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令和2年11月10日判決言渡同日原本受領裁判所書記官
令和2年(ワ)第3499号発信者情報開示請求事件
口頭弁論終結日令和2年9月24日
判決
原告株式会社北の達人コーポレーション
同訴訟代理人弁護士小寺正史
同松田竜
同小野田充宏10
同熊谷健吾
同大塚智子
同横井千穂
被告エックスサーバー株式会社15
同訴訟代理人弁護士和田敦史
主文
1被告は,原告に対し,別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2訴訟費用は被告の負担とする。20
事実及び理由
第1請求の趣旨
主文同旨
第2事案の概要
本件は,原告が,氏名不詳者(以下「本件発信者」という。)により別紙ウェブ25
ページ目録記載のウェブページ(以下「本件ウェブページ」という。)に掲載され
た別紙記載目録記載1ないし6の記載(以下,同目録の番号に合わせて「本件記載
1」などといい,本件記載1ないし6を合わせて「本件各記載」という。)は,①
競争関係にある原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を流布するものであり(不
正競争防止法2条1項21号),②原告の競業者の商品についての品質等誤認表示
(同項20号)に該当し,また,③名誉毀損行為として一般不法行為に当たると主5
張して,本件ウェブページが設置されていたウェブサーバーの管理者である被告に
対し,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関す
る法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき,別紙発信者
情報目録記載の情報の開示を求める事案である。
1前提事実(当事者間に争いのない事実又は後掲の各証拠及び弁論の全趣旨に10
より容易に認められる事実)
⑴当事者
原告は,インターネット・テレビ等を利用した通信販売事業等を目的とする株式
会社であり,「アイキララ」という名称の美容クリーム(以下「原告商品」という。)
を販売している。15
被告は,電気通信事業を営む株式会社である。
⑵本件各記載(甲1)
本件発信者は,令和元年10月ころ,「Trenjyo」と題するウェブサイト(以下「本
件ウェブサイト」という。)を構成するウェブページの1つである本件ウェブペー
ジに,訴外株式会社キーリー(以下「訴外会社」という。)の販売する「メモリッ20
チ」という名称の美容クリーム(以下「第三者商品」という。)と,原告が販売す
る原告商品の価格,途中解約の可能性等について説明する本件各記載を掲載した。
⑶被告の本件発信者情報の保有
被告は,本件ウェブサイトが設置されたウェブサーバーの管理者であり,契約者
情報として,本件発信者情報を保有している。25
2争点
⑴権利侵害の明白性
ア信用毀損行為(不正競争防止法2条1項21号)の成否
イ品質等誤認表示(不正競争防止法2条1項20号)の成否
ウ不法行為責任(民法709条)の成否
⑵開示を受けるべき正当な理由5
3争点に関する当事者の主張
⑴争点⑴ア(信用毀損行為の成否)について
【原告の主張】
ア本件各記載について
本件ウェブページの性質10
本件ウェブページは,単なる口コミではなく,第三者商品を宣伝する目的で制作
されたものであり,本件各記載は,比較広告の一環として記載されたものである。
本件各記載の内容
a本件発信者は,原告商品及び第三者商品の価格について,真実は,原告商品
の「年間購入コース」の価格が1個当たり2384円(税別。以下同じ。2巡目の15
初回に2500円割引。),単品価格が2980円であり,第三者商品の「お得定
期コース」の価格が1個当たり2327円,単品価格が3300円であるにもかか
わらず,本件記載1において,原告商品の「年間購入コース」の価格が2533円,
単品価格は原告商品も第三者商品も同じ2980円であるとの虚偽の事実を記載し
た上で,ことさらに原告商品が第三者商品よりも高額であるとの誤った印象を与え20
る文章も記載した。
需要者がアイクリームを選択するに際して,その価格が重要な考慮要素となるこ
ともあるから,本件記載1は,虚偽の事実を流布して原告の営業上の信用又は社会
的評価を害するものである。
b本件発信者は,実際には,原告商品は,「@cosme(アットコスメ)」という25
