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裁判例


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○ 主文
原告の請求を棄却する。
但し、昭和五八年四月一〇日に行われた千葉県議会議員選挙の我孫子市・沼南町選
挙区における選挙は違法である。
訴訟費用は被告の負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求める裁判
〔原告〕
(一) 昭和五八年四月一〇日に行われた千葉県議会議員選挙(以下「本件選挙」
という。)の効力に関する原告選定者らの異議申出につき、被告が同年五月二日に
した異議申出却下の決定(以下「本件決定」という。)を取り消す。
(二) 本件選挙の我孫子市・沼南町選挙区における選挙を無効とする。
(三) 訴訟費用は被告の負担とする。
〔被告〕
(一) (本案前の答弁)
(1) 本件訴えを却下する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
(二) (本案の答弁)
(1) 原告の請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
〔原告〕
一 請求の原因
1 本件選挙の施行と当事者
原告選定者らは、本件選挙の施行に際して我孫子市・沼南町選挙区における選挙人
だつた者であり、被告は本件選挙に関する事務を管理する選挙管理委員会である。
2 原告選定者らの異議申出と本件決定
(一) 原告選定者らは、昭和五八年四月一二日、被告に対し、本件選挙が各選挙
区の人口に比例しない議員定数の配分によつて施行されたもので無効である旨主張
し、公職選挙法(以下「公選法」という。)二〇二条一項による異議の申出をした
が、被告は同年五月二日右異議申出を却下する旨の本件決定をした。
(二) 本件決定の理由は、要するに、公選法二〇二条所定の異議申出の制度は、
選挙に管理執行上の瑕疵があつた場合にこれを無効とするために設けられたもので
あり、原告選定者らのした異議申出のように、たとえ選挙を無効として再選挙を実
施したとしても、その瑕疵を是正することができないような無効事由による異議の
申出を許容する趣旨ではない、というものである。
(三) しかしながら、地方公共団体の議会の議員の選挙において選挙の効力に不
服のある者は、異議申出の手続を経なければ、訴訟でその効力を争うことができな
い(公選法二〇三条二項)。その意味で、異議申出は、右選挙の選挙人が選挙の適
否を争うための不可避の手段であり、他に選挙の違法の是正を求める方途は現行法
制上存在しない。したがつて、選挙人は、右選挙における各選挙区への議員定数の
配分を定めた規定の違法を理由として異議申出をなしうるものと解すべきであり、
前記のような理由で本件異議申出を却下した本件決定は違法である。
3 本件選挙の違憲・違法性
(一) 憲法及び公選法における選挙権の平等
国政選挙における選挙権の平等(それは、投票価値の平等をも包含するものであ
る。)については、憲法一四条一項、一五条一項、三項、四四条但書等に規定され
ているのに対し、地方公共団体の議会の議員の選挙については、憲法九三条二項の
地方公共団体の住民による直接選挙の規定がある程度で、明文の規定はない。しか
し、選挙権の平等は、国政レベルであると地方自治レベルであるとを問わず普遍的
に保障されるべき憲法上の原理である。
また、公選法一五条七項は、「各選挙区において選挙すべき地方公共団体の議会の
議員の数は、人口に比例して、条例で定めなければならない。」とし、地方公共団
体の議会の議員の選挙における議員定数の配分に関する条例が人口比例の原則によ
る平等選挙を保障すべきことを定めている。これを国政選挙における選挙区への議
員定数の配分の原則と比較すると、参議院の選挙区選出議員については、各選挙区
への定数配分について公選法上特に人口比例を定めた規定はなく、衆議院議員につ
いては、同法別表第一の末尾に、定数配分については五年ごとに行われる国勢調査
の結果によつて更正するのを例とする旨の規定があるのにとどまるのであるから、
人口比例の原則は、地方公共団体の議会の議員の選挙に関して最も明確に定められ
ていることになる。
なお、公選法にいう人口とは、「官報で公示された最近の国勢調査又はこれに準ず
る全国的な人口調査の結果による人口」(同法施行令一四四条)であるから、本件
選挙に関しては昭和五五年の国勢調査による人口である。
右のように、憲法上及び公選法上要請されている投票価値の平等とは、選挙権が形
式的に一人一票とされるばかりでなく、実質的にも一人一票とされるべきであると
いうことにほかならないから、実質的に一人が二票を持たない範囲、すなわち選挙
権の実質上の較差を一対二以下の範囲にとどめることが右要請に沿うゆえんである
と考えられ、したがつて、特別の事情又は技術的困難がない限り、各選挙区への議
員定数の配分は、右較差が一対二の範囲内にとどまるようにされなければならな
い。
(二) 本件選挙の違憲・違法性
(1) 昭和五七年一二月に千葉県議会で改正案が可決された「千葉県議会議員の
選挙区等に関する条例」(昭和四九年千葉県条例第五五号。以下「選挙区条例」と
いう。)の定めるところによると、本件選挙時において、総議員定数は七九、選挙
区数は三七である。また、当時の千葉県の人口は四七三万五四二四人であり、選挙
区名、各選挙区の人口・議員定数・議員一人当り人口及びこれによつてみた投票価
値の較差は、別紙(二)記載のとおりである。
(2) 右の議員定数の配分によれば、議員一人当り人口の選挙区ごとの較差は、
最大で実に一対六・四九(なお、昭和五七年九月二日現在の議員一人当り有権者数
の較差では一対五・九〇)である。すなわち、海上郡選挙区(定数一)の人口は二
万〇七六四人であるのに対し、我孫子市・沼南町選挙区(定数一)の人口は一三万
四七六七人(有権者数は前者が一万五四三九人、後者が九万一一五七人)となつて
おり、また、較差が一対二をこえる選挙区は二四に及んでいる。
右のような投票価値の甚しい較差と並んで、いわゆる逆転現象、すなわち、人口の
少ない選挙区の方が人口の多い選挙区より逆に議員定数が多いという現象がみられ
る。例えば、山武郡選挙区は人口一〇万九六七六人で議員定数三であるが、同選挙
区より人口が多いにもかかわらず定数は逆に少ない(二ないし一)選挙区は六選挙
区(木更津市、野田市・関宿町、習志野市、八千代市、我孫子市・沼南町、印旙郡
の各選挙区)もあり、特に、我孫子市・沼南町、八千代市の両選挙区は、人口は山
武郡選挙区より約二万五〇〇〇人多いのに、議員定数はわずか一である。また、長
生郡選挙区は人口五万八八五六人、議員定数二であるが、これより人口が多いのに
議員定数が少ない(一)の選挙区は一〇選挙区(茂原市、成田市、佐倉市、流山
市、八千代市、我孫子市・沼南町、鎌ケ谷市、君津市、浦安市、四街道市)もあ
る。更に、逆転現象は、郡部と市部の間に存在するのみではなく、隣接する市部同
士の間(野田市・関宿町選挙区と我孫子市・沼南町選挙区、習志野市選挙区と八千
代市選挙区)にもみられる。
以上のような投票価値の較差、逆転現象の存在は、憲法上の投票価値の平等の要
請、公選法一五条七項の人口比例の原則に全く反している。もつとも、同項但書に
は、「特別の事情があるときは、おおむね人口を基準とし、地域間の均衡を考慮し
て定めることができる。」とされているが、昭和五七年一二月の千葉県議会でのち
に本件選挙の基準となつた定数配分が決定された際には、前記較差や逆転現象を正
当化するような「特別の事情」の存在はなんら明らかにされなかつたし、仮になん
らかの事情があるとしても、逆転現象を生ずるような定数配分は到底「地域間の均
衡」を図るものとはいえない。
ところで、選挙区条例一条二項は、公選法二七一条二項の規定に基づき、選挙区内
の人口が千葉県全体の議員一人当り人口(五万九九四二人)の半数に達していない
海上郡、匝瑳郡、勝浦市をそれぞれ独立の選挙区として存続させた。したがつて、
これら三選挙区の存在自体は公選法上合法であるが、これも選挙区が独立して存在
する結果、議員一人当り人口の較差を一対二以下にするという憲法上の要請に反す
ることになる。議員一人当り人口の最も少ない海上郡選挙区を基準として右較差を
一対二の範囲内に収めるためには、我孫子市・沼南町選挙区の定数を四とするなど
二四の選挙区の定員増が必要で、その結果総定数は一三一人となり、地方自治法九
〇条所定の限度数九九人をはるかにこえてしまうのであるから、前記三選挙区につ
いては公選法一五条二項所定の原則に則つてこれを他選挙区と合区すべきものなの
である。そのほか、公選法及び地方自治法の諸規定に従つて千葉県議会議員の定数
の合理的再配分を行い、議員一人当り人口の選挙区ごとの較差を一対二以内に収め
ることが技術上可能であることは、これまでに民間団体が発表した定数配分案を見
ても明らかである。
(3) 現行の千葉県議会議員定数及びその各選挙区への配分の枠組は、昭和四五
年の国勢調査人口を根拠に昭和四九年一〇月二一日の条例改正により決まつたもの
で、その後の昭和五〇年及び昭和五五年の二度の国勢調査の結果は、法律の規定に
基づくいわば自動的調整に類するものを除いて、選挙区条例の改正になんら反映さ
れないまま本件選挙まで八年五か月余を経過している。昭和四九年以来の右条例の
改正経緯とこの間の各選挙時における問題点は、次のとおりである。
(イ) 昭和五〇年四月一三日の選挙当時
昭和四九年一〇月二一日に現行選挙区条例が成立したが、その際に昭和四五年の国
勢調査人口に基づいて議員定数を七〇から七九に増加し、若干の選挙区の調整が行
われ、現行の定数配分の枠組が決まつた。
当時における各選挙区の人口(右国勢調査によるもの)、議員定数、議員一人当り
人口、投票価値較差は別紙(三)記載のとおりであつた。これによつて明らかなと
おり、当時既に選挙区内総人口が議員一人当り平均人口の半数に達しなくなつてい
た海上郡、匝瑳郡をそれぞれ独立の選挙区としたため、投票価値の較差が一対二を
こえる選挙区は二一に達し、議員一人当り人口の最大較差は海上郡選挙区の一に対
し君津市選挙区の三・五五であり、また、夷隅郡選挙区と八千代市、我孫子市と沼
南町、君津市各選挙区との間に逆転現象が存した。
(ロ) 昭和五四年四月八日の選挙当時
右選挙を控えた昭和五三年一二月の県議会では、昭和五〇年の国勢調査による人口
の状態を無視し、定数配分規定の改正を行わなかつた。その結果、各選挙区の人
口、議員定数、議員一人当り人口、投票価値較差は別紙(四)のとおりとなり、投
票価値の較差が一対二をこえる選挙区は二三に達し、議員一人当り人口の最大較差
