弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
1上告代理人瀬尾信雄,同橋本副孝,同八杖友一の上告理由のうち消費者契約
法9条1号の違憲をいう部分について
財産権に対する規制が憲法29条2項にいう公共の福祉に適合するものとして是
認されるべきものであるかどうかは,規制の目的,必要性,内容,その規制によっ
て制限される財産権の種類,性質及び制限の程度等を比較考量して判断すべきもの
である(最高裁平成12年(オ)第1965号,同年(受)第1703号同14年
2月13日大法廷判決・民集56巻2号331頁)。
消費者契約法9条1号は,同法2条3項に規定する消費者契約について,消費者
契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し,又は違約金を定める条項であって,その
額が同法9条1号に定める額を超えるものは,当該超える部分を無効と定めてい
る。
このような規定を定める必要性について考えると,消費者と事業者との間には,
その有する情報の質及び量並びに交渉力の格差が構造的に存在し,消費者と事業者
との間に締結される契約を双方の自由な交渉にゆだねるときには,上記のような格
差から消費者の利益を不当に侵害する内容の契約が締結されるおそれがあるから,
このような消費者の不利益の発生を防止し,消費者を保護する必要が存在するとい
うべきである。
消費者契約法は,消費者の利益を不当に害することとなる条項の全部又は一部を
無効とすること等によって,消費者の利益の擁護を図り,もって国民生活の安定向
上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的として制定されたものであり,上
記のような消費者と事業者との間に存する格差に着目して,同法2条において,両
者の間で締結される契約を広く同法の適用対象と定め,同法9条1号は,消費者契
約の解除に伴って事業者が消費者に対し高額な損害賠償等を請求することによっ
て,消費者が不当な出えんを強いられることを防止することを目的とするものであ
って,このような立法目的が正当性を有することは明らかである。
更に同号の内容が,上記のような目的を達成するための手段として相当であるか
否かについて考えると,同号は,損害賠償の予定等を定める条項をすべて無効とす
るのではなく,そのうち,解除される消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い
事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える部分を無効とするにとどまるのであ
り,このことからすれば,同号の規定が,上記のような立法目的達成のための手段
として,必要性や合理性を欠くものであるとすることはできない。
したがって,消費者契約法2条3項に規定する消費者契約を対象として損害賠償
の予定等を定める条項の効力を制限する同法9条1号は,憲法29条に違反するも
のではない。以上は,前記大法廷判決の趣旨に徴して明らかである。論旨は採用す
ることができない。
2その余の上告理由について
その余の上告理由は,違憲をいうが,その実質は単なる法令違反をいうもの又は
その前提を欠くものであって,民訴法312条1項及び2項に規定する事由のいず
れにも該当しない。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官古田佑紀裁判官滝井繁男裁判官津野修裁判官
今井功裁判官中川了滋)

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