名称の美容用品等の口コミサイト(以下「本件口コミサイト」という。)における
評価が高く,目の下のクマやシワに効果を有するものであり,原告は需要者に対し
て返品対応を行っているのにもかかわらず,本件記載2において,本件口コミサイ
トにおける原告商品の評価が低く,効果がない,騙された,返品できないなどとい
う書き込みがある旨の真実に反する記載をし,ことさらに原告商品が粗悪で,需要
者からの支持がない商品であり,原告が返品対応を行わず需要者を欺く営業活動を5
行っているかのような負の印象を与える記載をし,原告の営業上の信用又は社会的
評価を害した。
c本件発信者は,原告商品の「お試し定期コース」は途中で解約することが可
能であるにもかかわらず,本件記載3において,第三者商品の同様のコースと異な
り,原告商品の上記コースは途中解約することができないという,真実に反する誤10
解を招く記載をし,原告の営業上の信用又は社会的評価を害した。
d本件発信者は,実際には,原告商品と第三者商品との価格は上記aのとおり
であり,各商品の1個はどちらも約1か月分の分量であるにもかかわらず,本件記
載4において,第三者商品と比較して原告商品は高価であり,かつ,コストパフォ
ーマンスが悪いという印象を与え,真実に反する誤解を招く記載をし,原告の営業15
上の信用又は社会的評価を害した。
e本件発信者は,原告商品は原告が行った試験によって無刺激性と判断され,
原告商品の使用による副作用の報告もないにもかかわらず,本件記載5において,
第三者商品と比較して原告商品には副作用があり安心できないかのような印象を与
え,真実に反する誤解を招く文章を記載し,原告の営業上の信用又は社会的評価を20
害した。
f本件発信者は,上記本件記載1ないし5のとおり,原告商品及び第三者商品
の価格,契約期間,内容量,副作用等について不正確かつ不適正な引用をし,商品
の優劣を不公正に比較した上で,本件記載6において,第三者商品の方がおすすめ
である旨の記載をすることにより,閲覧者に対し,原告商品と第三者商品の優劣関25
係を歪曲して印象付けた。これは,「比較広告に関する景品表示法上の考え方」(平
成28年4月1日改正)によれば,不当表示に該当する比較広告であり,原告の営
業上の信用又は社会的評価を害するものである。
g以上のとおり,本件各記載は,原告商品と第三者商品の比較広告において,
虚偽の事実を流布して,閲覧者に対し,その優劣関係を歪曲して印象付けるもので
あり,原告の営業上の信用又は社会的評価を害するものである。5
イ原告と本件発信者との間の競争関係
本件ウェブページ上に,第三者商品の公式ホームページへのリンクが貼られてい
ること,訴外会社がアフィリエーターを募集しており,原告の商標をもって広告費
を支出してリスティング広告を行っていることから,本件ウェブページは,訴外会
社の広告用のウェブサイトもしくはアフィリエイトサイトであることが明らかであ10
る。
そうすると,同社もしくは同社による募集に応じた者が,本件発信者として,原
告商品とアイクリーム化粧品市場において競合する第三者商品に関して,商品代金
又はアフィリエイト報酬を得る広告販売目的で本件各記載を行ったことは明らかで
あるから,本件発信者は,原告と競争関係にあるということができる。15
【被告の主張】
ア本件各記載について
情報サイト上の意見について
本件ウェブサイトを閲覧する者は,一般的に,原告商品や第三者商品について関
心を有しており,本件ウェブサイトのみならず他の投稿記事をも合わせて閲覧する20
のが通常であるところ,そのような記事の中には,販売業者等による広告だけでは
なく,利用者の主観的意見等を公表する情報サイトであって,一般の閲覧者も,記
載内容があくまで利用者等の主観的な印象に基づくものと理解して閲覧する記事も
多く存在する。
このように,情報サイトにおける多様な意見の存在が,消費者に対する情報提供25
に重要な役割を果たしていることからすれば,特定の商品に対する否定的な意見の
公表は,誹謗中傷にわたらない限り,原則として是認されるべきであり,それに伴
って生じる社会的評価の低下も受忍限度の範囲内であると考えるべきである。
本件各記載について
a第三者商品は,値引きが適用されることを前提とした場合,単品価格が29
80円となるため,本件記載1は虚偽とはいえない。また,需要者が実際に商品を5
購入する際には価格設定や販売条件を確認した上で契約するはずであるから,本件
記載1に解釈の幅があるとしても,それによって原告の営業上の信用や社会的評価