は海上郡選挙区の一に対し八千代市選挙区の五・六一であり、逆転現象は、山武郡
選挙区と習志野市、八千代市各選挙区との間、長生郡選挙区と茂原市、佐倉市、流
山市、我孫子市・沼南町、鎌ケ谷市、君津市各選挙区との間、野田市・関宿町選挙
区と我孫子市・沼南酊選挙区との間にそれぞれみられた。
(ハ) 本件選挙当時
昭和五五年の国勢調査の結果、浦安町と四街道町の人口がそれぞれ五万人をこえ、
両町が市に昇格し、これに伴い、公選法一五条一項の規定に基づき昭和五六年条例
第一二号によつて選挙区条例の一部が改正され、右両市が独立の選挙区となつた。
また、勝浦市については、その人口が議員一人当り平均人口の半数に達しなくなつ
たため、公選法二七一条二項の規定によりこれを独立の選挙区とする旨の選挙区条
例の改正が昭和五七年条例第四四号によつて行われた。昭和五八年四月一〇日の本
件選挙を控えて行われた条例改正は、以上の二点のみであつて、昭和五五年の国勢
調査人口に基づく各選挙区への定数配分の是正が行われなかつたため、前記のよう
な著しい違憲、違法の状態を生ずるに至つた。
以上の経緯を見れば、千葉県議会は、総定数の増加はともかくとして、少なくとも
定数の配分については、人口比例の原則に基づいてこれを是正すべきであつたにも
かかわらず、昭和五〇年及び昭和五五年の各国勢調査の結果にかんがみ当然行うべ
き右是正措置を怠つてきたものといわなければならない。この間において、我孫子
市議会は昭和五七年一二月一四日の議決に基づいて人口比例による定数配分を行う
よう求める要望書を条例改正の提案権を有する千葉県知事に提出し、また原告選定
者らの一部の所属する市民団体も千葉県議会及び千葉県知事に対し同様趣旨の要望
書を提出したが、いずれも無視された。
(4) 公選法一五条七項但書によれば、「特別の事情」がある場合には人口比例
原則によらない定数配分をすることが許されるが、前記のような投票価値の不平等
を正当化するような特別の事情は存在しなかつたし、昭和五四年四月の選挙及び本
件選挙に先立つて開かれた千葉県議会においても、右特別事情の存否が審議された
形跡は全くない。
4 結論
選挙区割と各選挙区への議員定数の配分は不可分一体をなすものであるから、以上
みたところによれば、本件選挙に適用された議員定数配分規定は全体として違憲、
違法なものというべきであり、また、本件決定は取り消されるべきである。
よつて、公選法二〇三条に基づき、本件決定を取り消し、原告選定者らが選挙人で
ある我孫子市・沼南町選挙区における本件選挙を無効とする旨の判決を求める。
二 被告の主張に対する反論等
1 被告の本案前の主張に対する反論
(一) 原告選定者らは、議員定数配分規定は全体として不可分一体であるため、
それが違法となる場合には、単に違法な不平等を生じている一部選挙区の選挙のみ
ではなく、全選挙区の選挙が無効になるとの判断の下に、本件選挙全体の無効を主
張Lて被告に対し公選法二〇二条一項による異議の申出をしたのであるが、右主張
は当然に原告選定者らが所属する我孫子市・沼南町選挙区における選挙の無効の主
張を含むものと解すべきであり、そうであるからこそ、被告も、右のように本件選
挙全体が異議の対象とされていることを理由としてではなく、他の理由によつて右
異議申出を却下」ているのである。
(二) 被告主張のように、選挙管理委員会の選挙の管理執行上の事務の瑕疵のみ
が選挙無効訴訟の事由たりうるものと解すべきではない。
被告は、議員定数配分規定の改正に関し被告がなんらの権能も有しないことを理由
に被告の被告適格を争うが、地方自治体の内部で、選挙管理委員会その他の執行機
関は、条例が憲法や法律に違反していると判断した場合には、自治体の長と連絡を
とり(地方自治法一三八条の三第二項)、長を通じて条例の改廃やこれを再議に付
させる等の措置を講ずることができる(同法一四九条一号、一七六条)のであるか
ら、被告は本訴訟につき被告適格を有するものというべきである。
(三) 被告は、選挙を無効とした場合、議会が存在しなくなり、したがつて議員
定数配分規定の瑕疵を是正することができず、また、公選法二一九条により選挙訴
訟につきいわゆる事情判決が排除されていることをもつて、本件訴えが不適法であ
ることの根拠とする。しかし、議員定数配分規定が違法であつても、選挙を直ちに
無効とすることなく、将来効判決としての違法警告判決を行うことも考えられる
し、公選法二一九条の規定にもかかわらず事情判決をなしうることは既に最高裁判
所の判例で明らかにされているから、右主張は理由がない。
(四) 被告は、議員定数配分規定が違憲、違法であるかどうかは高度の政治問題
であり司法審査の対象とならない旨主張するが、議員定数配分規定の内容のいかん
は憲法、法律の定める選挙権の平等にかかわる問題であり、司法審査の対象になる
ことは当然である。
2 公選法二七一条二項と投票価値の較差
被告は、公選法二七一条二項の規定からして当然に、議員一人当り人口の較差が一
対四をこえることが予想されている旨主張するが、人口比例の原則に反するような
議員定数の配分は、これを正当たらしめる「特別の事情」が存するときに限つて許
されるのであり、右現定や選挙区の合区に関する公選法一五条二、三項の規定から
当然に右の程度の較差が許容されているものと解することはできない。
3 「特別の事情」について
被告は、千葉県が支庁制度を採用しているから、公選法一五条二項、三項による選
挙区の合区の場合に特定の支庁の管轄区域内の選挙区を他の支庁の管轄区域内の選
挙区と合区することは考えられないと主張するほか、各選挙区の面積、地域住民の
所得の格差、鉄道開通の沿革等を比較し、人口過疎地に対する配慮の必要等をも議
員定数の配分にあたつて考慮すべき人口比以外の要素として主張する。しかし、前
記のとおり、実際に議員定数の配分を決定するにあたつて、千葉県議会においてこ
れらの要素を考慮に入れたうえその裁量権を合理的に行使して定数配分を行つた形
跡は全く存しない。しかも、具体的に決定された選挙区割と議員定数の配分の下に
おいて生じている前記のような投票価値の著しい較差は、被告主張のような諸般の
要素を斟酌してもなお、一般的に合理性を有するものとは到底考えられない程度に
達しており、もはや議会の合理的裁量の限界を逸脱しているものと推定されるべき
であるところ、右のような較差を正当化するに足りる特別の事情はなんら示されて
いない。
〔被告〕
一 本案前の主張
1 原告選定者らは、被告に対し、本件選挙を全体として無効であると主張し、右
全体の選挙に対する異議の申出をしたものであつて、本件訴訟において原告が主張
しているように原告選定者らが属する選挙区における選挙の無効を主張して異議の
申出をしたものではない。したがつて、右異議の申出は公選法二〇二条一項の異議
申出にあたらず、原告選定者らは本件訴訟の前提となる異議の申出をしていないか
ら、本件訴えは不適法である。
2 また、仮に原告主張のように議員定数配分規定それ自体に瑕疵があつたとして
も、選挙管理委員会の権能をもつてしでてはこれを是正することは不可能なのであ
るから、右瑕疵を理由として選挙の効力を争う訴訟については選挙管理委員会は被
告適格を有しないものというべきである。すなわち、地方自治法一八〇条の六第二
号においては、普通地方公共団体の委員会は、議会の議決を経るべき事件について
議案を提出する権限を有しない旨明定されており、また、同法一三八条の三第二項
が普通地方公共団体の執行機関につき相互の連絡を図り一体として行政機能を発揮
すべき旨を定めている趣旨は、執行機関の組織原則上の理念を示すものであつて、
選挙管理委員会に対し議員定数配分の是正につき自治体の長に対し連絡をとるべき
具体的義務を負わせるものではない。
3 また、そもそも公選法二〇三条に基づくいわゆる選挙訴訟は、当該選挙の管理
執行上瑕疵があつた場合、これを無効として早期に改めて適法な再選挙を実施させ
ることを目的としているものであり、このことは、選挙管理委員会が右訴訟の被告
とされていること及び選挙が無効とされた場合に短期間内の再選挙を予定している
ことからしても明らかである。したがつて、たとい選挙を無効としたとしても、公
選法の規定する期間内の再選挙の実施が困難であつたり、再選挙を実施するにした
ところで瑕疵を是正してこれを行うことができないことが明らかなような場合まで
も右訴訟の対象となるものではない。かかる法解釈が正当であることは、右訴訟は
行政事件訴訟法五条及び四二条にいう民衆訴訟の一種として法律に定める事項に限
り許されるものとされていること、公選法二一九条により右訴訟については行政事
件訴訟法三一条の事情判決の規定を特に排除している点にかんがみて明らかであ
る。また、このように選挙訴訟の対象が限定されているのは、選挙法の実体規定の
違憲、違法を理由に選挙を無効とする判決が可能であるとすると、選挙は全部無効
となり、議員は失格し、議会の機能は停止して収拾しえない事態が発生するからで
ある。特に地方公共団体においては、議会が唯一の議事機関であるところから、仮
に議員定数配分規定が違憲、違法とされると、定数を定めた条例の改正に着手しよ
うにも議事機関たる議会そのものが存在せず、審議をすることが不可能となる(こ
れに対し、国会の場合は、二院制をとつているので、衆議院議員の選挙全体が無効
とされても参議院の緊急集会により議員定数の改正は一応可能である。)。そし
て、このような法解釈をとると、選挙人らは議員定数配分の不当から生じた投票価
値の不平等につき選挙訴訟による救済を求めることができないことになるが、もし
それによつて個人の権利の侵害が生じているとすれば抗告訴訟の提起による救済が
考えられるし、また、地方自治法一二条、七四条の規定による条例の改正の直接請
求をすることも可能である。
なお、原告は、前記のような収拾不能の事態を避けるためには将来効判決としての
違法警告判決をすればよいと主張するが、原告の請求の内容は本件選挙のうち我孫
子市・沼南町選挙区における選挙を無効たらしめることにあるのであり、将来同一
の議員定数配分規定に基づいて行われるかもしれない選挙の無効宣言を求めるにあ
るのではないから、右主張は失当である。
よつて、本件訴えは法が選挙訴訟の目的として許容している事項以外の事項を目的
とするものとして不適法である。
4 本訴請求は、次の理由により訴えの利益を欠くものというべきである。
すなわち、地方自治法九〇条四項によれば議員定数の変更は一般選挙の場合でなけ
ればできないものとされており、選挙区別定数の変更もまた同様と解されるが、本
件のような請求が議員一人当り人口の多い特定の選挙区についてのみ認容されるも
のと仮定すると、当該選挙区の議員定数はこれを増加せざるをえない(しかも、当
該選挙区における選挙を無効とするならば、これと同等か又はこれを上回る議員一
