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平成24年12月5日判決言渡同日原本受領裁判所書記官
平成24年(行ケ)第10281号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成24年11月14日
判決
原告株式会社パワーサポート
同訴訟代理人弁理士伊藤寛之
奥野彰彦
被告特許庁長官
同指定代理人大塚順子
寺光幸子
守屋友宏
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2011-13716号事件について平成24年6月26日にした
審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が,後記1の商標登録出願に対する後記2のとおりの手続において,
原告の拒絶査定不服審判請求について特許庁が同請求は成り立たないとした別紙審
決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は後記3のとおり)には,後記4のとお
りの取消事由があると主張して,その取消しを求めた事案である。
1本願商標
原告は,平成22年5月7日,「セルフリペア」という標準文字からなる商標(以
下「本願商標」という。)につき商標登録を出願した(出願番号:商願2010-0
35519。乙1)が,平成23年1月13日及び同年6月28日,指定商品につ
いて補正を行ったため,本願商標の指定商品は,第9類「電気通信機械器具の,自
己修復機能を有する部品及び附属品(自分自身で修繕・修理するための商品を除く)」
となった(乙4,7)。
2特許庁における手続の経緯
原告は,本件出願について平成23年4月12日付けで拒絶査定を受けた(乙5)
ので,同年6月28日,これに対する不服の審判を請求した(乙6)ところ,特許
庁は,これを不服2011-13716号事件として審理し,平成24年6月26
日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との本件審決をし,その謄本は,同年7
月10日,原告に送達された。
3本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は,要するに,本願商標をその指定商品に使用した場合,これに
接する取引者,需要者は,これを一体不可分の文字ととらえた上で,その構成文字
全体から容易に「自分自身で修復すること(自己修復)」ないし「自己修復機能を有
するもの」程の意味合いを理解ないし想起し,これが商品の品質を表したものとし
て認識するにとどまるとみるのが相当であるから,本願商標が商標法3条1項3号
に該当する,というものである,
4取消事由
商標法3条1項3号に係る認定判断の誤り
第3当事者の主張
〔原告の主張〕
1本願商標は,たったの6文字であり,文字の間にスペースがなく,標準文字
で字体も統一されており,実際に発音しても途中で詰まることなく一息で発音する
のに何ら困難性はない。このような構成を考慮すれば,本願商標は,全体が一体不
可分の1語で構成されていると解釈すべきところ,本願商標の「セルフリペア」と
いう単語は,辞書にも記載されておらず,その意味は,漠然としている(この点,
本件審決は,本願商標が一体不可分であるとしつつも,実際には「セルフ」と「リ
ペア」のそれぞれの意味から「セルフリペア」の意味を認定しているので,実際に
は,一体不可分ととらえているものではない。)。
2そこで,「セルフリペア」と聞いて何を想起するのが一般的であるのかについ
て全国の15歳ないし79歳の男女1200名を対象に自由回答によるアンケート
調査を行ったところ,回答のうちはっきりと「自己修復」とするものは,0.8%
であり,他の回答を考慮に入れても「自己修復」に対応する回答は,約4%にとど
まるのに対し,「自分で修理」に対応するものは,合計13.8%であり,さらに,
「分からない」が56.3%を占め,「無回答」を含めると76.1%となる。この
ように,本願商標が品質表示であるかを判断するに当たって考慮すべき一般需要者
の認識によれば,本願商標の「セルフリペア」は,馴染みがない,聴いたことがな
い,何の意味かよく分からない言葉であって,「自己修復」を想起するものではない。
このように,上記アンケート調査の結果は,本願商標が指定商品である「電気通
信機械器具の,自己修復機能を有する部品及び附属品(自分自身で修繕・修理する
ための商品を除く)」の品質表示であるとは到底いえないことを示している。
3本件審決が「セルフリペア」の使用例として指摘するもののうち,第1の使
用例は,ウェブ上の辞書に掲載された「」である(乙15)が,本願
商標にはハイフンも「」もないし,ウェブ上の辞書に掲載されていることと本願
商標の指定商品の品質表示として使用されていることとは,無関係である。
第2の使用例は,「セルフ・リペアリングタイヤ」である(乙21)が,これは,
本願商標とは異なるし,本願商標の指定商品は,タイヤではない。
第3の使用例は,「セルフリペアリングチューブ」である(乙22)が,これは,
本願商標とは異なるし,本願商標の指定商品は,チューブではない。
以上のとおり,本件審決で掲げられている使用例は,いずれも「セルフリペア」
を本願商標の指定商品の品質表示として使用しているものではない。このことは,
特許庁が,実際の取引において「セルフリペア」を本願商標の指定商品の品質表示