を低下させるものとまでいえない。
b本件発信者が本件ウェブページを作成した時点においては,本件口コミサイ
トにおける原告商品についての評価の平均は「2.0」であり,口コミ部分につい10
ても本件口コミサイトから引用したものである。また,本件記載2には,原告商品
に対する高評価や,第三者商品に対する低評価のコメントも記載されている。した
がって,本件記載2の内容は虚偽ではなく,商品に対する正当な論評の範囲内のも
のである。
c本件記載3は,原告商品の「お試し定期コース」ではなく,「年間定期コー15
ス」に関する内容を記載したものであって,虚偽ではない。
d本件記載4は,容量を基礎に価格を計算したものであって,虚偽ではない。
e本件記載5は,原告商品に含まれる成分について言及しているにすぎず,副
作用に関しても正確な記載をしているから,虚偽ではなく,誹謗中傷を目的とする
ものでもない。20
f本件記載6は,その記載ぶりから,本件発信者の主観を述べていることは明
らかであって,かかる記載が原告の営業上の信用,社会的評価に影響を及ぼすもの
ではないことは明らかである。
イ原告と本件発信者との間の競争関係
原告と本件発信者との間に,競争関係はない。25
⑵争点⑴イ(品質等誤認表示の成否について)
【原告の主張】
上記⑴のとおり,本件各記載は,原告商品よりも第三者商品の方がコストパフォ
ーマンス及び成分等の点が優れていると誤認させるような表示をしたものであっ
て,商品の広告にその商品の品質,内容等々について誤認させるような表示をした
ものとして,不正競争防止法2条1項20号所定の品質等誤認表示に該当する。5
【被告の主張】
争う。
⑶争点⑴ウ(不法行為責任の成否)
【原告の主張】
上記のような本件発信者による本件各記載の掲載行為は,故意又は過失により原10
告の信用及び法人の社会的評価(名誉)を侵害するものであり,不法行為に該当す
る。
【被告の主張】
争う。
⑷争点⑵(開示を受けるべき正当な理由)について15
【原告の主張】
原告は,本件発信者に対し,不正競争防止法4条又は不法行為に基づく損害賠償
等請求を行う予定であり,そのためには本件発信者情報の開示を受ける必要がある。
【被告の主張】
争う。20
第3当裁判所の判断
1認定事実(前提事実及び後掲各証拠又は弁論の全趣旨から認定できる事実)
⑴本件ウェブページ(甲1)
ア本件ウェブページは,冒頭に,大きめの太字で,「アイキララとメモリッチ
を比較!効果や口コミ,満足度で調べてみると…」と記載され,続けて「アイキラ25
ラとメモリッチを比較してみた」との表題の下に,第三者商品(手前)と原告商品
(奥)とが映った写真が掲載され,その下に,「アイキララもメモリッチも,通販
で購入できる安価なアイクリームなので,どちらにしようか迷っている方も多いの
では?(改行)私もどちらを購入していいのか迷っていたので,購入前に集めた情
報を元に比較してみました。」と記載して,通販でアイクリームを購入しようとす
る需要者に対し,原告商品(アイキララ)と第三者商品(メモリッチ)を比較対照5
する情報を提供しようとするものである。
本件ウェブページの全体の構成は,上記の表題に続き,「メモリッチはペプチド
たっぷりのしっとりアイクリーム」,「アイキララは注射器型のユニークなアイク
リーム」,「価格はメモリッチの方が高コスパで良心的♡」,「アイキララとメモリ
ッチを口コミで比較」,「アイキララとメモリッチを成分で比較」,「アイキララ10
とメモリッチを満足度で比較」,「アイクリームを使うならメモリッチがオススメ!」
という各表題の下,「☑」で始まる小見出し,写真,表,文章等が掲載される形と
なっている。
また,本件ウェブページのうち,「メモリッチはペプチドたっぷりのしっとりア
イクリーム」という表題の直前及びページの最終部分(末尾)に,「→メモリッチ15
の購入はコチラから」という大きめの文字が緑色の枠で囲われたボタンがあり,第
三者商品を購入することができる公式ウェブサイトへのリンクが貼られている。末
尾のボタンの直前には,「☑メモリッチを最安値で買うなら公式サイト」,「公式
サイト以外からの購入は粗悪品の可能性があるため,絶対に公式サイトで購入した
方が良いです。」という記載がある。20
イ本件ウェブページの末尾には,運営者情報として,「大人女子のための最“旬”
トレンド情報」との記載があるが,これは,本件ウェブサイト全体に関するものと
解され,その一部である本件ウェブページを開設又は投稿している本件発信者の氏
名・名称などの表示はない。
