弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人両名に対して、いずれも刑を免除する。
         理    由
 本件控訴の趣意は、大森区検察庁検察官事務取扱検事江幡修三作成名義の控訴趣
意書に記載されたとおりであり、これに対する答弁の趣意は、弁護人谷村正太郎・
宇津泰親連名作成名義の答弁書に記載されたとおりであるから、これを引用し、こ
れに対してつぎのとおり判断する。
 第一、 検察官の控訴趣意二(原判決は、法にいう「みだりに」の解釈適用を誤
つている。)について。
 一、 所論にかんがみ、原判決文をみてみると、原判決は、まず、
 被告人両名が、A駅の裏手路上において、同駅上りホーム外側のモルタル壁に、
その管理者の承諾を得ないで、「三矢作戦反対、売国と反動の佐藤自民党内閣打
倒、D同盟」と印刷したビラ一枚を貼付したという公訴事実は、本件の各証拠によ
り証明十分であると前置きした上、本件ビラ貼り行為の動機、目的、手段、方法、
態様、場所柄、法益衡量等、多岐にわたつて論じた上、結局、被告人らの本件ビラ
貼り行為は、法にいう「みだりに」という構成要件には該当しないと結論し、無罪
を言い渡していることが明らかである。
 二、 法にいう「みだりに」の解釈について。
 (1) まず、軽犯罪法一条三三号前段の「みだりに他人の家屋その他の工作物
にはり札をした者」という場合の「みだりに」の解釈を検討する。
 そもそも、軽犯罪法が、その取締の対象とする行為は、刑法等の刑罰法規に違反
するような重大な法益を侵害する行為ではなく、日常の社会生活における、いわば
最低限度の道徳律に違反するもの、すなわち、社会倫理的にみて、軽度の非難に値
いし、違法性の程度の軽微なものを取り上げ、これらの行為に軽微な制裁を科する
ことにより、社会の秩序を維持しようとするものである。軽犯罪法一条三三号前段
の規定(以下、本件規定という。)も、この観点から理解すべきである。
 <要旨>本件規定にいう「みだりに」とは、管理者の承諾を得ることなく、かつ、
社会通念上是認されるような理由もなくの意味に解するのが相当である。管
理者の承諾を得ない、勝手なビラ貼り行為によつて、客観的に、工作物が汚損され
るのは、普通であるし、管理者が、これにより、それ相当の迷惑感とか、美観が損
われたと感ずることも、これまた通例である。この軽微な法益侵害を保護するの
が、本件規定なのである。
 (2) この「みだりに」の解釈は、承諾なきビラ貼り行為の目的・動機が正当
であるかどうか、手段方法が相当であるかどうかによつて、その結論が違つてくる
ことは、原則としてないというべきである。
 もしも、ビラ貼りの目的・動機が正当であり、手段方法が相当であると考えるな
らば、その者は、管理者の承諾を得る労さえとるならば、それでことは片づくはず
である。仮りに、管理者の承諾が得られない場合であれば、そのときには、管理者
の承諾の得られる処を探しさえすれば、それで目的が達せられるはずである。
 他人の迷惑にならないようにビラを貼ることを、法は要求しているからである。
他人の迷惑を無視する態度は、そもそも民主主義の原則から許されないことであ
る。そのようなビラ貼り行為は、表現の自由の権利の濫用というべきである。
 三、 本件の場合に対する法の適用について。
 本件の場合、被告人らが、本件ビラ貼り行為について、管理者である原判示駅長
の許諾を得ていなかつたことは、証拠上明らかである。そして、当時の管理者とし
ての駅長Eは、原審および当審の証人として、自分が、同駅々長時代の二年間に、
当該場所にビラが貼られたことは、本件以外には、一度もない。普通は、有料広告
掲示場に貼るべきであり、ここに貼ること自体がおかしい。たとえ、ここにビラを
貼りたいという申請があつても許可しない
 旨証言していることからいつて、駅当局が、無断のビラ貼りを黙認していたもの
でないことは明らかである。
 それとともに、本件ビラ貼り行為により、管理者である同駅長が、迷惑と感じ、
美観を損ねたとして不快感を感じたことも、また明らかなところというべきであ
る。そうしてみると、自己の政治的主義主張発表のためとはいえ、他人の承諾も得
ず、その迷惑・不快をも顧みず、ビラを貼つた被告人らの本件行為が、社会通念上
是認されるべき理由のある行為とは、とうてい認め得ない。被告人らは、「みだり
にはり札をした」ものといわねばならない。それにもかかわらず、原判決が、被告