人当り人口を有する選挙区についても選挙を無効としなければ均衡を失することに
なるが、このような選挙区について選挙を当然に無効とし再選挙を施行する方法は
現行法上定められていないから、特定の選挙区について本件のような請求を認容す
れば新たな不均衡を生ずることになる。)。また、仮に全体の定数を増加させずに
当該選挙区の議員数を増加させようとすれば、選挙区別定数の全面改正を行わざる
をえないばかりか、他のいずれかの選挙区の議員の地位を剥奪しなければならない
が、そのようなことは法的に不可能である。結局、本訴請求は、条例を改正し議員
定数を増加するか定数の再配分を行わない限りその目的を達しえないものであると
ころ、かかる改正は次の一般選挙の場合でなければ不可能であるから、本訴請求が
認容されると仮定してみても、これに基づく再選挙は絶対に不可能である。このよ
うな是正することが不可能な事項を目的とする訴えは、その利益を欠くものといわ
なければならない。
5 更に、本件訴えは高度の政治問題に属する事項を請求の目的としているから、
司法審査になじまないものというべきである。
すなわち、議会主義を採用する現憲法下においては、議員の総定数、選挙区、選挙
区別定数等をどのように定めるかは地方自治体にとつて高度の政治性を帯びた課題
であり、本件のような議員定数配分問題は、歴史的、社会的事情を考慮し、時代に
適応するよう政治ないし立法の分野で解決されるべき性質の問題であつて、他の機
関が濫りにこれに介入すべきではない。もつとも、司法機関には違憲立法審査権が
付与されているから、政治問題として自治体の議会の専権事項とされている事項に
ついても、司法機関はその違憲の有無を審査しうるといえようが、このような事項
につき司法権が介入しうるのは、その司法的決定のために満足すべき基準が存在す
る場合に限られ、そうでない場合には司法審査を抑制しなければならない。これを
本件についてみると、ある選挙区の議員一人当りの人口を他の選挙区のそれと比較
した場合において、その較差がいかなる数値をこえれば選挙権に極端な不平等を生
じたといえるかは、もともと人口を基本としながらも人口以外の諸要素をも総合勘
案のうえ決せられなければならない問題であり(公選法一五条ニないし四項、七項
参照)、これについて何人にとつても一見明白な基準は存在しないのであるから、
かかる問題については司法機関はその判断を抑制すべきである。
二 請求原因に対する認否
請求原因中、1及び2(一)、(二)の事実は認め、2(三)、3(一)は争う。
3(二)(1)の事実は認める。3(二)(2)(3)(4)のうち、本件選挙当
時原告主張のようないわゆる逆転現象が存したこと、海上郡、匝瑳郡、勝浦市がそ
れぞれ原告主張の当時から公選法二七一条二項の適用により独立の選挙区とされて
いること、昭和四九年に現行選挙区条例が制定され、議員総定数七九名の各選挙区
への配分が行われたことは認め、その余は争う。
三 本案に関する主張
1 地方公共団体の議員の選挙と憲法
憲法一五条、九二条及び九三条によれば、地方公共団体の組織及び運営に関する事
項は地方自治の本旨に基づき法律で定めることとされ、その議決機関たる議会の議
員の選挙制度についても、当該地方公共団体の構成員たる住民の直接選挙による旨
が定められている以外には特段の規制はされていない。右は、本来地方公共団体は
その住民の自治意識に基づいて運営されるべきものであり、したがつて、これに関
する法律の制約は必要最小限度にとどめ、具体的には住民の代表者である長及び議
会の意思決定に地方公共団体の運営を委ねるべきであるとの理念に基づくものと考
えられる。
また、地方公共団体については首長、議貝とも住民の直接選挙によるものとされて
いる(憲法九三条二項)。これは、首長についていわゆる大統領制を採用し、首長
が直接住民の意思を汲み取り行政を施行する途を開いたものであるが、それと同時
に、議員の選出については、同じ直接選挙とはいつても右首長に対等に対応しうる
ような適切な選挙制度を定めることを要請しているものと解すべきところ、かかる
選挙制度としては、地域的まとまりのある選挙区を設定し、議員に地域代表的性格
をも保有せしめるのが、地方自治の本旨にも合致した最も公正かつ効果的な制度で
ある。したがつて、憲法は、地方公共団体の議員の選挙制度に関し、人口比例の原
則を基本としながらも、これを絶対的なものとせず、ある程度地域代表的性格を加
味した選挙制度の採用をも許容しているものというべきであり、このような、それ
ぞれの種類の議員制度の性格に応じた公正かつ効果的な代表制度の確立こそが憲法
上の普遍原理と称すべきものである。
現行法制においては、以上のような憲法の精神に則り、法律は一定の基準を設定す
るにとどまり、各地方公共団体の議会は右基準に基づきその裁量により自由に議員
定数、選挙区及び選挙区別定数を決定する権限を与えられている。したがつて、前
記憲法の趣旨に則り制定された法律(地方自治法、公選法)に基づき地方公共団体
が制定している右議貝定数等に関する条例は、当該地方公共団体の議会が住民全体
の意思を十分反映する公正かつ効果的な代表制度を確立すべくその裁量権を行使し
たことの所産として、合理性、合法性を有するとの推走を受けるものと解される。
結局、議員定数の配分に関する条例の内容の当否は、それが極端な不平等をもたら
す場合に限り憲法一四条との抵触の問題を生ずるにとどまり、それ以外の場合は常
に立法政策の問題であるに過ぎず、違憲問題を生ずる余地はないものというべきで
ある。
2 都道府県議会議員の定数配分に関する法律の規定
都道府県議会の議員の定数配分については、前述した、公正かつ効果的な代表制度
確立のため地域性を加味すべきものとする憲法上の要請に基づき、地方自治法にお
いて議員定数の上限について定め(同法九〇条)、また、公選法において選挙区の
決め方及び各選挙区に対する定数の配分方法の基準を定めており(同法一五条及び
二七一条)、千葉県においても右諸規定に基づき次のとおり所要の条例を制定して
本件選挙を施行したものである。
(一) 県議会議員の総定数について
県議会議員の総定数については、地方自治法九〇条において、直近の国勢調査人口
に基づき議員定数の上限の算出方法が定められ、また、特に条例で定数を右上限よ
り減少することができるものとされている。本件選挙の直近(昭和五五年)の国勢
調査における人口に基づいて算定した千葉県議会の議員定数の上限は九九名であつ
たが、条例によつて総定数は七九名とされた。
(二) 選挙区の決定方法について
公選法によれば、議員の選挙区は郡あるいは市の区域によるとされている(同法一
五条一項)。これは、行政区画が地理的条件や歴史的沿革からいつても一つの集合
的意思協同体を形成しており、地域代表選出の単位としてふさわしいからであつ
て、憲法上の地域代表的性格加味の要請の具体化されたものである。
そして、郡市の人口が当該都道府県の人口をその議員定数で除して得た数に達しな
い場合については、いわゆる強制合区(公選法一五条二項)、任意合区(同法三
項)の規定が設けられているところ、千葉県においては、昭和三九年以来県政の総
合的な推進及び地域開発の推進を図る目的から、郡を中心とする特定地域を限り、
地方自治法一五五条の規定に基づく支庁制度を採用しているが、支庁の管轄区域に
ついては、地理的条件、歴史的沿革等を考慮してこれを決定し、かつ、約二〇年間
にわたりこれを維持してきたのであるから、合区にあたつてはある支庁の管轄区域
内の選挙区を他の支庁の管轄区域内の選挙区と合区することは考えられない。更
に、公選法二七一条二項においては、昭和四一年一月一日現在設けられている選挙
区については、本来強制合区の対象となるべきものであつても、当分の間、議会の
裁量で当該区域を独立の選挙区として存続させることができるものとされている。
以上からすると、同法一五条に基づく選挙区の決め方自体からも一対四程度の人口
較差の存在は当然予定されていることが看取され、まして同法二七一条二項が適用
された場合には較差は一対四をこえることが予定されているのである。右条項の適
用により設置されている海上郡選挙区をもつて較差を計る基準とすること自体誤り
といわなければならない。
(三) 議員定数の配分方法について
公選法は、各選挙区への議員定数の配分方法について、原則として人口比例とする
が、特別な事情がある場合には地域間の均衡を考慮にて人口以外の諸要素を総合勘
案して行うことができるとしている(同法一五条七項)。
右は、近年における激しい人口変動により、過密地域・過疎地域の出現、大都市に
おけるいわゆるドーナツ現象等がみられる反面、地方公共団体の行政は人口の多少
のみによることなく均衡を保つて行われるべきであり、特に都道府県にあつては、
人口減少地域に対する補完行政、広域行政の需要が増大していること、国勢調査ご
とに各選挙区の議員定数が激変することは制度の運用上好ましくないことなどか
ら、特別の事情があるときは、概ね人口を基準としつつ、地域間の均衡を考慮して
各選挙区の議員定数を定めうることとしたものである。したがつて、この特例を適
用し、議会の合理的裁量により制定された選挙区条例も適法、合憲である。
3 千葉県における選挙区及び議員定数配分に関する条例の改正経緯
(一) 昭和二二年の第一回県議会議員選挙から昭和四二年の第六回選挙までの間
は、選挙区はすべて公選法一五条一項の定める郡市の区域によつており、強制合区
規定(同条二項)及び任意合区規定(同条三項)に該当する選挙区は皆無であつ
た。また、選挙区別定数についても、昭和四四年の法改正により同法一五条七項但
書の規定が設けられる以前は、全く人口比例によつていた。
(二) 昭和四五年七月に我孫子町に市制が施行され、我孫子市となつたが、同市
の人口が県全体としての議員一人当り人口に達しないため、公選法一五条三項を適
用し、任意合区による東葛飾郡・我孫子市選挙区として設置したが、選挙区別定数
に変動はなかつた。
(三) 昭和五〇年の第八回選挙における選挙区及び選挙区別定数については、昭
和四五年の国勢調査人口に基づいて決定すべきことになり、従来の「各選挙区にお
いて選挙すべき千葉県議会議員の数を定める条例」(昭和四一年千葉県条例第五五
号)及び「千葉県議会議員選挙にむける選挙区の特例に関する条例」(昭和四四年
千葉県条例第三五号)を廃止し、新たに選挙区条例が制定された。右は、人口流入
による都市部への人口偏在という現象が顕著化して以来初めての制度改正であつた
が、前記国勢調査人口に基づく法定数七九名を総定数とし、三五の選挙区が定めら
れ、これら選挙区に定数が配分された。
まず、選挙区の決定に関しては、(1)海上郡選挙区及び匝瑳郡選挙区は配当基数
(県の総人口に対する各選挙区の人口の割合に応じ総定数を按分して得られる数)