⑵本件各記載(甲1)25
ア本件記載1
本件記載1は,「価格はメモリッチの方が高コスパで良心的♡」という表題の下
に,原告商品と第三者商品につき,「お試し定期コース」及び「年間定期購入」を
申し込んだ際のそれぞれ1個当たりの価格,内容量について比較する表を掲載し,
その下に,「☑定価ではアイキララと同じだけど…定期ではメモリッチがお得」,
「単品購入はアイキララもメモリッチも同じ2980円ですが,定期コースではメ5
モリッチがお得です。」という文章を記載したものである。
同表には,「お試し定期コース」の原告商品は1個当たり「2682円+送料」,
第三者商品は「2480円+送料」,「年間定期購入(3か月ごと3本ずつのお届
け)」の原告商品は1個当たり「2533円+送料(合計7599円/1年契約)」,
第三者商品は「2327円送料無料(合計6980円/縛りなし)」と記載され10
ている。また,内容量につき,原告商品は10グラム,第三商品は15グラムとの
記載がある。
イ本件記載2
本件記載2は,「アイキララとメモリッチを口コミで比較」という表題の下に,
「アットコスメでアイキララの口コミを見てみましたが,全体的な評価は2.0と15
かなり低めでした。効果なし,騙された,返品できないといった声が多いようです。」
という文章を記載したものである。これに続き,本件口コミサイトにおける複数の
書き込みが引用と分かる形で掲載され,その一部の文章中にある「全く効果なし」
という部分に赤い下線が引かれている。
ウ本件記載320
本件記載3は,上記本件記載1の「単品購入はアイキララもメモリッチも同じ2
980円ですが,定期コースではメモリッチがお得です。」という文章に続けて,
「1個ずつ届くお試し定期コースでも,メモリッチはいつでも解約OKなので,実
質メモリッチの方が単品でもお得ということになりますね。」と記載し,その下に
「☑アイキララは定期コースを途中解約できない!」という小見出しを記載するも25
のである。同小見出しの下には,原告商品の「年間購入コース」のメリットとデメ
リットの比較表と,原告商品の年間定期コースは途中解約できないこと,第三者商
品の定期コースはいつでも解約できるのが大きなメリットであることが記載されて
いる。
エ本件記載4
本件記載4は,「アイキララは注射器型のユニークなアイクリーム」という表題5
の下に,原告商品の写真や情報を掲載するのに続けて,「容器が大きいわりに内容
量はたった10g」であるため目元以外に使うと足りなくなることも多いようだと
記載し,また,本件記載1と同じ表題の下に,「☑アイキララの内容量はたったの
10g」という小見出し,原告商品と第三者商品の容器と中身の写真,「アイキララ
の価格はメモリッチよりもちょっと高いのですが,内容量もメモリッチより5g少10
ない10gです。」,「1回量が結構多いのに10gしか入っていないので,アイキ
ララはコスパが悪いな…と思っちゃいました。」という文章を記載したものである。
オ本件記載5
本件記載5は,「アイキララとメモリッチを成分で比較」という表題の下に,原
告商品と第三者商品の成分表を掲載し,その下に,「☑アイキララの防腐剤や香料15
などの添加物は副作用アリ?」という小見出しを記載したものである。これに続け
て,原告商品には防腐剤として「グルコン酸クロルヘキシジン」が含まれており,
クロルヘキシジンは安全な成分ではあるが,蕁麻疹や発疹が起きたり,粘膜に使用
してアナフィラキシーショックが起きた例があること,これは適正濃度を超えた場
合の副作用ではあるが,肌の弱い方は無添加処方の第三者商品を選んだ方が安全か20
もしれないなどという記載がある。
カ本件記載6
本件記載6は,本件ウェブページの末尾付近に,「アイクリームを使うならメモ
リッチがオススメ!」という表題の下に,「アイキララとメモリッチを比較してき
ましたが,コスパや成分,口コミを見てみても,やっぱりメモリッチの方がオスス25
メです。」と記載したものである。
⑶原告商品の価格等(甲2)
ア原告商品は,目の下の皮膚に塗布するための美容クリームであり,原告の公
式ホームページを通じて販売されている。同ホームページの記載によれば,原告商
品の容量,価格等は以下のとおりである。
原告商品の1個の内容量は10グラムで約1か月分とされ,単品の定価は2985
0円であるが,「年間購入コース」を申し込むと1個当たり2384円(2巡目の
初回に2500円割引。),「3か月毎お届け基本コース」を申し込むと1個当た