として使用した例を探すことができなかったことを意味している。
4以上のとおり,アンケート調査の結果と実際の取引において使用例がないこ
とに照らすと,本願商標は,その指定商品の品質表示であるとはいえず,本件審決
は,商標法3条1項3号の認定判断を誤ったものとして取り消されるべきである。
〔被告の主張〕
1商標法3条1項3号が,その商品の産地,販売地,品質,原材料等を普通に
用いられる方法で表示する標章のみからなる商標は商標登録を受けることができな
い旨を規定する趣旨は,このような商標が,商品の産地,販売地その他の特性を表
示記述する標章であって,取引に際し必要適切な表示としてなんぴともその使用を
欲するものであるから,特定人によるその独占的使用を認めるのを公益上適当とし
ないものであるとともに,一般的に使用される標章であって,多くの場合自他商品
識別力を欠き,商標としての機能を果たし得ないものであることによると解される
(最高裁昭和53年(行ツ)第129号同54年4月10日第三小法廷判決裁判集
民事126号507頁)。さらに,同号は,取引者,需要者に指定商品の品質等を示
すものとして認識され得る表示態様の商標につき,それ故に登録を受けることがで
きないとされたものであって,当該表示態様が,商品の品質を表すものとして必ず
使用されるものであるとか,現実に使用されている等の事実は,同号の適用におい
て必ずしも要求されないものと解すべきである。
以上によれば,判断(本件審決)時において,問題とされる商標が指定商品の品
質を表すものとして取引者,需要者に広く認識されている場合はもとより,将来を
含め,取引者,需要者にその商品の品質を表すものと認識される可能性があり,こ
れを特定人に独占使用させることが公益上適当でないと判断されるときは,当該商
標は,同号に該当するものと解するのが相当である。
2本願商標は,「セルフリペア」の文字を表してなるものであり,「セルフ」の
文字と「リペア」の文字の組合せからなる語であるといえるところ,そのうち「セ
ルフ」の文字は,「自分自身で。自動的に。」の意味を有するものであって,他の語
に冠して熟語を形成しやすいものであり(乙10~12),「リペア」の文字は,「修
理すること。回復すること。」の意味を有するものであり(乙13,14),いずれ
も我が国において親しまれている外来語といえる。
また,「セルフリペア」に通じる「」の語は,「自己修復」の意味を有
するものである(乙15,16)から,本願商標からは,「自己修復」程の意味合い
が理解されるといえる。すなわち,「セルフ」の文字と「リペア」の文字のそれぞれ
の意味を組み合わせた場合の意味合いと,「セルフリペア」の意味は,同様といえる
から,「セルフリペア」の文字は,「セルフ」と「リペア」の組合せと理解しても,
「セルフリペア」という一体の語として理解しても,全体として「自己修復」程の
意味合いを認識させるというべきである。
そして,「セルフリペア」に通じる「」及び「」並びに「セ
ルフリペア()」の派生といえる「セルフ(・)リペアリング」及び「
」の各語は,「自分自身で修復すること(自己修復)」を意味するものと
して各種のウェブサイトで広く用いられている(乙17~22)。
したがって,本願商標に接する取引者,需要者は,本願商標の構成全体から,「自
分自身で修復すること(自己修復)」程の意味合いを容易に理解するといえる。なお,
原告も,本件出願の査定手続における意見書において,「セルフリペア」という単語
から,同様の意味が想起される旨を自認していた(乙3)。
3登録出願に係る商標が商標法3条1項3号に該当するか否かの判断は,指定
商品及びその取引者,需要者,指定商品の取引の実情を踏まえ,当該商標がその指
定商品に使用された場合に,当該商標に接した取引者,需要者がどのような認識を
するかによって判断すべきである。
そして,本願商標の指定商品は,「電気通信機械器具の,自己修復機能を有する部
品及び附属品(自分自身で修繕・修理するための商品を除く)」であるところ,当該
指定商品を取り扱う業界においては,各種のウェブサイトの記載から明らかなよう
に,「自分自身で修復すること(自己修復)」程の意味合いに照応する,自己修復機
能を有する製品が広く開発・製造されている(乙23~29)。
したがって,「自分自身で修復すること(自己修復)」程の意味合いが理解される
「セルフリペア」の文字からなる本願商標を,その指定商品に使用した場合,これ
に接する取引者,需要者は,その構成全体から容易に「自己修復機能を有するもの」
程の意味合いを想起し,これが商品の品質を表したものとして認識するにとどまる
とみるべきである。
4よって,本願商標は,単に商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標
章のみからなるものであって,商標法3条1項3号に該当する。
5なお,登録出願に係る商標の商標法3条1項3号該当性は,当該商標が指定
商品に使用された場合に,当該商標に接した取引者,需要者がどのような認識をす
るかによって判断されるべきものであるところ,原告によるアンケート調査は,本
願商標の指定商品に関する記載がなく,調査対象も,当該指定商品の取引者,需要
者に限らずに調査を行ったものであって,本願商標が指定商品に使用された場合に
これに接した取引者,需要者がどのような認識をするかを調査したものではない。
したがって,上記アンケート調査の結果に基づく原告の主張は,その前提におい
て失当である。
第4当裁判所の判断
1本願商標について