が〇・五をわずかに下回り強制合区規定(公選法一五条二項)の適用対象となつ
た。しかし、同法二七一条二項は、都市への過度な人口集中によつて生ずる地域間
の不均衡を避けるため、昭和四一年一月一日現在設けられている選挙区については
同法一五条二項の規定にかかわらず独立の選挙区とヒてこれを存置しうるものと定
めており、千葉県における人口集中現象はまさに右二七一条二項を適用すべき状況
であつたので、右規定によつて右両選挙区は独立の選挙区として存置されることに
なつた。
(2)東葛飾郡においては、<地名略>、<地名略>、<地名略>がいずれも他の
市の区域によつて分断されて飛地となつたが、それぞれ隣接する市川市、野田市、
我孫子市に強制合区された。(3)印旙郡においては、<地名略>が飛地となつて
いたが、過去二〇年間印旙郡選挙区を構成してきたところから従前どおり同選挙区
に属するものとされた。(4)安房郡においては、鴨川市の市制施行に伴い<地名
略>が飛地となつたが、同市と強制合区された。(5)その他の郡又は市はそれぞ
れ同法一五条一項により独立の選挙区とされた。
次に、選挙区別定数については、同法一五条七項本文の原則に従い人口比例により
議席を配分した場合、定数が従前に比し一名減となる選挙区として香取郡、山武
郡、長生郡、夷隅郡の各選挙区があつたが、これらの地域は、千葉県の基幹産業で
ある農業の振興地域及びレクリエーシヨン地域として重要な役割を有しているこ
と、現在及び将来にわたり行政需要の増大が見込まれること、定数減の原因である
配当基数の低下が専ら大都市近郊地域における人口急増によつて生じた相対的なも
のであること、他地域との格差が存在すること等の特別の事情を考慮し、他地域と
の実質的均衡を図る観点から、同法一五条七項但書を適用し、従前の定数を維持す
ることとされた。その他の選挙区については、同法二七一条二項の特例選挙区(海
上郡、匝瑳郡)にそれぞれ一名配分されたほかは人口比例により配分された。
以上のとおり、選挙区条例の制定にあたつては、法の定めるところにより選挙区の
設定、定数配分が行われたものであり、公選法二七一条二項による特例選挙区の設
置、同法一五条七項但書による人口比例によらない定数配分もそれぞれ合理性のあ
るものであつたから、その結果として生じた投票価値の数字上の較差を問題とする
のは意味がない。
(四) 昭和五四年の第九回選挙は、「千葉県議会議員の定数を減少する条例」
(昭和五三年千葉県条例第五三号)に基づき総議員定数を従前どおりの七九名とし
て実施された。
右総定数を前提に、昭和五〇年国勢調査人口、地域的要素等を考慮のうえ、選挙区
及び選挙区別定数につき改めて検討した結果、選挙区については、公選法二七一条
二項適用選挙区(海上郡、匝瑳郡選挙区)の存続を認め従来どおりの選挙区による
こととし、選挙区別定数については、人口比例により配分した場合、印旙郡、香取
郡、山武郡、
長生郡、夷隅郡、安房郡の各選挙区において選挙区別定数が従前に比し一名ずつ減
少することとなるが、これら地域については、(三)で同法一五条七項但書適用選
挙区について述べたと同様の諸事情のほか当該地域からの代表確保の要請等もあ
り、これらを考慮し、他地域との実質的均衡を図る観点から右条項但書を適用する
こととして定数配分が定められた。
(五) 次いで施行された昭和五八年の第一〇回選挙(すなわち本件選挙)につい
ては、昭和五七年一二月の定例県議会において、総定数、選挙区及び選挙区別定数
につき昭和五五年国勢調査人口、地域的要素等を勘案し改めて検討された。
その結果、総定数は従前どおり七九名とされ、選挙区については、これより先浦安
市、四街道市が市制施行によりそれぞれ独立の選挙区となり選挙区数は三七となつ
ていたところ、勝浦市選挙区については配当基数が〇・五をわずかに下回り、強制
合区の場合に該当したが、公選法二七一条二項の立法趣旨及びこの地域の有する事
情等(これについては4で詳述する。)を考慮して、海上郡、匝瑳郡各選挙区とと
もにこれについても右条項を適用し、従前どおり独立の選挙区とすべく選挙区条例
の一部改正が行われた。また、選挙区別定数については、人口比例により配分され
た場合、長生郡、山武郡、香取郡、夷隅郡、安房郡、銚子市、市原市の各選挙区に
おいて定数が一名ずつ減少することとなつたが、これら地域については、それぞれ
のちに4において述べるような特別な事情があることから、これらを考慮し、他地
域との実質的均衡を図る観点から、同法一五条七項但書を適用し、従来からの定数
を確保することが適当であるとされて、その旨の選挙区条例の一部改正がされた。
(六) 以上のとおり、現行選挙区条例は昭和五〇年の第八回選挙に適用された条
例をその原型とするが、右条例については、以後選挙の都度議会において国勢調査
の結果、地域の実情、条例の制定経緯等を考慮しつつ改めてその内容の検討が行わ
れ、所要の改正を経てそれぞれの選挙に適用されてきたものであり、その内容に合
理性に欠ける点はない。
4 定数配分上考慮すべき各地域の状況
(一) 人口の著しい増加とその偏在
千葉県における国勢調査人口は、昭和三五年以降経済の高度或長に伴う人口の大都
市圏への集中により、首都近郊の千葉、東葛飾地域を中心として著しく増加し、
昭和三五年に二三〇万六〇一〇人であつたものが二〇年後の昭和五五年には二・〇
五倍の四七三万五四二四人になつており、その殆どは他県からの流入すなわち人口
の社会増に基づくものである。
人口増減を地域的に見ると、人口増(特に社会増)の著しい地域は、首都近郊地域
内市町村(千葉市、市川市、船橋市、木更津市、松戸市、野田市、成田市、佐倉
市、習志野市、柏市、市原市、流山市、八千代市、我孫子市、鎌ケ谷市、君津市、
浦安市、四街道市、東葛飾郡(<地名略>、<地名略>)、君津郡(<地名略
>)、印旛郡(<地名略>、<地名略>、<地名略>、<地名略>、<地名略>、
<地名略>、<地名略>、<地名略>)(以下これらの市町村を「近郊内地域」と
いう。))であり、それ以外の地域(以下「近郊外地域」という。)は総じて人口
の増減の少ない地域となつている。
(二) 地域的格差とその是正措置
近郊内地域は、商業、工業の集積化が高い地域であるとともに、東京圏へのベツド
タウンとして都市化が進んでいる地域であり、近郊外地域は、農業、水産業等の一
次産業が中心をなし、首都圏の食糧供給基地として、また、レクリエーシヨン空間
として大きな役割を担つている地域である。
人口増加が昭和三〇年代後半に始まり、同四〇年から同四五年にかけてそのピーク
に達し、今なお、全国一の増加率で進んでいる近郊内地域においては、都市環境整
備が官民により実施され、種々の課題を抱えつつも居住環境は整備されつつある。
一方、近郊外地域においては、雇用の場の不足、地域魅力の欠如等により若年労働
者の都市部への流出に伴う地域活力の停滞、地域内人口の著しい高齢化といつた問
題を抱えており、加えて、両地域間には、公共施設整備、交通機関等の生活の利便
性の面で、或いは、所得の面で大きな格差があり、これら両地域間の格差の是正を
図り、本県の均衡ある発展を図ることが昭和四〇年代から現在に至るまで県政上の
最も大きな課題の一つとなつている。
各地域間の格差の是正、特に近郊内地域と近郊外地域との格差の是正を図り、本県
の均衡ある発展を図るため、本県の特性、各地域の特性、実情等を十分考慮に入れ
たうえ各地域間の実質的均衡を実現するための種々の措置がとられるべきことが特
に強く要請されている。
(三) 公選法二七一条二項適用選挙区について
(1) 海上郡選挙区
本選挙区は、東京から約八〇キロ、千葉市から約五〇キロの千葉県の東北端に位置
し、
主な産業は、農業、水産業となつている。農業に関しては、キヤベツ、スイカ、カ
リフラワー等の特産地であり、水産業においては鰯、白魚、カニ等の水揚げがあ
り、首都圏の生鮮食糧供給基地として重要な役割を果たしてきている。
また、良好な海水浴場や観光資源を有し、首都圏の健全なレクリエーシヨン地とし
ての役割が大きくなりつつある。
その反面、農業については、かんがい用排水等の土地基盤整備の遅れ、施設野菜を
中心とした連作障害、農業従事者の高齢化、農業後継者問題等、漁業についても生
産費用の増大、漁業従事者の高齢化等の問題を抱えており、観光についても夏季型
であり、優れた観光資源を十分生かした通年型、宿泊型観光への展開が望まれてい
る。
また、主な交通手段である国鉄総武本線の複線化の促進をはじめ、東京、千葉方面
への輸送力増強のための交通網整備が要請されている。
更に、地域内に就業の場が少ないことから若年層の流出が著しく、地域内人口の高
齢化が急速に進んでおり、地域活力の低下を招来している。
そのほか、近郊内地域に比し、公共施設整備等の居住環境、所得等の面で格差がみ
られ、また他の近郊外地域との比較においても交通網、公共施設整備等に格差があ
り、当地域の今後の重要性とあいまつて課題解決、格差是正のため、今後とも行政
需要の増大が見込まれる状況にある。
これらの状況に加えて、この地域における最近二回の国勢調査人口が、いずれも微
増していること、配当基数の低下が近郊内地域の人口急増による相対的なものであ
ること、隣接他都市から独立した生活圏域を有していること、議員選出の歴史的経
緯、当該地域からの代表確保の要請等を総合的に勘案し、二七一条二項を適用する
旨が決定されたものである。
(2) 匝瑳郡選挙区
本選挙区は、東京から約七〇キロ、千葉市から約四〇キロの千葉県の東北に位置
し、主たる産業は農業であり、米作を基調に養豚、野菜の露地、ハウス栽培、観葉
植物、庭木栽培が行われている。また、良好な海水浴場を有し、首都圏の食糧基
地、観光レクリエーシヨンゾーンとしてその重要性を高めている。
主要交通機関として国鉄総武本線が地域内を通過しているが、下車駅は設置されて
いない。
この地域も海上郡選挙区と同様の課題、他の近郊外地域、近郊内地域との格差を抱
えており、今後ますます行政需要の増大が見込まれる状況にある。
これらの状況、
この地域における最近二回の国勢調査人口がいずれも微増していること、配当基数
の低下が専ら近郊地域内の人口急増による相対的なものであること、隣接郡市とは
独立の生活圏域を有していること、議員選出の歴史的経緯、地域からの代表確保の
要請等を総合的に勘案し、二七一条二項を適用する旨が決定されたものである。
(3) 勝浦市選挙区
勝浦市は、県内東部、東京から約七五キロ、千葉市から約四五キロに位置し、天然
の良港と好漁場に恵まれ、夷隅地区内の経済活動の中心となつている。
更に近年は、南房総における観光レクリエーシヨンの拠点都市としての発展を目指
し、海中公園等の整備をはじめ、積極的な観光振興施策が展開されているほか、国
際武道大学の建設も進められている。