人らの本件ビラ貼り行為は、法にいう「みだりに」の構成要件に該当しないと判示
したのは、法令の解釈を誤り、その適用を誤つたものというべきである。
 第二、 (省略)第三、(省略)
 第四、 破棄自判
 一、 罪となるべき事実
 被告人両名は、共謀のうえ、昭和四〇年五月一六日午前一時ころ、東京都大田区
ab丁目c番地d号B株式会社C線A駅の裏手路上において、F駅駅長Eの管理に
かかるA駅上りホーム外側のモルタル壁に、管理者の承諾を得ないで、みだりに
「三矢作戦反対、売国と反動の佐藤自民党内閣打倒、D同盟」と印刷したビラ一枚
を貼付したものである。
 二、 証拠の標目(省略)
 三、 弁護人、被告人らの法律上の主張に対する判断。
 (1) 「本件は、親告罪と認めるべきである。告訴がない以上、公訴棄却の判
決がなされるべきである。」という主張について。
 親告罪であるかどうかは、実体法規の明文の規定の有無によつて決すべきものと
解するのが相当である。本件が親告罪でないことは、明文上明らかなところであ
る。本件規定が、実質的には、毀棄罪の類型に属するものであるという所論指摘の
点を考慮に入れても、やはり右の結論に違いは出て来ない。所論は、採用できな
い。
 (2) 「本件検挙、起訴自体が、官憲のし意によるものであつて、思想表現の
自由に対する弾圧であり、起訴自体が違法であるから、公訴棄却さるべきである」
という主張について。
 原審証人Gの証言等によれば、
 G、H両巡査が、風俗営業の時間外取締のため、本件現場付近に来合わせたと
き、被告人らの本件ビラ貼り行為を現認した。被告人らは、両巡査の姿を認めて、
その場を立ち去つたが、約四〇米位先きで両巡査に追いつかれ、職務質問を受け、
任意同行を求められて、約三時間余り警察官の取調を受けるにいたつた。
 被告人Kは、その際、本件と同じビラ一枚と憲法改悪反対のビラ四枚を所持して
おり、質問に対して、被告人IはJと、被告人KはLと、氏名を偽つて述べてい
た。 ことが明らかである。つまり、本件検挙の端緒は、全く偶然の機会における
犯行の現認によるものである。
 特定の政治団体、思想団体思想団体に対する政治活動、思想活動を弾圧しようと
して検挙がなされ、起訴がなされたと疑うに足りる証拠は、全く見当らないのであ
るから、所論は、採用の限りでない。
 (3)、 「被告人らは、ビラ貼り行為の違法であることを認識していなかつた
から、故意はない」との主張について。
 しかし、被告人らが、本件モルタル壁にビラを無断で貼る行為そのものについ
て、その認識があつたことは、証拠上明白であるから、故意の存在することは、疑
う余地のないところである。仮りに、所論のとおりの事情があつたとしても、その
ために故意の存在が否定されるわけではない。所論は採用できない。
 (4) 「被告人らの本件ビラ貼り行為には、違法性がない」との主張につい
て。
 しかし、被告人らが、本件ビラの内容の正当性を信じ、ビラによつて世人に訴え
ることの必要性を痛感していたとしても、このような行為の動機、目的の正当性の
故をもつて、ただちに違法性がないものと解することはできない。また、思想、言
論、表現の自由という、憲法上の重要な基本的人権の行使であると考えて、本件ビ
ラ貼り行為がなされたとしても、本件は、ビラ貼り行為について、公共の福祉のた
め、必要にして合理的な制限を定めた軽犯罪法一条三三号に違反し、みだりに他人
の工作物にはり札をしたものであるから、まさに表現の自由の権利の濫用であると
いうべきである、違法性がないとの主張は、採用できない。
 (5) その他、弁護人、被告人らの法律上の主張をし細に検討しても、公訴棄
却もしくは無罪に該る理由は全く見当らない。
 四、 法令の適用
 被告人両名の各所為は、軽犯罪法一条三三号前段、刑法六〇条に該当するとこ
ろ、被告人等の本件犯行後既に四年を経過しており、その間に被告人等は原審にお
いて無罪の判決を受けたものであること、本件ビラが貼付された場所は、私鉄の小
さな駅のホーム外側モルタル壁で、その枚数も一枚にすぎないこと、その他諸般の
情状を考慮するとき、当裁判所は、被告人等の所為が前記のとおり軽犯罪法に触れ
る犯罪行為であることを知らしめて爾後を戒心せしむれば足ると思料するので、各
被告人に対して軽犯罪法二条を適用して、その刑を免除することとし、主文のとお
り判決する。
 (裁判長判事 江里口清雄 判事 横地正義 判事 唐松寛)

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