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平成29年5月18日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成28年(ワ)第7185号意匠権侵害差止請求事件
口頭弁論終結日平成29年3月9日
判決
原告株式会社誠文社
同訴訟代理人弁護士木村圭二郎
同松井亮行
同補佐人弁理士倉内義朗
同宇治美知子
被告株式会社アーテック
同訴訟代理人弁護士高橋英伸
同吉田興平
同訴訟代理人弁理士内山邦彦
同岡田充浩
同補佐人弁理士杉本勝徳
同辻忠行
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は,別紙「被告製品目録」記載の製品を製造し,譲渡し,譲渡の申出を
してはならない。
2被告は,前項の製品を廃棄せよ。
第2事案の概要
本件は,意匠に係る物品を植木鉢とする後記意匠権を有する原告が,被告による
別紙被告製品目録記載の植木鉢(以下「被告製品」という。)の製造販売行為が同意
匠権の侵害となると主張して,被告に対し,①意匠法37条1項に基づき,被告製
品の製造,譲渡,譲渡の申出の差止め,②同条2項に基づき,被告製品の廃棄を求
めている事案である。
1前提事実(当事者間に争いがないか,後掲証拠又は弁論の全趣旨により明ら
かに認められる。)
(1)当事者
原告は,図書の出版及び販売,並びに,学校の教材の製造及び販売等を目的とす
る株式会社である。
被告は,図画,工作のための学習用教材の企画,販売,並びに,教育出版物,教
育機器,玩具の製作販売及びレンタルを目的とする株式会社である。
(2)原告の有する意匠権
原告は,以下の意匠権(以下,「本件意匠権」といい,その登録意匠を「本件意匠」
という)を有している(甲3,甲4)。
ア意匠登録番号第1244149号
イ出願日平成16年12月28日
ウ登録日平成17年5月13日
エ意匠に係る物品植木鉢
オ本件意匠添付公報のとおり(部分意匠)
(3)被告の行為
被告は,遅くとも平成28年から,学童向けの植木鉢である被告製品を製造,販
売するほか,被告の発行するカタログに掲載するなどしている(甲5,甲6)。
(4)被告製品の形状
被告製品の外観及び形状(以下「被告意匠」という。)は,別紙「被告製品目録」
記載の各図のとおりである。
(5)本件に至る経緯
原告は,被告に対し,平成28年3月14日付け内容証明郵便を送付し,被告に
よる被告製品の製造,譲渡等が本件意匠を侵害しているとして,警告を行った。
被告は,同月30日,被告意匠につき意匠登録を出願し(意願2016-006
950),同時に,平成27年12月25日に被告製品の販売申出を行ったチラシに
つき,新規性喪失の例外証明書を提出したが,被告自らが有する実用新案権の公報
(実用新案登録第3203006号)の図1ないし図5に記載している植木鉢を先
行の公知意匠とする指摘を受けて,拒絶査定された(乙14の1及び2,乙16な
いし乙18,乙21の1ないし3)。
原告は,平成28年7月22日,当庁に本訴を提起した。
2争点及び争点についての当事者の主張
本件における争点は,本件意匠と被告意匠とが類似するか否かである。
(1)原告の主張
ア本件意匠
本件意匠は,添付公報の図面において実線で表された図面からなる,植木鉢本体
に形成された給水用のペットボトル保持部の形状に関する部分意匠である。本件意
匠の基本的構成態様及び具体的構成態様は,別紙「本件意匠の形状」の「原告主張」
欄記載のとおりである(別紙「本件意匠の構成態様説明図(原告)」参照)。
なお,被告が指摘する本件意匠の【参考斜視図】と【B-B断面図】の差異は,
本件意匠の意匠公報を全体としてみたときに,誤記であることが明らかであるから,
本件意匠の特定に影響を与えるものではない。
イ被告意匠
被告意匠の基本的構成態様及び具体的構成態様は,別紙「被告意匠の形状」の「原
告主張」欄記載のとおりである(別紙「被告意匠の構成態様説明図(原告)」参照)。
ウ本件意匠と被告意匠との類否
(ア)登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は,需要者の視
覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものであるところ,その判断に当たって
は,意匠に係る物品の性質,用途,使用態様,さらには公知意匠にない新規な創作
部分の存否等を参酌して,需要者の注意が惹き付けられる部分を要部として把握し
た上で,両意匠が要部において構成態様を共通にするか否かを中心に観察し,全体
として美感を共通にするか否かを判断すべきであるとされている。
本件意匠に係る物品及び被告製品は,いずれも学童向けの植木鉢であり,その主
たる需要者は,学童及び学童が所属する小学校等の初等教育機関の教員である。し
たがって,本件意匠と被告意匠の類否判断においては,学童及び初等教育機関の教
員の視覚を基準とすべきである。また,本件意匠に係る物品及び被告製品はいずれ
も植木鉢であり,その主たる用途,使用態様の特徴は,植木鉢に給水するために,
ペットボトルの飲み口を下側にしてペットボトルを倒立状態で挿入し,これを保持
する点にあることから,本件意匠と被告意匠の類否を判断する上でも,このような
用途,使用態様を参酌する必要がある。
(イ)本件意匠の要部
本件意匠は,その用途,使用態様から,基本的に上方から見下ろされることとな
る。
また,本件意匠に係る植木鉢は,本件意匠登録以前の公知意匠が本件意匠と全く
異なるデザインであり,多少近い実用新案(乙4)であっても,着脱可能な容器ホ
ールダーがデザインされているものであるから,従前の植木鉢と大きく異なる特徴
は,植木鉢にペットボトル挿入部が一体となって設けられた点にある。
そうすると,その需要者である学童及び初等教育機関の教員は,本件意匠に係る
植木鉢を見る際,植木鉢の上方に従前の植木鉢と比較して新しく設置されたペット
ボトル挿入部に注意を惹き付けられるということができる。
したがって,本件意匠の要部は,ペットボトル挿入部の円形の中心が,植木鉢の
背面の両角を結んだ線上付近に位置するように形成され,かつ,植木鉢の背面の中
央付近で,ペットボトル挿入部の円形部分の植木鉢の内側への侵入範囲と外側への
突出範囲とが概ね同等程度となっている点である。
(ウ)類否
a基本的構成態様
本件意匠と被告意匠の基本的構成態様は,共通している。
b具体的構成態様
①本件意匠におけるペットボトル挿入部は,平面視で円形をし,植木鉢の背面
の両角を結んだ直線上の中心に位置し,円形部分の植木鉢の内側への侵入範囲と外
側への突出範囲とが概ね同等程度となっており,被告意匠におけるペットボトル挿
入部分も同様であり,両者は類似している。
②本件意匠における内側侵入部は,ぺットボトル挿入部の外周に沿う形で形成
された部分と,土入れ部背面の上縁を折り返した部分とからなるところ,被告意匠
における内側侵入部分も同様であり,両者は類似している。
なお,本件意匠と被告意匠とでは,被告意匠の内側侵入部分の外縁が,ペットボ
トル挿入部分の円形に概ね沿いつつも,平面視で台形の形をしている点,及び,垂
下して土入れ部背面を形成している下縁に4本のスリットが形成されている点で一
応の差異点が認められるが,本件意匠の要部におけるものではなく,需要者の美感
に影響を与えない。
③本件意匠における外側突出部は,植木鉢の外側に向かって,内縁がペットボ
トル挿入部の円形の外周を形成し,かつ,外縁が緩やかなカーブを描いて植木鉢の
外側に突出する形状で形成されているところ,被告意匠における外側突出部分も同
様であり,両者は類似している。
なお,本件意匠と被告意匠とでは,本件意匠の外側突出部及び被告意匠の外側突
出部分の外縁に形成された段差の点,及び,背面視したところ,本件意匠の下垂が
内側に湾曲して形成されているのに対して,被告意匠は長方形型で形成されている
点で一応の差異点が認められるが,本件意匠の要部におけるものではなく,需要者
の美感に影響を与えない。
c小括
以上から,本件意匠と被告意匠とが類似していることは明らかである。
d被告の主張について
本件意匠及び被告意匠の各基本的構成態様及び具体的構成態様については,その
ように細かく分節する必要性はないものの,本件意匠と被告意匠との間に,被告の
指摘する差異点があることは概ね認める。しかし,これらの差異点は,瑣末な違い
であり,需要者である学童及び初等教育機関の教員の注意を惹くものではなく,全
体としての美感に影響を与えるものではない。