主な産業は、農業、水産業であり、特に水産業は、勝浦漁港を中心として漁船漁業
や水産物流通の一大拠点となつており、首都圏の生鮮食糧基地として重要な機能を
果たしてきたほか、優れた自然景観を生かした観光レクリエーシヨン空間として期
待されている。県もこれら地域を含めた広域観光開発の推進を検討している。
その反面、主要産業である農業については、基盤整備の促進、高齢化、後継者対
策、漁業については、採取漁業から栽培漁業への転換の促進、高齢化、後継者対策
等の課題を抱えている。
主要交通機関である国鉄外房線の複線化も含め、交通網の整備の要請が強い。
これらの課題に加え、前記二選挙区と同様の格差がみられ、今後この地域における
行政需要の急増が見込まれる。
これらの行政需要の増大、この地域における配当基数の低下が主として近郊内地域
の人口急増によるものであること、武道大学建設等により、今後大幅な人口増が見
込まれること、夷隅地区の中核都市として隣接郡とは異なつた独立の生活圏域を有
していること、議員選出の歴史的経緯等を総合的に勘案し、これを独立の選挙区と
して存置することが決定されたものである。
(四) 公選法一五条七項但書適用選挙区について
(1) 長生郡選挙区
本選挙区は、昭和三四年の選挙以来代表二名を選出し、今日に至つている。
本地域は、本県のほぼ中央部、東京から約六五キロ、千葉市から約三五キロに位置
し、丘陵地域、中央平野地域及び海岸地域とから成り、面積は二二七・四八平方キ
ロである。
主たる産業は、農業であり、米作を基調に、畜産、施設園芸、
露地野菜生産等が行われており、メロン、トマト、きゆうり、玉ねぎ、ねぎなどの
特産地として知られ、首都圏の食糧供給地として重要な役割を果たしてきている
が、近年、他産業との所得格差の拡大等に伴い、後継者確保対策、基盤整備等種々
の課題を抱えている。
工業については、天然ガスの豊富な埋蔵量を有し、これを活用した企業の誘致が積
極的に検討されており、本県における内陸工業振興上極めて重要な役割が期待され
ている。一方、天然ガス汲み上げに伴う地盤沈下があり、広域的な対策が必要とさ
れている。
観光については、海岸部及び丘陵部に多様性に富んだ観光資源を有しており、首都
圏におけるスポーツ、レクリエーシヨン空間としての重要性を高めている。
主な交通機関としては、国鉄外房線が地域内を通過しているが、茂原市から先は単
線であり、この複線化をはじめ道路・交通網整備の要請が強い。
また、近郊内地域に比し、道路の改良、舗装、ごみ、し尿処理等生活環境施設につ
き大きな格差が見られ、これらの整備が大きな課題となつており、人口の高齢化も
進んでいる。
この地域における人口は、昭和三〇年代から四〇年代にかけて首都圏への流出が著
しかつたが、最近は、首都圏の外延的拡大に伴つて増加しており、今後も、交通網
の整備の進展に伴い人口の増加が見込まれている状況であつて、本選挙区の配当基
数の低下は、近郊内地域における人口急増に伴う相対的低下によるものである。
以上のような特別の事情を考慮し、この選挙区につき議員定数を特に増加して二名
とする旨決定されたものである。
(2) 山武郡選挙区
本選挙区は、昭和三八年以降今日まで代表三名を選出してきている。
この地域は、東京から約六〇キロ、千葉市から約三〇キロの九十九里平野の中央に
位置し、丘陵地域、平野地域、海岸地域から成り、面積は、三〇一・五九平方キロ
である。また、新東京国際空港の裏側に位置し、圏城北部は航空機の離着陸コース
となつており、地域の一部に空港用地が含まれていることから新東京国際空港の影
響を強く受けている。
主たる産業は第一次産業であり、農業においては水稲、野菜、畜産、果樹等の生産
が行われ、施設園芸によるメロン、トマト、イチゴ等の特産地もあり、林業におい
ては、杉、檜の優良材が生産されており、しいたけ等の特用林産物の生産も多く、
水産業は、鰯漁を中心とした沿岸漁業と加工業が中心であり、
首都圏及び新東京国際空港への生鮮食糧供給基地として重要な機能を果たしてきて
いる。しかしながら、近年の社会経済情勢の変化に伴い、若年層を中心に二次、三
次産業へ労働力の流出が多く見られ、後継者難はじめさまざまな課題を抱えてい
る。
また、本地域は、太平洋に面した美しい海岸線、森林地帯、名所史跡等多くの観光
資源を有しており、主として海水浴場として首都圏の行楽客を集め観光レクリエー
シヨン地域として重要な役割を果たしているが、この殆どが夏季集中、日帰り型で
地域経済に与える効果は少ない。このような状況の中で、蓮沼村に九十九里レクリ
エーシヨン都市が建設されていることと相まつて通年型、宿泊型観光への転換、広
域観光ルートの整備等が課題とされており、首都圏におけるスポーツ、レクリエー
シヨン空間としての今後の役割がますます大きくなることが予想される。
主な交通機関として国鉄外房線、総武本線、東金線があるが、総武本線、東金線は
いずれも単線であり、東京千葉方面への運行本数も少なく、これらの改善とともに
特に夏季に混雑の著しい狭い道路等の整備が課題とされている。加えて、本地域
は、前記の如く新東京国際空港の影響を極めて強く受けていることから、航空機騒
音の著しい地域の住民生活を守るため、広域的観点からの騒音の防止と合理的土地
利用推進が大きな課題とされている。
また、地域内人口の高齢化が著しく、近郊内地域に比して公共施設整備等に大きな
格差が見られ、これら生活環境施設の整備も必要とされている。
一方、新東京国際空港の影響、首都方面への通勤圏の拡大等により宅地開発の進行
が見られ、最近二回の国勢調査人口はいずれも増加しており、今後も人口の増加が
見込まれる。したがつて、本選挙区における配当基数の低下は、専ら近郊内地域に
おける人口急増によつてもたらされたものである。
以上のような特別の事情を考慮し、本選挙区についてはその議員定数を特に増加し
て三名とする旨決定されたものである。
(3) 香取郡選挙区
本選挙区は、昭和三四年の県議選以降は代表三名を選出し、現在に至つている。
本選挙区は、東京から約七〇キロ、千葉市から約四〇キロの本県の北東に位置し、
新東京国際空港とは至近距離にあり、また、鹿島臨海工業地帯、筑波研究都市にも
近い地理的条件を有しており、面積は県内最大の三九四・四三平方キロである。
地域の主たる産業は農業であり、水稲を中心に野菜等の栽培が行われ、また養豚を
中心とした畜産も盛んで県内でも進んだ農業地域となつており、首都圏の食糧供給
基地として重要な役割を果たしてきている。
しかし、最近は、農業就業者数の減少、農業従事者の高齢化、後継者不足等の課題
を抱えており、また、若年層農業従事者が雇用の場を求め地域外に出ることが多
く、雇用機会の創出が大きな課題となつている。
主たる交通機関は、国道五一号、三五六号及び国鉄成田線、鹿島線であるが、交通
需要の増大に伴う交通渋滞が生じがちであり、国鉄も運行本数が少なく単線であつ
て、総体的に交通の利便性が低いため、これらの整備が要請されている。
また、本地域内の公共施設の整備状況も近郊内地域に比し遅れており、上水道の普
及や下水道の整備を推進することが要請されているばかりでなく、人口増に伴う将
来にわたる水需要の増大やし尿処理の収集量の増加に対処できるようにすることが
大きな課題となつている。
更に、この地域の最近二回の国勢調査人口は、いずれも増加しており、今後も増加
が見込まれる。
以上のような特別の事情を考慮し、本地域についてはその議員定数を特に増加して
三名とする旨決定されたものである。
(4) 夷隅郡選挙区
本選挙区は、昭和三四年の県議選以降代表二名を選出し、現在に至つている。
本地域は、本県のほぼ東南部、東京から約六五キロ、千葉市から約四五キロに位置
し、面積は三一四・二五平方キロである。自然環境に恵まれ、農林水産業を基幹産
業とし、首都圏の食糧供給基地として、また、優れた自然景観を生かし首都圏にお
ける観光レクリエーシヨン地域として重要な役割を果たしてきたが、農業について
は後継者不足、基盤整備の遅れなど種々課題を抱えている。
一方、経済の高度成長期にもいて著しかつた人口の流出傾向は最近に至り鈍化のき
ざしがみられるものの、農林水産業の停滞、良好な就労機会が地域内に乏しいこ
と、交通基盤、生活及び文化関連施設等の整備が近郊内地域に比べ立ち遅れている
こと等により、地域全体としては若年層を中心とした人口減少が依然として続いて
おり、人口構造の老齢化が進行し、地域活力の低下を招いている。
この地域の主な交通機関として国鉄木原線、外房線があるが、単線であり、また木
原線は利用客の減少によりその存続が危ぶまれ、交通網の充実の要請が強い。
このような中で、県としては、農業基盤整備、木原線沿線開発等種々の事業を計
画、実施してきている。
以上のような特別の事情を考慮し、本地域についてはその議員定数を特に増加して
二名とする旨決定されたものである。
(5) 安房郡選挙区
本選挙区は、昭和三四年の県議選において定数四名となり、その後、昭和四二年の
県議選以降は三名の代表を選出していたが、鴨川市・<地名略>選挙区が分離独立
し、昭和五〇年以降定数二名となり現在に至つている。
本地域は、房総半島の南部に位置し、面積は二七五・二〇平方キロで三方を東京湾
と太平洋に囲まれており、海岸は南房総国定公園となつている。また、北部から中
央部にかけては丘陵地帯となつており、森林地帯を形成している。
本地域の基幹産業は農・漁業の第一次産業と観光である。農業は、丘陵部が多いた
め狭小な農地が多く、水利にも恵まれない等地形的制約を受けているが、温暖な気
候を生かした畜産物、野菜、果樹、花きなどの特産地となつており、また、漁業は
恵まれた立地条件はあるが小規模経営の沿岸漁業を中心に営まれており、首都圏域
への生鮮食糧等供給基地として重要な役割を担つてきたが、後継者不足、基盤整備
の遅れなど多くの課題を抱えている。
また、夏は数多い海水浴場、春は南部の無霜地帯を中心に形成される花畑などを観
光資源として首都圏における健全な保養・行楽地として重要な機能を果たしてきて
いるが、道路交通体系の立遅れ等により産業経済は伸び悩み、地域人口は全体とし
て微減傾向にあり、特に若年層の圏域外への流出による人口構造の急速な高齢化現
象が進行し、地域活力の停滞化がみられる。
また、公共施設整備をはじめ生活環境施設の整備等についても、近郊内地域に比
し、かなりの立遅れが見られる。
このような状況にかんがみ、国道のバイパス建設、主要地方道の拡幅等の道路網の
整備、国鉄内房線の複線化の早期実現等により地域の袋小路性を打破するととも
に、恵まれた自然環境と豊かな海洋資源を活用して地域産業の再開発を図り、魅力
ある周年レクリエーシヨンゾーンの形成、若者に就業の機会と生活の魅力を与える
地域形成、高齢化社会に対応する福祉の充実等を図ることが本地域の課題となつて
いる。
