弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役壱年六月に処する。
     原審における未決勾留日数中百日を右本刑に算入する。
         理    由
 検察官水野久の陳述した控訴趣意は検察官高橋千代作作成名義の控訴趣意書の記
載と同一であり弁護人加藤定蔵の陳述した答弁は同弁護人作成名義の答弁書の記載
と同一であるからこれらを夫々引用する。
 検察官の控訴趣意第一点について。
 原判決は被告人が原判示日時場所において本件枯柴に火を放ち、その枯柴の一部
を焼燬したことは証拠上明かであるが、被告人が本件家屋を焼燬する意思(未必の
故意をも含む)はなかつたことが認定されるとし、その理由として(一)乃至
(五)の理由を挙げこれらの諸理由を綜合して本件は刑法第百八条所定の放火罪を
以て問擬しえないものと断じているが後述の如くこれらの理由によつては輙く被告
人にいて本件家屋焼燬の意思がなかつたものと即断しえない。以下その理由を詳述
することとし最初に原判決のあげた(一)乃至(五)の理由につい<要旨>て検討を
加える。然るところ右(一)乃至(五)の理由は(四)の理由以外は概ねこれを肯
認しうるところであり且また本件犯行及びその前後の被告人の行動を概括的
に観察すると被告人の主たる意図は本件家屋を焼燬するにあつたものではなく、こ
れを火災の危険にさらし家族等に恐怖心を与え被告人の意を迎えなかつたことに対
する仕返しをなし引いては被告人の意思を無視しえないように仕向けるにあつたこ
とは疑のないところではあるが、その行動の過程において被告人において本件家屋
焼燬の意思特に未必の故意があつたか否は前述の如き被告人の主たる意図又は目的
とは別個に検討されなければならぬ事柄である。換言すれば被告人には所論にいわ
ゆる本件家屋焼燬の確定的犯意はなかつたことは明らかであるが、確定的犯意がな
いからと云つて直に未必の故意も存しなかつたとは速断しえないものであるところ
原審の挙げた理由は被告人に確定的犯意存しなかつたことの証明としては十分であ
るが未必の故意もなかつたことの証明としては不十分のそしりを免ない。即ち原審
の検証調書の記載によれば本件枯柴のおかれた場所、その枯柴より南側障子及び天
井桁或は棟木に至る距離は所論指摘のとおり極めて近接しておりこの数量の枯柴が
焼燬するにおいてはその火力は直に家屋の一部に燃え移り該家屋を焼燬するに至る
べきことは疑問の余地なく、更に被告人の検査官に対する昭和三十年八月十七日附
供述調書第四項には被告人においては家が焼けた場合に電線が切れて漏電等をして
はと思つて予め電灯の安全器を開け姉から借りて来たマツチをとり枯柴の枯葉のつ
いている部分にマツチを擦り火をつけた旨の被告人の供述記載があり、更に原審に
おける検証の際にも同人は枯柴に火をつけたらそのまま家まで燃えるかも知れない
と思い家まで燃えた場合安全器をそのままにしておくと漏電かなんかのために他家
に迷がかかるかも知れないと思い安全器を外した旨の供述をなしており原審公判廷
及び当審における検証の際にも立会人として同様な供述をなしているのであり、且
前述の枯柴の質と量特にそれが十分乾燥された燃え易いものであつたこと即ち原審
検証調書の記載によれば小枝の多い細い柴枝であり普通乾燥して燃料に供されてい
るものであること、而してその量も相当多量であり即ち該調書の記載によれば枯柴
は約五尺長さのもので数十本を一束にしてなわで縛つたものであると認められるこ
と、なおその枯柴が最も燃えた時の炎の高さは約四尺五寸もあつたこと等の諸事実
を綜合すると被告人は前記枯柴に火を点じこれが焼燬するにおいては本件家屋に延
焼して之を焼燬すべきことを十分認識していたものと認めるを相当とする。されば