(2)被告の主張
ア本件意匠
本件意匠の基本的構成態様及び具体的構成態様は,別紙「本件意匠の形状」の「被
告主張」欄記載のとおりである(別紙「本件意匠の構成態様説明図(被告)」参照)。
なお,本件意匠公報の【参考斜視図】及び【背面図】における「外側突出部」につ
いて中央部の高さと両側部の高さの比率が不一致であるなど,本件意匠について不
明確で特定されていない部分がある。
イ被告意匠
被告意匠の基本的構成態様及び具体的構成態様は,別紙「被告意匠の形状」の「被
告主張」欄記載のとおりである(別紙「被告意匠の構成態様説明図(被告)」参照)。
ウ本件意匠と被告意匠との類否
(ア)原告の主張は一般論としては認める。
(イ)本件意匠の要部
a原告の主張は否認ないし争う。
b公知意匠
本件意匠の登録出願前に,植木鉢へ給水するために給水ボトル挿入用の円形孔部
を形成したものは,意匠登録第1091154号公報(乙3),実用新案登録第30
95556号公報(乙4),実開平6-54号公報(乙5),特開2003-111
523号公報(乙6),特開2000-354431号公報(乙7),特開平11-
89454号公報(乙8),特開平11-56136号公報(乙9),特開平10-
191815号公報(乙10)(以下それぞれ「乙1公報」,「乙2公報」などという。)
等から公知である。
c要部
本件意匠は,給水ボトル挿入用の円形孔部が形成された枠体部と土入れ部背面部
に係る部分意匠であるから,需要者の注意を惹く意匠の要部としては,植木鉢の背
面斜め上から見た給水ボトル挿入用の円形孔部が形成された枠体部であるとするの
が妥当である。
そして,給水ボトル挿入用の円形孔部自体については,公知意匠にもあるありふ
れた構成であり,かつ,土入れ部背面部については需要者の注意を惹く構成とはな
り難いから,本件意匠の要部は,円形孔部及び枠体部の具体的な構成である。すな
わち,本件意匠の具体的構成態様エないしケのうち,「枠体部が外側枠体部と内側枠
体部とから形成され,円形孔部における内側孔部の上端が外側孔部の上端より低い
段差状であって,内側枠体部の上面が外側枠体部の上面よりも低い段差状に形成さ
れるとともに,内側枠体部の厚みが外側枠体部の左右方向中央部の厚みより小さく
形成され,内側枠体部の奥側形状が円弧状部に形成され,外側枠体部の下縁が円弧
状に形成された構成」である。
なお,原告の主張は,部分意匠でない破線で描かれた本件意匠の構成でない部分
(「植木鉢の背面の両角を結んだ線上」)を前提とするもので,誤りである。部分意
匠として意匠登録を受けた部分が,物品全体の形態との関係において,どこに位置
し,どのような大きさを有し,物品全体に対しどのような割合を占める大きさであ
るかは,破線によって具体的に示された形状等を参酌して定めるほかないとしても,
部分意匠制度の趣旨から,部分意匠の類似判断において,意匠登録にかかる部分と
それに相当する部分の位置等の差異については,その趣旨を没却することがないよ
う,破線部の形状等や部分意匠の内容等に照らし,通常考え得る範囲での位置等の
変更など,予定されていると解釈し得る程度の差異は,部分意匠の類否判断に影響
を及ぼすものではない。
(ウ)類否
a基本的構成態様
本件意匠と被告意匠とは,全て共通する。
b具体的構成態様
(共通点)
①円形孔部は下端が面一に形成されている。
②円形孔部が形成された枠体部は外側枠体部と内側枠体部とを備えている。
(差異点)
①円形孔部
本件意匠は内側孔部の上端が外側孔部の上端よりも低い段差状に形成されている
のに対し,被告意匠は,内側孔部の上端が外側孔部の上端よりも高く,かつ,中央
孔部の上端が段差部分と丸み部とで形成されている。円形孔部は下端が面一に形成
されている。
②枠体部
本件意匠は外側枠体部と内側枠体部とから形成されているのに対し,被告意匠は
外側枠体部と内側枠体部と両枠体部を連結する中央枠体部とから形成されている。
③外側枠体部の下縁
本件意匠は円弧状に形成されているのに対し,被告意匠は水平状に形成されてい
る。
④内側枠体部の奥側形状
本件意匠は円弧状部に形成されているのに対し,被告意匠は直線状部に形成され
ている。
⑤内側枠体部と外側枠体部の厚み
本件意匠は内側枠体部の厚みが外側枠体部の左右方向中央部の厚みの略2/3で