以上のような特別の事情を考慮し、本地域についてはその議員定数を特に増加して
二名とする旨決定されたものである。
(6) 銚子市選挙区
本選挙区の議員定数は、昭和三四年から四二年の間は三名、その後現在に至るまで
は二名である。
本地域は、千葉県の最東部、首都圏から百キロ圏内に位置しており、北は利根川、
東は太平洋に面し、温暖な気候と雄大な自然に恵まれている。古くから日本有数の
漁業基地として、また利根川を利用した水上交通の拠点として発展してきており、
現在は周辺地域の中核都市として機能している。
しかしながら、近年の社会経済環境の転換に伴う就業構造の変化により、若年労働
力の流出が顕著となり、六五歳以上人口の占める比率が県平均の一・五倍にも達す
るという人口構成の高齢化を招いている。
本地域の水産業は、本県水産業の中心的位置を占めており、その漁獲量は県全体の
四〇パーセント近くに達している。しかし、沿岸・沖合漁業中心という特性及び流
通機構の未整備を原因とする漁獲量、魚価の不安定が、漁業経営を圧迫しており、
漁業従事者の減少につながり地域の雇用吸収力を弱めている。今後、地域産業とし
ての水産業の確立を推進するためには、遠洋漁業を含めた総合的な漁業基地の整備
を促進するとともに、地元の水産加工業の育成が強く望まれる。
また、本地域の農業は、露地野菜を中心に、水稲及び畜産を加えた複合経営が主体
となつており、特に春キヤベツは国の指定産地となるなど、首都圏に隣接する有利
な立地条件とあいまつて、生鮮食糧供給基地としての役割を果たすことが期待され
ている。しかし、農家戸数及び農家人口並びに耕地面積は年々減少を続けており、
今後生産性の高い近代農業経営を推進するために、優良農地の保全・確保、基盤整
備、用水事業の促進、生産流通組織の育成強化等、一連の諸施策を有機的に関連づ
けながら実施していく必要がある。
さらに、道路、下水道、学校等の生活関連施設の整備は、近郊内地域に比してかな
り立遅れており、大動脈である国鉄総武本線、成田線は単線で運行本数も少なく、
定住化を阻害する大きな要因となつている。
以上のような特別の事情を考慮し、本地域についてはその議員定数を特に増加して
二名とする旨決定されたものである。
(7) 市原市選挙区
本選挙区は、昭和三八年の市制施行により独立の選挙区となつて以来二名の議員定
数を有し、昭和五〇年県議選から定数は四名となつた。
市原市は、首都東京から約五〇キロメートル圏内で、市としては、千葉県最大の面
積(三六七平方キロ)を有する区域である。戦後は、純農漁村の地域として推移
し、人口も減少傾向をたどつてきたが、昭和三二年からの京葉臨海工業地帯の造成
による重化学工業の進出を契機に臨海部の埋立地域において人口の急激な伸びを示
し、昭和五〇年には、昭和三五年の人口の二倍にも達した。このように、臨海部に
おいては都市近郊内地域の特性を有するようになりながらも、本市の大部分の区域
は、旧来からの農業を中心とする人口停滞地域である。しかしながら、これらの区
域も、米・野菜・しいたけ・牛乳等を中心とする首都圏の食糧供給基地として、今
後、ますますその重要性が高まるものと思われ、また丘陵地帯は、都心からの日帰
りレクリエーシヨン圏域としてゴルフ場が数多く建設されているほか、養老溪谷に
おいてハイキング、キヤンプが行われるなど県内有数のレクリエーシヨンゾーンと
もなつている。他方において、これら区域については、道路等交通体系の整備、
上・下水道、子供の遊び場、図書館等の生活環境施設及び文化施設の整備が緊要な
課題とされ、県に対する住民の行政需要の要請は強い。現在、本市の人口の伸びは
鈍化の傾向にあるものの微増しており、配当基数の低下は専ら近郊地域内の人口急
増による相対的なものである。
以上のような特別の事情を勘案し、本地域についてはその議員定数を特に増加して
四名とする旨決定されたものである。
5 逆転現象について
地方公共団体の議員選挙制度につき、憲法及び法律は、人口比例の原則によりつつ
も、この原則にある程度背馳するような地域代表的選挙制度の採用をも許容してお
り、かつ、具体的な選挙区の決定及び定数配分については当該地方公共団体の議会
に裁量権を与えているものと解されることは、前述のとおりである。したがつて、
本件選挙において、公選法一五条七項但書及び二七一条二項の適用により議員定数
が定められた結果としていわゆる逆転現象が一部の選挙区につき認められるとして
も、右各規定の適用そのものに合理的理由が認められる限り、それのみでは違憲の
問題を生ずる程度の著しい不平等が生じているものということはできない。
第三 証拠(省略)
○ 理由
第一 本件訴えの適法性について
一 請求原因1の事実(本件選挙の施行と当事者の点)、同2(一)、(二)の事
実(原告選定者らの異議申出、本件決定、その理由の点)は当事者間に争いがな
い。
二 被告の本案前の主張に対する判断
1 異議申出の有無
前記異議申出が本件選挙全体の無効を主張するものであつたことは当事者間に争い
がない。しかし、右異議申出は、原告選定者らが選挙人としで所属する我孫子市・
<地名略>選挙区における右選挙の効力を争う趣旨をも含むものであり、かつ、原
本の存在・成立につき争いのない甲第一号証によれば、原告選定者らは右異議申出
に際し具体的に右選挙区における選挙の違法事由を指摘しているのであるから、こ
れにつき右選挙区における選挙に対する異議申出としての効力を認めるべきであ
り、これを本件訴訟の前提たるべき異議申出に当たらないとする被告の主張は失当
である。
2 被告適格、選挙訴訟の対象としての適格
被告は、本件のような議員定数配分規定の瑕疵を理由として選挙の効力を争う訴訟
については選挙管理委員会は被告適格を有せず、また、このような理由に基づく訴
訟において請求が認容されても早期に瑕疵を是正して再選挙を実施することはでき
ないのであるから、このような訴えは不適法である旨主張する。しかしながら、後
述のとおり、地方公共団体の議会の議員の選挙に関し、住民が選挙権行使の資格に
おいて平等に取り扱われるべきであるのみならず選挙権の実質的内容においても平
等に取り扱われるべきことは、地方自治の根幹にかかわる要請であるところ、公選
法二〇三条の選挙の効力に関する訴訟は、現行法上選挙人が地方公共団体の議会の
議員の選挙の適否を争うことのできる唯一の訴訟であつて、これを措いて他に訴訟
上議員定数配分規定の違憲、違法を主張してその是正を求める機会はなく、また、
定数配分規定の違憲、違法は、選挙の管理、執行上の瑕疵以上に重大な瑕疵なので
あるから、右のような理由によつて選挙の効力を争う訴訟もまた同条によつてこれ
を提起しうるものと解すべきである(最高裁判所昭和四九年(行ツ)第七五号同五
一年四月一四日大法廷判決・民集三〇巻三号二二三頁、最高裁判所昭和五八年(行
ツ)第一一五号同五九年五月一七日第一小法廷判決参照)。このような訴訟におい
て判決により定数配分規定に違憲又は違法の点のあることが確定された場合、これ
に応じて速やかに右規定を是正することにつき事実上又は法律上の障害があつて
も、その障害が単に是正の困難を意味するにとどまり絶対的な不可能を意味するの
でなければ、それが存在することは、右訴訟をもつて右規定の違憲、違法に対する
救済手段とすることを否定する理由として十分でないことはいうまでもない。とこ
ろで、公選法三四条一項の規定によれば、地方公共団体の議会の議員の再選挙はこ
れを行うべき事由が生じた日から五〇日以内に行うべきものとされているが、本件
のような訴訟につき定数配分規定を違憲又は違法とし選挙を無効とする判決があつ
た場合、右期間内に定数配分規定を是正したうえ再選挙を行うことが実際上不可能
というべきであるとしても、右のような事由に基づいて選挙が無効とされた場合に
は例外として右期間経過後に定数配分を是正したうえで再選挙を施行することも許
されるものと解する余地があり、また、地方自治法九〇条四項の規定が必ずしも定
数配分是正の妨げになるものでないことは、のちに3において述べるとおりであ
る。更に、このような訴えを適法とすると、各選挙区の選挙がいずれも無効とされ
ることにより定数配分規定の是正そのものが不可能になるという事態を生ずること
も考えられることは被告指摘のとおりであるが、そのような事態は常に生ずるとは
限らないのであるし、また、そのような事態の発生を防止するためには、のちに述
べるところから明らかなように、必ずしも右訴え自体を不適法と解する以外に手段
がないわけではないから、右被告指摘の点も直ちに右訴えを適法と解する妨げにな
るものではない。よつて、被告の前記主張は採用し難い。
3 訴えの利益
被告は、地方自治法九〇条四項の規定により都道府県の議会の議員総定数の変更は
一般選挙の場合でなければできないとされていることを根拠として、本件のような
訴訟につき原告勝訴の判決がされても定数配分を是正して再選挙を施行することは
できないから、本件訴訟は訴えの利益を欠くと主張する。しかし、地方自治法の右
規定は、従前の定数配分規定そのものが違憲、違法とされる場合についてまで、右
違憲又は違法とされる規定による定数配分の結果を次に施行される任期満了等によ
る一般選挙の時期に至るまでの間維持せしめようとする趣旨を含むものではないと
いうべきであり、定数配分規定の違憲、違法を理由として選挙を無効とする判決が
された場合には、速やかに定数配分規定を改正したうえこれに基づく適法な選挙を
施行すべきものと解される(前記最高裁判所昭和五九年五月一七日第一小法廷判決
参照)。したがつて、被告の前記主張は採用することができない。
4 司法審査の対象としての適格性
被告は、本訴請求は高度の政治問題に属する事項を目的とするものであるから司法
審査になじまない旨主張する。
地方公共団体の議会の議員定数の配分問題ないしその配分の前提となる選挙区の設
定の問題は、地方政治の動向に重大な影響を与えうるものであるばかりでなく、こ
れを具体的に決定する権限は右議会に属するものとされ、かつ、右決定にあたつて
判断されるべき事項のうちのあるもの(すなわち、公選法一五条三項による任意合
区を行うか否か、同条七項但書により定数配分を行うにあたつて人口以外の考慮要
素である「地域間の均衡」をどのように考慮するか、同法二七一条二項により強制
合区の特例としての選挙区を設置するかどうか等)は、必ずしも全面的には司法審
査に親しまないような要素を有し、その限度において議会の裁量的判断に委ねられ
ている面が存することは否定できない。しかしながら、その反面において、この問
題は、地方公共団体の住民の選挙権の内容上の平等に直接かかわつており、また、
地方公共団体の議会そのものの成立の具体的な基盤が合憲かつ適法に形成されてい
るかどうかを問うものであつて、これに関する判断の当否を全面的に右議会自身の
