弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人三輪長生の上告理由一について。
 本件建物について、訴外Dと訴外E株式会社(旧商号F株式会社)との間の賃貸
借、及び同訴外会社と被上告会社間の転貸借が存在する旨の原判決の判示事実認定
は、その挙示する証拠により首肯できないことはない。所論は原審の専権に属する
証拠の取捨判断、事実認定を非難するにすぎないから採用できない。
 同二について。
 訴外Dが本件競売申立登記に先だち、昭和三一年一二月頃訴外E株式会社に対し、
被上告会社への本件建物の転貸を承諾し、さらに被上告会社に対しその余の被上告
人らへの本件建物の再転貸の承諾を与えた旨、ならびに、右転貸、再転貸について、
その契約当時、Dが取締役であつた右訴外会社及び被上告会社の各取締役会の承認
を経た旨の原判決の判示事実認定は、その挙示の証拠により首肯できないことはな
い。所論は、原審認定に反する事実を主張して、原審の事実認定、判断を非難する
にすぎないものであつて、原判決には所論違法はないから、論旨は採用できない。
 同三、及び四について。
 論旨は、訴外Dが訴外E株式会社に与えた転貸の承諾は停止条件附承諾であるの
に、これを単純な承諾と認定し、また、本件競売申立登記前に予めなされた転貸の
承諾は競落人たる上告人に対抗できないのに、これを対抗できると判断した原判決
には、事実を誤認し、借家法一条の解釈適用を誤つた違法があると主張する。
 しかし乍ら、原判決は、訴外Dが同人の同族会社である被上告会社が間もなく設
立されるので、その設立の上は被上告会社に本件建物を使用させるべく、予め訴外
E株式会社に転貸の承諾を与えたことを認定しているのであつて、その事実認定は
挙示の証拠により首肯できないことはない。しからば右承諾をもつて停止条件附承
諾があるとする所論は容認できない。また、借家人が借家法一条によつて爾後の物
権取得者に借家権を対抗できる場合には、従来の賃貸人と借家人との間に存した建
物利用のための全法律関係は、その物権取得者と借家人との間に法律上当然移行す
るものであつて、賃貸借契約の内容をなす限り特約もその例外でないことは当裁判
所の判例(昭和三六年(オ)第四四九号同三八年一月一八日第二小法廷判決民集一
七巻一号一二頁参照)とするところである。しかして、その特約が転貸の承諾であ
る本件の如き場合においては、その物権取得の原因が売買たると強制競売たるとに
より結論を異にする理なきを以つて、借家人たる被上告人らは、競落による爾後の
本件建物取得者である上告人に対しても、本件転貸承諾の特約を対抗できると解す
るを相当とする。しからば、これと同趣旨の判断をした原判決には、所論事実誤認、
法令違反の違法はなく、論旨は採用できない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    下 飯 坂   潤   夫
            裁判官    斎   藤   朔   郎

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