弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     被告人Aの控訴を棄却する。
         理    由
 弁護人前堀政幸の控訴趣意第二点について
 (一) 原判決が被告人Aの原判示第二の所為に対する法律の適用を示すに当り
経済関係罰則の整備に関する法律第五条とのみ記載し、同条の何項に当るか又同法
第二条の賄賂か第三条のそれかを判文に明示していないことは所論のとおりである
けれども、右法文の内容と原判示事実とを照し合わせて見ると、原判決が同被告人
の右所為を同法第二条の賄賂を供与したものとして同法第五条第一項を適用した趣
旨であることが自ら明らかであるから、原判決に所論のような法律適用に関する理
由不備があるとはいえない。従つてこの点の論旨は理由がない。
 <要旨>(二) 経済関係罰則ノ整備ニ関スル法律第ニ条は
「・・・・・・・・・・・・其ノ他経済ノ統制ヲ目的トスル法令ニ依り統制ニ関
ル業務ヲ為ス会社若ハ組合又ハ此等ニ準ズルモノニシテ別表乙号ニ掲グル
モノノ役員其ノ他ノ職員其ノ職務ニ関シ賄賂ヲ収受シ・・・・・・・・・・・・」
と規定し、本条の適用を受ける役職員の属する会社等については経済の統制を目的
とする法令により銃制に関する業務をなすもので別表乙号に掲ぐるものという制限
を設けているが、その役職員の賄賂罪の対象となる職務については、法文上単に
「其ノ職務」と記載し、特にその職務の内容について制限を設けていないばかりで
なく、元来右にいうような統制に関する業務は国の行う経済政策の一環としてなす
ものであつて、その性質上一種の公務に準ずると見らるべきものであるから、かか
る業務を司る会社等の役職員は公務員と同じく常に公正な執務の態度を要請せられ
るものであるに鑑み、本条は右会社等のうち特に重要と見られる別表乙号に指定し
たものの役職員の地位そのものを罰則の適用について公務員に準ずるものとし、そ
の職務に関する限りそれが統制に関する業務自体であると否とを問わず、賄賂罪と
して処罰する趣旨と解するのが相当である。
 又普通銀行等の金融機関のなす資金の融通については、金融緊急措置令施行規則
(昭和二一年大蔵省令第一二号)第一三条第二項の規定によつて制定せられた昭和
二二年三月一日大蔵省告示第三七号金融機関資金融通準則が今なお存在し、これが
右施行規則と相俟つて金融緊急措置令第六条の内容を補充しているものであるか
ら、前示資金の融通に関し金融緊急措置令に基く統制が現存し、普通銀行等の金融
機関は資金融通の面において右法規による統制に関する業務を為すものと解すべき
であり、従つて、普通銀行等の金融機関は経済関係罰則ノ整備ニ関スル法律第二条
にいわゆる経済の統制を目的とする法令により統制に関する業務をなす会社等に該
当し、銀行職員の従事する資金融通に関する事務はとりもなおさず右統制に関する
業務に相当するものといわなければならない。尤も右準則第一総則第一項において
普通銀行等の金融機関は資金の融通をなすに当り自主的にこれが規則を行わなけれ
ばならない旨を定めていることは所論のとおりであるが、これは国が金融機関の自
主性の自覚に訴え円滑に融資の規正を行わしめようとしたがためであつて、もとよ
り専恣な規正を許したわけでもなく又必ずしも金融上の統制の重要性を低く評価し
たためでもないと解するから、右のような法文があるからといつて、所論のように
金融機関が法規による統制に服するものではないと解することはできないし又右金
融の統制は刑罰をもつて統制業務遂行を内容とする職務の公正を守らなければなら
ない程の強い公益性を認めていないとはいえないのである。
 しかして、原判示によると、Bは京都市a区b株式会社C銀行D支店長として顧
客に対する資金融通等同支店の銀行業務の一切を総括執行する職務に従事し被告人
AはE株式会社の社長であつてかねて右銀行支店と取引していたのであるが、同被
告人は右Bからその実弟が失業して困つているのでその援助資金に融通してくれる
よう申込まれ、平素同人より同銀行業務として資金融通等について世話を受けてい
ることに対する感謝の趣旨で金三万円を同人に融通交付したというのであつて右株
式会社C銀行D支店長であるBが経済関係罰則ノ整備ニ関スル法律第二条にいうと
ころの経済の統制を目的とする法令により統制に関する業務を為す会社であつて別
表乙号に掲ぐるものの職員に該当し且同人の従事した資金融通に関する銀行業務が
右法律にいう統制に関する業務に相当することは前記説明及び右法律別表乙号の二
四号、金融緊急措置令第八条によつて明らかであるから、仮に所論のように右法律
第二条所定の職務とは統制に関する業務だけを意味するものとしても、前記Bの本
件銀行事務の執行は同条にいう職務に該当し同条の賄賂罪の対象となるべき職務で
あることには疑がないから、同人の右職務に関し賄賂を供与した被告人Aの所為を
同法第五条の贈賄罪に問擬した原判決は正当であつて、これと見解を異にする論旨
には賛同できない。
 (その他の判決理由は省略する)
 (裁判長判事 荻野益三郎 判事 井関照夫 判事 竹中義郎)

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