いわゆる政治責任に委わることは、事柄の性質上相当ではないと考えられる。以上
の点を考慮すると、右問題について議会の決定したところがその裁量に委ねられた
範囲を逸脱しているとして、後述のとおり憲法ないし公選法によつて保障されてい
るものと考えられる投票価値の平等の原則との抵触が問題とされる場合には、これ
を司法審査の対象とすることができるものと解すべきである(前記各最高裁判所判
決参照)。
三 前記当事者間に争いのない事実及び本件記録によれば、原告選定者らの前記異
議申出が公選法二〇二条一項所定の期間内にされたこと、本件訴えの提起(昭和五
八年五月一七)が同法二〇三条一項所定の期間内にされたことがそれぞれ明らかで
あるから、本訴は右条項による訴えとして適法というべきである。
第二 本件定数配分規定の適否について
原告は、本件選挙に適用された定数配分規定は憲法上の投票価値の平等の要請、公
選法一五条七項の人口比例の原則に反すると主張するので、以下検討する。
一 憲法、公選法と投票価値の平等
1 憲法一四条一項は、国民はすべて法の下に平等であると規定するが、右の法の
下の平等の要請は、憲法一五条一項、三項による公務員の選挙における選挙権の行
使にも及ぶものというべきであり、しかも、それは形式的な投票資格の平等のみで
はなく、実質的な投票価値の平等をも意味するものと解すべきである。したがつ
て、選挙区制をとる選挙にあつては、各選挙区間で選挙人の投票価値に不平等が生
じないように配分される定数の均衡が図られるべきであり、かつ、この要請は、憲
法四三条一項、四四条但書において国民代表、選挙人資格における差別の禁止の定
められている国会議員の選挙について存するにとどまらず、憲法九三条二項により
住民の直接選挙により選出されるべきものとされる地方公共団体の議会の議員の選
挙についても同様に存するものと解すべきである。このことは、憲法九二条におい
て地方公共団体の組織、運営は地方自治の本旨に基づいて定められるべきであると
されていることに照らしても明らかである(前記各最高裁判所判決参照)。
2 右のような各選挙区間の定数の均衡の要請を完全に実現するには、各選挙区へ
の議員定数の配分が人口に比例してなされることが必要であるが、選挙区の設定や
現実の議員定数の配分にあたつては、投票価値の平等の実現以外にも考慮すべき要
素があり、また、現実の制度として避けることのできない技術的制約もあるので、
公選法はこれらの点を考慮しつつ選挙区の設定方法、定数配分の基準を定めてい
る。
すなわち、都道府県の議会の議員の選挙について公選法の定めるところをみると、
まず、選挙区については、同法一五条一項は選挙区は郡市の区域によるとの原則を
定め、同条二項三項は、郡市の人口が特に少なく、右の原則によつて独立の選挙区
とするのが適当でない場合につきいわゆる強制合区、任意合区を行うべき旨を定め
ているが、これらの規定は、郡市の地域としてのまとまりを重視してこれを議員選
出の単位としつつ、それによつて生ずる投票価値の不平等が極端に拡大しないよう
に図つてもいるものであつて、それなりの合理性を有し、その結果としてある程度
の投票価値の不平等が生ずることが予測されても、そのことによつて直ちにこれら
規定を違憲とすべきでないことは多言を要しない(その反面において、被告の主張
するように、右各規定に基づいて生じうる最大限の較差を想定し、具体的事情のい
かんを問わず右較差以内の不平等は常に合憲、合法であるとするような見解は採用
し難い。)。また、同法二七一条二項は、昭和四一年一月一日現在において設けら
れている選挙区については、その配当基数が〇・五に達しなくなつた場合でも、当
分の間、同法一五条二項の強制合区の規定にもかかわらず、条例で当該区域を独立
の選挙区とすることができる旨を定めている。右規定は、いわゆる高度経済成長下
に生じた都市部ないし大都市周辺部への急激な人口集中、農出漁村の過疎化の現象
をそのまま定数配分に反映させることが、過疎地域の活力の一層の低下を招いたり
一貫性、継続性のある施策を遂行する妨げになつたりすることを慮つたものと解さ
れ、これを不合理なものということはできないから、右規定そのものを違憲という
ことはできず、右規定によつて設けられた選挙区と他の選挙区との間で生ずる投票
価値の較差については、当該選挙区を設けるべきものとした当該都道府県の議会の
判断が著しく不合理でその裁量権の範囲を逸脱しているかどうかという見地からそ
の違憲ないし違法を検討すべきである。そして、その際、現実に生じている較差が
右規定の趣旨を考慮に入れてもなお一般に不合理であるといいうる程度に甚しい場
合には、右裁量権の行使の不当であることが推定されるものと考えられる。
次に、各選挙区への定数の配分について公選法の定めるところをみると、同法一五
条七項は、前記のような憲法一四条一項の趣旨に基づいて、各選挙区において選挙
すべき議員の数は人口(公選法施行令一四四条によれば、同法にいう人口は「官報
で公示された最近の国勢調査又はこれに準ずる全国的な人口調査の結果による人
口」を意味する。)に比例して条例で定めなければならないとするとともに、その
但書において、特別の事情があるときは、おおむね人口を基準とし、地域間の均衡
を考慮にて定めることができる旨規定している。右但書の趣旨は、前記のような人
口の都市集中の結果として、人口比例原則にのみよつた場合には人口非稠密地域の
利害が地方公共団体の施策に十分反映されなくなるおそれがある一方、各地域の社
会・経済事情に著しい懸隔が生じ、このため各地域が当該地方公共団体全体の発展
の上で占める重要さの程度や各地域の積極的な行政上の施策を必要とする程度が必
ずしもその現在の人口に比例しなくなつているところから、特に必要がある場合に
限り、各選挙区の定数の間に適当な均衡を与えるべく人口比例原則をある程度緩和
するにあるものと解される。したがつて、右但書自体は、人口比例の原則から著し
くかけ離れた定数配分を許すものとは考えられず、そのような趣旨の規定としてそ
れなりの合理性を有するものであり、問題は、これを適用して定数配分を定めた議
会の措置(人口と定数との比例関係を失わせるような人口変動があつたにもかかわ
らず従前の定数配分を改めないという不作為をも含む。)が、「特別の事情」の存
否の判断及び結果として生じている投票価値の較差の程度の点で、右但書の趣旨に
照らして明らかに不合理であるかどうかの点にあるといえよう。
3 右にみたように郡市の区域をもつて選挙区とするとの原則を採用し、強制合区
及びその特例、任意合区に関する規定を置き、更に人口比例による定数配分の原則
に対する例外を認める以上、各選挙区間で投票価値にある程度較差を生ずることは
避け難い。殊に公選法二七一条二項により強制合区規定の特例として認められた選
挙区については、当初から平均的な定数配分を受けている選挙区と比較してすら二
倍以上の較差を生ずることが予定されており、かつ、前述のようにこれを認めた右
規定を違憲とはいい難いのであるから、投票価値の較差が相当大きくても、これを
違憲、違法と断ずるにはかなり慎重でなければならないであろう。これに対し、そ
の余の選挙区の間では、人口比例の原則に従う限り、選挙区の区割りや総定数に関
する法律上の制約から生ずる定数配分上の技術的な問題を考慮に入れても、定数配
分は、投票価値の較差がおおむね一対二程度までの範囲にとどまるようになされる
ことが要求されているものと考えられる。これに例外として認められる非人口的要
素を加味した場合、どの程度までの較差が許容されるかは、非人口的要素の内容い
かんにもよることで一概にいうことは困難であるが、一般的にいえば一対三前後ま
での較差にとどまるべきであつて、これを大きく上回るような較差は原則として憲
法及び公選法の許容するところではないと考えるのを相当とする。
ところで、定数の配分の問題は、一定ないしは一定限度内の総定数を前提としてこ
れを各選挙区にいかに配分するかの問題であり、したがつて、ある選挙区における
定数の過少又は過多は必然的に他のいずれかの選挙区における定数の過多又は過少
を意味し、また、一般に、各選挙区に対する定数配分は互いに密接かつ微妙な関連
を有しており、配分の一部に違法な点が認められる場合には全選挙区にわたる種々
の角度からの再検討によつて適正な配分方法を決定する必要があるのであるから、
定数配分現定は全体として不可分一体のものというべきであり、その効力の有無は
その全体について論ずべきものと解される。以下においては、このような前提に立
つて検討を進める。
二 本件定数配分規定の内容
本件選挙当時、選挙区条例によつて定められた千葉県の議会の総議員定数は七九、
選挙区数は三七であり、また同県の総人口は四七三万五四二四人であつたこと、選
挙区名、各選挙区の人口・議員定数・議員一人当り人口及びこれによつてみた投票
価値の較差が別紙(二)のとおりであることは、当事者間に争いがない。
これによると、最も少ない海上郡選挙区の議員一人当り人口を一とした場合、最も
多い我孫子市・<地名略>選挙区の議員一人当り人口は六・四九に相当し、そのほ
かにも右の数値が六以上の選挙区が一区(八千代市)、五以上の選挙区が一区(流
山市)、四以上の選挙区が一区(佐倉市)、三以上の選挙区が一二区(千葉市、市
川市、船橋市、松戸市、茂原市、成田市、習志野市、柏市、鎌ケ谷市、君津市、浦
安市、印旙郡)、二以上の選挙区が八区(銚子市、館山市、木更津市、野田市・関
宿町、佐原市、市原市、富津市、四街道市)あること、後記のとおり公選法二七一
条二項の規定による特例選挙区である三区(すなわち海上郡、匝瑳郡、勝浦市の三
選挙区)を除外し、残りの選挙区について比較すると、その中で最も少ない長生郡
選挙区の議員一人当り人口を一とした場合、最も多い我孫子市・<地名略>選挙区
の議員一人当り人口は四・五八に相当し、そのほか右の数値が四以上の選挙区が一
区(八千代市)、三以上の選挙区が二区(佐倉市、流山市)、二以上の選挙区が一
三区(千葉市、市川市、船橋市、松戸市、茂原市、成田市、習志野市、柏市、鎌ケ
谷市、君津市、浦安市、四街道市、印旙郡)あること(その詳細は別紙(五)のと
おり)が明らかである。そして、人口の多い選挙区の定数が人口の少ない選挙区の
定数より少なくなつているといういわゆる逆転現象も一部の選挙区間に見られる。
以上のうち、公選法二七一条二項の規定による三選挙区と他の選挙区との間に見ら
れる投票価値の較差については、前記のように、右規定の趣旨からいつてある程度
のものはこれを是認しなければならない。しかし、特定の地域を特別に独立の選挙
区とすることの必要性・相当性についても種々の程度があり、右三選挙区の場合、
例えば隔絶した島嶼部のように他地域との合区が極めて困難とされるような客観的