あるのに対し,被告意匠は内側枠体部の左右方向中央部の厚みが外側枠体部の左右
方向中央部の厚みの略3/2である。
⑥中央枠体部の有無
本件意匠に無く,被告意匠に有る。
⑦内側枠体部の上面と外側枠体部の上面
本件意匠は内側枠体部の上面が外側枠体部の上面より低い段差状に形成されてい
るのに対し,被告意匠は内側枠体部の上面が外側枠体部の上面より高く,中央枠体
部の上面が内側枠体部の上面よりも低い段差部分と段差部分から外側枠体部の上面
に及ぶ凸面部とで形成されている。
⑧土入れ部背面部の形状
本件意匠は水平断面が湾曲した湾曲板が若干末広状に垂下して形成されているの
に対し,被告意匠は4本の縦方向のスリットが形成された平面板に形成されている。
(エ)小括
上記のとおり,本件意匠の要部において被告意匠と共通点はなく,本件要部に対
応する被告意匠における「枠体部が外側枠体部と中央枠体部と内側枠体部とから形
成され,円形孔部における内側孔部の上端が外側孔部の上端より高く,かつ,中央
孔部の上端が段差部分と丸み部とで形成されて,内側枠体部の上面が外側枠体部の
上面よりも高く,中央枠体部の上面が内側枠体部の上面よりも低い段差部分と段差
部分から外側枠体部の上面に及ぶ凸面部とで形成されるとともに,内側枠体部の左
右方向中央部の厚みが外側枠体部の左右方向中央部の厚みより大きく形成され,内
側枠体部の奥側形状が水平状に形成され,外側枠体部の下縁が水平状に形成された
構成」の本件意匠との差異点の印象は,共通点の印象を凌駕し,異なる美感を与え
るものである。本件意匠が控えめで変化に乏しいシンプルな美観を看者に与えるの
に対し,被告意匠は威圧的で変化に富む美感を看者に与えるものであり,したがっ
て,被告意匠は本件意匠に類似するものではない。
第3当裁判所の判断
1登録意匠とそれ以外の意匠との類否の判断は,需要者の視覚を通じて起こさ
せる美感に基づいて行うものとされており(意匠法24条2項),この類否の判断
は,両意匠を全体的に観察することを要するが,意匠に係る物品の用途,使用態様,
更には公知意匠にない新規な創作部分の存否等を参酌して,当該意匠に係る物品の
看者となる需要者が視覚を通じて注意を惹きやすい部分を把握し,この部分を中心
に対比した上で,両意匠が全体的な美感を共通にするか否かによって類否を決する
のが相当であると解される。
2本件意匠及び被告意匠
添付公報,甲5及び6並びに弁論の全趣旨によれば,本件意匠は,別紙「本件意
匠の形状」の「裁判所の認定」欄記載の,被告意匠は,別紙「被告意匠の形状」の
「裁判所の認定」欄記載のとおりであると認められる。なお,本件意匠が特定され
ていない旨の被告の指摘は,添付意匠公報の図面を合理的に解釈すれば,背面図に
おける外側枠体部の下端が下に向かって凸状となっている部分は誤記と理解される
ことから,特定を欠くものではない。
3本件意匠の要部
(1)本件意匠に係る物品である植木鉢の用途,使用態様等
本件意匠に係る植木鉢は,給水用のボトルを倒立状態で保持するための保持孔が
背面側のフランジ部に形成されたものである。(甲4)
そして,本件意匠に係る植木鉢が,主として,学童向けのあさがお等の育成に用
いられるものであることからすれば,本件物品の需要者は,学童あるいは初等教育
機関の教員であるといえる。これらの需要者は,植物の世話をしたり,給水用の容
器であるペットボトル等を入れ替えたりすることから,植木鉢を背面の斜め上から
見下ろすことになるため,本件意匠においては,その上部に主として注目するもの
と考えられる。
(2)公知意匠
乙3公報ないし乙10公報には,本件意匠の登録出願前に,植木鉢へ給水するた
めの給水容器,給水容器のホルダー,給水容器の保持具等として,給水容器挿入用
の円形孔部を形成したものが記載されていることから,給水容器の挿入部の形状が
円形孔部である意匠は公知であったと認められ,また,ペットボトル等本体が円柱
状の給水容器を差し込む用途の物である以上,円形孔部はありふれた形状であると
いえる。他方,これらの公報に記載された植木鉢へ給水を行うためのペットボトル
等の給水容器やそのホルダー等は,植木鉢と連結された別の容器に設置されるもの
(乙3公報,乙8公報,乙9公報,乙10公報),植木鉢のフランジ部にホルダー等
別部材を引っかけるもの(乙4公報,乙5公報),植木鉢内の土に差し込むもの(乙
