の番組表を
表示させるための操作が漠然としていたのを「電源を投入すること」に限定するた
めに、特許請求の範囲を減縮するものであるとの主張をしている。このことから
も、番組表示及び予約動作は、電源を投入したとき、すなわち、電源投入時又は電
源投入直後に行うことが明らかである。
第3 当裁判所の判断
1 本件決定の判断誤り(取消事由)について
(1) 本件決定は、本件補正事項が、電源投入時を含む電源投入後の任意の時間
にその日の番組表を取り出して表示する構成であると認定する(このことは当事者
間に争いがない。)一方、当初明細書等には、電源投入時にその日の番組表の表示
及び録画予約を行うことの記載はあるものの、電源投入後の任意の時間にその日の
番組表を取り出すという記載はないし示唆もされていないと認定し、本件補正事項
が当初明細書等の要旨を変更するものであると判断したので、以下検討する。
(2) 当初明細書等(甲3)における請求項1には、前示のとおり、「テレビの
放映内容を録画するビデオ録画装置に装着されて、その録画を制御する録画予約制
御装置において、少なくともテレビ放送の内容と放映時間とを含む情報を予め記憶
する記憶手段と、該記憶された情報をテレビ受像機に出力し、該テレビ受像機に表
形式で表示させる表示制御手段と、該表示された情報から所望の放送内容を選択す
る選択手段と、該選択された情報に従って、その放映時間をビデオ録画装置の録画
予約手段に設定する録画設定手段とを備えたことを特徴とする録画予約制御装
置。」と記載されており、電源の投入と番組表示の時期との関連については、特に
開示されていないことが明らかである。また、当初明細書等の、「発明が解決しよ
うとする課題」、「課題を解決するための手段」、「発明の実施の形態」及び「発
明の効果」の各項目においても、電源の投入と番組表示の時期との関連についての
記載はなく、発明の効果において、「本発明の録画予約制御装置によれば、テレビ
受像機に表形式で表示される番組の内容を見ながら番組を選択するだけで録画予約
を行えるので、番組の録画予約を極めて簡略化することができるという優れた効果
を奏する。」と記載されるように、番組が録画予約のためテレビ受像機に表形式で
表示されることが、本願発明1の重要な特徴と認められるが、電源の投入と番組表
示の時期との関係は、当初明細書等において問題とされていないものと解するのが
相当である。
  他方、当初明細書等の段落【0008】から【0027】には、本願発明1の実施
例が記載されており、このうち、段落【0014】から【0022】には、録画予約時に録
画予約カード1及びVTR3の各CPU31、51が実行する処理について記載さ
れ、また、段落【0023】から【0026】には、使用者が行う録画予約の設定について
記載されている。これらの記載によれば、本願発明1の実施例では、電源投入を最
初の処理ステップとする、あるいは、使用者の行う一連の処理・操作において、電
源を投入した日の番組表を表示し、録画予約を行うことが開示され、電源が投入さ
れると自動的に初期画面表示としてその日の番組表が表示されるものと認められる
が、電源投入後の任意の時間経過後に番組表を表示させたり、予約を行うこと、例
えば、再生や録画を行った後の処理や操作については記載されていない。
  しかし、上記記載はあくまで本願発明1の実施例に関するものであり、当
初明細書等の段落【0028】に「以上本発明の実施例について説明したが、本発明は
こうした実施例に何等限定されるものではなく、・・・本発明の要旨を逸脱しない
範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。」と記載されるよう
に、前記の本願発明1の発明の要旨から逸脱したり、当初明細書等の他の記載に反
したりするものでない実施例としての事項は、当初明細書等の要旨に含まれるもの
と解するのが相当といえるから、電源の投入とテレビ受像機に表形式で番組を表示
する時期との時間的関係については、当初明細書等において限定がなされていない
ものと認められる。
 また、被告は、本件決定における補正後各発明の認定に関して、補正後各
請求の特許請求の範囲には、電源を投入した日のテレビの番組内容を取り出して表
示することは示されているが、電源投入後のどの時点でテレビの番組内容を取り出
して表示するかについては何ら規定されていないことを理由に、電源投入時を含む
電源投入後の任意の時間にその日の番組表を取り出して表示する構成であると主張
するものであるところ、そうであるとすれば、当初明細書等の特許請求の範囲にお
いても、電源の投入とテレビ受像機に表形式で番組を表示する時期との時間的関係
については、全く規定するところがないことが明らかであるから、同様の理由によ
り、電源投入時を含む電源投入後の任意の時間にその日の番組表を取り出して表示
する構成が開示されているものと認定すべきものといえる。
 なお、本件決定は、当初明細書等の段落【0014】や【0023】などの実施例
において、電源投入時にテレビ受像機に番組表の一部が表形式で表示されることの
記載があるが、電源投入後の任意の時間に番組を取り出して表示する旨の記載がな
いことを理由に、当初明細書等において、電源投入時を含む電源投入後の任意の時
間にその日の番組表を取り出して表示する構成が開示されていないと認定するとこ
ろ、この実施例の記載は、本件補正後においても、電源の投入とテレビ受像機に表
形式で番組を表示する時期との時間的関係については、実質的に変更されていない
ものと認められる(甲2、3)。それにもかかわらず、本件補正後においては、上
記実施例の記載等を考慮することなく、特許請求の範囲の記載のみを問題として、
電源投入時を含む電源投入後の任意の時間にその日の番組表を取り出して表示する
構成が開示されていると認定したことは、矛盾する判断手法といわなければならな
い。
 したがって、本件決定が、当初明細書等に電源投入後の任意の時間にその
日の番組表を取り出すという記載等がないことを理由に、本件補正事項が当初明細
書等の要旨を変更するものであると判断したことは、誤りであるといわなければな
らない。
(3) 被告は、別件異議事件における訂正請求において、原告と同一視すべき特
許権者が、訂正前において電源を投入した日の番組表を表示させるための操作が漠
然としていたのを「電源を投入すること」に限定するために特許請求の範囲を減縮
すると主張したことから、番組表示及び予約動作は、電源投入時又は電源投入直後
に行うことが明らかであると主張する。
  しかし、出願に係る明細書及び図面の記載内容は、本来、客観的に解釈さ
れるべきものであるところ、これを本件についてみるに、当初明細書等には、電源
の投入とテレビ受像機に番組を表示する時期との時間的関係が限定されていないと
解すべきことは、前示のとおりであり、このことは、原告が、原出願に係る別件異
議事件の審理過程において行った主張に左右される筋合いのものではなく、また、
原告が本訴において前記第2の2の主張を行うことが許されないとする事情も見受
けられないから、結局、被告の上記主張は採用することができない。なお、当該訂
正請求自体は、原告とは異なる訴外「レーム プロパティズ ビーブイ」(オラン
ダ法人)が行ったものであり、同人から特許を受ける地位を承継した原告は、これ
を事前に承諾したにすぎない(乙1)。
   以上のとおり、本件補正事項が、当初明細書等の要旨を変更するとした本
件決定の判断は誤りであるから、本件決定は、これを取り消すべきものといわなけ
ればならない。
2 結論
 よって、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容することとし、主文の
とおり判決する。
   東京高等裁判所第3民事部
         裁判長裁判官  北  山  元  章
          裁判官  青  柳     馨
          裁判官  清  水     節

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