本願商標は,「セルフリペア」という標準文字からなり,第9類「電気通信機械器
具の,自己修復機能を有する部品及び附属品(自分自身で修繕・修理するための商
品を除く)」を指定商品とするものである。
2本願商標の構成について
本願商標を構成する「セルフリペア」という一連の単語それ自体は,我が国の一
般的な辞書類には記載が見当たらない。
ところで,「セルフ」という語は,本件審決当時の我が国の一般的な辞書類によれ
ば,「「自分自身で」「みずから」「自動的に」の意」(広辞苑第6版。乙10),「①「自
分自身で」「自動的に」の意。他の外来語の上に付いて複合語をつくる。②「自己」
に同じ。」(大辞林第3版。乙11),「自分,自身。また,「自分自身の」「自動の」
などの意で複合語をつくる。」(コンサイスカタカナ語辞典第4版。乙12)などと
されており,我が国においてもこれらの辞書類に記載されたような意味を有するも
のとして広く用いられている外来語であると認められる。
また,「リペア」という語は,本件審決当時の我が国の一般的な辞書類によれば,
「①修理すること。修繕すること。②回復すること。取り戻すこと。」(大辞林第3
版。乙13),「修繕。修理。」(コンサイスカタカナ語辞典第4版。乙14)などと
されており,やはり我が国においてもこれらの辞書類に記載されたような意味を有
するものとして広く用いられている外来語であると認められる。
そして,「セルフ」は,上記のとおり,他の外来語に付いて「自分自身の」,「自動
の」などの意味の複合語を作るものであるから,「セルフリペア」とは,「セルフ」
が外来語である「リペア」に付くことで形成された複合語であると認められる。そ
して,「セルフリペア」との複合語を構成する「セルフ」及び「リペア」の各外来語
は,いずれも上記の意味を有するものとして広く用いられていることに照らすと,
「セルフリペア」という語は,その意味が直ちに不明であるとはいえず,むしろ,
例えば,人が物を自分自身で修理することや,物それ自体が自動的に修繕・修復さ
れること(自己修復)などの複数の意味合いを想起するものといえる。
3指定商品が属する分野における実情について
本件審決当時,本願商標の指定商品が属する電気通信機械器具の分野においては,
タッチパネル式携帯電話に用いられるプラスチック資材の自己修復機能を,「自己修
正・修復・修理(する)」という意味を有する英語の複合語で本願商標の「セルフリ
ペア」と称呼が同一である「」と標記する記事(乙15~17)やスマ
ートフォン用及び携帯電話用の自己修復材料又は自己治癒コーティングに関する記
事(乙23)が公知であったほか,スマートフォン等の液晶画面保護フィルムであ
ってキズの自己修復フィルム又は自己治癒コートフィルムという商品(乙18,2
3,24,26,28,29)及び携帯電話等に使用可能なUV硬化型自己修復塗
料又は自己治癒塗料という商品(乙25,27)が複数種類販売されていたことが
認められる。
4本願商標の商標法3条1項3号該当性について
以上のとおり,本件審決当時,本願商標の指定商品が属する電気通信機械器具の
分野においては,それ自体が自動的に修繕・修復される自己修復機能という品質を
有する部品及び附属品が公知であったところ,本願商標の指定商品は,「電気通信機
械器具の,自己修復機能を有する部品及び附属品(自分自身で修繕・修理するため
の商品を除く)」であって,まさに自己修復機能という品質を有する部品及び附属品
であるから,本願商標が指定商品に使用された場合,これに接した当該分野の取引
者,需要者は,「セルフリペア」という語から想起される意味合いのうち,物それ自
体が自動的に修繕・修復されること(自己修復)というものを想起し,これが当該
部品及び附属品の自己修復機能という品質を表しているものと認識すると認められ
る。
そして,本願商標は,「セルフリペア」という標準文字からなるものであるにすぎ
ないから,指定商品の品質を普通に用いられる方法で表示したものというほかなく,
商標法3条1項3号に該当するものというべきである。
5原告の主張について
原告は,本願商標はその構成を考慮すれば全体が一体不可分の1語で構成されて
いると解釈すべきであるが,本願商標の「セルフリペア」という単語の意味が漠然
としているから,「自己修復」との意味を想起するものではなく,このことがアンケ
ート調査の結果からも明らかであると主張する。
しかしながら,前記2ないし4に説示のとおり,「セルフリペア」が1語で構成さ
れており,複数の意味合いが想起できるとしても,商標法3条1項3号は,登録出
願に係る商標が特定の商品(指定商品)の品質等を普通に用いられる方法で表示し
ているか否かを問題にしている一方,上記アンケート調査は,使用対象を本願商標
の指定商品に限定せず,調査対象も当該指定商品の取引者,需要者に限らずに不特
定多数の一般人を対象としているから,同号の該当性を判断するに当たって参考と
なるべきものではなく,本願商標が指定商品に使用された場合,これに接した当該
分野の取引者,需要者が,当該部品及び附属品の自己修復機能という品質を表して
いるものと認識するとの前記認定を左右するものではない。
よって,原告の上記主張は,採用できない。
6結論
以上の次第であるから,原告の請求は棄却されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官土肥章大
裁判官井上泰人
裁判官荒井章光

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