り2533円,「お試し定期コース」を申し込むと,1個当たり2682円に割引
される。
また,「年間購入コース」及び「3か月毎お届け基本コース」については,原則10
として,それぞれ12か月分,3か月分の受け取りをしなければ解約できないが,
「お試し定期コース」については,自由に途中解約することができる。
上記ホームページに記載された利用規約によれば,原告商品の購入者は,商品に
不備,不良等があった場合には,原告に対して返品・交換を求めることができる(甲
6)。15
イ本件口コミサイト上で,令和元年10月ころ及び令和2年7月ころにおける
原告商品の「クチコミ評価」は「4.8」とされ,「クマや細かいしわに,効果は
それなりにあったと感じています。」(評価6,2017年12月26日付け),
「全然ダメです。3本使いましたが無駄でした。広告ではとても良さそうだったの
でガッカリです。」(評価しない,2018年10月31日付け),「クマが改善20
されるという広告につられ,購入してみましたが,全く効果なしでした。」(評価
2,2018年11月17日付け)などという口コミ,評価が記載されていた(甲
4,乙1資料②,③,④)。
ウ原告商品は,日本香粧品学会の定めるガイドラインに準拠した「抗シワ効能
評価試験」の結果,定められた評価項目の基準を満たしているとの証明を受け(甲25
5),「3次元培養角膜モデルEPI-OcularEIT法による眼刺激性代替法試験」の結
果,無刺激性と判断され(甲8),また,「24時間閉塞ヒトパッチテスト」の結
果,皮膚刺激指数が0.0であり,「安全品」と分類された(甲13)。
原告商品は,成分として「グルコン酸クロルヘキシジン」を含むところ,医療領
域において生体用消毒液として繁用されるクロルヘキシジンについて,アナフィラ
キシー発症の症例調査とリスク要因について分析,検討を行った論文がある(乙15
資料⑤)。
⑷第三者商品の価格等(甲3,7,12)
第三者商品は,訴外会社の販売する目元用の美容クリームであり,同社のウェブ
サイトを通じて通信販売されているところ,原告商品の競合品であると認められる。
同ウェブサイトの記載によれば,第三者商品は1個で約1か月分とされ,単品の10
定価は3300円であり,「お得定期コース」を申し込むと,1個当たり2327
円に割引される。
⑸訴外会社による第三者商品のプロモーション(甲10)
訴外会社は,第三者商品についてプロモーションを行う提携ウェブサイトを募集
しており,募集のためのウェブページにおいて,提携ウェブサイトを通じた定期コ15
ースの契約数に応じて報酬を支払うことを明らかにし,第三者商品のセールスポイ
ントとして,「①黒クマ,茶クマ,青クマ全てのクマ改善で訴求可能,②独自配合
成分『アイキシル』を配合,③定期コースなら購入特典が豪華,④格安価格なのに
成分やサポートはトップクラス,⑤メモリッチの満足度調査を実施,⑥定期縛りが
ないので購入率がUP」などの点を挙げていた。20
2争点⑴ア(信用毀損行為の成否)
⑴原告と本件発信者との間の競争関係について
不正競争防止法2条1項21号は,競争関係にある他人の営業上の信用を害する
虚偽の事実を告知し,又は流布する行為を不正競争行為と定めるところ,「競争関
係」とは,現実の市場において商品の販売を競っているといった競合関係が存する25
場合に限られず,相手方の商品を誹謗したり信用を毀損したりするような虚偽の事
実を告知又は流布することによって,相手方を競争上不利な立場に立たせ,その結
果,行為者や行為者に対して告知又は流布行為を依頼した者などが,競争上不当な
利益を得るような関係が存する関係にある場合も含むと考えられる。
原告商品と第三者商品は,美容クリーム市場における競合品であるところ,本件
発信者は,本件ウェブページにおいて,原告商品と第三者商品を比較してみた,と5
いう記載の下,一見,客観的に両商品についての情報を比較・提供するような体裁
をとりながら,原告商品と比較して第三者商品の利点をより多く挙げ,第三者商品
の購入を勧めていること,原告商品の購入につながるリンクなどは設けない一方で,
第三者商品を購入することができる訴外会社の公式ウェブサイトへのリンクを2箇
所に目立つ形で設けており,その近くに,第三者商品を購入する場合には訴外会社10
の公式サイトから購入することを強く推奨する文章を記載していることなどから,
閲覧者に対し,訴外会社のウェブサイトを通じて第三者商品を購入することを促す
ような仕組みを作っているということができる。
