弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人木村憲正の上告趣意は、単なる法令違反の主張であつて、適法な上告理由
にあたらない。
 しかし、所論に鑑み職権をもつて調査するに、原判決は、検察官の控訴を容れ、
量刑不当を理由に第一審判決中被告人らに関する部分を破棄したのであるが、その
際、第一審判決が被告人に対する本件公訴事実中分離前の第一審相被告人Aに対す
る現金一〇、〇〇〇円の供与の事実についての判断を遺脱し、これと併合罪の関係
にあるものとして起訴されたその余の訴因(一名に対する金員供与、事前運動およ
び六名に対する金員供与の事実)についてのみ被告人を有罪と認めて判決した過誤
のあることを看過し、漫然第一審判決の認定判示した事実に法令を適用して自判に
及んだものであることが記録上明らかである。すなわち、原判決には審判の請求を
受けた事件につき判決をしない違法があるに帰し、右違法は判決に影響を及ぼすも
のと認められる。
 そこで、原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認むべきであるかにつき
考えてみるのに、当裁判所大法廷判例(昭和二二年(れ)第七三号同二三年五月二
六日判決、刑集二巻六号五二九頁)の趣旨に徴すれば、当該判断遺脱にかかる訴因
については、原判決が有罪の判決をしていない以上、被告人としては積極的にその
点の無罪を主張して上訴することは許されないものと解すべく、他方、刑事訴訟に
あつては、民訴法一九五条に相当する規定を欠き、却つて判断遺脱の場合は刑訴法
三七八条三号により絶対的控訴理由の一とされていることに鑑み、併合審理を経た
数個の訴因の一部についてのみ実体判決がなされた場合においても、当該判決裁判
所において他の訴因につき明示的に適法な弁論分離の手続がなされている等特段の
事情のないかぎり(本件においてはかかる事情を認め得ない。)、右判決に対し上
訴がなされたときは、併合審理を経た数個の訴因全部につき上級審に移審の効力を
生じ、もはや当該判決裁判所においてさきに判断を遺脱した訴因につき審判するこ
とはできなくなり、また、右判決が上級審において確定するに至つたときは、判断
を経なかつた訴因についても、併合審理を受けた訴因の全部につき実体判決がなさ
れた場合と同様、再度の公訴提起は許されなくなるものと解するを相当とするから、
結局、被告人としては、併合審理を受けた数罪につき二個の有罪判決を受けるおそ
れはないこととなる。これを要するに、判断のなされなかつた訴因につき被告人が
有罪であると無罪であるとを問わず、判断遺脱の瑕疵により被告人の側に重大な法
律上の利益の侵害を生ずることはないものと認められるから、検察官の上告のない
本件にあつては、前示の事由が存在しても、いまだ原判決を破棄しなければ著しく
正義に反するものとは認められない。
 なお、所論は、原判決が一方において被告人の行為をすべて供与罪にあたるとし
た第一審判決の認定を支持しながら、他方において被告人が判示保守系議員七名に
対し金員の供与または供与の申込をしたことが認められる旨説示している点を捉え
て原判決には理由にくいちがいがあると主張するが、原判文を仔細に吟味すれば、
右後段は、罪となるべき事実そのものの認定ではなく、単に控訴趣意に対し被告人
の一連の行動につき説示しているに過ぎないことが明らかであるから、前後の判示
にくいちがいがあるとは認められない。
 その他記録を調べても、刑訴法四一一条を適用すべきものとは認められない。
 よつて、同法四一四条、三九六条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとお
り判決する。
 検察官 平出禾公判出席
  昭和四三年四月二六日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    草   鹿   浅 之 介
            裁判官    域   戸   芳   彦
            裁判官    石   田   和   外
            裁判官    色   川   幸 太 郎

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