条件が存するとは証拠上認め難いのであるから、これを独立の選挙区とした結果と
して、少なくとも前記の海上郡、匝瑳郡の両選挙区と他の選挙区との間に存するよ
うな大きな較差(匝瑳郡選挙区の場合、その議員一人当り人口を一とすると、我孫
子市・<地名略>選挙区のそれは六・三三に相当する。)を生ずる以上、かかる状
態を是正することなく放置することは、県議会の有する裁量権の合理的行使の範囲
を逸脱したものと推定される。そして、右両選挙区について被告の主張するような
個別的事情が存するものと仮定しても、右推定を覆すにはなお足りないというべき
である(なお、被告は、千葉県が支庁制度を採用していることが一般に合区を行う
うえでの制約となつている旨主張するが、成立に争いのない乙第一号証、第五号証
により右両選挙区の位置と支庁管轄区域との関係を見ても、支庁管轄区域が右両選
挙区につき合区を行う妨げになるとは考えられない。)。
また、右三選挙区を除いたその余の選挙区間において存する前記投票価値の較差の
うち、少なくとも一対三を大幅に超えるようなものについては、前述したところか
ら明らかなとおり、地方公共団体の議会において定数配分にあたり地域間の均衡を
図るため通常考慮しうる諸般の要素を斟酌してもなお、一般的に合理性を有するも
のとは考えられない程度に達しているというべきであり、特にこれを正当化するに
足りるような顕著な特異性が当該地域について存するのでない限り、右較差は、公
選法一五条七項ひいては憲法上の選挙権の平等の要求に反する程度のものとみるべ
きである。そして、人口比例によるところより多い定数の配分を受けている個々の
選挙区について被告の主張する個別的事情は、その内容からいつて、右較差を是認
するに足りるような当該地域の顕著な特異性を示す事実であるということはでき
ず、他にこのような事実が存することについての主張立証はない。
なお、いわゆる逆転現象については、それが人口比例原則に対する例外として法が
許容しているものと認められる場合について生じたようなものであるときは、直ち
に定数配分の違法を意味するものではないが、少なくとも山武郡(人口一〇万九六
七六人、定数三)、香取郡(人口一一万〇二三〇人、定数三)の両選挙区と八千代
市(人口一三万四四七九人、定数一)、我孫子市・<地名略>(人口一三万四七六
七人、定数一)の両選挙区との間に存するような顕著な逆転現象が法の容認すると
ころでないことは、前述したところから明らかである。
三 是正のための合理的期間の経過
ところで、制定又は改正の当時合憲ないし適法であつた定数配分規定の下における
選挙区間の投票価値の較差が、その後の人口の変動によつて拡大し、憲法ないに公
選法上の選挙権の平等の要求に反する程度に至つた場合には、それによつて直ちに
当該定数配分規定が違憲、違法となるものではなく、右人口変動の状況等を考慮
し、これに対応して憲法、公選法の要請に反するような較差の存する状態を是正す
べく右規定を改正する措置が合理的期間内にとられないときに、初めて右規定は憲
法ないし公選法に違反することになるものというべきである(前記各最高裁判所判
決参照)。
そこで、本件選挙以前の時期における千葉県議会の議員の定数の配分状況をみる
と、成立に争いない甲第四号証、第七ないし第九号証、乙第一八号証、第二〇、第
二一号証、原本の存在成立に争いない甲第一一、第一二号証及び弁論の全趣旨によ
れば、同県においては昭和四九年に制定された選挙区条例において新たに選挙区の
区割り及び各選挙区への定数の配分を定めた(この点は当事者間に争いがない)
が、制定当時の定数の配分は、強制合区の対象たるべき海上郡選挙区及び匝瑳郡選
挙区を公選法二七一条二項の規定により独立の選挙区としたうえこれにそれぞれ定
数一を配分し、香取郡、山武郡、長生郡、夷隅郡の各選挙区に同法一五条七項但書
を適用して人口比例によつた場合よりも一だけ多い定数を配分したほかは、昭和四
五年の国勢調査の結果に基づき、ほぼ人口比例を旨として行われた(但し、右一五
条七項但書適用の結果ごく一部の選挙区間にはいわゆる逆転現象が見られた。)こ
と、その結果、右選挙区割り及び定数配分に基づいて施行された昭和五〇年の第八
回県議会議員選挙における各選挙区の人口・定数・議員一人当り人口及び投票価値
較差は別紙(三)のとおりであつたこと、昭和五〇年の各選挙区の国勢調査人口は
別紙(四)の人口欄記載のとおりであつたが、その後昭和五四年に施行された第九
回県議会議員選挙(本件選挙の前回の選挙)に際しては選挙区条例に改正は加えら
れず、その結果海上郡選挙区、匝瑳郡選挙区は引き続き公選法二七一条二項の規定
に基づく選挙区として維持され、また、香取郡、山武郡、長生郡、夷隅郡、安房郡
の各選挙区につき人口比例によつた場合よりも一だけ多い定数が配分されることと
なつたこと、右第九回選挙の際の各選挙区の人口・定数・議員一人当り人口及び投
票価値較差は別紙(四)のとおりであり、一部選挙区の間ではいわゆる逆転現象が
見られたこと、右選挙ののち本件選挙までの間には、公選法一五条二項による強制
合区の対象となることが明らかとなつた勝浦市を同法二七一条二項による特例選挙
区とする等の条例改正がされたのみで、右のような投票価値の較差を解消ないし緩
和することを目的とする選挙区条例の改正はされなかつたこと、が認められる。
右認定事実によると、選挙区条例制定の翌年である昭和五〇年の選挙の際には、最
も少ない海上郡選挙区の議員一人当り人口を一とした場合、最も多い君津市選挙区
の議員一人当り人口は三・五五に相当し、また、公選法二七一条二項の規定による
海上郡、匝瑳郡の二選挙区を除外し、残りの選挙区について比較すると、その中で
最も少ない君津郡選挙区(定数一、前出乙第一八号証によれば配当基数約〇・五九
八)の議員一人当り人口を一とした場合、最も多い君津市選挙区(定数一、乙第一
八号証によれば配当基数約一・六五三)の議員一人当り人口は二・七六に相当して
いて、選挙区間で投票価値にある程度の不均衡はあるものの、その差は違憲、違法
の問題を生ずるまでには至つていなかつたと一応見ることができる。これに対し、
昭和五四年の選挙の際には、最も少ない海上郡選挙区の議員一人当り人口を一とし
た場合、最も多い八千代市選挙区の議員一人当り人口は五・六一に相当し、また、
公選法二七一条二項の規定による前記二選挙区を除いた残りの選挙区について比較
すると、その中で最も少ない勝浦市選挙区の議員一人当り人口を一と」だ場合、最
も多い八千代市選挙区の議員一人当り人口は四・二三に相当していて(なお、勝浦
市は本件選挙に際にては公選法二七一条二項による特例選挙区とされたので、この
点を考慮し、同市に次いで少ない長生郡選挙区の議員一人当り人口を一として計算
すると、八千代市選挙区の議員一人当り人口は三・九三に相当する。)、選挙区間
の投票価値の不平等は既に顕著であり、少なくとも公選法二七一条二項の規定によ
る選挙区以外の選挙区間に存する投票価値の較差は公選法ひいては憲法上の選挙権
の平等の要請に反するに至つていたものというべきである。しかも、右のような各
選挙区内の人口の状況は昭和五〇年の国勢調査の結果(右国勢調査によつて判明し
た千葉県の各市町村の人口が昭和五二年二月一五日付官報に登載されていることは
裁判上顕著な事実である。)によつて既に判明していたのであり、かつ、このよう
な人口動態がいわゆる高度経済成長による社会・経済構造の大規模な変化に基づく
ものであつて一時的な現象にとどまるものでないことは公知の事実に属し、近い将
来において右不平等が緩和されるような方向に各地域の人口が推移することを予測
させる事情があつたことを示すような証拠はなんら存しない。
したがつて、右の昭和五〇年の国勢調査の結果にみられるような人口の動向が判明
した以上、これに対応して、今後の選挙において投票価値の著しい較差を生ずるこ
とのないよう定数配分規定の改正を図ることが当然期待されたものというべきであ
り、少なくとも右国勢調査の結果明らかになつた程度の較差の是正に関しては、本
件選挙までに右是正のための合理的期間が経過したことは明らかである(なお、別
紙(二)及び別紙(四)を比較すると、右国勢調査時に既に顕著となつていた各選
挙区間の投票価値の較差は、その後の昭和五五年の国勢調査時には概して一層増大
するか又はほぼ同程度の水準で依然として存在していることが明らかである。)。
四 以上の次第であるから、本件定数配分規定は、本件選挙当時、公選法一五条七
項の規定に違反するものであつたと断ぜざるをえない。
第三 本件選挙の効力について
以上のとおり、本件選挙は公選法一五条七項に違反する定数配分規定に基づいて施
行されたものであつて違法であるが、法が選挙の効力に関する訴訟の制度を設けて
いる趣旨等からいつて、右違法により本件選挙が当然に無効となるものとは解され
ない。他方、右違法を理由に我孫子・<地名略>選挙区における本件選挙を将来に
向かつて無効とする判決をし、その選出議員の資格を失わせても、これによつて直
ちに右公選法の規定に適合する状態がもたらされるわけではなく、右状態を実現す
るためには定数配分規定自体の改正にまたなければならないのであり、しかも、定
数配分規定の改正を含むその後の議会の活動が選挙を無効とされた選挙区からの選
出議員を欠いた状態の下で行われるという望ましくない事態を招かざるをえず、ま
た、各選挙区について同様の訴訟が提起されることによつて議会そのものの活動が
不可能になることも懸念されないではないのであるから、少なくとも議会による自
律的な是正になお期待をかけうる限りこれに期待し、選挙を無効とすることによる
不当な結果を回避するのが相当であると考えられる。そして、行政事件訴訟法三一
条一項に示された一般的な法の基本原則によれば、かかる場合、選挙を無効とする
ことを求める原告の請求を棄却するとともに当該選挙の違法を宣言すべきものと解
することができる。選挙関係訴訟について右行政事件訴訟法三一条の準用を排除す
る公選法二一九条の規定は、定数配分規定の違法により選挙が違法となる本件のよ
うな場合をも予想したものとは解されないから、右のように解する妨げとなるもの
ではない。
第四 結論
よつて、本件決定を取り消して本件選挙のうち原告選定者らの所属する我孫子市・
沼南町選挙区における選挙を無効とすることを求める原告の本訴請求を棄却したう
え、右選挙区における選挙が違法であることを宣言することとし、訴訟費用の負担
につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九二条但書を適用して主文のとおり判決す
る。
(裁判官 鈴木重信 加茂紀久男 梶村太市)
別紙(一)原告選定当事者目録(省略)

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