弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人鍜治利一同米田恒治の上告趣意書は、末尾に添えた別紙の通りである。
 (一) 論旨第一点は、「原判決はC、D提出の各強盗被害顛末書、E提出の強
盗被害顛末書、Fに対する司法警察官代理の聴取書を証拠として有罪の判決を言渡
したが、是等は其作成につき上告人に防禦の機会を与へられなかつたものである」
と非難する。すなわち、たとい公判廷において被告人に右供述録取書またはこれに
代わるべき書類の供述者または作成者を反対訊問する機会を与えたとしても、その
訊問の結果を証拠とすることができるに過ぎないのであつて、右の書類そのものは
被告人に反対訊問の機会を与えて作成したことにはならないから、これを証拠にす
ることはできない。従つて書類作成のときに反対訊問の機会を与えていない供述録
取書類またはこれに代わるべき書類を罪証に供することができるものとした刑訴応
急措置法第一二条第一項の規定は憲法第三七条第二項に違背するものである、と主
張するのである。
 しかし、右刑訴応急措置法の規定が所論のような趣旨においても少しも憲法第三
七条第二項に反するものでないことは、既に当裁判所大法廷の判例(昭和二三年(
れ)第八三三号同二四年五月一八日判決)が認めているところであつて、論旨は理
由がない。なお原審公判調書に当つて見ると、被告人からもまた弁護人からも前記
各書類の供述者および作成者の訊問を求めた形跡がないから、原判決が右各書類を
証拠として判示各事実を認定したのは、刑訴応急措置法第一二条第一項の規定上適
法である。
 (二) 論旨第二点は、原判決は上告人が共犯者と共に「匕首や出刃庖丁を突付
けて」被害者を脅迫し強盗を働いた、と判示したが、上告人は匕首や出刃庖丁を所
持したことはないし、従つてこれを突付けて脅迫した事実もない、と主張する。原
判決の各事実摘示とその証拠説明とを対照すると、なるほど所論の通りであるが、
しかし、本件各強盗の他の共犯者がそれぞれ被害者に対し凶器を示して脅迫を行つ
た以上、強盗共謀者の一人たる上告人もまた共同正犯としての責任をまぬかれ得な
いことは、既に当法廷の判例が認めているところであつて(昭和二三年(れ)第三
六一号、同年六月二二日判決)、原判決のように全体的に凶器の所持使用が判示証
明された以上、上告人は凶器を使用せず、まただれがどの凶器を所持使用したかと
いうことを特に示さないでも、それだけで原判決を違法であるとするわけには行か
ず、論旨は結局理由がない。
 (三) 論旨第三点は、原判決に「匕首や出刃庖丁」とあるが、原審がその証拠
として挙げた被告人の供述中には、共犯者Aが「出刃庖丁」Bが「庖丁」を持つた
とあつて、「匕首」ということがあらわれていないから、原判決には虚無の証拠に
よつて事実を確定した違法がある、というのである。なるほど原判決の事実摘示と
証拠に挙げた被告人の供述の内容との食いちがいは所論の通りであるが、しかし被
告人供述のその部分を原審公判調書について調べて見ると、「Aが匕首で」とある
のを「出刃」と訂正してあり、次に「Bが出刃で」とあるのを「匕首」と訂正すべ
きところ誤つて「庖丁」と訂正したものと認め得るのであつて、原審相被告人Aが
昭和二三年一一月二六日の原審公判廷において、「私とBは家人に匕首や出刃を突
きつけ」と自供している点から見ても、前記の点の誤記であることがうなづける。
かりにこれを誤記と認められないとしても、「庖丁」と言つても「匕首」と言つて
も単に呼び名を異にするだけで、いずれも大体同程度の刃物であることに変りはな
いのだから、前記被告人の原審公判廷における供述を証拠として事実を認定しても、
それを以て直ちに虚無の証拠によつて事実を認定したものとまでは言い得ないので
あつて、論旨は採用し得ない。
 (四) 論旨第四点は、原判決は第二事実においてD所有の現金三万一千円を強
取した旨を判旨したが、その証拠とされた原審公判調書の記載に
 「問、現金一万一千円と衣類の売上金一万五干円とをどう分けたか。答、平等に
山分けにしました。」
とあつて、その際取つた現金は一万一千円であり、三万一千円ではないから、原判
決は証拠に反して事実を認定したものだ、というのである。しかしなお原審公判調
書の他の部分を見ると、被告人は裁判長から第一審判決書記載第二の事実を読み聞
かされたのに対し、その通り相違ない旨を供述しており、右第一審判決書の事実摘
示第二には明白に「現金三万一千円」という記載があつて、上告人も現金が三万一
干円であることを認めているのだから、前記問答中の判事の問は言い誤まりかまた
は記録の書き誤まりと思われ、なお原判決が証拠に挙げたD提出の強盗被害顛末書
中にも、被害品の一つとして現金三万一干円の記載があるのであつて、これらの各
証拠を綜合すれば判示の被害金額は充分に認定し得る。すなわち原判決には所論の
ような違法なく、論旨は理由がない。
 よつて旧刑事訴訟法第四四六条および最高裁判所裁判事務処理規則第九条第四項
に従い、主文の通り判決する。
 以上は当小法廷裁判官全員一致の意見である。
 検察官 竹原精太郎関与
  昭和二四年一一月八日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    穂   積   重   遠

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