被告人には本件家屋焼燬の未必の故意存しなかつたものと認定をした原判決は此の
点において事実を誤認した違法があり且つその誤認は判決に影響を及ぼすことが明
らかであるから到底破棄を免れない。論旨は理由がある。
 弁護人の答弁は要するに検察官の所論は原審の採用しない証拠に基いて原審のな
した事実認定を非難するものであつて失当であると云うに帰著するけれども、原判
決挙示の証拠のみによつても優に被告人の本件家屋焼燬の未必の故意は勿論公訴事
実全般を認定しうるのであるから所論は採るをえない。論旨は理由がない。
 検察官の控訴趣意第二点について。
 前述のとおり被告人には本件家屋放火の犯意存し本件枯柴に点火したのであるが
Aの発見するところとなり該家屋を焼燬するに至らなかつたものであるから後記自
判の際示す如き擬律をなすべきに拘らず原判決は前述の如く事実を誤認した結果之
が擬律を誤りその誤りは判決に影響を及すこと明らかであるから原判決は此の点に
おいても亦破棄を免れない。論旨は理由がある。
 よつて刑事訴訟法第三百九十七条第一項第三百八十二条第三百八十条により原判
決を破棄し同法第四百条但書により改めて当裁判所において判決する。
 (罪となるべき事実)
 被告人は山形県飽海郡a村大字b字cで出生、小学校六年卒業後炭焼き、土工等
の仕事に従事し、その間二、三年位北海道へ土工の出稼ぎに出向いたこともあつた
が収入は全部被告人一人で費消し家計を助けることもなく時々飲酒しては乱暴し家
人を困惑させていたものであるが、昭和三十年八月五日午前六時頃自宅で実母Bに
対し小遣銭を要求して拒絶され同人及び弟妹等家族全員が被告人を避けて外出して
しまつたので已むなく午前十一時頃同郡d町に映画見物に出かけその帰途飲酒して
午後六時半頃帰宅し、再び実母に対して金員を要求したのであるが前同様拒絶され
又も家族全員が被告人を避けて姿をくらましたのに憤慨し、その意趣はらしをする
考の下に午後七時頃右B方薪小舎から同人所有の枯松枝木二束(証第三号の一、
二)を取出し、その内の一束(証第三号の一)を同家十畳の間に置きこれに点火す
るにおいては被告人の実母らの居住する同人所有の杉皮葺平家建家屋を焼燬するに
至るべきことを認識しながらマツチ(証第一号)で前記枯柴に点火しその一部を焼
燬したのであるが、Aに発見消火されたために前記家屋を焼燬するに至らなかつた
ものである。
 (証拠の標目)
 一 司法警察員作成の実況見聞書
 一 原審及び当審における受命裁判官の各検証調書
 一 原審第二回公判調書中証人B、C、Aの各供述記載部分
 一 当審における受命裁判官の証人Bに対する証人尋問調書
 一 押収にかかる
 (イ) 小型煙草用マツチ一個(証第一号)
 (ロ) 畳上敷     一枚(証第二号)
 (ハ) 松枯柴木    一束(証第三号の一)
 (ニ) 同       一束(証第三号の二)
 一 被告人の検察官に対する昭和三十年八月十七日附供述調書
 一 被告人に対する身上調査についての回答書
 (法律の適用)
 被告人の判示所為は刑法第百十二条第百八条に該当するを以てその所定刑中有期
懲役刑を選択し未遂にかかるものであるから同法第四十三条本文第六十八条第三号
第七十二条により未遂減軽をなし犯情憫諒すべきものがあるので同法第六十六条第
六十七条第七十一条第六十八条第三号第七十二条により更に酌量減軽をした刑期範
囲内において被告人を懲役一年六月に処し、同法第二十一条により原審における未
決勾留日数中百日を右本刑に算入し、原審ならびに当審における訴訟費用は刑事訴
訟法第百八十一条第一項但書により全部被告人に負担させないこととして主文のと
おり判決する。
 (裁判長裁判官 松村美佐男 裁判官 大島雷三 裁判官 松本晃平)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