訴外会社が,第三者商品のプロモーションのために提携ウェブサイトを募集して
おり,その中で第三者商品のセールスポイントとして挙げる特徴が本件ウェブペー15
ジに複数掲載されていること,提携サイトには第三者商品の定期コースの契約数に
応じた報酬が支払われるとされていることも考慮すると,本件ウェブページは,本
件発信者が,訴外会社と提携したり依頼を受けたりして制作したものであって,原
告商品の評価を低下させるような記載をすることにより,これと比較して第三者商
品の評価を上げ,販売を促進するという目的に沿うものであると考えるのが相当で20
ある。
そうすると,本件発信者は,訴外会社との関係上,第三者商品の売上向上につい
て利益を有する者であり,原告や原告商品の評価を低下させることによって不当な
利益を得る関係に立つ者であると解するのが相当である。
したがって,原告と本件発信者の間には,同号における「競争関係」が存すると25
いうことができる。
⑵本件各記載について
ア本件記載1について
前記認定事実のとおり,原告商品の価格は,単品購入の場合は2980円,「年
間購入コース」の場合は1個当たり2384円(1年目)であり,第三者商品の価
格は,単品購入の場合は3300円,「お得定期コース」の場合は1個当たり235
27円である。
本件記載1は,比較表において,原告の「年間購入コース」の価格について実際
よりも高価な価格(2533円)を記載し,また,単品購入の場合の第三者商品の
価格が実際よりも廉価とする記載(「同じ2980円」)をしているのであって,
これらはいずれも虚偽の事実というものである。10
原告商品や第三者商品の需要者である本件ウェブページの閲覧者は,原告商品及
び第三者商品の価格について関心を有するところ,両商品に関する上記の虚偽の事
実の流布は,第三者商品と比較したときに原告商品が実際よりも高価であり,第三
者商品が実際よりも廉価であるような誤解を招くものであって,原告の営業上の信
用を害するものであると認められる。15
なお,被告は,第三者商品の単品購入の場合の価格(2980円)は割引が適用
された場合であること,及び需要者は実際に購入する前に価格設定や販売条件を確
認するはずであることを主張する。しかしながら,本件発信者は,本件ウェブペー
ジの第三者商品の説明をする欄では,第三者商品の通常価格は1本3300円であ
る旨を記載しながら,第三者商品と原告商品とを比較する本件記載1では,前記認20
定のとおり,「定価ではアイキララと同じだけど」,「単品購入はアイキララもメ
モリッチも同じ2980円」と記載しているのであって,単品で購入する場合の第
三者商品の価格を,実際よりも廉価に理解させる記載をしている。また,本件ウェ
ブページの閲覧者が,原告又は訴外会社の各公式ウェブサイトに自らアクセスする
などして原告商品と第三者商品の単品価格及び割引価格を確認し得るからといって,25
本件ウェブページにおいて虚偽の事実を流布するという行為が許容される理由には
ならない。
よって,被告の主張は採用できない。
イ本件記載2について
本件記載2は,本件口コミサイトにおける原告商品の評価及び書き込みを引用す
る形で記載するところ,本件口コミサイトにおける各商品の総合評価は,その時々5
の投稿によって上下し,必ずしも一定のものではないと考えられることから,本件
記載2における「評価が2.0」という記載と,令和元年10月ころ及び令和2年
7月ころにおける原告商品の評価が「4.8」であった事実は必ずしも矛盾しない。
また,本件記載2に続けて,本件口コミサイトにおける書き込みがそのまま転載さ
れているため,本件記載2のうち「効果なし」という記述は,それらの書き込みの10
赤下線部分を引用するものであることが閲覧者にとって明らかであり,本件記載2
のうち「騙された」,「返品できない」という記述も,閲覧者は,客観的な事実の
記載というよりも,上記と同様に本件口コミサイトにおける書き込みを引用するも
のと理解するのが通常である。
本件記載2については,本件発信者が,本件口コミサイトには実際に存在しない15
書き込みを,転載を装って本件ウェブページ上に虚偽の記載をした,あるいは本件
発信者又はその意を受けた者が本件口コミサイトに虚偽の書き込みを行い,本件発
信者がこれを転載したという事実までは認められない以上,本件記載2が,閲覧者
に対し虚偽の事実を流布するものと認めることはできない。
ウ本件記載3について20
前記認定事実のとおり,原告商品を定期購入する場合に,「年間購入コース」及