6公報)であり,乙7公報に記載されている植物栽培器は,栽培容器に溜めた養液
において植物を栽培するもので,土を入れる栽培床に給水するものではないが,細
長い形状の植物栽培器の上部に設置する細長い栽培枠体の一端に養液収納容器(養
液タンク)の取付部が形成され,酸素供給手段を装着する部分を置いて隣接するそ
の余の部分に土入れ部である栽培床が形成されており,養液収納容器の取付部と土
入れ部である栽培床が,栽培枠体として一体となっているものであることが認めら
れる。
(3)要部の認定
本件意匠の物品にかかる植木鉢の用途,需要者の注目する部分のほか,上記(2)の
公知意匠からすれば,本件意匠の基本的構成態様における給水ボトル挿入用の円形
孔部は,公知の意匠であって新規な形態とは認められず,また,公知の意匠として,
土を入れる容器と水分を供給する容器を取り付ける部分とが同一の枠内で一体とな
ったものがあることからすれば,本件意匠において新規で創作性の認められる部分
は,給水容器の保持部が植木鉢の内側に入り込む形で一体となっている形状,すな
わち,円形孔部が植木鉢の背面の上方に内側に侵入する状態で内側枠体部及び土入
れ部背面部が形成され,円形孔部の一部が外側に突出する状態で外側枠体部が形成
されている点にあるといえる。
そして,上記(1)のとおり,本件意匠の物品に係る植木鉢において,需要者は通常
植木鉢の背面の斜め上から見るもので,本件意匠の上部である円形孔部及びその周
辺の意匠に注目することからすれば,枠体部の奥になって見えなくなる土入れ部背
面部を除いた,植木鉢の背面上方に形成された給水ボトル保持部を形成する枠体部
の形状が要部であるといえる。
この点,原告は,本件意匠の要部は,円形孔部の中心が植木鉢の背面の両角を結
んだ線上付近に位置するように形成され,かつ,植木鉢の背面の中央付近で円形孔
部の内側への侵入範囲と外側への突出範囲とが概ね同程度となっている点である旨
主張する。確かに,本件意匠は,それまでの公知意匠にない,給水容器の保持部が
植木鉢に入り込む形で一体となった形状である点において新規であるが,給水ボト
ル保持部の内側が円形孔部であることはありふれた形態であることからすれば,原
告の主張は植木鉢の背面と枠体部の位置関係だけをいうに等しいものであり,上記
のとおり,需要者が斜め上から見る場合,原告が主張するような円形孔部と植木鉢
のフランジ部との位置関係だけでなく,給水ボトルの保持部がどのような形をして
いるかについても注目するはずであり,それを加味して全体として美感を形成して
いるといえることからすれば,原告の主張は採用できない。
また,被告は,外側枠体部の下端の形状についても要部である旨主張するが,植
木鉢の背面上方から見た場合,外側枠体部の下端は死角となる部分であり,上から
給水ボトルを差し込む際も下端の形状を見ることはないから,この点を要部とみる
ことはできない。
4本件意匠と被告意匠との対比
(1)基本的構成態様
本件意匠と被告意匠の基本的構成態様は共通している
(2)具体的構成態様
本件意匠と被告意匠との主な共通点と差異点は次のとおりである。
ア共通点
円形孔部が形成された枠体部は,植木鉢背部の内側に侵入して形成された内側枠
体部と,外側に突出して形成された外側枠体部を備えており,内側枠体部は植木鉢
背面が折り返されて形成されている点
イ差異点
(ア)円形孔部
本件意匠は,内側孔部と外側孔部から構成され,内側孔部の上端が外側孔部の上
端よりも低い段差状に形成されているのに対し,被告意匠は,内側孔部,外側孔部
及び中央孔部から構成され,内側孔部の上端が外側孔部の上端より高く,かつ,内
側孔部の上端は僅かな垂直の段差を挟んでなだらかに外側に凸の円弧状となってい
る中央孔部によって外側孔部の上端に連結されている点
(イ)枠体部
①本件意匠は,内側枠体部と外側枠体部から構成されているのに対し,被告意
匠は,内側枠体部,外側枠体部及び中央枠体部から構成されている点
②内側枠体部の上部は,本件意匠においては内側孔部の円弧に沿って形成され
ているのに対し,被告意匠においては内側孔部の円弧を取り囲むように,略台形に
形成されている点
③外側枠体部は,本件意匠においては外縁が緩やかな円弧状に形成されている
