弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 被告人A及び被告人B、同C、同D、同Eの弁護人原玉重の上告趣意は末尾に添
附した別紙記載の通りである。
 被告人A上告趣意について。
 論旨は多岐にわたつているが、結局判示事実は宗教法人の目的とする事業上の行
為であるから罪とならないこと、及び、原審の事実誤認を主張することに帰する、
しかし原審の事実誤認の主張は上告適法の理由とならないし、宗教法人の事業であ
るからとて経済統制に服さなくともよいという理由のないことは原判決説示の通り
であるから、論旨は採用できない。
 被告人B、C、D、Eの弁護人原玉重上告趣意第一点、第二点について。
 被告人等が判示搾油をしても罪とならないと誤信したのは、所論「法人の事業と
して搾油をなすことを登記すれば罪とならない、何となれば右法人は明治三五年三
月一〇日時の商工大臣の許可を得て製油製肥料工業等の事業をやつてよいことにな
つて居り、昭和一七年一月一七日にも其の手続がしてあるからだ」ということを、
Aから告げられた為めであるとしても、右の如き事情は違法阻却の事実を誤認した
ことには当らない、何となれば右所論の如き事情は、本件昭和二二年農林省令第九
八号油糧需給調整規則第一〇条、臨時物資需給調整法第一条、第四条等違反の罪の
成否に関係なきことであるからである。従つて被告人等がAから右事情を告げられ
た為め判示搾油をしても罪とならないと誤信して搾油したことは、畢竟右油糧需給
調整規則を知らないため被告人等の行為に対する違法性の認識がなかつたというだ
けであつて、未だ以て所論のように事実の錯誤乃至非刑罰法規の錯誤により本犯罪
に対する犯意が阻却せられる場合にあたるものとはいい得ないから論旨は理由がな
い。
 同第三点について。
 被告人等が信ずる宗教の主宰者の言を信じた為めに判示行為は罪とならないと誤
信したとしても、それは錯誤により違法性の認識がなかつたというに止り、犯罪構
成要件たる事実についての認識がなかつたとはいえない。そしてたとえ右の錯誤が
所論のような信仰者間の服従関係に由来するとしても、そのような事情によつて特
に被告人等の犯意が阻却せられるものと解することはできないから、論旨は理由が
ない。
 同第四点について。
所論の如き主張は、旧刑訴第三六〇条二項に所謂「法律上犯罪の成立を阻却すべき
原由たる事実上の主張」とはいえないから一々これに対する判断を示す必要はない
のみならず、原判決の説示は所論の如き主張のすべてについて判断を示していると
解すべきである。従つて論旨は採用できない。
 よつて旧刑訴四四六条により主文の通り判決する。
 以上は裁判官全員一致の意見である。
 検察官 長部謹吾関与
  昭和二六年三月一三日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介

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