び「3か月毎お届け定期コース」の場合には一定期間経過後まで解約することがで
きないが,「お試し定期コース」の場合には即時に途中解約することができる。
本件記載3は,「1個ずつ届くお試し定期コースでも,メモリッチはいつでも解
約OK」との文章の下に,「☑アイキララは定期コースを途中解約できない」という25
小見出しを続けていることから,閲覧者に対し,原告商品はすべての定期コースに
おいて途中解約することができず,第三者商品と比較して需要者にとって不利な契
約であるという誤解を生じさせるようにも思われる。
しかし,「☑アイキララは定期コースを途中解約できない」という小見出しの下
には,原告商品の「年間購入コース」のメリットとデメリットの比較表,及び原告
商品の年間定期コースは「年間契約」のため途中解約できないことが記載されてい5
るため,ある程度の注意を持って読めば,解約できないとされる原告商品のコース
は,「年間購入コース」であると理解することができる。
したがって,本件記載3は,紛らわしい記載ぶりではあるものの,虚偽の事実を
流布するものとまでいうことはできない。
エ本件記載4について10
前記認定事実によれば,原告商品及び第三者商品は,いずれも1個が約1か月分
とされており,原告商品は1個約10グラムである。また,本件ウェブページの記
載によれば,第三者商品は1個約15グラムである。
本件記載4のうち,「アイキララの価格はメモリッチよりもちょっと高い」とい
う記述は,各商品のどのコースの価格に言及するものか不明であり,「1回量が結15
構多いのに10gしか入っていないので,アイキララはコスパが悪いな…と思っち
ゃいました。」との記述は,文章全体としては,筆者の個人的な感想又は主観的意
見を述べたものにすぎないと解されるから,本件記載4は,虚偽の事実を流布する
とまでは認められない。
オ本件記載5について20
本件記載5は,原告商品に含まれる防腐剤に副作用があるおそれを述べる記載で
あるが,原告商品自体の危険性をいうものではなく,これに続く記述を読めば,言
及されている防腐剤が「グルコン酸クロルヘキシジン」であること,その副作用は
適正濃度を超えた場合に起きるおそれがあること,原告商品に含まれるグルコン酸
クロルヘキシジンの量は明らかでないことを理解することができる。25
したがって,本件記載5は,虚偽の事実を流布するものとは認められない。
カ本件記載6について
本件記載6は,本件ウェブページの筆者の個人的な感想又は主観的評価を述べる
ものであることが読み取れるから,虚偽の事実を流布するものということはできな
い。
⑶まとめ5
以上より,本件記載1は,不正競争防止法上の競争関係にある本件発信者が,原
告の営業上の信用を害する虚偽の事実を流布するものであり,これにより,原告の
権利が侵害されたことが明白である(プロバイダ責任制限法4条1項1号)といえ
る。
なお,被告は,本件ウェブページの有する情報サイトという性質上,特定の商品10
に対する否定的な意見の公表は原則として是認されるべきであり,それに伴って生
じる社会的評価の低下も受忍限度の範囲内であると考えるべきであると主張するが,
本件記載1は,上記のとおり,第三者商品の販売を促進するという本件ウェブペー
ジの目的のために,原告商品について虚偽の客観的事実を記載し,これに基づき,
閲覧者に対して,原告商品と比較して第三者商品の方が価格等の点で優れているか15
のような印象を与える記載であるから,否定的な意見の公表や比較広告として許さ
れる範囲を超えた,一般閲覧者に混乱を生じさせる不適切な情報の流布であり,不
正競争行為というべきである。
3争点⑵(開示を受けるべき正当な理由)
原告は,本件発信者に対し,損害賠償等を請求する意向であるとするところ,そ20
の前提として本件発信者を特定することは必要不可欠であるから,原告には,損害
賠償請求権等の行使のために本件発信者の発信者情報の開示を受けるべき正当な理
由(プロバイダ責任制限法4条1項2号)が認められる。
4結論
以上より,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由があるか25
らこれを認容することとし,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官
谷有恒
裁判官
杉浦一輝
裁判官
島村陽子20

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