のに対し,被告意匠においては,平面視において植木鉢背面部から外に張り出すよ
うになだらかな山状の形を形成している点
④本件意匠は,内側枠体部の上面が外側枠体部の上面より低い段差状に形成さ
れているのに対し,被告意匠は,内側枠体部の上面が外側枠体部の上面より高く,
中央枠体部の上面が内側枠体部の上面から外側枠体部の上面を連結する外側に凸の
円弧状に形成されている点
⑤本件意匠は,外側枠体部の下端が上方に凸の緩やかな円弧状となっているの
に対し,被告意匠は,外側枠体部の下端が水平となっている点
(ウ)土入れ部背面部
本件意匠は,内側枠体部の上縁が折り返された背面視奥側から円弧状に湾曲した
湾曲板が垂下して形成されているのに対し,被告意匠は,内側枠体部において折り
返された背面視奥側の水平状部から平面状に垂下した平面板が形成されている点
(3)類否
ア以上を踏まえて検討すると,上記のとおり,本件意匠と被告意匠は,基本的
構成態様が共通しているところ,土入れ部背面部自体は要部ではないが,植木鉢の
背面上方に円形孔部が形成された枠体部は本件意匠の要部であることからすれば,
円形孔部が形成された枠体部が植木鉢背部の内側に侵入して形成された枠体部を有
する本件意匠と被告意匠とは,一定の美感の共通性が生じているといえる。
しかし,本件意匠の要部である枠体部の具体的形状において,両意匠は多くの点
で異なっている。すなわち,本件意匠と被告意匠は,内側枠体部,外側枠体部があ
る点については共通するものの,本件意匠においては内側枠体部も外側枠体部も円
形孔部の円弧に沿うようにほぼ円形であるのに対し,被告意匠は,平面視において,
内側枠体部は略台形状で直線的な形状であり,外側枠体部についてもなだらかな山
状の形で,その稜線部分が直線状であることから,その印象は異なっている。また,
本件意匠においては,内側枠体部の上面が外側枠体部の上面に比して低い段差状に
形成されているのに対し,被告意匠においては,内側枠体部の上面が外側枠体部の
上面より高く,しかも,両者の間に中央枠体部が構成され,中央枠体部の上面が内
側枠体部の上面から外側枠体部の上面を連結する外側に凸の円弧状に形成されてい
ることから,両者の枠体部の上面の凹凸は異なっており,上から見た印象を異なる
ものとしている。
イ以上の点をふまえ,本件意匠と被告意匠を全体としてみると,両意匠はいず
れも植木鉢背面内側に入り込む給水ボトル挿入用の円形孔部を形成する枠体部が存
在することによって一定の印象の共通性は生じるものの,その枠体部の構成,枠体
部を構成する各部の高さやその形状が異なることにより,本件意匠は,枠体部が円
形孔部に沿ってほぼ円形で,背部から見た場合,奥まった内側枠体部が手前に見え
る外側枠体部の上面より低い形状になっていたとしてもさほどの段差感を受けるこ
とがないから,全体的に丸くシンプルな印象を受けるのに対し,被告意匠は,内側
枠体部が略台形,外側枠体部が山形といった直線的な形状をしており,さらに,外
側枠体部が内側枠体部の上面より低くなっていることから,内側枠体部の形状がよ
り看取しやすく,また,枠体部の上部において内側,中央,外側部分が凸凹になっ
ていることとも相まって,直線的でごつごつした印象を受けるものであるから,そ
れぞれの意匠を全体として観察したときに,本件意匠と被告意匠とが類似の美感を
生じるとまでは認められず,両意匠が類似しているということはできない。
5結論
以上によれば,被告製品は本件意匠と類似しないから,原告の意匠権を侵害する
ものではなく,原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,訴
訟費用の負担につき民事訴訟法61条を適用し,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官
髙松宏之
裁判官田原美奈子及び裁判官林啓治郎は,転補のため署名押印できない。
裁判長裁判官
髙松宏之

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採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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