弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     当審の訴訟費用は全部被告人の負担とする。
         理    由
 本件控訴の趣意は、末尾に添付した弁護人竹沢哲夫か差し出した控訴趣意書のと
おりである。
 第一点について。
 日本国憲法第十五条第一項の規定は、公務員を選定し、及びこれを罷免すること
が、国民の固有の権利であることを宣明したまてのものであつて、同法第十六条の
規定に基いて訴願をすることは格別であるが、各国民がすべての公務員を直接且つ
自由に選定し、又は罷免し得ることを定めたものではなく、国家公務員である国家
地方警察の職員は、国家公務員法の規定に基き、警察法の規定に徒つて任命され、
又は罷免されるものであり(警察法第三十条、第三十六条第一項参照)なおその服
務に際しては、国民全体の奉仕者として、公共の利益のために勤務し、職務の遂行
に当つては、法令に従い、且つ、上司の職務上の命令に忠実に従い、全ヵを挙げて
これに専念しなければならないものである(国家公務員法第九十六条第一項、第九
十八条第一項)。とこ<要旨第一>ろで、原判決が、被告人がいずれも国家公務員で
ある群馬県北群馬地区警察署長A、同署勤務警部補B、同署勤務警部C
及び同署勤務警部補佐D方にそれぞれ配布したと認定した各小紙片中に、「外国帝
国主義者や売国政府の命令」とあるのは、右小紙片の記載に徴して明らかなよう
に、実は日本国憲法の下において適法に組織された国会が制定した法律及び右憲法
の下において適法に組織された内閣又は地方公共団体が制定した政令又は条例、そ
の他それらが処理した行政事務を、故らに誹謗して、そのように呼称しているに過
ぎず、結局右小紙片の記載は、その配布を受けた国家公務員に対し適法に組織され
た政府の命令を拒否し、これらを巧みにサボルことをそそのかしたものであり、従
つて政府の活動能率を低下させる怠業的行為をそそのかしたものといわねばならな
い。然らば、原判決が、原判示事実に対して、国家公務員法第九十八条第五項後
段、第百十条第一項第十七号を適用したことはまことに相当であつて、本件は日本
国憲法第十五条には何ら直接の関係がなく、同条を云云する論旨は当らないから、
採用しない。
 同第二点について。
 <要旨第二>日本国憲法第二十八条が保障している勤労者の団結する権利及び団体
交渉その他団体行動をする権利といえども、公共の福祉に反することは
許されないものと解せられるが、国家公務員法第九十八条第五項は、警察職員も含
めた国家公務員がすてに説明したように、その服務に際しては、国民全体の奉仕者
として、公共の利益のために勤務し、職務の遂行に当つては、法令に従い、且つ、
上司の職務上の命令に忠実に従い、全力を挙げてこれに専念しなければならないと
せられているその職責にかんがみ、同盟罷業、怠業その他の争議行為又は政府の活
動能率を低下させる怠業的行為といつた国民全体の奉仕者たるにふさわしくない行
為(国家公務員法第八十二条第三号は国家公務員にこのような非行があつた場合に
は、これに対して懲戒処分をすることがてきるものとしている。)をすることを禁
じたものであり、又同条第四項は、警察が国民の生命、身体及び財産の保護に任
じ、犯罪の捜査、被疑者の逮捕及び公安の維持に当ることを責務とする(警察法第
一条第一項)特殊の任務にかんがみ、これと同様の特殊の任務を有する消防職員ら
とともに、組合その他の団体を結成し、及びこれに加入することを禁したものであ
り、これらはいずれも公共の福祉維持の必要上、憲法第二十八条が保障している権
利を制限しているに過ぎないものと認められるから、国家公務員法の右条項をもつ
て、憲法に違反した無効のものとすることは当らない。従つて、これと異なつた見
解に立つた論旨は採用しない。
 (その他の判決理由は省略する。)
 (裁判長判事 中村光三 判事 河木文夫 判事 鈴木重光)

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